コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜
日時: 2017/02/18 17:23
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=34896

 
 初めまして、ゴマ猫です。

 以前からやってみたいと思っていたのと、文章力を上げるためにも短編集を今回やってみる事にしました。
 気まぐれに書こうと思ってるので、更新は基本的に不定期です。シェフの気まぐれサラダ的なやつです。はい。
 ライトな話から、少々シリアスな話まで、色々な物語を書けたらなと思っています。読んで頂いて、少しでも面白かったと思ってもらえたら嬉しいです。


 参照が8000を超えました!
 読んでくださった皆様ありがとうございます!


 以下は、自分が書いた作品です。短編集を見て「この人の違う作品も見てみたい」と思ってくださった、心優しい読者様は是非どうぞ。リンクをTOPページと1ページ目に貼りつけておきます。

 【日々の小さな幸せの見つけ方】
 こちらで初めて書いた小説です。騒がしくも穏やかな、日々を描いた作品です。文章が結構拙いかもしれません。完結作品です。

 【俺と羊と彼女の3ヶ月】
 2作目です。可愛いけど怖い羊が出てきて、記憶を消されないため、主人公が奔走します。完結作品です。
 この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!

 【ユキノココロ】
 3作目です。高校2年生の冬、清川準一はひとりの不思議な少女と出会う。主人公達の過去と現在の想いを描いた作品です。完結作品です。



 【お客様】

 スルメイカ様 

 記念すべき一人目のお客様。続きが気になると言ってくださった優しいお客様です。

 朔良様

 綺麗で繊細な描写をされる作者様です。とくに乙女の『萌え』のツボを知ってらっしゃるので、朔良様の作品を好きな読者様も多いです。かくいうゴマ猫もその一人ですね。

 はるた様

 爽やかな青春ラブコメを書かれる作者様です。甘酸っぱい成分が不足しがちな読者様は、はるた様の作品へどうぞ。言葉遣いなど、とても丁寧な作者様です。

 八田きいち。様

 さまざまな小説を書かれる多才な作者様です。いつも着眼点が面白く、続きが楽しみになるような作品を書かれています。

 峰川紗悠様

 長編ラブストーリーが得意な作者様。
 更新も早く、一話一話が短めなので長編と言っても読みやすいですよ。

  覇蘢様

 ゴマ猫の中では甘いラブストーリーを書く作者様で定着しております。いつも読んでいる人を惹きつけるようなお話を書く作者様です。

 コーラマスター様

 コメディが得意な作者様。ゴマ猫の個人的な意見ですが、コメライでコメディ色を全面に出している作品、またそれを書く作者様は少ないです。おもわず笑ってしまうような物語を書かれています。

 澪様

 丁寧な描写で読みやすく、物語の引きが上手で続きが気になるような作品を書かれてる作者様。その文章のセンスに注目です。

 せいや様

 ストーリー構成が上手い作者様。
 ゴマ猫の個人的な感想ですが、どこかノスタルジックな印象を受けます。物語のテンポも良いので、一気に読み進める事が出来ますよ。

 佐渡 林檎様

 複雑・ファジー板の方で活動されている作者様です。
 短篇集を書かれているのですが、読み手を一気に惹き込むような、秀逸な作品が多いです。気になるお客様は是非どうぞ。

 橘ゆづ様

 独特な世界観を持つ作者様です。
 普段はふわふわとした印象の作者様なのですが、小説ではダークな作品が多く、思わず考えさせられるような作品を書かれています。

 狐様

 ファンタジーがお好きな作者様。
 複雑ファジー板の方でご活躍されているのですが、ストーリー、設定、伏線、描写、全てにおいて作りこまれており、気付いた時には、いつの間にか惹き込まれている。そんな作品を書かれています。

 村雨様

 コメライで活躍されている作者様。
 バランスの良い描写と、テンポの良さでどんどんと読み進められます。今書いていらっしゃる長編小説は思わずクスッと笑ってしまうような、そんな面白いコメディを書かれています。

 ハタリ様

 遅筆気味なゴマ猫の小説を読んで頂いて、また書いてほしいと言って下さったお優しいお客様です。

 こん様

 多彩に短編を書き分ける作者様。
 読みやすい文章と、心理描写が上手です。

 亜咲りん様

 複雑ファジー板の方でご活躍されている作者様。
 高いレベルの文章力とダークな世界観をお持ちで、読みごたえのある小説を書かれています。読めば物語に惹き込まれる事は必至です。


