複雑・ファジー小説

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たか☆たか★パニック(松浦鷹史くん・武藤なみこちゃんCV)
日時: 2013/04/11 17:11
名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 ※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
 この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
 12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。


 ☆あらすじ★
 冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。 
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!


 視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
 読者の方を飽きさせない自信はあります。
 楽しんで頂けると嬉しいです。


 ☆ドキドキ塾日記(目次)★
  >>1 宣伝文(秋原かざや様・作)
  >>2 はじめに『情けなさすぎる主人公』
  >>3 イメージソング
 塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
  >>6-7 『いざ!出陣!』
  >>8 『夢にオチそう』
 塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
  >>9-10 『忍び寄る疫病神』
  >>11-12 『もの好き男の宣戦布告!?』
 塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>14-15 『初めての恋、そして初めての……』
  >>16-17 『王子様の暴走』
  >>18-19 『狙われちゃったくちびる』
  >>20-21 『なんてったって……バージン』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>22-23 『キライ同士』
  >>24 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
  >>25-26 『一線越えのエスケープ』
  >>28 『美し過ぎるライバル』
 塾3日目(主人公・高樹純平くん)
  >>29 『女泣かせの色男』
  >>30-31 『恋に障害はつきもの!?』
  >>32-34 『歪んだ正義』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>35-37 『ピンチ! IN THE BUS』
  >>41 『日曜日のあたしは誰のもの?』
  >>42-44 キャラクター紹介
  >>45-47 >>48 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
  >>49 >>50 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
  >>102 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>51 『祝・ドキドキ初デート』
  >>52 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
  >>53 『少女漫画風ロマンチック』
  >>54-55 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
  >>56 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
  >>59 >>61-65 >>68-69 たか☆たか★“裏ストーリー”第1章(主人公・松浦鷹史くん)
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>70 『残され者の足掻き(あがき)』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>74-78 『王子様のお宅訪問レポート』
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>79-80 『拳銃(胸)に込めたままの弾(想い)』
  >>81 『本当はずっと……』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>82-83 『闇の中の侍』
  >>84-85 『こんな娘でごめんなさい』
  >>86 『バスタオルで守り抜け!!』
  >>87-89 『裸の一本勝負』
  >>90-91 『繋がった真実』
  >>92-96 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
  >>97 宣伝文(日向様・作)
  >>98 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
  >>99 たか☆たか★“裏ストーリー”(主人公・高樹純平くん)
 日曜日(主人公・高樹純平くん)
  >>106 『もう誰にも渡さない』
  >>114 たか☆たか★(松浦鷹史くんCV・トレモロ様)
  >>115 たか☆たか★(武藤なみこちゃんCV・月読愛様)

こんな娘でごめんなさい ( No.85 )
日時: 2013/01/04 13:10
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

     ☆     ★     ☆


 バスルームの脱衣所のかごの中の一番上に放りこんである、いちご柄の散りばめられたなみこちゃんのパンティー。
 彼女はただいま入浴中なので、ここから先はご遠慮願い————


 チャプ……。
(勝負下着かぁ……)
 ぬくぬくと湯船に浸かりながらあたしは考えていた。
 今まで服は全て、下着までお母さんに任せて買ってもらっていた。
「あら、コレ可愛いじゃない。あんたにピッタリよ」……だなんてお母さんは自分ばっかり通販でウエスト矯正だとかいった海外製の値段の高い下着ばっかり注文して着けているくせに、あたしには上下まとめて3点セットで売っている様なお値打ち品の……しかも“児童用”の下着を買ってくる。実は今日高樹くんとのデートに着けていた下着も残念な事にそうだった。まさか、あんなコトになるなんて思ってもいなかったし————
「わ。いちごだっ、可愛い!」
 と、そんな風に高樹くんは褒めてくれたけれど、きっと気配りの上手な彼の事だからだったと思う。あたしはものすごく恥ずかしかった。
 とはいっても、いきなり『リボンとかレースのフリルの付いた下着が欲しい』だなんてねだったりなんかしたら、おかしい、って思われるかもしれない。漫画を買うのをしばらく我慢して、コツコツ貯めたおこづかいで買っちゃおうかな……。
 高樹くんのためならば、そんなことくらい我慢できる。漫画なんてもう全部いらないくらい。だって……あたしが読んでいる漫画なんかよりも何倍も素敵な恋愛体験を現実のなかでしているんだもん。
「はぁ……」
 浴槽のふちにかけた腕の上にほっぺたを付けてあたしは大きなため息をついた。
 最近、学校で行われた体重測定の事を思い出して急に空しくなってきた。そういえばクラスの女の子の大半がブラジャー、もしくはカップ付きのタンクトップを着けていた。あたしはクラスで一番……極端に背が低くって……胸も小さい。
(“ここ”はお母さんから遺伝しなかったなぁ……)
 口先をとんがらせながら、あたしは湯船の中に浸かっている胸に視線を落としてもう一度ため息をついた。湯けむりの中にぼんやりと見えるペッタンコな胸。少し体をゆすってみたけれど、お湯の表面が揺れるだけで“あたしの”は全く揺れない。


