コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜
- 日時: 2017/02/18 17:23
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=34896
初めまして、ゴマ猫です。
以前からやってみたいと思っていたのと、文章力を上げるためにも短編集を今回やってみる事にしました。
気まぐれに書こうと思ってるので、更新は基本的に不定期です。シェフの気まぐれサラダ的なやつです。はい。
ライトな話から、少々シリアスな話まで、色々な物語を書けたらなと思っています。読んで頂いて、少しでも面白かったと思ってもらえたら嬉しいです。
参照が8000を超えました!
読んでくださった皆様ありがとうございます!
以下は、自分が書いた作品です。短編集を見て「この人の違う作品も見てみたい」と思ってくださった、心優しい読者様は是非どうぞ。リンクをTOPページと1ページ目に貼りつけておきます。
【日々の小さな幸せの見つけ方】
こちらで初めて書いた小説です。騒がしくも穏やかな、日々を描いた作品です。文章が結構拙いかもしれません。完結作品です。
【俺と羊と彼女の3ヶ月】
2作目です。可愛いけど怖い羊が出てきて、記憶を消されないため、主人公が奔走します。完結作品です。
この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!
【ユキノココロ】
3作目です。高校2年生の冬、清川準一はひとりの不思議な少女と出会う。主人公達の過去と現在の想いを描いた作品です。完結作品です。
【お客様】
スルメイカ様
記念すべき一人目のお客様。続きが気になると言ってくださった優しいお客様です。
朔良様
綺麗で繊細な描写をされる作者様です。とくに乙女の『萌え』のツボを知ってらっしゃるので、朔良様の作品を好きな読者様も多いです。かくいうゴマ猫もその一人ですね。
はるた様
爽やかな青春ラブコメを書かれる作者様です。甘酸っぱい成分が不足しがちな読者様は、はるた様の作品へどうぞ。言葉遣いなど、とても丁寧な作者様です。
八田きいち。様
さまざまな小説を書かれる多才な作者様です。いつも着眼点が面白く、続きが楽しみになるような作品を書かれています。
峰川紗悠様
長編ラブストーリーが得意な作者様。
更新も早く、一話一話が短めなので長編と言っても読みやすいですよ。
覇蘢様
ゴマ猫の中では甘いラブストーリーを書く作者様で定着しております。いつも読んでいる人を惹きつけるようなお話を書く作者様です。
コーラマスター様
コメディが得意な作者様。ゴマ猫の個人的な意見ですが、コメライでコメディ色を全面に出している作品、またそれを書く作者様は少ないです。おもわず笑ってしまうような物語を書かれています。
澪様
丁寧な描写で読みやすく、物語の引きが上手で続きが気になるような作品を書かれてる作者様。その文章のセンスに注目です。
せいや様
ストーリー構成が上手い作者様。
ゴマ猫の個人的な感想ですが、どこかノスタルジックな印象を受けます。物語のテンポも良いので、一気に読み進める事が出来ますよ。
佐渡 林檎様
複雑・ファジー板の方で活動されている作者様です。
短篇集を書かれているのですが、読み手を一気に惹き込むような、秀逸な作品が多いです。気になるお客様は是非どうぞ。
橘ゆづ様
独特な世界観を持つ作者様です。
普段はふわふわとした印象の作者様なのですが、小説ではダークな作品が多く、思わず考えさせられるような作品を書かれています。
狐様
ファンタジーがお好きな作者様。
複雑ファジー板の方でご活躍されているのですが、ストーリー、設定、伏線、描写、全てにおいて作りこまれており、気付いた時には、いつの間にか惹き込まれている。そんな作品を書かれています。
村雨様
コメライで活躍されている作者様。
バランスの良い描写と、テンポの良さでどんどんと読み進められます。今書いていらっしゃる長編小説は思わずクスッと笑ってしまうような、そんな面白いコメディを書かれています。
ハタリ様
遅筆気味なゴマ猫の小説を読んで頂いて、また書いてほしいと言って下さったお優しいお客様です。
こん様
多彩に短編を書き分ける作者様。
読みやすい文章と、心理描写が上手です。
亜咲りん様
複雑ファジー板の方でご活躍されている作者様。
高いレベルの文章力とダークな世界観をお持ちで、読みごたえのある小説を書かれています。読めば物語に惹き込まれる事は必至です。
【リクエスト作品】
応募用紙>>80(現在募集中)
【朔良さんからのリクエスト】
彼女と彼の恋人事情
>>87-91 >>96 >>99-104
【佐渡 林檎さんからのリクエスト】
無題〜あの日の想い〜
>>127-129 >>132-140 >>143 >>146-147 >>154
【短編集目次】
聖なる夜の偶然
>>1
とある男子高生の日常
>>2-3 >>6 >>9 >>14-15
私と猫の入れ替わり
>>18-19 >>22-28
魔法のパン
