コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜
日時: 2017/02/18 17:23
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=34896

 
 初めまして、ゴマ猫です。

 以前からやってみたいと思っていたのと、文章力を上げるためにも短編集を今回やってみる事にしました。
 気まぐれに書こうと思ってるので、更新は基本的に不定期です。シェフの気まぐれサラダ的なやつです。はい。
 ライトな話から、少々シリアスな話まで、色々な物語を書けたらなと思っています。読んで頂いて、少しでも面白かったと思ってもらえたら嬉しいです。


 参照が8000を超えました!
 読んでくださった皆様ありがとうございます!


 以下は、自分が書いた作品です。短編集を見て「この人の違う作品も見てみたい」と思ってくださった、心優しい読者様は是非どうぞ。リンクをTOPページと1ページ目に貼りつけておきます。

 【日々の小さな幸せの見つけ方】
 こちらで初めて書いた小説です。騒がしくも穏やかな、日々を描いた作品です。文章が結構拙いかもしれません。完結作品です。

 【俺と羊と彼女の3ヶ月】
 2作目です。可愛いけど怖い羊が出てきて、記憶を消されないため、主人公が奔走します。完結作品です。
 この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!

 【ユキノココロ】
 3作目です。高校2年生の冬、清川準一はひとりの不思議な少女と出会う。主人公達の過去と現在の想いを描いた作品です。完結作品です。



 【お客様】

 スルメイカ様 

 記念すべき一人目のお客様。続きが気になると言ってくださった優しいお客様です。

 朔良様

 綺麗で繊細な描写をされる作者様です。とくに乙女の『萌え』のツボを知ってらっしゃるので、朔良様の作品を好きな読者様も多いです。かくいうゴマ猫もその一人ですね。

 はるた様

 爽やかな青春ラブコメを書かれる作者様です。甘酸っぱい成分が不足しがちな読者様は、はるた様の作品へどうぞ。言葉遣いなど、とても丁寧な作者様です。

 八田きいち。様

 さまざまな小説を書かれる多才な作者様です。いつも着眼点が面白く、続きが楽しみになるような作品を書かれています。

 峰川紗悠様

 長編ラブストーリーが得意な作者様。
 更新も早く、一話一話が短めなので長編と言っても読みやすいですよ。

  覇蘢様

 ゴマ猫の中では甘いラブストーリーを書く作者様で定着しております。いつも読んでいる人を惹きつけるようなお話を書く作者様です。

 コーラマスター様

 コメディが得意な作者様。ゴマ猫の個人的な意見ですが、コメライでコメディ色を全面に出している作品、またそれを書く作者様は少ないです。おもわず笑ってしまうような物語を書かれています。

 澪様

 丁寧な描写で読みやすく、物語の引きが上手で続きが気になるような作品を書かれてる作者様。その文章のセンスに注目です。

 せいや様

 ストーリー構成が上手い作者様。
 ゴマ猫の個人的な感想ですが、どこかノスタルジックな印象を受けます。物語のテンポも良いので、一気に読み進める事が出来ますよ。

 佐渡 林檎様

 複雑・ファジー板の方で活動されている作者様です。
 短篇集を書かれているのですが、読み手を一気に惹き込むような、秀逸な作品が多いです。気になるお客様は是非どうぞ。

 橘ゆづ様

 独特な世界観を持つ作者様です。
 普段はふわふわとした印象の作者様なのですが、小説ではダークな作品が多く、思わず考えさせられるような作品を書かれています。

 狐様

 ファンタジーがお好きな作者様。
 複雑ファジー板の方でご活躍されているのですが、ストーリー、設定、伏線、描写、全てにおいて作りこまれており、気付いた時には、いつの間にか惹き込まれている。そんな作品を書かれています。

 村雨様

 コメライで活躍されている作者様。
 バランスの良い描写と、テンポの良さでどんどんと読み進められます。今書いていらっしゃる長編小説は思わずクスッと笑ってしまうような、そんな面白いコメディを書かれています。

 ハタリ様

 遅筆気味なゴマ猫の小説を読んで頂いて、また書いてほしいと言って下さったお優しいお客様です。

 こん様

 多彩に短編を書き分ける作者様。
 読みやすい文章と、心理描写が上手です。

 亜咲りん様

 複雑ファジー板の方でご活躍されている作者様。
 高いレベルの文章力とダークな世界観をお持ちで、読みごたえのある小説を書かれています。読めば物語に惹き込まれる事は必至です。


