ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 白夜のトワイライト
- 日時: 2011/12/01 18:23
- 名前: 遮犬 (ID: FMKR4.uV)
- 参照: 本編:13話♯2を更新いたしました!
何だか色々と更新したり、しなかったりで申し訳ございません。
シリアスで初めて投稿した作品なので、どうにか完結まで導きたいと思います。
オリキャラも、全員必ず出させていただきます。
どうか宜しくお願いいたします。
小ネタ劇場とかどうですか?>>120
狩人さんの小ネタ劇場とかどうですか?>>124
男の子キャラを二次元女体化してみました>>144
〜目次〜
物語を読む前の分からない用語確認…>>30
キャラごとのランクと職種公表…>>186
プロローグ…>>1
【第一章】
第1話:始まりの鎮魂歌 >>13-36
♯1>>13 ♯2>>26 ♯3>>31 ♯4>>36
第2話:断罪の花 >>41-57
♯1>>41 ♯2>>50 ♯3>>56 ♯4>>57
第3話:Daed or alive?(生死は問わず) >>63-78
♯1>>63 ♯2>>66 ♯3>>77 ♯4>>78
第4話:隠された記憶 >>82-93
♯1>>82 ♯2>>89 ♯3>>92 ♯4>>93
第5話:裁くべきもの、守るべきもの >>103-127
♯1>>103 ♯2>>117 ♯3>>126 ♯4>>127
第6話:動く政府と反政府 >>133-147
♯1>>133 ♯2>>138 ♯3>>145 ♯4>>147
第7話:戦いの螺旋 >>150-162
♯1>>150 ♯2>>151 ♯3>>154 ♯4>>162
第8話:闇に塗れた真実と地獄 >>163-168
♯1>>163 ♯2>>166 ♯3>>167 ♯4>>168
第9話:光と闇の咆哮 >>170-175
♯1>>170 ♯2>>171 ♯3>>172 ♯4>>175
【第二章】
第10話:終わりの始まり >>180-183
♯1>>180 ♯2>>181 ♯3>>182 ♯4>>183
第11話:混雑な世界 >>184-191
♯1>>184 ♯2>>185 ♯3>>188 ♯4>>191
第12話:捜し人 >>196-204
♯1>>196 ♯2>>199 ♯3>>203 ♯4>>204
第13話:惨劇の再来
♯1>>205 ♯2>>211
【番外編】(一応物語に関係したりします)
Condemnation(断罪)
♯1>>187 ♯2>>192 ♯3>>203 ♯4>>208
〜オリキャラの方々〜(○=既に登場 ●=近く登場予定)
風月 春(ヴィオラさん作)…>>3○ 宮澤 碇(ヨモギさん作)…>>4●
甘槻 無兎(瓦龍、さん作)…>>6● 吾妻 秋生(亜倉歌樹さん作)…>>8○
不知火(狩人さん作)…>>9○ 涼代 美月(乙季さん作)…>>11○
レイス・マキャベッリ(めるとさん作)…>>14○ 矢野 命中(アドレスさん作)…>>16●
藤堂 紫苑(紅蓮の流星さん作)…>>17○ 裏面 臨死(阿嘉狐さん作)…>>23○
琴覇 明(風華さん作)…>>24○ 黒槍 斬斗(パーセンターさん作)…>>27○
天道 残月(クロ+さん作)…>>33○ エルンスト・ワイズマン(祭さん作)…>>44○
阜 七姫(譲羽さん作)…>>47○ 鈴音 凛( 葵さん作)…>>49○
千原 双(世移さん作)…>>75○ 竹内 和磨(青銅さん作)…>>83●
鬼神 舞華(絶櫨さん作)…>>84● 炎牙 零影(駒犬さん作)…>>85●
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42
- Re: 白夜のトワイライト ( No.166 )
- 日時: 2011/01/02 01:36
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fREd0x4b)
「ふむぅ……」
モニターだらけの薄暗い室内の中、慌ただしく事態は変動を起こしていた。
「ヴァン元帥っ! 戦力が著しく減少しておりますっ!」
モニターに映る映像は無残に血の海と化されている武装警察の姿があった。
手足や頭などが変な方向に"強制的に曲げられた"かのような感じを醸し出している。
その死に方がまずありえなかった。一人だけをやるのならまだしも、数が数である。
それだけの人数を強制的に曲げたりするのは肉体で起こせることではなかった。
さらにはいくら一般兵士といえど、訓練を充分に受けた兵士たちである。
そう簡単にはやられるとも思えないのが現実であった。
「この死に方は……」
ヴァンはモニターを眺めながら顎に生えている髭を撫でる。
この死に方には見覚えがしかとあったのだ。
その記憶は残酷すぎてあまり曝け出したくないものではあったが。
「……お前達。もうここはいいわい。早く逃げる準備をして避難経路を渡れ」
そのヴァンの指令にその場にいる兵士たちは皆納得できるはずがなかった。
「どうしてですかっ!? 敵を目の前にして逃げろというのですか!?」
兵士の内の一人、まだ若くて20代、下手すれば10代かもしれない年端の男が声を荒げて言った。
「もうここは落ちた。これはいわゆる作られたシナリオじゃわい」
「ま、まだ落ちたと決まっていませんっ! こんなシナリオ、ぶち壊していくのが貴方でしょうっ!?」
若い兵士はますます声を荒げる。
確かにその兵士の言うとおり自分のポリシーはそういう打破を主格としていた。
それによってこの地位まで登り詰めたのだからまさに今の自分を創り出した考えといっても過言ではないだろう。
だがしかし、今回は違う。
「バカモンがッ!!」
強烈な一言とビンタが兵士の耳と頬にぶち当たる。
兵士は思い切りよく吹き飛ばされ、床に尻餅をついた。
「そんな考えで捨てていい命がどこにあるんじゃっ! 無謀というんじゃ、そういうのをな」