>>29-30 >>34 >>37-38 >>41
>>44 >>47 >>50-51
時計台の夢
>>54-66 >>69-71
(この物語はシリアスな展開を含みますので、読む際はご注意下さい。読みやすくするためリメイク予定です)
とある男子高校生の日常NEXT
>>72-75 >>78-79
(この物語は前作の番外編となっております。前作の、とある男子高校生の日常を見ないと話が繋がりません)
雪解けトリュフ
>>162-163
クローゼットに魔物は居ない
>>167-169 >>174-178 >>179
(この物語はシリアス展開を含みます。苦手な方はご注意下さい)
【SS小説】
想いの終わり
>>166
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- 時計台の夢【3】 ( No.56 )
- 日時: 2014/10/13 23:54
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: yV4epvKO)
市役所を出て腕時計で時刻を確認すると、既に正午になろうとしていた。
こんなに時間がかかるとは思ってもみなかった。杏璃はひとりで大丈夫だろうか。まぁ、うちのお店はそうそう混雑する事はないから問題ないと思うけど。それでも、のんびりお昼を食べて帰る訳にはいかないし、それに気になって昼食どころではないだろうしなぁ。
そんな事を考えながら、やや早足で店へと急いだ。
***
「透さん、おかえりなさい。早かったんですね。市長のお話はなんだったんですか?」
店に戻ると、静かな店内で杏璃が商品の入ったショーケースを磨いていた。
よほど暇だったのか、店内にあるほとんどのショーケースは綺麗に磨き上げられていて、何年も使っていたはずなのにまるで新品のようになっている。
「ただいま。うん、仕事をもらったよ。中央公園にある時計台の修理なんだけど、かなり良い条件でね」
僕がそう言うと、杏璃は少し驚いたあと嬉しそうに頬を緩めた。
「それは良かったですね。朝出かける時に透さんが難しい顔をしていたので、少し心配していたんです」
「そうだったっけ? とにかく、これなら杏璃の給料も多めに払えそうだよ」
「私のお給料は今のままで充分ですよ。……透さんの……なら」
杏璃は俯きながら頬を赤くしてそんな事を言う。最後の方は小声過ぎて何を言っているのかわからなかったけど、謙虚な杏璃らしい反応だ。だけど、それでは僕の気が収まらない。杏璃には内緒で、給料日に増額分をこっそり入れておく事にしよう。
それはさておき、僕には一つ心配な事ができてしまった。杏璃の額にそっと手を伸ばし、柔らかな前髪をかきあげ手の平を額につける。いわゆる簡易的に熱を測る時のあれだ。
「わわっ! き、急に何をするんですか?」
「……うん、熱はないみたいだね」
杏璃の額を通して僕の手の平に伝わってくる温度は、高くもなく、低くもない。
とりあえず平熱みたいだけど、風邪は引き始めが肝心ともいうから油断はできない。今日の所は杏璃にはもう休んでもらって、あとの仕事は僕がやるとしよう。そんな事を考えていると、杏璃に上目遣いで抗議の視線を向けられる。
「透さん、もしかして、私の体調が悪いんじゃないか? とか思ってます?」
「えっ、違うの? 風邪は引き始めが肝心って言うし、杏璃には休んでもらって、このあとの仕事は僕がひとりでやろうと思ってたんだけど」
僕がそう言うと、杏璃は肩を落として項垂れる。なにかマズかったのだろうか。
「……もういいです。私は元気ですから、心配しないでください。それと、お昼は作ってありますから奥で食べてきてくださいね」
「……あぁ、うん。ありがとう」
杏璃のその言葉とは裏腹に、声のトーンが下がっていて、先ほどより杏璃の元気がなくなってしまったのがわかる。うーん、もしかして僕のせい……なのかな。
結局、その後も杏璃の態度がどうしてそうなったのか理解できず、ただ時間だけが過ぎていった。
***
閉店時間になり、店のシャッターを下ろすと僕は中央公園に来ていた。
さっそく明日から時計台の修理をする予定になっているので、その前に下見をしておきたかったからだ。ちなみに杏璃にあとの事を任せてきたのだが、閉店する頃にはいつもの杏璃に戻っていたので安心した。あれはなんだったのか気になるけど、自問自答しても答えは出なそうだし、いつか杏璃に聞いてみようかな。
公園の中心にある時計台。時計台と聞くと、大きな建造物を想像しやすいが、ここの時計台はそんなに大きい訳ではない。薄茶色のコンクリートブロック、高さは二階建ての家くらいで、塔のようになっている。
最上部には大きな円形型の時計、中には時計台の裏手から入れるようになっており、メンテナンスなんかはこの中に入ってやる訳だ。もちろん、普段は鍵がかかっていて許可されてない人は勝手に入れないのだけど。
「……たいした故障じゃなければいいんだけど」
月光に照らされる時計台を見ながらひとり呟く。
あんまり時間がかかるよう代物だと、店番をする杏璃の負担が増えてしまうため好ましくない。そういえば、市長が変な事を言っていたよな。悪魔が居るとかなんとか。
