複雑・ファジー小説
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- たか☆たか★パニック(松浦鷹史くん・武藤なみこちゃんCV)
- 日時: 2013/04/11 17:11
- 名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。
☆あらすじ★
冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!
視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
読者の方を飽きさせない自信はあります。
楽しんで頂けると嬉しいです。
☆ドキドキ塾日記(目次)★
>>1 宣伝文(秋原かざや様・作)
>>2 はじめに『情けなさすぎる主人公』
>>3 イメージソング
塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
>>6-7 『いざ!出陣!』
>>8 『夢にオチそう』
塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
>>9-10 『忍び寄る疫病神』
>>11-12 『もの好き男の宣戦布告!?』
塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>14-15 『初めての恋、そして初めての……』
>>16-17 『王子様の暴走』
>>18-19 『狙われちゃったくちびる』
>>20-21 『なんてったって……バージン』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>22-23 『キライ同士』
>>24 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
>>25-26 『一線越えのエスケープ』
>>28 『美し過ぎるライバル』
塾3日目(主人公・高樹純平くん)
>>29 『女泣かせの色男』
>>30-31 『恋に障害はつきもの!?』
>>32-34 『歪んだ正義』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>35-37 『ピンチ! IN THE BUS』
>>41 『日曜日のあたしは誰のもの?』
>>42-44 キャラクター紹介
>>45-47 >>48 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
>>49 >>50 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
>>102 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>51 『祝・ドキドキ初デート』
>>52 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
>>53 『少女漫画風ロマンチック』
>>54-55 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
>>56 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
>>59 >>61-65 >>68-69 たか☆たか★“裏ストーリー”第1章(主人公・松浦鷹史くん)
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>70 『残され者の足掻き(あがき)』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>74-78 『王子様のお宅訪問レポート』
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>79-80 『拳銃(胸)に込めたままの弾(想い)』
>>81 『本当はずっと……』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>82-83 『闇の中の侍』
>>84-85 『こんな娘でごめんなさい』
>>86 『バスタオルで守り抜け!!』
>>87-89 『裸の一本勝負』
>>90-91 『繋がった真実』
>>92-96 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
>>97 宣伝文(日向様・作)
>>98 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
>>99 たか☆たか★“裏ストーリー”(主人公・高樹純平くん)
日曜日(主人公・高樹純平くん)
>>106 『もう誰にも渡さない』
>>114 たか☆たか★(松浦鷹史くんCV・トレモロ様)
>>115 たか☆たか★(武藤なみこちゃんCV・月読愛様)
- 塾になんかに行きたくない! ( No.5 )
- 日時: 2012/12/17 14:00
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
いつもなら夕ご飯の時間になるまでベッドの上でゴロゴロとくつろいでいられた身分だったのに、
「初日がカンジンよ!」
と、あたしの部屋にノックもしないでズカズカと入ってきたお母さんに、読んでいた途中の漫画を強引に本棚の中に片付けられ、ベッドから引きずり下ろされた。
まだ心の準備が整っていない、ってダダをこねても、やっぱり通用しなかった。
「へりくつばっかり言ってんじゃないの!」
バスが来る10分も前なのに、こんな寒空の下の玄関の外に追い出され、ドアを閉められた。
「……へりくつだって。だっせ」
あげくの果てに、あたしの家の前の道路でサッカーボールを蹴って遊んでいる近所の小学生の男の子に思いっ切りバカにされた。
(恥ずかしい。もうやだ……)
余計に塾に行く気が失せたあたしは、歯ぎしりをしながら足元に転がっていた小石を力を込めて踏ん付けた。
6:30になり、バス(……って言っていいのかワゴン?)が来た。バスが来たと同時に松浦くんも相変わらず無愛想な顔で家から出てきた。一応これから(しばらく?)お世話になる身なのだし、何か一言、挨拶みたいな事を言っておいた方がいいのかと思って、『今日から、よろしくね』と言おうとしたら、後ろから彼に背中を押され、「さっさと乗れ」と急かされた。
モタモタしてるとまた松浦くんに何か言われそう。
パッと乗り込んでバスの中を軽く見渡してみた。どうやら10人くらい乗れる程の小さなバス。あたしと松浦くん以外の生徒はまだ乗っていない。多分これから塾に向かうまでに何人か乗せていくのかもしれない。
そういえばさっきお母さんが『塾までは遠い』だとか何とか言っていた。到着するまで一体何分くらいかかるのか分からないけれど、遠い塾までバスの中で松浦くんだけを相手に過ごすのはとても気まずい。とにかく1人だけ、男の子でも女の子でも誰でもいいから生徒を乗せていって欲しい、と願いながら運転手さんに頭を下げた。
「お、おねがいします……」
運転手さんはあたしの顔を見て優しい笑顔でニッコリと微笑んでくれた。
(しょうがない。頑張る、しかないもんね……)
とりあえず今日第一にわたしに優しく接してくれた、この運転手さんの真後ろの席に座った。
ひんやりとした、まるであたしの今の心境と同じような座席の硬いシートがお尻と一緒に背中を包み込む。
(それにしても松浦くん……どうして頭いいのに塾になんかに通ってるんだろう)
あたしの後からバスに乗り込んできた松浦くんをチラッと見た。
「!」
(えッ!! なんで!?)