呆然とした様子の兵士を怒りの目から優しき目へと変える。
「いいか。ワシは任務よりお前らの命の方が大事じゃ。これは命令だ、従え」
ヴァンは引っ叩いた男に手を差し伸ばし、上へと引き上げて立たせてやった。
男は、呆然とした顔から突如歯を食いしばり、唸るようにして言う。
「俺は……! 俺は悔しいのですっ! あの死んでいる者の中には俺の友人もいましたっ! 俺は……!」
友人がモニターで無惨な死に方で死んでいるところを見れば必死にもなるし、何ともいえない感情も込み上げるだろう。
それは長い戦いの内でヴァンも分かっていた。
自分もどれだけこの"ふざけた管理下"で人が死んだことか。
「……仇など、いつでも取れるわい。今は自らの命を大事とせい」
ヴァンはそう言うと、男の髪を撫でるように、しかし豪快に髪を揺らす。
男は、自然と涙が零れ落ちた。
「皆ワシの指示に従えっ! 準備が出来次第、すぐさま脱出口から出るのじゃっ!」
兵士たちは、その指示に敬礼して「了解しましたっ!」と声を出すとすぐさま準備に取り掛かった。
「ワシも……出なければならんのう……」
ヴァンは誰にも聞こえないように呟くようにして言ったが、涙を流していた男だけその声に気付いていたのだった。
「騒がしいな……」
不意に白夜が呟いた。
双剣は既に鞘の中に収められている。
そのすぐ傍で膝をついているのは先ほど戦いを終えたばかりの月夜だった。
「どうやら……シナリオが進行したみたいだね……」
「シナリオ?」
月夜の言葉に白夜は聞き逃さなかった。
白夜の訝しげな表情に少し笑い、言った。
「……黒獅子の作ったシナリオだよ。まさにその通りになってきている。次に出てくるのは確か——」
その刹那、凄まじい爆音と共に傍にある建物が破壊された。
外側の方なので外からの攻撃であることは確かだが、この爆音は凄まじさを物語っていた。
破られた建物の外側、つまりは優輝たちが恐らく戦っているであろう荒野を見た。
その先に映るものは——子供たちだった。
「子供……?」
白夜は子供の姿を見て眉を上げる。
そして、一つこの風景を見て思いついたことがあった。
「……こいつら全員トワイライト適合者か」
その白夜の言葉に月夜はニヤリと不気味に笑って言う。
「その通りだよ」
その瞬間、子供達は虚ろな目をそのままに白夜たちに襲いかかってきた。
「ダメだ。皆息がない……」
ワイズマンの言葉に優輝たちは顔を俯ける。
「あ……待って! あの人っ!」
その時、凛が叫んで指を差した場所に呻いている兵士の姿があった。
急いで一同は駆け寄り、その者を抱きかかえるようにして優輝は声をかける。
「おいっ! おいっ! 大丈夫かっ!?」
「うぅ……ば、が……」
兵士は目が潰されているようで呻きながら何かをボソボソと話している。
「おいっ! しっかりしろっ!」
ワイズマンの言葉にも返事を示さない。まるで悪夢を見ているかのように唸るばかり。
それが少しの間続いたかと思うと、いきなり大きく体が反動した。
あまりの勢いだったので優輝は離れて剣を構える。レイスやワイズマンもその行動に武器を構える。
「あの……! 悪夢が……ッ!!」
「……悪夢、だと?」
その言葉にレイスが反応する。
そして次の瞬間、兵士はもう一度大きく反動したかと思うと目を閉じて動かなくなってしまった。
「……ダメだ、死んでる」
ワイズマンが男の脈に手を当てて首を横に振りながら言った。
「クソッ! 一体誰が……!」
「……悪夢、聞いたことがあるぞ」
レイスが呟くようにして言った。
その言葉に一同も耳を傾ける。
「かつて、戦争のトワイライトが行われた時に謎の無差別大量殺人という不可解な出来事が起きたのだ」
「無差別……? 敵味方関係なく、ていうことですか?」
優輝の言葉に「左様だ」と返事をするとルイスは後を続けた。
「その死に方はあまりに残酷で卑劣な死に方だったらしい。現にここにある死体のようにな」
そこらに倒れているもはや人間の形をしていないモノを目で差してみせる。
凛が気分が悪そうに口を押さえる。
「大丈夫か? 凛」
「う、うん……」
無理をして笑顔を作っているのが分かった。冷や汗も数多く見える。
「……少し離れよう」
場所を移動しようとしたその時だった。
「——どこにいくの? お兄ちゃんたち」
その言葉は、とても寒気のするものだった。
寒気、恐怖、戦慄、不気味なものを体中全てに教えてくれるほどにまでその言葉は——奇妙だった。
透き通った綺麗な声とも取れるのかもしれないが、違う。
これは一番全身が震えあがるもの——殺気であった。
優輝たちは返事を返すことも出来ない。その者がいるであろう後ろに振り返ることすらも。
「せっかく会えたんだからさ……遊ぼうよ?」
その言葉の次に、優輝たちは振り返る。
——が、そこに人はいなかった。
「——どうしたの?」
「「ッ!?」」
次の瞬間、そのまた後ろの方で声が聞こえたかと思うと優輝たちは吹き飛ばされていた。
吹き飛ばされる刹那、優輝が見たのは仮面を被っている——人間の姿。
だが、姿はそうでも纏っているものが全く違うように見えた。
地面に叩き落され、痛みを感じながらも立ち上がる。
そこに、いたのは
「さぁて……楽しもう?」
——人ではない"何か"だと思った
- Re: 白夜のトワイライト イメージソングがリニューアルしましたw ( No.167 )
- 日時: 2011/01/03 17:56
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: zWHuaqmK)
「いやああああっ!!」
叫び声が荒野に響き渡る。
そこには両手で頭を抱え込み、うずくまっている美月の姿があった。
その表情は恐怖から逃げているかのように歪んでおり、体中が震えていた。
「うぅぅぅぅ……!」
呻きながら脳裏に出てくるのは忌々しい過去の記憶。
それは一生閉ざしておきたい心の闇であった。
——君には大切なものがあるかい?
