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*76*
『兄さん!もうここを離れるから戻ってきなさいって母さんが言ってる!』
私と同い年くらいの男の子がずっと先の方で誰かを呼んでいる。
『うん。分かった!今行くよ』
私の隣で笑っていた男の子が、声を掛けてきた男の子――弟の方を振り返りながら叫ぶ。
そして、また私の方へと向き直ると、先程までの笑顔はどこへやら、すっかり寂しそうな顔をしている。
『どうしたの?どこか行くの?』
私は不安げな顔で、彼に尋ねる。
『うん…。ちょっと遠いところ』
少し遠い目をして答える彼。
『また会える?』
『たぶん、10年くらいしたら会えるよ』
『じゅうねんって長いの?』
まだ幼かった私は”10年”がどれほど長いのかを知らずにいた。
『長いよ。でも、僕は絶対君を迎えに来るよ』
『本当?』
『本当さ。それじゃあ、印をつけておこうよ』
そう言って、彼が地面に落ちていた適当な石を拾い上げて、一番近くにあった木の幹に刻む。
”じゅうねんたったらあおうね”
『これでOKだね』
『うん』
『でも、この木の場所、私、忘れちゃうかも…』
『えーっと、それじゃあ、何か目印になるものを覚えておこう。えーっと…』
彼は辺りを見渡す。
そして、ある1つのものを見付ける。
『あ!あれだ!』
私に指差して見せたのは、”アニマルホスピタル”と書かれた動物病院だった。
動物がたくさん描かれた壁が今でも印象に残っている。
『あれを覚えておけばいいのね。分かった!』
『それじゃあ、また10年後だね』
『うん』
『バイバイ』
そう言って歩き出した彼。
そして途中まで坂を上った後、突然振り返った。
『君の名前は?』
『マナ』
『そっか。ありがとう』
こうして私達は契りを交わした。