そんなものは最初から信じていないけど、やはりどう考えてもそんないわくつきの建物には見えないな。
「立派な時計台ですよね」
「うわぁっ!」
時計台に集中していたせいか、背後に人が居る事に気付かず、さらに急に声をかけられたため驚いて奇声をあげてしまった。
「おっと、すいません。驚かせるつもりはなかったんですよ。熱心に時計台を見られていたから、つい」
そう言って、にこやかに笑う男性。白のシャツの上に黒色のスーツで身を包み、褐色の肌にハリネズミのような短髪。見た目的には、二十代後半といったところだろうか。
「こちらこそ大きな声を出してしまって、すいません……」
「いえいえ、ところで、どうして熱心に時計台を見られていたのですか?」
不思議そうな表情で男性が僕に問いかけてくる。
「実は、僕が今度この時計台の修理をする事になったんですよ。それで、今日は下見を……と言っても、今日は鍵を持ってないので中には入れないんですが」
僕がそう言うと、男性の顔が一瞬だけ驚いたような表情になったが、すぐさま笑みを浮かべる。
「……もうこの時計台を修理する人は居ないのかと思っていましたが、嬉しいかぎりです。あっ、私はフリーの記者でしてね。もしよろしかったら取材させてもらっても?」
男性がスーツの胸ポケットから取り出した名刺を受取る。名刺には、緑葉ドリーム新聞社、大垣 竜(おおがき りゅう)と書かれている。
聞いた事がない新聞社だな。マイナー紙なんだろうか。条件反射的に僕も名刺を渡そうとしたが、あいにく店に置いて来てしまっていた事に気付く。
「すいません、名刺を持ってきてなくて……僕は水島と申します。それと、取材の件ですが、市長に許可をもらわないと、僕の独断では……」
「なるほど。では、私の方から市長に伺ってみますよ。もし許可が取れたら、その時はまたお会いしましょう」
大垣さんは爽やかな笑みを浮かべると、聞きたい事は聞いて話は終わったとばかりに踵を返す。そして、少し距離が離れたところで僕の方に振り返った。
「水島さん、あなたとは、仲良くなれそうな気がしますよ」
「……それは、どうも」
言い終えると、大垣さんは今度こそ帰っていった。
……なんだか、変わった人だったな。また会う事はあるんだろうか。そんな疑問を抱きながら僕も自宅へと帰ることにした。
(続く)
- 時計台の夢【4】 ( No.57 )
- 日時: 2014/12/30 15:43
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: a0p/ia.h)
「……フッ、フフフッ」
どこからか聞こえてくる、低く、不気味な笑い声。——なんだ、これ? 漆黒の空間にボンヤリと光る明かり。そこに、僕は立っていた。
僕が立っている場所以外は明かりがなく、一メートル先も見通せないほど周りは暗闇に包まれている。
ここはどこなんだろう? そんな疑問が浮かび、あたりを調べようとするが体が動かない事に気付く。それはまるで、金縛りにでもあったかのように、意識はあるのに体が動かない感覚。
「…………」
——声が出ない。喉の奥に何かが詰まっているようで、必死に頑張っても口をパクパクさせる事しかできずに肝心の声が出ない。一体、何が起きているんだ。
言いようのない不安感に襲われていると、今度はどこからか音が聞こえてきた。
ドスン、ドスン、と、そんな音とともに、振動で地面が小刻みに揺れているのがわかる。
次第に近づいてくるその音は、どうやら僕の後ろから聞こえてきているようだ。そして、その音が僕の背後まで来たところで止まった。
後ろに何か居る。気配は感じるけれど、振り向けない。体が動かない事もあるが、異様なまでの恐怖感が僕を支配していて、振り向くのが怖いのだ。見てしまったら全てが終わりそうな気さえする。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、背後に居るであろうその正体不明の存在は、僕の背後から回るようにして、僕の正面に来た。
視線に飛びこんできたのは、馬の蹄のような脚に、脚下から伸びた黒い毛に覆われ、ガッチリとした、およそ人ではないその丸太のような太腿。本能的に顔を見てはいけないという危険信号を体が発して、視線を下げて顔を見ないようにしているが、いつまでこの状態でいられるのかわからない。僕の心拍数は恐怖で極限まで達していて、体中から汗が滲み出ている。
「……フフフッ」
地の底から出てくるような不気味で低い声が僕の耳の奥に響く。
たまらず足元から視線を逸らすと、ボンヤリと光る明かりで二つの影ができていて、そのシルエットが見えた。なんて大きさなんだ……。
その正体不明の存在は身長三メートル以上はあるであろう巨大な体躯、影だけでもわかる、はち切れんばかりの形をしたガッチリとした上半身。面長の顔に、頭の上部には動物の角のようなものが付いているようにも見える。
一体、何が目的なんだ? そして僕はどうしてこんな得体のしれない場所に居て、こんな怪物のような奴が僕の目の前に居るんだ?
