複雑・ファジー小説

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たか☆たか★パニック(松浦鷹史くん・武藤なみこちゃんCV)
日時: 2013/04/11 17:11
名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 ※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
 この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
 12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。


 ☆あらすじ★
 冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。 
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!


 視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
 読者の方を飽きさせない自信はあります。
 楽しんで頂けると嬉しいです。


 ☆ドキドキ塾日記(目次)★
  >>1 宣伝文(秋原かざや様・作)
  >>2 はじめに『情けなさすぎる主人公』
  >>3 イメージソング
 塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
  >>6-7 『いざ!出陣!』
  >>8 『夢にオチそう』
 塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
  >>9-10 『忍び寄る疫病神』
  >>11-12 『もの好き男の宣戦布告!?』
 塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>14-15 『初めての恋、そして初めての……』
  >>16-17 『王子様の暴走』
  >>18-19 『狙われちゃったくちびる』
  >>20-21 『なんてったって……バージン』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>22-23 『キライ同士』
  >>24 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
  >>25-26 『一線越えのエスケープ』
  >>28 『美し過ぎるライバル』
 塾3日目(主人公・高樹純平くん)
  >>29 『女泣かせの色男』
  >>30-31 『恋に障害はつきもの!?』
  >>32-34 『歪んだ正義』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>35-37 『ピンチ! IN THE BUS』
  >>41 『日曜日のあたしは誰のもの?』
  >>42-44 キャラクター紹介
  >>45-47 >>48 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
  >>49 >>50 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
  >>102 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>51 『祝・ドキドキ初デート』
  >>52 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
  >>53 『少女漫画風ロマンチック』
  >>54-55 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
  >>56 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
  >>59 >>61-65 >>68-69 たか☆たか★“裏ストーリー”第1章(主人公・松浦鷹史くん)
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>70 『残され者の足掻き(あがき)』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>74-78 『王子様のお宅訪問レポート』
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>79-80 『拳銃(胸)に込めたままの弾(想い)』
  >>81 『本当はずっと……』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>82-83 『闇の中の侍』
  >>84-85 『こんな娘でごめんなさい』
  >>86 『バスタオルで守り抜け!!』
  >>87-89 『裸の一本勝負』
  >>90-91 『繋がった真実』
  >>92-96 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
  >>97 宣伝文(日向様・作)
  >>98 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
  >>99 たか☆たか★“裏ストーリー”(主人公・高樹純平くん)
 日曜日(主人公・高樹純平くん)
  >>106 『もう誰にも渡さない』
  >>114 たか☆たか★(松浦鷹史くんCV・トレモロ様)
  >>115 たか☆たか★(武藤なみこちゃんCV・月読愛様)

王子様のお宅訪問レポート ( No.75 )
日時: 2012/12/24 09:11
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

『あんたバカねぇ。
 男の部屋に入る、って行為はどーゆー意味だか分かってないでしょ!』


 コレは昨夜寝る前にテレビで見たバラエティー番組“DAI・TAN・DX(ダイ・タン・デラックス)”。
 大きな体でブラウン管をガッツリ占領していたのは最近巷で人気急上昇中のぽっちゃりオカマコメンテーター“ユカコ・デラックス”。彼(女?)は相変わらず独自の強烈な毒舌トークで新人アイドルの女の子に突っ掛かっていた。
『別にー? 何にもなかったよー』
『フーン。ホントかしらァ、信じらんないワねぇ……とかなんとか言って本当は何かアッたんじゃないのーぉ?』
『まァ、アンタも一応アイドルだし? テレビだからコレ以上追求しないでおくけど?』


『まったく! ゴキブリじゃあるまいし、女の子がカンタンに男の部屋にホイホイと入るモンじゃないわよ!
 ____(ピー)スるまで帰らせてもらえないわよ!!』


 彼(女)お約束の放送禁止ワードが飛び出して、スタジオ中は大爆笑の嵐。
 ツッコまれたアイドルも可愛らしい顔を崩し、両手を叩いて大はしゃぎしていた。


 現実、あたしは今、男の子の部屋に彼と二人っきりで……しかもベッドの上にいる。
 大はしゃぎどころではない。今、あたしの心臓が体の中で大騒ぎしている。 
 よりにもよってアノ話を今、思い出しちゃうなんて————ユカコのバカ……。