 【リクエスト作品】

 応募用紙>>80(現在募集中)

 【朔良さんからのリクエスト】
 彼女と彼の恋人事情
 >>87-91 >>96 >>99-104

 【佐渡 林檎さんからのリクエスト】
 無題〜あの日の想い〜
 >>127-129 >>132-140 >>143 >>146-147 >>154




 【短編集目次】

 聖なる夜の偶然
 >>1

 とある男子高生の日常
 >>2-3 >>6 >>9 >>14-15

 私と猫の入れ替わり
 >>18-19 >>22-28

 魔法のパン
 >>29-30 >>34 >>37-38 >>41
 >>44 >>47 >>50-51

 時計台の夢
 >>54-66 >>69-71
 (この物語はシリアスな展開を含みますので、読む際はご注意下さい。読みやすくするためリメイク予定です)

 とある男子高校生の日常NEXT
 >>72-75 >>78-79
 (この物語は前作の番外編となっております。前作の、とある男子高校生の日常を見ないと話が繋がりません)

 雪解けトリュフ
 >>162-163

 クローゼットに魔物は居ない
 >>167-169 >>174-178 >>179
 (この物語はシリアス展開を含みます。苦手な方はご注意下さい)

 【SS小説】

 想いの終わり
 >>166

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Re: 気まぐれ短編集 ( No.21 )
日時: 2014/08/19 20:37
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Ft4.l7ID)


 スルメイカさん

 コメントありがとうございます(^^)

 また来ていただけるとは嬉しいかぎりです。今回も全6話くらいになりそうですが、最後まで見ていただけたらなと思います(^.^)
 
 ありがとうございます。少しでも面白かったなと思ってもらえるように頑張りますね! 

 

 

私と猫の入れ替わり【3】 ( No.22 )
日時: 2014/08/29 19:52
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /uGlMfie)

 全身に倦怠感を覚えながら瞼を開けると辺りは薄暗くなっており、私が倒れてしまってから少なくとも数時間は経過してしまったようだ。
 入れ替わり端末の調子が悪かったのか、それとも人体に影響があったからなのかはわからないが、どうやら人の体では入れ替わる時のショックが大きいみたいだ。

「…………」

 いつもの癖で、無意識にひとり呟こうとしていたが声が出ない事に気付いた。
 何故だ。それに体を起こしたはずなのに、やけに目線が低い。目の前の机が見上げなければいけないほど高いじゃないか。──もしや、実験が成功したのか。
 慣れない体を動かすと、さらに違和感を感じる。その違和感がする方へ視線をやると、私の手が毛むくじゃらになっていた。

「……ニャッ、ニャッ!」

 私は声にならない声をあげて興奮した。
 実験が成功したのだ。この手(正確には前足だが)は間違いなく猫の手。私とノーラの精神が入れ替わったのだ。
 よし、さっそくだが元に戻って、私を笑った奴らに目に物見せてやるとしよう。意気揚々と歩いていく途中で、疑問が浮かぶ。
 待て、ノーラは、私の体はどうしたんだ。さっきから姿が見えない。
 それどころか、入れ替わり端末も見当たらない。

「……ニャア?」

 その後、部屋の中をくまなく探してみたが、ノーラも端末も見つからなかった。


 ***


 途方に暮れた私は、家の外へと出ていた。家の中はいたるところの扉が開け放してあり、人間の体になったノーラが手当たり次第に開けたのではないかと予想する。それと、玄関の扉が開いていた事から外へと出た可能性が高くなった。
 まぁ、私が外へ出た理由はそれだけではないのだが。

「ニャア……」

 どんな姿になっても、腹は減る。
 家の中にあった食料は微々たるもので、さらにまとめて冷蔵庫の中に入れてたものだから猫の姿になった私に開けるすべはなかった。
 外へ出たものの、食料とはどこにあるものか。普段、野良猫とは何を食べているのだろうか。そんな疑問は尽きない。