何故か彼は他にもいっぱい席が空いているのに、わざわざあたしの隣にドカッと座ってきた。
実はさっきモロに下着姿を見られているからめちゃくちゃ気まずかったりする。
まるで時代劇に登場する悪代官の様に隣のシートの背もたれにのけ反り返って長い足を組んでいる松浦くん。何も言葉を発してこないところが余計に気まずい。
(あ、あっちに座ればいいのに……)
彼から逸らした視線をガラガラに空いている周りの席を指すように見渡している時、ハッと気付いた。
(いやがらせか————!)
次第にムカついてきた。
バスが動き出した。
バスのスピードが上がると共に、あたしの鼓動のスピードも上がっていく。
(何か話した方がいいのかなぁ)
しかし、こんな人に何を話したらいいのか分からないし、タイミングも掴めない。
すると隣に座っている松浦くんは、あたしの目も見ずに自分の前髪を指先で触りながらボソボソと話し出した。
「ああ、言っとくけどこの塾、原黒中(あたしと松浦くんの通ってる学校)俺とおまえしかいないから。ちなみに、このバスに乗る生徒も2人だけだ」
そう言って、やっとあたしの方を見たかと思ったら、
「————ってゆーか、おまえ友達いねぇから関係ねーよなァ、ハハ!」
と、小バカにした目をして笑い出した。
「——っ!」
本当の事だから言い返す事ができなくて、あたしはくちびるを噛んで我慢した。
悔しいけれど、こんな事はよくある事。彼に会う度毎日の様に言われている事だけど、よりにもよって初日からこんな目に遭うとは……。ただでさえ塾に通う事になっただけで憂鬱なのに————
あたしはムシャクシャしながら運転手のびみょうにハゲた後頭部を見ていた。
- いざ!出陣! ( No.6 )
- 日時: 2012/12/17 14:35
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
☆ ★ ☆
「はい、着きました。では松浦くん、武藤さんの事お願いしますね」
「……分かりました」
そう返した松浦くんの顔には明らかに『めんどくせぇなぁ……』と書いてあった。
30分もかけて、やっと到着した塾。
“真剣ゼミナール”と縦書きに書かれた小さな緑色の看板が塾の入り口の横にひっそりと立て掛けてあるコンクリート打ちっ放しの質素な3階建てのビルが窓の向こうに見える。
中は一体どうなっているのだろう。早く入ってみたい様な……いやいや! どっちかと言えば入りたくない、っていうのが本音だけど。
“必勝”とか書いてあるハチマキ……絶対したくない。
「あっ、ありがとうござい、ました」
あたしは運転手さんに深く頭を下げてバスを降りた。
松浦くんは彼に軽く会釈をして降りてから、あたしをジロッと睨み、舌打ちをした。
(松浦くんが塾になんか通ってなかったら、こんな目に遭わなくて済んだかもしれなかったのに……)
————舌打ちしたいのはこっちの方だ。
「————ふぅ」
疲れた……。
塾の中に入る前から松浦くんのせいで、かなりの精神的ダメージを負った。
お母さんの言っていた通り、長い……とても長く感じた道のりだった。
ただし、これだけは……“松浦くんが一緒だから安心”は大間違いだ。だって、想像を超える程、心地が悪かったから。
(ここまで遠くに来ちゃったら、全く学区違うなぁ)
塾の入り口の脇にある自転車置き場が騒がしい。
どうやらここに通うあたしと松浦くん以外の生徒達の殆どは自転車で来ている様だ。自転車で通う人が多過ぎて、自転車置き場の中に収まらなかった自転車は駐車場のスペースを利用して停めている。バス1台……あとは先生達の車が3、4台しかないわりにはとても広い駐車場。そして狭過ぎる自転車置き場。
(へんなの……)
思わず塾の3階辺りをふっと見上げた時、気が付いた。
(え? パブ? ……ヤード? な、なんだコレ?)
