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しりとりシリーズの『その後』
作者: 彩都  (総ページ数: 108ページ)
関連タグ: しりとり 短編集 長編 ミステリ 推理 多ジャンル 
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 しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 4 辻斬り事件と百乃目と

 夜、誰もが寝ている時間帯の事だった、一人の男性の妖怪が暗い夜道を歩いている、手には手燭(しゅしょく)があり、男性の周りは明るい光に包まれていた。
 そんな中だ、男性の背後から長刀を持った存在が男性を斬り、斬った後、すぐさま刀を鞘に戻して、急いでその場から逃げ去った。
 辻斬りだった、だがその辻斬り事件を見ている者は居らず、倒れた手燭はゆっくりと燃え、存在が黒焦げとなる──この事件は『百目』の妖怪、百乃目(もものめ)の町に号外の瓦版を作る程、広く、深く知れ渡った──

「ふぅん? 何とも怖い事件じゃのう」
 十六夜満月堂の店内、瓦版を見ながら猫又の妖怪、琥音虎(こねこ)が言う、琥音虎の言葉に対し、呆れながら百乃目は返答する。
「はぁ……そうですねぇ」
 何とも元気のない返答に少し不思議がる琥音虎、まさかこやつ、自分の能力を使用して犯人を見付けたとか? そう考えるとこの返答のやる気無さに納得する琥音虎、琥音虎は百乃目の胸倉を掴んで問い詰める。
「誰じゃ!? 誰が犯行をしたんじゃ! 話せぃ!」
「自分だって分かりませんよ! そんな『この町全体に能力を使用する』なんてどれだけ負荷が掛かると思うんですか!? 流石の自分だってそんなバカな事はしませんよ! 自分だって犯人は知りません!」
「嘘言うな! 今の今迄どれだけ負荷が掛かる様な事をしたと思っておる!? 儂は知っておるぞよ!?」
「そんなの出来ませんし、半径10m程度しかした事が無いですよ!」
 琥音虎の言葉に百乃目が反論する、琥音虎といがみ合って、頬っぺたを抓ったり、歯を見せて闘争本能を見せたりする、すると急に十六夜満月堂の戸を開ける存在が居た、だが琥音虎と百乃目はその存在に気付かない。
「あのー、すいませぇん?」
「お前は何時もそうじゃ! 夜の時だって、何時も激しいし、お前には感情の起伏が激し過ぎる! 上下に揺れ過ぎじゃあ!」
「それを言う琥音虎だってそうでしょう!? アンタこそ感情の起伏が激し過ぎるんだよ! 自分の場合は一般的です!」
「あのー……」
「何じゃと!? よぅ言ったのぉ! もうこれからは本気でお前を倒すからな! 借金という道で!」
「何て最低な手段なんだ! アンタこそ、借金を返済する為に吉原とか行って、体売ってこい! 前に言ったのを覚えてますからね! 『儂は若い体だから世の男共の心は鷲掴みじゃ!!』ってなぁ! その体を使用すれば吉原一の金持ちになれるんじゃないんですかねぇ!?」
「あのー……聞いてますぅ?」
「何じゃ! 少しは黙っとれ! 今はコイツと喧嘩中……」
「そうですよ! 私は今この琥音虎と喧嘩中……」
 二人の会話は来客にやっと気付いた時点で終了した、そして琥音虎は急いでお茶を用意し、百乃目は急いで来客を急いで椅子に座らせる。
「いやぁ、すいません、痴話喧嘩を……」
「アッハッハッ、いや、いんだよ、私も仕事柄痴話喧嘩を良く聞くから」
「ほ、ほう……それで? 依頼ですかね?」
 百乃目がそう聞くと、来客は静かに頷く。
「アハハ、そうですなぁ、確かに依頼事ですねぇ……」
 来客はそう言って懐から財布を取り出し、名刺を百乃目に渡す、すると百乃目はとても驚いていた、何で驚いているのか不思議そうに琥音虎が横から見ると、確かに驚愕する理由が分かった、その理由は来客の相手が『警察』の存在だったからだ。
「初めまして、百乃目さん、私は捜査一課の阿覚桂馬(あさとり けいま)と申します、それでは本題に入らせて頂きます──私と一緒に辻斬り事件の解決をして欲しいんです、これが私の依頼です、どうです? 報酬はちゃんとありますが……受けますか受けませんか? どうしますか、百乃目さん?」
 警察の阿覚がそう言うと百乃目は静かに能力を発動する、だが中々、いや、『全く相手の心が見えない』のだ、何故だ? こんな相手、何も考えずに行動している奴より見えないなんて……まるで『真っ暗な世界に踏み込んでしまった』感覚を感じ、不思議だ、と思っていると『フフフ……』と笑いながら阿覚が百乃目に言う。
「何をしているんですか? まさか『自分の能力を使用して、私の心の内を見透かそう』とか考えてません? フフフ、そんなの出来ませんよ、何故なら私は『妖怪『覚』』の力を持っているんですから」
 阿覚の言葉を聞いて、百乃目は驚いた、まさか『同類』って訳ね……道理で見れない訳だ、百乃目はそう思いながら静かに溜息を吐く。
「はぁ……分かりました」
「おっ、引き受けてくれるんですね?」
 百乃目の言葉に阿覚が喜ぶと、百乃目は静かな口調で阿覚に言う。
「いえ、こちらにだって、『受ける選択と受けない選択』をする時間を下さい、そうですねぇ……明日、明日の今の時間にもう一度来て下さい、明日来たら『受ける選択と受けない選択』の回答をします、少しだけ……考える時間を下さい」
「……そうですか、流石に今日中に回答をしてくれるとは思ってもいませんので、また明日来ますね、それでは」
 そう言って、百乃目に名刺を渡した阿覚が十六夜満月堂を出る、百乃目は名刺を見つめながら、依頼を受けるか受けないかを考える──

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