コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜
日時: 2017/02/18 17:23
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=34896

 
 初めまして、ゴマ猫です。

 以前からやってみたいと思っていたのと、文章力を上げるためにも短編集を今回やってみる事にしました。
 気まぐれに書こうと思ってるので、更新は基本的に不定期です。シェフの気まぐれサラダ的なやつです。はい。
 ライトな話から、少々シリアスな話まで、色々な物語を書けたらなと思っています。読んで頂いて、少しでも面白かったと思ってもらえたら嬉しいです。


 参照が8000を超えました!
 読んでくださった皆様ありがとうございます!


 以下は、自分が書いた作品です。短編集を見て「この人の違う作品も見てみたい」と思ってくださった、心優しい読者様は是非どうぞ。リンクをTOPページと1ページ目に貼りつけておきます。

 【日々の小さな幸せの見つけ方】
 こちらで初めて書いた小説です。騒がしくも穏やかな、日々を描いた作品です。文章が結構拙いかもしれません。完結作品です。

 【俺と羊と彼女の3ヶ月】
 2作目です。可愛いけど怖い羊が出てきて、記憶を消されないため、主人公が奔走します。完結作品です。
 この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!

 【ユキノココロ】
 3作目です。高校2年生の冬、清川準一はひとりの不思議な少女と出会う。主人公達の過去と現在の想いを描いた作品です。完結作品です。



 【お客様】

 スルメイカ様 

 記念すべき一人目のお客様。続きが気になると言ってくださった優しいお客様です。

 朔良様

 綺麗で繊細な描写をされる作者様です。とくに乙女の『萌え』のツボを知ってらっしゃるので、朔良様の作品を好きな読者様も多いです。かくいうゴマ猫もその一人ですね。

 はるた様

 爽やかな青春ラブコメを書かれる作者様です。甘酸っぱい成分が不足しがちな読者様は、はるた様の作品へどうぞ。言葉遣いなど、とても丁寧な作者様です。

 八田きいち。様

 さまざまな小説を書かれる多才な作者様です。いつも着眼点が面白く、続きが楽しみになるような作品を書かれています。

 峰川紗悠様

 長編ラブストーリーが得意な作者様。
 更新も早く、一話一話が短めなので長編と言っても読みやすいですよ。

  覇蘢様

 ゴマ猫の中では甘いラブストーリーを書く作者様で定着しております。いつも読んでいる人を惹きつけるようなお話を書く作者様です。

 コーラマスター様

 コメディが得意な作者様。ゴマ猫の個人的な意見ですが、コメライでコメディ色を全面に出している作品、またそれを書く作者様は少ないです。おもわず笑ってしまうような物語を書かれています。

 澪様

 丁寧な描写で読みやすく、物語の引きが上手で続きが気になるような作品を書かれてる作者様。その文章のセンスに注目です。

 せいや様

 ストーリー構成が上手い作者様。
 ゴマ猫の個人的な感想ですが、どこかノスタルジックな印象を受けます。物語のテンポも良いので、一気に読み進める事が出来ますよ。

 佐渡 林檎様

 複雑・ファジー板の方で活動されている作者様です。
 短篇集を書かれているのですが、読み手を一気に惹き込むような、秀逸な作品が多いです。気になるお客様は是非どうぞ。

 橘ゆづ様

 独特な世界観を持つ作者様です。
 普段はふわふわとした印象の作者様なのですが、小説ではダークな作品が多く、思わず考えさせられるような作品を書かれています。

 狐様

 ファンタジーがお好きな作者様。
 複雑ファジー板の方でご活躍されているのですが、ストーリー、設定、伏線、描写、全てにおいて作りこまれており、気付いた時には、いつの間にか惹き込まれている。そんな作品を書かれています。

 村雨様

 コメライで活躍されている作者様。
 バランスの良い描写と、テンポの良さでどんどんと読み進められます。今書いていらっしゃる長編小説は思わずクスッと笑ってしまうような、そんな面白いコメディを書かれています。

