二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 日和光明記 —Biyori・koumyoki.RPG—
- 日時: 2010/05/13 22:44
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: j553wc0m)
- 参照: http://noberu.dee.cc/novel/bbs/nijisousaku/read.cgi?no=160
他サイトで更新中。新作を見たい方はこちら↑(UPL)からどうぞ♪
血塗られた暗黙の伝記。
それは歴史上、星の数ほど存在するものだ。ひとつひとつに命のドラマがあり、語り尽くせない思いが詰まっている。
だが、ただ一人、“彼”は違った。
人々の頂点に君臨し、神々ですら捻伏せ、絶対的な権力・実力を奮った“紅の王”。
これは王と、宿星を司った六人の異次元物語。
——日和光明記 Biyori・koumyoki.
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
初めましての方もこんにちはの方も、クリックありがとうございます!!ちょっとでも覗いて行こうと思ったその思考に感謝♪さて、ごあいさつが遅れてしまいましたね。日和&KYOを愛しているキョウと申します。以後お見知り置きを……。
実はまたも自作小説が消されてしまって…「いったれぇぇぇぇ」的なノリで作ってしまいましたww
あっ、帰らないでッ;
そのお優しいお心のままで下に行って下さるとありがたいです!
その前にいくつかの注意を——
*見た感じよくわからないと思いますが、この小説は『ギャグマンガ日和』と『SAMURAI DEEPER KYO』(サムライ ディーパー キョウ)』の合作です。
※ちょっとしたご注意※
・ネット上のマナーは勿論のこと、カキコの使用上注意も守って下さい。
・「SAMURAI DEEPER KYO」と書かれてはいますが、正式には↑に居た紅の王こと京一朗の事でございます。その他にKYOのキャラが少数出てくると思います。
・宣伝はOKですが、スレ主は見に行けない場合があります。ご了承くださいませ。
・一行コメも極力お控えください。
・誤字&脱字が多いと思います。見つけ次第訂正中です。
*この小説はオリジナル要素を多数含みます。また、キャラ崩壊(京一朗の)があるかと……。
*主に和風で書いております。故に「四獣(朱雀や白虎)」や「妖怪(鬼や九尾の狐」がごく普通に出てきます。(すでに主人公が鬼ですからね^^;)
*主に「鬼男」と「京一朗」視点で進めております。
たまにその他もいると思いますが……
以降の注意事項をクリアした方はどうぞお進みを〜♪
(お進みしてくださった方は神様ですッ!)
—お客様 〜現在5名様〜—
(消えてしまった時にも来て下さった方も含めて)
レッド先輩 美弥様 夜桜様 涼堂 ルナ様 シャリン様(ピクミン様)
—目次—
主要人物 >>1
主要人物の武器・属性 >>2
用語解説>>3
零の巻 〜伝承の詩〜 >>4
【壱の巻 〜冥夜に浮かぶ兆し〜】
其之一 天上の支配者 >>5 其之二 目下の逃走 >>9 其之三 白き狼 >>10 >>14 其之四 託された願望 >>15->>17 其之五 血染めの来訪者 >>18-21 其之六 壬生京一郎>>22->>24>>45 其之七 眠らざる力>>46-54 其之八 邪悪なる行進曲>>55-56>>59-61
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- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.110 )
- 日時: 2010/04/19 20:34
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: j553wc0m)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
『……貴様が、主の申していた当代の鬼か』