「あぁ、見て見て! あの猫すっごい不細工」

「ニャッ! ニャッ!」

 ふらふらと街を歩いていると、一組のカップル(女の方)が私を指差して、不細工呼ばわりして笑ってきた。
 まったくもって不愉快だ。抗議の意味を込めて威嚇してみるが、カップル達はとくに気にした様子もなく立ち去っていった。
 ノーラがやっていた、『シャー!』という威嚇はどうしたら出来るのだろう。次にあのような輩がきたら実践したいものだ。


 ***


 ──限界だ。
 公園のベンチに疲労で重くなった体を投げ出して、横になる。かなり歩いてきたが、大した成果は得られなかった。ノーラも見つからない、食料も見つからない。……もしかしたら、私はこのまま朽ち果ててしまうんだろうか。そう思うと、急激に不安感が襲ってきた。
 私自身、極力誰とも関わらずひとりで生活してきたため、助けてくれるような知り合いは居ない。両親は今海外に行っているため、猫になっている私ではどうしようもできない。考えれば考えるほど、不安感は増して自分ではどうしようもないくらいになっていた。
 ──あぁ……誰か私を助けてくれ。

「お前、どっから来たんだ? この辺じゃ見かけない猫だな」

 涼しい夜風とともに、私の目の前で優しげな声音が耳に聞こえてきた。
 重たい体を動かして、声の聞こえてきた方向へ顔を向けると、そこには若い男。青年と言った方がしっくりくるだろうか。
 快活な印象を受ける短髪、淡いブルーの七分袖のシャツに黒のジーンズ。
 身体はスポーツでもやっているのか、引き締まっている。顔は全体的に整っていて、いわゆる『イケメン』というやつだろう。まぁ、私にはよくわからないが。

「お前、迷子か?」

「……ニャア」

「腹減ってるか?」

「……ニャア」

 会話など出来るはずもないが、青年の問いかけに応えてみる。すると青年は目を輝かせて私を見つめてきた。

「ははっ、お前、面白いな。もしかして、人の言葉わかったりして? って、んな訳ないよな」

「ニャッ! ニャッ!」

 二度と来ないかもしれないチャンスに私は懸命に鳴いた。無駄なあがきかもしれないが、もしこの青年が助けてくれる可能性があるなら、やる価値はあるはずだ。

「何だお前、マジで腹減ってんのか。んー、お袋に怒られそうだけど……よし、餌が欲しいならついてこいよ」

 そう言って青年は踵を返し、歩き出した。もちろん、普通の猫ならば言葉がわからず諦めるだろう。
 だが、私は普通の猫ではない。人間だ。青年の背中を追いかけるように、ベンチから降りて私は歩き出した。

 (続く)

私と猫の入れ替わり【4】 ( No.23 )
日時: 2014/08/29 19:55
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /uGlMfie)

「お前、マジでついてきたのな」

「ニャッ」

 君が餌、もとい、食事をくれると言うから、私は追いかけてきたというのに。そんな事を言われるとは……まったく、理不尽なものだな。
 青年を追いかけて辿り着いた先は、青年の家だった。どうやら私がここまでついてくる事は予想外だったらしく、玄関の扉の前で腕を組みウロウロしている。
 余程怖い母親なのだろうか。公園でも母親の事を気にしていたようだったな。

「よしっ、俺も男だ。猫とはいえ、約束したからには餌をやる! ……ただし、こっそりな」

「ニャア」

 青年は意を決したかのようにそう言う。
 ふむ、意外に男気があるのか。私はてっきり、このまま帰ってくれと言われるものだと思っていたぞ。
 何はともあれ、ありがたいことだな。


 ***


 青年の家には、まるで泥棒が侵入するがごとく物音一つ立てずに入っていった。青年は私が途中で鳴かないか心配だったようだが、その心配は皆無だ。
 このチャンスをふいにする程、私はバカではない。そうして着いた場所は青年の部屋だった。

「散らかってるけど適当にしてくれ。って言っても、猫のお前にはわからねえか」

「……ニャウ」

 青年の部屋は六畳半ぐらいで、全体が青を基調とした配色で統一されている。
 床に散らばるDVDのケースや、雑誌。確かに散らかっているな。しかし、私の部屋も大概なので人の事は言えない。
 しかし、あれだな。
 初めて入った異性の部屋が、この姿になってからとは皮肉なものだ。恋愛などとは無縁な人生を歩んできたせいか、その辺の感情がいまいち理解できない。まぁ、恋愛をしなくても死ぬという事はないのだから、やはり私には今後もする機会はないのだろう。

