二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 日和光明記 —Biyori・koumyoki.RPG—
- 日時: 2010/05/13 22:44
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: j553wc0m)
- 参照: http://noberu.dee.cc/novel/bbs/nijisousaku/read.cgi?no=160
他サイトで更新中。新作を見たい方はこちら↑(UPL)からどうぞ♪
血塗られた暗黙の伝記。
それは歴史上、星の数ほど存在するものだ。ひとつひとつに命のドラマがあり、語り尽くせない思いが詰まっている。
だが、ただ一人、“彼”は違った。
人々の頂点に君臨し、神々ですら捻伏せ、絶対的な権力・実力を奮った“紅の王”。
これは王と、宿星を司った六人の異次元物語。
——日和光明記 Biyori・koumyoki.
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初めましての方もこんにちはの方も、クリックありがとうございます!!ちょっとでも覗いて行こうと思ったその思考に感謝♪さて、ごあいさつが遅れてしまいましたね。日和&KYOを愛しているキョウと申します。以後お見知り置きを……。
実はまたも自作小説が消されてしまって…「いったれぇぇぇぇ」的なノリで作ってしまいましたww
あっ、帰らないでッ;
そのお優しいお心のままで下に行って下さるとありがたいです!
その前にいくつかの注意を——
*見た感じよくわからないと思いますが、この小説は『ギャグマンガ日和』と『SAMURAI DEEPER KYO』(サムライ ディーパー キョウ)』の合作です。
※ちょっとしたご注意※
・ネット上のマナーは勿論のこと、カキコの使用上注意も守って下さい。
・「SAMURAI DEEPER KYO」と書かれてはいますが、正式には↑に居た紅の王こと京一朗の事でございます。その他にKYOのキャラが少数出てくると思います。
・宣伝はOKですが、スレ主は見に行けない場合があります。ご了承くださいませ。
・一行コメも極力お控えください。
・誤字&脱字が多いと思います。見つけ次第訂正中です。
*この小説はオリジナル要素を多数含みます。また、キャラ崩壊(京一朗の)があるかと……。
*主に和風で書いております。故に「四獣(朱雀や白虎)」や「妖怪(鬼や九尾の狐」がごく普通に出てきます。(すでに主人公が鬼ですからね^^;)
*主に「鬼男」と「京一朗」視点で進めております。
たまにその他もいると思いますが……
以降の注意事項をクリアした方はどうぞお進みを〜♪
(お進みしてくださった方は神様ですッ!)
—お客様 〜現在5名様〜—
(消えてしまった時にも来て下さった方も含めて)
レッド先輩 美弥様 夜桜様 涼堂 ルナ様 シャリン様(ピクミン様)
—目次—
主要人物 >>1
主要人物の武器・属性 >>2
用語解説>>3
零の巻 〜伝承の詩〜 >>4
【壱の巻 〜冥夜に浮かぶ兆し〜】
其之一 天上の支配者 >>5 其之二 目下の逃走 >>9 其之三 白き狼 >>10 >>14 其之四 託された願望 >>15->>17 其之五 血染めの来訪者 >>18-21 其之六 壬生京一郎>>22->>24>>45 其之七 眠らざる力>>46-54 其之八 邪悪なる行進曲>>55-56>>59-61
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- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.105 )
- 日時: 2010/04/07 18:18
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
※
妖の耳障りな呼声と京一郎の残滓に導かれたのは、見上げるほどの岩垣の真正面であった。いや、世間はこれを断崖絶壁と称すのか。兎にも角にも、京一郎はその絶壁の真下に転がる岩々の間にぴったりと収まった状態で屈み込んでいたのだ。宛も間隙に挟まったかのように見えなくもないが、どうもそうではないらしい。名を呼ぶと、ふっと顔だけをこちらに向けて、何の苦も無く立ち上がる。
「? 鬼男さん、息が上がってますよ」
気にして欲しくなかった点を刺激され、鬼男は思わず一瞬目を背ける。しかし話しが転回しなくなってしまう事態を避けるため、ここは敢えて答えずに言い逃れるという選択肢を選んだ。
「質問したいのはこちらですよ。一体何をしようとしているんですか。脱走しようだなんて考えない方が身のためですからね」
面前でシャキンと爪を伸長させると、京一郎は苦笑を浮かべながら肩を竦ませた。
