二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ( Down,down,down! ) /立て直す
- 日時: 2011/03/28 14:48
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
◆お知らせ
立て直させていただこうと思います、多分紫奔かにょーという名前でつくります。
◎ご挨拶
初めましての方は初めまして、元烈人の宮園紫奔とかいいますごみです。
( Down,down,down! )は稲妻11を主とするよろず短編集です。妄想と俺得しかありません。目に毒です。
マイナーカプとかありえない組み合わせとか(それを人は妄想と呼ぶ)大好きです。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
◎あてんしょんぷりーず
→更新速度は遅め、駄文しかないです(^ω^)
→とにかくキャラの扱いが悲惨です。恋愛とか暴力とかタヒネタとか色々。
→ひどい捏造、俺設定などが溢れすぎています。
→大半が稲妻11、幽白増殖中、後は気分次第でちまちまと。
→観覧はあくまでも自己責任だぜ! そんな目薬で大丈夫か?
◎MAIN
>>274※スレ建て〜11月2日までの更新分、稲妻のみ
短編以外のもの>>353※稲妻のみ
*稲妻11
(>>362)それはまるでメルヘンな世界の出来事 木→←春
(>>360)one more time! 真帝後佐久間
(>>359)る、ら、ら。 ネパリオ/立春/レーゼとウルビダ/ふどたか/ガゼクラ/レアヒト/SSS
(>>357)それは誰かの幸福論 バメル兄弟とミストレ
(>>354)つまりこういうことなのです ゼルマキュVD
(>>351)曇天グロッキー 一之瀬と塔子、ガゼリカ←のせ前提
(>>350)それでも世界は廻るのだ 小鳥遊、若干たかふど
(>>348)それは酷く単純なこと ふどたか←げん
(>>345)stagnation ヒロ玲
(>>343)がらすとかびん ふどたか、流血
(>>333)後遺症 アフロディ
(>>330)題名未定 緑川×小鳥遊、書きかけ
(>>322)さよならデスパレート! 佐久間と源田、タヒネタ
(>>320)今日も今日とてランデブー たかふど、新年祝いだと思う
(>>304)題名未定 ガゼルとクララ、書きかけ
(>>289)単純に、手放す。 玲風、氷橙風様との共同お題
*オレブン / >>334※おおまかなキャラ妄想
(>>347)必殺技=ギャップ 毛利と栞
(>>341)black and blue. 毛利と舞姫、おきちゃん←毛利前提
(>>324)それは可笑しな確率の話 不動とおきちゃんと毛利、不動×小鳥遊前提
(1>>3282>>3293>>3374>>)今日にはない/明日にもない 不動と佐久間メイン、ふどたか前提
*other
◎ぼやき
もうすぐ進級なう
先輩なりたくねぇ……見習ったらもれなく腐るよ、いろんな意味で(ry
◎めも
3部、エラゴンの夢のなかにマータグが
もしもまーちゃんは壊れてなくてみーくんがおかしかったら?
デスマスの話、デスカーンへ進化
あまぬまのことがことあるごとにフラッシュバックしかけちゃう蔵馬さん
桑原と雪菜と飛影、桑原の不注意でなんかいろいろと
飛雪←桑、若干報われないっていうかなんというか
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- Re: 【稲妻】one more time【話集】 ( No.210 )
- 日時: 2010/09/06 22:05
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
知らなきゃいけないことは、どうやら1と0の間。
¨たかふど/微甘/微シリアス
僕らの存在はこんなにも単純だと笑いにきたんだ。
¨グラウル/姉さんキャラ崩壊/シリアス微甘
耳をふさいでも、両手をすり抜ける真実に惑うよ。
¨風丸+円堂/DE後/シリアス
鳴り止まぬ雨音は、嘘も真実も隠して
¨吹雪メイン白恋/シリアス/ほのぼの/アツヤ
翼奪われた片羽の鳥は、最後に誰の名前を呼ぶの?
¨リュウジメインエイリア/さよなら、愚かで愛しい世界/タヒネタ
僕は瞳をそらさずに、傷も痛みも真実も
¨DE戦をファンタジーでやってみようぜ!