「あれっ?」
 胸ばっかりずっと見ていて気が付いた。
 右胸と左胸の間にほんのりと赤い小さなアザができている。
(こんなところ、ぶつけたっけ?)
 思い当たるふしがなく不思議に感じながらお風呂を出て脱衣所でバスタオルで体を拭いている時に、太ももの内側にまた1つ胸に付いていたものに似ているアザを見つけた。 
 ホントにドジだなぁ。ケガした事にも気付いていないなんて……。こんなんじゃまた高樹くんに笑われちゃ————


「 !! 」
 のん気にお風呂なんかに入っている場合ではなかった。
 家に着いたら高樹くんに電話するって約束していたのに!
 あれからもうずいぶんと時間が経っている事だし、連絡が来なくて心配しているに違いない。呆れちゃう。本当にあたしは一体何をやっているのだろうか。
 自分で自分を叱りながら、手に持っているバスタオルをグルグルと体に巻いてバスルームを飛び出した。
(ちょっと待てよ……)
 電話はリビングにあるのだけれど、こんな格好で使っている所をお母さんに見付かったら叱られる。それに、男の子と話している会話を聞かれて、『誰だ』とか『どこに行ってた』とか後から根掘り葉掘り聞かれるのは……ましてや『何をしていた』だなんて、口が裂けても言えない!!
 あたしは2階の廊下にある子機を使って掛けようと、かけ足で階段を昇った。


 廊下で子機の受話器を手に取り、自分の部屋に入った。
 左腕に抱えているパジャマと下着を足元に落として1度深呼吸した。
 高樹くんと今日、日中、あんなにも2人で一緒に過ごしていたはずなのに、やっぱりドキドキする。
(やだっ、どうしよ……なに話そ……)
「 !! 」
 ————しまった!!
 別れ際に渡された高樹くんの携帯番号の書かれたメモが今日履いていた……さっきバスルームで脱いだショートパンツのポケットの中に入れっ放しになっていた事に気が付いた。
(もうっ! あたしのバカッ!!)
 タオルを巻いたままの格好で急いで再び1階のバスルームに戻り、脱衣かごの中のショートパンツのポケットからメモを取り出して2階に行こうと階段を昇り掛けた時————
 ピーンポーン。
 インターフォンが鳴った。
 誰だろう。こんな夜にお客さんだなんて。 
 お父さんが来るのは明日だって、確かさっきお母さんが……。
(まずい……!! お母さんが来るっ!!)
 ずり落ちそうになったタオルを手で押さえながらあたしは自分の部屋へ戻った。