 あたしの肩に置いた手を離しスッと立ち上がった高樹くんは、スクリーンの方に歩み、プレーヤーにDVDをセットしてリモコンを手に取った。
 軽快なポップミュージックとともに“処女の誘惑”のオープニング映像がスクリーンに映し出された。どうやらそれはアメリカの学校を舞台にしたスクール・ラブ・コメディー。チアガールの格好をした金髪のポニーテール・ヘアの女の子が、アメフトのユニフォームを着たマッチョな体格をした男の子に一途に恋をする、という内容のストーリーの様だ。タイトルからイメージした過激な内容ではない印象を受け、あたしの気が少しだけ安らいだ。
(やだなぁ、もうっ。
 あたしってば自意識過剰なんだから……。高樹くんがいきなりそんなコトしてくるワケ……)


 シャッ。
 あたしの安らいだ心が一瞬で暗くなった。
 高樹くんは部屋のカーテンを……全部、閉めた。
 ベッドのヘッドボードに置かれたアロマキャンドルの炎が照らすほんの僅かの明かりが妖しい雰囲気をかもし出している。
「……寒くない?」
 ベッドの上に座っているあたしの隣に腰を掛けた高樹くんが優しくあたしの手を握る。
「は、はいっ! うん! 大丈夫! ……ですッ」
 あたしの精神力はもうすでに限界に達しているかもしれない。ただでさえ高樹くんの部屋に二人っきりでいるだけでも緊張なのに————
 彼のかすれた甘い声があたしの全身に響いて……もうどうしたらいいのか分かんない。


「ねぇ……、
        ……どうしてほしい?」


 左手に持ったリモコンを操作しながら高樹くんが問い掛けてくる。
 薄暗い部屋の中。
 高樹くんと二人でベッドの上で。
 手を握られながら————どどど、どうしてほしい!?


「字幕モードにするか……日本語吹き替えモードにするのか……」
(え! ああ、そっちか……)


 ビックリモードになっていたあたしの心が落ち着いた。
 さっきの様にあたしはバカみたいに一人で勝手な妄想に突っ走っていた。
 何も答えなかったのに、英語の苦手なあたしに気を利かせてくれたのだろうか高樹くんは、日本語吹き替えモードに設定をしてくれた。
 せっかく彼にこんなにも気遣ってもらっているのに、あたしの頭の中は今、DVDのストーリーなんて入る余裕がないくらいに高樹くんとのこれからのストーリーの事で満員御礼になっている。


「……デザートが欲しいな」
 隣で高樹くんが呟いた。
「おなかいっぱいでもデザートなら食べられるよね?」
「う、うん……」
 小さな返事をして頷くと、彼はあたしの頭をフワッと撫でて立ち上がり、「待っててね」と言い、部屋を出ていった。
(デザートって何かな? アイスクリームかな? ん……それともケーキ?)
 あたしは頭の中に様々なスイーツを思い浮かばせた。


 ————高樹くんにとっての甘いデザートが“自分”であることにまだ全く気付きもしないで。

王子様のお宅訪問レポート ( No.76 )
日時: 2012/12/24 10:01
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

     ☆     ★     ☆


「はー……っ」
 死ぬかと思った。
 密室の中、ベッドの上で高樹くんにあんなコトをされて。
 今日の今まで妄想ですらしたこともなかった状況に耐える事に限界で、もう、いっぱいいっぱいだった。
 力の抜けたあたしは腰を掛けているベッドにコロン、と寝そべって、両手を胸に当てて呼吸を整えた。


