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*33*
「ここまで中心部“深く”まで来るのは8年ぶりね。廊下が広くなった気がするけど……新築でもしたの?」
「ああ。【陛下】が3年前お怒りになったときにここらへんをゴミにしたからな。それで一気に新築したんだ」
「いや〜。あの時は酷かったよなぁ……」
麗と草薙と別れたかぐや一行は瀬良の案内の元、梶原長官がいる長官室へ向かっていた。
他の場所より真っ白な壁を見たかぐやはふと、呟いた。
いつもなら息を吸うように郡司に皮肉を言う瀬良が苦笑しながら同意を求めている。
郡司も思うところがあるのか微妙な表情を浮かべて「ん〜」と唸るだけだ。
「【陛下】……?嗚呼、噂になってたわね。本基地最高戦力“トップエデン”って前まで言われてたけど。今もなの?」
「ああ。短気なところも変わっちゃいないがな」
「へえ……」
どこか上の空で郡司の話を聞きつつ、軽く流した。
ピタッと足を止めると瀬良はこちらを見た。
「……着いたぞ。入ってくれ」
※
「失礼します」
「失礼しまーす」
ギィ……。と扉を開けると、そこには精悍な30代前半らしき男が座っていた。
椅子に座り、腕を組んでいた男はかぐやを見ると少し嬉しそうに顔を綻ばせた。
「……かぐや、か。また会えてうれしいよ。先程郡司から話は聞いていたが。……あの事件は君だったんだね」
「梶原……さん…っ!」
思わず零れそうになった涙を堪えた。
梶原一心(かじはらいっしん)はそんな彼女を見て座るように促した。
2人は席に座ると梶原は満足気に微笑んだ。
「――かぐや。勇魚さんが君にしてしまったことだが――……」
「勇魚さんが私に秀也たちを使って襲わせた理由はわかってるわ。……おそらくこれよ」
チャリッとかぐやが胸もとから出したのは黄金で作られた鍵のようなものだった。
それを見た梶原と郡司は酷く驚いたように目を見開いた。
梶原は思わず椅子から立ち上がっていた。
「それは……帝の……!」
「どうりで遺体から見つからないと思ったよ」
「私もこれが何を示唆しているのかはわからないわ。ただ遺品としてもらったものだから。だけど、兄さんが死んだ日から確実に私は殲滅者から狙われるようになった」
どこか寂しそうにかぐやは項垂れた。
そんな彼女を見て梶原は何とも言えない気持ちになっていた。
郡司はヒョイっと首飾りを摘み上げる。
それを見たかぐやはギョッとした。
「ちょっと郡司!それ、兄さんが唯一残した遺品なんだからね!?壊さないでよ!?」
「大丈夫だって」
「本当でしょうね!?」
郡司から首飾りを奪い返そうとジャンプするかぐやだったが彼は華麗に避ける。
悔しそうに地団駄を踏むかぐや。
それを見て興味深そうに梶原は顎に手を付けた。
「―――かぐや。少しの間だけでいい。この首飾りを調べさせてくれないか?3時間ぐらいでいいんだ」
「……?別に、構わないけど……」
「よし。決まりだ。3時間ぐらい時間潰してきてくれ。久しぶりに訓練室にでも行ってさ」
「ちょ、ちょっと郡司!押さないでよ!」
強引に郡司に背中を押され、長官室からあっという間に締め出されてしまう。
廊下に1人ポツンと残されたかぐやは今だこの状況に追いついていなかった。
「な、なんなのよ……」
※
「もう!郡司のせいで訓練室しか行くところなくなったじゃない!」
怒り任せでズカズカ訓練室の広間を歩き回るかぐや。
幾つかの視線を感じるが今の彼女にとってそんなことどうでもいいことだった。
この訓練室は文字通り殲滅者に対する訓練が行われる部屋だ。A〜Cランク隊員に多く使われ、主に1対1で戦うところである。
ポン、と訓練室の一室に灯が付いた。
灯りがついたということは中で訓練していた隊員が外に出るという合図だ。
「ちょうどいいわ。あそこで久しぶりに特訓を……」
「くそっ!何なんだよお前!ふざけやがって!」
「キャアッ!何!?」
勢いよく出てきたCランク隊員にぶつかったかぐや。
そのCランク隊員は謝ることなく出て行ってしまった。
その衝撃に思わず尻餅をついてしまったかぐやに手を差し伸べるエアリーヘアの茶髪と赤色の目が特徴な少年がいた。
「大丈夫?お姉さん。なんかゴメンねー。オレがストライクでぶんなぐって1本取ったらアイツキレだしちゃってさー……」
「……別に気にしてないわ」
その手をグッと掴むとかぐやは立ち上がった。
怪我がないことにホッとしたのか少年はフッと笑みを浮かべた。
「オレは櫟秋良(いちいあきら)。しがないCランク隊員です」