コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜
日時: 2017/02/18 17:23
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=34896

 
 初めまして、ゴマ猫です。

 以前からやってみたいと思っていたのと、文章力を上げるためにも短編集を今回やってみる事にしました。
 気まぐれに書こうと思ってるので、更新は基本的に不定期です。シェフの気まぐれサラダ的なやつです。はい。
 ライトな話から、少々シリアスな話まで、色々な物語を書けたらなと思っています。読んで頂いて、少しでも面白かったと思ってもらえたら嬉しいです。


 参照が8000を超えました!
 読んでくださった皆様ありがとうございます!


 以下は、自分が書いた作品です。短編集を見て「この人の違う作品も見てみたい」と思ってくださった、心優しい読者様は是非どうぞ。リンクをTOPページと1ページ目に貼りつけておきます。

 【日々の小さな幸せの見つけ方】
 こちらで初めて書いた小説です。騒がしくも穏やかな、日々を描いた作品です。文章が結構拙いかもしれません。完結作品です。

 【俺と羊と彼女の3ヶ月】
 2作目です。可愛いけど怖い羊が出てきて、記憶を消されないため、主人公が奔走します。完結作品です。
 この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!

 【ユキノココロ】
 3作目です。高校2年生の冬、清川準一はひとりの不思議な少女と出会う。主人公達の過去と現在の想いを描いた作品です。完結作品です。



 【お客様】

 スルメイカ様 

 記念すべき一人目のお客様。続きが気になると言ってくださった優しいお客様です。

 朔良様

 綺麗で繊細な描写をされる作者様です。とくに乙女の『萌え』のツボを知ってらっしゃるので、朔良様の作品を好きな読者様も多いです。かくいうゴマ猫もその一人ですね。

 はるた様

 爽やかな青春ラブコメを書かれる作者様です。甘酸っぱい成分が不足しがちな読者様は、はるた様の作品へどうぞ。言葉遣いなど、とても丁寧な作者様です。

 八田きいち。様

 さまざまな小説を書かれる多才な作者様です。いつも着眼点が面白く、続きが楽しみになるような作品を書かれています。

 峰川紗悠様

 長編ラブストーリーが得意な作者様。
 更新も早く、一話一話が短めなので長編と言っても読みやすいですよ。

  覇蘢様

 ゴマ猫の中では甘いラブストーリーを書く作者様で定着しております。いつも読んでいる人を惹きつけるようなお話を書く作者様です。

 コーラマスター様

 コメディが得意な作者様。ゴマ猫の個人的な意見ですが、コメライでコメディ色を全面に出している作品、またそれを書く作者様は少ないです。おもわず笑ってしまうような物語を書かれています。

 澪様

 丁寧な描写で読みやすく、物語の引きが上手で続きが気になるような作品を書かれてる作者様。その文章のセンスに注目です。

 せいや様

 ストーリー構成が上手い作者様。
 ゴマ猫の個人的な感想ですが、どこかノスタルジックな印象を受けます。物語のテンポも良いので、一気に読み進める事が出来ますよ。

 佐渡 林檎様

 複雑・ファジー板の方で活動されている作者様です。
 短篇集を書かれているのですが、読み手を一気に惹き込むような、秀逸な作品が多いです。気になるお客様は是非どうぞ。

 橘ゆづ様

 独特な世界観を持つ作者様です。
 普段はふわふわとした印象の作者様なのですが、小説ではダークな作品が多く、思わず考えさせられるような作品を書かれています。

 狐様

 ファンタジーがお好きな作者様。
 複雑ファジー板の方でご活躍されているのですが、ストーリー、設定、伏線、描写、全てにおいて作りこまれており、気付いた時には、いつの間にか惹き込まれている。そんな作品を書かれています。

 村雨様

 コメライで活躍されている作者様。
 バランスの良い描写と、テンポの良さでどんどんと読み進められます。今書いていらっしゃる長編小説は思わずクスッと笑ってしまうような、そんな面白いコメディを書かれています。

 ハタリ様

 遅筆気味なゴマ猫の小説を読んで頂いて、また書いてほしいと言って下さったお優しいお客様です。

 こん様

 多彩に短編を書き分ける作者様。
 読みやすい文章と、心理描写が上手です。

 亜咲りん様

 複雑ファジー板の方でご活躍されている作者様。
 高いレベルの文章力とダークな世界観をお持ちで、読みごたえのある小説を書かれています。読めば物語に惹き込まれる事は必至です。