「やめ……て……!」
——そうだね。君の大切なものを守るためには、敵をいっぱい殺さないといけない。
「やめてぇぇぇぇッ!!」
叫び声をあげ、息は乱れている。苦しそうに喉元を押さえながら必死に振り払おうと目を閉じている。
「貴方は、現実から逃げているだけなのです」
そんな美月にゆっくりと確実に一歩ずつ春は近づいていく。
この状態の美月は戦闘をするどころか、状態を保っていられない精神状態であるとみたからであった。
「だまれ……!」
美月はその容姿や声のトーンなどとは裏腹に春に睨みつける。
その目には恨みなどの他に恐れというものも存在しているのだろう。
「貴方が何度逃げとうとも、私がそれを拒みます」
「黙れぇぇっ!!」
その瞬間、美月は手元に転がり落ちてあった大鎌を春に向けて投げた。
だが、そのことが容易に想像できていたかのように春は大鎌をよけた。
大釜は空を舞い、荒野の地面へと飛び退っていった。
後数歩というところで春は立ち止まる。
美月にはもう目の前にいる春が恐ろしく冷たいもののように感じた。
自分の作り出したすべてを破壊する悪魔のように。
「貴方がどれだけ幻想を創り出そうと、私がそれを破壊します」
春はゆっくりとそう言い放った。
その言葉の後に、美月はゆっくりとまるで力の抜け切った死人のように立ち上がった。
苦しそうに喉と頭を抑え、美月は春を睨む。その目はどこか悲しげなようにも見えた。
「私は……っ! もう狂歌じゃないっ! 氷歌だっ!」
美月が訴えるように言ったその時
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!!
大きな破裂音が荒野に響いた。白い煙が荒野を包む。
地面が大きく揺れ始め、立っていることもままならない。
どうやら白い煙などを見る限りこれは爆発音だと容易に想像はついたが発生源が分からない。
そのひどい地震に抗うことも許されないまま、春と美月は転がり落ちていった。
「な、何っ!? この地震っ!」
政府のアーカイブ上階にあるとみて上へと猛進していた七姫だったが突如の地震により、立ち止まる。
だが、だんだんと地震は激しさを増し、立っていることすらもままならなくなってくる。
何とか手元の手すりを持って耐えているが、それでは七姫のような小柄の体格の少女がこの地震を耐え切れるとは思えなかった。
案の定、手が手すりから離れてしまう。そして、待ち構えるのは——下へと続く階段であった。
「——え」
なす術もなく、体が浮いて階段から転げ落ちそうになったその時だった。
何かが、七姫の首っ根を掴んで後ろへと引き上げたのだった。
その勢いで七姫は何とか助かったが何が起きたのか全く理解が出来ない状況であった。
地震のせいで床は揺れ動く。それに連動するかのようにして頭も揺れ動いているかのようで何が何だか分からない。
ただ分かることは尻餅をついて痛いことと、誰かに助けられたことだった。
その時、地震が一時的に治まりを見せた。すぐさま後ろを振り向いて助かった原因を探ろうとした。
だが、そこには何もいなかった。人影や、人がいた気配すらもない。
「おかしいな……?」
——では一体誰だったのだろうか? そう思いながら手元近くの手すりにもう一度掴まろうとしたその時だった。
「痛っ!」
突如として痛みが手から肩にかけて伝わる。すぐさま手すりから手を離した。
だが、この痛みはどこかで受けたことのある痛みだった。それは——静電気。
何かと思って驚いたが静電気だと知って安堵する。だが、少し気になることがあった。
「あれ……?」
その静電気は、いつの間にか手すり全体に帯びており、そして——色を持っていた。
「紫色……?」
紫色の電気は、手すりに触るものを拒むかのようにして迸っていた。
左右から襲いかかる刃物の乱撃を双剣で受け止めては返し、左手に闇を起こしてはそれによって子供たちを引き寄せる。
だがそれに子供たちは対抗し、自ら持っている刃物を引き寄せられる勢いに任せて斬りつけようとする。
白夜はそれを右手の光によって視界を閉ざし、子供たちが怯んだ瞬間に体術を叩き込んだ。
それは異常なほど速く、次々と子供たちは倒れていく。
「……こいつら、トワイライトの適合者か」
白夜が呟くように言った。
それに対して横の方で同様に子供たちの相手をしている月夜が笑って反応する。
「その通りだよ。そしてこれが初の実戦みたいだね……」
四方八方から襲い掛かってくる刃物の乱舞に瞬間的速さで体術を叩き込んでいく。
白夜に負けておらず、その速さはとてつもないものであった。
「どうしてお前まで戦っている」
白夜は虚ろな目をし、集団で襲い掛かってくる子供たちの間に小さな威力の少ない爆風を飛ばす。
それによって子供たちは四散へ吹き飛んでいく。
「契約上の付き合いだからね。それともこいつらに理性がないだけなのか……」
月夜は銃を幾度も放ち、それらを的確に的へと当てていく。出来る限り武器を砕くようにしてあてている。
「白夜光にしては優しいものだね」
月夜の言葉に双剣で相手の刃物を砕き、そして即座に気雑させていく白夜は睨みを利かせる。
「関係のない奴を殺しても意味がない」
「ふふ……意外と義賊なんだね、白夜光」
月夜は笑う。そして白夜も笑った。
——殺されるかどうかのスリルを楽しんでいるかのように。
「勘違いするな。俺は罪を懺悔する者。罪あるものには……容赦などせず、食い潰す」
畏怖すらも感じられるその笑みと言葉に月夜はますます笑ってしまう。
