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恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
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*128*

*凜side*

あれ以来、俺は枝下によく相談するようになっていた。彼女が俺に好意を抱いていることを知っていながら、こんなことをするのは彼女にとって、酷な事なのかもしれない。でも、それ以上に俺は自分と真奈のことしか考えることが出来なかった。

「もしもし?枝下か?」
『そうだけど…今日は何?』
「明日であれから1週間経つだろう?」
『そういえばそうね。それがどうかしたの?』
「…このままだと気分が晴れねーだろ?だから、明日真奈に会いに行って、けりをつけることにする」

暫くの沈黙の後、枝下は笑いながら言った。

『何そんなシリアスな感じで言ってんのよ。あたしはあんたの友達よ?…このことは徹から真奈に言ってもらうようにするからあんたは気にしないで』
「悪いな」
『ううん、大丈夫よ。それじゃあ、明日の健闘を祈るわ』
「おう、それじゃあな」
「うん」

俺は枝下が電話を切るのを待ってから通話を終了した。そしてその日は一日中真奈に伝える言葉を考えた後、布団に入って眠りについた。

――翌日

「さーてと、けりをつけるか」

俺は自分を慰めるように独り言を言った。この俺の気持ちを伝えたところで、彼女の答えは決まってる。絶対に「NO」だ。だけど、俺は行く。この気持ちを伝えることが出来ないまま、あいつに…徹に取られるのだけは嫌なんだ。

「でも、絶対真奈のことだし俺と会うのを避けようとするよな?てことは家に行っても無駄。となると、こんな時、あいつの行きそうな場所なんてあそこしかない」

俺は真奈の行きそうな場所におおよその見当をつけると、そこへ向かって歩き始めた。


そこに――桜並木に到着してから何分くらい経っただろうか。見慣れた人影が走って来るのが見えた。ちゃんと確認しなくたって分かる。あれは間違いなく真奈のシルエットだ。

「凜…」
「やっぱり、お前ここに来たな」
「始めからここに来ること予想してたの?」
「まあな」
「全く敵わないなあ」

真奈は小さく笑った。

「なあ」

俺は思い切って話しかけてみたが、明らかに緊張を帯びた面を上げる。

「…何?」
「そんな強張った顔すんなよ」

俺は彼女の緊張をほぐすためにおどけて見せたが、彼女には無効かだったようだ。

「分かったよ。話すって。…だいたいのことは徹から聞いてるだろうけど、やっぱり俺の性分としてさ自分で言おうと思ってな。本当はもっとずっと先の予定だったんだが…」

俺は一間置いて言った。

「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」

こんなクサい言葉、俺、よく言えたな。でも、これが真奈には一番よく伝わるんだ。あいつにはストレートに言わないと全く通じない。今までの経験からこれは確実に言える。
そんなことを思いながら彼女の目を見つめる。彼女の答えは「NO」だ。これも確実に言える。だって真奈は明らかに徹に恋をしていると言える。……それを知っているからこそ、尚更切なくなる。胸が締め付けられるような痛みを負う。そしてそれをさらに加速させるようなことが起こった。彼女が俺から目を逸らしたのだ。俺は耐えきれなくなり、数メートルほどあった距離を一気に0にし、彼女を強く抱きしめた。

「凜、私は…」

腕の中で真奈は言葉を繋げようとする。

「お前の答えなんて分かりきってる。でも…せめて今くらいは俺を見てくれ。俺だけを…見てくれ」

なんて俺は格好悪いんだ。こんな悪足掻き、小学生だってしないぞ?

「凜。私はね…逢坂くんからこの話を聞いた時に、本当に嬉しかったの」
「え…?」
「だっていつも一緒にいたあのモテモテの凜に好かれるんだよ?そんなの嬉しいに決まってるじゃん」

驚いた。少し希望が見えてきたんじゃないかって思えた。

「だったら…」

だけどそれはやっぱり夢だった。幻だった。俺に彼女の気持ちが向くことなんて絶対にないのだ。俺は真奈に幼馴染のレッテルを張られた男なのだから。

「でも、私は気付いてしまったの。この気持ちに。逢坂くんへの気持ちに。私の気持ちに嘘を吐くことは出来ない」
「俺は嘘でもお前が隣に居れくれれば…」

切にそう願う。ただ、俺の隣で真奈には笑っていてほしいんだ。他に何もいらないんだ。例えそれが嘘だったとしても…。

「そんなわけない!私が凜の立場なら、嘘だとわかっているのに彼女のふりをしてほしくない。そんなのでまかせだよ」
「でも俺は!」
「だから凜…私は凜とは付き合えない。ごめんなさい」

真奈は静かにそう言い終えると、俺の腕からするりとすり抜けた。まさに、零れ落ちていくような感覚だった。俺はただ、呆然と向かい側に立っている真奈を見た。

「でも凜。私は凜のことが大好きだよ!お兄ちゃんみたいだし…こんなことを言うのはおこがましいのかもしれない。でも私は…ずっと今までの関係でいたいの」

真奈が笑顔を浮かべながら言う。それに対し、俺はひとつ溜め息を吐いて笑った。

「わかったよ。そんなに言うなら幼馴染のまんまでいてやるよ。だけど…」

そう言ってまた俺は真奈との距離を詰めた。彼女の顔には「もう捕まらないよ?」とでも書いてあるようだった。でも、残念だったな。俺はそこまで単純な奴じゃないんだ。俺はそう思いながら、真奈の頭を俺の胸板に引き寄せた。そしてそのまま額にキスが落とした。初めて間近で真奈に触れられたような気がした。

「徹にふられたら俺が迎えに来るからな」

そう言い終えると、俺はふっと腕の力を弱め、真奈に背を向けて歩き始めた。これで、いいんだ。俺は流れそうになる涙をぐっと堪えながら歩く。すると、真奈に声を掛けられた。

「ね、ねえ!凜!」
「何だ?」

俺は首だけを真奈の方へと向ける。真奈はいつかと同じように俺の目を見つめながら言った。

「ありがとう」

俺はその一言ですべてが報われたような気がした。俺こそ、お前に出会えてよかったと思っている。でも、今真奈に「ありがとう」なんて言わない。これはただの意地なのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。でも確かなのは……俺はこれからも真奈の幼馴染であるということだ。これが良い事なのか悪い事なのか、それはよく分からない。でも今は言える。これが一番最高の結末だった、と。

これから俺は、新たな一歩を踏み出す。

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