コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜
- 日時: 2017/02/18 17:23
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=34896
初めまして、ゴマ猫です。
以前からやってみたいと思っていたのと、文章力を上げるためにも短編集を今回やってみる事にしました。
気まぐれに書こうと思ってるので、更新は基本的に不定期です。シェフの気まぐれサラダ的なやつです。はい。
ライトな話から、少々シリアスな話まで、色々な物語を書けたらなと思っています。読んで頂いて、少しでも面白かったと思ってもらえたら嬉しいです。
参照が8000を超えました!
読んでくださった皆様ありがとうございます!
以下は、自分が書いた作品です。短編集を見て「この人の違う作品も見てみたい」と思ってくださった、心優しい読者様は是非どうぞ。リンクをTOPページと1ページ目に貼りつけておきます。
【日々の小さな幸せの見つけ方】
こちらで初めて書いた小説です。騒がしくも穏やかな、日々を描いた作品です。文章が結構拙いかもしれません。完結作品です。
【俺と羊と彼女の3ヶ月】
2作目です。可愛いけど怖い羊が出てきて、記憶を消されないため、主人公が奔走します。完結作品です。
この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!
【ユキノココロ】
3作目です。高校2年生の冬、清川準一はひとりの不思議な少女と出会う。主人公達の過去と現在の想いを描いた作品です。完結作品です。
【お客様】
スルメイカ様
記念すべき一人目のお客様。続きが気になると言ってくださった優しいお客様です。
朔良様
綺麗で繊細な描写をされる作者様です。とくに乙女の『萌え』のツボを知ってらっしゃるので、朔良様の作品を好きな読者様も多いです。かくいうゴマ猫もその一人ですね。
はるた様
爽やかな青春ラブコメを書かれる作者様です。甘酸っぱい成分が不足しがちな読者様は、はるた様の作品へどうぞ。言葉遣いなど、とても丁寧な作者様です。
八田きいち。様
さまざまな小説を書かれる多才な作者様です。いつも着眼点が面白く、続きが楽しみになるような作品を書かれています。
峰川紗悠様
長編ラブストーリーが得意な作者様。
更新も早く、一話一話が短めなので長編と言っても読みやすいですよ。
覇蘢様
ゴマ猫の中では甘いラブストーリーを書く作者様で定着しております。いつも読んでいる人を惹きつけるようなお話を書く作者様です。
コーラマスター様
コメディが得意な作者様。ゴマ猫の個人的な意見ですが、コメライでコメディ色を全面に出している作品、またそれを書く作者様は少ないです。おもわず笑ってしまうような物語を書かれています。
澪様
丁寧な描写で読みやすく、物語の引きが上手で続きが気になるような作品を書かれてる作者様。その文章のセンスに注目です。
せいや様
ストーリー構成が上手い作者様。
ゴマ猫の個人的な感想ですが、どこかノスタルジックな印象を受けます。物語のテンポも良いので、一気に読み進める事が出来ますよ。
佐渡 林檎様
複雑・ファジー板の方で活動されている作者様です。
短篇集を書かれているのですが、読み手を一気に惹き込むような、秀逸な作品が多いです。気になるお客様は是非どうぞ。
橘ゆづ様
独特な世界観を持つ作者様です。
普段はふわふわとした印象の作者様なのですが、小説ではダークな作品が多く、思わず考えさせられるような作品を書かれています。
狐様
ファンタジーがお好きな作者様。
複雑ファジー板の方でご活躍されているのですが、ストーリー、設定、伏線、描写、全てにおいて作りこまれており、気付いた時には、いつの間にか惹き込まれている。そんな作品を書かれています。
村雨様
コメライで活躍されている作者様。
バランスの良い描写と、テンポの良さでどんどんと読み進められます。今書いていらっしゃる長編小説は思わずクスッと笑ってしまうような、そんな面白いコメディを書かれています。
ハタリ様
遅筆気味なゴマ猫の小説を読んで頂いて、また書いてほしいと言って下さったお優しいお客様です。
こん様
多彩に短編を書き分ける作者様。
読みやすい文章と、心理描写が上手です。
亜咲りん様
複雑ファジー板の方でご活躍されている作者様。
高いレベルの文章力とダークな世界観をお持ちで、読みごたえのある小説を書かれています。読めば物語に惹き込まれる事は必至です。
【リクエスト作品】
応募用紙>>80(現在募集中)
【朔良さんからのリクエスト】
彼女と彼の恋人事情
>>87-91 >>96 >>99-104
【佐渡 林檎さんからのリクエスト】
無題〜あの日の想い〜
>>127-129 >>132-140 >>143 >>146-147 >>154
【短編集目次】