そしてそのほかに別のものも組み込まれているということにも月夜は容易に想像が出来たのだ。
「なるほどね……」
月夜はクスッと笑い、目の前で立ち上がってくる子供たちを見張る。
その時だった。突如として破裂音が聞こえ、地面が揺れ動きだした。
地面に所々亀裂が入り、子供たちを吸い込むかのように引きずりこんでいく。
「これは……何らかの能力か?」
膝をつき、地震にに対して対抗するかのようにしている白夜が呟いた。
その呟きを白夜と同様にしている月夜が捉え、口を開いた。
「どこかで聞いたことがあるよ。確か……アバタコード、土沌龍。武装警察、ヴァン元帥の能力だったはず」
「あのじいさんの……」
白夜は何故かここでひっかかることが出てきた。
そしてそれは一つの可能性を見出す。
——働かざるして、獲物はないだろうが
突如として思い出されるヴァンの言葉。
それらはやがて、一つの可能性の信憑性を高く上げた。
白夜はそのことにより、地震が少し緩まった時に行こうと立ち上がったときだった。
「……何の真似だ」
立ち去ろうとしていた白夜の腕を月夜が掴んでいたのだった。
「私は月夜としてではなく、天道 残月(てんどう ざんげつ)としてここに用があって来た。同行させてほしい」
白夜はあくまで無表情でそのことを聞き、無感情で返す。
「さっきまで敵として殺し合っていた俺について来る道理も、義理もない」
白夜はそう言って掴まれた手を振り払おうとしたが月夜は力を込めてそれを拒み、言った。
「君が求めるものの近くに私の求めるものもある。だから利用させてもらうだけ」
月夜の目は何の迷いもなく、決心の込めた目であった。
白夜はその目を見て鼻で笑う。
「勝手にしろ。ただし俺はお前のことを一切干渉しない。敵は敵だ」
「そっちのほうがありがたいよ。助けられるなんてガラじゃないからね」
白夜と月夜はそのまま建物の中へと入り込んでいった。
揺れ動く地面の中、螺旋が今——急速に展開を変えて回り始める。
- Re: 白夜のトワイライト 3度の原稿やり直しに耐え、更新 ( No.168 )
- 日時: 2011/01/31 22:59
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: nUPupIAw)
「何だよ……これ……」
秋生はあの後、兵士たちの様子を見に行くために一人で行動していた。
そこで見た光景。それは優輝たちが既にみた兵士の無惨な血の海であった。
「誰が……こんなことを……?」
秋生は血の海の中、一人呆然と呟いてその光景を眺めていた。
少しでも助けられなかったことを悔やみに悔やむ。
普段、秋生はお気楽で楽観的な男であるが、人の死を前にして楽観をするほど残忍な男ではない。
それはエルトールに入った理由にも値するからであった。
「——あ、いたいた」
「!? 誰だっ!」
突如として後方より声が聞こえた。すぐさま振り向いてみるとそこにいたのは仮面を付けた奴と黒に包まれた男。
黒装束の方はどこかで見覚えがあったが、仮面を付けた男とは初対面であった。
秋生が細い目を睨みつけるようにしてその二人に視線を浴びせた。
「おー怖い怖い……。聞きたいことがあるだけだから、聞いてくれるかな?」
仮面をつけた男か女なのか区別のつかない声の奴は肩を竦ませながら秋生に聞く。
秋生はこの時、この状況下で穏やかな心を持っていなかった。それどころかこの有様をこの二人がやったと思い込んでしまう。
「お前らが、これをやったのか……?」
「これ? これって、この血の海のことかなぁ?」
仮面を付けた男が隣の黒に包まれた男に促す。すると小さく、秋生に聞こえないほどの声で返事をする。
「はははっ! 違うよ。これは多分ね、きっと"悪夢"の仕業かな?」
この無惨な光景を目にして驚きもせず、笑いながら仮面をつけた奴は言った。
「悪夢? それは誰のことだっ!」
秋生がいきり立って詰め寄ろうとした時——ふっと、冷たいものが首に触れた。
「——っ!?」
目線の先には仮面の男の姿はない。黒で包まれた男のみ。
仮面の男は——秋生の隣にいた。白く、透き通った手が秋生の首に触れていたのだった。
「君の質問には、一回答えたよね? ——次はこちらの番だよ」
近くで聞くと、余計透き通っている声のように聞こえたがそれと同時に恐ろしく冷たい声のように感じた。
驚き、それもあるが殺気に近い何かおぞましいものが秋生の口をとめていた。
「さぁ。答えてもらうよ?」
何かが、秋生の中に入り込んでくる。
息が少し苦しくなっている気がした。手に力を入れられているのかすらも分からない。
何も、感じない。
「——月影 白夜。白夜光はどこにいる?」
「ッ——!」
奴は、透き通った声で秋生の耳元で語りかけるようにして言った。
震え上がる畏怖。嗚咽を何度もかましたい気分にもなってくる。
だが、それをすることさえも奴は許してくれないだろう。ただ、質問を答えることだけに秋生を利用している気がした。
「——さぁ、答えて」
「——ッ!?」
頭が何かに侵食されていく。それは、暗い暗い何か。
どんどん侵食され、やがて秋生は——意識が途切れた。
仮面の男が去った後、秋生はひどい嗚咽を何度も繰り返した。
そうして吐いたものはほとんど全てが血反吐であった。
「お前も埋め込まれたようだな……」
黒で包まれた男が言っているようだ。頭がボヤけて何が何だか分からない。
——何が、誰が俺に話しかけている?
