ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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白夜のトワイライト
日時: 2011/12/01 18:23
名前: 遮犬 (ID: FMKR4.uV)
参照: 本編:13話♯2を更新いたしました!

何だか色々と更新したり、しなかったりで申し訳ございません。
シリアスで初めて投稿した作品なので、どうにか完結まで導きたいと思います。
オリキャラも、全員必ず出させていただきます。
どうか宜しくお願いいたします。



小ネタ劇場とかどうですか?>>120
狩人さんの小ネタ劇場とかどうですか?>>124
男の子キャラを二次元女体化してみました>>144

〜目次〜
物語を読む前の分からない用語確認…>>30

キャラごとのランクと職種公表…>>186
プロローグ…>>1

【第一章】
第1話:始まりの鎮魂歌 >>13-36
♯1>>13 ♯2>>26 ♯3>>31 ♯4>>36
第2話:断罪の花 >>41-57
♯1>>41 ♯2>>50 ♯3>>56 ♯4>>57
第3話:Daed or alive?(生死は問わず) >>63-78
♯1>>63 ♯2>>66 ♯3>>77 ♯4>>78
第4話:隠された記憶 >>82-93
♯1>>82 ♯2>>89 ♯3>>92 ♯4>>93
第5話:裁くべきもの、守るべきもの >>103-127
♯1>>103 ♯2>>117 ♯3>>126 ♯4>>127 
第6話:動く政府と反政府 >>133-147
♯1>>133 ♯2>>138 ♯3>>145 ♯4>>147
第7話:戦いの螺旋 >>150-162
♯1>>150 ♯2>>151 ♯3>>154 ♯4>>162
第8話:闇に塗れた真実と地獄 >>163-168
♯1>>163 ♯2>>166 ♯3>>167 ♯4>>168
第9話:光と闇の咆哮 >>170-175
♯1>>170 ♯2>>171 ♯3>>172 ♯4>>175

【第二章】
第10話:終わりの始まり >>180-183
♯1>>180 ♯2>>181 ♯3>>182 ♯4>>183
第11話:混雑な世界 >>184-191
♯1>>184 ♯2>>185 ♯3>>188 ♯4>>191
第12話:捜し人 >>196-204
♯1>>196 ♯2>>199 ♯3>>203 ♯4>>204
第13話:惨劇の再来
♯1>>205 ♯2>>211



【番外編】(一応物語に関係したりします)
Condemnation(断罪)
♯1>>187 ♯2>>192 ♯3>>203 ♯4>>208




〜オリキャラの方々〜(○=既に登場 ●=近く登場予定)

風月 春(ヴィオラさん作)…>>3○         宮澤 碇(ヨモギさん作)…>>4
甘槻 無兎(瓦龍、さん作)…>>6●        吾妻 秋生(亜倉歌樹さん作)…>>8○ 
不知火(狩人さん作)…>>9○            涼代 美月(乙季さん作)…>>11
レイス・マキャベッリ(めるとさん作)…>>14○    矢野 命中(アドレスさん作)…>>16
藤堂 紫苑(紅蓮の流星さん作)…>>17○    裏面 臨死(阿嘉狐さん作)…>>23
琴覇 明(風華さん作)…>>24○         黒槍 斬斗(パーセンターさん作)…>>27
天道 残月(クロ+さん作)…>>33○        エルンスト・ワイズマン(祭さん作)…>>44
阜 七姫(譲羽さん作)…>>47○         鈴音 凛( 葵さん作)…>>49
千原 双(世移さん作)…>>75○         竹内 和磨(青銅さん作)…>>83
鬼神 舞華(絶櫨さん作)…>>84●        炎牙 零影(駒犬さん作)…>>85

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Re: 白夜のトワイライト  ( No.187 )
日時: 2011/10/14 17:44
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: EFs6h6wo)

昔から、正義のヒーローとか憧れだった。
俺もなりたいと思っていた。それは、きっと叶うものだと思っていた。ずっと、ずっとなりたかった。
誰かを守れる、ヒーローに。


番外編:Condemnation(断罪)


