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しりとりシリーズの『その後』
作者: 彩都  (総ページ数: 108ページ)
関連タグ: しりとり 短編集 長編 ミステリ 推理 多ジャンル 
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 しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 5 辻斬り事件の犯人と百乃目の邂逅

 妖怪・覚──覚とは『相手の読む事が出来る』妖怪だ、なので、『自分以外の心を読む事が出来る』妖怪である、だが百目の妖怪の力を持つ百乃目は覚の阿覚の心の中は見れなかった、それは何故だろうか? そんな物は簡単である、百乃目は覚と違い、『他人の心なんて読んでいない』からだ、百乃目は『見る』事が出来るが、『読む』事は出来ない。
 では何故百乃目は『他人の心を見る』事が出来るのだろうか? それは『相手の『心の眼』で見ている』からだ、所謂、『心の眼で見ろ』、とか言われる、あの『心の眼』から相手の心を見ている、に過ぎないのだ。
『心眼』、と言われれば納得する者も居るだろう、その『心眼』で『相手の心を見ているに過ぎない』のだ、では話を戻して、『何故百乃目は阿覚の心を見る事が出来なかった』のか? それは『覚が心を閉じる事が出来る』からだ、なので、百乃目が感じた『『真っ暗な世界に踏み込んでしまった』感覚』というのは『阿覚が心を閉ざした後の世界』と言う事になるのだ。

「…………」
 全く、同類の妖怪が居る事を知らなかった自分はまだまだお子様だな、と心の中で呟きながら溜息を吐く。
 確かに個人的には辻斬りの犯人は気になる所である、更に琥音虎だって知りたがっているし……さて、自分はどうしたらいい? そんなの簡単だろう? 百乃目は自問自答して、いきなり立ち上がって琥音虎に言う。
「なぁ、琥音虎、今日はもう店終いだ、さっさと寝よう」
 百乃目はそう言って静かに十六夜満月堂の看板を『春夏冬中』から、『閉店中』の札に変える、その行動に対し、琥音虎は不思議がる。
「どうしてもう店終いを……?」
 琥音虎の言葉に百乃目は覇気を強めて言う。
「今日はもう店終いだ、さっさと寝よう、聞こえなかったのか?」
「いや、だからどうして店終いを……」
「今日はもう店終いなんだ、理解してくれよ、僕は眠いんだ、だから寝る、それだけだ、だから早く店を仕舞おう?」
 百乃目の言葉に静かに頷くしかない琥音虎は仕方なく、十六夜満月堂を閉める事にした。
 こんな昼の間に閉める事は今迄あまり無いが、長年居るから分かる、今の百乃目は少しピリピリしている、と……琥音虎は本能で察する──

 その日の夜、百乃目は布団に入りながらもやもやと考えていた、果たして辻斬りの犯人は一体誰なんだろう? それを考えると中々寝付けない、琥音虎も今日は違う所で寝るらしいし……これは個人行動が出来る、という事か? 百乃目はそう考えて急いで起き上がって、服を着替え、外に出る。
 外は誰もいない、それもその筈、この町にも辻斬りが出るかもしれないから、という理由で人っ子一人居ないのだ。
 百乃目は家から手燭を持って、火を点けて、この近辺を歩く事にした、そしてのんびりと歩いて、小川の橋を渡って、道沿いに曲がって行く、すると一軒の料理屋を見つける、だが今日はもう夕飯を食べたので、料理屋に入る事も出来ない──更にお金も今、持ち合わせが無い──なので、仕方なく、料理屋を通り過ぎる事にした、こんな事をするのなら、食べなきゃ良かった、と今更後悔しながら呑気に歩く、すると見慣れた風景が広がった、確かこの近辺に琥音虎の家があったなぁ、猫又の妖怪の癖に家なんか持ちやがって……それを言うなら、自分もか、と自虐的な事を思った瞬間だった、手燭の光で、自分の足の影の後ろ、背後にもう一つ謎の足の影を見付けた、まさかこれって──そう思った時には前に走って背後を振り向いた、すると其処には長刀を持った謎の存在が立っていた。
 今はこの剣を避けて、顔を覚えておかないと! 百乃目はそう思いながら相手の顔を見る、だが外が暗過ぎて顔が判断出来ない、仕方なく手燭を近付かせるが、長刀に斬られ、光としての機能はなくなってしまう。
「くそっ! やられた! まさか刀が長刀だったとは考えていなかった!」
 百乃目はそう言って、その場から逃げる事を選択する、するとその辻斬りでさえ、追いかけてきて、百乃目は驚く。
「いい加減他の対称に替えろやぁ!」
 百乃目は辻斬りに怒鳴りながら逃げる、だが逃げた先は行き止まりだった、そして背後の辻斬りを見つめる……ダメだ、これは完全に自分の作戦負けだ、百乃目はそう思いながら辻斬りの一太刀を受ける──前に百乃目は首にぶら下げている笛を吹く、だが──間に合わなかった、そして左首の方から右脇腹迄、綺麗に一線に斬られる肉体、綺麗な鮮血が首から出て、辻斬りの体にぶつかる、次に右首から左脇腹綺麗にもう一線斬られる、百乃目の胴体に巨大な×の斬り傷が出来る、その瞬間だった、百乃目の横から、大量の猫を携えた琥音虎が叫びながら現れる。
「こぉんのぉ……!」
 琥音虎はそう言って辻斬りの前に立ち、喉を鳴らして威嚇する、辻斬りはその場を急いで立ち去る、そして琥音虎は背後に居る上半身血だらけの百乃目を見る。
「あぁ……儂の所為じゃ、儂が今日一緒に寝ていればこんな事には……!」
 琥音虎はその場で泣きながら四つん這いになって泣き続けた──だが、琥音虎の頭を撫でる百乃目、その姿に琥音虎は驚いていた。
「あぁ、辻斬り対策成功ですね……実は服の中には鎖帷子(くさりかたびら)を着用していましてね? 斬られたのは実質、服と首だけなんですよねぇ、だから、私はほぼほぼ無傷ですよ?」
 百乃目が不思議そうにニッコリ笑うと琥音虎はその場で顔を赤くして、百乃目の腹部をポカポカ殴る。
「心配させおってぇー!」
「いや、あの、一応斬られて貫通している部分もあるのですが? だからあまり殴らないで……ぎゃー!」
 琥音虎の拳に大ダメージを受けた百乃目はその場で倒れて、体を押さえる、流石にやり過ぎたか、と思い、反省する琥音虎、でも、何とか生きていて助かった、と琥音虎は思う、そして琥音虎は百乃目を持ち上げて、十六夜満月堂で治療する為に運ぶ──

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