二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 日和光明記 —Biyori・koumyoki.RPG—
- 日時: 2010/05/13 22:44
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: j553wc0m)
- 参照: http://noberu.dee.cc/novel/bbs/nijisousaku/read.cgi?no=160
他サイトで更新中。新作を見たい方はこちら↑(UPL)からどうぞ♪
血塗られた暗黙の伝記。
それは歴史上、星の数ほど存在するものだ。ひとつひとつに命のドラマがあり、語り尽くせない思いが詰まっている。
だが、ただ一人、“彼”は違った。
人々の頂点に君臨し、神々ですら捻伏せ、絶対的な権力・実力を奮った“紅の王”。
これは王と、宿星を司った六人の異次元物語。
——日和光明記 Biyori・koumyoki.
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初めましての方もこんにちはの方も、クリックありがとうございます!!ちょっとでも覗いて行こうと思ったその思考に感謝♪さて、ごあいさつが遅れてしまいましたね。日和&KYOを愛しているキョウと申します。以後お見知り置きを……。
実はまたも自作小説が消されてしまって…「いったれぇぇぇぇ」的なノリで作ってしまいましたww
あっ、帰らないでッ;
そのお優しいお心のままで下に行って下さるとありがたいです!
その前にいくつかの注意を——
*見た感じよくわからないと思いますが、この小説は『ギャグマンガ日和』と『SAMURAI DEEPER KYO』(サムライ ディーパー キョウ)』の合作です。
※ちょっとしたご注意※
・ネット上のマナーは勿論のこと、カキコの使用上注意も守って下さい。
・「SAMURAI DEEPER KYO」と書かれてはいますが、正式には↑に居た紅の王こと京一朗の事でございます。その他にKYOのキャラが少数出てくると思います。
・宣伝はOKですが、スレ主は見に行けない場合があります。ご了承くださいませ。
・一行コメも極力お控えください。
・誤字&脱字が多いと思います。見つけ次第訂正中です。
*この小説はオリジナル要素を多数含みます。また、キャラ崩壊(京一朗の)があるかと……。
*主に和風で書いております。故に「四獣(朱雀や白虎)」や「妖怪(鬼や九尾の狐」がごく普通に出てきます。(すでに主人公が鬼ですからね^^;)
*主に「鬼男」と「京一朗」視点で進めております。
たまにその他もいると思いますが……
以降の注意事項をクリアした方はどうぞお進みを〜♪
(お進みしてくださった方は神様ですッ!)
—お客様 〜現在5名様〜—
(消えてしまった時にも来て下さった方も含めて)
レッド先輩 美弥様 夜桜様 涼堂 ルナ様 シャリン様(ピクミン様)
—目次—
主要人物 >>1
主要人物の武器・属性 >>2
用語解説>>3
零の巻 〜伝承の詩〜 >>4
【壱の巻 〜冥夜に浮かぶ兆し〜】
其之一 天上の支配者 >>5 其之二 目下の逃走 >>9 其之三 白き狼 >>10 >>14 其之四 託された願望 >>15->>17 其之五 血染めの来訪者 >>18-21 其之六 壬生京一郎>>22->>24>>45 其之七 眠らざる力>>46-54 其之八 邪悪なる行進曲>>55-56>>59-61
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- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.14 )
- 日時: 2010/01/31 18:50
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
※
「おお……かみ?」
ふらっと、そのオオカミが動いた。一歩踏み出すたびに輪郭が揺らめく。本当に燃えてるようだ。なんとも美しく、妖しい。
遠目でわからないが、まっすぐに鬼男をめがけて来るように思われた。