ゆっくりと目が開けてくる。ぼんやり、木で作られたようにみえる天井が目線の奥にある。ゆっくりと体を起こしてみるが、何の痛みも感覚も麻痺しているように、何も感じない。
ぼんやりと、今の状況を見つめてみると、自分はどうやら助かったようだ、と心の中で思う。
助かった? いや、助かったと思っているだけかもしれない。実際、ここがどこかも分からないのだから、ここは天国ですとでも天使の輪やら羽をつけたものに言われても何ら疑うこともないだろう。
俺は、吾妻 秋生はここにいる。それだけは確信が持てたことだった。

「確か……左腕が……」

感覚の無い左腕、いや、左半身ほとんど全てを右手で触ろうとしたその時、

「目覚めたようだね」

部屋の奥から声が聞こえてきた。女の声だと分かったが、その声は秋生にとってとても印象の強い声だった。

「お前は……!」

忘れるはずがない。白夜光と戦った場面をこの目でしっかりと見ている。その絶対的な強敵が眼の前にふらりと現れたのだ。驚かないはずがなかった。

「断罪……!」
「ふふ、久しぶり、かなぁ? 月蝕侍のー……秋生君? だっけ?」

あの時と同じように、動きやすそうな短めの着物を羽織り、不気味にニヤニヤと笑みを浮かべながら、その女、断罪は秋生を見つめていた。断罪の殺気は忘れることのない、心に植え込まれた恐怖の一つだった。そんな恐怖の塊でもある断罪から名前を呼ばれると、吐気がするように気味が悪かった。

「そんな顔しないでよ? 別に、僕は君を襲ったりしないから、さ」

トン、トトン、と傍にあった机をリズムよく指で弾いた。その音が虚しくもハッキリ聞こえるのは、この異様な空気と同時に、ほとんど無音の状態が続いているからだった。

「何で、お前がこんなところに……」
「あはは、何でって、君の腕は僕が治したんだよ?」
「な……」

断罪の言葉に、秋生は絶句した。
自分の腕は、断罪に治された。何人もの罪無き命を奪っていった殺人鬼に。それは秋生にとって不愉快極まりないものだった。

「あのままじゃ、君、死んでたんだ。お礼の一つもないんだねぇー」

ケラケラと、ふざけたように小さく笑い声をあげる断罪。それを見て、秋生はすぐに自分の左腕を触った。
だが、左腕に感触はない。右手にはしっかりと左腕があると教えてくれているのだが、逆に左腕が右手に触られているということを教えてはくれなかった。
つまり、左腕は完全に麻痺している。けれど、動けと命令を告げると左腕はしっかりと動く。触っている感覚、触られている感覚がないのに命令は行き届いている。これは麻痺とはいえない、不完全な麻痺だった。神経はやられていない。もしやられていたら、まず動かない。けれど動く。だけど——感触も何もなかった。

「何だよ……この奇妙な、手は……」
「あぁ、それね。君の狂気を納めてるから、そんな感じになっちゃってるんだ。時期に治るけど、けど——それからが大変だね」
「どういう……ッ」
「狂気との戦いが始まるのさ。あの左腕が取れてたのは、狂気が暴走して内側から侵食、暴発したから千切れちゃった。それを今、留めてる。感触が元に戻ると、代償に狂気が暴れ出す。狂気に酔うと、凄まじい力を手に入るけど、自分の意識で判別することが出来なくなる。更に、その後の激痛が伴ったりもする。狂気を自由に扱えたらいいんだけどね」

話しながら他にあるベッドに座り、横に置いてあったお手玉を手に取ると、それで遊び始めた。

「俺は……狂気に犯されているのか?」
「まあね。大分根が深い所までいってる。面白いよねぇ」

ケラケラと断罪は笑いながら、お手玉で遊ぶ手だけは止めない。軽々とお手玉を上空で左右に交換させながらも器用に返事を返していく。
話しのないこの場では、お手玉の中に入っている物の音がシャリシャリとだけ聞こえてくる。

「ということは……俺は、このままだと、仲間まで殺しちまう可能性があるってことか?」
「殺っちゃうだろうね。——あ」

殺っちゃうだろうね、と言った瞬間、急に断罪は殺気を露にし、無意識の内にお手玉を破裂させてしまった。
小さく、パンッ! と音が鳴ると、そのまま地面へとお手玉の屑が零れ落ちていった。