目を凝らして見てみると、壁に一部か二部か消えかけたピンク色で書かれた文字が残っている。それこそ塾にはとても似合わない、赤いハイヒールとキスマークのデザインが添えられて。どうやらこの塾は、塾になる前にオトナの通う怪しげなお店? だった様だ。これで駐車場がやけに広い意味がやっと分かった。でも————
(やっぱり、へんなの……)
あたしは余計にそう思った。
バカにして笑っただけで、この塾に通う事が今日初めてのあたしの案内をしてくれる気配りなんて、これっぽっちもない松浦くん。案の定、彼はサッサと1人で歩いて塾の中に入って行ってしまった。
(こんな人と毎回バスで行き帰り合計1時間も一緒だなんて……)
あたしは、これまで腹の底に溜まり続けた彼へのいかりを絞り出す様にため息をついた。
自動ドアをおそるおそる抜け、あたしは塾の中に入った。
しかし入ったはいいものの、自分の教室がどこなのか分からない。
自動ドアから続々と塾の生徒が入ってきて、あたしを通り過ぎていく。みんな学校が違うから、という事もあって、なかなか思い切って声を掛けることができない。
(えっと、誰か……女の子で親切そうで、1人の人————)
目だけをキョロキョロとさせながら通り過ぎていく人たちの中から選んでいた。まるでクローゼットの中から自分に合った地味な服を1着ずつ手に取って探しているかの様に。
「ねぇ、君」
たぶん男の子の声だ! 突然、後ろから声を掛けられビックリしたあたしは、反射的に振り返りもしないで逃げてしまった。お願い! 男の子だけは勘弁して欲し————
……だなんて文句なんて言ってる場合なんかじゃない。自分のクラスの教室の場所を聞けるチャンスを結局あっさりと逃してしまったあたし。
しかし幸運な事に、廊下を走って逃げた所に偶然にも職員室らしき部屋をを見付ける事ができた。ドアに付いている小窓にそっと顔を近付け、その部屋の中を覗いてみると、スーツを着た先生っぽい人が何人か見えた。
これでやっと職員室に辿り着けた……とはいえ、いくら職員室だって入るのはもちろん緊張するけれども、こんな所でずっと1人で立ち止まっていたって何も始まらない。うかうかしてる間に講習が始まる時間がきてしまう。あたしは思い切ってドアを開け中に入り、たまたま近くにいたスーツを着ているから多分先生だろう人に背後から尋ねた。
「あのっ! 今日からこの塾に入った2年生の武藤なみこっ、でっす!