 カーテンが開けっ放しのまま、電気も点けずに暗い部屋の中、震える手で受話器のボタンを押して耳に当てる。
 呼び出し音が1回鳴る度にあたしの鼓動が速くなる。


『なみこちゃん……。また忘れてたでしょ……』
 帰宅してからの一部始終を見透かされていた様に受話器の向こうの高樹くんにいきなり言われてしまった。
「ごめんなさい!!」
 連絡するのを忘れたことを謝ったけれど、その後、何を話せばいいのか分からなくなってしまい戸惑っていたら、小さく笑った彼が会話を繋げてくれた。
『ふふっ。今度の塾で“おしおき”だから覚えておいてね』
 せっかく繋がったけれど、余計にどう返したらいいのか分からない。 “塾でおしおき”と聞いて、あたしの頭の中に浮かんだのは塾の3階階の“やりまくりべや”……。
『何考えてたの? なみこちゃん……』
「な!! なんにも!! うんっ!」
 聞かれて必死で頭の中の映像を消していると、誰かが階段を昇ってくる音が聞こえた。
 その音が段々とあたしの部屋に近付いてくる。
 ————お母さんだ!!
 こんな時に……高樹くんとせっかくのラブラブ(?)コール中に限って一体何の用なんだろう。
 再びずり落ちそうになったバスタオルを押さえた。しかもこんな格好なのに————
 高樹くんともっとお話したい気持ちだけれど、仕方がない。電話を切らなければ!!
「ごめんね、高樹くん。実はあたし今バスタオル1枚だけなんだ……。
 お風呂の中で急に高樹くんに電話かける事思い出しちゃって……だから……」


 ガチャッ。
 電話を切った音ではない。いくらなんでも『おやすみ』も告げないでいきなり電話を切ってしまうなんて失礼だから。
 これはあたしの部屋のドアを開ける音。やっぱりお母さんが入ってきたんだ。
『バスタオル1枚、って……すげっ』
「はい……そう、です……」
 受話器を持ちながら急に敬語になったあたしはバスタオルを片手で押さえながらヘナヘナとその場に座り込んだ。
 背後にすさまじい冷気を感じる。
 きっと腰に手をあてて頭から角を生やしたお母さんがいる……。
 ゆっくりと振り向くと、なんとそこにいたのはお母さんではなくて————


 ————松浦くんだった。

バスタオルで守り抜け!! ( No.86 )
日時: 2013/01/04 13:42
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

『————もしもし!? なみこちゃん! どうしたの!?』
 あり得ない事態に遭遇し、混乱し過ぎて床に落としてしまった受話器から、あたしの名前を何度も呼び続ける高樹くんの声が聞こえる。
 部屋の外の廊下のオレンジ色の照明を背中に受けてゆっくりとこっちに近付いてくる松浦くん。近付く程に段々と姿を暗くさせながら彼は落ちている受話器を拾おうと身体をかがませ手を伸ばす。
 いつもの彼の事ならば、嫌がらせで通話中の電話に割り込んで、ありもしない余計な事を言って高樹くんに誤解でもさせるつもりだろう。だって……いまいちその理由が分からないけれど、松浦くんは“あたしにお友達ができる事”で不機嫌になるのだから。どうせ『武藤は本当は君の事を嫌ってるんだぜ』だとか言って……。
 でも、もしかしたら……さっきチカンに追い掛けられた時にあたしの気持ちが落ち着くまでずっと抱き締めていてくれた様に“優しさ”で拾って渡してくれるだけなのかもしれない。 
 分からない。信じてあげたいけれど————
「ごめんなさい!!」
 心の中で松浦くんと高樹くん、2人に謝りながら慌てて受話器を拾い上げ、電話を切った。


「ああ、暗いよなあ……。今、電気つけてやるな……」
 あれからずっとバスタオル1枚だけの姿。
 腰を抜かして座り込んだままで動けない。
 再ダイヤルされる事を恐れて受話器を握り締めているあたしの顔をチラッと見て鼻で笑った松浦くんは、体を起こしてドアの横にある部屋の電気のスイッチに向かって歩み寄り、手を掛けた。
 そして————小さな声でカウント・ダウンを始めた。
「5……  4……  3……
                     2……
                                1…………
                                           「——やめてッ!!」
 電気を点けようとする松浦くんを止めようと、彼の手を掴んだ瞬間————そのまま彼に強く抱き締められた。


 バサッ。
 体に巻いていたバスタオルが、あたしの足元に落ちた感触と音がした。
 自然に落ちたのではない。————松浦くんが引っ張って落としたのだ。
「“今 風呂入ってっから2階で待ってろ”って、おばさんに言われて上がってきてみたら……こんなスゲェ格好で“お出迎え”だもんなぁ。————ビックリしたわ、マジで。
 “いやだ”とか“キライだ”とかなんとか言っちゃって本当はおまえ……。
 ————分ーった、わぁった。文句なんて一切言わねっから。そりゃ、せっかくの“据え膳”断っちゃあイケねぇもんなあ、うん、うん」


