コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜
- 日時: 2017/02/18 17:23
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=34896
初めまして、ゴマ猫です。
以前からやってみたいと思っていたのと、文章力を上げるためにも短編集を今回やってみる事にしました。
気まぐれに書こうと思ってるので、更新は基本的に不定期です。シェフの気まぐれサラダ的なやつです。はい。
ライトな話から、少々シリアスな話まで、色々な物語を書けたらなと思っています。読んで頂いて、少しでも面白かったと思ってもらえたら嬉しいです。
参照が8000を超えました!
読んでくださった皆様ありがとうございます!
以下は、自分が書いた作品です。短編集を見て「この人の違う作品も見てみたい」と思ってくださった、心優しい読者様は是非どうぞ。リンクをTOPページと1ページ目に貼りつけておきます。
【日々の小さな幸せの見つけ方】
こちらで初めて書いた小説です。騒がしくも穏やかな、日々を描いた作品です。文章が結構拙いかもしれません。完結作品です。
【俺と羊と彼女の3ヶ月】
2作目です。可愛いけど怖い羊が出てきて、記憶を消されないため、主人公が奔走します。完結作品です。
この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!
【ユキノココロ】
3作目です。高校2年生の冬、清川準一はひとりの不思議な少女と出会う。主人公達の過去と現在の想いを描いた作品です。完結作品です。
【お客様】
スルメイカ様
記念すべき一人目のお客様。続きが気になると言ってくださった優しいお客様です。
朔良様
綺麗で繊細な描写をされる作者様です。とくに乙女の『萌え』のツボを知ってらっしゃるので、朔良様の作品を好きな読者様も多いです。かくいうゴマ猫もその一人ですね。
はるた様
爽やかな青春ラブコメを書かれる作者様です。甘酸っぱい成分が不足しがちな読者様は、はるた様の作品へどうぞ。言葉遣いなど、とても丁寧な作者様です。
八田きいち。様
さまざまな小説を書かれる多才な作者様です。いつも着眼点が面白く、続きが楽しみになるような作品を書かれています。
峰川紗悠様
長編ラブストーリーが得意な作者様。
更新も早く、一話一話が短めなので長編と言っても読みやすいですよ。
覇蘢様
ゴマ猫の中では甘いラブストーリーを書く作者様で定着しております。いつも読んでいる人を惹きつけるようなお話を書く作者様です。
コーラマスター様
コメディが得意な作者様。ゴマ猫の個人的な意見ですが、コメライでコメディ色を全面に出している作品、またそれを書く作者様は少ないです。おもわず笑ってしまうような物語を書かれています。
澪様
丁寧な描写で読みやすく、物語の引きが上手で続きが気になるような作品を書かれてる作者様。その文章のセンスに注目です。
せいや様
ストーリー構成が上手い作者様。
ゴマ猫の個人的な感想ですが、どこかノスタルジックな印象を受けます。物語のテンポも良いので、一気に読み進める事が出来ますよ。
佐渡 林檎様
複雑・ファジー板の方で活動されている作者様です。
短篇集を書かれているのですが、読み手を一気に惹き込むような、秀逸な作品が多いです。気になるお客様は是非どうぞ。
橘ゆづ様
独特な世界観を持つ作者様です。
普段はふわふわとした印象の作者様なのですが、小説ではダークな作品が多く、思わず考えさせられるような作品を書かれています。
狐様
ファンタジーがお好きな作者様。
複雑ファジー板の方でご活躍されているのですが、ストーリー、設定、伏線、描写、全てにおいて作りこまれており、気付いた時には、いつの間にか惹き込まれている。そんな作品を書かれています。
村雨様
コメライで活躍されている作者様。
バランスの良い描写と、テンポの良さでどんどんと読み進められます。今書いていらっしゃる長編小説は思わずクスッと笑ってしまうような、そんな面白いコメディを書かれています。
ハタリ様
遅筆気味なゴマ猫の小説を読んで頂いて、また書いてほしいと言って下さったお優しいお客様です。
こん様
多彩に短編を書き分ける作者様。
読みやすい文章と、心理描写が上手です。
亜咲りん様
複雑ファジー板の方でご活躍されている作者様。
