二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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ボカロ短編 song for you [想像≠世界]編
日時: 2012/06/27 21:09
名前: 麻香 (ID: cipNFuM5)

こんにちは、麻香まかです。
そろそろ、ノリで小説作っちゃうのは止めたいですw

§このスレッドについて§
☆荒らし・喧嘩は禁止です。
★ボカロを知らない方でも読めるよう作成しています。
☆ボカロは色々な解釈の仕方があります。皆さんのご想像と違う場合があります。
★主に感動モノの歌を小説にしていきます。オリジナル曲も含みます。
☆原曲と題名が異なる時があります。
★短編が完結した後に、それの参考になった原曲を紹介します。
☆できれば、たくさんの感想がほしいです。

§目次§
01 魔女   >>1-6  紹介>>7
02 囚人の紙飛行機   >>8-18 紹介>>19>>20
03 くわがた∞ちょっぷ   >>21-22 紹介>>23
04 悪ノ娘   >>29-93 用語集>>28 紹介>>>94>>95>>98
05 罪と決別とリボルバー   >>101-113 紹介>>114
06 ココロのプログラム   >>121-133 紹介>>142>>143
07 想像≠世界  >>147->>155

§通りすがりのお客様§
雪姫 さん
鏡猫 さん
リナ さん
マリン さん
ポルターガイス子 さん
伊莉寿 さん
☆クロハ☆ さん
みーあー。 さん
木苺 さん
ゆりかん さん
闇色グラフィティ さん
桜咲 紅葉 さん
蟻 さん
まどか& さん
恵莉♪ さん
ヰルマ さん
かがみ さん

また、ここではボカロの曲を募集します。
ボカロの曲は、大きく2つに分かれますよね。
・感情を表した、一般的な曲。例、深海少女(初音ミク)
・ストーリー性の曲。例、悪ノシリーズ(鏡音リンなど)
主に、後者の方を募集します。感動モノが良いです。
作者が気に入った場合、その曲を小説にします。

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Re: ボカロ [悪ノ娘]現在進行中! 【短編集】 ( No.67 )
日時: 2012/03/22 21:04
名前: 麻香 (ID: 5fqeGTW2)

翌日。
セレシュは、一人で市場に来ていた。

昨日ミリアの話を聞いて、自分でもなにかミリアにしてあげたくなった。
ミリアは明日、家に帰る。家出してきた娘にとって、それはとても怖いことのはずだ。
だから今夜、フィーラと示し合わせてサプライズパーティーをすることにした。
ミリアを元気づける為に。

「なににしようかな‥‥‥」

フィーラが屋敷を綺麗に掃除し、その間にセレシュが買い出しをする。
ちなみにシルヴィアナは留守だ。彼女は時々、誰にも告げずに旅行に行くことがある。
もちろん、どこへ行くのか、いつ帰ってくるのかも不明だ。

八百屋を眺めていると、ふとネギが目についた。
そういえばミリアが、初めて会った夜にネギが好きだと言っていたのを思い出す。

「すみません。ネギを一つください」

「はいはい」

八百屋の女将が愛想よく笑った。白い髪の自分にでも優しく接してくれるから、大きな町は好きだ。
ネギという言葉に、鍋を連想する。そうだ、今日は鍋にしよう。

「じゃあ、あとは白菜と椎茸と—————」

そう言い終わらないうちに、背後で悲鳴があがった。
振り返るのと同時に誰かがもたれかかってくる。
慌てて受け止めると、それは長い緑の髪をした女性だった。
その胸は赤く染まっていて、すでに息をしていない。

「っ!いやぁっ!」

反射的に手を離すと、その女性はずるずるとセレシュの足元に崩れ落ちる。
目の端に、黄色い旗が写った。鎧を着て武器を持った、たくさんの人々。
あれは‥‥たしか齢十四の王女が治める、隣国のラキティアナ国の軍隊だ。
なぜ、ここに。