聖なる夜の偶然
>>1
とある男子高生の日常
>>2-3 >>6 >>9 >>14-15
私と猫の入れ替わり
>>18-19 >>22-28
魔法のパン
>>29-30 >>34 >>37-38 >>41
>>44 >>47 >>50-51
時計台の夢
>>54-66 >>69-71
(この物語はシリアスな展開を含みますので、読む際はご注意下さい。読みやすくするためリメイク予定です)
とある男子高校生の日常NEXT
>>72-75 >>78-79
(この物語は前作の番外編となっております。前作の、とある男子高校生の日常を見ないと話が繋がりません)
雪解けトリュフ
>>162-163
クローゼットに魔物は居ない
>>167-169 >>174-178 >>179
(この物語はシリアス展開を含みます。苦手な方はご注意下さい)
【SS小説】
想いの終わり
>>166
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- 時計台の夢【13】 ( No.66 )
- 日時: 2015/01/31 16:43
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: y68rktPl)
「予知夢、ですか?」
「そうじゃ、多分お前さんは予知夢を見たんじゃ。それで、実際に助かったのはそのありがたーい御札のおかげっちゅう事じゃな」
翌日の午後、僕は地元でも有数な名家の家に呼ばれて来ていた。
——あの後、大垣は大量殺人犯として逮捕された。新聞でもテレビでもこぞって取り上げていて、大垣の話題を聞かない日はない。悪魔であり、人外の力を使う大垣だが、報道ではそのような内容を含んだものはなかった。当然と言えば当然なのだろう。予想であるけれど、大垣は力を使い果たしたのか、御札の効果かはわからないが、以前のような力は使えないみたいだ。なぜなら、使えているのならとっくに脱走しているはずだから。
しかし、また力を取り戻したらという恐怖もある。さておき、そんな非科学的な力の、映画や小説の世界に出てくるようなものは現実では信じられないというのが人間の本音だろう。それに、実際に目撃したのは僕と杏璃だけ。——そう言えば、市長も少し見ていたはずだけど、あれから連絡がないな。
さておき、証言したところで狂言になってしまう可能性が高い。話が逸れた。あの後、僕達は事情聴取を受けたあと、事件の話を聞いた時計台の関係者である……今僕の目の前に居るお爺さん(恩田さんというらしい)に話を聞きたいと言われ、お邪魔したのだ。
実際、僕も色々と聞きたい事もあったのでその申し出は幸運な事だった。図書館の本を漁っても大して出てこなかった情報。現在は小康状態であるとはいえ、今後の対策を練る為にも必要な事だ。
ちなみに杏璃は調べたい事があるらしく今日は別行動だ。故にクロックはお休み。開店休業状態の店を開けておくより、今はこちらが大事だ、っと、本当は僕自らこんな事を言っててはいけないのだろう。それに杏璃についててあげたかったけど、この話を聞く事で杏璃を後々守れる方法になるかもしれないとも思ったのもある。
「わしの、ひいひいひいひいひいひい爺さんが言っておった。大昔の話じゃが、あの時計台は悪魔を封印した場所であり、結界を張った場所でもあると」
「…………」
「つまり、あの中でなら悪魔の力は及ばないという訳じゃな」
一つ解せない事がある。
大垣に殺されたはずだったあれも予知夢だったんだろうか? だとしたら僕は予め予知していた事になるのだが、大垣も僕を殺したはずだと言っていたからそれは少しおかしい。
予知であるのに記憶を共有しているというのは聞いた事はない。それとも、それは僕の妄想だとでも言うのだろうか? もしくはまだ大垣には知られざる力があって、夢の中で殺したら現実でも殺した事になる、とか。もう一つ考えられるのはデジャブだけど……それもまた少し違う気もする。
「……少し気になる事があるんですが、あの時計台には他に不思議な事というか、話はありますか?」
僕の言葉に恩田さんは「うーむ」と、うなりながら考え込む。
少しの間黙考した後、思い出したという表情をした。
「そういえば、あの時計台は——」
***
「……時計台の時間を止めれば悪魔は力を出せなくなる」
恩田さんの家から自宅へと帰る途中ひとり呟く。
『時を止める事で悪魔の力を抑えている』僕はその恩田さんの言葉を聞いて力なく項垂れる。もし僕があの時計台を修理しなければ、こんな事にはならずに済んだかもしれない。
あの仕事を引き受けなければ、あの時殺された人達は無事だったかもしれない。後悔が寄せては返す波のように襲う。不意に吹き付ける風で木々がざわざわと揺れる。気が付けば辺りには夜の帳が落ちていた。
「……今からでも遅くない。時計台を止めに行かなくちゃ」