「コンドコソ……」
正体不明の存在のその不気味な声に全身が粟立つ。
そして次の瞬間、影で見えている丸太のように太い両腕が僕の方に伸びてきて、僕の首を————
***
「うわぁぁぁ! …………あ、あれ?」
悪夢のような光景から一転、目を開けると見慣れた自分の部屋のベットで僕は寝ていて、白色のカーテンからは朝の柔らかな薄日が射し込んでいた。
あれは、夢だったのか? それにしては恐ろしくリアルな夢だ。じっとりした嫌な汗を全身にかいており、僕の肌にまとわりついている。それはまるで、あれは夢じゃないと体が言っているようで、さすがに怖くなった。
——ガチャ
「透さん! さっきの声はなんですか!?」
「あ、杏璃?」
血相を変えて部屋に飛び込んできたのは、杏璃。
まだ起きて間もないのか、肩まである長く綺麗な黒髪が少しはねている。白地に青の水玉のパジャマ、いつもきちっとしている杏璃のこんな姿を見るのは初めてだ。
さておき、不安そうに見つめる杏璃にこれ以上心配をかけるわけにはいかないか。起き上がり、ベットに座り直してから僕は精一杯の笑顔を作って対応する事にした。
「いや、なんでもないんだ。ちょっと寝ぼけてたみたいでさ」
僕がそう言うと、杏璃は訝しむような表情で見つめてくる。
言い訳としては悪くなかったというか、もっともな事を言ったと思うんだけど、僕の演技力の問題なのか、逆に不信感をあたえてしまったようだ。
「……透さん、嘘ついてますね」
「……そ、そんな事ないよ」
杏璃の透き通るような綺麗な瞳で見つめられると、僕は隠し事ができないみたいだ。
どもるような口調になってしまい、ますます怪しさがアップしてしまった。これ以上押し問答を続けると、逆に杏璃に心配されてしまうかもしれないな。まぁ、別にそこまでして隠さなきゃいけない話ってわけでもないし、杏璃に話しても問題ないか。
ふぅ、と軽く息を吐いてから手をあげて降参のポーズをする。
「僕の負けだ。だからそんな目でみないでくれ。……本当、たいした話じゃないんだ。少し怖い夢を見ただけでさ」
「怖い夢……ですか。どんな夢をだったんですか?」
僕がそう言うと、杏璃は不思議そうに問いかけてくる。
「うん、かなりリアルな夢でね。あとちょっと起きるのが遅かったら危なかったかもね。もちろん、夢の中の話だけどさ。ははっ」
実際はかなり鬼気迫るものがあって、夢だとわかった後も嫌な感じが残っていた。だけど、それは言う必要はないだろう。どちらにしたって、夢なのだから。これ以上この話を引っ張る必要も——
「って、杏璃! な、なにして!?」
笑い飛ばして話を終わりにしようとすると、ベットに座る僕の頭を杏璃が抱え込むような形で抱き締めてきた。杏璃の温かな体温と、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「……小さい時、私が怖い夢を見ると、お母さんがきまって私を抱き締めてくれたんです。お母さんに抱き締められると、怖い夢の事も忘れちゃって、とっても温かい気持ちになったんですよ?」
杏璃は僕を抱き締めたまま、優しい声音でそう言う。
そ、そりゃ、小さい時はそうかもしれないけど、僕はもう大人だ。しかも僕は男で、杏璃は女の子、さらに杏璃みたいに可愛い子にこんな事されたら意識しない訳がないわけで。
「……あ、杏璃、もう怖くなくなったから……その……できれば、離れてくれると」
「……あっ、ああっ、す、すいません! 私ったら……つい。なんとかしようって、夢中で……その」
僕がそう言うと、杏璃は後ろに飛ぶように勢いよく離れて、自分のした行動に今気付いたかのように頬を紅潮させていく。
あやまりながら、わたわたと焦っている姿はまるで小動物のようだ。かくいう僕も冷静なわけではない。今だって心臓がバクバクと自分の心臓じゃないみたいに鼓動が早い。
「……わ、私、朝食の準備しますね!」
杏璃はそう言って、逃げるように僕の部屋から出て行った。
ふう、なんだか今の出来事で怖い夢の事なんかすっかり頭の中から消えてしまった。結果的に杏璃に感謝、だな。……心臓には良くないけど。
その後、朝はお互いに意識してしまってか、杏璃とは会話らしい会話がなかった。
(続く)