えっと、その……あたし……教室が分かりません、くて……」
あたしのヘンな日本語に振り向き、
「おおっ。君が武藤さんかね。真剣ゼミナールへようこそ。
おほほ。初めてだから緊張しておられるのかもしれませんが、そんなに堅くならなくても大丈夫ですよ。肩の力を抜いてください。
2年生?……でしたね。2年生……はい。話は聞いております。今日からでしたね」
異様に“2年生”を強調していた先生。身長138センチ・体重36キロしかないあたしの体型はどう見たって小学生だからかな。
加えて教養のない話し方。外見どころか内面までも小学生。ヘタしたら低学年児童並み……。
口に手を当て笑いを堪えながら対応する先生。そして恥ずかしさを堪えるあたし。いけない……ちゃんと聞いておかないと……。
「しつれいしました……」
ホント失礼極まりない態度だ。これじゃあ第一印象最悪だよ。
ため息をつきながらドアを閉めたあたしは先生に教えてもらった通りに廊下を渡り、階段を昇った。
あたしたち2年生クラスと1年生クラスの教室は2階になっていて、AクラスとBクラスの2クラスに分かれている。
あたしはBクラスになった。
聞いたところによると松浦くんはAクラスらしい。彼と違うクラスになれた事は幸いといえば幸いなのだが、知らない人達ばっかりの中にいきなり飛び込むのには、かなりの勇気が要る。
教室のドアを開けると、学校の教室よりも少し狭く感じるくらいの部屋の中に20人くらいの人達がいた。多分学校が同じ子同士なのだろう。何グループかに分かれた仲良しグループの塊が、机の周りや壁にもたれて楽しそうにおしゃべりをしている。中には静かに1人で本を読んでいる子もいるけれど、バッチリと“わたしに話し掛けないでくださいオーラ”を出している。
手の平に指でなぞった“人”という字を何回も口に入れながらドアの前で立ち止まっていたら、さっきあたし達が乗ってきたバスを運転していた、びみょうにハゲの先生が入ってきた。
彼があたしの肩にそっと手を置き、
「始めるぞー」
講習がいきなり始まり出した。
あたしは慌ててぐるりと教室の中を見回して、たまたま目に入った空いていた席に着いた。
講習が始まると、さっきまで賑やかだったはずの教室の中がまるで空気が変わったように静かになった。
居眠りなんかしたら絶対バレるなぁ……。
なんて、みんな真剣な顔をして先生の話を聞いている中、あたしは一人でくだらない事を考えていた。
「はい、テキスト58ページ開いてくださーい」
講習の大切な時間をムダな時間をとって費やさないためなのか、新入生の紹介はなく授業が進まれていく。
面倒臭い事をしなくて良かったはずなのに、あたしはドキドキしていた。
何故かというと————
- いざ!出陣! ( No.7 )
- 日時: 2012/12/17 15:12
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
(隣の席の子、どんな人だろう?)
適当に空いていた所に座ったはいいけれど、気になってしまう。
実は塾第1日目早々いきなりやってしまったのだ。
人と関わるのが……特に男の子が苦手だというあたしのくせに、よりにもよって男の子の隣に座っちゃってしまうという大失態を。
せめて女の子の隣だったのなら仲良くなれる確率が少しは高かったかもしれなかったたのに。
「はぁ」
学校だけじゃなくて、塾でも“1人ぼっち”決定、かぁ。結局はこうなる運命に導かれるワケなんだ。ホント情けない。何やってんだろ、あたし……。
壁に掛けてある時計を見るフリをして隣に座っている男の子をチラリと見た。
すると偶然なのか、彼の方も左手でペンを回しながらあたしの方を見ていた。
それが羨ましいほどのサラサラヘア。鼻の周りに“そばかす”を付けた優しそうな、かっこいい……というよりも可愛い顔をした男の子だった。
服装も淡いグレー色の大人っぽいシャツの胸のポケットにМADE IN 外国? っぽいバッジを付けてオシャレにキメている。
彼の顔を見た瞬間、あたしはまるで金縛りに掛かってしまった様に固まってしまった。
今まで、これっぽっちも男の子と関わった事の無い……というか関われないあたしだけど、一応は学校で様々な男の子を見ている。けれど男の子を見て、いきなりこんな気持ちになったのは初めてだった。
(あっ、あたしは勉強をしにきた!)
気を取り戻して自分に言い聞かせ、机の上に置いてあったテキストを慌てて開いた。
なんだろう。この気持ち————
足のつま先から熱いものがカーッと昇ってくる。
「61ページ」
小さな声で呟いた隣の席の男の子は横からスッと手を伸ばしてきて、あたしのテキストをめくった。
もう彼の指を見ただけでドキドキしてしまう。
乱れた気持ちをコントロールしなくっちゃ、と意識をすればするほど余計におかしくなる。
(あたしは、勉強しにきた!!)
再び自分に言い聞かせた。
☆ ★ ☆
それからおそらく15分くらいは経っているはずなのに、目が合った時からずっと隣の席からあたしの体の色んなトコロを撫でてくる様な視線を感じる。
黒板の横で少ない髪の毛を何度もかき上げながら懸命に数学の公式やら何やらを説明している先生。先生の話を集中して聞きたいのに、隣に座っている彼からあたしに向かって一直線にふり注ぐ強力な紫外線の様な視線のせいで、全く聞き取る事ができない。
————もう集中できない。
気になってしょうがない。
あたしは右手に持ったシャープペンを、開いたテキストの間に置き、呼吸を整えた。
そして勇気を出して、もう一度隣の席を見た。
「 !! 」
コレは集中なんかできないはずだ!