 バタン。——カチャン……。
 顔を松浦くんの胸に押し付けられていて何が起こったのか見えなかったけれど、今確かに部屋のドアを閉めた音に加えて鍵を掛けた音まで聞こえた。
 その後、どうやら勘違いをしている松浦くんに軽々とお姫様抱っこで持ち上げられ、ベッドの上に寝かされた。
「コレは邪魔だな。もう高樹のことは忘れろ……」
 そして彼はあたしの右手から受話器を取り上げ、ベッドのヘッドボードの上に置いた。
 カーテンの開いたベランダの窓から差し込んでいた月明かりが厚い雲に覆われたせいなのか、真っ暗になった部屋の中。 
 あたしの部屋がこんなに怖いだなんて、今まで思った事も無かった。
 今さら隠したって意味があるのか分からないけれど、片手で胸を隠し、もう片方の手で残りの部分を隠すための掛け布団を足も一緒に使って探したけれども、どこにあるのか分からない。しょうがないから諦めて横向きになり、ダンゴムシの様に丸くなって叫んだ。


「出てってよ! あッ、あたしの裸なんて1秒だって見たくないんでしょ!!
 第一こんな夜遅くに“あたしに用事”だなんて! 明日学校だって塾だってあるんだから、その時にすればいいのに!!
 ……お願い!! 今日はもう(こんなんだし)帰って! ……くださいっ」
 無様なあたしの格好を、どうせいつもの様なバカにした顔で腕なんか組んで見下ろしているのかと思ったけれど違っていた。
 松浦くんはあたしの顔の前の敷布団の上に腰を掛けた。裸の姿のあたしに全く視線を向けずに、肩に掛けていたリュックを膝の上に下ろして中から“何か”を取り出そうとしている。
(あたしに用事って……何か、くれるのかな? お菓子、とか?)
 実は小さな頃から物につられやすい単純な性格のあたしは、寝転びながら彼のリュックの中身に少し期待をしていた。————しかもまた“お菓子”だと勝手な推測をして。


「こんな“ブッソー”なモン、学校とか塾になんかに持っていけるか、バーカ」
 あたしの顔の横に、子供の遊ぶおもちゃにとても思えない……そう、確か最近続編が放映された……洋画の……なんだっけ?
 あ、そうだ、“ミッション……インポ……ポッシブル?”とかいうのに登場したスパイが使っていた物にそっくりの黒い拳銃が、ドスッと重みのある音をたてて転がった。
「ひいっ……!」
(ま、まさかコレ……本物だなんて冗談みたいなコト言わないよね!?)
 開いた口を塞ぐ事もできずに目を丸くして固まっているあたしの顔を、松浦くんは片手をついて覗き込んで言った。
「————おまえのだ」……と。
 とりあえず不気味にあたしの顔の方向に向いている銃口を引き金に触れない様に気を付けてクルッと回して向きを変えた。
 どう考えても見覚えのない……スパイでも何でもない普通の女の子のあたしにはとても相応しくないこの銃が、何故あたしのものなのか不思議に思い、問い掛けると、松浦くんの様子がおかしくなった。
「これをおまえに渡してくれ、って……“おまえが当時大好きだったやつ”に頼まれて————」
(当時……って、いつのこと……?)
 シーツを握り締める彼の手がもの凄く震えている。手だけではなく声までも————
 信じよう。本当なんだ……。 
 松浦くんはコレを何年かぶり(?)に 渡しにきたんだ。
 しかし、どうして今までずっと渡さずに持っていたんだろう。
 聞きたかったけれども、とても聞ける様な雰囲気などではなかった。


「渡せなかった。渡したくなかった……。だからずっと隠していた。
 “おまえ”を俺の引き出しの中に何年も長い間、閉じ込めて……ずっとそばに置いておきたかったんだ————」

裸の一本勝負 ( No.87 )
日時: 2013/01/05 08:04
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

