完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~ 80~ 90~ 100~ 110~ 120~ 130~ 140~ 150~ 160~ 170~

*76*

『兄さん!もうここを離れるから戻ってきなさいって母さんが言ってる!』

私と同い年くらいの男の子がずっと先の方で誰かを呼んでいる。

『うん。分かった!今行くよ』

私の隣で笑っていた男の子が、声を掛けてきた男の子――弟の方を振り返りながら叫ぶ。
そして、また私の方へと向き直ると、先程までの笑顔はどこへやら、すっかり寂しそうな顔をしている。

『どうしたの?どこか行くの?』

私は不安げな顔で、彼に尋ねる。

『うん…。ちょっと遠いところ』

少し遠い目をして答える彼。

『また会える?』
『たぶん、10年くらいしたら会えるよ』
『じゅうねんって長いの?』

まだ幼かった私は”10年”がどれほど長いのかを知らずにいた。

『長いよ。でも、僕は絶対君を迎えに来るよ』
『本当?』
『本当さ。それじゃあ、印をつけておこうよ』

そう言って、彼が地面に落ちていた適当な石を拾い上げて、一番近くにあった木の幹に刻む。

”じゅうねんたったらあおうね”

『これでOKだね』
『うん』
『でも、この木の場所、私、忘れちゃうかも…』
『えーっと、それじゃあ、何か目印になるものを覚えておこう。えーっと…』

彼は辺りを見渡す。
そして、ある1つのものを見付ける。

『あ!あれだ!』

私に指差して見せたのは、”アニマルホスピタル”と書かれた動物病院だった。
動物がたくさん描かれた壁が今でも印象に残っている。

『あれを覚えておけばいいのね。分かった!』
『それじゃあ、また10年後だね』
『うん』
『バイバイ』

そう言って歩き出した彼。
そして途中まで坂を上った後、突然振り返った。

『君の名前は?』
『マナ』
『そっか。ありがとう』

こうして私達は契りを交わした。

75 < 76 > 77