品定めをするかのような視線で、阿傍は鬼男をぎろりと凝視する。牛頭の大鬼はやがて、侮蔑の色を含ませて嗤った。
『鴆よ、おぉ鴆よ。見るがいい、貴様が警戒せよと言付けた冥府の新しき秘書官は、こんながんぜいな小僧であったぞ』
「んだと……!」
鬼男が歯を剥いて唸った。小僧とはいってくれるではないか。自分だってプライドぐらい持ち得ている。いきなり現れたブサイクな牛に、やりたい放題言いたい放題やらせるわけにはいかない。
なぜだ、なぜ揃いも揃って自分を童だ小僧だと決め付けるのだ。妖同士打ち合わせでもしているのか。
「お前みたいな馬鹿デカい堅物にいわれたくないね。自分でもわかってる? お前、相当牛臭いよ」
それまでひとしきり嗤笑していた阿傍がピクリと眉間にシワを寄せた。なんだ、事実を述べただけではないか。
『小僧、誰に向かってものをいってるか承知の上か? いいか若僧、貴様の後ろで這い蹲るひ弱な上司の元祖右腕を勤めたのは、何者でもない、この俺様なのだよ』
阿傍が鬼男の背後を指し示す。閻魔の周りだけ重圧の影響でか、景色が歪んで見える。
『つまりは貴様の先輩。まぁ、寝首を引っ掻こうとしてこの様だかな。だがそれで良かったのだ。俺はこうして黄泉がえり、憎き冥府の王をこの手で捻り潰せる』
最高の快感だ、と阿傍は雄叫びをあげた。地を震わす咆哮は、こいつのものだったのか。
目測したところ、阿傍の力量は中の上頃。
少し苦労はするだろうが、歯が立たないほどではない。
勝てる。
「捻り潰されるのはお前の方だ!」
鬼男はタンッと軽快に跳躍すると、そのまま阿傍の顔面に腕を振り下ろした。
が、
『甘いわッ! 貴様のような小僧風情に俺が倒せると思ったか!』
大木のような手が鬼男を地に叩き落とした。先程と同じように強烈な衝撃と共に激痛が身体を駆け巡る。息が詰まり、口の中に鉄の味が広がった。
地にめり込んだ四肢に力を入れ、ふらりと立ち上がった。阿傍は一歩も動いていない。醜い強面を更に醜く歪ませ、口角を吊り上がらせている。
半歩、鬼男は右足を後ろに引いた。背後の閻魔が重圧に堪えながらも息を詰めて様子を窺っているのがわかる。
そうだ、こいつを早く解放しなくては。
昔の配下に負けるとは、なんと間抜けな大王であろうか。
『さぁ小僧、“紅き輝石”を引き渡せ』
「きせき、だと?」
『そうだ小僧。さすれば貴様の命くらいは助けてやろう』
あの妖狐も口にしていた、“紅き輝石”。
しかし、やはり鬼男は知らない。妖の欲しがるものなど、ましてや探してまで欲するものなんて——探す……?
“紅き輝石”。夢の中で一瞬垣間見えた厳かな笑顔。もし自分の憶測が正しければ——。
阿傍が上機嫌で続けた。
『“紅き輝石”が手中に落ちれば、我等の栄華が訪れる。そのあかつきには人界を制覇し、恐怖のどん底へ突き落としてくれようぞ。——さぁ、渡せ小僧。そしてそこを退くがいい。そんな貧弱な王など、葬ってくれる!』
ハッと鬼男は思考を中断した。
“紅き輝石”がなんだろうが関係ない。今は、阿傍に集中せねば。
鬼男の金色の眼が激しく煌めいた。銀灰色の短毛がざわざわと逆立ち、苛烈な闘気が閻魔を護るように取り巻く。
『小僧如きが、まだ楯突く気か——!』
地を揺るがすほどの猛々しい唸りにも似た『声』と、水牛の咆哮が轟く。苛立ちに燃えた鳴号が鬼男の耳をつんざいた。
「鬼男、くん……!」
閻魔の悲痛な叫びがかすれて引きつる。軋む節々を叱咤してでも必死に重圧を振り払おうとする。
爪を尖らせ、鬼男は阿傍を睨んだ。
大王は、絶対に渡しはしない。
「砕破・烈!」
迫る鉄拳を闘気で阻み、次いで不可視の壁に触れた部分から阿傍へ激痛が走る。
舌打ちのもと阿傍は鬼男へ標的をずらすと、今度は交互に拳を振るった。紙一重でそれを交わし、鬼男は阿傍の間合いに飛び込むと、気合いもろとも巨体に一撃を食らわせた。
阿傍が吠えた。
ぐわりと妖気が増す。
そのまま空中で右足を軸に回し蹴りを叩き込む。
絶叫しながら傾く阿傍。
しかし、その口元に笑みが浮かんだ。
※
一方、京一郎は窓越しからその光景を目の当たりにしていた。
遠く離れているのに、阿傍の放つ妖気と、苛烈な闘気がピリピリとここまで伝わってくる。
京一郎は固唾を呑んでふたつの影を凝視した。