隣の席の“そばかすくん”は、さっきよりも更にこっちに身を乗り出し頬杖をつきながらあたしの顔を見つめている。
頭の中でせっせと積み上げ続けてきた公式やら何やらが大きな音を立ててバラバラに崩れ散った。
もう、どうしたらいいのか分からない。
「エへへ……」
顔まで崩し、戸惑いながらあたしは笑った。
あんな風に見つめられたらもう……笑って逃げるしかない。
すると彼は目を細めて優しく微笑み、軽くウインクをしてきた。
☆ ★ ☆
————はっきりいって勉強どころじゃなかった。
結局、始まりから終わりまで、ただでさえ男の子に対して免疫というモノをこれっぽっちも持っていないあたしが、初めて会った隣の席の男の子にずっと見つめられっぱなし……という息の詰まるような講習がやっと終わった。
キーンコーン。
「はい、今日はここまで!」
終了のベルと共に、静かだった教室がざわめきだした。
(ああ、やっと終わった……)
学校の違う人たちに囲まれ、男の子に見つめられ……とんでもないカルチャーショックを味わった。とにかくこの場から早く消え去ってしまおうと、あたしは机の上に置いてある文房具とテキストを手提げカバンの中にかき込んで立ち上がった。
「……あっ! ねえ!」
そばかすくんは、あたしがうっかりカバンにしまい忘れた、小学校の時からずっとあたしの筆箱の中に住んでいるゲロゲロげろっぴというカエルのキャラクターの付いた消しゴムを手に取り、呼び止めた。
あたしの顔は今、絶対に赤くなっているに違いない。こんな顔を彼に見られたくない。
勘弁してよ……。今日はもうこの人とは関わりたくないのに————
消しゴムなんて別に要らないって……と思いながらも、
「どうも……」
彼の手に触れない様に、目を合わさない様に、それを親指と人さし指の先でつまんで受け取った。
その瞬間、彼はあたしの手首をギュッと握ってきた。そのせいで消しゴムは床に落ち、どこかにコロコロと転がっていってしまった。
(なッ! 何するのッ!)
思っただけで言葉にできず、あたしは彼の手を振り払った。
強く突き放した態度にも全く動じず、余裕に「ふっ」と小さく笑った彼は、あたしの全身をゆっくり見て言った。
「可愛いね」
- 夢にオチそう ( No.8 )
- 日時: 2012/12/19 16:45
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
☆ ★ ☆
「高樹ー、ゲーセン寄ってこーぜー」
見た感じはあたしと同学年。学校が違うからよく分からないけれど、おそらくAクラスの2人の男の子が教室の入り口のドアから顔を出して大きな声で呼んでいる。
彼らの呼ぶ声にそばかすくんが反応した。苗字を呼び捨てにしている彼らは、きっと彼と仲のいい友達なのだろう。
(へぇ。“たかぎ”っていう名前なんだ、この人……)
さっき、たかぎに握られた手に視線を落とした。
こんなあたしなんかの顔を見て『可愛い』だなんて言った人————
(温ったかい手、してたな……)
「ちょっと待ってて」
たかぎは床に転がっている消しゴムを拾い、あたしの着ているジャンパーのポケットにいきなり手を入れてきた。
(ひゃっ!)
心臓が悲鳴をあげた。
「高樹純平。よろしく」
ファッションセンスのないあたしがこんな事を言うのもなんだけど、着ている紳士的な服とはなんだかミスマッチな感じの、そう……戦地にいざ突入しようとする兵士が持つ様なワイルドな深緑色をした迷彩柄のリュックを肩に掛け、笑顔を見せて教室を出て行く彼。そんな彼に消しゴムを拾ってくれたお礼を言おうと呼び止めようと思ったけれど————
(……なんだっけ?)