 【リクエスト作品】

 応募用紙>>80(現在募集中)

 【朔良さんからのリクエスト】
 彼女と彼の恋人事情
 >>87-91 >>96 >>99-104

 【佐渡 林檎さんからのリクエスト】
 無題〜あの日の想い〜
 >>127-129 >>132-140 >>143 >>146-147 >>154




 【短編集目次】

 聖なる夜の偶然
 >>1

 とある男子高生の日常
 >>2-3 >>6 >>9 >>14-15

 私と猫の入れ替わり
 >>18-19 >>22-28

 魔法のパン
 >>29-30 >>34 >>37-38 >>41
 >>44 >>47 >>50-51

 時計台の夢
 >>54-66 >>69-71
 (この物語はシリアスな展開を含みますので、読む際はご注意下さい。読みやすくするためリメイク予定です)

 とある男子高校生の日常NEXT
 >>72-75 >>78-79
 (この物語は前作の番外編となっております。前作の、とある男子高校生の日常を見ないと話が繋がりません)

 雪解けトリュフ
 >>162-163

 クローゼットに魔物は居ない
 >>167-169 >>174-178 >>179
 (この物語はシリアス展開を含みます。苦手な方はご注意下さい)

 【SS小説】

 想いの終わり
 >>166

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時計台の夢【8】 ( No.61 )
日時: 2015/04/16 20:08
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: w4lZuq26)

 着替えをしてから店の方へと向かうと、既に杏璃が開店のための準備をしていた。そんな光景に、自分が巻き込まれている非日常からほんの一瞬だけ思考に日常が戻ってきたような気がする。

「あれ? 透さん、今朝は早いんですね。お出掛けですか?」

「……うん、少し調べたい事があってね。なるべく早く戻ってこようと思うんだけど」

 僕は一旦そこで言葉を切って、杏璃が心配しないよう強張っているであろう表情を無理矢理に隠して笑顔を作る。

「もし僕が遅くなったら、お店の事は頼むね」

「はい、任せてください。でも、なるべく早く帰ってきてくださいね?」

 少し悪戯っぽく笑いながらそう言った杏璃に、僕は曖昧に濁した返事しか返す事ができなかった。


 ***


 店を出てからやってきたのは緑葉図書館。市内にいくつかある図書館の中でも一番大きいこの図書館は古くからあるこの土地の話をまとめた書物がたくさんある。僕が探しているのはもちろん——

「……悪魔の話……」

 西洋に出てくるような話はいくつかあっても、この土地の、しかも時計台に関する悪魔、もしくはそれに関連するような書物はなかなか見つからない。
 当然といえば当然かもしれないが、市長の話ではその当時話題にもなっていたくらいだし、その情報源がどこかにあってもおかしくはないと信じたい。祈るような気持ちで本棚を探していると、ひときわ異彩を放つ本が目に留まった。

「……緑葉市の悪夢」

 タイトルを読み上げながらその本を本棚から抜き出す。
 全体が黒っぽいハードカバーのその本は、いかにもな怪しさがある。恐る恐るページをめくっていくと、『黒の悪魔』と書かれたインデックスが目に飛び込んできた。
 そこには資料……というより、おとぎ話のように語りべ調で物語が書き綴られていて、要約してしまうと、悪しき心を持つ黒の悪魔なるものが人々を長きにわたり苦しめたらしい。その方法は時間を操作して同じ日を繰り返させる事と書いてある。時間の操作をして繰り返し——というと少し語弊があるかもしれない。
 実際に時間の操作をして繰り返すのではなく、勘違いさせるといった方が正しいだろうか。この話に出てくる黒の悪魔は、人々の記憶を操る事ができるのだという。
 つまり、今は『何日の何時』という時間の概念も人々の記憶の操作によって違う日付に変わる。実際に時間が戻っているわけではないし、簡単に言ってしまえば忘れているだけだから体感時間が凄く長くなるという訳だ。気付かなくとも同じ日を永遠に繰り返す事によってやがて人は知らず知らずの内に精神に異常が出てくる。その後待っている未来は——いや、もうよそう。これはあくまで本に書かれている事であって、信憑性的にはUMAやその類の話と大差ない。