 ハタリ様

 遅筆気味なゴマ猫の小説を読んで頂いて、また書いてほしいと言って下さったお優しいお客様です。

 こん様

 多彩に短編を書き分ける作者様。
 読みやすい文章と、心理描写が上手です。

 亜咲りん様

 複雑ファジー板の方でご活躍されている作者様。
 高いレベルの文章力とダークな世界観をお持ちで、読みごたえのある小説を書かれています。読めば物語に惹き込まれる事は必至です。


 【リクエスト作品】

 応募用紙>>80(現在募集中)

 【朔良さんからのリクエスト】
 彼女と彼の恋人事情
 >>87-91 >>96 >>99-104

 【佐渡 林檎さんからのリクエスト】
 無題〜あの日の想い〜
 >>127-129 >>132-140 >>143 >>146-147 >>154




 【短編集目次】

 聖なる夜の偶然
 >>1

 とある男子高生の日常
 >>2-3 >>6 >>9 >>14-15

 私と猫の入れ替わり
 >>18-19 >>22-28

 魔法のパン
 >>29-30 >>34 >>37-38 >>41
 >>44 >>47 >>50-51

 時計台の夢
 >>54-66 >>69-71
 (この物語はシリアスな展開を含みますので、読む際はご注意下さい。読みやすくするためリメイク予定です)

 とある男子高校生の日常NEXT
 >>72-75 >>78-79
 (この物語は前作の番外編となっております。前作の、とある男子高校生の日常を見ないと話が繋がりません)

 雪解けトリュフ
 >>162-163

 クローゼットに魔物は居ない
 >>167-169 >>174-178 >>179
 (この物語はシリアス展開を含みます。苦手な方はご注意下さい)

 【SS小説】

 想いの終わり
 >>166

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Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.171 )
日時: 2016/12/10 00:22
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 9igayva7)

 >>170 銀竹さん

 こんばんは、ご無沙汰しています。銀竹さんお元気でしたでしょうか?
 もちろん覚えていますとも! ゴマ猫の長い小説を読んで頂いて、丁寧な感想まで書いて頂いた銀竹さんを忘れる訳ないです。
 雑談板でもお世話になりました。今、向こうは休業中といった感じですが。お返事など滞ったままですいません(汗)

 長文で感想頂いて、しかも過分に褒めて頂いてかなり感激しています!
 ありがとうございます! 文章力とか表現力は自分ではイマイチ分からないところなので、そう言って頂けると自信になります。そしてニヤニヤしながらモチベーションも上がっています!
 普段は似たようなジャンルになりがちなので、こっちの短編集では少し冒険してみるスタイルでいつも書いています。
 子供の頃って、そういう話を見たり聞いたりすると妙に怖いんですよね。あるはずのないもの、居るはずのないもの。そんな思い込みが、漠然とした恐怖になると言いますか。
 望の母親の夏乃は、性格がヒステリック気味でして。両親の仲は正直あまり良くありません。望も夏乃がイライラしている時は黙っている方が良いと本能的に分かってるので、口ごたえもしなかったり。気は弱いんですが頭の良い子なんです。
 雪花に対しては純粋に「守ってあげたい!」っていう気持ちが出てますね。だから、帰るのも実は気が進まない。……と、ちょっと喋り過ぎですね(゜_゜>)

 ファンタジーの大先輩である銀竹さんにそう言って頂けると嬉しいです! と言っても、銀竹さんのような本格派ファンタジーではなく、今回の物語は少し不思議なサスペンスといった感じでしょうか。
 登場人物が短編にしては多いので、三人称で基本的には望視点で進んでいきます。今回は心理描写が詳しく書けないので、望の子供らしさが伝わっているようでホッと胸を撫で下ろしていたりしてます。
 なんかあれですね、銀竹さんの予想が少し近いところもあるので、銀竹さんエスパーなんじゃ!? と、内心ヒヤヒヤしました(笑)
 いえいえ! なんかお話がもう一本書けそうです。さすが銀竹さん!
 ネタバレになるので書けませんが、最後まで読んで頂いて少しでも面白かったなと思ってもらえるように、頑張って書き上げたいと思います!

 えっ、そんなスレで紹介して頂けるなんていいのですか!?
 ゴマ猫としては嬉しい限りなので、銀竹さんの負担にならないのであれば是非お願いしたいです!!