 【リクエスト作品】

 応募用紙>>80(現在募集中)

 【朔良さんからのリクエスト】
 彼女と彼の恋人事情
 >>87-91 >>96 >>99-104

 【佐渡 林檎さんからのリクエスト】
 無題〜あの日の想い〜
 >>127-129 >>132-140 >>143 >>146-147 >>154




 【短編集目次】

 聖なる夜の偶然
 >>1

 とある男子高生の日常
 >>2-3 >>6 >>9 >>14-15

 私と猫の入れ替わり
 >>18-19 >>22-28

 魔法のパン
 >>29-30 >>34 >>37-38 >>41
 >>44 >>47 >>50-51

 時計台の夢
 >>54-66 >>69-71
 (この物語はシリアスな展開を含みますので、読む際はご注意下さい。読みやすくするためリメイク予定です)

 とある男子高校生の日常NEXT
 >>72-75 >>78-79
 (この物語は前作の番外編となっております。前作の、とある男子高校生の日常を見ないと話が繋がりません)

 雪解けトリュフ
 >>162-163

 クローゼットに魔物は居ない
 >>167-169 >>174-178 >>179
 (この物語はシリアス展開を含みます。苦手な方はご注意下さい)

 【SS小説】

 想いの終わり
 >>166

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時計台の夢【完】 ( No.71 )
日時: 2015/02/11 19:58
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)

 退院するのに諸々の事情もあり一ヵ月もかかってしまった。早いととらえるべきか、遅いととらえるべきなのか、それはわからないが時計台の問題が終わり、目下の問題はクロックの経営状態でもある。なぜならクロックは趣味的要素が強い店であり、言ってしまえば道楽のようなものだ。とは言え、店が儲からなければ経営していくのは厳しいというのは必然な訳でもあり、僕が入院していた期間は店を閉めていた訳で、さらには時計台の修理の報酬をあてにしていたのだがそれも流れた。市長——黒田が捕まり、時計台の修理もできていないので当然といえば当然ではあるが(というか修理はやらないが)僕にとっては八方ふさがりな状況でもあった。
 いや、この際僕の事はいい。問題は杏璃の給料だ。従業員である杏璃にだけはなんとしても給料を払わなければいけない。それでなくても杏璃は色々苦労ばかりかけてるっていうのに。けれど、出納帳といくら見つめあっても答えは出そうになかった。

「うっ、んんんぅ!」

 リビングの椅子に座りながら軽く伸びをする。
 かれこれ三時間くらい色々な計算をしてみたが、まったくといって解決策が出ない。これなら開店休業状態でも店を開けてた方がよっぽど効率的だったかもしれないと思うほどだ。うーん、集中力も切れかかったてきたし少し早いけどお昼にしようかな。

「はい、透さん。コーヒーですよ」

 まるで計ったかのような絶妙なタイミングでコーヒーがテーブルの上に置かれた。

「あぁ、杏璃ありがとう」

 杏璃が淹れてくれたコーヒーを飲むと、口の中にまろやかな甘みが広がる。普段は甘いコーヒーは飲まないのだけれど、頭を使って疲れていたせいか心地良く糖分が身体に染み込んで疲れがとれていくような気がした。

「何をしているんですか?」

「……うーん、言いづらいんだけど、杏璃の給料の事でちょっとね。あ、でも心配しないで。ちゃんと——」

「私、お給料はいりません」

「えっ? いやでも、そういう訳にはいかないよ」

 一点の曇りもない笑顔でそんな事を言う杏璃に僕は少々戸惑ってしまう。
 慈善事業でやっている訳ではないし、いくら住み込みで家賃はいらないといっても給料がいらないという理屈にはならないはずだ。というか、それじゃ僕はとんでもないブラック企業の経営者みたいじゃないか。そう考えると結構へこむな。

「そのかわり、今日も明日も明後日も……ずーっと、透さんの傍に居たいです。ダメ……ですか?」

 ところどころで間を置きながらも、そう最後まで言い切った杏璃の瞳は不安げに揺れていた。——それって、捉えようによっては遠回しな告白なのでは? いや、いやいや、それは自意識過剰というやつだよな。多分、ずっと一緒に仕事したいという意味だろう。