- 時計台の夢【5】 ( No.58 )
- 日時: 2015/03/31 17:45
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
「うん、問題はなさそうかな」
市役所に行き、市長から時計台の鍵を受取ると、僕は時計台の内部に入り点検を始めた。
長い間動いてなかったせいか所々錆びている。それと、オイル切れしていて軸受け部分が(文字盤を動かすシャフトを支える金具の事)摩耗していたのが原因と考えられる。オイルを挿して、少し部品交換すれば問題はなさそうだ。……というのが、僕の予想。
不思議な話なのだが、一通りチェックしてみたけれど、他にそれらしい故障原因は見当たらないし、考えづらい。この程度なら、なぜ今の今まで修理されなかったのか? 費用の問題ではなさそうだし、唯一、思い当たるとすれば市長のあの意味深な発言。
『あの時計台には悪魔が居る』もちろん、信じている訳ではないが、心に引っ掛かるのも確かだ。今朝の夢……杏璃のあれこれで恐怖なんて飛んでしまったけれど。
あの夢がもし、この時計台を修理しようとした人達が見た悪夢だとしたら? そう考えると、とても恐ろしい気がした。
「……でも、それを考えても仕方ないか」
案ずるより産むが易いとも言うしな。
噂に尾ひれが付いて広まったとも考えられるし、僕も心のどこかで気にしていたから、あんな夢を見たって可能性もある。
ひんやりとした空気の時計台の内部でそんな事を考える。とにもかくにも、今は店に戻って道具を持ってくるとしようか。僕は時計台内部の螺旋階段を下って出入口へと向かった。
***
「やぁ、奇遇ですね。さっそく今日から修理作業ですか?」
時計台の内部から出ると、そこには待ち構えていたかのように大垣さんが立っていた。
つい先日、時計台の修理のために下見をしにきた時に偶然知り合ったフリーの記者で、この時計台の修理の話をした時にとても興味を抱いていた人だ。
その時の口ぶりから、また会う事になりそうな気はしていたが、まさかこんなに早くに会う事になるとは思ってもみなかった。
「この間はどうも。えぇ、思ったより早くに直りそうですよ」
僕がそう答えると、大垣さんは一瞬驚いてからすぐさま嬉しそうな表情に変わる。
余程この時計台に思い入れがあるのか、それともただ単純に時計が好きなのか、それはわからないが、もしその事を記事に取り上げてもらえたならば、うちの店も少しは繁盛するだろうか。
「うん、うん。やはり私の睨んだ通り水島さんは優秀な方だ。……それで、いつからここの時計は動くんです?」
「いえ、本当にたいした事なかったので。最短で今日には……遅くても明日には。多分、放置されていたのが原因だとは思います」
大垣さんは待ちきれないといった感じだな。
こんなに喜んでくれる人がいるのだから、この仕事を引き受けて良かった。始めは報酬目当てで引き受けたから、市長以外は気にも留めないんじゃないかと思っていたけど。
「そんなに楽しみにしてもらえると、こちらも嬉しいですね」
「フフフッ、私は時計台が再び動き出すのをずっと待っていましたからねぇ。とても楽しみですし、嬉しいですよ」
大垣さんは時計台を見上げながら本当に楽しそうにそう言う。
うん、俄然やる気が出てきた。杏璃のためにも、大垣さんのためにも早く修理しなくちゃな。大垣さんとの話もそこそこに、中央公園を出て僕は店へと急いだ。
***
店へと戻ると、杏璃が今日も商品が入ったショーケースを丁寧に磨いていた。
今日もお客さんで賑わう事もなく、店内は静かに時を刻む時計の音だけが聞こえていた。
わかっちゃいるけど、うちのお店は開店休業状態が続いているな。だけど、この仕事を終わらせて、大垣さんに記事を書いてもらえれば、この状況も少しは変わるかもしれない。
そんな事を考えていると、杏璃は僕が帰ってきた事に気付いた。
「……と、透さん。お、おかえりなさい」
「た、ただいま。またすぐ出ちゃうけど、店の方は任せたよ」
今朝の事をまだ少し気にしているのか、杏璃は俯き加減で頬を赤らめていた。
そんな態度を取られると、せっかく忘れていたのに今朝の事を思い出して僕の方もまた意識してしまう。……って、杏璃によこしまな気持ちを抱くなんて、自己嫌悪しそうだ。