 読んで頂いて、丁寧にコメントまで。さらには紹介までして頂けるなんて……。やっぱり銀竹さんは女神様です! ありがとうございます、更新頑張ります!

Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.172 )
日時: 2016/12/10 12:40
名前: 亜咲 りん ◆1zvsspphqY (ID: KwETyrai)

 
 こんにちは、パン職人さん。いつもお世話になっております。お世話になりすぎていつか感想を置きに行きたい……!と思っていたのですが思っていたよりも時間がかかってしまいました。お許しください(土下座)

 お気に入りの作品の感想を書かせていただきます。

「とある男子高校生の日常」
 好きです。一目惚れです。
 私にはこういったギャグ要素が入った明るいお話が書けないので、逆にかなり好みだったりします。あと、主人公が実はイケメン、という設定は大好物です。ご飯3杯はいけちゃいますね。冗談です。
 湊ちゃんも小悪魔というか猫というか。……上手い(設定が)。
 しかしnextの方で、湊ちゃんが嫌いになってしまいました。妹ちゃんの今後が気になりますね。

「時計台の夢」
 この天然タラシがぁ! と言いたくなりましたね。
 シリアスなのに、このほのぼの感というかなんというか。恋愛に繋げる手法には感服しました。市長が黒幕とは……
 舞台は現代のようですが、なぜか中世っぽいな、と思いました。時計を直す、という仕事が今ではそんなにメジャーではないからかもしれませんね。

「無題〜あの日の想い〜」
 どうしてゴマ猫さんはそんなにイケメンを書くのが上手いんですか! 惚れてまうやろ、と叫びたくなりました。
 リアルタイムで起こったこと、ではなくそれを友人と後輩に話す……斬新で、面白さを引き立てていると思いました。
 氷堂最低ですね。殺してやりたい。あんな可愛い水原ちゃんではなく、他のやつを選ぶなんて……! 次元を飛び越えて首を絞めてやりたいです。




 私は普段あまりコメライに来ないのですが、色々な作品があって賑わっていますね。恋愛ものを書ける人はすごいと思います。
 文章がとても読みやすくて、驚きました。読んでいてつっかえを感じることもなく、時々きゅんっ、時々ずごーん、みたいな。笑 メリハリが良いと思いました。心理描写、うますぎてさすがですね。
 完結作品も多くて、途中で投げ出してしまう私とは違って素晴らしいな、とも思いました。一つの作品を長く続けるのは本当に難しいことなので、尊敬します(真顔)
 素晴らしい短編集なのでリクエストしようかな……と思い、ストーリーを考えてみたのですが、何を考えてもシリアスになってしまうので、やめておきます。いつか、テンション上げてリクエストしに行きますので待っていてください!笑

 それでは、これからも読者をきゅんきゅんさせてください!お願いします(土下座)
 

Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.173 )
日時: 2016/12/11 21:25
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: ftBbV6FU)

 >>172 亜咲 りんさん

 こんばんは、こちらでは初めましてですね。パン職人(笑)
 いえいえ、いつもお世話になっているのはゴマ猫の方です。もう全然です! 本当に気が向いて、暇だし読んでコメントしてもいいかなくらいで十分嬉しいですから、そんな畏まらないで下さい!

「とある男子高校生の日常」

 わあぁ、ありがとうございます!
 思いっきりコメディっぽくしよう! と、この時書けるコメディ要素を詰め込んだので、短編の中でもかなり明るい話になってます。
 りんさんがこの話が好みだったのはちょっと意外でした。いつも世界観がダークというかシリアスな物語を書かれているので。
 湊はあれですね、自由な人なので面白い事があったら飛びつきます。
 場を乱して誠を困らせるっていうお話になったせいか、メインキャラなのに妹の葉月の方が人気でした(笑)
 このお話しは反響が結構あったので、続編というか番外編を書かせてもらったのですが、さらなる続編はストーリーがだれそうな気がするので、今のところは書かないと思います。すいません!

