完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~ 80~ 90~ 100~ 110~ 120~ 130~ 140~ 150~
*32*
「……悪いね、瀬良さん。俺ら匿名で指令受けてるからさ」
「勇魚さんに、だろ?確かに俺らは梶原さんから指名を受けてるけど、最初の依頼主は……女の子放っておいて人任せにするような【Sランク】さんだからよ」
飄々と話しかける仁に瀬良はフッとどこか余裕すら感じさせる笑みを浮かべた。
すると、後ろも振り向かずにクイッと親指である人物を指差した。
瀬良の顔はどこか皮肉気だった。
「いやー。ここでも容赦ないなぁ、瀬良さん」
「事実だろうが」
「郡司……!」
あの時聖と一緒に本部基地へ行ったはずなのに。
そう言おうとしたかぐやの言葉をわかっていたように麗は柔和な笑みを浮かべて口を開いた。
「郡司さん、聖君を医務室へ預けた後、すぐに後梶原さんのとこに援護要請を出したんだ。それで俺等が来たってわけ」
「それはそうだが薔薇園。お前……」
せっかくビシッと決めたはずの麗に草薙は鋭く、横目で彼を見る。
そして再び呆れたように溜息をついた。
彼の行動にはみんなツッコミを待っていて。
「竜堂との距離どれだけ開けてんだ」
「ご、ゴメン……!女の子といるとなんか恥ずかしくなっちゃってつい5メートルぐらい間を開けてしまっちゃうんだ。……でもこんなんじゃダメだよね。価値が……ない……。よし、死ぬしかない」
「止めろ鬱陶しいめんどくさい」
(麗にしろ……みんな全然変わってなさすぎ!)
どこか危うい雰囲気を漂わせながら草薙は間髪入れずに言い放つと、麗の襟元を引っ張る。
通りすがりで彼らのことを見ていたがこういう風に直接話すことはなかった。
彼らを見てかぐやは改めて思った。
だが、美也子はあくまで冷静になり瀬良たちの前に一歩足を踏み出す。
「このままじゃ悪いんですけど戦うことになりますよね。私たちも不本意ながら命令ですので〜」
「オレは別に構わんがな」
草薙の言葉に美也子は眉をひそめる。
すると、背後から無線に応じ返事をしている秀也の声が耳に入った。
「秀ちゃん?」
「どうした秀也。なんか連絡か?」
「ああ。勇魚さんからだ。……もうこの任務はいいらしい。先程梶原さんと交渉に入り、成立した。よって、もうここにも。……竜堂かくやにも用はない」
美也子と仁の問いに秀也はぶっきらぼうに答えた。
静かに如月を鞘に納めるとかぐやに背を向けた。
「待って!」
かぐやは秀也に呼びかける。
返事はしないが、彼はピタッと止まる。
だがその背中はやるせない気持ちが立ち上っていた。
次の瞬間、出た言葉は予想のつかないものだった。
「……今までどこに行っていた」
「……一応、バスターにはいたけどみんなには会わないようにしてたわ」
「お前がいなくなった8年間、オレはどんな思いでお前を……!!]
「しゅ、うや……」
肩を震わせながら、秀也はそう呟いた。
本当は泣き叫びたい、あるいは彼女の肩を思い切り揺さぶりたかったのだろう。
しかし彼は振り向こうともかぐやの顔を見ようともしなかった。
そんな彼にかぐやは何も言えなくなってしまった。
「行くぞ。仁、美也子」
「待てよ、秀也。おい、かぐや!また会ったら訓練室で戦おうぜ」
「かぐやちゃん今度はゆっくりお茶会でもしようよ〜」
そう言って2人はズカズカと歩き去っていく秀也を追いかけつつ、かぐやにそう言い残す。
小さく項垂れるかぐやの肩をポンと郡司は置いた。
「……悪いな、かぐや。遅くなっちまって。聖は無事だ」
「……そう、よかった。そんなの気にしてないわ。悪かったわね。瀬良さんたちもいろいろ動かしちゃって」
「誤解するな。ただ任務だっただけだ」
そっけなく草薙はかぐやの言葉にそっぽを向いた。
神妙な顔をして瀬良はかぐやの前に立った。
「悪いが竜堂。梶原さんの命で本部基地まで来いと言われてるんだ。……来てくれるな?」
「わかってるわ。助けてもらった仮は返すつもりよ」
「……じゃあ、行こうか」
スッと麗は前方を指差す。
そこには壮大に立ち述べる本部基地がそこにあった。