ひどい頭痛が脳内を駆け巡り、息苦しくなってくる。
そして——何かが弾けた。
「ハハハハハハハハッ!!」
途端に秋生は笑いだした。
その姿を見て黒に包まれた男は黒で覆われた顔をあらわにする。
その正体は秋生が断罪と戦った時に見た"斬将"黒槍 斬斗であった。
斬斗は闇に包まれた剣を二つ抜き放ち、構える。
目の前には笑いながら足をフラつかせ、途端に黙り込んで刀を二つ抜き放つ秋生。
「あれが……アバタコード"狂気"ラプソディ殿の力か……」
斬将は一度戦った男の豹変した姿に真剣に立ち向かい、打ち倒せんとして駆け抜けていった。
(殺サナイト……殺サナイトイケナイ!)
頭の中で鳴り響き、命令を下す狂気に支配された秋生は狂気に包まれ、侵食されていく。
——抵抗も、出来ないがままに。
これは、どういうことだ。
金縛りというものを聞いたことがあるが、それとこれは同じものなのだろうか?
目の前のものを、拒絶したい。だが、その場で動いてはならない気がする。
「遊ぼうよ、お兄ちゃんたち……」
ゆっくりと近づいてくる、"闇"。
それは人ではなく、闇そのもののように感じた。
この拒絶の感じ、優輝は断罪との戦いのことを思い出す。
優輝は生死を彷徨った。そして、再びここに戻ってきた。
自らの使命を果たすために。罰を受け、洗い流すために。
だが、これは違う。
目の前にいるものは、生きていること全てを否定しているかのようで
夢。そう、夢のようだ。
それは悪夢のように目の前に存在していた。
直感で分かる。
この血の海の光景。それはこの目の前の悪夢がやったのだと。
「あそ……ぼう?」
ゆっくりと悪夢は近づいてくる。
——逃げないといけない! そうは分かっていても足が全く動かないのである。
それは優輝のみならず、他の3人も同様のようで誰も動けはしなかった。
(——このままだと、確実に殺される……!)
嫌な汗が多量に頬を伝っていくのが分かった。
それは精神なりの危険信号なのだろう。だが、圧倒的に目の前の存在は——それら全てを否定していた。
一歩、一歩と近づいてくる目の前の悪夢に何も出来ずにただ立ち止まっているばかり。
なす術がないというのはまさにこういうことのことをいうのだろうか?
「——つまらない。それじゃあそこらの"ゴミ共"と一緒じゃないか」
目の前の悪夢が言った。優輝の目の前で。
逃げたい、拒絶したいと思う気持ちが耐え切れない。
「じゃあね、お兄ちゃんたち」
悪夢が微笑んだのかすらも分からない。だが、口調が歓喜に満ち溢れていた。
悪夢がその得体の知れない何かを振り上げたその時だった。
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!!