「時計台の夢」

 ありがとうございます!
 これはですね、ちょっと自分の中では納得いってない作品でもあります。普段より設定を事細かに作って、かなり気合を入れて書いたんですが、上手い事設定を活かしきれず、オチも結構強引になってしまいました。消化不良な作品なので、いつかリメイクしようと思ってます(汗)
 凄く簡潔に纏めちゃうと、いつでも幸せと黒幕は、すぐ近くにあったり居たりするものですよ〜という話ですね(おい)
 ですね、時計台がある公園という舞台を書きたかったので、ファンタジー要素が結構ありますね。いや悪魔が出てくる時点でファンタジーなんですが。

「無題〜あの日の想い〜」

 ありがとうございます〜! そんな事を言って頂けると、な、涙が……!
 これは佐渡さんから頂いたリクエスト作品ですね。展開の仕方がちょっと変わってますが、シナリオの勉強している時に思いつきました。(あとで調べてみたらそういう方法は実際にあるみたいです)
 現在は最初と最後だけで後は全部回想なので、読んでる方が混乱しないように気をつかいました。
 氷堂くんはあそこだけ見ると最低過ぎて、目も当てられないんですが、実は何であんな性格になったかもちゃんと理由がありまして。設定はちゃんと考えてたので、いつか番外編を書くかも……です(遠い目)

 もっと綺麗な恋愛描写を書かれる方をゴマ猫は知ってますので、自分的には全然まだまだなんですが、そう言って頂けるだけで嬉しいです。ありがとうございます!
 あ、ありがとうございます! そ、そんなに褒めて頂いてもゴマ猫にはパンくらいしか出せませんよ。いいんですか?(動揺)
 本当に続ける事は難しいですよね。人間ですから波がありますし、書けない時もありますからね。ゴマ猫も完結させる事が出来る人は尊敬します。
 はい。気が向いたらで全然大丈夫なので、シリアスでもなんでも気軽にリクエストして下さいませ〜。拙いながら頑張って書かせて頂きます!
 はい、きゅんきゅんさせます! ……すいません冗談です。調子に乗りました。
 読んで下さって、感想まで書いて頂いて本当にありがとうございます!
 今度はゴマ猫の方からりんさんの小説にコメントしに行きたいと思います! でも、感想下手なので期待はしないで下さい(汗)

クローゼットに魔物は居ない【4】 ( No.174 )
日時: 2016/12/15 21:23
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: lvVUcFlt)

「ん、構わないよ。この雨じゃ大変だろう。タオルと、必要なら着替えも貸してあげるといい」
「畏まりました」

 一孝が許可をすると、老婆は足早に小夜が待っている玄関へと向かった。

「こんな時に来るなんて、ついてない子だ」

 すっかり冷めてしまった珈琲に口をつけ、一孝はそう呟くように言う。
 一孝がそう思うのも無理はない。今は義隆夫妻と父の遺産の話で揉めているし、客人である小夜がどこから来たのか分からないが、この豪雨のせいで道路は寸断されてしまった。
 陸の孤島と化しているこの館で、果たして雨宿り程度で済むだろうか? 場合によっては泊まっていってもらうしかないが、復旧に時間が掛かってしまえば色々と問題も出てくる。食糧の備蓄もそこまで潤沢な訳ではない。そんな様々な思いを巡らせては、不安が尽きなかった。

「神よ、ご加護を」


 ***


「お客様、旦那様に許可を頂きましたので、こちらへどうぞ」
「ひ、ひゃい! ありがとうございます!」

 入口の照明を撮っていた時に、背後から話しかけられて小夜の身体がビクリと跳ねる。

「どうかされましたか?」
「いえいえ! どうもされません! いや、本当、ありがとうございます!」

 老婆が怪訝な表情で問い掛けると、小夜は焦ったようにカメラを仕舞った。
 別に写真を撮ってはいけないという訳ではないが、家主に黙って撮ってしまう事に小夜は少し罪悪感を抱いていた。

「夏とはいえ、そんなに濡れてしまっては冷えたでしょう。着替えを用意致しますので、どうぞこちらへ」
「あ、いえ、そんなお気遣いなく! 雨が止んだらすぐ帰りますので!」

 小夜の言動に怪訝な顔していた老婆だったが、それ以上特に追求する事はなく、何事もなかったかのように話を切り替えた。
 老婆の申し出に慌てたように小夜は断るが、老婆は眉をハの字にして小夜が知らぬであろう事実を言うべきか言わぬべきか一瞬だけ思案する。けれど、取り繕ったところで事実は変わらないという結論に至り、その重い口を開いた。