(へぇ……。コレが男の子のお部屋、なんだぁ)
 寝そべった格好のままで片方のほっぺたを布団につけて、あたしは改めて部屋の中をゆっくりと見回した。
 漫画の単行本が無造作に積み上げられているあたしの机の上とは違って、彼の机は置いてあるのはコンパクトなノートパソコンとデスクライトだけでスッキリと片付けられている。
 部屋に入ってきて高樹くんがジャケットをクローゼットの中にしまった時の事を思い出した。一瞬だけしか見えなかったけれど、そこもジャケットやズボンが綺麗に仕分けされ、ハンガーに掛けられていた。 
 そして土足で上がるのが申し分けないくらいに磨かれたフローリング。投げたけど命中しなくて、紙くずがゴミ箱の周りに散乱しているあたしの部屋のフローリングとは大違い……っていうか、あたしはホントに女の子なのだろうか。
 もしも今度あたしが彼を部屋に招く事になった時がくるとしたら、とても恥ずかしくって見せられない————


「 !! 」
(なッ! なに考えてんの、あたし!!
 “今度、彼をあたしの部屋に招く”だなんて!!)


 またもや勝手に大胆な妄想が暴走してしまった。
(やっ、やだなあ、もうっ! ……キャーッ!!)
 一人で勝手に恥ずかしくなったあたしは、目の前にある枕を手に取った。それをギュッと腕の中に抱き締めて、ベッドの上で足を投げ出しゴロゴロとのたうち回っていた。


「ん?」
 枕があった辺りに何か……小さなモノを見つけた。 それは縦5センチ×横5センチほどの薄っ平い銀色の袋だった。
 あたしはおそるおそる指先を使ってそれを手に取り、ゆっくりと顔を近付けた。
 ……何かが中に、入って、る?
「なんだ、これ? お菓子、かな?」
 袋の表面の欠けたお月さまのデザインの横に英語で何やら書いてある。

「んっ、と……“エ……エックス、タシー? ……何”??」(なんだ、コレ……)


 あたしの頭の中で“?”が細胞分裂を起こし出した。
 今だかつてこんなお菓子は食した事がない。しかも“MADE IN 外国”っぽいネーミングだし、セレブな高樹くんが枕の下に隠しているくらいのモノだから、きっとあたしの様な一般庶民には手の届かないシロモノに違いない。
(さすが高樹くん……)
 甘党なあたしはこのお菓子(?)がどんな味がするモノなのかとても気になるところだったけれど、つばを飲んで我慢した。そして、その……“エックスタシーなんとか”を元にあった位置に戻し、枕をそっと上に被せた。
(高樹くんに聞くのは、なんかちょっと恥ずかしいな。
                  お母さんなら知ってるかな……。
                         帰ったら聞いてみようかな……)


     ☆     ★     ☆


「……何を聞いてみるの?」
(えっ!?)


 ハッと気が付くと、あたしのすぐ目の前に高樹くんの顔があった。彼もあたしの隣で片肘をついて微笑みながら寝そべっている。
「 !! 」 
(ちょっ……! ちょっとまって!! どッ、どーゆーコトになっ、てん、のッッ!?)
「あーあ。もうちょっと見ていたかったのになー。なみこちゃんの、寝・が・おっ」
 これは夢なのか現実なのか……。状況を把握できないでパニックになっている頭の中を慌てて整頓させた。
 ……どうやら“こーゆーコト”になっていたらしい。
 あたしはベッドの上に横になり、高樹くんが部屋に戻ってきた事にも気付かないくらいに堂々と————熟睡をしていた。(寝言まで言いながら)
「ひいッ!! ごっ、ごめんなさいぃっ!!」
(ホント何してんの!? あたし!!)
 よだれを手で拭って慌てて飛び起きたと同時に、あたしの体の上から(たぶんあたしが寝ている間に高樹くんが掛けてくれていたのであろう)掛け布団がズルッと滑り落ちた。
 恥ずかしすぎて高樹くんの顔が見れない。
 あたしは掛け布団を頭から被って顔を隠し、もう一度小さな声で「ごめんなさい」と、謝った。