危ない。鬼男が一方リードして勝機を掴みかけているものの、彼は阿傍の思惑を知らずにいる。
助太刀しなければ。踵を返しかけ、しかし京一郎はふと思い留まった。
自分は出てはいけないのだ。絶対に、絶対に。そうキツく言い渡されたではないか。
約束は、守らねば。だが、しかし。
「……閻魔さん——」
真言を唱えようとするも、途中で息を詰めてしまい失敗する閻魔。阿傍は鬼男を相手にしながらも、その重圧を緩めることなく拘束し続けている。それだけでも阿傍の実力が窺えた。
ダメだ、やはり危険すぎる。
このままでは。
「……申し訳ない」
京一郎は低く呟くと、おもむろに自分の左肩に爪を突き立てた。まるで沈むようにじくじくと爪が深く食い込む。しかし京一郎は顔色ひとつ変えず、更に力を込めた。
雫が滴った。ぽたりと、雨粒のように。しかし雫が徐々に大きさを増すに従い滴り落ちる音も無骨なものへと化していく。
右腕がはたと止まったと思いきや、再び引き抜くように動き出した。
ぼたぼたと、その傷口から血が溢れている。大粒の水滴が白い布生地を染め上げた。
——神の血。
貴重な神の血が、滴っている。
無感動な紅い眼がそれを映した。
瞳と同じ色をした鮮血。それを、今度は大切な友人のために役立てよう。
引き抜かれた手腕が、何かを握っていた。
見れば、血痕はどこにも見当たらず、傷口さえも一瞬に塞がった。
——神なのだから。
手腕に堅く握られたもの、それは液体を硬化して造られた太刀。そしてその液体とは、貴重な神の血。
「“狂《キョウ》”……どうか、再び刀を握る欲深き私を許してください——」
どうか、大切な友を守る太刀を、我が手に。
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.111 )
- 日時: 2010/04/23 21:34
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: j553wc0m)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
※
雲間から垣間見える日が西へ沈みかけている。空は燃えるような赤に染まり、やがて夜を迎えるであろう。今は黄昏——逢魔が時だ。
妖は太陽の恵みが途絶え始める黄昏時と、深夜皆が寝静まった丑の刻を最高潮とする。
一瞬空を振り仰いだ閻魔の全身が、ぞわりと総毛立った。
「鬼……くん……!」
真言を唱えかけるも、しかし呼吸が危うくなり中断せざる得ない。早くしなければ、阿傍は更に驚異的な力を得てしまう。
何も手出し出来ない自分を叱咤激励し、それでも閻魔は抜け出す機会を窺うためふたりを視野に留めた。
そして目撃する。阿傍が、不自然に笑んだのを。
鬼男が蹴撃を食らわせた直後であった。
『……ぬるいな』
「何ッ——!!」
不自由な空中では急な身動きは取れない。鬼男が視界の端で巨大な影を捉えたのと、一瞬の内に横殴りに鉄拳が直撃したのとは、ほぼ同時であった。
反動で遠方へ撥ね飛ばされた鬼男の身体が、なすすべもなく閻魔庁の壁に叩きつけられる。
「鬼男君!」
『貴様もだ』
耳に妖魔の声が届くと同時に、閻魔の身体までもが宙へ投げ出されていた。
轟音を立てながら鬼男の脇にぐしゃりと崩れ落ちた閻魔。
首だけを横へずらし、鬼男が呻く。
「大、王……!」
返答が無ければ反応すら無い。どうにか繋ぎ止めて意識をついに手放してしまったようだ。
ボロ雑巾のような姿になってしまった閻魔に力の限り手を伸ばすも、それが衣に触れる前に、枯れ木のような手腕が鬼男の首を掴み持ち上げた。
『無様だな、小僧。我らが主の手を煩わせることもない。この場でなぶり殺してくれる』
ケタケタと異様な声をあげて笑う。
鬼男は必死で手を振り解こうともがいた。だが、それ以上動くことは出来なかった。
身体が鉛のように重い。霞む視界の中、にたりと笑う阿傍の口から、白い牙が覗く。
このまま餌食になってしまうのか。
約束したのに。守り通すと、誓ったのに。
それなのに、こんなところで終わってしまうのか。
鬼男は歯を食いしばり昏倒寸前の意識を確かにさせた。
せめて、大王だけでも。
守らねば。彼の為ならば、命など惜しくはない。
「砕——」
渾身の力を振り絞って呟いた。
