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*62*
まだ、数人しかいない教室で一人の少女の声がこだまする。
「で!どうする!?」
美樹は私の机をパンッと軽く叩きながら私に尋ねた。
勿論、好奇心旺盛な目で。
「どうする、と聞かれてもなぁ。逢坂くんに直接聞いてみるしか…」
「そうだよねー。逢坂に頼むしかないよねー。あ、じゃあ、真奈が逢坂に頼んでよ」
「な、何で!?」
「チャンスじゃん?」
「どこが!」
「色々とー」
「…」
「じょ、冗談ですってばー、真奈さん。あたしが頼みますよー」
そう言って、少し不服そうに口を尖らす美樹。
可愛いなぁ。私も、こんな風になれればよかったのに。
「あ、そういえば!」
「今度は何?」
「いやー、あたしらってよくよく考えたら、メーアド交換してないなーと思って」
「本当だ!」
「もし真奈が良ければだけど、メーアド交換しない?」
「勿論、OKだよ。ちょっと待って。スマホ出すから」
私はそう言って、机の隣に置いてあったリュックのポケットからスマホを取り出す。
美樹は、自分の席に一端取りに戻った。
と、言っても私たちの席はそこまで遠くない。
というか、向かい合って話せるほどの近さだ。
「それじゃあ、あたしの奴出すから真奈はそれを読み込んで」
「はーい」
私は言われるがままに美樹のスマホに映し出されたQRコードを読み取った。
そして、読み取れたあとは私と美紀の立場は逆転。
今度は私がQRコードを提示する側になった。
「…はい、OK!完了したよ!」
そう言って、えへへと笑う美樹。
私もそれにつられて微笑んでしまう。
そして、十分に微笑み合ったあと、スマホをリュックに仕舞い、雑談を始める。
「そういえば、真奈、知ってる?あの剥げ親父いるじゃん?」
「剥げ親父?」
「そう。えーっと、何の教科だったかなー?んーと、あ!社会の歴史担当の先生だよ!」
「あー、あの先生ね。その人がどうしたの?」
「実はね、あの剥げ、浮気したらしいんだー」
「え?浮気?」
「そ。それでね、今奥さんと気まずいらしくって、イライラしてんのよー。だから、最近よく怒るでしょ?」
「なるほど。そういうことだったのか」
急に私の頭上から声が降ってきた。
しかし美樹は自分の情報に納得してもらえたのが嬉しかったのか、うんうんと頷きながら話している。
「でしょでしょー。ほら、やっぱあたしって凄い…」
しかし、後半の方になって違和感に気付いたのか、首を傾げながら視線を私から私の頭上へ…。
すると、そこには凜が立っていた。
「あ、浅井!?」
美樹が狼狽えた。
確かに、こういう行動、1つ1つを見てみると、恋する乙女そのものだ。
「おはよ」
と凜。
「おはよー」
と私。
「お、おはよ…」
と美樹。
美樹は顔を真っ赤にしながら俯く。
恥ずかしいのだろう。
「ん?枝下。熱あんのか?顔赤いぞ」
「な、なんでもないわよ」
「そうか」
そう言って、私の前に座る凜。
もー、凜ったらー!
どうしてそんなにあっさりしてるの!?
そんな怒りを覚えながらも、口に出さずに黙っていた。
すると、今度は私たちが待ち侘びていた人が…。
「おはよー、綾川さん!枝下さん!」
今日も朝から爽やか笑顔を振りまきながら挨拶をしてくれる人はたったひとりしかいない。
「逢坂くん!おはよー」
私の頬も自然と緩んで、満面の笑みになってしまう。
それを見てか、逢坂くんは顔を赤くして少し照れる。
そんな仕草も全部好き。
「もー、何微笑み合っちゃってんのさー」
こうやって、私達の間に入ってくる美樹も”お決まり”。
こんな風に”日常”って形成されていくものなんだね。
「あ、逢坂!」
「どうしたの?」
「来たところで悪いけど、1つ頼まれてくれないかな?」
「何?」
「実はさ、逢坂の家見に行きたいなーって話になって」
「うん」
「だから、逢坂の家で勉強会もう一回できたらいいなー、なんて思ったんだけど…駄目かな?」
少し上目遣いで頼みごとをする美樹。
何かすごく慣れてる気がする!!
私には到底身に着けられない技だなぁ!
なんて美樹の仕草に感動していると、先程から少し黙り込んでいた逢坂くんが、彼の声とは思えないくらい冷たい声で美樹に言い放った。
「それ、兄さんが目的でしょ?」
「え…?」
美樹の驚いた声が聞こえる。
しかし、逢坂くんはそれが聞こえなかったかのように、話を続ける。
「だったら、そういうのやめてほしいんだよね」
それだけ言って、一瞬だけ私を見据えたあと、自分の席へと歩いて行った逢坂くん。
美樹はというと、逢坂くんの背中を見つめながら放心状態。状況が全くつかめない様子。
私にだってよく分からない。
でも、逢坂くんの逆鱗に触れてしまったことだけは分かる。
それに、どうして去り際に私の方を見たのかも気になる…。
「ね、ねえ」
ようやく放心状態から解放されたのか、美樹が少し戸惑いながら私の肩をトントンと叩く。
私はそれに気付いて、一端思考を中断した。
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃないでしょ。詰まる所、勉強会は駄目だってことだよね?」
「そういうことだね」
「あー、逢坂のお兄さん見たかったよねー」
「うん、そうだね」
私はそう言って苦笑いをする。
それに対して美樹も苦笑い。
恐らく彼女も気付いているのだろう。逢坂くんの過剰なほどの反応に。
だけど、どちらともその話題については触れなかったので、先程のことは無かったかのように過ぎ去って行った。
――4限目終了後
「枝下さん!綾川さん!朝はごめんね!」
朝からずっと私たちと口をきいていなかった逢坂くんが、私達の所に謝りに来た。
「ううん、いいよ?誰だって触れられたくないことだって1つや2つあるだろうし」
「綾川さん…」
「おいおいおいおい、ちょっと待て。それだけで、お前許してもらえるとでも思ってんのか?」
凜が不機嫌そうに逢坂くんを見る。
逢坂くんはケロッとした顔で「何が?」と問う。
「何が、じゃねーよ!お前、真奈をどんだけ悲しませたのかわかってんのか?」
「え!?そうだったの!?てっきり、綾川さんは俺のコト、どうでもいいもんだと思ってたから…」
「そ、そんなことないよぉ」
私は力なく答える。
だって、そうでしょ?
逢坂くんにとって”私”という存在はそこまで大きなものではなかったと今判明したのだから。
「そ、そんなに落ち込まないで!俺、綾川さんの悲しい顔見たくないから!」
「…!」
私はそのセリフに驚いて顔をあげた。
すると、逢坂くんも自分で言ったセリフに驚いているのか目をぱちくりさせていた。
すると、すかさず凜が入ってきた。
「なんだよ、その乙ゲーみたいなセリフ。気持ち悪い」
「男の君に気持ち悪いなんて言われたくないね」
「あー、そうかよ。色男」
「俺は色男じゃないよ。何度も言うけど…」
こうしていつもの2人の口喧嘩が始まった。
教室の中でお弁当を広げている人も、それを肴として楽しんでいるようにも見える。
こりゃあ、1-Bの名物だねー!
何てことを思いながら。