高いレベルの文章力とダークな世界観をお持ちで、読みごたえのある小説を書かれています。読めば物語に惹き込まれる事は必至です。
【リクエスト作品】
応募用紙>>80(現在募集中)
【朔良さんからのリクエスト】
彼女と彼の恋人事情
>>87-91 >>96 >>99-104
【佐渡 林檎さんからのリクエスト】
無題〜あの日の想い〜
>>127-129 >>132-140 >>143 >>146-147 >>154
【短編集目次】
聖なる夜の偶然
>>1
とある男子高生の日常
>>2-3 >>6 >>9 >>14-15
私と猫の入れ替わり
>>18-19 >>22-28
魔法のパン
>>29-30 >>34 >>37-38 >>41
>>44 >>47 >>50-51
時計台の夢
>>54-66 >>69-71
(この物語はシリアスな展開を含みますので、読む際はご注意下さい。読みやすくするためリメイク予定です)
とある男子高校生の日常NEXT
>>72-75 >>78-79
(この物語は前作の番外編となっております。前作の、とある男子高校生の日常を見ないと話が繋がりません)
雪解けトリュフ
>>162-163
クローゼットに魔物は居ない
>>167-169 >>174-178 >>179
(この物語はシリアス展開を含みます。苦手な方はご注意下さい)
【SS小説】
想いの終わり
>>166
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- 魔法のパン【完】 ( No.51 )
- 日時: 2014/10/02 05:24
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: oc2mnTQ1)
「……そ、そ、それ、本当……?」
視線を少し逸らしながら、本当に頑張って絞り出した言葉。
ところどころつかえながら、そう問いかけるのが精いっぱいだった。自分にとって都合のいい夢でも見ているようで、まったくもって現実感がない。それでも、私の身体が、心が、頭が、夢じゃないと私に伝える。おかしくなりそうなくらい高鳴る鼓動を必死に抑えて、五十嵐くんに視線を戻す。
「冗談でこんな事は言わないよ。本当はもっと早く伝えたかったんだけど……青葉さんと話すきっかけが中々なくて。それに、もしかして相手にされないんじゃないかって思ったらさ」
五十嵐くんはそう言って、少し照れくさそうに笑いながら頬をかく。そんな事思ってくれてたんだ……嬉しい。もう何度も見た仕草のはずなのに、何度見てもドキドキしてしまう。私も五十嵐くんの事——
「……わ、私も……! 私も、五十嵐くんの事、好き……」
——素直に、飾り気のない言葉で紡いだ私の告白は、風に乗って夕暮れの空へと消えていった。
***
「香織さぁ〜、今度は私のためにあのパン作ってよ〜。ほらほら、サッカー部のあの3年の先輩いるじゃん? なんかこう、ビビッときたんだよね」
「ズルはだめだよ。それに、あの小麦粉は作るのは本人じゃなきゃダメなの」
晴れ渡った空は今日も広く、高い。朝の日差しを浴びながら、私はよっちゃんとそんな会話をしながら登校していた。——あの日から1週間が過ぎた。
あの日から五十嵐くんとは正式にお付き合いする事になって、充実した日々が続いている。あの翌日にはお爺さんからもらった薬草を使って山田くんを正気に戻す事もできて、一件落着……だったのだけれど、よっちゃんがあの小麦粉を使ったパンを私に作ってほしいと、ほぼ毎日のようにお願いされて少し困っている。
正直言うと、そんな方法で相手に好きになってもらっても嬉しくないと思うんだけどなぁ。それに、あのお爺さんの事だから自分から「ほしい」なんて言ったら、かなり高額の値段で買わされちゃうんじゃないかな。……うん、よっちゃんには釘を刺しておかなきゃ。
「とにかく、絶対ダメだからね? 私は許しません」
「ちぇっ、これだから彼氏持ちは……女の友情なんてそんなもんだよね」
よっちゃんは、少しふてくされたような口調でそんな事を言う。……うぅ、そんなつもりじゃないのに。
「青葉さーーん!」
ひときわ大きな声で私を呼ぶ声が聞こえてきて、その声の方へと視線をやると、そこには五十嵐くんが立っていた。校門の入り口に自転車を停めて爽やかな笑顔で私に手を振っている。もしかして待っててくれたのかな?