「……時間の操作、記憶の改変」

 しかし、符号する点も多い。さらにこれまでの出来事と本の内容を重ねると、僕が夢の中で見たもの、そして昨日時計台で出会った大垣さんが黒の悪魔であるという事はもはや疑う余地はなさそうだ。
 一番の問題はどうするか、だ。警察に行くか? いや、駆け込んだところで頭のおかしい奴だと思われて終わりだろう。市長に言ってこの仕事をキャンセルする? いや、これは問題の先延ばしに過ぎない。それにテレビの情報すら変わらない事を見ると、この町から逃げ出したところで結果は変わらないだろう。逆に言うとそれだけ支配する力が強大という事にもなるのだが。
 ——待てよ。この黒の悪魔が記憶の改変ができるのならば、どうして僕の記憶はそのままなんだ? それに……僕は生きている。あれが夢ではなく記憶の改変なのだとしたら変だ。
 なぜなら僕は一度殺されているはずだから。だとしたらこの本に書かれている事自体が間違っている事になる。

「…………一体、どういう事なんだ」

 生きているのが夢じゃない事を確かめるために力を込めて拳を握りしめる。確かに感じる痛みは現実のもので、夢ではないと告げていた。


 ***


 あの後も本を読み漁ったがあれ以上の情報は得られなかった。わかったのは黒の悪魔が記憶の改変ができるという事と、何らかの形でこの土地に封印されたという事。解決策も見つからないまま、僕は無意識のうちにクロックへと戻ってきていた。

「……ただいま」

「おかえりなさい。透さん、お客様が来てますよ」

 杏璃がジェスチャーでお客様が居る方向を教えてくれる。それを辿って視線を向けると、そこにいた人物は——

「やぁ、また会いましたね。今日は時計台には行かれないんですか?」

 そう言いながらまるで何事もなかったかのように笑う大垣さんだった。
 昨日、僕を襲った人物、いや、黒の悪魔。こんな所まで来るなんて迂闊だった……張りつめたような緊張が僕を襲って嫌な汗が額に滲む。

「……今日は少し用がありまして」

 気取られないように平静を装って返事を返すも、声は少し震えていた。情けない話だけどさっきから手も足も勝手に震えている。あの恐怖が鮮明に脳内で再生されて僕の思考を支配する。逃げたい、逃げてしまいたい。でも、僕はともかく杏璃は、杏璃だけは絶対に危険な思いをさせちゃダメだ。血が出るくらいに強く拳を握りしめて震えを止める。

「そうですか、それは残念だ。……今日は少し質問があって来たのですよ」

 大垣さんは少し残念そうにした後、今度は芝居がかったように人差し指を立てて話し始める。それはさながら舞台に立つ役者のように。

「……質問、ですか」

「えぇ、とても簡単な質問です。本来なら答えも簡単のはず。だから私には理解できない」

 そして大垣さんはゆっくりと息を吸うと——

「どうしてあなたは死んでいないんだ?」

 静かに、しかしそれはハッキリとした口調でそう僕に問いかけた。

 (続く)

時計台の夢【9】 ( No.62 )
日時: 2015/01/11 23:55
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: mJV9X4jr)

「杏璃っ! 逃げるぞ!」

「えっ……えっ?」

 その瞬間、僕は弾かれた様に飛び出し、突然の出来事に理解できず戸惑う杏璃の手を引いて店の外へと飛び出した。

「と……透さん、一体何があったんですか!?」

「今は説明している暇はない! とにかく走るんだ!」

 人目に付かない裏道を通るより人通りが多い大通りを使うべきだ。いくら悪魔でもこんな人目の付くところでいきなり襲いかかったりはしないだろう。とはいえ、これも推測でしかない。実際、悪魔の思考なんて知らないし知りたくもない。
 僕と杏璃は走るペースを落とさないで大通りを抜けて市役所へと逃げ込む。ロビーに着いたところでようやく足を止めて一息ついた。すると、杏璃が荒い呼吸をしながらジト目で抗議の視線を向けてきた。