「妖か……?」
刹那、鬼男は心臓が叩かれたように跳ね上がるのを感じた。
息があがる。心臓はバクバクと早鐘を打っているのに、徐々に血の気が下がっていって、わけもなく全身がガタガタと震えだした。
ゆっくりと近づいてくるオオカミ。歩むたびに周りの大気が反応した。
——コワイ
自分を見つめる紅玉の瞳が、とてつもなく恐ろしい。
——コワイ
自分の中にある本能が、大音量で警告した。
それでも鬼男は怯まず、じっとオオカミを睨み返した。すると彼の金目に変化の兆しが見え出した。
波紋が広がるように、瞳の真ん中から深紅に染まり出したのだ。それに続くように、短髪も美しい灰銀色に変化した。
瞬く間に鬼男の容姿は金から銀へと変貌をとげた。
牙を剥き、爪を尖らせる。
心音が耳の奥で大きく鳴り響く。それを聞いていると、自分の脳裏がさえていくのを感じた。
妖気はオオカミの足元から染み出ている。まるで蒸気が湧いているようだ。
ヤツが出す妖気が、今まで見てきたどの妖よりも格が違うと訴えていた。
雑鬼ではないことは確かだ。ならば魔物か? だが魔物が手下もなしに単独行動するとは聞いたこともない。
それに、そこら辺の妖にはないこの感じはなんだ? まるで精霊のような澄んだ姿をしている。人間を操るための罠だろうけど……どこか違う。
『どうした? 番人よ』
声がした。耳にではなく、頭の中に直接。
気づけば妖は数歩先にまで迫っていた。妖気が首を締め付ける。苦しい。だが視線を離してはいけない。一瞬にして殺られてしまう。
鬼男が闘気を走らせると、オオカミはそれを楽しんでいるのか、ニタリと笑った。
『“鬼子”……か。少しは出来るヤツと見た』
「そりゃどうも」
声を絞り出して答えた。この一言で精一杯だ。
『そう緊張せずともよい。我はお主と話すために参いっただけだ』
鬼男は瞬きをした。話すだって? 襲撃にきたのではないのか?
『なぜ我がそのようなくだらんことをしなければならんのだ? 他愛もない。そんな余裕など無いのだよ』
脳裏を読まれたのだろう。オオカミがやれやれと首を振る。
「ならなぜ来た。答えによればお前を滅さなくてはならない」
鬼男が脅迫したにも関わらず、当のオオカミはふっとほくそ笑んだ。
『今のお主がいえる言葉か? 指一本すら動かせぬというのに』
クッと声をあげる鬼男。ヤツのいう通りだ。今の自分じゃまともに戦えそうにない。それに、勝てる自身がなかった。
鬼男は仕方なく肩の力を抜いた。
『物分かりのいいヤツだ。まぁ、こんな空気じゃ弾む話しも弾まんだろう。スマナカッタ』
オオカミがすっと腰を下ろすと、不意に身体を締め付けていた呪縛がろうそくのように消え去った。これがどういうことかおわかりだろうか。猛獣に繋いだ鎖を自ら解き放つことと同じである。
突然の変心に唖然としながら、鬼男は強張った手を恐々と動かしてみた。尖った爪が擦れ合うたびに透き通った金属音をたてる。
不自由なく活動できることを再度確認すると、疑わしげにオオカミを見た。
彼は小馬鹿にしたような目つきで大人しく鎮座したままであった。
『主、その調子ではこの先やっていけんぞ? 案外力も見かけ倒しなのかもな』
「妖に心配される義理はない。窮地に陥ったとなれば、今以上発揮できる」
冷淡な物腰の反面、内では苦笑を浮かべていた。これでは馬鹿上司の言い訳と変わりないじゃないか。
すると、ふむとオオカミは目をつぶった。
『“妖”……か。そう呼ばれても仕方あるまい。だが思い上がるなよ? 我の同胞に同じ口をきいてみろ。一瞬にしてソテーか千切りにされるからな』
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.15 )
- 日時: 2010/01/31 18:51
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
【其之四 託された願望】
『主、“子守”は得意か?』
「こ、子守……?」
オオカミはそうだといいたげにニヤつきながら頷いた。
『我の同行が、ちと体調を崩してな。もう我だけで守り抜くのは困難なのだ。だが主なら任せられる。そう感じたのだよ』