とてつもない爆発音がそこらじゅうに巻き起こる。
それら全てはやがて一つとなり、大地に地震を起こさせる。
亀裂が割れて悪夢たるものが飲み込まれる前に大きく後退し、その亀裂からの飲み込みを避けた。
「ぬぉぉぉぉッ!!」
どこか聞いたことのある声が頭上より響く。
槍のように長く、しかし大きくて鋭いその棒状の物は悪夢たるものを貫いた。
その巨大な槍が地面に当たったかと思えばそこにまた大きな亀裂が入る。そしてその次に爆発が連続にして起きた。
白い煙が一斉に立ち込める。そこでやっと優輝たちは体が動け、声を放つことが出来るようになった。
「この能力は……! ヴァン元帥っ!」
凛の叫び声があがる。それとほぼ同時に白い煙がだんだんと晴れていき、そこに見えたのは白髪の頭を生やした巨漢。
「間一髪じゃったのぉ。お前らもうすぐで全員死ぬところだったの!」
そんなことを笑いながらヴァンは言う。その言葉に気を抜いてその場で4人はへたりこんで座りたいところだった——が、しかし。
「へぇ……これがアバタコード"土沌龍"ヴァン・グレイゼルか」
「——!!」
悪夢は平然と元通りの形に戻っており、ヴァンの後方を捉えていた。
得体の知れない黒色をした槍状のものがすぐさま形成され、それは間髪いれずにヴァンを狙ってくる。
ヴァンはそれを自ら持つ大槍を豪快に振り回し、なんとか避けきる。
そこから連続的に悪夢は槍状の闇で突きを繰り返し行ってくる。
それに全く負けず、左右前方からの攻撃を難なく槍で受け止めきる。それどころか、ヴァンは悪夢の槍を弾き返し、
「噂通りにしぶといのぅ」
と、告げた瞬間にとんでもなく重い一撃を悪夢の頭上目掛けて振り落とした。
その瞬間、再び地面に亀裂が生まれ、爆発を生む。それは無論、優輝たちの方にも起こってくる。
「逃げろっ!」
レイスの一言で優輝らは亀裂の影響のない場所へと移動していく。
だが、そこには待ち構えていたものがいた。
「子供……!?」
刃物を持った幼い子供たちであった。
目は虚ろで意識はないように見える。そして突然、刃物を振り上げて優輝たちに襲ってきた。
「なっ……! どういうことだっ!」
剣などで優輝たちも応戦するが、相手が子供のために傷をつけようにつけられない。
「武器を破壊するんだっ! もし出来なかったら気絶させて——! こいつら……体術が普通じゃない!」
ワイズマンが愛用のマグナム、ケルベロスを轟かせるが一向に当たらない。
それは決して腕が悪いわけではない。弾を子供たちが避けるのであった。
「何なんだ……? 一体……!」
一方、白夜と月夜はサイレンの鳴り響く建物内に潜伏し、移動を続けていた。
——行くべき場所はひとつしかない。
一見変わった暗い通路を通り、所々と罠などもあったが二人の体術に乗り切れないものはなかった。
そして、行き行く先に着いたのは小さな古ぼけた扉であった。
その扉のドアノブをゆっくりと回し、扉を開けた。
「……これが政府のアーカイブか」
白夜と月夜の見たもの。
それは本や書類が山積みに山積みを重ね、巨大な本棚が所狭しと置かれ、上の方の書類を取るための脚立までもがあった。
見ると年代物もあれば、真新しい物もある。
「働らかざるして獲物はないとはよく言ったものだな」
この言葉の意味。それは獲物という言葉がヒントになった。
獲物=それは存在するもの。つまりは書類か何かに値するものである。
白夜の知りたかったことはつまりそこに存在する。そして地上でのあの地震の数々。
地震の揺れはこの地下奥深くまで響いてくる。
これはここを守ろうというものではない。潰す気であることは明確であった。
元からここを潰す気でいたということである。働くが意味するものは探す。
つまりこの多量の書類の中から自らの獲物を探せということなのだと読解した。
しかし、タイムリミットはもちろんある。ここを壊される前に、だ。
「このどこかにあるはずだ。闇に塗られたトワイライトの真実が」
そこに次なる一手の鍵があると白夜は確信していたのであった。
この中に、必ず。
- Re: 白夜のトワイライト はい、しばらくお休みしますw ( No.169 )
- 日時: 2011/03/14 22:21
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
はいw戻ってまいりましたっw
これからも宜しくお願いします〜w
- Re: 白夜のトワイライト いない間に参照が… ( No.170 )
- 日時: 2011/03/17 13:06
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
槍と槍が重なる。
一方は強靭な刃を持つ勇敢な槍。
一方は闇に塗られたおぞましき槍。
それらが交差するたびに、周りの地面は亀裂と共に割れ動く。
それは双方の力の凄まじさを物語っているに過ぎなかった。
第9話:光と闇の咆哮
ヴァンは影を射止めようと巨大で強靭な槍を振り回し、闇の中へと食い込ませていく。
だが、闇はそれを避け、まるで遊んでいるかのようにして闇に塗れた槍で連続的に突きを繰り返す。
そのたびに足を踏み、亀裂内爆発をヴァンは起こす。闇こと悪夢はそれにぶち当たるのだが——傷は皆無であった。
強靭な矛は、斬ってもまるで効果のないように見える闇に目掛けて幾度となく襲い掛かるが、闇たるアバタコード"悪夢"は微動だにしない。
それどころか——楽しんでいるようにも見えた。
「むぅ……厄介じゃのぉ」
ヴァンは顎にあるヒゲを撫でながら槍を片手で振り回し、地面へと突き刺す。