「ふふっ、大丈夫っ。“まだ”何にもしてないって。
 ……だって、寝こんでる女の子のくちびるを奪うなんて反則、でしょ? ほらっ、出ておいで」

王子様のお宅訪問レポート ( No.77 )
日時: 2012/12/24 12:30
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

「おいしいうちに食べて。ねっ」
 (おいしい……?)
 布団の上から高樹くんに頭を優しくポンッ、と叩かれたあたしは、デザートにつられて顔を出した。
 ベッドの脇の、艶のある木とタイルで造られたオシャレな小さなテーブルの上のデザートにあたしの目が釘付けになった。
「すっごぉい……。コレ、全部高樹くんが切ったの?」
 バラの花の形をしたガラスの器の中いっぱいに並べられたメロン以外は食べた事も見た事もない見事に飾り切りのほどこされたフルーツの盛り合わせ。そして、フルーツの器とお揃いのガラス製の小さなペア・ティーカップに注がれた紅茶。それらを乗せている金色のお盆……じゃなくってトレイ(?)の上には、さっき、高樹くんの家に上がる前に通った玄関のアーチに咲き乱れていた深紅の花の花弁が華麗に散りばめられている。
「ぱ、パティシェ、ですかー!!」
 思わず心の中で叫んでしまった。
 さすがテクニッシャンの高樹くん。前に一緒にビリヤードをした時と同じ様にあたしのハートは再び彼にさらわれてしまった。
 花弁の形をした小さな取り皿にフルーツを取った高樹くんは、驚きのあまり全開になっているあたしの口の中にフォークで刺した一かけのフルーツを放り込んだ。
 突然だったから、あたしの中に入ってきたものは何だったのか分からなかったけれど、甘くて、酸っぱくって……じわじわと溶けていった。
 なんだかグルメ・リポーターのコメントみたいになってしまったけれど、それは初めて高樹くんに出逢った時のあたしの気持ちに似ていた。
 今になっても思い出せば顔が赤くなっちゃうくらいの甘い甘い彼との思い出を、もう一度味わいながら飲みこんだ。


「高樹くん。あのね……」
 高樹くんは手に持っていたお皿をテーブルの上に戻してまっすぐあたしの顔を見ている。
「あたし……、あたし、ね……」
 そう言いかけた途端、すでに忘れかけていた“処女の誘惑”がスクリーンの中で厄介なコトになっていた。


『キスして……リック……』
『ジェーン……』
 さすが(?)アメリカ発、恋愛・ロマンス系映画(ムービー)。一体どんな流れでこんな所に居るのかは分からないけれど、今、2人の居る場所は真夜中の廃ビルの工事現場の片隅。この映画の主人公のチアガールの女の子“ジェーン”は、何故か上下セクシーなスケスケの黒いレースの下着姿になっている。そして、アメフト君“リック”の膝の上に向かい合ってまたいで座り、大胆にもキスを要求していた。
 さわやかで健康的なチアガールの衣装を一体何時脱ぎ捨てたのか。モジモジして話すらできなかった彼女だったはずなのに。オープニング映像の時とは打って変わってエッチになってしまった彼女はリックと目のやり場に困る様なキスを交わした。


 どうしよう……。
 困る……。非常に、困る。
 チアガール……(しかし、もうその面影は無し)のジェーンに、あたしがさっき高樹くんに言おうとした言葉をぶっ飛ばされてしまった。
 今、ベッドの上に腰を掛けている高樹くんとあたしの前で、まだ懲りずにスクリーンの中で堂々とすごい音をたててキスを交わし合うジェーン&リック。スクリーンから目を離しても彼らの生々しい会話と(キスの)音が聞こえてくる。
 ここで耳を塞いだら余計に不自然だし————
 高樹くん……。今、どんな気持ち、なんだろう。
 とりあえず、この気まずい雰囲気をどうにかしなくっちゃ!!
 あたしは膝に乗せた両手をギュッと握り締めて高樹くんを見た。


「がっ、外国流のキス、ってなんかスゴいよねぇ。えっへへへ……」


 とりあえず笑って全力でごまかしてみた。
『あはは。ホント、すごいよねぇ』————こんな風にいつもの笑顔を見せて返してくれることを願って。
 ……けれど、甘かった。