「うん、僕も杏璃が居てくれると助かるし、そう言ってくれるのは嬉しいよ」

 無難な回答——というより、模範的かつ今の僕の心境を嘘偽りなく伝えたはずなのに、杏璃はとても不機嫌そうにジト目で僕を見つめながら頬を膨らませた。なんでだ? 何か気にするような事を言ったんだろうか? そんな事を考えていると、テーブルの反対側に座っていた杏璃が席を立ち、一歩、また一歩と僕に近づき距離を詰めてくる。

「透さんの鈍さはもはや犯罪ですね」

「待て、僕の何が鈍いって——んむ!?」

 ——衝撃的だった。杏璃が両手で僕の顔を挟むようにして固定すると、そのまま杏璃の柔らかな唇が僕の唇と重なった。その瞬間、まるで禁断の果実を食べてしまったかのように脳の感覚が痺れていく。触れるだけの幼いキス。けれど、それは今までのどんな経験より衝撃的で鮮明に脳内に焼き付いていく。一体どのくらいの時間そうしていたのだろうか。数分だったかもしれないし、数十秒だったかもしれない。時間の感覚すら麻痺して、僕の頭を真っ白に上書きしていく。ゆっくりと離れていく杏璃の顔を見て少し寂しさを感じた。

「……透さん……コーヒーの味がしました」

「……そりゃ、さっき飲んでたし……」

 俯き加減で頬を朱色に染めながら杏璃は恥ずかしそうにそう言った。
 平静を装いながら返事を返すが、気の利いたセリフ一つ返せないし思い浮かばない。自慢じゃないけれど、この手の経験は皆無に等しい。例えるなら子供にお酒を飲ませるようなものだ。僕の鼓動はさっきから警報のように早鐘を打っていて、とてもじゃないけど平常心になどなれないくらい動揺していた。

「……私の気持ち、伝わりましたか?」

 杏璃の問いかけに僕は言葉を発さず頷きだけで返す。

「じゃあ……私と付き合って下さい」

 杏璃の精一杯勇気を振り絞ったであろう、その告白に僕は無意識のうちに首肯していた。


 ***


「ここに用ですか?」

「うん、退院したら寄っておきたくてね」

 杏璃と正式に付き合う事になった翌日、僕は杏璃と一緒に中央公園の時計台へとやって来ていた。季節は秋から冬へと変わろうとしている。昼下がりの公園も肌寒さが増し、徐々にではあるが冬の足音が聞こえてきていた。来る途中で買ってきていた花を事件のあった場所へと捧げる。目を閉じて、亡くなった人達へと冥福を祈る。それが終わると僕は天を仰いだ。

「透さん……その、こんな事を言うのは酷かもしれないんですが、元気出して下さい」

 隣りに居る杏璃に視線をやると、不安そうな表情で僕を見つめていた。杏璃に心配をさせるためにここへ来た訳じゃない。だから杏璃には笑っていてほしい。大丈夫だという事をアピールするためにも普段通りに接しないといけないよな。そう思い、杏璃の頭を撫でる。『心配はいらない』という意味を込めて。クロックの事は二人で力を合わせて頑張ろうという事でひとまず落ち着いた。杏璃には引き続き迷惑をかけてしまうかもしれないが、少しずつでも負担を減らしていきたいと思っている。
 これで全ての事態は収束したのだが、やはり完全に晴れやかな気分になる事はできない。失った命は戻らない。どんなに願っても、どんなに頑張っても、過ぎてしまった過去の時間を巻き戻す事は叶わない。人生はゲームと違い、リセットもセーブもできない。それでも僕に何かできる事があるのかと問われれば、それは忘れない事。この出来事を忘れずに、過去を活かして未来に繋げる為に、僕は今僕にできる事を一生懸命やっていく。——僕の大事な人と共に。

 〜END〜

とある男子校生の日常NEXT【1】 ( No.72 )
日時: 2015/03/03 20:26
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: XnbZDj7O)

