コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜
日時: 2017/02/18 17:23
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=34896

 
 初めまして、ゴマ猫です。

 以前からやってみたいと思っていたのと、文章力を上げるためにも短編集を今回やってみる事にしました。
 気まぐれに書こうと思ってるので、更新は基本的に不定期です。シェフの気まぐれサラダ的なやつです。はい。
 ライトな話から、少々シリアスな話まで、色々な物語を書けたらなと思っています。読んで頂いて、少しでも面白かったと思ってもらえたら嬉しいです。


 参照が8000を超えました!
 読んでくださった皆様ありがとうございます!


 以下は、自分が書いた作品です。短編集を見て「この人の違う作品も見てみたい」と思ってくださった、心優しい読者様は是非どうぞ。リンクをTOPページと1ページ目に貼りつけておきます。

 【日々の小さな幸せの見つけ方】
 こちらで初めて書いた小説です。騒がしくも穏やかな、日々を描いた作品です。文章が結構拙いかもしれません。完結作品です。

 【俺と羊と彼女の3ヶ月】
 2作目です。可愛いけど怖い羊が出てきて、記憶を消されないため、主人公が奔走します。完結作品です。
 この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!

 【ユキノココロ】
 3作目です。高校2年生の冬、清川準一はひとりの不思議な少女と出会う。主人公達の過去と現在の想いを描いた作品です。完結作品です。



 【お客様】

 スルメイカ様 

 記念すべき一人目のお客様。続きが気になると言ってくださった優しいお客様です。

 朔良様

 綺麗で繊細な描写をされる作者様です。とくに乙女の『萌え』のツボを知ってらっしゃるので、朔良様の作品を好きな読者様も多いです。かくいうゴマ猫もその一人ですね。

 はるた様

 爽やかな青春ラブコメを書かれる作者様です。甘酸っぱい成分が不足しがちな読者様は、はるた様の作品へどうぞ。言葉遣いなど、とても丁寧な作者様です。

 八田きいち。様

 さまざまな小説を書かれる多才な作者様です。いつも着眼点が面白く、続きが楽しみになるような作品を書かれています。

 峰川紗悠様

 長編ラブストーリーが得意な作者様。
 更新も早く、一話一話が短めなので長編と言っても読みやすいですよ。

  覇蘢様

 ゴマ猫の中では甘いラブストーリーを書く作者様で定着しております。いつも読んでいる人を惹きつけるようなお話を書く作者様です。

 コーラマスター様

 コメディが得意な作者様。ゴマ猫の個人的な意見ですが、コメライでコメディ色を全面に出している作品、またそれを書く作者様は少ないです。おもわず笑ってしまうような物語を書かれています。

 澪様

 丁寧な描写で読みやすく、物語の引きが上手で続きが気になるような作品を書かれてる作者様。その文章のセンスに注目です。

 せいや様

 ストーリー構成が上手い作者様。
 ゴマ猫の個人的な感想ですが、どこかノスタルジックな印象を受けます。物語のテンポも良いので、一気に読み進める事が出来ますよ。

 佐渡 林檎様

 複雑・ファジー板の方で活動されている作者様です。
 短篇集を書かれているのですが、読み手を一気に惹き込むような、秀逸な作品が多いです。気になるお客様は是非どうぞ。

 橘ゆづ様

 独特な世界観を持つ作者様です。
 普段はふわふわとした印象の作者様なのですが、小説ではダークな作品が多く、思わず考えさせられるような作品を書かれています。

 狐様

 ファンタジーがお好きな作者様。
 複雑ファジー板の方でご活躍されているのですが、ストーリー、設定、伏線、描写、全てにおいて作りこまれており、気付いた時には、いつの間にか惹き込まれている。そんな作品を書かれています。

 村雨様

 コメライで活躍されている作者様。
 バランスの良い描写と、テンポの良さでどんどんと読み進められます。今書いていらっしゃる長編小説は思わずクスッと笑ってしまうような、そんな面白いコメディを書かれています。