ラキティアナ軍の先頭にいた男が銃を構える。
パン、と破裂音がした一瞬後、セレシュの隣で野菜の品定めをしていた婦人が倒れた。

そして、地獄が始まった。

               ☆★☆★☆

「ラキティアナ軍が市場で国民を虐殺してる!?」

フィーラの甲高い声に、セレシュはこくりと頷く。
ミリアに支えてもらっているとはいえ、足が震えて、今にも座りこんでしまいそうだった。

「そんな‥‥‥セレシュは大丈夫だったの?」

「‥‥‥‥」

また頷いた。
突然やってきたラキティアナ軍は、買い物に来ていた国民たちを銃で次々に撃っていった。
だが、狙われるのはなぜか緑の髪の女性だけ。セレシュに銃が向けられることはなかった。
それでセレシュは、危なっかしい足取りで屋敷へ逃げ帰ってきたのだ。

「‥‥‥理由はわかんないけど、それじゃあたしとフィーラが危ないのね」

ミリアが呟く。
そう。なぜか狙われている緑の髪、つまりミリアとセレシュが危険なのだ。
自分は白い髪だから狙われることはない。こんなに怖がる必要はないのに。
フィーラは低くため息をついた。

「よりによって奥様がいない時に‥‥‥」

「‥‥‥‥シルヴィアナさんってそんなに強いの?」

「さん、じゃなくて、様、ね。当り前よ。国を一つ潰したって言われてる人の子孫なんだから。そういえば昔ね————」

その時だった。扉をノックする音が聞こえたのは。

Re: ボカロ [悪ノ娘]現在進行中! 【短編集】 ( No.68 )
日時: 2012/03/22 21:57
名前: 麻香 (ID: 5fqeGTW2)

ミリアとフィーラがびくりと肩を震わせた。
沈黙が続く。この屋敷の中だけ時が止まってしまったように。
数秒後、今度は少し強めにノックがされた。
誰よりも早く平静を取り戻したフィーラが、深呼吸をしてからそっと扉を開く。

「‥‥‥どちらさま?奥様は出掛けておられますが」

フィーラはよく言葉遣いが乱暴になるが、仕事が関わっていると驚くほど豹変する。
フィーラの静かな問いに、扉の向こうの相手もこれまた静かに答えた。

「ミリア・ヴァーミリオンさんに話があります」

「ミリアに?」

名を呼ばれたミリアが、セレシュと顔を見合わせた。
混乱状態のこの国で一体誰がミリアを訪ねてくるというのだろう。
ミリアの実家だという資産家の両親が差し向けたものか。
それともミリアに恋心を抱いている王子カインの救いの手か。

だがフィーラの表情から、そのどちらでもないことが分かった。
全く知らない人でもないが、信用できるほど親しくもない人。フィーラの仕草が、そう告げていた。

「すみませんが、今この国はこんな状態なので」

フィーラが客を追い返そうとする。
だがその瞬間、見えた。少女のような細い身体をした、少年が。

「どなたも信用できま————」

「あ、レイさんっ!」

止める間もなく、ミリアが叫んでいた。
その顔は、まるで好物の菓子を見つけた子犬のようだ。
フィーラが半分諦めたような声で諭す。

「ちょっとミリア!」

大の男でも怯んでしまいそうなトゲトゲした声だが、ミリアはそれくらいでは動じない。
自分からいそいそと扉を開け、こちらを向いてニッと笑ったのだった。

「大丈夫よ。レイさんは」

               ☆★☆★☆

ミリアが一通りセレシュとフィーラをレイに紹介する。
このような状況でにこにこと笑っていられる性格なのは、この世でミリアただ一人だろう。

「それで?ミリアに話ってなに。単純明快に答えて」

もちろんそんな性格ではないフィーラは、話をさっさと進めさせる。
その間にも目だけは油断なく外を見ていて、本当に彼女はただの使用人なのかと疑わせた。
散々迷った挙句、レイが口を開く。心なしかその顔は青い。
だが、それはフィーラに遮られた。

「あれ、ラキティアナ軍じゃない!?ついにここにも来たよっ!」

窓の外に、あの黄色い旗が見えた。
地獄が蘇る。
銃声。人の悲鳴。断末魔。自分が抱えている女性の胸の、赤い赤い血。

「フィーラ、どうする!?」

「逃げちゃだめよ!この屋敷をお守りしなきゃ!」

フィーラとミリアの声でさえ、遠くから聞こえているようだった。
思わず小さな悲鳴をあげて座り込んだセレシュに、ミリアが駆け寄る。
大丈夫、大丈夫、と耳元で囁かれて、不思議と動悸が収まってきた。
だが、まだ地獄が終わったわけではなかった。