大垣が捕まった今、時計台を止めてしまえばもう何もできないはずだ。市長との約束は反故になってしまうけれど、そんな事より大事なものがある。これ以上、誰かを傷付ける訳にはいかない。鉛のように重くなった足でアスファルトを蹴り、中央公園へと急いだ。
***
まだ生々しく残る血痕と、立入禁止と書かれたその先へ僕は足を再び踏み入れる。そのまま時計台の裏手に回り、鍵を開けると一気に最上部へと駆け上がった。そこまで来て、しまったと思った。ここには夜間の設備がない。これだけ暗くなってしまうと、時計台の中は真っ暗だ。あいにくと今日はここに来る予定ではなかったためライトもない。
「……心もとないけど、止めるだけだから携帯の明かりで大丈夫か」
ごそごそとジーンズから携帯を取り出し、ライトを付ける。すると、ライトに照らされた部分から大きなシルエットが浮かび上がった。
ゆっくりそのシルエットの元を辿っていくと、そこには——
「ど、どうしてあなたが……」
(続く)
- Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.67 )
- 日時: 2015/02/01 15:08
- 名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: xCJXbGYW)
文章力向上のために、ぐだぐだしながら他作者様の作品を見てたら、
爽やかな感じの作品が目に入ったので、コメントしに来ました。
とりあえず、「魔法のパン」を読んだのでそれについて。
普段ラブストーリーとか嫉妬の対象なので、ほぼ読まないんですが、
この作品は爽やかすぎて忘れていました。
読んでいる間忘れていたので、読み終わって10分ぐらいしてから、
うわごとのように「リア充爆発しろ!」とPCの画面に向かって連呼しました。
下の階の家族は僕がついに狂ったと確信したことでしょう。
さっきまで聞こえていた家族団欒の声が止まり、気まずい空気に包まれたので間違いありません。
そんなことはさておき、描写がなんかこう綺麗で春の青空のような雰囲気でした。
主人公もパンは旨いという一人の男を落とすことも十分可能なスキルを持っていて、
五十嵐君が好きになるのも仕方ないと感じました。
キャラクターもひとりひとり立っていて、特にうさんくさい爺さんは好きです。
お母さんも良い人で主人公も良い家庭を持ったなーと思いました。
ただし五十嵐、テメーはダメだ。奴だけは末永く爆発すべきだと思います。
まあ、単なるイケメンへの嫉妬なので気にしないでください。
ふわっとしてとても面白い作品でした。
時間があったら他の作品も読んでみようと思います。
最後に、色々としょうもないことを書いたことお詫び致します。
ギャグ入れないと死んでしまう病を患っているのです。
- Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.68 )
- 日時: 2015/02/02 00:58
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Uj9lR0Ik)
コーラマスターさん
はじめまして、コメントありがとうございます。
こちらの短編では久しぶりのお客様で少々緊張しています。はい。
魔法のパンを読んで下さったのですね。
基本的に自分が書くストーリーは、ラブストーリーないしラブコメが多いのです。あまり得意ではないジャンルを読んでくださり、爽やかと言っていただけて嬉しいかぎりです。
多分、二次だからこそ成り立つ物語ではありますよね。リアルではそうそう五十嵐君のようなタイプは居ないのではとも思ってしまいます。
さておき、ご家族から奇異の視線で見始められたら注意が必要かもしれませんね。個人的にはそういうシチュエーションは楽しくて好きなのですが。(いや、コーラーマスターさんは楽しくないと思いますが)
ありがとうございます。
あのストーリーはやや情景描写を多めに入れたのと、初々しい感じもイメージとして書いていたので、それが伝わったのなら嬉しいです。
お爺さんキャラや、家族での話しも好きなので、サブキャラを気に入ってもらえるとはさらに嬉しいです。
メインの五十嵐君は好みが分かれるみたいですね。五十嵐君のような王子様キャラも良いですが、人間的な情緒溢れるタイプも好きですよ。
末永く爆発という表現も面白いですね(笑)
ありがとうございます。
お時間がある時にまた読んで頂けたら嬉しいです。
いえいえ、実はコーラーマスターさんのお名前は存じています。コメライで書いている作者様で長い方は目にする機会も多いので。
ご迷惑でなければ、そのうちそちらの小説にもお邪魔させていただけたらなと思っています。
おぉ、ギャグを入れないと死んでしまう病ですか。それは難儀な病ですね。必然的に書かれる小説がコメディの香りがします。くどいかもしれませんが、コメントありがとうございました!