「日本人も……するよ……」
 照れて抵抗する余裕もなく、あたしのくちびるは高樹くんに吸い込まれていった。
 以前、“やりまくりべや”でされた触れただけのキスとは違う、まるでジェーンとリックに対抗している様なくらいの……激しいキスだった。
(そうだよね……。だって“約束”だったんだもん……)
 あたしは震える両手を高樹くんの背中にそっと回した。


「なみこちゃん、可愛い……っ」
 高樹くんは声を震わせながら、あたしを抱き締める腕に力を入れた。


『可愛い……。可愛いよ、なみこ……』


 今、一緒にいるのは高樹くんなのに……まるでフラッシュバック現象の様にあたしの頭の中に松浦くんの顔が浮かんだ。
 そして思い出した。以前、夜の駐車場に停めてあった塾のバスの中でガリバーに迫られた時に“演技”で彼にキスをされた事を。
(……やだっ! どうしてこんな時にあんなコト思い出しちゃうワケ!?)
 あたしは目を閉じて高樹くんを抱き締めた。
 あの記憶だけはどうしても消したかったのに、あたしの頭の中の隅っこに今だにしつこくこびり付いている。
 荒々しい息使いであたしの耳元で囁いた松浦くん。
 彼のイメージからは想像できない、あの甘い言葉……。生温かったミントの香りの吐息————


『ふふっ……。いいぜ、その顔……』
(ほら、もっと思い出してみろよ……)


 まるであたしにそう言っているかの様にあの時と同じ薄笑いを浮かべた顔で松浦くんがあたしににじり寄ってくる————


「いっ……! いやあ——ッッ!! こっち来ないで松浦くんっっ!!」


「……松、浦?」
 無意識であたしはとんでもない言葉を叫んでしまった。
 気が付くと、あたしの前で顔をこわばらせて固まっている高樹くんがいる。
 最低だ……あたし。
 さっき高樹くんと一緒に行ったお好み焼き屋さんの時に続いて、一度ならず二度までもデート中に松浦くんの名前をうっかり口に出してしまうだなんて!!
 本当は薄々気付いていたんだ。何となく“高樹くんが松浦くんを嫌っている”んだって……。理由が何なのかは分からないけれど、正義感の強い彼の事だから、きっとあたしを陰でコソコソと苛めている松浦くんが気に入らないのだろう。


「ごめんね。高樹くん……」
 申し分けない気持ちでいっぱいで高樹くんの顔が見れないあたしは、彼の胸に顔をうずめて小さな声で謝った。
「あはは。やめてよ、なみこちゃん。そんな風に謝られちゃうと、なんか惨めだ、僕……」
 あたしの両肩に置いた彼の手がもの凄く震えていた。
 そして、あたしの顔を覗き込んで無理矢理作った様なぎこちない笑顔を見せる高樹くん————
「……参ったな。まさかこんなところまでジャマしにくるとはね……あいつ」
 高樹くんはベッドから身を乗り出して手を伸ばし、テーブルの上のフルーツを1かけフォークで刺して再びあたしの口の中に入れた。
(“あいつ”って、やっぱり松浦くんの事なのかな……)
 高樹くんと甘いキスを交わした後だからなのかもしれない。あたしの口の中のフルーツは、さっき食べたものよりも甘くない感じがした。
「高樹くんは食べないの? ……おいしいのに」
 もごもごと口を動かしながら、あたしは彼に尋ねた。


「じゃあ……たべて、いい?」


「 !! 」 (たっ! 高樹、くん!?)
 高樹くんは、いきなりあたしの前で————着ている自分のシャツを脱ぎ出した。
 ……ごっくん。
 口の中のフルーツを飲み込んであたしは考えた。
 あ、暑いから脱いだのかな? それともあたし、これから高樹くんに————
(どどど、どうしよう!! ト……トイレ行くフリして、いったん部屋を出たほうが、いいのかな……)
 ……と思った瞬間、あたしの両腕は上半身裸の姿になった彼に掴まれ、そのままベッドの上に押し倒された。