「丁度、こんなお手玉みたいだね、今の君は。気をつけないと、何かの拍子にリミッターが外れちゃったら——君も、僕みたいになる」

そうして断罪は奥の方へと戻っていこうとした。だが、秋生は「待ってくれ!」と声を高らかにあげていた。
ゆっくりと断罪は振り返る。長い髪はゆらり、と揺れてこちらに顔を見せた。その時、何故か秋生には見えたのだ。
悲しく、涙を流して泣いている断罪の姿が。

「何?」

けれど、すぐに声を発した断罪にそれは掻き消され、同時に断罪の笑みを含めた表情が見えた。

「どうして、俺を助けた」

秋生はぐっと力を拳に込めて、そう言った。

「あぁ」

ゆっくりと、呑気に断罪はそう答えると、正解とも不正解ともいえない答えを秋生に対して返した。

「なんとなく。暇潰し」

笑みを浮かべた断罪は、どこから取り出したのか、右手にいつの間にか持たれていた林檎を口元に運び、シャリッと音を鳴らして食べた。

「林檎、美味し」

秋生は断罪のそんな姿を見て、変な感じがした。
口元に、血の味が混じったその日のこの頃。秋生は決心する。

「断罪。あんたは、これからどうするんだ?」
「えー? 関係あるかな、君に」
「ある」

秋生は即答だった。齧られた跡のある林檎を片手に持つ断罪は、その言葉に不思議そうな顔をした。そしてすぐ後から笑みを浮かべ、断罪は口を開いた。

「偽善を振りまかす奴を探しに行くんだよ。そいつは、何か知ってるからねぇ。僕はそいつに聞きたいことがあるのさ。それを聞いて——」
「殺すのか?」

断罪の言葉を遮り、秋生はそう言い放った。すると、断罪はその言葉に拍子が抜けたような顔をして「へー」と声を漏らした。

「それもいいね?」

特に思い浮かばなかったような感じを出して、疑問系でそう答えた。ゆっくりと林檎を齧り、シャリシャリと口から音を出す。

「じゃあ、逆に君はどうするつもり? お仲間の元に戻るのかなぁ?」
「いや、戻らない。俺は」

秋生はどこか詰まったように言葉を留めた後、すぐに決心した表情で口を開いた。

「——あんたについて行く。狂気を克服するんだ、傍に俺なりの狂気がいる方が為になる。それで、もし俺が狂ったら、俺を遠慮なく殺せ。それが簡単に出来る、あんたが一番の最適な人間だ」
「……へぇっ! なるほどねぇ」

断罪は驚いたような声と混じり合わせ、嘲笑しつつもゆっくりと林檎を握り締め、破裂させた。今のは断罪の能力、高圧縮を使って潰したものだと秋生は分かった。
バラバラに、それもグチャグチャに潰れた林檎は見るも無惨に地面へと果汁をぶち撒けた。

「面白いねぇ。君、気に入ったよ」
「やめろ。お前に気に入られると、生きた心地がしない」
「あははははっ! 面白い面白い! ならいいよ。ただし、言った通り狂気で完全に狂ったら殺しちゃうからね?」
「あぁ、構わない。好きにしろ」

断罪はとても嬉しそうな、それでいて普通に見れば可愛げのある表情で微笑むと、ゆっくり奥の方へと歩いて行った。
断罪がいなくなった後、ゆっくりとため息をついた。

「あの野郎……」

秋生が話していた間、断罪はずっと——殺気を放っていた。それも、恐ろしいほど強い殺気だった。今にも殺されそうな気配がしたほどである。
狂気に狂った俺を殺してもいい、という許可がそれほど興味を湧き立たせたのか。その意図は分からないが、どちらにしても心臓に悪い。顔を歪め、自分の手を見つめた。感覚のない左腕を動かしてみる。けれど、感触は全くない。

「畜生……!」

ベッドを思い切り右手で叩く。その後、左手でも叩いてみたが、感覚がないので全く分からない。見ると、左手は血で滲んでいた。どうやら、机の角に向かって叩いたようだ。本来なら痛みを表す言葉を己の口から言う所だが、それ以前に痛みも何もない。ただ、手からは血が流れ落ちるのみであった。

——秋生のもう一つの目的。それは、自分の心に隠された狂気を呼び覚ませたラプソディを探し、奴を——。

潰れた林檎の汁を集り、蟻が何匹も群がってきていた。蟻も蟻自身の役目を果たすために。

Re: 白夜のトワイライト ( No.188 )
日時: 2011/10/14 18:53
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: EFs6h6wo)