「おい、キャットフードなんて家にはないから、今買ってくるな。って、俺は何で猫に話しかけてんだか……」

 青年は嘆息混じりの笑顔を浮かべ、肩をすくめながら頭を掻く。
 どうでもいいが、猫の餌は食べたくない。脳が動くようにチョコなんかが私は食べたいのだが。研究室にこもっている時なんかは、チョコが主食だったしな。
 カロリーさえ摂取できれば生きていくのに問題ない。冬山でチョコを持っていて生還した遭難者も多々いる。つくづくチョコは偉大だな、うむ。

「ニャッ?」

 私がチョコについて考えている間に青年は外出してしまったらしい。
 しまった。このままではキャットフードを食べる羽目になってしまう。しかし扉は閉められているから部屋からは出られない。さて、どうしたものか。

 ──コンコン

 悩んでいると、扉からノック音が聞こえてきた。

「健くん? 夕飯できたけど。もう帰ってきてる?」

「ニャッ!?」

 誰かが扉の向こう側から話しかけてきている。健というのは青年の名前だろう。しかし青年は今居ない訳で、しかもこの部屋は隠れる場所がない。

「入るよ〜?」

 ──ガチャ

「ニャッ、ニャッ!?」

「あら? 猫?」

 隠れる事もできず、開けられた扉の前で鉢合わせ。
 蛇に睨まれた蛙状態で、私はそのままフリーズしてしまった。

 (続く)

私と猫の入れ替わり【5】 ( No.24 )
日時: 2014/08/29 19:57
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /uGlMfie)

 絶体絶命のピンチに、私が見つめるその女は柔らかい笑みを浮かべた。
 セミロングくらいの綺麗な黒髪に、白いブラウス、フリルの付いた青いスカート。大きくて少しタレた瞳、全体的にフワフワしている印象だ。見た目だけだと、いいとこのお嬢様といった感じだろうか。

「あらあら、迷い込んじゃったのかな? ほら、こっちにおいで〜。私が外に連れて行ってあげるから」

「ニャッ!」

 冗談ではない。
 やっとこれから食事にありつけるかもしれないというのに、今、外に出されてしまったら全てが水の泡だ。私が必死に抵抗をすると、彼女は困ったような表情になり、あごに指をあてて思案するようなポーズをとる。

「健くんの部屋が気に入っちゃったのかな〜。うーん、どうしよう」

 彼女の間延びした声は、私にとってどうにも耳障りだ。癖なのかワザとなのかはわからないが、もう少しハキハキ喋ってほしい。
 やがて彼女は何か思いついたのか、青年のベットに向かって歩き出し、そのまま青年の布団にくるまって寝始めた。
 あの女は何がしたいのだろうか。

「ほらほら〜、ふかふかの布団だよ? 一緒に寝よう猫ちゃん」

「…………」

 布団で誘って私を捕まえようなどと、そんな浅知恵に引っかかる訳がないだろう。というか、もしかして彼女はちょっとアレな性格なのか。どういう関係性か知らないが、あんなのが近くに居るのでは青年も苦労するな。
 私が無反応だったのに彼女はショックを受けたのか、ベットの上でうなだれている。

 ──ガチャン

 その時、部屋の扉が勢いよく開いた。

「悪いっ! どれ買うか迷って遅くな──」

 コンビニの袋を持った青年が、私に向かって言葉を投げかけた瞬間、部屋の中に居るちょっとアレな彼女を見て硬直した。そして、すぐさま怒りの表情に変わる。

「姉さん! 何で俺の部屋に居るんだよ!」

「夕飯の時間だから呼びに来たんだよ〜。そしたら、可愛い猫ちゃんが居たから、つい」

 怒られているというのに、相変わらず眠くなりそうな声音で受け答えをする彼女。どうやら彼女は、青年の姉みたいだな。そして、青年は弟で名前は『健』というのか。まぁ、私にとってはどうでもいい情報だ。