「いえいえ、そんな物騒なことなど考えませんよ。もっとも、私の足について来れなければ、それも成就してしまうかもしれませんがね」
グサリ。最後の一言が、鬼男の心奥に深々と突き刺さる。普段から罵声を飛ばす辛辣人物がいう物言いと、柔和かつ温和な人が時折口にする悪罵は大いに桁が違う。それをしれっと言い放たれ、鬼男は精神的ダメージにより地に肘をつかせた。チクショー! と胸中で叫ぶ。
「実は、これなんですよ」
脇へ退いた京一郎のいた場所には、その後ろ姿によって隠されていた部分が露わになっていた。ふたつの岩と岩の間に築かれた岩陰に、微かにたじろぐ気配が垣間見える。気を取り直して近づき、それを覗き見た鬼男。しかし突然ばっと後方へ仰け反ると、声を荒げた。
「京さん、これ、妖じゃないですか!」
そう。岩陰の闇に溶け込んでいたそれは、小さいながらも、紛れもない妖であった。地獄の瘴気は、例え虚弱な雑鬼であろうとも、力を増幅させるという。すぐさま始末しようと構えると、何を思ったか、その前に両手を広げて立ち塞がる人影が在った。
「待ってください鬼男さん」
「なっ、気違いましたか! 早くそこを退いてください。それは滅さなければならないのですよ!?」
脅威となる前に、早く。
しかし一向に首を縦に振らない京一郎。それどころか、鬼男の発言を振り払うかのように頭を振る。
「違うんです。彼に悪意はありません。ただ、知らずに迷い込んでしまっただけ。無害の妖なら殺す必要はないのでしょう?」
「まぁ、そうですけど——」
京一郎はその言葉を認め、再び腰を屈める。それが意図的に岩陰を隠していることに気付き、顔を渋くする鬼男。なんとか隙間から覗こうと立ち位置を移動する。
「さぁ、こちらへお出でなさい。大丈夫、危害は加えませんよ。あちらの鬼さんと違いましてね」
それ僕のことですか、と問うも、やはり見向きもしない。別に答えを期待していたわけでもないので、鬼男はひとつ嘆息を漏らして事の成り行きを見守ることにした。
しかし、この妖には本当に悪意がないのだろうか。萎縮して身を小刻みに震わせる様なんてのはそれこそ子兎を思わせるが、そこはやはり人外異形生物。人を騙すなんてお手の物であろう。
ふと脇に視界を走らせると、野次馬の如くざわめく亡者達。お前らも同種の生き物なんだよな、うん。
白い姿がすっと立ち上がる。視線を元の標的に訂正し直した時、鬼男は京一郎の腕に抱かれた『モノ』に眼を眇めた。
「で、それをどうしろというのですか」
「帰すんですよ、野性に」
さも当然だと言わんばかりのご返答。
「ごもっともなお答えです。が、不可能ですよ、そんな芸当」
だって、妖に棲みかなんて存在しないのですからね。
鬼男の冷たい断言は京一郎を見事にノックアウトしたのだろう。落胆して俯く視線と、華奢な腕の中で縮こまる妖の瞳が重なった。何かを懇願するような眼差し。無言ではあるが、しかし必死に訴えかけてくるその意志に応えようとしたのだろうな。
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.106 )
- 日時: 2010/04/07 19:46
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
——いいか、“鬼子”。
不意に、懐かしい言葉が脳内に響いた。
——コイツの存在は今や神に匹敵する。お主の上司以上にな。
そうだな、今になって同感だ。仮にも神族、しかも冥府の大王の霊力を凌いでしまったのだから。
そういえば、狼はこうも続けていたな。
——そしてその至高の神を、妖共は血眼になって捜し回ってるだろうよ。
これだけの霊力を備えてるのなら、それも当然だろう。だが、狼はなぜ彼を身を呈してまで匿っていたのだろうか。幾度も思案を巡らせてきたが、答えは未だ見えない。当人に訊かない限り、永久に謎のままであろう。
一体、狼と京一郎の間にはどんな関係性があるのだろうか。妖とは思い難い風貌の獣に、人の姿をしていても異形のような力量を発揮する紅き眼の美男。相似た霊気をその身に秘め、一体全体、なにを目論んでいるのだろう。
今の今でも、京一郎が自分の経緯を明かしたりしたような発言はほとんどない。いや、正確には全くだな。閻魔が幾度も問いかけているが、京一郎は頑と答えず、また、応えない。決まって顔を背け、話題を転回しようと必死に努める。しかし鬼男は見てしまったのだ。隠されたその表情を。苦渋に満ち満ち、ともすれば溢れかえりそうな感情によって絶叫してしまいそうな、見るも心を痛める辛苦な形相を。慄然を含んで揺れ動く紅い瞳には、どんな場景が浮かんでいたのだろうか。憶測ではあるが、きっと普通じゃないことがあったのだろう。悲劇にも酷似した、そう、あの時の自分よりも辛い目に。
急に同情を覚え、鬼男の顔が途端に沈む。
京さん。あなたには一体、何があったのです?