*
大した数でもないけど、全部わかった人はお友達。
- >>210より“鳴り止まない雨音は、嘘も真実も隠して” ( No.211 )
- 日時: 2010/09/08 19:07
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
「アツヤ君、は?」
控えめに囁かれた彼女の言葉は、全てを崩壊させるのに十分すぎた。
<エンドレスループ>
彼女は僕を頼れる少々気の強いリーダー格と見ていて、けれどそれは僕ではなかった。僕ではなく、アツヤだ。
たまに現れるアツヤのことを彼女は見ていて、アツヤではない僕は常に彼女に拒絶、そして否定されていた。
『士郎君? 違うよ、ねえ、士郎君はアツヤ君だよね?』
わけのわからない、道理に全くかなっていない言葉を彼女は紡ぎ続けた。
そんな彼女が、無性に愛おしかった。
*
「ただいま、みんな」
本当に、久しぶりだ。何ヶ月ぶりなのか、正直はっきりとは記憶していない。久しぶりだと、本当に長い間だったと、そんな感じに曖昧としかわからなかった。
それに、みんなと会えなかった長い日数を、時間を、今更数える気には到底なれなかった。
僕は、帰ってきたのだから。
「お帰り、吹雪君!」
僕の姿を見つけて走ってきて、笑顔でそういってくれた紺子ちゃん。久しぶりで、とても懐かしくて、自然にふんわりとした笑顔が顔に広がっていくのが分かった。
グランドにいたみんなが、走ってくる。嬉しそうに、顔いっぱいに笑顔を浮かべて。僕の存在は、やっぱり認められていた。みんなは、僕との再会を喜んでくれた。
でも彼女は、喜んでくれなかった。
「久しぶり、吹雪!」
「おかえり。色々とお疲れさま」
「ねえねえ吹雪君、話聞かせてよ!」
「宇宙人ってさ、どんなのだった?」
四方八方から飛んでくる言葉や疑問は、頭の中をなめらかに滑ってどこかへ飛んでいってしまった。
僕のマフラーが無いことに気付いただろう彼女は、ゆっくりとした足取りで僕のほうへと歩いてきた。
とはいえ酷く距離があり、周囲をぐるっと囲んでいるみんなの、向こうの向こう。喋れる距離でもなければ、表情を交し合える距離でもない。なんというか、無駄に長い距離だった。
「〝死んじゃえ〟」
それでも僕には、そんな彼女の口の動きが凄くよく見て取れた。彼女が小さな声量でその言葉を発しているということも、ぼんやりとわかった。彼女が目にいっぱいの涙を溜めていることも、拳を握り締めて震えているのも。
それもこれも、全部僕のせいだということも。
*
「珠香ちゃん、」
「しろーくんはその名前で呼ばないで」
その日は、酷い雨だった。僕が帰ってきてから二日後の学校の放課後、僕は珠香ちゃんに呼び出されて酷い雨音の中刺々しい、なんというかひたすらに居心地の悪い会話を古びた教具室で交わしている。
三年ほど前までは使われていたらしい教具室は、今となってはすっかりと物置へ変化してしまっている。しかし掃除は大雑把にでも行われているのか、埃があちらこちらに散乱しているということは無く、小奇麗だった。
あっけなく一蹴される僕の珠香ちゃんを呼ぶ声は、何度発されただろう。また、僕は何度発しただろう。覚えてない、知らない、わからない。わからないならどうでもいいや。
「……アツヤ君は、どうしたの」
君の大好きなアツヤは、もうどこにもいないよ。いっそ笑顔でそういってしまいたかったけれど、さすがに僕にはそこまでする度胸は無い。いえたら、楽なんだろうけど。
珠香ちゃんが愛しているのはアツヤであって、僕ではない。けれどアツヤは僕が作り出した仮初のアツヤであったわけで、そのアツヤは僕でもあるわけだ。人格なのだから。
早い話、珠香ちゃんはもうこの世にはいない僕の弟に恋しているということで。とはいえそれだけの言葉では片付けられなかったりするから、余計に面倒で。