今回のアップデートによって起こった被害は現実世界では大きく問題となっていた。
"人口のほとんどが消えた"、"まるで、あの時のように"、"あの、惨劇が再び"。
プレイヤーはログアウトが出来ず、尚且つ現実世界にいる人々はエデンにログインすることが出来ない。アップデート時にログインしていた、もしくは別の何かで関係のある者が今回のアップデートに巻き込まれたとされている。警察の大部分もエデンにログインしてしまっている為、大規模な捜索は困難と見られている。
しかし、あの惨劇と呼ばれる電脳世界、エデンにおける大戦争、トワイライトの時とは違うことがある。
それは、アップデートをわざわざ行ったこと。そして、電脳世界と現実世界の区別を混入させたことだった。
ログアウト禁止になったのはトワイライト時同様なのだが、その二つの出来事が疑問視されていた。特に、アップデートである。

科学技術が進み、人々の暮らしはより豊かを求めて科学者達はネットワークという未知について調べた。その結果、異世界という架空の世界ならぬ広大な"世界"がネットワークに多数残留していることが分かったのである。
人間は、もし人類に危険が及ぶようなことになれば、ネットワークに人間そのものをダウンロードし、電脳世界で生きることを可能とさせる為に努力を重ねた結果、遂に成功してしまった。
新たな世界、新たな土地、ゲームのような感覚に捕われた人間は、次々と残留した世界に取り込まれていくこととなった。
それが、エデンだった。
次第にエデンは本当の世界のような扱いをされ、様々な発展を遂げていく。そして、人類が最も感動したことが異能であった。
様々な異能がエデンでは扱える。ゲームの世界だから殺しても構わない。そのような軽い感じでプレイヤーをキルしたことがきっかけとなり、エデンで死ぬとリアルでも死ぬということが分かったのである。
意識そのものをネットワークにダウンロードしている為だといわれているが、死亡すれば脳死状態になる。つまり、植物状態のような形になるということだ。
残酷な一面、便利なネットワークの力に圧倒され、様々な利点と共に、引き起こされたのが——トワイライトだったのだ。




地下の通路の奥深く。そこには想像も出来ないほどの都市が広がっている。この地下街は、元々の現実世界とエデンの電脳世界が混じり合って出来た機械都市である。
今、そこには多くのプレイヤーが存在している。アップデートしてから世界を彷徨い続け、見つけた居場所がこの地下街だった。
広大なこの地下街は、通称アンダープレイスと呼ばれ、プレイヤー達が情報交換を行ったりもする。
そのアンダープレイスの一角に、寂れたバーがあった。現実世界よりも勝手のいいこの世界は、基本は何でも作ろうと思えば作れる。現実の世界同様の生活を求めた人間ならではの行動は、自分達の生活の場を作ることであった。

バーの奥に、紫色の髪をした男が座っていた。呆然とその視線は虚空を見つめている。その眼差しの色も、紫であった。
カラン、と男の眼の前に置かれたウイスキーか何かの酒が入ったグラスの中にある氷が鳴る。
そのバーの中には、誰もいない。その男以外、マスターさえもその場にはいない不自然なバーだった。そんなバーの奥から、ゆっくりと何者かが出てきた。
その者は、女だった。漆黒のショートカットの髪に、金色の目をしている。バーの雰囲気とは一転し、ジャージ姿で現れた。

「何の用ですかー?」

少々、呑気な声で男に話しかけた。しかし、男は黙ったまま、現れた女を見つめる。そして数秒してから、

「お前が"黒猫"か?」

男の言葉に、驚いた素振りも見せず、その女は後方にあった酒の入ってあるボトルを手に取ると、一気にラッパ飲みを行った後、息を吐いて、男に笑いかけた。

「ま、そうだね。どーも、琴覇 明(ことは あきら)ってな名前で、アバタコードは一応、時雨ね。表向きだけど」

そうしてまたラッパ飲みを始める。その姿を見て、男はただ黙って自分のグラスに入った氷を見つめていた。

「ぷはぁー……。って、黙ってないでさ、自己紹介ぐらいして欲しいところなんだけど?」

おどけた感じで男に向かって言う。その紫の眼差しと金色の眼差しがぶつかり合い、ゆっくりと男の方が口を開こうとした——その時、

「邪魔するぜぇー!」

ドアが乱暴に開き、大柄の男が中へと入ってきた。しかし、それを紫の髪をした男と琴覇は何も言わないし、咎めない。その様子を大柄な男に続き、入ってきたチンピラのような男共が騒いだ。