あんな瀕死の状態に陥るまで、一体何を超えてきたのです?
計り知れない苦痛を、人は胸に抱いて生きている。憎悪、嫉妬、憤怒、悲哀。その者以外は決して理解しえない暗点の過去。いや、知る必要すらないのだろう。
だが、と鬼男は改めて京一郎を黙視した。なにか、思案に暮れるような表情を浮かべ、妖の鱗に覆われた額を撫でている。あれは、下級の弱者を愛でる眼。憐みの眼だ。
ふたつの顔をもった人物、壬生京一郎。
暗黙の内にひっそりと隠された痛みは、時たま素を現すのだ。
突然、霊気が湧きあがった。
亡者達が清風に煽られて喚声を上げる。光輝が一斉に迸しり、岩房を強く照らしだした。はたと見向いた鬼男は、その光景に息を呑んだ。
抱かれた妖の身体から、白い粒子が立ち上っている。京一郎はまごついた様子のそれを深く抱きしめ、口の中でなにやら唱えていた。やがてその口元に、柔らかな憫笑が浮かぶ。
「調伏……!?」
唖然たる面持ちで呟く鬼男。
調伏、それは祈祷によって悪魔や恐敵を静め下すこと。京一郎は、この妖を鎮魂しようとしているのか。
「彼は、怖かったのでしょう。悪妖に落ちぶれてしまうその日が。善の道を選んだ妖にとって、外道に堕ちることは仲間への裏切りとなる。常に内道を歩む彼等ですが、地獄の瘴気はそれすらも呑み込み、やがて負の念に侵された暴君へと化してしまうのです」
鬼男の視線を認め、京一郎が神妙な顔つきで呟いた。
雑鬼から聞いたのだろうか。それに応じるように雑鬼の大きな瞳が光る。
「ですから彼は、私に助けを求めていたのです。しかし、それも遅かった。私が彼を見つけた時には、既に魂の半分以上が死気に取り込まれてしまっていました」
他に助かる方法がないのなら、いっそ調伏してくれ。
それは、「殺してくれ」と哀願しているのと同等。
瘴気に取り込まれた妖は、根の国に属する異形の魔物に変貌する。この心優しき雑鬼は、力を得ることを望んでいないのだ。だから、己を調伏してくれと。
鬼男の金色の瞳が、ほんの少し揺れた。切ない記憶を手繰り寄せて、胸の中に暖かくも悲しい何かが満ちる。
「京さん、あなたは……」
——キィィィン……!
鬼男が口を開きかけたその時、鋭利な耳鳴りが脳裏を過った。次いで何かが砕け散るような衝撃が走る。そして、低くおぞましい咆哮が静けさを打ち破った。それに呼応するように大地が震動する。
裂震に耐えきれず、鬼男は体勢を崩してしまった。
地鳴りが鼓膜を強打し、荒れ地の所々に亀裂を生じた。
亡者達は突然の事態に慌てふためき、散り散りにそこらを徘徊する。誰もが狼狽する最中、京一郎ただひとりだけは冷静を装っていた。と、それまで微動だにしなかった妖が突如弾かれたように身悶えを始めた。一瞬の隙を突き、あっと息を呑む間に京一郎の腕から脱走する。
「このッ……!」
鬼男が、唸った。やはりそうだ、妖は信用ならない。このまま脱兎の如く逃げ出すに違いない。——ハズだった。
地に着いた妖は、そのまま京一郎を顧みたのだ。それも、ちゃんと意志を込めた瞳で。京一郎が驚いて目を瞠った。
「ついて来て……ほしいのですか?」
妖が走り出した。四本の脚を懸命に動かし、調伏されかかってるのにも関わらず。
無言は、是だ。京一郎は固唾を呑むと、重厚な身なりとは思えぬほど機敏な動作で駆けだし、妖の行動を追った。半瞬遅れて、鬼男もその後に続く。
鬼男は愕然とした面持ちで幽冥の虚空を仰いだ。
「妖気——!?」
地獄門のある艮の方角から、何百にも折り重なった妖気が流れ込んでくる。雑鬼はその出口へ向かっているのだ。地獄門の外へ。あれは、あの方位には、独りきりの閻魔が……!