「レイさん?ちょっとなに?短剣なんか持って‥‥‥‥」

フィーラの震える声に、おそるおそる顔を上げた。
まず、きらりと光る銀色のモノが目に入る。
それがなにかわかった途端、気を失ってしまいそうなほど頭痛がした。

あれは、昔、自分がいつも持ち歩いていたモノ。
人という生物を、簡単に壊してしまえるモノ。

レイが、短剣を構えて立っていた。

その光る刃先を、真っ直ぐミリアに向けて。

Re: ボカロ [悪ノ娘]現在進行中! 【短編集】 ( No.69 )
日時: 2012/03/23 21:59
名前: 麻香 (ID: 5fqeGTW2)

フィーラとミリアがなにか叫んだ。
レイもぶつぶつとなにか呟いている。
その、どちらも聞こえない。

セレシュの瞳に写るのは、レイが持つ美しい短剣のみ。
全てが止まってしまったように見える。いっそ時間さえ止まってしまえば良い。

レイがじりじりミリアに近づく。
ミリアがセレシュを守るように抱きかかえた。
狙われているのはミリアの方だというのに。

どうしよう。どうすればいい。
ミリアが誘拐された時、セレシュ一人ではなにもできなかった。
また同じことが起ころうとしている。
どうしよう。どうすればいい。
ミリアが殺されるのは嫌だ。怖い。見たくない。

胸の前で手をぎゅっと握った時、服の中のなにかが触れた。
その正体がわかった瞬間、セレシュはそれをレイに向けていた。

「来ないで‥‥‥っ!」

ミリアもフィーラもレイも、驚いた目でセレシュを見る。
セレシュが持っていたのは、けして人に向けてはいけないモノだから。
怖がりな娘が持っているはずのないモノだから。

それでもセレシュは、震える手でそれを持っていた。
セレシュがその昔、自らを傷つけるために持っていた、小さなナイフを。

セレシュは剣術などは習ったこともない。レイの方が優勢なのはわかっていた。
でも、このままで終わらせてはいけない。
ミリアは明日、自分の屋敷に帰るのだ。両親と仲直りをするのだ。
ミリアと自分の幸せな思い出を、最悪の結末にしてはいけない。

最初はレイも戸惑っていたが、やがて心を決めたようだった。
短剣が今度はセレシュに向けられる。
だがその時、よく通る澄んだ声が響き渡った。

「セレシュ。もう、いいわ」

ミリアが笑っていた。
これ以上ないくらいの、満面の笑みで。

「ミリア‥‥‥?」

「これはあたしの問題よ。あなたの綺麗な手を汚す必要はないの」

セレシュの手からナイフがそっと奪い取られる。
その時に触れたミリアの手は、不自然なほどに冷たかった。

「大丈夫。あたしは、消えるから」

ミリアはなんの躊躇いもなく、自分の胸にセレシュのナイフを、刺した。
そしてそのまま、くしゃりと崩れ落ちる。
陽炎のように儚く、緑の髪が舞った。

「いっ、いやあああぁあぁぁあああぁぁぁっ!!!!」

フィーラが彼女らしくない悲鳴をあげた。
その声は、静かな屋敷の隅々にまで染み渡る。
レイが短剣を取り落とし、カランという冷たい音でセレシュは我に返ってミリアに駆け寄った。

「ミリア!馬鹿っ!なにしてるのよっ!」

ミリアはまだ笑っていた。
その顔には、なんの後悔もない。

「セレシュ‥‥‥あなたは、不幸な人間じゃないわ」

突然の言葉に、セレシュはなにも返せない。
ミリアはどんどん白くなっていく唇で、言葉を続ける。

「あのね‥‥‥人間は幸福と不幸を同じだけ持っているのよ。セレシュはこれまで不幸だったかもしれないわ。でも‥‥これからきっと幸せになる。それにね。セレシュは‥‥きっと幸せを知らないのよ‥‥‥」