その言葉に、無論鬼男は困惑した。
妖には、昔から人間に味方するものと、そうでないものが居るとされていた。様々な災いを巻き起こす迷惑千万な悪妖が跋扈する一方で、人間に対して非常に好意的で、気軽に姿を現わしたり窮地を救ってやったりする善良な妖も存在するのだと言う。
このオオカミのような姿の妖がどちらなのか、鬼男にはいまひとつ判断できなかった。だが悪妖にとって恰好の獲物である冥界の生き物に人助けを要求してるからには、まるっきり悪い妖という訳ではないらしい。
「なんで僕なんだ? 他にも仲間が居るのだろう? なぜそいつらに頼まな——」
『信用し難いからだ』
鬼男が慎重に返したにも関わらず、オオカミは間髪を入れずに即答した。
『それに我は疲れた。毎晩のように尋ねてくるヤツ等のお相手をするにもな。ここなら時間稼ぎも出来るし、お主等がおる。絶好の隠れ家ではないか』
「……」
唖然とする鬼男に、オオカミが更にたたみかけた。
『それに、こういう仕事は主の得意分野であろう? お守が一人増えるだけだ、大して変わらない』
オオカミの言葉にはまるで隙が無い。このままでは負けてしまうと、鬼男は慌てて口を挟んだ。
「一人だと!? アイツだけでも大変だって言うのに、お前はまだ加算しろって言うのか。無理だ、冗談じゃない!」
『利点はある』
彼の動作を見咎めて、狼がいう。微かに細めた目が笑っている。
「利点?」
『今なら嬉しい特典つきだ。曰く付きの商品ってのはそれこそいろいろ厄介だが、逆に良い面だってあるだろうが。それと同じと考えろ。残念な事に今この状況下ではいえないが、そりゃもうお主等には「幸運だ!」って叫びたくなるような至高の利点だぞ?』
まるで店先に並んだ客に勧めているかのように、オオカミは淡々と鬼男をうながした。だがその様子の隅に微かな焦りを感じ、鬼男は眉をひそめるばかりである。
いつになっても承諾しない鬼男に溜息をもらし、オオカミは重く口を開いた。
『——……時間が無いのだ。先ほどもいった通り、コイツの容態は悪化する一方だ。我のちっぽけな力ではもう防ぎきれぬ。限界なのだよ』
『限界』。この言葉を言いきる頃には、彼の口調は弱弱しくなっていた。妖の話はどうも信じがたいが、彼の口調からして本当の事態なのだと、本気の頼みなのだと、鬼男は思うしかなかった。
それに妖というずる賢い生き物は、自らを「弱い」、「小さい」などとは口にしない。ましてやこの妖は自分から見ても上級の妖に関わらず、自ら「ちっぽけ」だと自重した。その面からしてみても、自体が悪い方に片寄っているのが伺える。
「なるほどな」
鬼男は一言呟くと、人間がよくするように人差し指を顎に乗せ、考え込んだ。
「お前の事情はわかった。しかしだ、理由はどうであれ、なぜ自分の身を危険に犯してまで妖の仲間の子守をしなくてはならないんだ? 妖は信用ならない。隙を見つけて此方の寝首をかっ切ろうとする。どうせお前だって同じだ。その仲間がよくなった瞬間に攻撃してくるに違いない」
鬼男が頑として譲らないとわかると、ついに怒りに触れてしまたのか、狼が歯を剥いて唸りだした。
『聞き分けのないヤツだ! いいか、我には余裕が無い。こんな湿気た場所で話していることでさえ勿体ないほどだ。それをわざわざ遠路はるばる赴いてやったんだ、寧ろ感謝してもらいたい。我が本気を出せば、主と一緒に冥界共々吹き飛ばすぐらい簡単な事なのだよ!』
金色の闘気をほとぼらせながら、狼は続けた。
『よいか、今まさに世が危機に侵されておる。それぐらい予知しとるだろう! ここで我の願いを承諾しなければ、本当に崩壊するのだぞ!? 夢などではない、現実の話だ。お主がさっきから見下してる妖のせいでな! それを止められるのはコイツしかいないし、悪化させるのもコイツ次第だ。今ここで放っておけば、妖の浸食は更に進み、下界……いや、全てを呑みこむ!!』
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理—《ギャグ日》 ( No.16 )
- 日時: 2010/01/31 18:52
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