「何だここはぁっ!? しょぼくれたバーだなぁっ!」

傍にあった椅子を蹴り飛ばす。それは紫の髪をした男のすぐ近くまで滑っていき、寸前の所で止まった。
しかし、その椅子のことなど気にもせず、ただグラスを見つめている。

「おいおい、ここが黒猫のいるバーって聞いたんだけどよぉ、もしかして、お前みてぇな女が黒猫か?」
「さぁ、どうでしょう?」

琴覇の返した言葉が余程腹が立ったのか、男は怒りを顔で表し、腕を大きく上げた。力で押せば何にでもまかり通ると思っているのか、男はそこらの椅子に向けて大きく両手を振り回した。
その瞬間、椅子が真っ二つに裂け、辺りに木屑が飛び散る。それを見た後ろのチンピラ共は声高らかに、

「見たか! 親分はなぁ! この世界で何人もプレイヤーキルをした、有名なPKなんだぜぇっ!?」
「へぇ……。あの、それで、何の用でしょう?」
「てめぇ……!」
「まあまあ、落ち着けお前ら」

親分と呼ばれた大柄の男が周りのチンピラ共を宥める。男は前へと出て来て、琴覇へと近づいていく。

「あのよぉ、情報を買いに来たってわけなんだが……タダで譲ってくれねぇかなぁ」
「何を?」
「情報に決まってンだろ? まあ、どうしてもって言うなら……痛い目に遭うことだけは間違いないだろうがなぁ?」

大柄な男の言葉を聞いて、後ろにいるチンピラ共が下衆な声を出して笑い出した。大柄な男も、得意気に笑みを浮かべている。
その様子に、琴覇はため息を吐き、

「今先客がお見えになってるんで、帰っていただけますかね?」
「先客ぅ? ……この紫の小僧のことかぁ?」

大柄な男は、笑いながら紫の髪をした男に指を差す。それと同時にチンピラ共から笑い声があがった。
しかし、何も動じずに、依然としてグラスの氷を見つめているままの紫の髪をした男に、大柄な男は腹が立ったのか、

「こんな小僧……今すぐ退出させてやるからよぉっ!」

大きく腕を振りかぶり、紫の髪をした男へと振り落とそうとした。——その瞬間、

バチッ、とまるで電撃が走ったかのような音が鳴った。店内に静けさが走る。それはほんの1秒未満のことで、そのすぐ後から床に何かが落ちた音が響いた。

「ぎ、ぎぃやぁああっ!!」

悲鳴をあげたのは、大柄の男だった。
男は苦痛に歪んだ顔で、自分の足元の床を見る。そこには、自分が先ほど振り落としたはずの両腕が落ちていた。
すっかり足元はその両腕から垂れていく血によって床が汚れていく。腕の断面には、焦げた痕のようなものがついていた。
大柄の男のその様子を見て、チンピラ共は絶句し、その場から動けずにいた。それは、琴覇も同様だった。
異様な殺気を放つ"それ"は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。


「——くだらない」


その後、大柄の男を含めたチンピラ共は、恐怖で顔を歪ませながら逃げていった。血で汚れた地面は、すっかりとこびり付いてしまっている。
そこに佇む紫色の髪をした男に向けて、琴覇は冷や汗をかきつつも、ニヤリと顔を笑みで歪ませ、

「あんた、名前は?」

そう聞いた瞬間、男の周りにふっと紫色の電撃のような一閃が纏わりつくようにして現れた。ゆっくりと男は琴覇に顔を向け、そして冷静な声で言い放った。

「コードネーム『紫電』(しでん)……——籐堂 紫苑(とうどう しおん)だ」

カラン、と再びグラスの中の氷が溶け、音が鳴った。

Re: 白夜のトワイライト ( No.189 )
日時: 2011/10/14 20:42
名前: 旬 ◆Q6yanCao8s (ID: aza868x/)

えー,なかなか読み進むことができない時間が足りない旬参上です。
最初の方は少し読みました。
が,不幸な事に! 私は読むペースは遅いんです。
だからま大分あるな……。

でもすっごく面白かったです!
続きも頑張って,執筆ペースに追いつけるように読みます!
応援してますねっ,しゃいぬおにいさん!