ミリアの緑の髪が、服が、どんどん赤く染まっていく。
セレシュはまた、なにもできなかった。
ミリアの話を聞いていることしかできなかった。
ミリアの手を、どこにも行かせまいとするように掴んでいることしかできなかった。

「美味しいものを食べたり、欲しかったものを買ったり、好きな人と並んで歩いたり‥‥そんなちっちゃな幸せを、セレシュにも知ってほしいから‥‥‥だからね‥‥‥‥」

ミリアがにっこりと微笑んだ。

綺麗な、とても綺麗な笑顔。

そして、その手が、くたりと地面に落ちた。

Re: ボカロ [悪ノ娘]現在進行中! 【短編集】 ( No.70 )
日時: 2012/03/25 14:49
名前: 麻香 (ID: 5fqeGTW2)

自分が泣いているのかどうかもわからなかった。
今、心の中にあるのは、なんの感情なのだろうか。
それは悲しみでもない、ただの単純な怒り。

ミリアの顔をただ見つめながら、セレシュは地面に落ちたミリアの手に触れる。
冷たい手だった。滑らかで繊細で、命の温かさを失った人形のような手。

「————る‥‥‥」

そんな言葉が口から漏れていた。
ミリアの胸からそっとナイフを抜き取り、立ち上がる。
そして、ただ立ち尽くしているレイを見た。

「————てやる‥‥‥」

初めての友達。心から信じてくれた人。
一緒に笑ってくれた、とても優しい人を‥‥‥。

「‥‥殺してやるっ!!」

許さない。
ミリアを死に追いやった人を。
孤独で小さな一人の人間を破滅させた人を。

レイはぴくりとも動かない。
容赦なくナイフを振り上げたセレシュは、だがそこで固まった。

「ミリアを‥‥‥殺した人‥‥‥‥?」

ミリアを殺したのは、誰なのだろう。
ミリアは自ら死を選んだ。ミリアにそこまでさせたのは、誰なのだろう。
ミリアを殺そうとしたレイなのか。
それとも、ミリアに刃物を与えた‥‥‥自分?

「あ‥‥‥‥あぁ‥‥‥‥」

ミリアは、セレシュのナイフを使って死んだ。
もしも自分があそこでナイフを取りださなかったら‥‥‥。
自分の行動が、ミリアを苦しめたのでは‥‥‥。

ミリアはあの時、あなたの手は汚さなくていい、と言った。
セレシュはミリアを守って死のうとした。
だから、逆にミリアがセレシュの手を汚させないために、死んだのではないだろうか。
だとしたら。

「‥‥‥‥‥‥‥‥っ」

ミリアが自ら死んだ原因は、自分にもあるかもしれない。

               ☆★☆★☆

気がつくと、フィーラが心配そうにセレシュの顔を覗きこんでいた。
あれからずいぶん経っているようだ。

「っ!あの、男の子はっ!」

「‥‥‥もう出て行っちゃった」

一瞬、夢を見ていたのではないかと期待したが、やはり現実。
ミリアは真っ白な顔で床の上に眠っていた。

フィーラから聞いたところによると、セレシュはレイをナイフで刺そうとした後、そのまま固まってしまった。
そしてナイフを取り落とし、うつむいて、なにかをぶつぶつと呟いていた。
あまりに長い間そうしていて、レイがラキティアナ軍と帰ってしまった後も呆然と立ち尽くしていたそうだ。

セレシュはその話を黙って聞いていた。
ミリアが死んだ、ということが今さらながらに信じられなかった。

だがその時、屋敷の扉がガチャリと開いた。

「ひっ」

フィーラが悲鳴をあげてセレシュの後ろに隠れる。
セレシュはぼんやりとした頭で扉の方を振り向き、呟いた。

「シルヴィアナ‥‥‥さん?」

いつものふんわりした笑顔で、この屋敷の主、シルヴィアナが立っていた。
シルヴィアナはそのままセレシュ、フィーラと順々に見回していき、最後に床に倒れているミリアに目を向けた。
その顔からスッと表情が消える。