 “お、まえ……?”
 銃の事を友達……いや、彼の目を見るとまるで恋人に愛を囁くかの様に“おまえ”だなんて言っている。コレは……ここまできたら本物の……。
 知らなかった。松浦くんは————隠れ“銃マニア”だったんだ。
 確かに思い当たるふしが無いとは言えない。何時だったか……学校で、あたしのクラスの松浦くんファンの女の子達がこんな話をしていた事を思い出した。
“松浦くんは、カバーを付けた小さな本をいつも大事そうに持ち歩いていて、コソコソと隠れて読んでいる”のだって。
 彼女たちは“ポケット参考書”とか、“ミニ六法書”だとか言っていたけれど、本当は————


 “マフィア関連の本”か。
 マフィア……。松浦くんのイメージにピッタリだ!!


「おい……。ちゃんと聞いてんのか、おまえ……」
 あたしの顔の前にかざした手の平を揺らし、ため息をこぼして舌打ちをした松浦くんは、握り締めていたシーツから手を離し、あたしの腕を掴んだ。


「ずっと欲しかったんだよ。おまえが……」
「 !! 」
 思わず大声をあげて叫びそうになってしまったけれど、今こんな時に、こんな所で悲鳴なんてあげたりなんかしたら、1階にいるお母さんに聞こえてしまう。お母さんは、この人のお母さんとお友達なんだ。
 あたしは口を押さえてつばを飲み込んだ。
 いくらなんでもベッドの上で……裸の姿になっている、まだ14歳の自分の娘が隣の家に住む親友の息子に手を掴まれている……。
 そんな光景を彼女が見たらどう思うだろうか。
『何もして(されて)いない』
 いくらなんでもそんな言い訳が効くワケがない。
 とにかく今はただ————服が着たい。


     ☆     ★     ☆


 ————と、その頃、お母さんは……。


「そぉ、なのよう! 何年ぶりかしらねえ、鷹史くんがうちに遊びに来てくれるなんて!」
 1階のリビングのソファーにお煎餅を片手に寝転びながら、松浦くんのお母さんとウキウキ・テレフォントーキング。まさか2階で何が起こっているのかも知らないで。
「うちの子、学校の事なんて聞いてもこれっぽっちも話してくれないんだから。ああ見えても一応思春期ですものねぇ。
 なんだかんだ言ってあの子たち、今でも結構仲が良かったのね。
 それにしても鷹史くんったら、すっかりハンサムになっちゃって。うちのなみこは昔から全然変わってないのに。え? かわいい? やだわぁ、わたしにそっくりだからかしら、ほほほほほ……。
 え? 欲しい? やっだ、松浦さんったら、もうっ。
 それはこっちのセリフよう。鷹史くんみたいないい子にもらってもらえるなら、あの子幸せよ。喜んで差し上げちゃうわ。うふふっ」


 玄関の外……道路にまで響き渡る彼女たちのウキウキ・おばちゃんトーク。
 しかも話題の本人(達)の気持ちを全く無視した勝手な夢物語は声のボリュームとともにエスカレートしていく。
 この調子ではおそらく2階でどれだけなみこちゃんが絶叫をあげたとしても、残念ながら彼女の耳には留まらないだろう。


「そうそう、松浦さん、そういえばうちの主人が明日……」
 ————どうやら彼女たちの話は、しばらくこのまま続きそうだ。


     ☆     ★     ☆


 ————再び、和やかな一階とは正反対なダークな空気に包まれた2階では……。


 掴んだあたしの腕を引っぱり寄せ、手の平を自分の頬につけて、松浦くんは小さく震えた声で話し出した。
「恥ずかしい……。どうして俺が……」
 “恥ずかしい”って……。恥ずかしいのはあたしの方だよ。
 松浦くんの“銃マニア”なんて、どうってことないよ。
 似合ってるんだし……。