 ハタリ様

 遅筆気味なゴマ猫の小説を読んで頂いて、また書いてほしいと言って下さったお優しいお客様です。

 こん様

 多彩に短編を書き分ける作者様。
 読みやすい文章と、心理描写が上手です。

 亜咲りん様

 複雑ファジー板の方でご活躍されている作者様。
 高いレベルの文章力とダークな世界観をお持ちで、読みごたえのある小説を書かれています。読めば物語に惹き込まれる事は必至です。


 【リクエスト作品】

 応募用紙>>80(現在募集中)

 【朔良さんからのリクエスト】
 彼女と彼の恋人事情
 >>87-91 >>96 >>99-104

 【佐渡 林檎さんからのリクエスト】
 無題〜あの日の想い〜
 >>127-129 >>132-140 >>143 >>146-147 >>154




 【短編集目次】

 聖なる夜の偶然
 >>1

 とある男子高生の日常
 >>2-3 >>6 >>9 >>14-15

 私と猫の入れ替わり
 >>18-19 >>22-28

 魔法のパン
 >>29-30 >>34 >>37-38 >>41
 >>44 >>47 >>50-51

 時計台の夢
 >>54-66 >>69-71
 (この物語はシリアスな展開を含みますので、読む際はご注意下さい。読みやすくするためリメイク予定です)

 とある男子高校生の日常NEXT
 >>72-75 >>78-79
 (この物語は前作の番外編となっております。前作の、とある男子高校生の日常を見ないと話が繋がりません)

 雪解けトリュフ
 >>162-163

 クローゼットに魔物は居ない
 >>167-169 >>174-178 >>179
 (この物語はシリアス展開を含みます。苦手な方はご注意下さい)

 【SS小説】

 想いの終わり
 >>166

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彼女と彼の恋人事情【5】 ( No.96 )
日時: 2015/05/05 22:09
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: MHTXF2/b)

「はぁ、どうしてあんな事を言ってしまったのかしら?」

 自宅に戻ってきた美羽はひとり呟く。
 思い返すのは今日の調理室での出来事、陸に懐いていた後輩を見た瞬間に美羽の心はかき乱されてしまった。いつものように冷静な対応していれば、あんな勝負なんて引き受けなかったのだろう。

「それにしても、陸ってば……私よりあの子を擁護するような事を言うなんて」

 美羽は胸の奥から湧き上がるもやもやとした気持ちを処理しきれず自室に戻る途中、自分の部屋の手前にある拓斗の部屋のドアを叩く。別に用があってするノックではなく、八つ当たりに近い行動。
 かなり強く叩いたからか、その音に驚いて拓斗が部屋から出てきた。

「何だよ姉ちゃん、用もなく部屋のドア叩くなよ」

「……うるさい、今日は虫の居所が悪いのよ。あまり話しかけないで」

 自分からドアを叩いておいて、あまりに理不尽な言い様だが、桐谷家は姉である美羽の方が強い。あまりにも厚い年功序列という壁に拓斗は歯噛みする。

「よくわかんねーけど、八つ当たりはやめろよ。どうせ、彼氏にでもフラれたんだろ? 大体、姉ちゃん性格最悪なんだからもっと——いてっ! いてて!」

「あまり私を怒らすと、明日の朝日を拝めなくするわよ?」

 拓斗の余計な一言に、怒った美羽のアイアンクローが炸裂した。
 美羽がギリギリと万力のような力で拓斗のこめかみを締め上げていくと、拓斗は半泣き状態で悶絶する。まさに口は災いの元である。

「ギブギブッ! 俺が悪かった! すいませんでした、お姉様!」

「……わかればいいのよ。以後気をつけなさい」

 美羽はそう言うと拓斗を締め付けていた手の力を緩めた。
 拓斗は恨めしそうな顔で美羽を睨んでささやかな反抗をしてみるが、美羽の視線が拓斗に向かった瞬間に顔を背ける。どうやら今日は何も言わない方が良いと判断したみたいだ。