- 時計台の夢【14】 ( No.69 )
- 日時: 2015/03/31 17:42
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
——携帯のライトに照らされて浮かび上がった顔は見知った顔。
紺色のスーツに身を包んだ恰幅のいい中年男性、そして僕にこの時計台の修理を依頼した張本人でもある緑葉市の市長、黒田成光だった。
「……どうして、ここに?」
僕が警戒しながら発した言葉を市長はつまらなさそうな表情で聞いていた。それはまるで興味津々だった玩具に飽きてしまったかのような子どもの目。もう既にいい大人である人にこの比喩は的確かわからないが、その例えがしっくりきた。
「あぁ、君には失望させられたよ。あと少しで私の理想が実現できたというのに」
「理想? 一体何の話ですか?」
市長は心底呆れたと言わんばかりに嘆息混じりでそう言う。理解できない言語を聞いているようで、頭の中に疑問符が浮かぶ。
どうして市長がこんな時間に、ここに居るのかわからないし、夢とは何の事を言っているんだ? ……わからない? いや待て、待て待て。
頭の中に嫌な考えが浮かぶ。大垣が捕まってから一日しか経ってないこのタイミングで、この時間に市長が時計台に居るなんて、ちょっと出来過ぎではないだろうか。ずっと探していたパズルのピースが揃うように、僕が考えた事が正しければ最後のピースで説明できてしまう。この事件の元凶は身近にあって、それに気付かずに僕はずっと振り回されていた。台本の通り、舞台の上で動く役者のように、僕はずっと手の平の上で踊らされていたんじゃないだろうか。
僕の表情が変わっていくのを見てか、市長が静かに笑い出す。その笑いは、暗い井戸の底から聞こえてくるような悪意に満ちたものだった。
「ふふふっ……あはははっ! やはり君は聡明だよ、水島君。今置かれている状況を瞬時に判断して答えを導きだす。まったくもって、素晴らしい」
「…………理由はなんですか?」
そう問いかけると、市長は顎を撫でてその暗い瞳で僕を見つめる。
「民衆をまとめるにはどうしたらいいと思うかね?」
「……何の話ですか?」
「例えばだ。凶悪な犯人が居たとしよう。そいつは残虐非道をくり返し、周りの人々を恐怖に陥れる。必然的に周囲はそいつを排除しようという気持ちになる」
「だから、一体何の話ですか?」
市長の話の意図がわからずにイライラしてくる。いや、それもあるけれど、さっきから嫌な予感が消えない。だからこんなにも胸がざわつくのかもしれない。僕の苛立った声を聞いて市長は「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめる。
「何事も順序というものがある。そう焦る事もないだろう。……さて、話の続きだが、そいつを排除するために皆一致団結するのだ。つまりこれがどういう事かと言うと——」
市長はそこで言葉を切り、一呼吸置く。そして——
「何事も明確な敵を作る事で、民衆はまとまる。そして、それは今回の事も例外ではない。悪魔という敵を作る事で、民衆をまとめ、そしてその問題を解決した私の地位は揺るぎ無いものとなる。一つ誤算があったとすれば、それは君だ。君が素直に殺されているか、もう少し馬鹿であれば上手くいったものを」
嫌な予感は的中した。当たってほしくなかった。
全ては最初から仕組まれていた事。後悔、憎悪、困惑、様々な感情が混じって、まるで泥の海に心が囚われてしまったかのような感覚、それは深く、どこまでも落ちていく底無しの沼のように。……本当に最低な気分だ。
「だが、案ずる事はない。君はここで永遠の眠りにつける。尊い犠牲をだした痛ましい事件だった、と片付けられるだろうがね」