「くそっ! どうして俺がこんなやつを“好き”だなんて言わなくちゃ いけないんだ……」


 月を抱いていた厚い雲が解かれて部屋の中が少しづつ明るくなりだした。
 もうすでにこんな事をしたって手遅れ状態なんだって分かっているけれども、あたしは松浦くんの頬に付けた手を引いて離し、緩んだ腕に力を入れて再び丸くなった。
 目の前にある拳銃が月の光を受けてキラキラと光っている。
 なんせ、あの松浦くん……だもん。あたしのひがみが少し入っちゃうけれど、彼はいくら届かないところにあるものでも、狙ったものは諦めないで、陰で精いっぱい努力をして今まで何でも手に入れてきたのだろう。そんな彼の一番欲しかったものが、努力の“ど”の字もしないで、のほほんと暮らしているあたしなんかのものになるのが許せないんだ。
 もう、何も言わなくても分かる。悔しさが彼の瞳に表れている。
 あたしはおそるおそる拳銃を手に取って松浦くんに渡した。


「そんなに欲しいんなら……あげるよ……」


 あたしには全く価値の分からないこんな銃のために、ここまで執念深く……あたしを裸にして脅してまで渡したくない、という彼の根性に負けた。……っていうか、少し引いた。
 このまま彼が『それなら頂く。じゃあな』と帰ってくれれば一件落着だ。そうしてくれる事を願いながら、あたしは心の中で“帰れコール”をくり返し唱えていた。
 しかし————彼は、あたしの手をはたいて拳銃を落とした。あんなにも欲しがっていたはずなのに。
 ゴトッ。
 床に落ちた拳銃の重みのある音と共に、松浦くんはあたしの上にまたがり、ひざをついた。
 突然のわけの分からない彼の行動に驚き過ぎて言葉が出ない。
 シングルベッドがミシミシとあたしの代わりに悲鳴をあげている。


「それなら頂く。————本当にいいんだな……」


 あたしの耳に手を添えて囁いた後、言葉を返さないあたしに痺れをきかせたのか、『はやく答えろ……』と言う様に耳を噛んだ。
 “返さない”のではない。“返せない”のだ。
 松浦くんが欲しいのは拳銃ではない。
 あたしは自分の勘違いに今頃になってやっと気付いた。


 松浦くんの欲しかったものは————

裸の一本勝負 ( No.88 )
日時: 2013/01/05 08:24
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

 あたしの隣で何年も威厳を保ちながら堂々と立ちそびえていた大樹が、突然根元から折れて————倒れた。


「武藤……」
 今夜あたしに覆いかぶさってきたものは、毎晩ふんわりと優しく夢の世界へといざなってくれるパッチワークの羽毛布団ではなかった。
 “松浦くん”という名の、ずっしりと重たいお布団に押し潰されてあたしは動けない。
 痛い。
 絶対こんなのは好きな女の子に対する扱いなんかではない。
 一体この人はどういうつもりなんだろう————


 『ずっと欲しかった』
 だなんて、今頃になって言わないでよ……。


 嘘なのか。本当なのか。
 隣の家で暮らすお母さん同士がお友達……という運命で、こんなにも長い間近くで過ごしてきて、彼に“愛されていた”と感じた覚えはない。勉強もスポーツもできる優等生で、みんなから慕われている彼なのかもしれないけれど、あたしは会う度いつも陰でこの人にいじめられてコテンパンにされていたのだから。 でも、彼と同じ塾に通うようになってから……あんなに酷い人だと思っていたのに、いきなり勉強を教えてくれようとしたり、チカンに追いかけられた時、抱きしめて慰めてくれたり……ただでさえ何を考えているのか分からない人なのに、あんな事されると余計に分からなくなっちゃうよ————


『勉強はできない。可愛くもない。————そんなおまえを好きになるには、相当の努力が必要だよな! ……ハハ』


 『おまえの事は嫌いだ』
 そう言われたばかりなのに、少し優しくされただけでコロッと気持ちを傾けてしまうあたしは何てバカなんだ……。単純で……本当バカ……。
 あたしの事を必要だって……欲しいのだって思ってくれているのは高樹くんだけしかいないのに————


「たすけて高樹くん……」
 心の声が漏れて思わず口からこぼしてしまったあたしの声を聞いた松浦くんは、舌打ちをして自分の足であたしの両足を力の加減無しに思いっきり挟んだ。
 もしかして……これは高樹くんと“同じ反応”なのだろうか。信じられないけれど、やっぱり松浦くんがさっき言っていた事は……。