まるで何事もなかったかのようにして悪夢は首元らしき部分を左右に動かす。
槍を幾度となくヴァンは当ててはきたが、どれも傷という傷は与えられなかった。かすり傷でさえも、だ。
いや、これは判断できないともいえるだろう。何せ相手はまるで闇の如く黒のコンテラストしか当てられていない。
つまり、人型はしていても闇そのものなのである。
「へぇ……さすがは元帥だね? ヴァン・グレイセル」
悪夢の声は脳の中に直接送り込まれたような感覚がして倦怠感を感じざるを得ない。
これもまた、能力の一つなのだ。といっても悪夢というこのユーザーが本当に"人間なのか"どうかは不明である。
もし、人間なのだとすると必ず肉体部分があるはずだった。しかし、今のところ全く手ごたえというものを感じない。
「相変わらず、気味が悪い奴じゃのぉ。どこかでこの感じ、覚えがあると思ったわい」
「ふふふ……気付いてくれた? ヴァン・グレイセル」
闇の塊は次々に増幅を重ね、次第に——巨大なランス状のものを生み出す。先ほどの槍の2倍〜3倍はあるだろう。
実体そのものが闇の悪夢だが、脳内で知らされるのだ。——笑っている、と。楽しんでいる、と。
「面白いのぉ……。久々に、老兵が本気を出さねばならんのかのぉ」
ミシミシと、ヴァンの周りの地面に亀裂が入り、それぞれが——次第に爆発していく。
凄まじい爆音の中、悪夢の様子はただただヴァンの姿を見ている風にしか見えない。
「始めようかのぉ……! "ナイトメア"よ」
大きく悪夢は揺れ動き、その巨大な闇のランスを——ヴァンに振り落とした。
ヴァンは槍を引き抜き、構えて悪夢と対峙する。
——地面や周りの風景が崩れ去る中で。
「赤頭巾っ!」
崩れ去りそうな階段の踊り場付近にて、力が抜けたようにして座り込んでいる一人の少女に目掛けて、不知火は呼びかける。
不知火の声に七姫は、思わず安堵のため息を吐く。
「何してたんですかっ!」
「何してたって……まあいいや。そんなことより、さっさとここから出るぞっ!」
揺れ動く地面、亀裂の入っていく床や壁などを見ながら不知火は七姫に言う。
「ま、まだアーカイブを見つけてないですっ!」
「んなことはもうどうでもいいんだよっ! とりあえずここから出るぞっ!」
不知火は七姫の言葉を押しのけて、七姫をお姫様抱っこする。
持ち上げた途端、七姫の能力である七国靴が効果を消す。
七姫はもがくようにして不知火の頭を小さな手で何度も叩く。
「あ、ちょっとっ! 不知火っ!? 離してくださいっ!」
「いい感触なんだが、そんなことに浸っている場合じゃないな」
不知火はその言葉と共に瞬時に階段を駆け下りながら思う。何とかここから脱出しなくてはならない。
——ここは既に、悪魔の居つく魔窟なのだから。
優輝はその頃、子供を相手に剣を振るっていた。
傷は与えずに、武器などを落として気絶させるというのは困難を窮めた。
それは、この子供達の戦闘レベルが——通常ではないためだった。
レベルが高すぎる。たまに隙をつかれて危ない時さえある。
これまでいくつもの任務をこなしてきたメンバー一同にとっては屈辱に一言だった。
「数も多い。こいつらが大人だったらと思うと……恐ろしいな」
ワイズマンはケロベロスを構えながら、この状況を見て舌打ちをする。
圧倒的に不利な状況でもあった。能力者でもない、ただの子供がこれだけの数でといえど、これほどまでにてこずることはなかっただろう。
「ただの子供達じゃないのは分かったが、何なんだ? 一体……」
冷静に剣を構えながら、向かってくる子供達を受け止めては跳ね返し、武器を破壊しようとするが避けられる。
それの繰り返しがそもそも多く、時間の無駄ともいえた。
「もしかすると、なんだが……」
不意にレイスが言葉を漏らした。
その間にも子供達が襲ってくる。応戦しながらも、ルイスはそのまま続ける。
「足止め、していると考えたならば……この先に、何かがあるというのも捨てきれない判断じゃないか?」
言われてみればそうであった。
この子供達は、大体が攻撃というより、避けることに専念しているような感じだったのだ。
つまり、目的は優輝たちを倒すことではなく、足止めすることにあるとしたら——それは一体、何を指し示すのか。
「個人的に気になるのだが……この奥は確か、政府の隠されたアーカイブに繋がっているはずだ。以前、話を聞いたことがある」
「何か裏がありそう、ということですか?」
「可能性は……あるということだ」
優輝たちは子供達の後ろにある暗い入り口を見る。
その奥には、何があるというのか。真実はその向こうにあるはずだった。
「行こう。行くしかない」
優輝は、そう判断して——子供達の元へと駆け抜けた。
その後に一同もついていく。不気味な笑顔を灯す、一人立ち尽くす凛を置いて。
「うわぁぁぁぁっ!!」
幾度となく響く、剣と剣のぶつかり合う音。
秋生はまるで狂ったかのように叫び、剣を振るっていた。いつしか目の色が赤色に染まっていることも、斬斗は確認する。
「ここまで変わらせるものなのか……! 人の狂気というものはっ!」
斬斗は、暗黒の能力によって禍々しいオーラを身に纏う。それらはやがて斬斗を見えない鎧と化する。
「はははっ!!」
笑いながら攻めてくる秋生に、闇を纏った剣で受け止める。
「ふんっ!!」
横へ薙ぎ払い、秋生の剣を弾き返した後、続いて連続的に斬撃を送り出す。
が、秋生は身をよじらせてはその斬撃を受け止め、身を回転させてその螺旋の力によって逆に剣を弾き返す。
「うわぁぁぁぁっ!!」
そして陽炎を生み出し——秋生の体は"紫色"に染まる。
能力の色さえも、狂気というものは変えてしまうのだった。