その、刹那。
「此の声は我が身に非ず。されば邪を滅ぼす天命なり——!!」
微かな唸りを上げて一閃した白刃が、今まさに鬼男に永遠の死を与えようとしていた醜い腕を両断した。
その瞬間、全ての音が掻き消えた。
閃いた刃が夕日の陽光を弾き、鈍く煌めく。
切断された阿傍の腕は鬼男もろとも跳ね上がり、切り口から血のようなものを迸らせた。
地にどさりと落ち逃れた鬼男は、その脇で肉片と化した阿傍の腕が霧散して消え失せたのを感じた。
水牛の悲痛な鳴号が耳をつんざいた。そしてそれに度重なる鋭利な真言。
大きく見開いた鬼男の眼に、やけにゆっくりと、鮮明に結ばれたそれらの映像。しかし実際はほんの一瞬の出来事であった。
阿傍が激しく激昂し吼えた。それが、合図だった。
再び閃いた白い太刀筋。それが阿傍の肉体に深い傷を刻んだ。
「————!!」
断末魔の絶叫が響き渡った。しかしその一瞬の隙に次の裂傷が生まれる。
鬼男は茫然と、それを見ていた。
姿無き救いの手は、阿傍を瞬く間に窮地へ追いやっていった。いや、正確にいえば見えないのではない。秒速を飛び越え、目にも止まらぬ速さで動き回っているのだ。
阿傍は完全に理性を失い、ところかまわず鉄拳を打ち出している。が、全て外し、代わりに巨大な穴が穿たれていく。
「失せよ、邪道!」
最後の一閃が急所を切り裂いた。
『き、貴男様はまさか』
愕然とした面持ちで地響きをたて崩れる阿傍。その輪郭が歪み始め、忽然と消えた。
『先代……紅の王!?』
「——!」
鬼男は、暫し唖然とその空間を凝視していた。
妖の消えた場所に姿を顕現させた救いの手。
風に遊ばれて翻る白地の衣。片手に握られた白刃の太刀。そして、優麗な、紅い髪。
後ろ姿だから表情はわからない。だが、わかる。知っている。その異質な存在を見紛うことなど、絶対に有り得ない。
鬼男は我が目を疑った。そんなはずは無い。だって彼は、建物に、妖の手の届かない空間に身を潜めているはずだ。閻魔の結界すら施されているというのに。
暗幕を下ろし始めた視界にはっきりと見えたその人影は、鬼男の苦手とする得体の知れぬ来訪者。
壬生 京一郎。
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.112 )
- 日時: 2010/04/24 15:24
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: j553wc0m)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
***
う〜ん……想像以上に天国が続く模様。
あっでも飛鳥&細道もちゃんと出す(予定)なんでそこのところは心配無く^^;
昨日、修学旅行に行ってきやしたw
奈良・京都探索をしたのですが、
いやぁ…吹きましたねwww
「法隆寺」最高でございますwwww
人知れず笑いを堪えるのに必死で…(爆)
————————————————————————
【其ノ十二 遠い追憶】
記憶の書の一頁(1ページ)目。
数多の名を刻んだその書の中で一番最初に記したのは、他でもない。
我が、主の名。
——閻魔大王。
瞼を開け、まず最初に視界に飛び込んできたのは、暗い表情をした主であった。
泣き腫らしたような、しかしなんとか笑顔を向けようと必死に努める黒髪の優男。揺らぐ瞳は暮色の茜。見え見えの無理な作り笑いをし、紡ぎ出そうにも声は意味を成さず、ただ辛そうな嗚咽が漏れる。
——こんな奴が、自分の主か。
事態は一向に展開せず、重く沈鬱な空気が流れた。
ついには袖で目許を拭い始めた主に耐えかね、呆れ半分に片膝を付いて第一声を発した。
「お目にかかり光栄にございます。我が主、閻魔大王。御前のため、今日より身を尽くして——」
不意に、暖かな温もりが身体を包んだ。
抱きつかれたのだと理解するまで、何秒かの猶予が必要だった。菓子と仄かな線香の香りが主の狩衣から漂ってくる。
唖然とする自分をよそに、主は廻した腕に更に力を込めて激しく泣きじゃくった。それまで堪えていた苦痛が一気に溢れかえったような慟哭。
まるで子供のように、大声をあげて涙を流す自分の主。本当に、この人がかの閻魔大王なのか?