「……ふざけるな、ふざけるな! お前の勝手で一体どれだけの犠牲がでてると思っているんだ!」
そう途中まで言って、僕は黒田に向かい突進していた。
大垣のように悪魔が相手では無理でも、普通の人間であるなら取り押さえるくらいはできるはずだ。そう思っていたが、黒田は軽業師のごとく僕の突進を難なくかわすと、さらに鋭利な物で切り付けられて僕の右太腿に激痛が走った。
視線を太腿にやるとジーンズは綺麗に真一文字の切れ目が入っており、露出した肌からは大量の血が滲み出ていた。
「私になら勝てるとでも思ったのかい? 残念ながらそれは間違いだ。私は正真正銘人間だが、君にやすやす捕まえられるほど甘くはない」
そう言って、黒田は口角を上げてニヤリと笑った。……本当に最低な気分だ。それでも、黒田を止めれば今度こそ本当に終わる。
覚悟ができたのかもしれない。床に落ちている壊れた鉄製のパイプを拾い上げ、黒田と対峙する。黒田がどんなに武芸に優れようと、どんなに困難な状況だとしても、僕には黒田を止める責任がある。知らなかったとはいえ時計台を動かしてしまったのだから。
「……ふっ!」
リーチのある鉄パイプで横に薙ぎ払うも、黒田は地面スレスレまで身を屈めてそれをかわした。かわされた反動で僕に隙ができるのを黒田が見逃すはずもなく、暗くて細部まではよく見えないが、小型のナイフのような物で僕の左腕を切り付けてくる。今見えている姿はうっすらとだ。暗さに目が慣れてきたとはいえ、速い動きにまでは対応できない。
「ぐうぅっ!」
そして遅れて左腕に走る激痛。思わずパイプを落として利き手である右手で傷口を押さえると、まだ生温かさが残った自分の血液が手の平に絡みつく。
あまり悠長にしていると、出血多量で死んでしまうかもしれない。それにしても、あの体型でなぜあんなにも軽やかに動けるんだ。いくら僕が場慣れしていないとは言え、圧倒されているのは間違いない。何か手はないのか?
「残念だが水島くん、チェックメイトだ」
「————くっ!?」
黒田が切りかかってきた瞬間、咄嗟に身体を丸めて床に転がる。
格好はあまり良くないが、それでも回避して生存率をあげるためなら気にしない。僕が求めているのは犬死にではなく相打ち。もちろん、生き残る事にこしたことはないが、このままではそれはかなり厳しい。
「よくかわしたと言いたいが、無様だな。風前の灯とはこの事だ」
「……はっ……はっ、何とでも言え」
……くっ、さっきから目がかすむ。気を張っていないと地面に吸い込まれていきそうだ。これ以上は激しい動きはできない。ならイチかバチか刺されるのは覚悟で捕まえる。頼む……上手くいってくれよ。
「今度こそ、終わりだ」
黒田がそう言うと、高速で突っ込んできて僕の目の前に迫ってくる。僕はそれを避けずに仁王立ちの構えで待つ。そして——その刃を受け止めた。
「ぐっ、……ぐぅぅぅっ!」
その瞬間、腹部に違和感が走り、耐え難い激痛になって襲いかかる。まるで傷口を強引にこじ開けられ、直接熱湯を流し込まれているようだ。痛みのレベルを超えている。気を失いそうになるが、チャンスはここしかない! 黒田の手首を掴み逃がさないようガッチリ固定すると、利き手に力を込める。
「この…………大馬鹿ヤロー!!」
「な、……うぐぅ!」
力の限りの拳を黒田の顔面目掛け叩き込んだ。
黒田が壁に叩きつけられ、動かなくなったところで膝から崩れ落ちる。
もう……限界だ。……あ……そういえば、杏璃と誕生日にどこか行くって……約束……してたなぁ……ごめん……杏璃……ちょっと……無理そうだ……でも……杏璃が無事なら……僕は…………そこで僕の世界は暗転した。
(続く)