頭を左右に振って自らに喝を入れ、煩悩を振り払う。よしっ、もう大丈夫。
「まっ、待ってください! ……明日は透さんの誕生日ですよね。お店も定休日ですし、時計台のお仕事がないのなら、一緒にどこか行きませんか?」
杏璃の提案に少しの間考えを巡らせる。
僕の誕生日なんてどうでもいい事だけど、普段から働き過ぎな杏璃の気晴らしに少しでもなるのなら、どこかへ行くのも悪くない。それに、時計台の修理は今日中には終わってしまいそうだし。もろもろの仕事は翌日に回したとして、市長には報告だけすれば午後は一日フリーだ。
「うん、いいよ。じゃあ行きたい所があったらリストアップしておいて」
「私が行きたい所ではなく、透さんの行きたい所じゃなきゃ意味がないんです」
杏璃は口を尖らせるようにしてそんな事を言う。
うーん、なかなか難しいな……僕の行きたい所なんてあったかな。
「わかった。明日までには考えておくよ」
「はいっ! 私、楽しみにしていますね!」
僕の誕生日で行く所を杏璃が楽しみにするというのも可笑しな話ではあるけど、杏璃が楽しそうならなんでもいいか。
***
再び中央公園に戻ってきた僕は、持ってきた道具を使い手早く修理をしていく。
店にあったパーツで使えそうな物もいくつか持ってきて、使えそうな部品だけ使っていく。それから程なくして、本当にあっという間に修理が終わってしまった。
「拍子抜けするくらい、あっという間だったな」
あとは、電源を入れて動くかどうかチェックするだけだ。
僕は電源レバーの所へと移動すると、レバーの部分に白い紙が貼ってある事に気付く。
その紙は短冊のように縦に細長い形をしていて、紙にはかすれた文字が書いてあった。
「……絶対に剥がすな……か」
誰かの悪戯だろうか? しかし、この時計台の内部に入れる人は限られている。
つまり、関係者がこれを貼ったという事になるのだが……。僕も間近に来るまでわからなかったし、前に誰かが何らかの目的で貼ったと考えるのが自然か。
よく見ると、その文字の下にも続きがあるようだけど、こちらは読めないほど消えかかってしまっている。
「……まぁ、市長からはなんの報告も受けてないし、以前の業者が貼ったままにして忘れてしまったんだろう」
僕はその張り紙を剥がすと、電源レバーを入れた。
すると、時計がゆっくりと動き出し、時を刻み始めた。うん、良かった。思った通りだったな。
「さて、修理も終わったし、外に出て確認したら店に戻るか」
早く終わったと言っても、なんだかんだで結構いい時間だ。市長への報告は明日にして、今日は帰るとするか。そう思い、僕は時計台を後にした。
(続く)
- 時計台の夢【6】 ( No.59 )
- 日時: 2014/12/18 21:12
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: FpNTyiBw)
「……フッ、フフフッ」
どこからか聞こえてくる、低く、不気味な笑い声。漆黒の空間にボンヤリと光る明かり。妙に既視感がある光景。僕は昨日もこの夢……いや、悪夢を見ていた。
金縛りにでもあったかのように、意識はあるのに体が動かない感覚。この感覚も同じだ。
「…………」
——そして、やはり声が出ない。まるで昨日の悪夢をリピート再生しているかのように今度はドスン、ドスン、と、そんな音とともに、振動で地面が小刻みに揺れる。近づいてくるその音は、僕の背後まで来たところで止まった。
そして、その正体不明の存在は、僕の背後から回るようにして僕の正面に来た。
「……フフフッ」
地の底から出てくるような不気味で低い声が聞こえてくる。
昨日も経験したはずなのに、正体不明の存在のその不気味な声に全身が粟立つ。
そして次の瞬間に、影で見えている丸太のように太い両腕が僕の方に伸びてきて、僕の首を————
***
「うわぁぁぁ! …………ま、またか」
目を覚ますと、見慣れた自分の部屋のベットで僕は寝ていた。
またあの夢だ。一体、なんだっていうんだ。二日続けて同じ夢を見るなんて……あの悪魔のような姿と声が再び脳裏に焼き付いてしまった。少し疲れているんだろうか。
——ガチャ
「透さん! さっきの声はなんですか!?」
「杏璃?」