生まれ出でた時から備わっている知識とは全く反転した血濡れの神を前に、自分は訳もわからずなされるがままにされていた。
だが、自然と振り払おうとは思わなかった。主への無礼に値する行為だと考えたのも一律あるが、この優しい匂いが酷く懐かしく、心地良かったからかもしれない。
名も無き白紙の鬼を、誰よりも愛してくれた恐るべき肩書きを持つ主。
そんな彼と時を数えて、暫く経ったある日。
「名……?」
「そう、名前。いつまでも『キミ』じゃあ呼び難いでしょ?」
自身のことのようにさも楽しげに発言した主を一瞬だけ見やったが、サッと書棚に視線を戻す。
「……別に。僕はどう呼ばれたって構いませんよ」
「もう、素直じゃないなぁ。そんな無表情じゃいつか板に付いちゃうよ」
主はそういうと、うーんと唸りながら明後日の方を仰ぎ見た。動作という動作全てが無垢な子供のようだ。
先ほど口にした内容は本心だ。どう称されようと、自分には関係ない。特別力を持った鬼でもないし、名など邪魔なだけ。
そう、次の言葉を聞くまでは思っていた。
「——そうだ!」
パンッと手を叩き、主はパッと晴々しい笑顔を向けてきた。
「『鬼男』! 鬼の男と書いて鬼男! どう!?」
……ハァ?
それが最初の感想だった。
ダサいというか、地味というか。嘆息しか出て来ない最低のネーミングセンス。
危うく落としかけた分厚い書物を取り直し、背後を顧みれば、キラキラと眼を輝かせる主がいた。
「ね、ね、素敵でしょ? 鬼のように屈強な男『鬼男』! もう、俺ってば天才ッ」
ああ、と溜め息を漏らし自身の発想を自画自賛する彼を、気付けば自分は穴が開くほど凝視していた。
「おに……お——」
確かめるように呟く。と、主は嬉しそうににっこりと頷いた。
「そう。これからも宜しくね、鬼男君!」
これが、自分と閻魔大王との正式な契約の瞬間。
名は、強力な言霊だ。
特に神族が名付け親の場合、どんな陳腐な名であろうと、それだけで桁外れの霊力を身に付ける。
彼は、自分を信頼して名を与えてくれた。即案ではあるが、それでも彼なりに捻りに捻って思いついた案に代わりはない。
「鬼男——……」
そうだ、この時かもしれない。
感情の欠片も無かった自分に、初めて『心』が芽生えたのは。
そして同じく、新たな『心』の芯から、忠誠を誓ったのは。
——誓いましょう。あんたの武器となり、盾となり、血の海でさえも共に渡ると。
あんたを、守り通しましょう……。
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.113 )
- 日時: 2010/05/01 20:30
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: j553wc0m)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
「…………」
ゆるゆると瞼を開け、柔らかな陽光に照らされた天井を見上げる。
夢を見ていた。ひどく、懐かしい夢。
暫くぼんやりと天井を眺めていると、白い顔がぬっと視界に入ってきた。茜色の瞳が心配そうに揺れている。あの時と、同じように。
「鬼、男くん?」
少し遠慮がちに呼ばれ、鬼男は鬱陶しげに眼を細めた。
「なんですか馬鹿大王。用件ならさっさといいやがれ」
「なん——! 誰に物をいってるのかな鬼男君。外で倒れてた君達を重い思いして運んでやったのは誰だと思ってるのかな?」
「僕の知ったこっちゃありません。大体、誰のせいでこんな」
肘を軸に身体を起こしかけ、しかし突如全身に走った激痛にウッと呻く。
身じろぐだけでもわかる。全身のあらゆる箇所が悲鳴を上げ、限界に達していたことを。既に域を越えてしまったのも有るかもしれない。あぁ、暫く動けそうにないな。
諦めて再び横になる鬼男に、閻魔は溜め息交じりに口を尖らせた。