「……はぁ、はぁ。い、一体どういう事か説明して下さい」

 荒い呼吸のまま杏璃は僕に問いかける。一度深呼吸してから自分の呼吸を整え、杏璃の方へ正対して真っ直ぐにその大きな瞳を見つめる。

「真剣な話だから笑わないで聞いてほしいんだ。……僕は悪魔に追われている」

 僕がそう言った瞬間、杏璃の大きな瞳がパチパチと瞬きをして不思議そうな顔で僕を見つめ返す。当然と言えば当然なのだが、こんな話を真面目に聞いてくれという方が難しい。空想や妄想、もしくは小説や映画の話ならまだしも、現実でこんな事が起きているんだなんて事を言えば間違いなく頭がおかしいと思われるだろう。それでも、杏璃には話しておかないといけない。

「……えっと、透さんお仕事のし過ぎで少しお疲れなんでしょうか? 今日はもうお休みになられた方が——」

「聞いてくれ杏璃! 真面目な話なんだ! この間の時計台の修理、あの時計台に関わってから僕は危ない事に巻き込まれてる!」

「ち、ちょっと、落ち着いて下さい、透さん。注目されています」

 杏璃の声に冷静になって周りを見渡すと、一体何が起きたんだとばかりに突き刺さる視線。市役所に来ている人から職員までが訝しげな表情で僕たちを見ていた。
 しまった。少し熱くなり過ぎたか。僕がこんな事じゃダメだな。もう一度深呼吸をして自分自身を落ち着かせる。

「ごめん。だけど、本当の事なんだ。信じてもらえないかもしれないけど、恐ろしい奴なんだよ」

「……は、はぁ。で、では、その事について詳しく話してもらえますか?」

 杏璃は戸惑いながらそう言うと、近くにあった備え付けのベンチに腰を下ろして僕の話を聞いてくれる体勢になった。もちろんこの件に関してはまだ懐疑的だろうけど、もし僕が逆の立場だったらと考えると大きな進歩だ。
 僕はこれまでの経緯を簡潔にまとめて話した。昨日が繰り返されている事(正確には少し違うけれど)黒の悪魔なる恐ろしい悪魔が居る事、そしてこの土地に封印されていた事、繰り返されている事に気付き殺されたはずの僕がまだ生きている事に気付いたソイツが僕を捜して狙っている事。僕が説明する間、杏璃は途中で口を挟む事なく真剣な表情で聞いてくれていた。

「——という訳なんだ。信じられないかもしれないけど」

「……そ、そのお話しは本当なんですね?」

 杏璃の問いに僕は頷く。
 すると杏璃は少し信じられないというような表情をしながらも「わかりました」と言って、それ以上僕に何かを問いかける事はなかった。

「問題は、これからどうするかですね……」

 杏璃は溜め息混じりにそう呟く。さもすれば頭がおかしくなったと思われてもおかしくないこんな話を信じてくれる杏璃に僕の胸の内から込み上げてくるものがある。
 さておき、確かにその原因がわからない以上、解決方法もわからない訳で。図書館で調べた情報も役に立つ情報ではなかった。悪魔の能力や歴史がわかった所で、およそ人間の介入できる範疇ではない。とは言え、いつまでもここに隠れている訳にも——

「——!? あ、あいつ、もうこんな所まで……」

 ふと正面入り口に目を向けると、誰かを捜すように辺りを見回す大垣の姿があった。
 とっさに杏璃の頭に手を置き、杏璃と共に自らも身をかがめる。
 今のところ見つかってはいないようだが、こうなるとここも安全ではない。なるべく早くここから出たいところなのだが、あいにく外へ出れるルートは出入口であるここだけだ。
 あまり悩んでもいられないのでこの場所から移動するしかない。けれどここに来たのも考えなしではなく、あいつが無暗に入れない場所が一つだけここにはあるからだ。

「……杏璃、気付かれないよう静かに歩けるか?」

「……は、はい」

 (続く)

時計台の夢【10】 ( No.63 )
日時: 2015/01/11 23:59
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: mJV9X4jr)

