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*66*
「そこら辺の刀―――ブレイブとやらと遜色ないな。そんな棒切れで我に敵うと……」
郡司の登場により多少冷静になるアトラス。
不敵な笑みを浮かべながらレイピアを弄ぶ。
――――次の瞬間だった。
ズシャッ!!
「な”ぁっ……!」
ボチャッと鈍い音を立ててアトラスの右腕が切り落とされていた。
一瞬、いや、それ以下の時間で。
その光景をかぐや以外はポカーンと見つめていた。
自分の腕が斬られた、という事実をようやく理解したアトラスは絶叫する。
「あああああぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁっぁ!!!!!!」
「見えねえ……。何じゃこりゃあって……まさか……!」
アトラスは激痛にもがき苦しむ。
理解が追い付かない花京院は呆然としたが、頭が回り、かぐやの顔を見た。
花京院の考えていることが正しいと言わんばかりにかぐやは大きく頷く。
「―――腕の一本なら再生するはずだろ?神光国家の遣い」
「貴様、“この時代”でも邪魔立てするかぁ―――――っ!!!」
ドン!とアトラスは残った左手を地面に大きく打ち付けた。
「氷河の剣“ブリザード・ブレイド”!!!!」
「……氷が……!」
先ほどかぐやたちの半径5メートルを覆っていた氷がさらに侵食する。
いや、それだけではない。
確実に郡司のほうへ氷の刃は迫っていた。
「速度は遅いが貴様の刀では斬り切れる氷ではない!凍て付いて死ね!」
アトラスはギョロギョロと血走った目で郡司を見る。
おそらくかぐやのことも目に入っていないだろう。
勝利を確信したアトラスはニヤリと笑う。
「おい、竜堂。あのままだと飛来が死ぬぞ」
「大丈夫よ。だってあの刀は……」
花京院はあくまでも冷静にかぐやに告げる。
だが彼女はニッと笑いながら上を見上げた。
「残念だったな。お前の氷は俺には届かないよ」
郡司がそう宣言した、瞬間。死刑宣告のように、
――――パキン。
と、アトラスが広大に敷いた氷がすべて破壊された。
「な、なぜだ……!我の氷は無敵なはず……っ」
「俺のソウルブレイブ――蒼龍は神速瞬殺の刀。一瞬って呼ばれる時間に千の斬撃を生み出せる」
チン、と郡司は微笑を浮かべながら蒼龍を鞘に納める。
――郡司とアトラスの勝負はついたのだ。
アトラスはカタカタを震えながら乱暴に頭を掻き乱した。
「ありえない……。ありえない……。この我が…負けるなどと……!!」
郡司は踵を返し、かぐや達のほうへ歩く。
かぐやは花京院の腹部からあふれ出る血を抑えていた。
「花京院さん、大丈夫か?なんか死にそうだけど」
「何悠長なこと言ってるのよ郡司!死ぬわよ!放置したら死んじゃうわよ!……しっかりしなさいよね、医務室までもうすぐだから。頑張んなさい!」
「…………いらねぇ気遣いありがとよ、嬉しくもねぇ」
フッと笑いながら花京院は郡司に背負われる。
普段の彼ならかぐやたちの助力を拒絶していたはずだった。
だが、今の彼にはそんなことしようとも思わなかった。
(……アンタの口車に乗せられてやるよ、帝さん……)
優しく微笑みながら花京院はなきあの人へそう告げた。
その表情は誰にも伝わることはない。
ふと、思い出したように花京院は郡司に告げる。
「おいあの殲滅者殺さなくていいのかよ。放っておいて回復でもされちゃあまた竜堂狙うんじゃねぇのか」
「……大丈夫だって。アイツぐらいならかぐやでも対処できるし、いざとなったら俺と梶原さんもいるしね。……それに……」
「それに、何よ?」」
かぐやはアトラスによってつけられた氷を郡司が持っていたライターで慎重に溶かしながら、彼を見る。
郡司はどこか悲しげに拳を握った。
「―――俺たちが何もしなくてもアイツはいなくなる。……永遠に」
郡司は“観た”のだ。
残酷な、止めることのできない未来を――――――。
※
「クソ……今度こそはぁ……っ」
ダン!とアトラスは拳を地面に打ち付ける。
血が染み出ていたがそんなもの関係ない。
「あなたに今度はありませんよぉ?」
「――――うぐっ」
甘ったるい女の声が聞こえたのと同時に、アトラスの体が貫かれる。
アトラスはこの女のことをよく知っている。
ウエーブがかかったツインテールに華奢な体つきをした美少女――テット。
気の食わない女―――そして……。
「あなたはもう用済みですっ。我が王クローディア様からの伝達〜。それにぃ……」
這いつくばるアトラスの視線に態々合わせて嫌味たっぷりに呟くのだ。
「【氷の主】を使って負けるだなんて、本当に使えなぁ〜い!まぁ、あなたはあたしと違って才能がないから仕方ないけどぉ……」
ズリュっと刀身が太い刀をアトラスから抜くと満面の笑みで言い放つ。
「あと、クローディア様からもう1つ!【氷の主】の更なる適合者を見つけたから―――返してねっ」
「ま……て……っ」
弱る体で抵抗するアトラスだったが残酷にもテットは紋章のついている彼の左腕を切取った。
それにショックを覚えたアトラスは何かが切れるように絶命した。
「あーあ。アトラスってば本当に使えなーい!姫君を攫えってクローディア様から直々に命じられたのに!あの出来損ないー」
ブーっとテットは頬を膨らませながらアトラスの左腕をボールのように弄んだ。
そして、バスター本基地を睨む。
(あたしたちの中で一番弱いっていってもアトラスをあそこまで痛めつけるだなんて……只者じゃないわね。それに……)
ブゥン、と黒い円盤の中に吸い込まれながらテットは神妙な顔をする。
(最強戦力“トップエデン”を探さなきゃ……)
No11 不穏な来訪者