「全治二週間ってとこかな。もう、あんな無理したらこっちの身が保たないじゃん!」
散々言われた末伸び上がってたヤツが何をいうか。
上手く機能しない肺に力を入れる。
「僕を誰だと思ってるんですか。昔、約束したでしょう」
貴方は、忘れてるかもしれないけれど。
「あんたの武器となり、盾となり——」
その先は肺に痛みを感じて口に出来なかった。物凄く厄介だ、まったく。
どうやらその努力も虚しく、鈍感な彼の耳には届いていなかったようだ。閻魔は部屋から出ようと戸に手を掛けながら振り返った。
「いい? 絶対動いちゃダメだからね。仕事はちゃんとやるから。わかった?」
ひらひらと手を降って応えると、彼も愛想良く手を振り返して姿を消して行った。別に、面倒だから鼻であしらっただけなのだが……。
さて、と再挑戦を試みるも、やはり起き上がることすらままならない。仕方ない、今日ぐらいは言うことをきいてやろう。
ふと気配を感じ目だけを動かせば、横で同じように臥せる京一郎がいた。
こちらはというと特に外傷は見当たらないようだが、妙に生気を感じられない。気絶……だろうか。
この人の事は後からたっぷり説教を食らわせるつもりだ。日頃の鬱憤も説教に全て重ねる予定。
そして、今まで明かされなかった正体を、何としてでも聞き出してやる。
「紅の……輝石……」
そして、阿傍はこうも告げていなかったか? 妖魔を束ねる長、至極の神、“先代紅の王”と。これでハッキリした事実がある。壬生京一郎は、徒者じゃない。
その桁外れの霊力、全てに明るい多様な知識。そして、血のような真紅の眼。
阿傍の告げた二つ名をみる限り、やはり王族の地位にあるようだ。常の気品も合わせると納得がいく。
が、結局苦手なのには変わりない。
京一郎から窓へ視線を巡らせば、からりと晴れた珍しい晴天。太陽の位置からして、およそ正午辺りであろう。
「昨日が夕頃だから、大体……半日か……」
少し言い澱んで、鬼男は額を押さえて溜め息をついた。
そんなに長い間あいつに心配をかけていたのだと思うと、どうも腑に落ちない。自分は頑丈な鬼なのだから、心配要らないと何度告げても、それでも心配なのだと一瞬も目を離さず世話をやいてくれる。
きっと昨夜も席を立とうとはせず、ずっと自分の隣で看病してくれていたのだろう。
「まったく。世話好きなヤツだ」
その気性せいで、死にかけたのにな。
睡魔が座し始めた瞼を仕方なく閉じ、鬼男は闇溶の世界に意識を預けた。
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.114 )
- 日時: 2010/05/02 19:38
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: j553wc0m)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
それは、襲撃の起きた日の夜。
意識を取り戻すと、そこは温かい部屋の中であった。仄かな灯りが暗い室内を照らしており、どこか安心感を与えてくれる。薄暗いがここは自分の自室ではない。そうだ、初めて目を覚ました場所——閻魔の寝室だ。
また倒れてしまったのだろうか。無理もない、あんなに身体を動かしたのは久々だったから。あの、没日以来。
無意識に布団を深く被った。目を閉じれば思い起こされる生前犯した重罪の数々。それを再び犯してしまいそうで、恐ろしく怖いのだ。自分の凄惨な嘲笑が、没した今でも胸中に消えない裂傷として刻まれ続けている。
それなのに、人を殺す道具を、命を奪う狂気を、自分はまたも手にしてしまった。理由など戯れ言に過ぎない。忘れかけていた感覚が浮上し始めていた。
——殺戮の快感。
得物を手中で滑らせ、風を斬るあの感覚。断末魔を上げる獲物に更なる恐怖を与える。平穏無事な世界では決して味わうことの出来ない体験。