「ちょっと待て」
半ば脅迫気味な言葉に困惑したのか、鬼男が片手を挙げて制止を要求する。
「お前の話は、その……本当なのか?」
『当たり前であろう。なぜ嘘を教える必要があるのだ。我の言葉に嘘・偽りの文字は無い』
指先でこめかみを揉みながら、うんざりと聞いていた鬼男だったが、その表情が突然変わった。
「まさか、あの占いは……」
鬼男達の居る冥界は、自然現象や超常現象など、下界に起きた大きな変化の影響を受けすい世界である。それは下界と冥界が密接に繋がっている証拠であって、彼等にしてみても、下界の様子を知るのに必要であった。
中でも急激な妖の増加は不吉の前兆。つい先日、悪戦苦闘して追い払った百鬼夜行の数に不信感を抱き、長年使っていなかった式盤《式占といわれる占いに使われる盤》で占ってみた。その結果——
「災厄……それも世界が一夜にして滅んでしまうような、大いなる災い」
改めて思い返してみると、オオカミがほざいた予言と瓜二つではないか。
途端に体中の血の気が引いた。項に悪寒が走り、とても言葉では表せない感覚が、ぞわぞわと這い上がってくる。首筋が総毛立つのがわかった。
「まさか……そんなはずが無い! 災厄、世界が——崩壊するだって……?」
『主がどんなに否定しようと現実は変わらない』
突然オオカミが大きく跳躍したかと思うと、鬼男の目と鼻の先まで迫り、挑むような目つきで怒鳴った。
『さぁどうする! 我の頼みを引き入り、世界を救うか。それとも、馬鹿な上司と崩れゆく様を見物するか!!』
オオカミの鉄臭い吐息が鼻を突く。ショックで凍りついた口はまるで言う事を聞かず、声を出そうにも擦れて上手く発音出来ない。震える唇が動揺を物語っていた。
「——ダメだ……ッ!」
喉の奥から絞り出す。足りない——!
思わず目を閉じて、渾身の力を振り絞って叫んだ。
「やらせるものかッ! 止めてみせる! 俺が守るんだっ!!」
鬼男は燃えあがる目でオオカミを睨みつけた。その勢いに自然と竦み上がる。
「わかりました、引き受けましょう! 妖共を倒してみせます! えぇ、みせますとも!」
高らかに宣言して、身を固くしたオオカミに足蹴りを食らわす。が、やはり瞬発力では上なのか、寸前のところでかわされた。またも数歩先に着地し、視線を交わす。
憤怒に燃える鬼男に、オオカミは驚きを見せるも、それも一瞬のことで、すぐにニヤリと目を細めた。
『なら、いいんだな? 引き取ってくれるのだな?』
「えっ、……えッ!?」
ハッと意識を取り戻したと同時に、勢いで言ってしまったのだと気付く。見れば、銀の髪も普段の色に戻ってしまっていた。
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理—《ギャグ日》 ( No.17 )
- 日時: 2010/01/31 18:52
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
『交渉成立。やはりまだまだお子様だな、“鬼子”』
——は、嵌められた……!?
あまりにも簡単に乗せられた自分にしばし失望しながら、忍び笑いを凝らすオオカミを睨みつけた。深い溜息をつき、思わず額を抑え、自分の過ちにうな垂れる。
なんて迂闊なんだ……。妖の策略にこうも嵌められるなんて
落ち込む鬼男の肩にぽんと前足を乗せ、オオカミは慰めるようにいった。
『そう沈むなって。別に悪い話じゃないだろう。お主は世界を救うキーポイントを手に入れて、我の重荷は下りる。それで丸く収まるじゃないか』
恨めしそうに睨む鬼男の視線を受けてか、オオカミの目に微笑みが消えた。
『言っとくが我は本気だ。いいか“鬼子”。コイツの存在は今や神に匹敵する。お主の上司以上にな。そしてその至高の神を、妖共は血眼になって捜し回ってるだろうよ。それから守るのがお主らに課せられた使命だ』
ふと見やると、オオカミの姿が透き通っているではないか。不透明なガラスのように遠くの景色がぼやけ、なんとか獣を形作っているものの、それも長居できそうにない。
「おい! ちょっと待て!!」
今にも消えかかりそうな妖を引き留めようと手を伸ばすも、儚くも空を握るだけであった。
『よろしくな、“鬼子”——』
