完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~ 80~ 90~ 100~
*93*
しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 6 阿覚桂馬と店主・百乃目
十六夜満月堂の奥の休憩所で、胴体を包帯で巻かれた百乃目と心配している琥音虎が座っている、そんな中、白衣のメガネのポニーテイルの女性が二人に言う。
「あのねぇ、百乃目さぁん? こんな辻斬りが発生している中、犯人を探る為に出歩くなんて、自殺行為なんですよぉ? こっちだって冷や冷やして満月堂に来たんですからぁ?」
そう言って、溜息を吐く白衣の女性、そんな女性に対し、百乃目は頭を下げる。
「本当にすいません、琥音虎があまりにも騒ぎ立てるもので……」
百乃目はそう言って琥音虎を見る、琥音虎の目には一筋の涙が流れている。
「だってだってぇ! 百乃目、お前が死んだら誰が儂の借金を払うというのじゃあ!?」
「心配してるの其処かよ!? 自分じゃないんだ!?」
百乃目は琥音虎にそうツッコんでから、溜息を吐く、全くこっちも大変だ、というのに……そう思いながら百乃目は白衣の女性に言う。
「それにしても有難う、こんな危ない時に呼んでしまって……」
「良いんですよぉ、お金さえ貰えたら私達、鎌居三姉弟は何処へでも行きますんで」
そう言って、大きな胸を揺らしながら背筋を伸ばし、腰に手を当てる、その姿を見て、アハハ、と乾いた笑いしか出さない百乃目。
「ふむ、だけど、お姉さん、お兄さん方も大変だろう?」
「そうですね、辻斬りのお陰で商売上がったり叶ったりですけどね!」
そう言って白衣の女性は腕捲りをする、だが、流石に発言に不適切があったのか、しょんぼりして頭を垂れる。
「まぁまぁ、それ程鎌鼬(かまいたち)の薬が凄いって訳ですよ、六五(ろくご)さん? 貴女の作る薬はとても万能なので、誇っても良いんですよ?」
百乃目がそう言うと白衣の女性──基、六五──は静かに言う。
「まぁ、それもそうなんですけど……一二(ひとふた)姉さんや三四(みよ)兄さんも大変ですねぇ……」
「それもそうだね、早くこの辻斬り事件が終われば良いのにね……」
百乃目がそう言うと『はい、そうですね』と言って、六五がいきなり立つ。
「それでは私はこれで、あぁ、後処方された薬はちゃんと毎日塗って下さいね? 自分は他の辻斬り被害者の体を看に行かなければなりませんので」
「あぁ、有難う御座います」
百乃目は座りながら頭を下げ、琥音虎は六五を見送った──それにしても心を見るのも面倒な程に相手は速かったな、と思い出す、思いだす度に傷が少し疼く、何とも面倒な体になった様で。
「百乃目……」
「ん? 何だ、琥音虎?」
百乃目が琥音虎の声に反応する、すると琥音虎は百乃目の事を抱き締めて、首に絡んだ腕を強く締める。
「お前という奴は……!」
「フッ、お前だけには言われたくないね、自分でこの事件を解決させるんだ、琥音虎にはあまり関わりが無いさ……」
「だが、お前は最近体を酷使している、これ以上妖怪の力を使うと言う事は命を縮める事となるぞ?」
猫撫で声の様な声を出す琥音虎に対し、百乃目は静かに目を閉じ、琥音虎に言う。
「大丈夫さ、自分が死んでも誰も悲しまない、悲しむのは君だけなんだ、自分はそう簡単に死んで良い存在さ」
百乃目はそう言って、琥音虎を強く抱き締める、そして琥音虎の髪の匂いを嗅ぎながら強く、また強く抱き締める。
「百乃目ぇ……」
段々と妖艶な雰囲気になって行く二人、そして二人は唇と唇を合わせ、舌と舌を這わせる、ぐちゅぬちゅと唾液が絡まる音がする、琥音虎は服を脱ぎ始めるが、百乃目は止める。
「ま、待て待て、その前に自分はまだやらなくちゃならない事があるんだ」
「ん? 何なんじゃ?」
百乃目の言葉に反応する琥音虎、そして百乃目は寝ていなければならない筈だが、起き上がって、十六夜満月堂の戸を開ける、すると其処には阿覚が立っていた。
「昨日振りです、阿覚さん……!」
覚悟を決めた目つきで阿覚を見る百乃目、そして阿覚が百乃目に言う。
「決まりましたか?」
「……あぁ、決まったよ、自分は──」
百乃目はそう言って息を整えてから言う。
「阿覚さん、貴方の依頼を受けます、だから逮捕権もくれると嬉しい」
百乃目がそう言うと、阿覚はにやり、と口の端を歪ませて、言う。
「えぇ、有難う御座います、逮捕権も上げますよ、それでは、依頼の受託、しかと聞き入れましたよ? 途中でバックれるとか無しですよ?」
「そんな事、十六夜満月堂の私はしませんよ、琥音虎はするかもしれませんが」
「儂もせんわ!」
百乃目の言葉に反論する琥音虎、これで自分も辻斬りを逮捕する事が出来る、百乃目はそう思いながら阿覚と握手をする──
「ふぅ……中々の資料量だなぁ……」
百乃目はそう言って、目の前に積まれた資料を見つめる、これら全ての書類は一連の辻斬りの資料だった、それにしても中々読み応えがある資料だなぁ、そう思いながら途中で投げ出して、ソファに凭れる。
「流石に全部を一日で見る、何て出来ねぇ……」
百乃目は欠伸をして、その場で寝ようとしたが、不意に自分の胴体の傷を思い出す、実は阿覚と握手した時の出来事だった、不意に胴体の傷が疼いたのだ、何故疼いたのかは分からない、だけど、たまたま疼いたって可能性もある、なので偶然かもしれないな、と思いながら手に持った資料を見る、ちゃんと見なければ……昨日の犯人は一体誰なのか……? 百乃目はそう思いながら資料を見始める──
NEXT しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 7