「アツヤは……もう、いないよ」
俯きげに、できるだけ珠香ちゃんの表情が見えないようにして言った。僕の人格であるアツヤに珠香ちゃんは恋していて、けれどもそのアツヤは僕の死んだ弟で、そして僕はもう吹っ切ってしまったから。
大好きな、珠香ちゃんの大好きなアツヤは、もうどこにもいない。元々アツヤである僕を好きになったのだから、僕を好きになったのと同然かもしれない。まあ、性格やら口調やら凄く違うし、拒絶されるのも無理は無い。
「どこ行ったの? じゃあ、アツヤ君はどこへ行ったの? 知ってるんでしょ、士郎君」
だから消えたんだよ、珠香ちゃん。なんの比喩でもなく、死んだわけでもなく、消滅したんだよ、アツヤは。
どこへ行ったの? どこへも行ってない、僕らとずっと一緒にいるんだよ。けれども僕はアツヤがいる場所を知らないし、前みたいに会話もできない。アツヤという人格は、僕という存在から消え去ったから。
「士郎君、ねえ答えてよ。アツヤ君は、どこにいるの? アツヤ君に会いたい、会いたいの」
珠香ちゃんって、こんな子だっけ。僕の知ってる珠香ちゃんは、もっと純粋で無垢で無邪気で優しくて笑顔の可愛い明るい、人に無理強いしたり無駄だとわかっている行為を繰り返す子ではなかった。
望んでいる。珠香ちゃんは、きっと僕の中にアツヤが復活するのを望んでいる。つまり、アツヤを必要としている。そして僕は、必要とされていない。
悲しいような、辛いような。それらの感情は、まあ僕が——僕、吹雪士郎が珠香ちゃんのことを好きだから余計にこんがらがって複雑になってしまっているようで。
面倒だなぁ、と思う。どうすればこのごたごたを終わらせれるのだろう。なんて考えてみたけれど、答えなんて出るはずもなく。わーっと叫びだしたい気分だった。ぐちゃぐちゃな感情が、混ざり合って融けていく。
「士郎君……っ!」
「……アツヤは——『ここにいるさ』」
もう、いないんだ。そう続けようとした言葉は、ぶつりとダレカの言葉によって遮られた。否、ダレカじゃない。誰かなのかはわかっている。僕自身の言葉なのだ。
けれど、僕であって僕自身ではない。つまり。つまり。確かに発したのは僕だけど、でもそれは僕の意思じゃなく。
まるで、アツヤがいた時のような——
「……アツヤ君! やっぱり、アツヤ君はいた、帰ってきてくれた!」
暗、転。
(さよなら、さよなら。)
+
さて、題名にもあるとおり>>210よりryなのに最初からだいぶ話がずれてしまったwwwずれすぎだろ俺www
意味わからんwww いや、最初はですね。最初はですね、最初はですね!
吹雪が白恋へ帰る⇒「アツヤはどうしたの?」⇒「いるよ」⇒いないけど、みんなとアツヤはずっと一緒。
みたいな感じで書こうと思ってたんですどうしてこうなったwwぶはww
つくづく計画性のないヤツだと思い知りました。
- ちいさな、ちいさな。 ( No.212 )
- 日時: 2010/09/08 21:09
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
(いつかの彼女の言葉)
ごめんな、さえも言えなくて。最後までムキになって罵倒し続けて、大嫌いなんて口走って。死んでしまえと言ってしまった俺が一番死ぬべきだろうと今更思う。
いくら謝っても、きっとアイツは許してくれない。むしろ、このままでいいんじゃないだろうか。そんなことを想い始めている自分に気付いて、酷い自己嫌悪に陥った。
けど、でも。人のことを信じて好きになって愛して、それがどうなるって言うんだ?
——ごめんなさい、ごめんなさい、
暴力を振るう父に怯えながら俺を守っていた、傷だらけの母。どうして父が母に暴力を振るうのか、どうして好きで結婚したのに、何故そんなことができるのか、不思議でならなかった。
人のことを信じ、好きになる。その末路が、それなのか?