 俺のBでL疑惑も収まり、湊との関係性もあの日の疑惑のキス以上の進行しないまま夏休みを迎えたある日の事。驚愕とも言える事態が我が家で起こっていた。

「すまん、もう一回言ってもらえるか?」

「……だから、私と付き合って下さい」

 妹に告白された、なう。
 嫌だ、そんな頬を赤らめて言われたらお兄ちゃんドキドキしちゃう。
 ……じゃねーよ! 何で? 暑さのせいで脳内に異常が出たんだろうか。

「……兄さん、何をしてるの?」

「いや、熱でもあるのかと」

 葉月の額に手を当てて熱を計るという原始的な事をしてみたが、どうやら熱はないらしい。という事は──

「お、お前、実の兄をそんな目で……!」

「ち、違います! どこをどう考えたらそんな結論になるの!? バカなの!?」

 顔を真っ赤にしながら、わたわたと焦った様子で抗議する葉月。
 デスヨネー。ちょっとびびったけど、普段から俺の事をバカだアホだという葉月がそんな事を言う訳がない! 葉月は盛大な溜め息をつきながら「仕方ないなぁ」と言わんばかりの表情に変わる。

「だから、さっきも説明したけど、私の友達に香奈って子が居るの。その子に最近彼氏ができたらしいんだけど──」

 葉月の説明によると、その友達の香奈って子が最近彼氏ができて、幸せのおすすわけなのか、ノロケなのかは知らないが葉月も彼氏をつくった方がいいと進めてきたらしい。最初のうちは上手くかわしていたらしが、あまりしつこく言われたせいか、葉月は段々と面倒くさくなり──

「自分には彼氏が居ると、そう言った訳だな?」

「……うん」

「それで、その彼氏役を俺にやれという訳か?」

「……うん」

 俺の問い掛けに、ばつが悪そうに目を伏せる葉月。うーん、普段強気な葉月にこんな弱気なところを見せられてしまうと断りづらい。葉月の事だ。他に頼れる相手も居なくて、仕方なく、嫌々だけど俺にお願いしてきたんだろう。……あっ、自分で言ってて悲しくなってきた。涙が出ちゃう、だって男の子だもの。

「わかった、引き受けるよ。そのかわり、一度だけだぞ?」

「ほ、本当に!? うん、ありがとう!」

 俺が了承すると、葉月は普段見られないくらいの眩しい笑顔で喜んだ。……仕方ないな。可愛い妹のために協力しようじゃないか。


 ***



 ──前言撤回。何が悲しくて妹と休日にデートせにゃならんのだ? 湊との約束を断ってまで。
 葉月に相談された日から数日、湊からメールが来て「一緒に遊びにいかない?」と誘われた。もちろん即断即決、光の速さで返信をしようとしたら、葉月に止められた。理由は湊が指定した日付と、葉月と約束していたダブルデートをする日付がかぶってしまったから。ダブルデートって何それ? 美味しいの? むしろ初耳なんですけど? やっぱり人は自分が幸せじゃないと他の人の事まで考えられないと思うんです。妹を幸せにするにはまず自分が幸せじゃなくっちゃ。

「はぁ、湊とデート……」

「しょうがないでしょ。湊さんとは別の日にまた会えばいいじゃない」

 待ち合わせ場所である駅前広場のベンチに腰を掛け溜め息をついていると、隣りに座る葉月が不機嫌そうにそう言う。

「お前はわかってない。湊は気まぐれだから、次はいつになるかわからないんだ」

 もちろん、その日のメールで別日にできないか? と聞いてはみたが、湊の返事は「じゃあいいや」だった。
 うおぉぉ! 俺って奴は、俺って奴は、最大のチャンスを棒に振ってしまったんじゃないか!? この間のキスの事だって、告白の返事だって聞くチャンスだったじゃないか! ……泣ける。マジでタイミング悪過ぎだろう。この世に神も仏もないな。

「……そんなの、知らないよ」

 そう言って、葉月は少し拗ねたように口を尖らせて顔を背けた。
 ふぅ、葉月にこれ以上言ってもしょうがないよな。またチャンスはあるさ。ある、よな?
 昼下がり、見上げれば太陽が地面を焦がすように、暴力的なまでの熱が空から降り注いでいる。そろそろ待ち合わせ時間になろうかという時、一組のカップルが俺達の前までやってきた。

 (続く)

とある男子校生の日常NEXT【2】 ( No.73 )
日時: 2015/03/04 22:14
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)

「あぁ〜葉月、待たせてゴメンね」

「あっ、香奈。ううん、大丈夫」

 夏の太陽のような弾ける笑顔で近づいてきたのは、どうやら葉月の友達でもあり、今回の元凶でもある香奈って子だ。
 ショートの茶髪に、上は淡い赤のオフショルダーのサマーセーター、下は濃い茶のキュロット。幼い顔立ちで、見た目は快活そうな印象を受ける。

「で、そちらが葉月の彼氏?」

「……うん」

 俺は香奈って子にジロジロと値踏みでもされるかのような視線を向けられる。うむ、ここは兄として、紳士に真摯な態度で挨拶せねばなるまい。年上彼氏(代理)の実力を見せてやろう。

「やぁ、はじめまして。君が葉月の友達? 俺の名前は誠、誠実の誠で誠。よろしくね、子猫ちゃん」

 流れるような台詞の後にウインクをしてみた。これでバッチリ好印象間違いないな。……うん? 何やら葉月が横で頭を抱えているが、どうしたんだ?