- 時計台の夢【15】 ( No.70 )
- 日時: 2015/02/11 19:54
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
「う……んん」
柔らかな光が僕の瞼を刺激してまどろみの中から意識がゆっくりと覚醒していく。ぼやけた視界に飛びこんできたものは白い天井、周囲の状況を確認すると僕は知らないベットの上で寝ていた。真っ白のシーツに枕、白色で統一された同じようなそのベットが僕のベットの横一列に並んでいる。窓際であるこの場所の窓が開いていて、そこから吹き込む涼やかな風が僕の頬を優しく撫でていった。
状況から察するにここは病院だろうか? 自分の身体には包帯がぐるぐると全身に巻きつけられている。頭の中に鉛が入っているように重く、どのような経緯でここに居るのかいまいち思い出せない。まるで思考に靄がかかったようだ。確か、凄い重大な事があったような気がするんだけれども……。頭を捻らせていると病室の入り口のドアが開いた。
「——あっ!?」
「あれ? 杏……璃」
視線が交差すると、杏璃は今にも泣きだしそうなくらいその顔をゆがめる。その顔を両手で覆い隠すようにしたため、杏璃が持っていた綺麗な花が落ちた。そして僕の寝ているベットへと駆け寄ってきた。そのままスピードを緩める事もなく、僕の胸へと飛びこんでくる。
「透さんっ!」
「あ、杏璃、……ぐ、ぐぎゃぁぁ!」
とっさに抱きとめるような体勢にするため、腕を上げた時に激痛が走る。そのせいで衝撃に対応する体勢を取れなかった。多分普段ならどうって事はないだろう。しかし、今回は全身傷だらけのせいで杏璃の抱きついてきた衝撃に耐え切れず悶絶する羽目になるのだった。
***
「そうか……僕は三日も寝てたのか」
「本当に心配しました……このまま目を覚まさなかったらどうしようって」
「心配かけてごめん。杏璃」
全身ミイラ男のようにいたる所に包帯を巻きつけた僕がこれまでの顛末を杏璃に聞いて思いだしていた。市長——黒田が企ていた計画は、現場の状況証拠などから既に明るみに出ていて、今回の事件は大垣と黒田が共謀しておこなった犯行という事になったそうだ。
もちろん、悪魔だなんだという話は出ていないらしい。あそこに駆け付けてくれた杏璃がもう少し遅かったら僕は出血多量で死んでいたかもしれない、という話も聞いた。これも今聞いた話だが、杏璃の家は代々悪魔祓いをやっている家系らしい。杏璃自身はその事に興味がなく、家を継げと言う親の反対を押し切って家を出てきたから家に帰れないという事情もあったみたいだ。しかし今回の件で実家に戻り、両親に相談をした。その結果、杏璃のお父さんが再び悪魔が世に出てくる事がないよう新しい御札で封印をしてくれたのだ。もう一つの疑問であった夢の中での出来事。杏璃がお父さんに聞いたところ、時計台の中には強力な封印がかけられており、その力に反応して感受性が強い人なんかは稀に不思議な事が起きるらしい。僕が体験した出来事はそのせいだったという訳だ。
大垣——悪魔との記憶の共有についても、その力が関係していたと考えられるが明確な原因まではわからない。なんにせよ、二度とあんな体験はしたくないものだ。
「もう無茶しちゃダメなんですからね? 次に無茶したら知らないんですから」
「あはは……肝に銘じておくよ」
杏璃は唇を尖らせて僕に抗議するも、その顔はどこか安堵したような表情だった。それだけ心配をかけてしまったという事だろう。今後こんな事はないと思うが、杏璃の機嫌を損ねるのは勘弁なので素直に反省するのだった。
(続く)
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