瘴気の生み出した生ぬるい風が、鬼男の血の気の失せた頬打った。どくどくと血脈が鳴る。そうか、つい先刻までの本能の警告はこれを伝えたかったのか。焦燥感は本物の焦慮となり、一層足を急かす。
この時ばかりは京一郎も真剣であった。鬼男と共に常人では考えられない速さで疾走し、先行く雑鬼を追う。
またも、怒号にも似た咆哮。それが二人の耳朶に突き刺さった。
「まさか、こんな時に攻めてくるなんて!」
鬼男の叫びが、鋭利な刃のように向かい風を切り裂く。
吹き上がり迸る瘴気と、徐々に広がりつつある妖の気配が、地の果てであるここまで伝わってくる。
鬼男は心臓の上をぐっと掴んだ。
痛いほどの激しい鼓動。衣の下に刻まれた幾多の古傷が、何かを訴えるように鈍く痛んだ気がした。
「……!」
息を詰めて、雑鬼の残した軌跡を辿る。
頼む、どうか。
「大王……ッ」
無事でいてくれ——!
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.107 )
- 日時: 2010/04/07 19:46
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
【其之十一 息巻く怒涛】
——絶対、絶対……
約束したんだ。ずっとずっと昔に。
なのに、僕は。
——守れなかった。
屋外から轟く鋭利な絶叫。まるで嵐が襲撃したかのようだ。閻魔庁を、生温い風が取り巻き荒れ狂っている。
鬼男一行は、一時戦場となったであろう仕事場を突っ切ると、戸口を前にして愕然と立ち竦んだ。
辺り一面を覆いつくす異形の数々。飛空しているものから土中に身を潜めるものまで。言葉通り何百もの妖異の軍が閻魔庁全域を取り囲んでいたのである。本来暗雲が立ち込めている空には羽を所持した妖怪が飛び交い、地上には語るも恐ろしい奇怪な生物が舌舐めずりをしながら蠢いている。圧倒的な軍勢。その中心で、何かが舞っているのが見て取れた。ひとつ閃く度に妖怪の首が飛び、自らの血溜りに崩れ落ちる。頭部と共に散り咲く朱の飛沫が、美しい。いや、舞っているのではない。まるで踊るように槍を振るうその人物は、何百の妖を相手に一刻ほど持ち堪えているのだ。墨染の衣を斑に染め、相棒の帰りをひたすら、待つ。
早く助太刀しなければ。彼は自分を、待ち望んでいる。
鉄砲玉のように飛び出そうとした鬼男は、しかしふと背後で瞠目する京一郎の存在を思い出す。
「京さん、あなたはここで待っていてください。いいですか、絶対に出ちゃ駄目ですからね」
実に多大な霊力を持っていたとしても、身を守る武器が無くては危ういだけだ。
鬼男が京一郎を顧みた、その時だった。
戦場に背を向けたのが間違いだった。一匹の妖怪が鬼男の存在に気づき、尾を突き立てようと迫っていた。寸前になってハッと首を巡らすも、もう、間に合わない。
鬼男は、堅く目を瞑った。それまで京一郎の足元にいた雑鬼が突然飛び上がった。鬼男と鉾の間に割り込み、寸で攻撃を阻む。粒子が一気に散った。鬼男が悲鳴を上げる。
「——何やってんだ!」
雑鬼は後方の壁に叩きつけられ、そのまま無数の光となって消失した。気を削がれた妖怪は鉾を引き戻すと、口惜しげに戦域へ紛れた。最後の残滓が掻き消えたのを視界の隅に捉え、鬼男の双眸が紅く燃え上がる。
「あいつ等……ッ! 京さん、絶対、絶対出て来ないでくださいねッ!」
乱闘へ駆けて行く灰銀の鬼を見送りつつ、京一郎は片目を眇めた。
やはり非力な弱者は、どう足掻いても勝利を得ることはない。しかし、先程の雑鬼は身を呈してまで敵対であるハズの鬼男を守った。なぜなのだろう。もしかして雑鬼は、これを止めて欲しかったのかもしれない、と他愛も無い憶測を考える京一郎。
「絶対、ね」
闘気にいきり立って発言された言葉を、再度確認するように唱える。手出しなんてしたら、それこそ彼に怒られてしまう。
騒然たる戦場を一瞥すると、京一郎は悠然と踵を返し閻魔庁の奥へ退いて行き始めた。
「では貴方がたの実力とやらを、心置きなく見学させていただきましょう……」