「大変申し上げ難いのですが、町に繋がる唯一の道路がこの豪雨で寸断されてしまいまして……」
「え、えぇぇぇ!? それ、ほ、本当ですか!?」
「はい。お客様がどこからどうやって来たのかは存じませぬが、復旧まで恐らく帰る事は難しいかと」

 老婆が事実を淡々と並べていくと、小夜はさすがに驚きを隠せないでいた。
 とりあえず家に連絡を取ろうと片掛けの鞄から携帯を出すが、その画面を見て小夜の顔がさらに強張る。

「ここって、圏外?」

 画面の端に表示されたバツ印。それはつまり、通話はおろか通信機器としての機能がこの場所では全滅しているという証拠だった。

「ここは少し特殊な場所でして……携帯など通信機器は使えないのです」
「えぇ? でも、今の時代に使えない場所なんて——」

 現代において余程の僻地や地下にでも行かない限り、電波が届かない場所などそうは無い。現にこの場所だって辺鄙な場所ではあるが、町まで物凄く離れているとも言い難い。そんな場所で携帯が使えないなど小夜には信じられなかった。

「申し訳ありません。もしかしたら、数日は我慢して頂く事になるかもしれませんので……」
「そんな、頭を上げて下さい! お婆さんが悪い訳じゃありませんし!」

 老婆が深々と頭を下げると、小夜は再び慌ててわたわたと胸の前で手を振る。小夜のその言葉で、ゆっくりと頭を上げる老婆。

「ありがとうございます。さぁ、あまり長話して風邪を引かれてしまっては大変です。どうぞ中へ」

 老婆に促されて館の中へと足を踏み入れる小夜。数歩ほど歩いてからピタリと老婆の足が止まる。

「それと……細かい事ではございますが、私の名前は紫苑と申しますので、以後お見知りおきを」
「……は、はい! よろしくお願いします!」

 振り返らずに自分の名前を言った老婆。紫苑は、さっき小夜がお婆さんと言ってしまった事が気に障ったのだろうか? そんな考えが頭を過り、紫苑の声音に小夜の背筋がピンと伸びる。咄嗟に出てしまったとはいえ、言葉には気を付けようと思った小夜だった。


 ***


 館の主である一孝に挨拶をした小夜は、タオルを借りてしっかりと体を拭いた。さすがに着替えはサイズが無かったので、少し緩いシャツとジーンズを借りる事に。
 自分の服が乾くまでの間、自由に散策してもらって構わないと一孝に言われたので、カメラ片手に屋敷内を歩きながらファインダーを覗き、気になった風景を切り取っていく。

「んん〜、良いね。こんな雰囲気の良い場所なんて滅多に見られないから最高。雨で帰れなくなったのはアレだけど、不幸中の幸いってやつかな」

 小夜は時々止まっては自分のポイントを見つけ、その都度シャッターを切る。鼻歌でも歌いそうなくらいご機嫌な様子で歩いていると、長い廊下に出た。ここまで見てきた場所とは違い、長い廊下に臙脂の絨毯が敷かれていて、この場所は他とは少し違う雰囲気が漂っている。

「……んん?」

 首を傾げながら小夜は視線を先に伸ばす。
 長い廊下、左側は窓が等間隔にあり、右側は扉がいくつかある。この扉の先はきっと部屋なのだろう。そう思いながら思考の羽を伸ばす。ここの主人である一孝とはさっき話したが、今日は小夜の他にも来客が来ていると言っていた。
 このまま浮かれて写真を撮っていたら迷惑を掛けてしまうかもしれない。小夜はそう思い、先程よりも声を抑えて長い廊下を進む。けれど、少し進んだ所で足を止める。

「やっぱり、部屋の中も撮りたいよね」

 そう呟きながらチラリと部屋の扉に視線を移す。写真が趣味な彼女は、部屋を見て写真を撮ってみたいという好奇心と、迷惑だろうという道徳心が胸の中で鬩ぎ合っていた。
 少しの逡巡の後、乱れた呼吸を落ち着かせるようにふぅっと息を吐く。

「……ん、ほんの少しなら大丈夫だよね」

 (続く)