「それで、時計台の話という事だが?」

「はい、一部重大な欠陥が見つかりました。修理には少々お時間がかかるかと……」

 やってきたのは市長室。
 前にも一度仕事を依頼された時にもここには来ている。時計台の修理の話となれば市長も会ってくれるだろうと思っていたのでここまでは計算通りだ。
 それにここは警備が厳重で、アイツもおいそれとは入ってこれないはず。こちらの姿は発見されてないのでアイツがいなくなってから移動という作戦だ。ちなみに一緒に連れてきた杏璃は初めて市長室に入ったせいか、どこか落ち着かない様子で視線を彷徨わせていた。

「ふむ……それで、修理にはどれくらいかかるのだ?」

「まだ詳しい事は申し上げられないのですが……おそらく、長期になるかと」

 僕の言葉を聞いて市長は苦い顔に変わる。
 本音を言ってしまえば、この会話はアイツが諦めて他を捜しに行くまでの時間稼ぎであり、会話の内容自体あまり意味はない。なにしろ時計台の修理はもう終わっているのだから。それを知っているのは、あの大垣こと悪魔と僕と杏璃だけだ。
 何かを思案していたように顎に手を当てていた市長はやがて嘆息混じりに口を開いた。

「まぁ仕方がないな。元々こちらが依頼したのだし、修理出来るのであれば問題はない。だが、期間が長引いても報酬は変わらんのでそのつもりで頼むよ?」

「はい、なるべく早くには修理させていただきます」

 僕の言葉を聞いて安心したのか、市長は先程までの苦い表情を少し和らげた。

「……ところで、君の後ろに居るお嬢さんは?」

 市長は僕の後ろに居る杏璃を見て問いかける。
 そりゃそうか。この間はひとりで来てたし、今回は何も言わずいきなり杏璃を連れてきたら気になるよな。それにとくに紹介も挨拶もしていない訳だしな。

「はい、彼女は店の従業員でして、住み込みで手伝ってもらってます。今回は僕の補佐というかたちで同席させていただきました」

「なるほど、要するに水島君の彼女か。君も隅に置けんな」

「か、彼女!? そ、そそそんな、と、透さんの彼女なんて、その……」

 市長の言葉に両手で頬を覆い耳まで真っ赤にして照れる杏璃。
 そんなに動揺されるとそれはそれで僕が変な勘違いをしそうなんだが……。市長も誤解されているようだし。とういうか、どこをどう取ったらそんな話になるんだ。けれど時間稼ぎにはなるし、とくに否定せず話題をひろげた方がいいかもしれないな。そんな事を考えていると、突然外から大きな声が聞こえてきた。

「おいっ、君! ここは許可証が無い者は立ち入り禁止だ! 止まりなさい!」

 僕が市長室に入ってくる時に居た扉の前に立っているであろう警備員の声が聞こえてくる。その声音から察するに何者かが無理矢理入ってこようとしている? 少し和らいでいた空気が一気に張りつめた。
 ま、まさか、アイツここまで——!?

「……ふむ、なにやら外が騒がしいな。一体なんだというのだ?」

 そう言って、市長が扉の前まで行きドアを開けようとしたのを僕は大声で止める。

「開けないでください!」

 そんな僕の声も空しく市長は扉を開けてしまった。
 その瞬間「うわわぁっ!」と言う声と共に市長室の前で警備員の男がまるで人形のように投げ飛ばされ部屋に入ってきた。かなりガッチリとした体躯の人なのにいとも簡単に。その投げ飛ばした人物は——

「……黒の……悪魔」

「おや? 私の事を知っているのですか」

 僕がそう呟くと大垣こと黒の悪魔は少し意外そうな表情をした後、頬に付いていた血を指ですくって舐めた。先程投げ飛ばした警備員ともみあった時に付いたのだろうか? それともここに来る前に付いた血なのだろうか。今はそんな事を考えている場合ではないというのに頭が上手く回らない。

「君、どういうつもりかわからないが、これ以上暴れるなら警察を呼ぶぞ。大人しく出ていきなさい」

 市長は強い口調でそう言うが、大垣は意に介していないようで興味がないような目で市長を見つめていた。そもそも警備員に暴行して市長室に押し入っている時点で警察に通報なのだが、刺激しないようにという市長の配慮なのであろう。さすが市長と呼ばれるだけあって対応も冷静だ。だが今回は相手が悪い。