————名前が出てこない。たった今フルネームを教えてもらったばっかりなのに。
あたしをまっすぐ熱い眼差しで見てくる彼の顔だけしかどうしても思い出せなくて、ポケットの中の消しゴムをそっと握り締めた。
☆ ★ ☆
消しゴムを筆箱に入れずに、さっきからずっとポケットの中で握り締めたまま帰りのバスに揺られているあたし。
今頃になってやっと、あの彼の名前を思い出した。……苗字だけだけど。
隣のシートに座っているのは松浦くんのはずなのに、行きのバスの張りつめた緊張感は不思議と無い。バスのエンジン音だけが聞こえる静かな空間の中で窓の外に見えるお月さまを眺めながら、あたしはずっと“たかぎ”の事を考えていた。
あたし達の乗るバスの運転手、兼・数学担当の講師の“蒲池先生”がラジオをつける。
ノイズ音に負けていない勢いでリスナーに語りかけてくるDJのお兄さん。
彼の高いテンションが、あたしのテンションを少しだけ上げてくれる————
『全国の恋に奥手な少女達よ! 夢見てばかりじゃ何も始まらないのさ!
さあ! 僕の手を掴んで! 夢なんてよりも、もっとロマンチックな世界に連れて行ってあげる!』
僕の手を掴んで……か。
実際にそんな事言われてないけれど、たかぎの瞳が何度もあたしにそう語りかけてきていた様な感じだった。
☆ ★ ☆
「なみこちゃん……すきだよ……」
空一面、茜色に染まる夕暮れ時。周りには誰も居ないムードあふれる静かな公園のベンチに座る初々しいカップル。1人はあたし。そして、もう1人、『すきだよ……』と、あたしに告げた相手の男の子はもちろん————そう。
あたしはたかぎに愛の告白をされた。
「キス……しようか」
それは、まるで少女マンガのワンシーンの様なシチュエーション。
彼独特の、高いけれど少しかすれた声で、あたしの頬に優しく指を添えてきた。
(あたしも、すき……)
たかぎの気持ちを全部受け止める思いで、ゆっくり目を閉じた。
————ビシッ!
突然、おでこの真ん中に激痛が走った。
(何! 何なのッッ!?)
目を開けると、さっきまであたしの前にいたはずのたかぎの姿が、いつの間にか松浦くんになっている。
「いい気になってんじゃねーよ、ブスが」
松浦くんはあたしを上から見下ろし、手の指をポキポキと鳴らしながら、
「もっとブスにしてやろうか」
白い歯を光らせて笑いながら思いっ切り力を込めてデコピンをしてきた。しかも、しつこく何回も。
「痛い! ダメっ! そんなコトしないで! 松浦くんッ!」
「おいっ! 起きろ、武藤ッ!」
足を蹴られてあたしは目を覚ました。
夕方ではなく、夜。公園のベンチではなく塾のバスの座席。————残念ながら、やっぱりあたしの隣に座っているのは高樹くんではなくて……松浦くんだった。
目をこすって窓から外を見ると、バスはすでに家の前で止まっている。
どうやら、あたしはバスの中でいつの間にか居眠りをしてしまっていた様だ。
でも、どうしてだろう。夢だったはずなのに、おでこがヒリヒリ痛むのは————
自分のおでこを手でさすりながら、隣に座っている松浦くんを見上げた。
「おまえ……」
松浦くんが呼吸を乱して、あたしに何か言いたそうな顔をしている。どうしたんだろう。そんなに引きつらせた顔をして……。
「……何だっけ?」
全く覚えてない。あたしはよだれを拭き、頭をモシャモシャと掻きながらバスを降りて、よろよろと家に戻った。
☆ ★ ☆
「うわっ!」
玄関のドアを開けると、仁王立ちでお母さんがあたしを迎えて待ち構えていた。
「どうだった? 楽しかった?」
(勉強が楽しいわけないじゃん……)
精神的にとても疲れていたあたしは、今はもう誰とも何も話したくない気持ちだった。「どうだった? ねえ!」と、しつこく聞いてくるお母さんをうまくかわし、ふくれっ面で台所に入った。
(このお母さんのせいであたしは……)
自分の学力の無さを棚に上げて、冷蔵庫から出したガラスポットに入った麦茶をコップにたっぷりと注いでガバッと飲んだ。————しかしスッキリしたのは、ほんの一瞬だけ。
そこに、まだ懲りずにしつこくあたしの後をつけて台所に入ってきたお母さんの、とどめの一撃!!