 ————もう逃げられない。


 思えばさっきもそうだった。
 あたしが松浦くんの話をすると、高樹くんがおかしくなる。
 もしかしたら高樹くんは“あたしが松浦くんの事を好き”だって思っているのかもしれない。
 ちがうよ! ……違うの。だって、あたしが好きなのは……。
「ちょっ、ちょっと高樹くん、待って! 靴がっ————」
 両腕をシーツに押し付けて、あたしの上に覆い被さってまたがっている高樹くんは耳元にキスをしてから囁いた。


「大丈夫だよ。僕が脱がしてあげる。————全部」

王子様のお宅訪問レポート ( No.78 )
日時: 2012/12/24 13:27
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

 ————どうしたらいいのか分かんない。
 当たり前だ。だって、ここから先は今まで妄想でもした事のない未知の世界なのだから。
 こんな事になるなんて思っていなくて全く色気の微塵もない下着を着けてきてしまった。
(ま、いっか……。どうせすぐに外されちゃうんだから……)
 いくら着るもので飾って頑張ったとしても、どうしたって中身は“あたし”なんだもん。高樹くんみたいなパーフェクトな男の子に、こんなあたしの全てををさらけ出すのは恥ずかしい……っていうよりも失礼にあたるって言ったほうがいいのかもしれないけれど、『僕にまかせて』と言う彼にあたしは身をまかせた。


「好きだよ……なみこちゃん……」
 呼吸を乱しながら、あたしの身体の至るところにキスをして彼は何度も名前を呼んだ。
 彼の愛を受け止める事で精いっぱいで、あたしは口では何も返すことができなくて————心の中で答えた。


「あたしも好きです……」
 ……と。


 ヒトの体は、全身の40パーセント以上の深い火傷を負うと死に至るらしい。
 高樹くんに触れられる所が火傷を負ったかのようにあつくなる。もうあたしの身体は100パーセントに近い火傷を負っている。全身にがんじがらめに繋がれた爆竹の束が導火線を走る炎に点火されて次々と爆発を起こし、体全体を駆け巡る様な激しい火傷を。
 あたしの中に高樹くんの深い愛情が注がれる。溢れてこぼれるくらいに————
 今度は冗談じゃなくて、本当に死んじゃいそうだよ……。


『愛してるよ。ジェーン……』
『これからも、ずっと一緒よ、リック……』
 スクリーンの中で、いつの間にやら純白のタキシードとウェディングドレスを着飾ったジェーン&リックが教会の壇上の前で大勢の人たちに祝福されながらキスを交わしている。
 2人共とても幸せそうな顔をしている。DVDなんて観る余裕なんてなかったけれど、気が付かないうちに彼らは勝手にハッピー・エンドになっていた。
 あたしもこのまま高樹くんとハッピー・エンドになるのかな?
 高樹くんの腕に包まれながら、あたしは“処女の誘惑”のエンディング・ロールを眺めていた。
 それにしても人肌がこんなに温ったかくて気持ちがいいものだったなんて……思わなかった な……。
(ひっ!! ひ、人肌ぁッ——!!)
 あたしはビックリして跳ね起きた。
 何も身に着けていない産まれたままの姿になっている……あたし。
 ふっとそばに全然お菓子なんかじゃなかった“エックスタシーなんとか”の封の切られた袋を発見してしまい、心の中で『うっひゃー!』と叫びながら素早くグジャッと丸めてゴミ箱に向けて投げ捨てた。そしてベッドの上に散らばっている、さっき高樹くんに脱がされたパンティーとタンクトップを慌てて着て、「ふー……っ」と大きく一息ついた。
 あたしの隣で横になり、静かに寝息をたてている高樹くん。
 下半身には掛け布団が掛けられているけれど……きっと彼も産まれたままの姿だ。
(風邪、ひいちゃうよ……)
 あたしは高樹くんに布団を掛け直すついでに、彼の顔を見つめた。
 気持ち良さそうに眠っている。
 今まであたしの油断した寝顔を見られてしまった事は何度かあったのだけれど、彼の寝顔を見るのは初めてだった。
 きっと彼も、今のあたしと同じ気持ちでこうやって眺めていたのかな————
 汗をいっぱいかいていて、今はペタン、となっているけれど、いつもはサラサラの彼の髪。
 男の子なのに、女の子の様な長いまつ毛。
 そしてセクシーな唇。
 こんなに可愛らしい寝顔をしているのに、あんなキスをしたり……。
(……やだッ! またさっきのアレを思い出しちゃいそうッ!)
 高樹くんに布団を掛けてから、エアコンの暖房の温度を上げに行こうとあたしはベッドを降りようとした。
「 !! 」
 そのとき、あたしの手首が寝ていたはずの高樹くんに掴まれた。