「うーん、ハッキリ言ってあなたには興味がないのですよ。邪魔さえしなければ長生きできるので、そちらこそ大人しくしててもらえませんか?」

「どうやら話が通じない相手のようだな。目的はなんだ? どちらにせよ長引けば長引くだけ君の罪は重くなるぞ」

 市長の言葉に大垣はもはや堪え切れないといった感じで笑う。

「あっはははっ! 面白い事を言うのですね。そうですね……目的はあなたの後ろに居る男、水島さんですよ。彼さえ引き渡してくれれば危害は加えませんよ。それと、一応言っておくと誰が来ても私を止める事はできないでしょうが」

 大垣の鋭い視線が僕に向けられる。
 蛇に睨まれた蛙状態で、まるで全身が凍り付いたように指先すら動かす事ができない。じっとりした嫌な汗が全身から出てきて、心臓は気持ち悪いほど鼓動を早めていた。僕はまた殺されるのか? 今度は夢じゃなく本当に?

「……透……さん」

 不意にかけられた杏璃の声に僕は少し平静を取り戻す。
 僕の背中に隠れるにしていた杏璃は不安そうな表情で僕を見ていた。……そうだ。杏璃だってこの状況で怖くないはずがない。杏璃を守るために一緒に連れて逃げてきたのに、逆に怖い思いをさせてどうするんだ。そう思った瞬間、恐怖心が薄れていくのがわかった。

「……僕が目的なのなら、僕が付いていけばいい。だから、ここに居る人達に手を出さないでくれ」

「透さん!?」

「水島くん!」

 杏璃と市長が揃って驚きの声を上げるが、僕は片手で二人を制するようにして止めた。

「ふふふっ、いや、実に水島さんは聡明な方だ。もちろんお約束しますよ。絶対に手を出さないと、ね」

 不敵な笑みを浮かべてそう言う大垣に、僕は頷いて大垣のもとへ歩いていった。

 (続く)

時計台の夢【11】 ( No.64 )
日時: 2015/03/31 17:38
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)

「気分はどうです?」

「……最悪だ」

 ——あの後、市役所から出た僕は大垣に連れられて時計台の内部に来ていた。
 まだ外は明るいというのに、時計台の中は薄暗く独特のひんやりとした空気が漂っている。大垣に問いかけられた言葉に僕は苦い表情で返事をした。悪魔と一緒だと言うのだから気分なんて良い訳がない。こんな状況で楽しいと感じられたのならば、それは正気の沙汰とは思えないだろう。

「安心してください、すぐには殺しません。少し聞きたい事もありますしね」

 そう言って、大垣は薄笑いを浮かべる。
 それはとても気持ち悪いもので、その顔を見た瞬間、何もされていないのに身体の中にズッシリとした重い物を入れられたと錯覚するくらいに本当に身体が重くなる。

「……聞きたい事ってなんだ?」

「君の事です。どうして君は死んでいないんだ? あの時、私は確かに君を殺したはずだ。なのに、君は生きている」

 心底不思議そうな顔で大垣は問いかける。
 それもそのはず、確かにあの時僕は死んだ。けれど、どういう理由かわからないけど僕は生きている。僕にもわからない事に説明なんて出来る訳がない。

「……知らないよ、僕が逆に尋ねたいぐらいだ」

「ふむ……では、用はありません。ですが、せっかくここまで来たんです。せめてもの情けに昔話でも教えてあげましょう」

 そう言って、大垣は面白くなさそうに話し始める。

「大分昔の話です。もちろん、君が生まれる前の話ですよ。——その当時、今より力があった私は自由にだった。好きな時に好きな事をして生きていた」

 その『好きな事』とやらは、きっと人々を困らせる事だった事に違いない。いや、困らせるなんてレベルではないのだろうが。
 その辺の事は図書館の資料で確認している。信憑性に欠けるかと思ったりもしたが、たった今本人から裏付けが取れたので間違いない。

「しかし、そんな私の邪魔をする人間が現れた。そいつは私との長い戦いの後、私を封じ込めた。この場所にね。だが時は経ち、封印の力が弱まったおかげで人間になる事で私は外に出る事ができた」