「鷹史くんが一緒だから心強いでしょ? 高い受講料払ってんだから頑張んのよ!!」
- 忍び寄る疫病神 ( No.9 )
- 日時: 2012/12/19 16:56
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
《ここからしばらく松浦鷹史くんが主人公になります》
「ねぇ、鷹史。この前話したお隣のお嬢さんのなみちゃんが、あなたの行ってる塾に入るって話だけど……。それがね、今さっき聞いて————今日からなんですって」
「んー」(なんだ、そんな事か)
俺はリビングのソファーに座ってパソコンのキーボードを打ちながら答えた。
キッチンとリビングを心配そうにうろうろと歩いていた母さんが、ため息をつきながら俺の隣に座ってきた。
そしてテーブルの上に置かれた湯のみに入った熱い緑茶を少しずつすすっては何度も俺の顔をチラチラと見ながら、さらにわざとらしく俺に聞こえる様に大きな声で“ひとりごと(?)”を呟いた。
「なみちゃん……初めてで、きっと心細いでしょうね。おとなしい子だから、いじめられたりしないかしら?
————心配だわ……」
「んー」(知るか)
悪いけど、その“件”に関してはあまり……いや! 絶対に関わりたくはない。俺は聞いていないフリをしてキーボードを打ち続けた。
「鷹史、あなた同じ学校なんだから、なみちゃんの事優しく守ってあげてね」
「…………」
俺はキーボードを打つ手を止めた。
「ねえったら、ちょっと! 聞いてるの? 鷹史っ!」
(うるっせーな……)
こっちの気も知らないで、知ろうともしないで力を込めてドンッ! と音をたてて湯のみをテーブルに置いた母さんに向けて、『空気読め』と心の中で返し、睨んだ。
「……母さん。この前話してた石川きよしのコンサートチケット2枚……結構いい席取れたよ。ほら」
「えっ? あらホント。武藤さんに連絡しなくっちゃ。きっと喜ぶわぁ。……ありがとね、鷹史」
コロッと機嫌を戻した母さんは嬉しそうに携帯電話を手に持ち、おそらく“あいつ”の母さんと話をしている。
(優しく守ってあげろ? ————あいつを?)
隣で電話をしている母さんの声のボリュームが段々と大きくなる。
ゲンキンなババアだぜ、全く……。
俺は楽しそうに話し込んでいる彼女の顔を見て鼻で笑い、リビングを出た。
(俺がいっぱい、いじめてやるよ……)
☆ ★ ☆
2階に上がり、自分の部屋のベランダの窓の外を見ながら俺はデカいため息をついた。
母さん同士で仲良くするのは勝手にしてもらって構わないが、俺まで巻きこむのはいいかげんやめてほしい。
もしかしたら、この調子で勝手に親の都合で将来ムリヤリあいつとケッコンなんてさせられるハメになるんじゃないか?
(ハッ! 冗談じゃねぇ!)
————それだけは死んでもゴメンだ。
目の前に武藤の部屋がよく見える。
相変わらず勉強机の上には、1日であんな量読めるか、というくらいの数の漫画本がどっさりと積み上げられている。ウッドチェストの上に、女らしく花の植木鉢なんかを飾っているつもりだろうが、元が何の花なのか、どんな色の花だったのか、分からないくらい無惨にドライフラワー化している。————見れば見るほど思わず“バカ代表”の称号を与えたくなるようなツッコミどころ満載の部屋だ。
たった今、学校から帰ってきたばかりなのだろう。
ドアを開けて部屋に入ってきたセーラー服姿の彼女。こいつは普段からあちこちに恥をさらけ出し過ぎて、羞恥心というものを失くしてしまったに違いない。隣の家に同級生の男が住んでいるって分かっていながら、見られているとも気付かずに、いきなり服を次々と脱ぎ出し、堂々と着がえ出した。
(カーテンくらいしろよ……)
案の上、胸も尻もクビレもない幼児体型をしていやがる。
それにあの上下薄ピンク色の下着はよっぽどお気に入りの様でか、それともただ単にタンスを開けて一番上にあったものを取るだけなのか、2日に1回の割合で着けている様な気がする。女はこの年頃になると下着にもこだわる位オシャレに目覚めるものだと思っていたのだが。
……うおっと。今度は下着姿で背伸びをしていやがる。
(みっともねぇ体……)
こんな女を好きになるやつなんて絶対いない、と俺は思った。
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