できることなら思い出したくなかった。だが、どんなに懇願しても、一度血に濡れた記憶は薄れていくことはなかった。身体が傷を負っても、霊力故一日余経たずとも完治するのに。
自身の体温で温められた布団は申し訳ないほど温かかった。が、彼は小さく震えていた。
紅い瞳がゆらりと揺れる。怖い。とてつもなく、恐い。
その時、戸を開く音がした。息を呑む気配がする。
「あっ、紅。よかった、もう起きたんだね」
水を入れた桶を手に、初対面の時と同じように閻魔がにこりと微笑んだ。黒一色のはずの狩衣が斑に染まって所々裂けている。少々薄汚れているのは、砂埃のせいであろう。
「鬼男君は一向に目を覚まさないからさぁ。でも大丈夫、なんたってあの鬼男君だもん。紅はどう? 気分」
何度か目を瞬かせて、京一郎は顎を引いた。
「えぇ、大丈夫です。……少々まだ頭が痛みますが」
そっか、ならすぐ治るねと閻魔は京一郎のすぐ隣に敷かれた布団の脇に腰を下ろした。見ると、規則正しい寝息を響かせる鬼男が床に臥していた。
閻魔はその褐色の額に濡れた手拭いを優しく載せてやる。ピクッと反応した鬼男を見て、くすりと笑った。
「見てよこの傷。忠義の証ってやつかな。俺を庇おうとして作っちゃったんだよ。……本当に、無理するんだから」
そう呟き、閻魔は口を閉ざしてしまった。静かに呼吸を繰り返す部下を心配そうに見詰めている。無様な失態だ。動揺したおかげで、鬼男を窮地に追い込んでしまった。いつもなら、阿傍ごときの攻撃など片手で粉砕出来るものを、手出しすら出来なかったとは。
閻魔の肩が僅かに震える。そんな彼を京一郎は上体を起こして黙然と眺めていた。
「閻魔さん……」
閻魔の痩せ細った身体がびくんと強張った。
「な、何?」
「何も、訊かないのですね」
視線を交えた閻魔の瞳孔が細められる。京一郎は言葉を濁した。
「私が、何者なのか。わかっています。牛頭の鬼と対峙していた時、貴方は気絶してなどいなかった。だから、見ていたはずです。私の、闘いを」
そして、私の二つ名も。
『京一郎』は確かにれっきとした名だが、それは兄弟に肖って付けたものであって、世間で通るのはそれではない。二度と罪を犯すまいと、彼は『京一郎』と名を改めた。死した自分にはもう二つ名を口にする権利は無い。そう、思っていた。
京一郎は無言で顔を伏せた。本当は、どう返されるか怖かったのだ。
それまでずっと、努めて気丈に振る舞っていた。胸の奥に突き刺さった刃の存在を、彼等に知られないように。しかし、聞かれたからにはもうその心配は無い。数週間続いた友情も、恐らくは今日この瞬間で脆くも崩れるだろう。ならば、覚悟を決めて告げなければ。
そして、キッパリサッパリさよならだ。
「実は、私は——」
「別に。俺は何も聞いてないよ」
はたと閻魔を見ると、彼はあらぬ方を見やりながら口許を綻ばせていた。
「あの時意識があったのは事実だけど、無理に動ける状態じゃなかったんだ。だから、俺は何も聞いちゃいないし、何も訊かない。当たり前だろ。紅が本当に話したいなら、その時まで言葉をとっておきな。この子も、聞きたいだろうし」
見下ろしながら鬼男の頬をそっと撫でる。
京一郎は唖然と瞬きをしていた。
だから、と閻魔は笑う。時間が来るまで、いつも通りの紅でいなよ、と。
暫く京一郎は閻魔を見詰めていたが、ふっと微笑んで頷き、再び布団を被って眼を閉じた。
閻魔の手が、頭を一度だけ優しく叩いた。その後は、衣擦れの音や、手拭いを水に浸す響きだけが聞こえる。
さあさあと、外を駆ける風の音色が耳の奥で響いた。幾何か昔、二人で約束を交わした丘で聴いた音だ。鮮やかに、甦る。
「……貴方がたは」
全てを知っても、それでも、変わらずに私の名を呼んで、手をのばしてくれますか——……?
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