「…………」

 それが仮の姿でもある、フリーの記者である大垣 竜という訳か。

「喜びに打ち震えたよ。やっと外に出てあいつを殺せると思ったらね。だが、そう上手くはいかなかった。封印を完全に解くのには、時計台を動かさなければいけないというじゃないか」

「……時計台を動かしたがっていた理由はそれか」

 僕の言葉に大垣は頷く。
 思えば最初に出会った時も時計台に高い関心を示していた。理由がそれならば納得もできる。しかし、この時計台にはやはり特別なものがあるんだろうか? 夢の事といい、その事に関してはいまだ謎のままだ。

「完成して私の力が戻っていくと、私は目障りになった君を消した……はずだった。だが、予想外にも君は生きていた。もしや、とも思ったのだが君は何か特別な力を持っているようだね」

「……そんな力は持っていない。俺は普通の人間だ」

「普通の人間? あっははは、面白い事を言う。私の力の介入を許させない時点で君は普通の人間ではない。そう、もしかしたら君は——」

 ——バターン!
 大垣が何か言いかけた瞬間、時計台の入り口の扉が勢いよく開く音がした。大垣は何事かと鋭い視線を階下の入り口に向ける。

「無駄な抵抗はやめろ! お前はもう包囲されている!」

 階下から野太い声が聞こえてくる。
 多分、警察だ。杏璃か市長が呼んでくれたんだろう。けれど、市長室で大垣が言っていたように無駄かもしれない。余計な犠牲者を出す前に止めさせないと。

「ふん、羽虫どもがぞろぞろ来たようですね。少々面倒ですが、蹴散らしてやりますか」

「ま、待て! やめろ!」

 僕の制止も効果はなく、大垣は螺旋階段を大ジャンプして飛び下り入り口に着地した。
 一番上のここから下まで高さは三階建てくらいあるというのに……。慌てて僕も螺旋階段を降りると、既に入り口には最初に警告をしてきた警察官がひとり倒れていた。そうかと思えば、大垣は一瞬にして姿を消してしまう。

「大垣っ! やめろっ!」

 急いで扉を開けて外に出るが、そこに広がる光景は惨劇だった。
 公園の芝生の上にかなりの人数の警察官が倒れている。その倒れたところから流れ出す鮮血が血だまりを作り、いつも綺麗な緑の芝生が赤に染まっていた。
 大垣はゆっくりと僕に振り返ると、あの背筋が凍るような気持ち悪い笑みを浮かべた。そのまま頬に付いた返り血を右手ですくってそれを舐める。それを見てふつふつと湧く怒りの感情。どうしてこんな事を? 恐怖の感情を怒りで上書きして大垣に詰め寄る。

「大垣っ! 僕がお前について行けば他の人に手を出さないと言ったろ! どうしてこんなひどい事を!」

「あの二人には手を出さないと約束しただけです。他は知りませんね。……それと、どうして、という質問ですが、復讐です。私を閉じ込めたあいつを、その同族である人間達に、ね」

 大垣の光が宿らないその瞳は深い闇に満ちていた。
 まるで陽の光が一切届かない暗闇。その瞳を見ているだけで全身が粟立ち、再び恐怖で鼓動が早くなる。なんとか、なんとかしないと。
 そんな時、焦る僕の耳に聞こえてきたのは聞きなれた声。

「透さーーん!」

「あ、杏璃!? 来るな!」

 (続く)

時計台の夢【12】 ( No.65 )
日時: 2015/03/31 17:45
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)

 杏璃が少し離れたところから僕の名前を呼びながら駆けてくる。
 まずい……このままじゃ。そう思った瞬間、身体が勝手に反応していた。それは大垣に向かってがむしゃらの突進。ハッキリ言って意味なんてないけど、杏璃から気を逸らさして逃げさせる時間を稼げれば上出来。せめて、この町から逃げてくれれば。

「気でも触れたのですか? そんなに急がなくても今度は確実に殺してさしあげますよ」

「杏璃っ! 早く逃げろ! ここから出来るだけ遠くに行くんだ!」

「透さん! 危ない!」

 杏璃にそう言って、ほんの一瞬だけ目を逸らした間に大垣は僕の後ろに回り込んでいて、尋常ではない力で僕の喉元を捕まえて締め上げていく。そのまま首を片腕で掴みながら徐々に上へと僕の身体が持ち上がっていく。