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.108 )
- 日時: 2010/04/13 20:05
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
妖怪の頭部が跳ね飛んだ。朱が散り、音も無く霧散する。が、その空いた空間に別の妖が雪崩れ込み、一切隙間を空けない。
狭む肉壁をざっと見回し、閻魔は憎々しげに歯噛みした。周囲に蠢く妖はさほど手強くない。だが、この数を相手にするのはあまりにも多勢に無勢。自分の本領を駆使すれば難なく抹殺できようが、それでは冥界の区域ひとつが消し飛んでしまうかもしれない。
神の力を決して侮ってはならない。それは彼自身が誰よりも知り得ていた。
じりっと砂利を踏みしめ、閻魔は周りを一望する。幾ら斬っても一向に数が減らない。妖の様子がおかしいと聞いてはいたが、明らかにいつもと違う。閻魔を相手にしつつも、物陰を気にしているようだ。
そう。例えば、何かを探しているかのような。
「やれやれ。遊びもほどほどにしなくちゃいけないのにね」
呆れ顔で腕を振るう。腕を無くし、もんどり打った妖を一瞥もせず微塵へ帰す。一々同情してては霧がない。
閻魔の手の内で踊る白銀の槍。それは持ち主同様並外れた霊力を備えた神器だ。故に容易く妖を凪払い、一掃出来る。
どこからか憤怒に燃えた大声が聞こえた気がしたが、それも全て妖の重々しい咆哮に掻き消されてしまった。
閻魔を取り囲んでいた異形の群れが、一斉に襲いかかる。
「どけぇッ!」
今まさに飛び上がらんと構えた妖が、閻魔の眼前で真っ二つに裂けた。その裂け目から見慣れた長身の影が躍り出る。
「鬼男君!」
閻魔が嬉しそうに声を上げる。そんな彼にほんの一瞬だけ微笑を向け、鬼男は再び妖達を見据えた。
無数の妖の中心で互いに背を預け合う天国組二人。敵から目を離さず鬼男は閻魔に耳打ちした。
「京一郎は閻魔庁へ避難させておきました。あそこなら少しでも時間が稼げるでしょう」
閻魔は無言で首肯すると、懐から忍ばせておいた数枚の呪府を抜き取り放った。霊力を纏った呪府は引き寄せられるように閻魔庁へ飛んで行き、建物の周囲を徘徊していた妖怪を弾き飛ばし結界を織りなした。
これならば妖の目的であろう異界への入り口は封じ、次いで京一郎も守れる。
その代わり、外に残された者は入れないが。
「……その服、後で誰が洗うと思っているんですか」
鬼男が首だけを横にしてじとっと半眼にする。
それに対し閻魔は肩を竦めて応えた。
「ちゃっちゃと終わらせば乾かずに済むでしょ? 家政婦さん」
「まっ、そういうことですね」
薄く笑い合うふたり。しかし妖は堪えかねたのか、再戦を開始する。
閻魔の鋭利な真言が響き、敵が拘束の茨に囚われている内に鬼男が切り刻む。時に鬼男の背後に迫った妖を瞬時に槍が貫き、双方は慣れた身のこなしで圧倒的数であった敵軍を一掃していった。
どんな力をもってしても、冥界の屈強な守護者には敵わない。
鬼男は誇っていた。
自分の存在が、この地を守っているのだと。こうして閻魔と共に戦場を駆け、立ちはだかる異形を粉砕していくことが。しかしなにより、彼をこの手で守り通しているという実感をもてることが嬉しかった。
肉を切り裂く感触が爪を伝って本能を震わせる。例え人の姿をしていようと、例え人に酷似した感情を抱えていたとしても、彼は正真正銘の『鬼』なのだ。命を狩る瞬間に口端から覗く鬼歯が、獲物を探すためひとつ頭を振る脳天に備わった角が、それを痛感させる。
そしてまた、閻魔も本性は残忍な冥府の暴君だ。
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.109 )
- 日時: 2010/04/19 20:29
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: j553wc0m)
- 参照: http://noberu.dee.cc/index.html