「あの‥‥‥‥えっと‥‥奥様‥‥‥‥」

フィーラがなにか言おうと言葉を探したが、結局なにも言えずに黙り込んだ。
シルヴィアナはしばらく空中をジッと見つめていた。
その藍色の瞳になにが写っているかはわからない。
そして、シルヴィアナはセレシュたちの横を無言で通り過ぎ、自室へと入っていってしまった。

「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

セレシュはフィーラの方は見やったが、フィーラも困惑顔だった。
しかし2人がなにか言葉を交わすより早く、シルヴィアナが再び姿を現した。

「は‥‥‥‥」

「奥様‥‥‥?」

シルヴィアナは今まで見たことがないような、踊り子の薄い服を着ていたのだ。
長い髪を高く結い上げて、手にはこれまた薄い布を持っている。
そんな無防備な恰好をしているのに、見ているだけで倒れてしまいそうな気迫があった。

「行ってくるわ。留守番お願いね」

シルヴィアナはそこでフッと笑うと、そのまま荷物も持たずに屋敷の扉を閉めて出て行った。
まるで風が通り過ぎただけかと思わせるくらい、静かに。
セレシュは唖然とそれを見ていたが、隣でフィーラが呟く声は聞き逃さなかった。

「奥様が‥‥‥怒ってる‥‥‥‥」

恋人を殺されたことに怒り狂い、国を一つ潰したと言われているガクヴェンド・マーラ。
それが、シルヴィアナの、祖先。

Re: ボカロ [悪ノ娘]現在進行中! 【短編集】 ( No.71 )
日時: 2012/03/26 21:44
名前: 麻香 (ID: 5fqeGTW2)

シルヴィアナが帰ってきたのは、それから数日後のことだった。
いつの間にか帰ってきて、何事もなかったかのように居間で食事をしていたのだ。
その笑顔からはなにも読み取れない。

ミリアの葬儀を終えてきたセレシュとフィーラは、それでも、なにがあったのかどこへ行ってきたのかシルヴィアナに聞く勇気はなかった。
シルヴィアナがあまりにも日常的で、かえってなにも聞いてはいけないように感じたからだ。

「あの‥‥‥シルヴィアナさん」

セレシュがシルヴィアナに声をかけたのは、それからさらに数日後。
シルヴィアナは快く本を読む手を止め、顔を上げた。
その瞳は、大きな鞄を持っているセレシュを面白がっているように輝いている。

「なあに?」

「えっと‥‥使用人辞めても良いですか」

シルヴィアナは表情を動かさない。
それはなんとなく予想していたので、なぜか安心する。

「どうして?」

「‥‥‥旅に出たいんです。ミリアの代わりに、色んな世界を見たくて‥‥‥その‥‥‥」

「ふーん‥‥‥」

シルヴィアナはセレシュの嘘に気づいただろうか。
そう。セレシュは旅に出たいわけではない。
ここにいるのが辛いのだ。
屋敷の扉。居間。見るたびに、あの赤い血を思い出す。

「いいわよ。今から?」

「え、あ、はい」

思ったよりも簡単にシルヴィアナが納得したので、セレシュの方が逆に驚いてしまった。
そんなセレシュに気づく素振りも見せず、シルヴィアナは屋敷の門までセレシュを送ってくれた。

「あの‥‥‥楽しかったです。さようなら」

適当に礼を言って立ちさろうとしたセレシュの肩を、シルヴィアナが掴む。
ふんわりした笑顔が間近に迫った。

「セレシュ、聞いて」

「は、はい?」

「別れのない人間関係なんてないの。どれだけその人を大切にしていても、結局は死別という形で別れは来るわ。それは神様にしか変えることはできない。でもね。“別れ”を儚く美しく飾ることは、その人自身にしかできないことなのよ」

シルヴィアナの言っていることが一瞬わからなくて、黙り込んでしまう。
別れのない人間関係はない‥‥?
だが、次にシルヴィアナが呟いた言葉には、思わず聞き返してしまった。

「美しい散り方だったわ。ミリアも、悪ノ娘も」

「え?」

悪ノ娘。それは、誰のことなのだろう。
だがそれを聞き返す前に、シルヴィアナの身体が離れる。

「じゃあね。God bless you!」

セレシュの目の前で、門がガチャリと閉まった。


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