「かっ……はっ……」

「透さんっ!」

 薄れゆく意識の中、杏璃が必死になって僕のところへ走ってくるのが見える。ダメだ……早く、逃げ……ろ。

「ぐぅっ!」

「……か……はっ、はぁ、はぁ」

 もうダメだと思った瞬間、不意に大垣に締め付けられていた首から力が緩み、僕の身体が地面へと落下した。呼吸が確保されて、ぼやけていた景色が正常に戻ってきた。
 首をさすりながら大垣を見ると、大垣は僕の首を掴んでいた手を押さえて呻き声をあげていた。あの様子、苦しんでいるのか?

「透さん! 大丈夫ですか!?」

 気付くと、杏璃が僕の傍に来て心配そうに背中をさすってくれていた。

「あ、杏璃、危ないから逃げろって言ったろ」

「嫌です! もし透さんが私と同じ立場なら見捨てて逃げますか?」

 杏璃にしては珍しく、眉根を寄せて強い口調で僕にそう言った。
 普段は見ない杏璃の厳しい口調に圧倒されながら答える。

「それは……杏璃は女の子で、僕は男だから」

「そんなの関係ありません。男だから、女だからって誰が決めたんですか?」

「……そ、それは」

 そう言われてしまうと、自分が理不尽で勝手な事を言っているように思えてしまう。って、今はそれより——

「大垣は!? あいつは!?」

 視線を戻して見ると、大垣はまだ手を押さえたままうずくまっている。しかし、ゆっくりと起き上がると射抜くような鋭い視線を僕たちに向けてきた。

「お、お前、一体何を持っている!」

 今にも飛びかかってきそうな勢いで大垣が僕に詰め寄ってくるが、杏璃を庇いながら少し後退り距離を取る。——何って、何も持っていない。警戒しながら片手で自分の持ち物を確認するが、持っている物は携帯と財布と、前回の作業で剥がした妙な張り紙がジーンズのポケットに入っているだけ。
 ……張り紙? 待てよ。確かあの張り紙、絶対に剥がすなと書いてあった。もしかしたら——どうせダメでもともとだ。試してみる価値はある。
 利き手である右手にジーンズのポケットからその細長い短冊の形をした張り紙を握りしめ、そのまま服の袖へと隠すように移動させる。かなり難しいが、なんとか袖へと移動させて大垣を睨みつける。

「大垣、降参だ。大人しくするから、約束通り杏璃には手を出さないでくれ」

 自らの両手を上げて、武器は持っていないアピールをしてから降伏宣言する。突然の僕の降伏宣言に杏璃は怒ったように僕の腕を掴み抗議をしてきた。

「何を考えているんですか!?」

「杏璃……僕を信じてくれ」

 そう言って僕は懇願するように杏璃の大きな瞳を見つめる。
 杏璃は僕に何か考えがあるのだと悟って躊躇いながらも僕を掴んでいる手を離してくれた。大垣はその様子を見て、またあの気持ち悪い薄ら笑いを浮かべている。僕の考えが正しければ、次で大垣は、黒の悪魔は終わりだ。

「フフフッ、どうやら観念しましたか。先程の焼けるような手の痛みの原因は気になるところですが……君を殺せば問題はない」

「…………」

 ゆっくりと大垣へと向かって歩いていき、ほんのあと数センチといった所で足を止める。
 大垣は薄ら笑いを浮かべたまま、僕に向かって腕を振り上げた。
 その瞬間、僕は袖に隠し持ったその細長い張り紙を大垣の心臓目掛けて張り付けた。

「ぐわゎあぁぁっ!! お、お前! お前ぇ!」

 想像を絶する、この世のものとは思えない叫び声を上げながら大垣は胸をかきむしり崩れ落ちる。
 時間にしたらほんの数秒の出来事だったのだろう。無我夢中で動いていた僕が現状を理解した時には大垣が目の前で倒れていて、杏璃が僕の身体を抱き締めながら「……本当に良かった」と言いながら泣き崩れていた。遠くからサイレンの音が聞こえてくる。

「……本当に終わったんだ」

 いまだ現実感が戻らない頭でひとり呟くと、安堵感がじわりじわりと心の中から滲み出てくるのだった。

 (続く)


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