「なんという……っ!」
生み出された紫色の陽炎は、とてつもなく強大で危険なものだった。
陽炎を球形に変え、斬斗に向かって投げつける。そして——直前で弾けるかのようにして無数の陽炎を作り出して、斬斗へと襲い掛かった。
「くっ……!」
あまりに生み出された陽炎の数が多く、とても避けきれるものではなかった。
数十個は何とか剣と暗黒でしのいだが……その他のものは体中のあちこちへと爆撃していく。
その様子を見て、秋生は嬉しそうに雄たけびをあげる。その姿はまさしく、狂気といえるものであった。
「う、ぐ……!」
無数の傷を負い、膝を地面につけている斬斗を尻目に、さらに追い討ちをかけようと秋生は走り出す。
「闇に……堕ちろっ!」
「ッ!?」
斬斗の掛け声と共に、秋生の辺りは暗闇で包まれる。
それらは秋生の目をくらまし、まるでずっと奥があるかのような錯覚を植えつける。
「暗黒の真髄……見せてやろうっ!」
斬斗は言い放った瞬間、闇に包まれて斬斗の姿が確認出来ない秋生に目掛けて連続的に攻撃をしかける。
「がっ! がぁぁぁぁっ!!」
何度も斬斗の剣が秋生の体を切り裂き、血が流れ落ちる。
闇の中にいる秋生は何も出来ずに、どこから来るか分からない斬撃を喰らい続ける。
「とどめだっ!!」
満身創痍と化した秋生に、とどめの一撃を喰らわせようと大きく振りかぶった瞬間——
「そこまでです」
女性の声が聞こえ、闇が一気に光へと満ち溢れていく。
その光は、星のように煌きを放ち、とどめの一撃を与えようとしていた斬斗を取り押さえる。
「くっ! 何だこれはっ!!」
その星屑に取り押さえられた斬斗は、そのまま記憶をフラッシュバックさせられ、目の前が過去の映像へと映る。
「幻想系の能力者かっ!」
斬斗はフラッシュバックしていく記憶を見ながら、そう叫ぶ。頭の中に一気に流れ込んでくる過去の情報に、身がよろけて、膝をつく。
「この能力は……っ! 大和撫子かっ!」
斬斗が叫んだ後、颯爽に現れたのは何故か傷だらけの大和撫子こと風月 春だった。
その大和撫子の後方には、ぐったりと倒れている少女の姿があった。斬斗はその少女にも見覚えがあったのだった。
「氷歌……っ!?」
同じ仲間が敵にやられ、あそこに倒れている。
残酷な任務などは心無く果たせる残忍な斬斗だったが、仲間を無為に倒されたまま敵を生かしておくことなどは決してしない。
「貴様……! この斬将が相手をしてやろうっ!」
剣を再び構え、大和撫子に向けて襲い掛かろうとしたその時——
「うわぁぁぁぁっ!!」
「ッ!?」
ものすごいスピードで秋生が斬斗に襲い掛かってきた。
凄まじい速度で振り落とされる紫色の陽炎がついた剣を振るわれるのを斬斗は何とか剣で受け止めることに成功する。
衝撃が手から体全体へと回り、後方へと大きく仰け反ることになる。
秋生の勢いはまだ止まらず、振り落とした剣をもう一度袈裟斬りで斬斗に与えようとした時だった。
「うがっ! うがぁぁぁぁっ!」
秋生はいきなり頭を抱えてもがき出す。
傷だらけの秋生はもがくたびに、血が溢れ出ては流れ落ちていく。
よく見ると、周りに星屑が多く散らばっていることに気付く。
「大和撫子……!? 何故俺を助けた?」
「助けた? 勘違いしないでください。今の秋生は、秋生ではありません。貴方ではなく、秋生を助けたのです」
次第に秋生から闇に似た紫色の煙が吹き出、空へと消えていく。
真っ赤になっていた目は元の黒色へと戻り、その場に秋生は倒れこんだ。
「助けるにしても、俺を殺してからでも遅くはなかった」
「無為な殺しはしません。それは私の……秋生の、モットーです」
何分経っただろうか。以前として見つからない目的の書物を探る白夜と残月。
それぞれの目的を抱えながらも、今は共闘として書物を探すことに二人して専念しているということだった。
残月は、そもそも黒獅子の軍勢に入っていた理由は、ある人物を探すためのことだった。
その情報が無ければ……味方をする必要性も、感情も湧かない。
一つ一つ見ていくのでは時間が多大にかかりすぎる。ただでさえこの建物は壊れていくというのに、タイムリミットが近すぎるのだ。
今もなお、激しい轟音と揺れはたびたび生じていた。
「これだと、いくらかけても時間が足りないな……」
残月は呟き、舌打ちをする。
白夜の方は——探すわけでもなく、ただその場でじっと目を閉じているだけであった。
ただでさえ時間がないというのに、白夜の行動はあまりに異常だった。
「おい、白夜光。さっきから何をしているんだい?」
残月が聞いたとしても、白夜は答える素振りも見せない。
呆れて物が言えない、という風に残月は鼻で笑った後にまた探しに戻る。
白夜はこの時——自らの能力を発動するための精神力を練り上げていた。
(違う……これでもない、違う)
手探りで探すのではなく、白夜は能力を使った方法で探していた。
ここにある書物が全て"嘘"だと考えて、真実は一つとするならば——それだけのものが感知できるはずだった。
電脳世界であるエデンでは、そうしたデータの総量が多いものと少ないものがある。
今しばらく探してみたところ、どれも総量が少ないものばかり。つまり——総量の大きいものが本物ということだった。
しかし、見つけるのはたやすいことではない。何せ精神力が必要なわけで、外見では区別などはつかない。
外見ではなく、中身の総量を覗き見することは多大な精神力が必要なのであった。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42
この掲示板は過去ログ化されています。