クローゼットに魔物は居ない【5】 ( No.175 )
日時: 2016/12/23 22:13
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: oyEpE/ZS)

 扉に耳を付けて、人が居ないか確認してからゆっくりとノブを回して部屋の中へと入る。
 やっている事はまるで泥棒のようだが、別に何かを盗りにきた訳ではない。ほんの少し写真を撮るだけ。小夜はそう思い、開けた扉を音が出ないようにそっと後ろ手で閉めた。

「わぁぁ……やっぱり凄い」

 褪せた色の木製テーブル、所々朽ちている壁、時を刻む事を忘れた壁掛け時計、窓の外はまだ激しい雨が降っている。物という物がほとんど無い殺風景な部屋、こんな場所に魅力なんて普通なら感じないのかもしれない。だが小夜は違った。レンズを右へ左へと向けて忙しくファインダーを覗いてはシャッターを切っていく。

「いいね〜いいね。この部屋だけで無限に撮れそう——っと、わわっ」

 夢中になって撮っていると、足が床に出来た窪みにはまってしまった。バランスを崩してしまった小夜は、尻餅をつくような体勢で床に座り込む。

「い、たたた。はしゃぎ過ぎて周りが見えなくなるなんて迂闊。あ〜うん、でもカメラが無事で何より……ん?」

 自分の身よりカメラの無事を確認して安堵するが、床に不自然な窪みを見つけて顔をしかめる。空いている方の手で確認すると、小夜は一部分だけハメ込んだような跡を見つけた。

「なんだろ? ここだけ他の床と色が違う」

 胸の底からうずいてくるような好奇心に刺激され、カメラを置いて丹念に床を調べていくと、強く押し過ぎたのか腐っていた木が床下に落ちていった。そして現れたのは——

「な、なにこれ? 下に降りられるようになってるの?」

 床が抜けてぽっかりと開いた穴の下には闇に包まれた空間。
 錆びついて風化しそうなくらい錆びた鉄の梯子。この梯子の下は一階に繋がっているのだろうか? そんな事を思いながら、視線はそこから外せない。

「……時間、まだ大丈夫かな。本当に少しだけ、これ以上は何もしない! うん」

 まるで自分自身に言い聞かせるようにして、小夜はカメラを肩に掛けて下の階へと降りて行った。


 ***


「本当に電気も点かないのね。まるで遭難した気分よ」

 あれから数時間経った頃、辺りに夜の帳が落ちてきて部屋が暗くなってくると、どこからともなく紫苑がやってきて、古いランプに火を灯した。
 夏乃は電灯もつかない屋敷に激怒するが、どんなに紫苑に怒ったところで変わる事のない事実についに諦め、アンティークなソファに腰を掛けたまま愚痴るようにぼやく。

「そういえば、ここの屋敷は親父がまだ生きている時に古い知人から買い取ったと言っていたな。しかし、ここまでとはな……いやはや恐れ入るよ」

 窓辺に立ったまま顎鬚を触り、義隆は嘆息しながら呟く。
 雷は鳴り止んだが、外は激しい雨がいまだに降り続いている。

「…………」
「望、なんだかずっと元気がないようだが、大丈夫か?」

 心配そうに義隆が望に問い掛けると、望は返事をせずにコクリと頷いた。
 その様子を見て、義隆は柔らかい笑みを浮かべる。

「無理はするなよ。慣れない場所だ、今日はもう疲れたろう? 夕食の時間まで寝ていてもいいんだからな?」

 義隆はそう言いながら大きな手でグシャリと望の頭を撫でると、望はくすぐったそうにしながら表情を緩めた。

「う、うん」
「ダメよ、今から寝たら変な時間に起きちゃうでしょ。甘やかさないで」

 だが、夏乃が横から鋭い視線で釘を刺す。その声音に反応してビクッと望の肩が揺れた。

「なぁ、お前のやっている事は望を厳しく叱りつける事だけだ。それじゃあ、望が苦しいだけだろう」

 義隆の言葉が勘に障ったのか、夏乃の表情が一段と険しくなる。

「あなたは家の事をやるのがどれだけ大変か分かってないから、そんな事を言えるのよ。気楽なものね。全て終わった頃に帰ってきて、望が可哀想だなんだと言っていればいいのだから」
「お前こそ、そうやって毎回感情的になって、周りに当たり散らしていればいいのだから気楽なものだ」

