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*127*
私は凜との出会いを思い出しながら桜並木を目指して走り続けた。そしてようやく辿り着き、息を整えるために一度目を瞑った。そして、スッと息を吸い込んでゆっくりと目を開けた。私がいる場所から数メートル先に見慣れた人影が立っていた。
「凜…」
「やっぱり、お前ここに来たな」
「始めからここに来ること予想してたの?」
「まあな」
「全く敵わないなあ」
私は小さく笑った。
「なあ」
「…何?」
「そんな強張った顔すんなよ」
そう言って笑う凜。私はただ何もせずにそれを見る。
「分かったよ。話すって。…だいたいのことは徹から聞いてるだろうけど、やっぱり俺の性分としてさ自分で言おうと思ってな。本当はもっとずっと先の予定だったんだが…」
凜は一間置いて言った。
「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」
そう言い終えた後、切なげに私を見つめる凜。私はそんな彼の目を見つめられなくなって目を逸らした途端、凜が私に駆け寄り、強く抱きしめた。
「凜、私は…」
「お前の答えなんて分かりきってる。でも…せめて今くらいは俺を見てくれ。俺だけを…見てくれ」
そう切なげに、涙を堪えたようなかすれた声でつぶやく彼。私は抵抗する気も元々無かったのでそのままの状態で言葉を紡いだ。
「凜。私はね…逢坂くんからこの話を聞いた時に、本当に嬉しかったの」
「え…?」
「だっていつも一緒にいたあのモテモテの凜に好かれるんだよ?そんなの嬉しいに決まってるじゃん」
「だったら…」
「でも、私は気付いてしまったの。この気持ちに。逢坂くんへの気持ちに。私の気持ちに嘘を吐くことは出来ない」
「俺は嘘でもお前が隣に居れくれれば…」
「そんなわけない!私が凜の立場なら、嘘だとわかっているのに彼女のふりをしてほしくない。そんなのでまかせだよ」
「でも俺は!」
「だから凜…私は凜とは付き合えない。ごめんなさい」
私は静かにそう言い終えると、凜の腕からするりとすり抜けた。そして凜と距離を少し置いて向かい合って立った。
「でも凜。私は凜のことが大好きだよ!お兄ちゃんみたいだし…こんなことを言うのはおこがましいのかもしれない。でも私は…ずっと今までの関係でいたいの」
私が今日一番の笑顔を浮かべながら言うと、凜はひとつ溜め息を吐いて笑った。
「わかったよ。そんなに言うなら幼馴染のまんまでいてやるよ。だけど…」
そう言ってまた私との距離を詰める凜。
今度こそ腕には捕まらない…。
と思い、避けようとしたが予想外の場所を引き寄せられた。なんと頭を彼の胸板の方へと引き寄せられたのだ。そしてそのまま額にキスが落とされた。
「徹にふられたら俺が迎えに来るからな」
そう言うと、彼はふっと腕の力を弱め、私に背を向けて歩き始めた。そんな彼の背中を私は見つめていた。
そしてふと言わなければならないと思い出した言葉があった。
「ね、ねえ!凜!」
「何だ?」
凜は首だけをこちらへ向ける。私はあの頃と同じように彼の目を見つめながら言う。
「ありがとう」
――ありがとう。こんな私を好きになってくれて。
――ありがとう。それでもなお迎えに来ると言ってくれて。
――ありがとう。私と出会ってくれて。
たくさんの感謝の思いを胸に、新たな一歩を踏み出そう。