でわでわ ノ

Re: 白夜のトワイライト ( No.190 )
日時: 2011/10/15 15:48
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: EFs6h6wo)

>>旬さん
コメントありがとうございますーっ。
最初の方、読んでしまいましたか……(ぇ
今とは全然違う書き方なので、結構黒歴史ですw
いえいえ、読んでいただいただけでも十分ですー!ありがとうございますw

正直、これ面白いのか、と思いながらも書いてます;
これからどんどん面白くしていけるように、展開を盛り上げていきたいと思います。ていうか、設定をちゃんと設立したいと思いますです!
ありがとうございますw旬ちゃんy(ぁ
頑張りませうっ!

Re: 白夜のトワイライト ( No.191 )
日時: 2011/10/16 14:17
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: EFs6h6wo)

エデンはワールドコードと呼ばれる数式化した世界の座標によって様々な世界へと移転することが出来る。
一つの世界観だけではなく、様々な世界観があり、その中には寂れた見知らぬ都会の世界や、中央セントラルと呼ばれるヨーロッパ式の町並みが揃う巨大な街や、地下街に存在するアンダープレイスと呼ばれる機械によって作られた大都会も存在する。
そして、その中には江戸と呼ばれる日本古来の町並みも存在していた。
周りは武士風の人や、着物を着こなす人などが街を謳歌し、賑わってはいるが、この賑わいは別のものであった。
それは勿論、アップデートによる異変であった。
ログアウトも出来ず、ただ混雑した世界に取り残されたプレイヤー達は不安一色であった。そんな中、

「江戸から離れたら、イルが襲いかかってくる」

というものが街全体に広がり、騒ぎは大きくなる一方であった。
イルと呼ばれるのは、いわゆるバグの一種であり、エデンで死亡したプレイヤーの残骸が集まって出来るデータの結晶と呼ばれるもので、プレイヤーを吸収すればするほど、イルは強くなっていく。そのイルは、以前までは普通にしていれば見かけることもなかったが、アップデートによって一気に数が増えた。ある一定までプレイヤーを吸収したイルは、偽プレイヤーへと成りすましても来る。
そうした騒ぎを合わせて、この世界はおかしくなる一方であった。エデンはそもそも、現実世界の次にある世界として扱っていたが、もはや犯罪天国となってこの世界、ゲームのように楽しむ若者も急増し、この状況に狂い始めて電脳世界内にも存在してしまった麻薬を打って、他プレイヤーを殺すということを繰り返していた。
そういったプレイヤーなどを裁く為の大規模な組織、エルトールも今はどうなっているかの詳細も不明。その他の組織の活動も確定しない状態が続き、戦闘など最初からしないようなプレイヤーも大勢いるこの世界に、プレイヤーキラーという言葉は絶えない。

そんな江戸の街の大通りに、一人の若者が歩いていた。
一見、とても男には見えないほどの女顔を持つその男は、からんころん、と下駄が鳴らし、服装は綺麗な桜色と青色が上下に分かれたもので、髪は黒の長髪、そして腰元には"普通よりも長めの刀"が一本帯刀してある。
その男は、呑気そうに欠伸をかますと、騒いでいる人々を見て、

「今日も元気だねぇ……」

と、笑った。
ゆったりとした物腰的にも、あまり強そうには見えない。そのことがきっかけで、よくプレイヤーキラーなどに狙われるのだが、本人は全く気にしていない。むしろ"歓迎"していた。

「おいおいおいっ、嘉高よしたかさん! こんな大通りをまた歩いて! 何してんの!」

後方より、この呑気そうな男を嘉高、と呼んだのは不知火であった。
ボサボサの髪をそのままに、江戸の街並みにそぐわない格好をして、嘉高同様に女顔である不知火は慌てた様子で嘉高の下へと駆け寄った。

「うーん? まあ、いいじゃないか。今日は散歩したい気分だったんだ」
「そんなので毎回まかり通ると思ってんですか! ちゃんと屋敷に帰ってください!」
「不知火、そろそろ僕が遊ぶこと大好きな純情な子だと気付いてよー」
「もうとっくに気付いてるわ! 純情ではないですけどな! ……って、言ってる場合じゃないですって! 会議とかもあるんですから!」