「そうだ、お願いがあるんだけど」

 美羽は名案を思い付いたとばかりにそう言うと、拓斗が怪訝な表情に変わる。
 と言うのも、美羽が唐突に思いついた事は大抵拓斗にとっては良くない事が多いからだ。

「……なんだよ? 金ならねーぞ」

「ふーん、またお仕置きしてもらいたいの?」

「ひぃぃっ! ごめんなさい!」

 姉弟の力関係は当分変わりそうにない。
 拓斗は無条件で美羽のお願いを聞く事しかできなかった。


 ***


「……母さん、コレは何だい?」

 桐谷家の大黒柱である健一が唖然とした表情で目の前にある物を見つめながら、葵に問いかける。夕食の時間、いつものように桐谷家のテーブルに並べられた料理は色鮮やかな物ではなく、モノトーン。黒色の物体と唯一の白である、ご飯だった。

「……今日は美羽が作ったんですよ。ひとりで作るのはやめておいた方がいいんじゃないかって私は言ったんですけど、聞かなくて」

 嘆息混じりの葵の言葉に、健一は固まった表情のまま美羽に視線をスライドさせる。
 そしてさっきと全く同じ質問を今度は美羽にした。

「……美羽、コレは何だい?」

「肉じゃがよ。少し黒くなってしまったけど、味は大丈夫なはずだから…………多分」

「……そうかぁー、うんうん。美羽、コレはイカ墨でも使ったのかい?」

「いいえ。と言うか、イカ墨って肉じゃがに入れるものなの?」

 健一に尋ねられて、美羽はキョトンとした表情でそう言う。
 見た目の悪さを隠し味という事にしたかった健一だったが、その願いも虚しく潰えた。

「まぁ、普通は使わないわね。どうやったらここまでの黒さに仕上がるのか私が知りたいくらいよ」

 葵は美羽の問いに答えながら、呆れた様子でテーブルに並べられた黒の物体を見る。

「そうか、美羽が料理を作ったか……」

「お父さん、目を細めながら店屋物を取ろうしないでください」

 健一がチラシを見ながら電話を掛けようとしていたところを葵が止める。
 家族がそんなやり取りをしている部屋の隅で、拓斗は俯きながら苦悩の表情を浮かべていた。

「にっげぇぇぇ……」

 一足先に味見係(毒見係かもしれない)に任命された拓斗は、その想像を絶する味に苦しんでいた。そう、美羽のお願いとは試食係だったのだ。
 拓斗は正直な感想を言っていったのだが、それが間違いの元で味を直すといって様々な調味料を使用した結果、暗黒物質が出来上がった。拓斗がその度に試食させられたのは言うまでもない。

「おかしいわね……上手く出来たと思ったのに」

 拓斗の様子を見て美羽は不思議そうに首を傾げる。味見をしていないのも問題だと思うのだが、美羽が気付く様子はない。——その後結局、今日の桐谷家は出前を取る事になるのだった。

 (続く)

Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.97 )
日時: 2015/04/23 21:46
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: AeHVWC4f)





 随分とお久しぶりになってしまいました。
はるたは全然新生活に慣れないまま、てんやわんやです。
 ゴマ猫ちゃんは、いかがお過ごしでしょうか(^^)


 朔良ちゃんからのリクエスト作品である「彼女と彼の恋人事情」を現在更新されている分まで読ませていただきました。
 まず最初に思ったのは、ゴマ猫ちゃんの三人称書きというのは何だか珍しく新鮮だなぁということです。そのため、最初からワクワクさせていただいておりました。
 美羽ちゃんのツンツンとした態度にすごくはるたの胸がドキドキとしております。少し気が強い女の子ほど、可愛いものはないですね、はい。また調理部がハーレム部活動と言う美羽ちゃんの言葉に、思わず吹き出してしまいました。確かに、調理部というのは女子が多い部活動ですもんね。はるたのところは調理部はなく、あったのは食物部でしたが……。
 そして陸くん。「美羽以外の女の子は目に入らないから」とさらりと言ってしまうその爽やかさ、そして鈍感さ。そして料理もできるならば、いい主婦になりそう……あ、間違えた主夫ですね、はい(笑)
 また、愛莉ちゃん。その純粋さには、思わずときめいてしまいます。こんな女の子がクラスに一人でもいてくれたら、勉強頑張れるのに……むぅ。一途な女の子って素敵ですよね。
 で、実は一番お気に入りのキャラの弟君こと拓斗くん。お姉ちゃんに逆らえない、分かります。絶対上には逆らえない、それが下に生まれて来てしまった宿命なのです。アイアンクローをかまされ悶絶した後に「お姉様」と言った拓斗くんがすごく好きになりました。なんだか同類意識を感じました(笑)