「……あ、あははは、個性的な彼氏だね」

 香奈って子が微妙に引きつった笑みを浮かべながらそう言った。これは驚いたって顔だな。うん、第一印象は上々じゃないか。やはり圭介に借りた情報誌『街角ウォーカー』で密かに勉強しておいた甲斐があった。本当は湊の為に勉強してたんだけど、こんなところで役に立つとはな。

「……バカ! 変な事しないでよ。そういうボケはいらないんだから!」

 葉月が剣呑な表情で近づいてきて、周りに聞こえないくらいの声音で俺に言う。ボケたつもりはまったくないのだが、何がいけなかったんだ?

「……いやいや、完璧だったろ? こう、キュンときてもおかしくないくらい」

「それ、マジで言ってるんだとしたら兄さんのセンスを疑うわ」

 葉月のまるでゴミでも見るかのような視線が俺を突き刺す。……うーん、葉月的にはNGだったらしいな。雑誌にはこういうセリフと仕草が巷で流行ってるって書いてあったんだが、何かを間違えたんだろうか? 奥が深い、デート。
 そうこうしてる間に香奈って子……この呼び方は面倒くさいな。香奈ちゃんが「自分の彼氏も紹介するね」と言い出した。そして背後から出てきた男は——

「ちす」

「…………」

 身長は180センチくらい、ガッシリとした体躯に、褐色の肌、切れ長の目、長い金髪を後ろで縛り、黒のタンクトップにダメージ加工された青ジーンズ、かなり厳ついチェーンをジャラジャラと腰に付けた、いかにも悪そう……もとい、チャラい感じだった。そして、謎の言葉。「ちす」何だ? 挨拶的な言葉なのか?

「ちす」

 彼は反応しない俺が聞こえてないと思ったのか、俺のすぐ近くまで来てまた謎の言葉「ちす」を唱えた。

「ち……す」

 俺がかろうじて返すと、満足したのか香奈ちゃんの隣りに戻っていった。
 マジであれ挨拶なんだ。一瞬、何が起こるか分からない呪文かと思った。流星とか巨大な魔神が来るレベルのやつ。葉月も俺と同じ印象だったのか、まるで天然記念物でも見るかのような眼差しでポカンとしていた。対して香奈ちゃんは、にこやかに「カッコいいでしょ?」と葉月に言っている。
 うん、俺が言うのもなんだけど、香奈ちゃんはセンスがちょっとズレてる子みたいだ。少なくとも、俺の第一印象としては。

「と、とりあえず、行こうか?」

 彼が葉月にも「ちす」を唱えたところで、葉月は戸惑いながら香奈ちゃんにそう促す。あれ、マジでなんなんだろ。とにもかくにも俺達は今日の目的地へと歩き出した。

 (続く)

とある男子校生の日常NEXT【3】 ( No.74 )
日時: 2015/03/05 20:21
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: kXLxxwrM)

 ウィンドウショッピングをしてから一時間くらい、今は駅前のモール内にある全体がピンク色のファンシーな店前で、あーでもない、こーでもないとキャッキャッする葉月と香奈ちゃんの二人を俺と彼は後ろで眺めていた。
 しかし……あまり乗り気じゃないとか言ってたくせに、楽しそうじゃないか。ってか、俺来なくて良かったんじゃね? 後ろで立って見守るだけとか、畑に居るカカシと変わらない気がするな。妹の面子は守れても、俺の心の平穏は守れない訳ですよ。……今日もいい天気だね、まったく。

「…………」

 チラリと横目で彼を見てみるが、気だるげにスマホをいじっていた。これといった会話もないし、共通の話題と言えば彼女(妹)くらいだが、この彼に話しかけるには結構な勇気がいるわけで。だってさ、ぶっちゃけ話したくないもん。面倒だし、この人見た目怖いし。しかし、このまま無言で居るのは気まずいよなぁ。やはり紳士として世間話くらいはしてみるか。レッツチャレンジ。

「ねぇ、彼女とは付き合ってもう長いの?」

「ちす」

「へぇ、じゃあ、彼女のどんなところが惹かれたの?」

「ちす」

「ふむふむ、なるほどね」

 全然わかんねーよ! ちすって何語なの? ねぇ? 誰かホンヤクコンニャク持ってきて! 彼は日本語通じないよ!