「ほらっ、旦那が呼んでるよ。早く行ってあげなよ」
「……で、でも」
よっちゃんに促されるが私は躊躇してしまう。さっきのふてくされる様子から見て、ここでよっちゃんを放置して五十嵐くんの所へ行ったらこじれるんじゃないかな。
そんな私を見てよっちゃんは肩をすくめながら、ため息をついた。
「ほらっ、せっかく五十嵐くんと付き合えたんだから行かないと。そうだなぁ……私には香織の普通の小麦粉で作ったパンを今度食べさせてくれたら許してあげる」
そう言って、よっちゃんは屈託のない笑顔を浮かべる。多分、私に気を遣わせないように言ってくれてるんだろうけど。こういうところ、やっぱり優しいなぁ。
そのお言葉に今回は甘える事にして、私は五十嵐くんのところへとやや駆け足で急ぐ。
「ご、ごめんね、五十嵐くん。おはよう」
「うん、おはよう青葉さん。よっちゃんさんはよかったの?」
「よっちゃんさんて……ふふっ。さんはいらないんだよ? 五十嵐くん。今度パン作るって事で納得してもらえたよ」
「そっか、俺も青葉さんのパン食べたいな。今度よかったら作ってくれない?」
「うん、もちろんだよ」
私にとって、五十嵐くんと付き合うきっかけになったのがあのパンだった。
あの出会いがなければ、今こうして五十嵐くんの隣りを歩く事はなかったかもしれない。
あの小麦粉に恋の効果があってもなくてもそれは変わらない。色々な事があったけれど、そのきっかけをくれた事に私は感謝している。だからきっと——
「青葉さん?」
「あっ、ごめんね。ぼーっとしてて」
私にとって、あの小麦粉で作ったパンは恋を叶える魔法のパンなんだ。
〜END〜
- Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.52 )
- 日時: 2014/10/07 06:28
- 名前: はるた (ID: XgYduqEk)
お久しぶりです、はるたです。
魔法のパン、読ませてもらいました。
すごい小麦粉でしたね。そんな小麦粉が存在したら、嬉しいような怖いような……と考えながら読んでいました。
パンを作っている描写から、ゴマ猫ちゃんが趣味だと言っていたのがよく分かりました。読んでいるとお腹から「ぐぅぅ」と変な音が……。
はい、やっぱり今回も圭くんかっこよかったですね。困っているときに颯爽と現れる、言わばヒーローですね。
それと、はるた的に圭くんの「青葉さん」呼びが好みです。下の名前で呼んでいるのに、近すぎず遠すぎず、といった感じで不思議と和んでしまいます。
二人が結ばれてくれて、とっても嬉しかったです。
次回更新の作品のタイトルも面白そうで楽しみです。
更新、頑張ってください。
- Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.53 )
- 日時: 2014/10/07 23:51
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: k7pNoPCO)
はるたさん
こんばんは。いつもコメントありがとうございます。
実は、作中で出てきた『春よ恋』という小麦粉は実際にあるんですよね。北海道で作られている国産小麦粉で、できあがった時のもちもちした食感は最高です。もちろん、作中に出てくるような恋をさせてしまう効果はありませんが、とっても美味しくできるのでおススメですよ。
はい、ゴマ猫の小麦粉話は長くなるので置いときます。
そうですね、本当はもう少し趣味要素を詰め込みたかったんですが、読んでいただいてる読者様はつまらないんじゃないかと思い、大幅カットしました。それでも、はるたさんのお腹を鳴らせられたのならゴマ猫は満足です(えっ?)