——駄目よ、
いつか自分が愛した人間のことをめいっぱい拒絶して、否定して、まるでモザイクを掛けたような真っ黒な憎悪で塗りつぶして。それを愛だと呼ぶことなど、できるのだろうか。
——お父さんみたいになっちゃ、駄目よ
愛なんて、所詮はそれぐらいのものなのだと、今更ながらに思う。そんなこと、幼い頃にとっくに気付いておかなければいけないことだっただろうに。
もう、アイツには、謝らない。そう、決めた。もう、人が傷つく姿を、見たくなかったから。
***
「ごめん」
謝らないと、決めたのに。もし謝られたとしても、決して許さないと決めたはずなのに。否、それよりも。謝るのは、酷いことばかり言ったのは俺のほうであって、まずアイツが謝る必要など無いというのに。
俺が、謝らなかったから。悪くないアイツに、謝らせた。人を傷つけたくないから、また自分が昔のような目に合うのが嫌だから。だから、ただそれだけで。そんな、身勝手な自己満足な理由で。
なんだか泣き出しそうにも見えるアイツの顔を見ていたら、どうにもやるせない気持ちになった。謝るのは俺だろ。悪いのは俺だろ。それよりも、なんで俺なんかに構うんだよ。
朝から、ずっと避けてたのに。わざと、避けてたのに。部活中も、目を合わせようとさえしなかったのに。どうしてお前は、それでも俺に謝ろうと思うんだ。
「……本当に、ごめん」
お前がそんなに優しいから、俺はそんなお前に依存してしまいそうになるというのに。いっそ、突き放してくれればよかった。そしたらきっと、全て吹っ切れたはずなんだ。
人を好きになることなんてくだらない、きっと痛みを生むだけ。そう決着づけた俺の自論は、間違ってたっていうのかよ。確かに、間違ってるかもしれない。それでも俺は、実際のその様子を見てきた。
目に、焼きつくほど。時折夢にも出て、うなされるほど。もう、何年も前の話だというのに。脳裏にこびり付いて離れないその記憶は、どうしても俺の中から消えてくれない。
「…………俺も、悪かった」
突き放せばいいのに。向こうから突き放されるのを待っているだけでなく、俺自身も突き放せばよかったのに!
無意識に口から転がり出た言葉に、酷い自己嫌悪に苛まれた。ここで謝るのは、恐らく常識的には正解。それでも俺にとっては正解ではなく、不正解どころではない。サッカーで言うなら、ファールでも掛かるような、そんな、言葉。
それでも俺のこの口は、そんな言葉を紡ぎ続けることをやめてくれなくて。
「いや……俺が、悪かった。ごめん」
謝るぐらいなら、コイツのことが好きになるのを怖がっているのなら。いっそ、突き放せばいい。いっそ、大嫌いになってほしい。なのに、そう思っているのに。俺はどうして、こんなことを言うのだろう。
微かな、今にも消えてしまいそうな嗚咽が耳についた。ふっと前を見ると、アイツは泣いていた。顔を歪めて、涙を流していた。一瞬、何故泣いているのかとパニックに陥りそうになった。
そんな時、アイツは綺麗に綺麗に綺麗に綺麗に微笑んで、言った。
「許してくれて、有難う……」
理解、不能。どうしてお前がそんなことを感謝しなければいけないのか。お前は許されて当然のはずなのに!
俺は、何を言えばいいのか。泣いているお前に、どうやって声を掛けてやればいいのか。
「……忍、」
悩んだ結果、特に後先を考えることなくお前の名前を呼んだ。するとお前は、涙を腕で拭って俺のほうを見て、また笑った。微笑んだ。綺麗に、優しく、温かく。俺は、お前のそんな笑顔を向けられる権利があるのか?
