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*118*
「あ、え、あの…凜?」
私は暫くスプーンをそのままの状態で維持しながら硬直していた。しかし、すぐに理性を取戻し、原因究明に努めた。
「何だよ」
凜はむくれながら言う。
「俺に食われたの、そんなに嫌だったのか」
「…ショックだったね、なんかよくわかんないけど」
「そこ、お前はっきり言うとこか?」
「え…?」
「あー、本当お前は昔から変わんねーな?まあ、そこが良いのかもしれないけどよ」
最後のほうはぶつぶつと小声で言っていたので、聞き取れなかった。
「ま、俺は今日はこの辺でお暇させてもらうよ」
「もう!?まだ1時半だよ?」
私は予想もしていなかった展開に目を見開いていった。
すると、凜は自虐的に笑いながら言う。
「何言ってんだよ。今日はもう、ここには居られねーよ。それじゃあな」
手をすっと挙げ、私達に背を向けて出口へと歩き始めた凜。それを先ほどまで無言だった美樹が追い掛けた。取り残された私と逢坂くん。
「ねぇ、逢坂くん」
「何?」
「私、凜をいつの間にか傷つけてたのかな?」
逢坂くんの目を見ながら尋ねると、逢坂くんは困ったように笑った。
「さあ、どうだろうね?俺は凜じゃないからね。彼の気持ちを正確には把握できないよ。でも、何となく察しはつくけどね」
「何!?その察しって何!?」
私が思い切り逢坂くんに近寄りながら問うと、彼は私の両肩に手を置いた。
「真奈、落ち着くんだ」
…初めて、名前を呼ばれた。
「…どうしたの?」
私はまた自分が硬直状態に陥っていたことに気付く。
「う、ううん。何でもないの。それより凜の気持ちを…知りたいの」
「綾川さん、それは…俺から聞かない方がいい」
「どういう、こと?」
意味が分からず尋ねる。だが、それ以上彼は何も言わず、「さあ、帰ろう」とだけ言って出口へと私を連れて歩き出した。
ああ、どうして凜を傷つけてしまったのだろう。昔からそうだった。私は知らないうちに、異性や同性さえもを傷つけてきた。これ以上誰も傷つけたくなかったのに。どうして神様は…こんなことをするの?
私は今にも涙を流しそうになりながらも、それを懸命に堪えていた。しかし、私の肩に手を置いて、力の入らない私を押すようにして歩いていた逢坂くんには気づかれてしまったようだ。だって、私の肩が震えているのだから。
「綾川さん、君の所為じゃないよ。俺の所為だ。俺があんなことしようとしたから…」
「違う。…いつだって皆そう言うの。綾川さんは悪くないって、僕が悪いんだって。でも、そんなの出任せだわ。私を傷つけないようにしているだけなの。本当は自分だって傷付いてるくせに。皆…優しすぎるのよ」
私はそう吐き捨てるように言うと、脱衣所へ向かって走り始めた。
――逢坂くんは追って来なかった。