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*53*
「凜!」
私が声を掛けながら、凜の元へと駆け寄る。
「よぉ。早いな、真奈。まだ5分前だぞ」
「何か不満?」
「い、いや…」
そう言って、少し俯く凜。
怒ってるのかな…?
そんな心配をしていたが、すぐにその心配はかき消された。
「綾川さーん!それにえーと…凜!」
「徹、お前今のわざとだろ!絶対、今のわざとだろ!俺を付け加えた感を出そうとしているんだろう!?お前の意図などバレバレだ!」
「ありゃ、ばれちゃったか。こうなったら仕方ない。堂々と…」
「堂々としなくて大丈夫よ!」
向き合う2人の間に割って入るような形で登場してきた美樹。
さすが、頼りになる。
「枝下」「枝下さん」
同時に2人の驚いた声が聞こえる。
確かに、私も全く気配を感じなかったし、2人が驚くのもわかる。
「あたしが影薄いとでも言いたげな目ね?逢坂」
「いや、別に俺は…」
「ちょっと、そこで動揺しないでよね。ますます確信を持っちゃうじゃない」
そう言いながらも笑っている美樹。
なんだか楽しそうだ。
「よし、全員揃ったことだし、俺の家に入るか」
「うん、そうしよ!」「そうしようか」「そうだね!」
こうして私たちは凜の家で勉強会をすることになった。
「おー、ここが凜の部屋なのか。綺麗にしてんだな」
「徹に言われると、どんな言葉でもムカつく」
「何だよ、それ」
口を尖らせる逢坂くん。
女子よりもよっぽど可愛いかもしれない。
「取り敢えず適当に座れよ」
そう言って、凜は部屋の中央にある座卓を指した。
そこには、4枚の座布団が引かれていた。
「そんじゃあ、あたしここ!」
先陣を切って、陣取りをしたのは美樹だった。
一番扉に近いところを取ったようだ。
「俺はここかな」
そう言って、逢坂くんは窓側の席を陣取った。
「私は…ここ?」
私は逢坂くんと向かい合わせ状態になる、本棚側の席に着いた。
「それじゃあ、俺はここだな」
凜は美樹と向かい合うような形で座った。
「では、勉強会を始めるぞ」
凜の掛け声と共に、勉強会が始まった。
まず最初にやるのは理科。
取り合えず提出予定の、学校から配布された問題集を解き、分からなかったところを逢坂くんに質問する、という形を取っている。
「あのー、逢坂。早速1の?が分かりません」
「枝下さん、早くないですか?」
「…そこは突っ込まないでください」
「まぁ、教えるよ。えーっと、って、これ中学の復習問題じゃん」
「忘れた」
「そんなあっさり言わないでよ。ついこの間まで受験生だったんだよ?」
「嫌なことは忘れる主義なので」
「はいはい。もー、突っ込まないよ?…取り敢えず、問題を解こうか。物体Pが移動するのにかかる時間はいくらって書いてある?」
「えーっとね…」
こんな感じで早速逢坂くんが美樹に勉強を教えている。
私は問題を解きながらもその説明を聞いていたが、先生になったらいいんじゃないか、というくらい説明上手だった。
「なるほど!これ、中学の時、理解できてなかったんだよねー!お蔭でその範囲のテストの点数悲惨だった」
「何点だったの?」
私が話に割り込む。
「48点」
「…ご愁傷様です」
「え!?慰めそれだけ!?真奈、それだけ!?逢坂は何かあたしに慰めの言葉はないの!?」
「…ご愁傷様です」
「…コントかよ!」
そんな会話をしながら、問題集を解き続ける。
「凜、君は俺に聞かなくていいのかな?」
「何だよ、解けてるんだからいいじゃねーか」
「本当に?俺が見た限りでは、2問は間違ってるけど?」
「嘘だろ!?」
慌てて凜は自分の解答と問題集の解答を比べた。
「本当だ…。2問、間違ってる」
「言っただろ?」
「でも、なんで間違ってんのかよく分からん」
「何でだよ。問題文、よく見てみなよ」
「秒速何メートルですか…あ!!」
「わかった?」
「俺、秒速何センチメートルと勘違いしてた!」
「やっぱりね」
「っち、ムカつくな。徹に指摘されるなんて」
「しょうがないね。凜が間違ってたんだし」
「次の単元では絶対間違えねーよ!」
「頑張って」
静かに闘志を燃やした凜。
本当に、凜は努力家で一生懸命で可愛いなぁ。
そんなことを思っていると不意に逢坂くんが私に話しかけてきた。
「綾川さんは、何か分からないところある?」
「と、特にはないかなぁ…」
「そっか。何か分からなかったら言ってね」
そう言って、ニコッと笑う逢坂くん。
すっごくカッコイイ。こんなことされたら絶対好きになっちゃうよ。いや、そもそもが既に逢坂くんのことが好きなんだけど…。
「って、綾川さん!」
「え!?何!?」
一瞬、私の考えていたことが逢坂くんにバレたのかと思って、冷や汗を握った。
しかし、全くの別件だった。
「俺より進んでるじゃん!」
「え?そう?」
私は現在添削中の自分の問題集のページ数を見る。
34ページ。
会話を聞きながらやっていたので、結構遅い方かと思っていたのだけれど…。
「俺、まだ31ページだよ?速いなぁ。しかも、1問も間違ってないし」
「逢坂くんこそ、皆に教えながらそこまで行くなんてすごいと思う。というか、人の間違いを即座に見つけられるって凄いね」
「何だか目はいいみたい」
私たちはそう言って微笑み合っていると、美樹から暗いオーラが発せられているのに気が付いた。
そして、何気なく美樹の添削中の問題集のページを見ると…17ページだった。
「美樹、ごめんなさい」
「解ればよろしい」
私はすぐに美樹に謝った。
すると、美樹は苦笑いしながらそう答えた。
逢坂くんはというと、いきなり私が誤ったものだから、困惑状態だ。
「ね、今のってどういうこと?」
「逢坂くん、世の中には知らないほうがいいことだってあるんだよ?」
「えー、何それ!余計に気になるじゃん。教えてよ」
「駄目。美樹の権利は守る」
「え?権利?どこからその言葉が…?」
「はいはい、そこまでだ。早く勉強に集中しろ」
「はーい、スパルタ凜先生」
「誰がだ」
「君がだよ」
こうして、午前中はそんな会話を繰り広げながら、無事に理科を終了させていったのであった。