「ちす?」

「……あー、うん、わかるわかる。困るよね、そういう時」

 適当な相槌を打ちつつ、彼の会話を受け流す。話しかけて失敗した感がハンパないので、俺は笑顔でムーンウォークしながら彼との距離を取った。そのまま、葉月達が居る店から少し離れた休憩のために設置してあるベンチに腰を下ろす。
 あぁ、もう帰っても良いんじゃないか。どちらにせよ、彼氏が居る(嘘ではあるが)ってのは疑っていた香奈ちゃんには見せた訳だし、もうお役ごめんだと思うんだが。ってか、本当なら今頃は湊とデートしてたかもしれないんだよなぁ。俺、何やってんだろう? 
 目を閉じて周りの景色をシャットアウトしながらそんな事を考えていたのだが、目を開いた次の瞬間、正面に見慣れた顔がある事に気付いた。その顔を認識する数秒の間、その人物はいつの間にか俺とほぼゼロ距離の位置まで近づいてくる。透き通った大きな瞳、弾力がありそうな唇、それはまるで……って、近い近い! 俺は慌てて距離を取るように後ずさる。おかげでベンチから転げ落ちた。

「やっほー、こんな所で何してるの誠?」

「み、湊……なぜ、ここに?」

 転げ落ちて、寝転がった体勢のまま湊を見上げる。
 ちょうど今、湊の事を考えていたせいか、うるさいくらい急激に心臓が高鳴り始めた。これはどういう巡り合わせだ? 俺の願いが天に届いたのか? 天は我を見捨ててなかった!

「奇遇だね〜、誠もここで買い物? だったら一緒に来てくれても良かったのに」

 そう言って湊は頬を膨らませ、やや不満気に口を尖らせる。
 うん? これはもしや、ヤキモチを妬いておられるのでは? なん……だと? うぅっ、ヤバい! こんなに嬉しい事があるなんて……神様仏様、ありがとう! 今日から俺は神様も仏様も居るって信じるよ!

「むぅ〜、聞いてるの?」

「あ、あぁ、聞いてる聞いてる。もし良かったら今からでも——」

 一緒に行こう、と言いかけた途端、背後から物凄い殺気を感じて俺の言葉が止まる。意識して止めたのではなく、本能的に止まった感じだ。そう、主に生存本能的な意味で。油が切れたロボットのように、ゆっくりとその殺気がする方向へと振り向くと、そこに居たのは——

「ふふふ、何してるの誠? 勝手にどこか行ったらダメじゃない」

 悪鬼のような黒いオーラを全身に纏った我が妹、葉月だった。表面上は笑いながらも目は全然笑ってない。

「ひいぃぃっ!」

 恐怖で思わず悲鳴にも似た声が俺の口から零れる。葉月の瞳からは光が消えており「湊さんに余計な事を言ったら殺すからね」と、目が俺に訴えている。こえぇっ、俺の妹こえぇーよ!

「ありゃ? 葉月ちゃん? なーんだ、今日は葉月ちゃんとデートだったのかぁ。誠ってばシスコンだねぇ」

 そんな葉月の暗黒オーラすら湊は意に介さず、いつものようにおどける口調で俺と葉月に話しかける。運が悪かったのは、ここに居るのは俺と葉月だけではなく、香奈ちゃんとその彼も居た事。
 そして、湊の発言を香奈ちゃんが聞いてた事だ。案の定、葉月の後ろに居た香奈ちゃんは訝しげな顔で葉月と俺を見ていた。

 (続く)

とある男子校生の日常NEXT【4】 ( No.75 )
日時: 2015/03/10 23:42
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /48JlrDe)

「……シスコン? シスコンってあの——」

 香奈ちゃんはそう呟きながら俺と葉月の顔を訝しげに見つめる。ヤバい、もしかして勘ぐられてるんじゃないか。額にうっすらと冷や汗をかきながら、どう反応したものかと思案していると、葉月が先に口を開いた。

「違うよ、シスターコンパの方。何か最近流行ってるんだって」

 にこやかに香奈ちゃんに対応しながら葉月はそんな事を言う。我が妹ながらゴリ押し感がハンパない。さらには「反論はさせないから」と言わんばかりに、その笑顔の裏に黒のオーラが見えた。
 ってか、シスターコンパってなんだよ!? 姉妹しか参加できないコンパとか、そういうやつ?