獣が光となって消えた瞬間、オオカミの鎮座していた場から凄まじい閃光が発せられた。
強烈な光は目を焼き尽くさんと網膜を刺激し、鬼男は反射的に顔を腕で覆った。
思わず目を閉じた鬼男が再び瞳を開いた時、消えたはずのオオカミと入れ違いに、もう一つの影が浮かび上がった。
「なっ……!!」
絶句する鬼男の前で、その人物は地に伏した。
だがその様子はどこかぐったりとしていて、生気を感じさせない。
それもそのはず、
“彼は血まみれだった”——
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理—《ギャグ日》 ( No.18 )
- 日時: 2010/01/31 18:53
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
【其之五 血染めの来訪者】
静まり返った室内で、一人溜息をつく男の影。
「鬼男君……遅いなあ……」
外側に跳ねた黒髪がさらりと揺れ、『大王』と記された特徴的な帽子がずり落ちそうになる。と、それを寸前のところでかぶり直した。一房の前髪が帽子の隙間から覗いており、なんとも印象深い容姿だ。
着ている浴衣も見た目以上に軽装であり、髪と同じ濃い墨色であった。
——彼こそが閻魔大王。又の名を閻羅と略される、冥府の総司令官だ。
閻魔は机に突っ伏し、無謀な部下の帰りをひたすら待っていた。
全く。何処まで出かけちゃったんだ、あの子は。
そうぼやきながら、ぬぼーっと顔を上げ、自室への廊下を見つめる。
……やる気、出ないしなぁ。
今なら娯楽を存分に楽しめるチャンスだが、文字通りなぜか立ち上がる気すら起こらない。
それもこれも、飛び出したまま戻って来ない部下のせいだと頭を切り替え、大王は机の隅から用箋挟《クリップボード》を取り出し、茫々と捲り始めた。
彼らの業界において『閻魔帳』と呼ばれる、裁かれる死者達の個人情報が記された帳簿である。
が、閻魔はこれを、さも面白くなさそうに眺めていた。
——毎度毎度同じような罪人ばかり……。全くもって理解できないな、人間ってのは。
見飽きたとでも言うような無表情が、ふと眉を顰めた。
ある一点に視線が釘付けになる。
そこには存在する筈のない白紙が広がっていた。
——書類ミス? でも、あの生真面目な鬼男君が見過ごす訳ないし……。
他のページに再度目を通しながら首を捻る。
「……」
何かが、彼の脳裏を掠めた。頭の片隅に、普段だったら気にも留めないような事が、張り付いた焦燥感を煽る。
もう一度れいの白紙を確認しようと手を伸ばした。が、その腕が不意に固まる。
刹那、閻魔は帳簿を机に投げ出し、弾かれたように立ち上がった。
静かだ。
だが、漂ってくる異臭をみる限り、只ならぬ事態が起こっているらしい。
先程の騒ぎといい、血の臭いといい、今日は退屈しなさそうだ。
——鬼男君……大丈夫なのかな……
閻魔の頭に嫌な予感が浮き沈みした。だが護衛が不在な今だからこそ自身の事は自分で守らねばと強く念を入れ、何が起きてもすぐ対処できるよう心構えをしておく。
その時、戸口から見慣れた影が現れた。
「!! 鬼男君!」
すぐさま駆け寄る閻魔の姿を見て、鬼男はほっと息をつく。
上司が無傷なことに安心したのだろう。
一方の閻魔は不意に現れた彼の状態に、はっと凍りついた。
「血——!?」
強張った表情で身を引くのが普通であろう。
鬼男に肩を廻され、身を預けているもの。血達磨になり、今にもずり落ちそうだ。
最初は何かの死骸かと思った。しかしそうではないと、死骸の顔らしき部分から覗く表情から伺えた。
かろうじて人型を保っている事に改めて気づく。
「ひ……と……? なんで……」
「大王、早く手当てを——」
鬼男が絞り出すように懇願する。抱いているものが相当重いのか、時折ガクッと傾く。
事態が上手く飲み込めない閻魔であったが、だからといって脅える大王ではない。「わかった!」と承諾し、同じく腕を廻す。
血の塊が微かに呻いたことに仰天し、作業を早ませる二人は、そそくさと室内に退いて行った。
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