 いがみ合う二人。二人の喧嘩は見慣れているはずの望も、今回は少し違う険悪な雰囲気が伝わってきてその表情が曇る。一触即発の雰囲気の中、部屋に控えめなノック音が響いた。

「お取込み中のところ失礼致します。お食事の準備が出来ました」

 紫苑が扉を遠慮がちに開けてそう言うと、怒りで熱が上がっていた義隆と夏乃は紫苑の方へと視線を向ける。水を差されたのか、熱が引いて二人はひとまず矛を収めた。

「どうなさいますか?」

 数秒の沈黙が続いたせいか、紫苑が再び義隆達に向かって問いかける。すると、義隆がゆっくりと口を開いた。

「あぁ、すまないね。ありがとう、頂くよ」
「…………ふんっ」


 ***


 夜の帳が落ち切ったダイニングルームは、昼間と雰囲気が少し違った。円卓のテーブルに昼間とは違う真っ白なシーツが掛けられ、その上にはアンティークな食器とシルバーが並ぶ。
 照明が蝋燭やランプしかないので、明度が足りない屋敷の中は薄暗い。

「申し訳ない。こんな事になってしまって」

 一孝が席に座ったまま目を伏せて義隆達に謝罪する。ぼんやりと照らす灯りの向こう側で、対照的な二人の顔があった。

「別にお前のせいではないだろう。仕方のない事だ」
「何を言っているの? 一孝さんがこんな辺鄙な場所で話そうなんて言わなければ、こうならなかった」

 仕方ないと言う義隆の隣で、夏乃は不機嫌さを隠そうともせずにそう吐き捨てる。義隆が眉根を寄せて窘めるように夏乃に視線で物を言うが、夏乃は悪い事を言ったとは思っていない様子で顔を背けた。

「いや、それについては弁解の余地すらないですよ。本来なら僕が出向けば良かったんだろうけど……」

 一孝が一旦そこで言葉を切ると、居心地が悪そうに座っていた望を見る。

「行けなかった理由もあってね。どうしても、僕がここを離れる訳にはいかなかった」

 望に意味深な視線を向けた後、そう言葉を続けた。

「それはお前の子に関係しているのか?」
「そうだね、あの子には僕が必要だ。それは僕の責任でもある」

 一孝の話を聞いていた夏乃が不快感を露わにする。

「冗談じゃないわ。一度決まった事を覆そうとして、挙句の果てには自分で貰った養子のせいで行けないですって? 笑わせないで」

 ここに来た始めこそ丁寧な口調だった夏乃だったが、度重なる怒りがピークに達したようで、今までにない棘がある口調に変わって一孝に突っかかってきた。

「本当に申し訳ない。……あぁ、そういえば紫苑」
「はい、旦那様」

 一孝が夏乃にそう言って頭を下げると、横に控えていた紫苑を呼ぶ。

「彼女はどうしたんだい? 夕食の時間だから呼んできてほしいのだけれど」
「既にお伝えしてあります。何やら体調が優れぬ様子でして、少し遅れていらっしゃると仰ってましたが」

 二人の会話に耳を傾けていた三人は三者三様の反応を見せる。
 その言葉に義隆は首を傾げ,夏乃は不信感を抱き、望は昼間に会った少女が頭に浮かんだ。

「お前の養子の事か?」

 義隆が一孝に疑問をぶつけると、一孝はフッと口元を緩ませた。

「いや、あの子は一緒に食事を取らないんだ。兄さん達には話してなかったけど、夕方に来たもう一人の客人の事だよ」
「こんな日に客だと?」
「…………」

 義隆が怪訝な表情で問い掛ける横で、望が少し落胆する。予期せずして泊まる事になったのだから、もう一度会えるかもと、そう思っていたのかもしれない。

「そんな事はどうでもいいわ。私はこれ以上あなたに付き合っていられない」

 夏乃がそう言って席を立とうとした時、ダイニングルームの入口から小柄な体躯の女性が入ってきた。

 (続く)


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