 さて美羽ちゃんは料理は上手になるのでしょうか?また、料理対決の行方は……!!
これからの展開がとても楽しみです。
 更新がんばってください。

Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.98 )
日時: 2015/04/24 21:26
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Ft4.l7ID)

 はるたさん

 こんばんは、お久しぶりです(^.^)
 いつもコメントありがとうございます。新生活はまだ落ち着かなさそうなのですね。お疲れ様です。
 ゴマ猫はあまり普段と変わらぬ毎日ですね。最近は気温も上がって、ゴマ猫の苦手な夏というものの気配に怯えております。今年は暑くなり過ぎないと良いなぁ。

 はい、今回は様々視点から書きたいと思ったので、三人称で書く事にしました。個人的な好みは一人称なんですが、このストーリーはこっちが良いと思いまして。はい。
 実は何気に初挑戦なのです。どうですかね? ちゃんと書けてますかね?

 朔良さんからのリクエストで『逆転』というのをお題を頂いたので、これはもうツンデレを使うしかない! と思いまして、美羽というキャラが出来ました。普段、ゴマ猫の作品の中で美羽のようなキャラを使う事は少ないので、ドキドキしていただけたなら嬉しいです。
 ハーレム部活動に笑ってくれたのですね。ありがとうございます!
 そして何ですか、はるたさん、食物部とは……! すっごい気になるじゃないですか! 名前が違うだけとかじゃないですよね。気になる。

 陸は迷いました。
 美羽がツンデレなら陸は? と悩んだ末に爽やかな雰囲気にしてみました。感じとっていただけたなら嬉しいです。陸はきっと将来有望な主夫になると思います。(それは良いのかとツッコんでしまいそうですが)

 愛莉は妹っぽいキャラを想像して、美羽とは対比で素直な可愛い感じにしてみました。
 実は一番居そうで居ないタイプですよね。ゴマ猫も見た事ありません。
 きっと天然記念物並みの遭遇確率なのだと思います。諦めて自力で勉強頑張るしかなさそうですね( ..)φ

 何と、拓斗ですか! ちょっと驚きです。
 と言うか、はるたさんの意見に激しく同意したのはゴマ猫だけでしょうか? ここに同士がいるんなんて。ゴマ猫だったら、下の子に優しくできるのに……でも多分、甘やかしすぎてそれはそれでダメなんでしょうね。

 いつも丁寧なコメントありがとうございます! 更新、頑張ります!

彼女と彼の恋人事情【6】 ( No.99 )
日時: 2015/04/27 19:22
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: KG6j5ysh)

 家族が寝静まった深夜、自室の机に向かった陸は、手に持ったペンをクルクルと回しながら美羽と愛莉の一週間後の対決メニューを考えていた。

「うーん、どうしようかな……愛莉ちゃんの実力は見ているから知っているけど、美羽はどうなんだろう?」

 陸はそう呟きながら椅子の背もたれに身体を預ける。
 付き合ってから、それなりに月日は経ったのだが陸は美羽の料理の腕を知らない。
 勝負を公平にするためにも、対決するメニューはどちらにとっても同じような難易度の物にしたいが、美羽の腕前が分からないから中々決まらないのだ。