「細っせ。メシ、ちゃんと食ってんのか?」
「く、食ってます……」
 しまった! 油断した。気が付くと、松浦くんに脇腹を撫でられていた。
 以前、塾のバスの中でいきなり彼に手を握られた時と同じ気持ち。 
 彼の手が怖い……。
 この手が次にどこに動いていくのか。さっきの様に頭を撫でてくれるのならいいのだけれど……。
 いくら学校や塾で女の子にモテている松浦くんだとはいえ、相手が小学生並みの体つきのあたしだとはいえども、ベッドの上で裸の姿の女の子を目の前にした男の子はどうなっちゃうんだろう……。
 その後、松浦くんの手は————“上”にきた。 あたしの頭の上に。
(よかった……)
 優しく撫でる彼の大きな手が震えている様に感じた。


「ねぇ……どうして?
          あたしの事、嫌いなんじゃ……なかったの?」


 ベランダの窓の向こうから覗いていた月が厚い雲に覆われ、再び真っ暗になったあたしの部屋。
 あたしの質問になかなか答えを返さない松浦くん。 せめて彼が今、どんな顔をしているのか知りたかったのに黒い闇がそれまでも一緒に隠してしまった。
「俺が初めておまえにキスした事……覚えてるよな? よく考えてみろ、唇と唇がブチュッと重なるんだぜ。好きでもなんでもねぇやつに、できねーだろ、普通。……俺がオンナに飢えた変態ヤローじゃあるめーし」
(そ、そっか。そうだな……)
 確かに釜斗々中のガリバーに『やれ』って言われても、死んでもやりたくない。
「俺はそれなりの“意思表示”はしてきたつもりだ。どうして分かんねーんだ、この鈍感!」
 意思表示……。そっか、“アレ”が意思表示……。
 高樹くんの大胆な意思表示に隠れて見えなかった……松浦くんの“不器用”な意思表示……。
 頭の中で今までの松浦くんとの記憶をさかのぼっている間に、彼は撫でていたあたしの頭から手を離し、あごに添えた。


「どうせ愛されないのなら、いっそ嫌いになってやろうと、嫌われちまおうと……努力したんだ。
 小せぇ頃から隣でずっとおまえを見てきて、マジ見ててバカで、呆れるくらい要領が悪くて、危なっかしくて……関わりたくないのに、どうしても放っておけないんだ。
 努力が報われない事もあるんだな。人の心だけはどうしても変えられない。愛しい人を嫌いになるなんて……無茶だよな……」
 松浦くんのミントの香りの荒い息がだんだんと近付いてくる。


「……なぁ、“もう一回”してもいいか? ————今度は“きちんと”するから……」

裸の一本勝負 ( No.89 )
日時: 2013/01/05 18:10
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

 今度はきちんと、する……。
 松浦くんが今、あたしにしようとしている事は多分————
 あたしのくちびるにフワッと一瞬だけ彼のくちびるが触れて離れた。
 暗い部屋の中で彼が今、どんな表情(かお)をしているのか見えない。
 彼も同じ……あたしが見えていない。まるで、あたしの気持ちを確認しているかの様なキスだった。
「武藤……?」
『どうしたらいいんだよ』
 あたしもどうすればいいのか分からない。
 数時間前に高樹くんに抱かれて、彼の愛に応えたばかりなのに————


「ごめんなさい……」


 そう応えるしかなかった。
 曖昧な想いで小さな声でしか応える事ができなかったあたしの返事を何も言わずに受け取った松浦くん。
 あごに添えられていた手も離された。
 今のあたしの一言で長年の想いに踏ん切りをつけたのだろうか。あたしの身体から彼が離れていく時に感じた。これからもう二度と彼に抱き締められる事も、キスをされる事もない。
 きっと今まであたしだけにしか見せていない、この……信じられない程に優しくて素直な松浦くんを見られるのも夜空を走り抜ける流星の様に今夜だけで見おさめなんだ。
 普段通りのあたしと松浦くんの関係に戻るだけ。もう相手にされない。これでせいせいするはずなのに————
 正直言うと迷っている。本当にこう応えて良かったのだろうか……と。
 分からない。今、わたしが好きなのは“どっち”なのだろうか。
 選べない。
 選びたくない。
 ベッドがミシッと音を立ててきしんだかと思ったら、松浦くんがベッドから降りていた。
 ベランダの窓から月が顔を出し、優しい光が彼の背中を照らした。