「つい、じゃないよ。いつも勝手に部屋に入らないでくれって言ってるだろ。それと、猫の事はお袋には黙っててくれ」

「ご、ごめんね。健くんを怒らせるような事して……。猫ちゃんの事は黙っておくけど、お母さんに知られる前に元の場所に帰してあげた方がいいと思うよ?」

「……っつ! 姉さんに言われなくてもわかってるよ!」

「……ご、ごめんね」

 私は口論する青年と彼女を横で見上げながら、どうにも居心地の悪さを感じていた。姉弟ゲンカか。私には上も下も居なかったから、こんな風にケンカをする事もなかったな。どうしようも出来ず、私はその光景を静観していた。


 ***


 結論から言うとケンカは収まった。だが、途中青年の姉の前で、青年がケンカ腰になったためか、騒ぎを聞きつけて青年の母親が部屋にやって来て家族会議にまで発展するという事態に陥った。
 その結果、母親に『ちゃんと飼えるのなら全部ひとりでやってみろ』と言われ、青年は『やってやるさ!』と、売り言葉に買い言葉。
 私を一週間だけ試しに飼ってみて、青年がキチンと世話を出来るか見るつもりらしい。ひょんな事から話がズレてしまっていたが、当分の間はここを拠点とできるのだから文句はない。
 しかし、若いというのは頭に血が上りやすいものなのだな。

「ったく、お袋も姉貴もいちいち俺に突っかかってくるんだよな」

「……ニャ」

 そう言って、部屋の中で青年は愚痴るように私に向かって呟く。
 私からすれば、青年はあそこで彼女(姉)の言うことに反発せずに、餌を食べさせたら私を元の場所へ戻せばよかったように思う。当初の予定はそのはずだった訳だし、反抗期というやつだろうか。
 ……それにしても、このキャットフードという物は匂いがキツいな。とてもじゃないが、食べられそうにない。
 青年が厚意で買ってきてくれたのだし、無駄にはしたくないのだが。

「お前、腹減ってんじゃないのかよ? せっかく買ってきたんだ。遠慮せず食えよ」

「…………」

 そう言って、青年は不思議そうな表情で私を見つめる。本当に申し訳ないが、遠慮させていただきたい。
 プラ容器に入れられた猫用のドライフード。猫大好きのフレーズでお馴染みのキャットフードを見つめながら考える。青年は夕飯をボイコットしたのか、鞄から出したあんぱんを食べていた。私にも、そのあんぱんを一口くれないだろうか。そんな願いを視線に乗せて青年を見つめる。

「……な、なんだよ? あんぱん食いたいのかよ?」

「ニャウ! ニャウ!」

 今日一番の鳴き声で、青年問いかけに応える。すると、青年は吹き出すように笑い始めた。

「お前、あんぱんなんて食うのかよ。面白い猫だなぁ」

「ニャウ」

 青年は笑いながら、持っているあんぱんから少しちぎって私の目の前に置いた。その瞬間、私は勢いよくあんぱんをたいらげた。
 うむ、やはり甘い物は良い。少量でも、少し元気が出てきた気がする。その様子を見て、青年は柔らかな笑みを浮かべながら私の頭を撫でた。

「変わった猫だなぁ。お前」

「…………」

 不意打ちとでも言うのだろうか。
 青年の私を見つめる、その表情がとても優しくて、不覚にも私は胸が早鐘を打つように高鳴ってしまった。

 (続く)

私と猫の入れ替わり【6】 ( No.25 )
日時: 2014/08/29 19:59
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /uGlMfie)

 ──昨日から私の胸が苦しい。それは胸の奥を締めつけられるように、鼓動が早くなる。どうしてしまったのだろう。入れ替わりの影響か、それとも病気なのだろうか。結局、昨日は青年の部屋で眠れぬ夜を明かした。

「どうした? 今日は元気ないな」

「…………」

 青年の大きくてゴツゴツとした手が私の頭を優しく撫でる。とても心地良い。
 一体どれくらいぶりだろうか。こうして人に頭を撫でられるのは。遠い記憶の底の底を探してもあるかわからないが、それでも身体が覚えている。ひとりに慣れ過ぎて忘れていたのかもしれない。