「美羽、自信がありそうな口ぶりだったよな。いや、もしかしたら勢いって可能性も……うーん、それなら選んでもらう形にしようかな」

 陸はカリカリとメモ帳に対決のメニューを書き込んでいく。
 本当なら美羽に確認してみれば確実なのだが、美羽の性格を知っている陸は聞かない方が良いと考えていた。藪をつついて蛇を出すような真似はしたくないという事だろう。

「それと、材料の在庫も考えて…………よしっ!」

 その日、陸は悩んだ末にようやく対決のメニューを決める事ができたのだった。


 ***


「えっと、対決メニューを発表するね。——テーマは焼き菓子、焼き菓子であれば、何でもOK。各自で選んでもらっていいから」

 翌日の放課後、部室で陸によって対決のメニューが発表された。
 それを聞いた部員達はざわめき始める。愛莉は自信があるのか、頷きながら小さくガッツポーズをした。美羽の方はというと、頭にクエスチョンマークが浮かんでいて、イマイチよく分かっていないようだ。二度三度と瞬きをしながら、陸を見つめている。

「——と言うのも、アップルパイで使った小麦粉やらなんやらが結構余っててね。下手に違う料理にするより、顧問の小田先生にも申請しやすいかなと思ってさ。名目は体験入部者のためって書くから」

 陸が頬を掻きながら少し申し訳なそうにそう言う。
 当然と言えば当然だが、いくら陸がほぼ任されていると言っても、陸が好き勝手にできる訳ではない。必要な物、特別に何かをやる場合などは顧問に申請書を書かなければならない。それが認められて初めて2人の料理対決ができるという事だ。

「桐谷先輩、この勝負、私は自信があります。桐谷先輩はどうですか?」

 愛莉は得意気な表情で隣りに居る美羽に問いかける。
 美羽にとっては簡単な料理ですらハードルが高いというのに、テーマがお菓子になってしまったのだから、難易度は格段に跳ね上がったと言っていいだろう。しかし美羽は——

「もちろん自信あるわ」

 と返した。
 その自信は意地と言う名の根拠すらないものであったが、年下の、しかも陸をたぶらかすそうとする愛莉に『できない』と言うのは、なにより美羽のプライドが許さなかった。

「絶対、桐谷先輩に勝ってみせます!」

「いい度胸ね、泥棒猫の分際で私に盾突いた事を後悔させてあげるわ」

「だ、誰が泥棒猫ですかっ!」

「私の目の前に居るあなたの事よ。……あぁ、ごめんなさい。あなたと猫を一緒にしてしまったらそれは猫に失礼ね、そこだけは謝罪するわ」

「謝罪するところはそこじゃないですっ!」

 段々とヒートアップしていく美羽と愛莉。
 2人の出会い方が悪かったからか、一度火が点いてしまえば、どちらも引くにひけないのだろう。そんな状況を見かねて、陸が仲裁に入る。

「はいはい、そこまで。美羽も愛莉ちゃんも喧嘩しない。それと、勝負が終わったら買っても負けても恨みっこなし、いいね?」

 まるで子供を窘めるような陸の口調に、美羽は拗ねたように陸から顔を逸らす。愛莉は申し訳なさそうに俯いて「……はい、すいませんでした」と素直に謝るのだった。


 ***


 部活終了の時間が近付いていたので、陸は3年生の先輩に戸締りを任せ、職員室に向かう。美羽は機嫌を損ねたのか、陸を待たずに先に帰ってしまっていた。
 そして顧問に終了の報告と申請書を届けて帰る途中、空き教室の窓から射し込む夕日を背に俯く愛莉を見かけた。

「愛莉ちゃん、こんな所でどうしたの?」

「あっ、陸先輩……」

 さっき陸に注意されたのが尾を引いているのか、愛莉の顔は浮かない。
 心配になった陸は愛莉の傍まで行き、同じような体勢で愛莉の隣りに寄り添うように立った。

「……陸先輩、私、嫌な子です」

「うん? 急にどうしたの?」

 愛莉は視線を床に落としたまま呟くような声音で話す。
 それを聞いた陸は優しく愛莉に問いかけた。

「私、周りが見えなくなって、桐谷先輩に自分から突っかかるような事言っちゃって、陸先輩にも部員のみんなにも迷惑かけちゃいました」

 愛莉は、昨日初めて知った陸と美羽が付き合っているという事実にショックを受けていたのだが、勝負に勝てばまだ何とかなるかもという淡い期待を持っていた。それはどうしようもない事実からの現実逃避。しかし元が真面目な愛莉は、言ってしまった後に、すぐに反省し後悔していた。