今回はできる男子をイメージしてみました。あんまりスマートにやり過ぎると、慣れてるんじゃないか? と思われそうで、加減が難しかったですね。ゴマ猫はあーいうシーンと距離感が好きなもので……多分、ゴマ猫の作品はあんな感じのが多いかもです。少しでも気に入っていただけたら嬉しいです(^.^)
次回のお話は多分、今週中くらいには一話をアップできそうです。また読んで少しでも面白かったと言ってもらえるような話になればと思います。ありがとうございます。更新、頑張りますね。
- 時計台の夢【1】 ( No.54 )
- 日時: 2015/02/25 00:09
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: mJV9X4jr)
——穏やかな朝の日差しが窓から降り注ぐように差し込み、瞼を刺激する。重たい瞼を開けると、昨日の夜から開け放していた窓から、この時期特有の涼やかな秋風が吹き込んでベットの上にある白色のカーテンをバタバタと揺らしていた。枕元に置いてあった時計で現在の時刻を確認する。
まだ少し約束の時刻までは早いけど、起きてしまって準備した方が良さそうだ。眠気が残る体に喝を入れて起き上がると、僕はゆっくりとクローゼットへ向かって歩き出した。
***
「透さん、おはようございます。今日は早いんですね」
一通りの準備を終えて、自宅兼自室である二階から一階のお店へと降りてくると、長く綺麗な黒髪を後ろで一つに纏め、全体的に可愛らしい印象の女性が僕に顔を向けて挨拶をしてくる。彼女の名前は、桜井 杏璃(さくらい あんり)うちのお店である『クロック』で一年前から住み込みで働いてくれている従業員だ。
その名の通り、うちのお店は時計店を営んでいる。と言っても、有名な訳でもなく、なかば僕の趣味のような感覚で開いている感じだ。当然、経営は苦しく、杏璃にたいしても満足のいく給料も払えてないのが現状。しかし彼女はここへの住み込みを条件に、ほぼボランティアに近い給料で働いてくれている。
一応、誤解のないように言っておくと、僕と杏璃は付き合っている訳ではない。当然、部屋も別だ。深くは知らないけれど、杏璃の家の事情で杏璃は家には帰れないらしい。むやみに詮索しないのは、杏璃にはいつも助けられているし、僕自身、人のプライベートにズカズカと土足で上がりこむような真似はしたくないからで、杏璃が自ら話すまでは触れない事にしている。少し話が逸れてしまったけど、そういった理由で杏璃には本当に感謝してもしきれない。
「昨日の夜に市長から呼び出しを受けてね。なんでも、僕に大事な話があるんだとか」
僕がそう言うと、杏璃は目を丸くして驚いたような表情に変わった。 小柄な体格な杏璃は、綺麗というより可愛い顔立ちも相まって、僕には時たま小動物のように見える時がある。今の表情がまさにそれだ。明後日で二十五回目の誕生日を迎える僕とは、一つしか変わらないはずなのに、随分と幼く見えるのは童顔というやつなのだろうか。ちなみに杏璃は年下だ。
「では、もしかしたら大きなお仕事をくれるのかもしれませんね」
「どうかな……そうだったら嬉しいんだけど。じゃあ、店番は任せたよ。修理の依頼がきたら僕が後でやるからメモしておいて」
僕は杏璃に溜め息混じりにそう言って、開店前の静まり返った店の木製のドアを開けて足早に家を出た。
***
綺麗に舗装されたアスファルトをひとり歩いていく。まだ少し朝早いせいか、人通りが少なくて歩きやすい。クロックから真っ直ぐ一本道のこの道は、駅に行くまでの道としてはここを通るのが一番近く、大通りのため、あと一時間もすればここは通勤、通学をする人で混雑するだろう。
僕が住む緑葉市は、市長の政策で市内の緑化運動が進められており、街のいたる所に緑がある。その中でも中央公園と呼ばれる、市の中心部にある公園は市長がとくに力を入れているらしい。いつだかの新聞のコラムにそんな事が書いてあった。
「……さて、市長が僕に大事な話なんて、一体どんな話やら」
考え事をしながら辿り着いた先は、緑葉市役所。三階建ての鉄筋コンクリートで造られた灰色の建物は、どこか威圧感があり、別に意味はなくても緊張してしまう。ましてや、今回はこれから市長と会うっていうのだから尚更だ。僕は軽く深呼吸してから、市役所の入り口である自動ドアをくぐった。
(続く)
- 時計台の夢【2】 ( No.55 )
- 日時: 2014/10/12 15:07
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: en4NGxwI)
受付で今日の午前中に市長と面会する事を伝え、対応してくれた強面な受付のお兄さんに案内されながら厳重な警備の中を通り、辿り着いた先は市長の居る三階の部屋。
少し物々しいかもしれないが、最近は変な輩も増えてきているため、仕方のない処置といえるだろう。それに本来ならば、一般人である僕が市長に面会など相当の理由でもないかぎりあり得ない事なのだ。僕の案内役である強面のお兄さんが、静かに扉をノックする。