「なに? もう終わっちゃった、の?」


 下着を着けたあたしの姿を見て彼は言った。
(うそ!! この後、まっ、まだ続くのぉッ!?)
 高樹くんが“テクニッシャン”だっていう事は充分に分かっている。でもッ! あたしは……。あたしはッ!!
「ごッ、ごめんっ、高樹くんっ! あああ、あたし、もう……むりみたい、ですッ!」
 熱くなった顔を枕にうずめて本音を叫んだ。
「ぶっ! あはははは……」
 高樹くんが大爆笑をしている。
「何、言ってんだよ。DVDのコトだって、なみこちゃん。
 うーん。確かに正直いうともう少し“探検”したかったんだけど……無理なんじゃあ仕方ないよねっ」
 枕から顔を出し、ほっぺたを膨らませているあたしをまっすぐ見て彼は言った。


「愛してるよ」

拳銃(胸)に込めたままの弾(想い) ( No.79 )
日時: 2012/12/24 16:21
名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)

 ○want to 〜 =〜したい(と思っている)
 ○like to 〜 =〜するのが好きです
 ○start to 〜 ・ begin to 〜 =〜し始める


《しばらく松浦鷹史くんが主人公になります》


 ————実は俺は、“あいつ”と生まれる前から隣同士で過ごしてきた。
 これは前に母さんから聞いた話なのだが、15年前に大きなお腹を抱えて母さんは父さんとこの土地に家を建て、遠くの小さな村から引っ越してきた。
 家の設計は、これから生まれてくる俺に元気に伸び伸びと育ってもらえる様に、と思いを込めて、父さんが寝る間も惜しんで考えたものらしい。
 今思えば、伸び伸びと育つはずの肝心の俺の部屋の位置&ベランダの向きが、“伸び伸び”なんてできないコトになっているのだが、あの頃の父さんの気持ちを踏みにじる事はしたくなくて俺はずっと部屋の事に関しては何も言わずに過ごしてきた。
 田舎から嫁ぎ、実家から遥か遠く離れたこの街に引っ越してきた母さん。今の母さんを見るととても考えられないが、当時は引っ込み思案だったという母さんは、近所の人達と上手く馴染めるのだろうか、そして初めての出産、という悩みを抱えていた事もあり、嬉しさよりも不安を抱いていた。