高まった鼓動は速度を緩めない。
その心音を耳の奥に感じながら、鬼男は尚も妖を排除していった。その横で銀槍を閃かせていた閻魔が、ふと目を瞠った。
心の琴線に触れた違和感。そこらの雑魚ではない。もっと強大な——脅威が迫っている。
「——鬼男君ッ!」
叫んだ直後だった。
妖軍が、消えた。
鬼男が微塵に変えたのではない。一瞬で、別の何かに抹殺されたのだ。
閻魔の動作が石化したように硬直した。突然の事態に、鬼男も立ち止って身を固くする。
突如静寂に占領された空間。奇妙な沈黙が包み込み、遠くで唸る風音がやけにはっきりと聞こえた。
違う。これは、寧ろ風を切る音に……。
視界の隅で仄暗い影が蠢いた。さっと視線を鬼男へ向ける。
「鬼男君、足!」
はっと眼下に目を落とした鬼男の足元が大きく盛り上がる。
刹那、轟音と共に砂塵が巻き上がった。
巨大な影が地中から突き出し、堪え切れず吹き飛ばされた鬼男の左足を掴み上げる。絶句する閻魔の前で、鬼男は無様に叩きつけられた。
「なっ——! お、鬼男君!」
咄嗟に助け起こそうと近寄るも、それが今まで許さなかった隙を作ってしまった。
『そうはさせぬよ』
重々しい嘲笑が響いた。
はたと空中を仰ぎ見た閻魔の頭上から、激しい重圧が圧し掛かって来た。一歩踏み出そうとしていた膝が砕け、堪え切れずに崩れ落ちる。ぐっと呻いた閻魔に更なる圧力が加わり、完全に動きを拘束した。
その様をふらつきながら立ち上がった鬼男が目撃する。
「大王……!? 何があったのです!」
叩きつけられた時の衝撃が相当大きかったのか、その一撃で彼の全身は幾多の傷を負っていた。しかし閻魔を押さえつける重圧は成されていない。さっと周囲を見回すも、敵らしき影は微塵も無い。
鬼男の呼声に応じようと閻魔は懸命に首を巡らせる。そして慄然とした。
鬼男も背後に出現した暗影を顧みる。
そこに、巨大な妖が直立していた。
よもや巨人とさえ思われる大きさだ。赤褐色の肌は筋肉質で、薄汚れた布切れを肩から腰にかけて巻いている。
凄惨に嗤う顔は、水牛。
『非力な同胞に気を取られるぐらい落ちぶれたか、冥府の王よ』
閻魔は唖然と息を呑んだ。
「お前は……、阿傍……!?」
牛顔の巨人は、無言でニタリと嗤笑した。
阿傍。既視感のある名だ。
鬼男はほぼ頭上に位置する牛顔を見据えながら記憶を手繰り寄せた。随分と昔に何かの書物で読んだことがある。牛頭人身の鬼、阿傍。地獄で亡者を責めいなむ獄卒鬼の首領の一。しかし、聴けば現在の獄卒鬼の頭は別の鬼が受け持っているはず。
鬼男の脳裏に浮かんだ疑問に呼応するように閻魔が叫ぶ。
「なぜお前がここに居る! お前は、数百年前に俺が冥府から追放したハズなのに——!」
『そうだ、我が旧主よ。貴様の無力さに失望し、反逆を起こした俺を、お前ら憎き冥官共は人界の果てに流罪した。だがな、王よ』
阿傍が口の端を更に釣り上げる。地に片膝を付く閻魔を嘲け嗤うかのように。
『俺は新たな主の麾下に就いた。貴様のような軟弱で阿呆臭い弱者ではない。俺の価値を良く知り、多勢の妖を従える君主にだ。ハッ、貴様など足元にすら及ばんだろうなぁ。昔のけり、きっちり晴らさせ——』
「おい」
低く呟かされた停止のひとこと。ひとしきり進言していた阿傍がついと視線を落とすと、不機嫌率百二十パーセントを突破した鬼男が悪質オーラを漂わせている。
「なに人を置いて進めちゃってんだ。お前ら、僕の存在忘れてただろッ!!」
思いもよらなかった文句に、閻魔は思わず重圧に負けて倒れかけた。
ずっと蚊帳の外に放置していたことに憤慨しているのだろうが、なぜそこを気にするのだろうか。金色の双眸で沸騰する鬼男を見る限り、完全に阿傍を油断している。
駄目だ、鬼男君。そいつは今までの雑魚とは別物なんだ!
声が引きつり、言葉にならない。喉の奥に妖気がわだかまり、噎せかえる。
「あ、ぼう……!」
鬼男君と一体一で向き合いたいとでも言うのか——!!
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