そんな疑問が脳を喰らいつくし、自己嫌悪が再度思考を蝕み始めた時——
「——あたし、明王のこと、好き」
儚げな声が、ぼんやりと脳髄を侵していった。
(いつかの彼の笑顔)
- いびつななみだ ( No.213 )
- 日時: 2010/09/08 21:26
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
(大好きさえも言えなくて)
「ねぇ、明王」
「……んだよ?」
ぼんやりと半ば意識を手放そうとしながら活字を目で追っていた明王は、ふと耳に投げかけられた忍の言葉に気だるそうに返事をした。ふあ、と伸びをしながら欠伸をする。
小さく、ぽつりと。呟くように、囁くように。風が吹けば飛んでいってしまいそうな彼女の続けられた言葉を、しかし明王はしっかりと耳に聞き留めていた。
「『好き』とは言ってくれるけど、『大好き』とは言ってくれないね」
予想だにしなかったいきなりの言葉に、明王は少々面食らいながら活字の群れから目を離し、隣に座っている忍へと目を向けた。そして思わず、絶句した。
泣いていた。笑顔で、けれど嬉し泣きとかそんなものじゃなく、切なげな笑顔で。涙が笑顔をかき乱して、今にも崩壊してしまいそうな口元の笑みが大きく歪んだ。
やがて小さな嗚咽が洩れて、忍はそれに気付いて慌てて俯いた。頬には赤みがさしていて、しかしそれは涙で全て隠れてしまう。ごしごしと服の袖で涙を拭い、けれどもそれが意味を成すことは無かった。
(抱き締めることしかできなくて)
- 拝啓、大好きな貴女へ ( No.215 )
- 日時: 2010/09/09 21:27
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
(いつかの涙と)
ぎゅう、とその華奢な体を抱き締めてみた。ぐい、と押しのけられる。余計に強く抱き締めてみると、右頬で痛みが灼熱した。カッターナイフなんてどこに隠し持ってやがったんだこの野朗! って叫んだら今度は頬肉じゃなく眼球を持ってかれそうだったんでやめておいた。
みちみち、という肉が引っ張られる音がやけに脳内に大きく響いた。ずず、という頬肉へとナイフの切っ先が沈み込んでいく生々しいおぞましい感触で、いやでも体中に鳥肌が立った。
真面目に、痛い。そりゃこれで痛くなければ感覚はもう手遅れなのだろうけれど。きりきり、と潜り込んでいくカッターナイフが軋む。今抜かれたら出血でショック死するかも……なんてねぇか。
とはいえ出血が酷いのは恐らく事実になるだろう。いや当たり前か。なにはともあれ、とりあえずコイツを落ち着かせなければいけない。さすがに、ずっとこの痛みに耐えれる気はしない。
「明王は、あたしのことが嫌いなの?」
不意に投げかけられた問いに、答えはしなかった。今口を動かせば痛みが爆発するであろうという恐怖に似た感情も交じっていたが、それよりぼんやりと頭にこびついたモノがあったからだった。
ここで突き放せば、忍は俺の前から消えてくれる?
そんなことを考えている自分に気がついて、どうせならもう失明させてくれと念じた。決めただろうに。誓っただろうに。ほぼ流れでだけど、付き合うと決まった時に。
絶対に、忍を母のように哀しませないと、泣かせないと、傷つけないと——誓っただろうが!
「あき、お」
ごめんさえも言えやしない。少しの言葉でも、忍に届けることができない。何故? そんなの考えてもわからなかったが、今の俺がどんなことを考えているのか——それだけは、ぼんやりとわかった。
俺は、忍に言ってしまいたいんだ。『好き』じゃなく、『大好き』だと。もはや依存していると言ってしまってもいいほど、好きになってしまったのだと。
額に、生温いなにかが触れた。そのなにかは、考えなくてもすぐにわかった。忍は、泣いてるんだ。何故? そんなのわかりきったことじゃないか。忍自身が口に出したじゃないか。
「ねえ、明王」
俺に嫌われてるんじゃないかって思って、それで泣いているんだろうが。俺は、いつまで逃げていれば気が済むのだろう。もう、誓いを破ったじゃないか。忍を泣かせた、傷つけたじゃないか。
不安に駆られて泣くほど、想ってくれている人がいるというのに。どうして俺は、こんなにも弱いんだろう。愚かなんだろう。馬鹿なんだろう。どうしてこんなにもちっぽけで、臆病者なのだろう。
もう、言ってしまえばいいだろうが。
言いたいと思いつつも、言い出せなかったこの言葉を。言ったら、きっと楽になれる。後悔とかするかもしれないけど、まずそれを乗り越えなければ始まらない。
いつまでも今のままじゃ駄目だと、わかっていたんだ。いつまでも過去のトラウマに縛られたままじゃ、どうにもできないと。もう、吹っ切ってしまえばいい。勇気を、出せ。
「——忍、」
戸惑うな。もう、伝えるだけでいい。その短い言葉で、全てが伝わるのだから。そしてきっと、全てを吹っ切ることができるのだから。それに、俺は——
コイツのことが、好きなのだから。ただの好きじゃなく、大好きなのだと。だったら、後は伝えるだけなのだ。
「愛してる」
大好きさえも、飛び越えて。今度こそは——嘘じゃないと、誓えるから。
(いつかの笑顔)
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