「こっちこそ、ごめんな。
 せっかく隣同士で住んでンだから、もっと仲良くすれば良かったな……」


(あ、れ……?)
 心臓がドキドキと音を立てて刻み出し、鼻が急に詰まって————
(や、やだっ……。どうして?)
 あたしの目から大粒の涙がボロボロとこぼれ出す。
 瞼に力を入れて目をつむって止めようとしても止められない。
 嬉しいのか悲しいのか何なのか分からない感情が溢れ出して止まらない。
 ずっと嘘だと思っていたお母さんの“あの話”は本当……だったのかな?
 鼻をすすって聞いてみた。


「お母さんがね、へんなこと言うんだよ……」
「ん? ああ、おまえの母さん面白ぇもんな。まぁ、おまえほどじゃあねぇけど。……で? なんだ?」
「うん……。聞いたのは最近で、すごく昔の頃のあたし達の話なんだけど、松浦くんがあたしの家に遊びに来る度、いつもね……いつも欠かさずお花を摘んできたんだって……


 ボサッ!
 なにか大きな物があたしの上に被さってきた。
 “松浦くん”ではない。軽くて、ふんわりとした……今度は本物の掛け布団だった。
「おまえ、寝相悪すぎだな!」
 さっきあれだけ必死になってベッドの上を探したのに見つける事ができなかったこの掛け布団は、どうやら床の上に落ちていたらしい。松浦くんはそれを拾って投げ付けてきたのだ。それにしても、さっきも思ったけれど、好きな女の子に対してこの扱いだなんて……。こんな不器用過ぎる意思表示は超能力者とかじゃないと絶対分からない様な気がする。
 でも、布団のおかげでなんとかやっと裸の姿を隠す事ができて良かった。ついでに服を取ってもらおうとお願いしようとしたら、
「ホラよ。さっさと着ろ」
 ぐじゃぐじゃの塊に丸めたパジャマと下着が布団の中にギュッと押し込まれてきた。
(超能力持ってるのかな……松浦くん)
 そう思いながら、もぞもぞと布団の中で着替え中に交わした会話は————


「……見た?」
「は?」
「あたしの裸……どのくらい、見た?」
「プッ! 昔、俺等しょっちゅう一緒に風呂入ってただろ? んー。そーだなー、あン時からあんまり……いや、全く発育してねぇような可愛い裸だった。……そのくらい見たな」
「…………」
「んん? どうしたのかな? “なみちゃん”?」
「松浦くんのバカぁ……。あたしもうお嫁にいけない……」
「今まで生きてきた中で俺に向かって“バカ”って言ってきたやつは、よく考えてみりゃおまえだけだったな。……よりにもよってなんで“おまえ”なんだろうな。不思議だよなあ、こりゃ笑えるわ、ハハ」
 松浦くんこそ、いくら顔だけは良くたってそんな性格じゃ一生結婚なんてムリだよ……。
 ブツブツ言いながらあたしはパジャマのボタンを留めた。


「……いいか? 電気点けるぞ。おまえが今、どんな顔してるか思いっきし見てやる」
 電気を点けてあたしを見た松浦くんは、顔を真っ赤にして————大笑いしだした。
「ぶっはははは……!! まぬけだ、こいつ!」
 あたしはパジャマのボタンを掛け違えていた。……しかも2つも。
 どおりでボタンの数がやけに少ないな……と思ってはいたけれど。
 人差し指をあたしに向けて指し、あの松浦くんが涙を流し、お腹を押さえて笑っている。
 “まぬけ”だと言われているのに怒れない。
(松浦くんって、こんなに笑うんだ……)
 今までずっと探し続けていたものをやっと手に入れる事ができたみたいに嬉しくて……わたしは掛け違えたボタンを直しながら、「えへへ……」と彼と一緒に笑った。


『もっと仲良くすれば良かったな……』
 ただ、ずっと掛け違えたままになっていただけ。
 直せばいいんだ————


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