「へ、へぇ〜、そうなんだ。聞いた事ないなぁ」

 そりゃそうだ。なら、ブラザーコンパもあるのかと問いたくなる。それならもはや何でもアリだな。
 香奈ちゃんは、やや戸惑いながらも「そういうものもあるんだ」と納得してくれたみたいだ。素直な子で良かった。ふぅ、しかし危なかったぜ。危うく俺の人生に終止符が打たれるところだった。

「ふ〜ん、何か面白そう」

 そう呟きながら今の様子を静観していた湊が蠱惑的な笑みを浮かべる。
 なーんか、嫌な予感がするのは気のせいだろうか? 湊が物凄くキラキラした瞳で俺を見ている。あれは何かを企んでいるような気が——

「ねぇねぇ、誠。この子誰? 私という彼女が居ながら、他の子と浮気なの?」

「えっ!? ちょっ!?」

 湊がわざとらしい台詞を言いながら、葉月を指差し、まるで見せつけるかのように俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
 えーっ、湊さんさっきまでそういう感じじゃなかったじゃない。しかも俺が告白した時、キスだけして返事せずに逃げたじゃない。絶対この状況を楽しんでるだけだよね? でも、嬉しい。湊に腕を組まれるなんて感動なんだ──がっ!?

「はうっ!」

 湊に腕を組まれ、ひとり感動していると、突然俺の足の甲に激痛が走る。

「まこと〜、なぁにしてるのかな? 彼女の前で堂々と浮気なんてダメでしょ〜?」

 慌てて声がする方へ視線を戻すと、葉月が恐ろしいくらいの笑顔(目はマジで怖い)を俺に向けながら、思いっきり足の甲を踏んでいた。さらにグリグリと踏みつけ、俺の痛みは加速していく。

「ちょっ、タイム! タァ〜ィム!」

 非常に名残惜しいが、湊の腕を振りほどいて、葉月と一緒に離れた場所へと移動する。

「お前なぁ、めちゃくちゃ痛いじゃないか!? ちょっとは加減しろよ。それと、湊はからかってるだけなんだから、過剰に反応すると面白がってもっとやってくるぞ」

 湊なら本気でやりかねない。
 あの新しい玩具でも見つけたような顔、悪気なんてないんだろうけど、放置して葉月から拷問のように肉体的ダメージを受け続けるのはよろしくない。いや、それを差し引いても俺的にはプラスなんだけど、今回の目的は香奈ちゃんに葉月には彼氏が居ますよって事を見せるためであって、三角関係の修羅場を演じて昼ドラ的な物を見せる訳ではない。ひっじょーに惜しいとは思うんだけどね。うん。

「兄さんがデレデレした顔するからいけないんでしょ? 私にはそんな顔しないくせに……」

 葉月は拗ねたように口を尖らせてそんな事を言う。
 いやいや、妹を見てデレデレしてる兄ってどうなのよ? そりゃ捜せばそんな兄妹も居るかもしれないけど、あまり一般的ではないんじゃないだろうか?
 それに、葉月だって俺の事をよく蔑むような視線を送ったり、貶すような事を言ったりするじゃないか。いや、葉月にデレデレしてほしい訳ではないけど。

「と、とにかく! 兄さんは今、私の彼氏役なんだから、他の人にデレデレされたら困るの! 香奈に疑われちゃうでしょ!」

「まぁ、そりゃそうなんだけど……」

 たとえ、湊の無邪気な悪戯だとわかっていても、こう、その心地よさに浸っていたいと思う訳ですよ。何て言うの、人情的なやつですよ。うん。
 しかし、葉月の約束を破ったとなれば今後の兄妹関係がギスギスしたものになってしまうかもしれない。兄として、嫌われてるのは仕方ないとしても、ギスギスするのはマズい。家族会議が始まっちゃう。
 あぁっ、どうすりゃいいのさ!? 頭を抱えて唸る俺を葉月はむくれたような表情で見ていた。

 (続く)


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