「なんだ、そんな事か」

 陸は俯く愛莉の頭に手を乗せて優しく撫でると、愛莉は気持ちよさそうに目を瞑りながらその心地良さに浸る。

「美羽はあんな感じだけど、本当は凄く優しいんだ。美羽も引くにひけないだけだと思うよ? それに、俺もみんなも気にしてない。むしろ面白そうなイベントだって楽しんでたくらいだ」

 そう言って、柔らかく微笑む陸。
 実際、他の部員は迷惑というより、美羽と愛莉の対決を楽しみにしている。調理部のマスコット的存在の愛莉と、その飛び抜けた容姿と、人を寄せ付けない孤高の存在な美羽。
 花に例えるなら、タンポポとバラ。どちらが勝つのか、皆興味津々なのだ。

「……陸先輩は、いつも優しいんですね。だから——」

 独り言のように、小さな声音で愛莉が紡ごうとしたその言葉は、グラウンドから聞こえてくる運動部の喧騒にかき消され、陸に届く事はなかった。

 (続く)

彼女と彼の恋人事情【7】 ( No.100 )
日時: 2015/04/28 22:18
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: y68rktPl)

「あの泥棒猫、絶対に泣かしてやるわ」

 陸を待たずに学校を出た美羽は、近所のスーパーに寄っていた。
 陸から発表された対決メニュー『焼き菓子』もちろん、様々な焼き菓子を見た事があるし、食べた事もある。が、美羽がそれを作った事などあるはずもない。
 故に、焼き菓子を作ると言われてもピンとこなかったのだ。
 調理室で、愛莉の自信がありそうな顔を見た瞬間、美羽の心は悔しさでいっぱいになり、その心に残った悔しさを晴らすため練習材料を探しにきていた。

「陸は小麦粉とか言ってたわね……色々な種類があるけど、どれでも良いのかしら?」

 棚に陳列された小麦粉を見ながら美羽は呟く。
 小麦粉と一口に言っても、様々な物があり、大抵、お菓子などで使う小麦粉は薄力粉と呼ばれる物である。強力粉と呼ばれる物は主にパンなどだ。何が違うのかを簡単に説明してしまうと、タンパク質の含有量だ。基本的に粉の中にあるタンパク質が多いものが強力粉と呼ばれ、少ないものを薄力粉と呼ぶ。
 つまり、それぞれ作る物によって適した粉がある訳だが、そんな事は知るはずもない美羽は、持っていたカゴに陳列してある小麦粉を手当たり次第に放り込んでいく。

「これだけあれば、安心ね」

 カゴの中で山盛りに積みあがった小麦粉を見て、美羽は満足そうにそう言う。
 何が安心なのかサッパリわからないが、美羽の中では大量にあるというのは安心に繋がるらしい。それは失敗しても大丈夫という事なのか、それとも途中で作る物が変更になっても買い出しに行かなくて済むという事なのかはわからない。
 しかしそんな笑顔も、数分後に大量の小麦粉の重さによって崩れる羽目になるのだった。