血相を変えて部屋に飛び込んできたのは、杏璃。
今日も朝早かったせいか、飛び起きてそのまま僕の部屋に来たようだ。その証拠に今日も肩まである長く綺麗な黒髪が少しはねている。昨日と同じ白地に青の水玉のパジャマ。
夢の事といい、まるで本当に昨日の再現だ。
「いや、たいした事じゃない。昨日見た怖い夢を今日も見てさ」
「……昨日も怖い夢を見たんですか?」
杏璃は少し不思議そうに僕に問いかける。
何を言ってるんだ? 昨日も今日と同じように悪夢を見て、同じように杏璃が飛び込んできて、そして——ま、まぁ、その後の事はいいか。
「ほら、昨日話したじゃないか。杏璃が僕の部屋に来て」
「……えーっと、どんな話でしたっけ? 昨日の朝は透さんの部屋に来てはいないと思うのですが」
杏璃は少し思案するように人差し指を頬に当てて、そんな事を言う。
昨日の今日の出来事だっていうのに覚えてないなんて。どういう事なんだ? 僕の頭の中に疑問符が浮かぶ。
「もしかして、からかってる?」
「透さんこそ、私の事をからかっているんですか?」
杏璃は唇を尖らせて不満気にそう言う。
その表情を見る限り、僕の事をからかっている訳ではなさそうだ。だとすると、これはどういう事になるのだろう。僕の思い違いなのか? だけど、確かに昨日——
「……はぁ。透さん、寝ぼけてるんですね。とくに何もないのなら私は部屋に戻ります」
「あっ、待って杏璃。今日はどうする? 昨日は僕が場所を考えておくなんて言ったけど、実は考えつかなくて」
僕の問いかけに、杏璃は不思議そうな表情で首を傾げる。
「……何の話ですか? 私、何か約束してましたっけ? 今日は、お店もありますし、どこかへ出かけるのは難しいとは思いますよ」
……うーん、昨日はあんなに楽しみにしているように見えたんだけどなぁ。
それに、今日は定休日のはずだ。杏璃が間違えるはずはないと思うし、これは本格的に訳がわからない。結局、それ以上質問を重ねる事もできず、杏璃は怪訝な顔をしたまま自分部屋へと帰っていった。
***
僕が感じた違和感の正体が意外な所で判明した。
それは、日付だ。この店の時計も、テレビも、新聞も、携帯の日付も、ありとあらゆる全ての日付が昨日ものなのだ。
間違いなく僕は昨日を覚えている。けれども、今日は昨日に戻っている。それを知っているのは僕だけ……。これが大掛かりなドッキリなら、まだいい。
だけど、それは考えにくい。あとは、僕自身が壮大な勘違いをしているかという事になるが、あいにく、僕はまだそこまでボケてはいない。要因として考えられるとすれば——
「……ここしかない、と思うんだけど」
そう呟きながら、中央公園にある時計台を見上げる。
市役所に寄って、僕がまだ貸してもらっていないはずの鍵が市長の手元になかった事でそれは確信めいたものに変わった。もしも今日が昨日ならば、もちろん僕の手元には鍵はないはずだからだ。……まぁ、僕が鍵を持っている時点で予想はついていたけれど、一応、念のためというやつだ。
「……時計台の時計は動いている」
僕は昨日の夕方から夜になるぐらいの時間に直したはずで、今日が昨日ならば、朝の時点で動いているという事はおかしな話になる。
僕は時計台の中へと入る扉の前で一度足を止めて、深呼吸をしてから鍵を開けた。
(続く)
- 時計台の夢【7】 ( No.60 )
- 日時: 2014/12/18 21:18
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: FpNTyiBw)
時計台の中に入ると、身体に重くのしかかる様な異様なプレッシャーが僕を襲う。
この中だけ空気が重い。全身で感じる嫌な雰囲気、直感が僕にこれ以上進むなと伝えてくる。
「……だけど」
僕の勘違いであるならそれで良い。笑って何事もなかったように済ませられる。
けれど、今回の件に関しては不可思議な事が多すぎる。市長のあの話、二度も見たあの悪夢、昨日が繰り返された今朝の一件、そして時計台の時計が動いている件……どう考えても何らかの原因がこの時計台にあると思う。何故かはわからないけど、ここでこのまま放置すればとんでもない事になりそうな気がしてしょうがないのだ。