不知火が必死に嘉高を戻そうとしているのを裏腹に、嘉高は笑いながら返していく。そんな余裕な態度を毎回振り払い、尚且つ、嘉高はとんでもない遊び人だった。
毎度毎度、屋敷から飛び出しては遊ぶ毎日。今日は散歩といっていたが、この後何か面白いものを見つけてそちらに行くのかもしれない。だから不知火は慌てた様子で屋敷に戻るように言っているのだ。

「会議面倒だなぁ……あ、そうだ。じゃあ不知火が仕切ってよ」
「ダメですって! 斎条さいじょうが怒るじゃないすか! 今日ばかりは無理です! 俺も庇い切れません!」
「……しょうがないなぁ。じゃあ帰るよ」

嘉高の言葉に、不知火は安堵した顔つきで大通りから裏ロ字に入る道に行く嘉高へとついていく。その時だった。

「ぎゃああ!」
「うわぁっ! イルだ! 化け物が出たぞぉぉっ!」
「きゃああああ!」

騒いでいた大通りの人だかりの中から、突如として悲鳴があがった。そこには、一人、また一人と体を鋭利な何かで貫かれ、既に絶命しているものが何人もいることが確認できた。
そのイルは細身な体をしているが、どこかしら鋭利に作られており、手は槍のように長く、鋭い。そして動きが速いことと、手馴れている手つきからして、相当な吸収量を保っているのに違いはなかった。

「嘉高さん!」

不知火が叫んだのも否知らず、嘉高は既にイルの方へと向けて歩いていた。ゆっくりと、しかし、先ほどのおどけた様子とは違い、別人のような風格を漂わせながらイルへと向かっていっていた。
カランコロン、と下駄が鳴り、その瞬間ごとに時が止まっているように見えた。

「%$#%&(’%」
「ひぃぃっ!」

次々と倒されていく人々と、逃げ惑う人々。それらが二つに分かれているばかりで、イルに向かって戦おうとするものはいない。
その中、嘉高 正宗(よしたか まさむね)だけは違った。イルへと向かって殺気を放つ。すると、イルは嘉高の方へと顔を向けた。

「——来なよ」

嘉高が呟いた瞬間、絶叫に近い声でイルが飛び掛ってきた。それはとてつもない速さで上空へと飛び上がり、そして一気に両方の槍と化した腕を嘉高へと突き刺そうとした——が、その瞬間イルの両腕は斬られていた。
風を切る音や何も感じず、ただ刀が振るわれた。それは音も無く、イルの両腕を一刀両断したのだった。

「ばいばい」

嘉高はゆっくりそう告げると、刀をもう一度振るった。ただ肉を斬る音しかその場には響かない。それは数秒も経たないうちに、イルの体はいつの間にか真っ二つにされてしまっていた。
見ていた人々は、何が起きたか分からないだろう。当の本人である嘉高は、その長い刀を既に鞘へと納めきっているところだった。

「何時見ても、有り得ないな……嘉高さんは」

不知火は半ば感心し、半ば呆れた様子で言った。
嘉高はゆっくりと不知火の方へと振り返ると、

「さ、帰ろっか」

笑顔でそう言った。
その場の静けさの中、ただその言葉のみが広い大通りを埋め尽くしていた。




「始まるなぁ……」

ラプソディは呟いた。
薄暗い個室。そこは誰にも知られることのない、秘密のワールドコードによって形成された自分だけの空間だった。
ゆっくりとラプソディはコーヒーへと手を伸ばし、砂糖をいくつも入れる。そして掻き混ぜた。

「"あいつ"も、こうして砂糖を入れてたなぁ……」

ラプソディは呟いた。
そして、一口そのコーヒーを飲む。その後、ゆっくりとコーヒーを机の上に置き、

「僕の口には合わないな」

ラプソディは呟いた。
そして立ち上がり、小さな窓を見た。
そこには、絵があった。巨大な絵だ。自分の好きな絵だった。小さい頃、思い描いていた絵だった。
いつも、いつもそう思っていた。思っていた、念願の絵。それがようやく完成するかもしれない。


「ねぇ……? ——ルト」


窓の向こうには、カプセルのような容器に入っている女性の姿があった。
その女性を見つめ、ゆっくりとラプソディは口を歪ませた。

「始まるよ……また、トワイライトがさ」

コーヒーは、いつの間にか空っぽになっていた。


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