 ***


「た、ただいま……」

 玄関に到着するなり、美羽は荷物を無造作に下ろす。
 大量の小麦粉の重さでビニール袋は破れそうになっていた。

「お帰り……って、美羽、その大量の小麦粉は何なのよ?」

 キッチンから玄関に向けて顔を出した葵が、驚きと呆れが入り混じった声音で美羽に問いかける。

「見ればわかるでしょ? 焼き菓子を作るのよ」

 美羽は、ビニール袋の持ち手がくい込んで赤くなった手の平を摩りながら、そう答えた。

「あんたねぇ……どれだけ作るのか知らないけど、パーティーをやる訳じゃないでしょうに。それに、小麦粉は高いのに無駄遣いして」

「練習のためよ。それに問題ないわ、自腹で出したんだから」

「はぁ、絶対にそんな使わないわよ。……今日の夕飯はお好み焼きにした方がいいかしらね」

 葵は愚痴るようにそう呟いたのだった。


 ***


 葵が美羽から薄力粉を少し借りて、本日の夕食はお好み焼きになった。ちなみに昨日のような事態を回避するため、今日は葵が夕飯を担当。
 そして夕食の時間が過ぎると、美羽はキッチンに立ち、調理を始める。その後、数時間かけて美羽がネットのレシピを見ながら悪戦苦闘して作り上げた物を見た瞬間、味見役の拓斗は苦い表情で美羽に尋ねた。

「……何だよ、コレは?」

「アップルパイよ。リンゴを買うのを忘れてて、中身は何も入っていないけれど」

「……それはもうアップルパイと呼べねーし。しかも、何でいつも色が真っ黒なんだよ? 頼むから、せめて焼き加減くらい見てくれよ」

 拓斗は懇願するように美羽にそう言う。
 どうやら昨日の味見がよっぽど堪えたみたいだ。

「パイはよく焼いた方が美味しいって、ネットにも書いてあったわ」

「いやいや、限度があるから! いくら料理初心者でもわかるだろ!」

「うるさいわよ、つべこべ言わずにサッサと味見しなさい」

 美羽はそう言うと、切り分けたパイを強引に拓斗の口の中へ押し込む。
 すると、咀嚼する間もなく拓斗は苦悶の表情に変わった。まるで毒でも盛られたかのように口を手で押さえたまま、苦しむ。それは強引に口の中へ押し込まれたからではなく、そのなんとも形容し難い独特の味に。美羽の手前、吐き出す事もできない拓斗は、極力味わないよう噛まずに飲み込んだ。

「……こ、こんな事を続けていたら、お、俺は死んでしまう……まだ彼女もできてないのに、姉ちゃんに殺される」

 拓斗は床に寝転がったまま、生命の危機を感じていた。
 そんな拓斗を後目に、美羽の方は実験に失敗した科学者のように冷静に分析を始める。

「やっぱり、リンゴを入れなかったのが原因かしら? それとも——」

「美羽、何で急にお菓子なんて作ってるのよ?」

 その様子を見かねた葵が美羽に問いかける。

「……悔しかったからよ」

 美羽は昨日と今日の出来事を思い出すように、その表情に悔しさを滲ませた。


 ***


「なるほどね、これで美羽が突然料理を始めた理由がわかったわ」

 テーブルを挟み、向かい合うようにして座った美羽と葵。
 美羽がこれまでの顛末てんまつを話すと、葵は合点がいったように頷く。
 ちなみに拓斗は、願ってもないチャンスとばかりに一目散に自室まで退散した。

「ねぇ、お母さん、私にお菓子の作り方を教えてよ。勝負まで一週間もないのに、この状態じゃ勝てないもの」

 美羽のお願いに、葵は少し困ったよう表情を浮かべる。

「うーん、そうしたいのはやまやまなんだけど、お菓子はそこまで得意じゃないのよね……やっぱり、陸くんに教わるのが一番じゃない?」

「……陸に、私が? そんなの無理よ」

「どうして? 彼氏なんでしょ? それに陸くんなら喜んで教えてくれるんじゃないかしら」

「それはそうだけれども、私にもプライ——」

 美羽はそこまで言いかけて、言葉を呑み込む。
 このままひとりで練習を続けるより、陸に教えてもらえれば効率的ではないかと美羽は思い始めていた。それに、愛莉に負けてしまう事を思えば、陸にお願いした方が数倍良い、とも。
 この日、美羽は胸の中で陸に料理を教えてほしいと、お願いする事を決意するのだった。

 (続く)


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