ゆっくりと螺旋階段を上がっていき時計台の核の部分である場所へと辿り着く。そこで見たものは——
「……な、なんで、あなたが」
そこに居たのは、この時計台が動き出すのを一番楽しみにしていた人物、フリーの新聞記者である大垣さんだった。
「これはどうも、また会いましたね。止まっていた時計がついに動き出したんですね。これで私の夢が叶った」
大垣さんはそう言うと、口角を少し上げて笑う。
その表情を見た瞬間、ピンとくる。この不可思議な現象の原因はこの人にあるんではないかと。少なくとも無関係という事はありえないのでは。関係者以外は立ち入り禁止のこの時計台の中に入っているのだから。
「どうして……あなたがここに居るんですか? それと、この時計台の時計は昨日の夜に修理できたんです。ですが、昨日は今日で、今日は昨日になっている。不思議な事にそれを覚えている人は居ないんです。つまり今日は直っていないはずなんです」
突然こんな話をして少し頭がおかしいと思われるかもしれない。それと、正確に言えば居ないかもしれない、だが。
「……なかなか面白い事を言うんですね。勝手に入ったのは認めて謝ります。しかし失礼ですが、その他の事はあなたの妄想では? もしくは夢でも見たんではないんですか? 仮に水島さんの話が本当だとしても、どこの世界にそんな事をできる人間が居るというんですか?」
けれど、大垣さんはとくに戸惑う様子もなく皮肉まじりにそう言って僕に問いかける。
確かに普通ならば僕の方がおかしい事を言っている。妄想と言われても仕方のないくらいに。——けれど、それだけでは片付けられない事が起きている。
それに大垣さんがこの場所に居る事が何よりの証拠ではないんだろうか。鍵は僕が持っていて、他の誰も持っていない。つまり、大垣さんは何らかの方法でこの時計台に入った事になる。どういう方法を使ったかはわからないが。でも、それを証明する事ができない以上ここで大垣さんと言い合っても水掛け論になってしまうのもまた事実。ここは一度引き返して情報を集めるべきだろうか。
「……すいません。とにかく、ここから出て行っていただけますか? 関係者以外は立ち入り禁止ですので」
そう言って出口へ続く螺旋階段に視線を向けて大垣さんに背を向けた瞬間、全身に高圧電流でも流されたかのような鋭い痛みの衝撃が走る。
全身の力が抜けて視界が真っ暗になりながら膝から崩れ落ちる。冷たい床の上にうつ伏せ状態で倒れこみ、生暖かい何かが自分の頭から滴り落ちてくる。
「……う……あ…うあぁぁ」
最後に見たものは、徐々に灰色から赤へと色を変えていく冷たい床。夢で見た光景とは違うが、僕が何者かに襲われるところは同じ。やはりあの夢は……僕の意識はそこで途切れた。
***
「……うあぁぁ!!」
目を開けると飛び込んできた景色は天国でもなければ地獄でもなかった。
白色のカーテンから射し込む朝の光、見慣れた僕の部屋、ベットからゆっくりと体を起こすと、まるで悪夢でも見ていた後のように嫌な汗を全身にかいていた。
「夢……だったのか?」
そう呟きながら自分の頭を触って傷がないか確かめるも、血どころか傷痕すら見つからない。一体どういう事なんだ。確かに僕はあの時——いや、待てよ。
今日は、今日は一体いつなんだ? 昨日と同じく同じ一日を繰り返しているのだとしたら今日も昨日で、あの時計台にはあの記者……大垣さんが居て、またあの時計台に行けば僕は——
「……殺される」
その言葉を口に出した瞬間、背筋に冷たいものが流れる。
同じ日を繰り返すのだとしたならば、この状況から抜け出す方法を考えるべきだ。まず始めに僕があの時計台に行かないという方法。これならば同じ結果にはならないはず。
けれども、もっと深刻な何かが起きてしまう事も考えられる。あの噂が事実だとして、僕が見ていた夢が正夢だとすると、悪魔がかかわっている事になる。本当にそんな非現実的な事がありえるかというと疑問を抱くけども、これはもう事実として認めざる得ないのかもしれない。
「…………」
ともあれ僕は生きているのだからまだチャンスはあるはずだ。そう思い、僕はベットから出た。
(続く)
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