『では、次のニュースです』

 目を細めてその心地良さに浸っていると、テレビから見慣れた人物の姿の映像が飛び込んできた。

『昨夜未明、都内在住の深山 葵さんが道路脇で倒れている所を通行人が発見、深山さんは病院に搬送されましたが命に別状はないとの事です』

「ニャッ!」

 ──わ、私がテレビに出ている。
 いや、私はここに居るのだから、あっちはノーラか。あいつめ、何をやっていたんだ。

『深山さんは、昨日都内某所での発明発表会場で自らの発明を否定され──』

 まったく、マスコミは好き勝手に言ってくれるな。間違いではないが、それで自棄になるほど私はやわではない。
 おっと、それよりノーラの居場所がわかったのだ。きっとそこに入れ替わり端末もあるはず。そうしたら、この猫の姿ともお別れだ。

「なーに考えてんだろうな。この人」

「…………」

 私が、もし私が、このままこの猫の姿のままだったなら、青年とずっと一緒に居られるのだろうか。
 人間の姿に戻ってしまえば、青年とはもう会うことはない。青年の横顔を見つめながら、そんな考えが頭の中を一瞬よぎる。
 ……私は、何を考えてるんだ。


 ***


 学校へ行くという青年と一緒に外へ出て、ノーラの元へ行こうとしたのだが、青年と青年の姉に止められてしまった。
 青年は高校生らしく、青年の姉は大学生らしい。今日は授業が午後からという事で青年を見送っていた。わだかまりの気持ちをまだ残しながらも青年は「いってきます」と言って出かけた。
 私は青年の姉……この呼び方は面倒だな。一応、母親が彼女の事を呼んでいたのを聞いていて、名前は知っているので名前で呼ぶとしよう。春花はるかに抱きかかえられて、青年の部屋に強制送還させられた。

「猫ちゃん、お部屋でおとなしくしててね。後でご飯持ってくるから」

 そう言うと、春花は部屋を出ていってしまう。もちろん扉を閉めて。
 さて、どうしたものか。扉を閉められてしまうと私の力では開ける事はできない。やはり餌、もとい、食事の時間を待って、隙を見て脱出がいいだろうな。


 ***


 ──ガチャ

「お待たせ、猫ちゃん。キャットフードだよ」

「……ニャウ」

 春花が持ってきたのは、昨日青年が買ってきてくれたドライタイプのキャットフード。
 またこの匂いがキツい猫の餌か。なんとかしてチョコを食事に出してくれないものだろうか。さすがに昨日から食べた物が、あんぱん一欠片では辛いな。水も欲しいところだが、伝える手段がないとは何とも歯がゆいな。

「食べないの?」

 私が餌を食べない事を心配してか、春花はやや不安げな表情で私を見つめていた。春花には申し訳ないが、やはりキャットフードは食べられそうにない。
 すると春花は、人差し指をあごにあてて、うーんと考えるポーズをする。以前にもやっていたが癖なんだろうか。

「そうだ! 少しお散歩しようか? 運動したらお腹減るよ〜」

「……ニャ」

 春花はそう言って、無邪気な笑顔で私に問いかける。春花は悪い人ではないと思うんだが、少しズレてるというか、天然というか。どうもフワフワしているな。
 しかし、母親に見つかったら怒られるのではないか? 青年ひとりで世話をすると約束したのに、春花が手伝ってしまっては……また後でケンカにならなければいいのだが。


 ***


「うーん、いいお天気だねぇ」

 私は春花に抱きかかえられたまま、平日の公園のベンチにて日向ぼっこをしている。普段、日光に当たる時間が少ない私にとって、これは拷問としか言えない。まだ夏じゃなく、春で良かったと思うべきか。

「猫ちゃんも気持ちいい? 毛繕いしてあげるね」

 春花は私をベンチに降ろして、手櫛で私の毛を優しく撫でるようにとかす。
 ──き 、気持ちいい。しかし、春花は大学は行かなくていいんだろうか。随分と余裕があるみたいだが……まさか、忘れている訳ではないよな。
 それはさておき、外に出れたのだからノーラの所へ向かうべきだろう。

「ニャッ!」

「あっ! 猫ちゃん!」

 春花の隙をみて、私は全速力で逃げ出した。ぐんぐんと加速して、春花を置いてきぼりにする。そのスピードは素晴らしく、あっという間に春花の姿は見えなくなっていた。しかし慣れない身体で走ったせいなのか、普段の運動不足がたたっているのか、途中で息が切れてきて足が止まってしまう。

「…………」

 やっとの事で呼吸を整えて顔を上げると、私の目の前には見た事のない景色が広がっていた。

 (続く)


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