——トントン
「市長、水島様をお連れしました」
「うむ、入りたまえ」
扉の奥から少し低音の声が僕の耳に響く。
市長との面会を目前にして、さらに緊張してきてしまった。その証拠に僕の手の平にじっとりとした汗が滲み出てきている。市長の声に、強面のお兄さんが木製の扉をゆっくりと開けた。
「失礼します」
扉を開けて目に飛び込んできた室内は、赤色に金の刺繍のカーペット、その中央にはこげ茶色の革張りソファー、部屋の両脇には背の高い本棚があり、棚の中には小難しそうなタイトルが書かれている本が並ぶ。一番奥は外の景色を一望できるほど大きな窓があり、その窓を背にして、豪華な装飾が施された机と椅子があった。この部屋を見た瞬間、市民の税金をこんな形で使っていいのかという疑問が浮かんでくる。
「やぁ、君が水島君か。ふむ……噂通り、真面目そうな好青年だ」
扉の前で出迎えてくれた、紺色のスーツに身を包んだ恰幅のいい中年男性が、僕を頭の先から足の先までジロジロと値踏みでもするかのような視線を向けてくる。
初対面だというのにこんな失礼な事はないが、この中年男性こそ緑葉市の市長だ。
名前は、黒田 成光(くろだ なりみつ)今回、僕を呼び出した張本人でもある。何を言おうか迷っている僕に、市長はジェスチャーでソファーに座るように促した。ふかふかのソファーにゆっくりと腰を下ろす。僕を案内してくれた強面のお兄さんは、扉の前で一礼すると出ていき、市長と二人だけになった。
「はじめましてだね。まぁ説明するまでもないとは思うが、私はこの町の市長をやらせてもらっている、黒田という者だ」
「はい、存じ上げています。僕は——」
「あぁ、構わんよ。一応、こっちで君のプロフィールは見させてもらっている」
自己紹介をしようと思い、話し出した途端、市長に言葉を制される。
最初に入ってきた時にも思ったけど、僕の名前を知っていて、なにより、昨日の夜の電話で連絡をもらった時点でどこかおかしい気はしていた。事前に僕に関しての下調べはついているという訳か。それがどういう意味なのかは今の段階ではわからないのだけれど。
「今日呼び出したのは、水島君にお願いがあってね」
「お願い……ですか?」
市長はなにか含んだような笑みを浮かべながらそう切り出す。
「そう、水島君は中央公園にある時計台を知っているかな?」
「はい、もちろんです」
僕がここに来る前に通ってきた道の近く、街の中心部に中央公園と呼ばれる大きな公園がある。その公園の中に昔からある時計台があるのだ。地元では有名な話で、ここに住んでいればあの時計台の事を知らない人は居ないだろう。それくらい有名なのだが、確か、もう随分と前から時計台の時計は止まったままだ。
「ふむ、なら話は早い。私はあの時計台の修理をしたいのだよ。実は前々からそのような方向で動いていたんだ。しかし、どんなに手を尽くしても修理をする事はできなかった……なぜだと思う?」
「特殊な部品を使っているとかでしょうか? もしくは、技術的な問題か、時計台の——」
「ストップだ。……理由は簡単、とても馬鹿げた話だが、あの時計台の時計は直せないからだ。もちろん、水島君が言うように特殊な部品や技術的な問題ではない」
市長はそこで言葉を切り、俯きながら小さく溜め息をつく。そして——
「あの時計台には悪魔が居る」
「……はぁ、それは一体どういう事でしょうか?」
市長の言葉があまりにも意外で困惑してしまう。僕自身、悪魔や幽霊など実在するはずのないものは信じていない。ましてや、わざわざ呼び出されて市長にそんな話を大真面目に話されても、正直からかわれているとしか思えない。それでも、市長は顔色一つ変えずに話を続けてくる。
「実にくだらん噂だよ。いつからだったか、あの時計台の修理を依頼した業者が悪夢を見るようになったという話が広まってね。それからというもの、他の業者も修理の依頼を受けてくれなくなったのだ。私としては、そんな非科学的なものは信じていないのだが」
市長はそう言いつつ、今度は眉根を寄せて苦笑いした。
正直言って、そんな噂話を僕は聞いた事がない。もちろん、同業者の間でもだ。これはどう考えても、根も葉もない噂話の域を出ないだろう。
「つまり、僕に時計台の時計の修理を依頼したい、という事でしょうか?」
「さすが、理解が早くて助かるよ。その通りだ。水島君なら引き受けてくるだろう? もちろん、報酬は弾むよ」
市長はそう言うと、近くにあった電卓を叩いて僕に報酬金額を提示してきた。
その金額は破格なもので、これならば杏璃にも満足のいく給料が払える。願ってもない条件に僕は了承する事にした。
「はい、お願い致します」
「うむ、そう言ってくれると思っていたよ。あぁそれと、材料費などが出た場合は、その都度申請してくれ。それから——」
その後、時計台を修理するにあたって、市長から色々な細かい説明を受けてから僕は部屋を後にした。
(続く)
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