「あらっ、奥さんも“もうすぐ”なんですね、出産」


 引っ越してきてから母さんに一番初めに声を掛けてきたのはあいつ……武藤の母さんだった。
 当時、武藤の母さんも、俺の母さんと同じ位の大きさのお腹をしていた。彼女ももうすぐ初めての出産、ということで、彼女たちはお互いの話をしていくうちにすぐに打ちとけ、仲良くなっていった。しかも出産予定日は偶然にも同じ日であったらしい。
 気さくな武藤の母さんに影響されて、母さんの性格にだんだんと灯がともり、心配していた近所付き合いの悩みはスッと消え、俺も無事に産まれた。 
 ちなみに俺と武藤の誕生日はほんの1日違い、ということで、小さな頃は毎年、武藤の家か俺の家で“合同誕生会”をして、家族ぐるみで温かく祝ってもらっていた。
 武藤の母さんが焼くチーズケーキがとても美味しかった。
 そういえばあの頃はあのチーズケーキが目当てで俺はしょっちゅう彼女の家に遊びに行っていた。言っておくが、断じて“あいつ目当て”なんかではない。 
 “ケーキ食べたさ”で、俺は彼女の家に行く度に近くの公園で一輪の花を摘んでから会いに行った。決して“武藤の喜ぶ顔が見たい”からではない。よその家に手ぶらでじゃまするのが気が引けるからだ。 
 それにしても、あんな女でも一応、女は女。やっぱり花が好きな様で、俺から花を受け取る時の彼女の顔が今でも忘れられない。恥ずかしそうに頬を染めて、『ありがとう』だなんて言いやがる。……ホント笑えるくらい単純な奴だった。なにも武藤のために摘んできたわけではない。……ケーキのためなのに。


 いつからだろうか。 
 義理でしばらくの間、武藤と仲良くしていたのだが、俺が彼女を遠ざけ、はねのける様になったのは————
 そう……確か“あの時”からだった。


 ————あれは俺たちがまだ幼稚園に通っていた頃。
 幼稚園のバスから降りてすぐ公園に花を摘みに行き、相変わらず俺は毎日の様に武藤の家を訪れていた。
 彼女の家のリビングで彼女の母さんが焼いたチーズケーキをよばれながら、俺たちは2人で仲良く寄り添って座り、テーブルの上に置いた白い紙に夢中で絵を描いて遊んでいた。
 俺の隣で武藤が楽しそうに結婚式のファンファーレのメロディーを口ずさみながら、白いウェディングドレスを着た女の子と、同じ色のタキシードを着た男の子の絵を描いている。ウェディングドレス姿の女の子はおそらく“武藤”だろう。顔は多少美化されてはいるが、髪型や目の特徴が表れている。 
 しかしタキシード姿の男の子は、髪型も、顔も、体型も……どう見たって“俺”ではなかった。


「なみちゃん……。ぼく、こんなに太ってないよ……」


 そう指摘された武藤は何食わぬ顔をして、こう答えたのだ。
「だって……この子、鷹史くんじゃないもん。……太くんだもん」
(ふと、し……?)


 ウェディングドレス姿の彼女の隣にいたのは生まれる前からずっと一緒にいた俺ではなく、他の男だった。
(う、うそだよ、ね? なみちゃん……)
 わざと俺の気を引こうとして巧妙な手を使いやがったのか。……でもわずか6歳。加えて単純ときている彼女がこんな手の込んだ事をするわけがないだろう。
 俺は彼女が描いた絵を、黒のクレヨンでぐじゃぐじゃに塗り潰した。 取り乱してがむしゃらになって塗り潰している間、さらに俺の肘がテーブルの上に置いてあったオレンジジュースの入っていたグラスに当たり、コトン、と倒してしまった。
 絵はジュースまみれになった。
「鷹史くん!! 大丈夫!?」
 武藤の母さんが驚いた顔をして俺達のそばにタオルを持って走ってきた。


 “大丈夫”なんかじゃ……ない。


「脱いで乾かしたほうが、いいかしら」
 そう言いながらジュースのかかった俺のズボンを拭いている武藤の母さんの手からタオルを取り、俺はテーブルと床を拭いた。
「ごめんなさい。おばさん……」(なみちゃんの目の前でズボン脱げるワケないじゃん……)
「う、うんっ。大丈夫です! ちょっとしか汚れてないから……」
 俺のズボンを脱がそうとする武藤の母さんに必死で抵抗しながら思う。
 きっと、おばさんはぼくたちのこと、兄妹かなんかだと思ってるのかな……。
 ちがうのに……。なみちゃんは、ぼくの……およめさんになるはずだったのに————
 ズボンはさほど汚れていなかったけれど、あの時から俺の心は徐々に汚れていった。暗黒のクレヨンで。
 武藤に“は”謝らなかった。……絶対に謝りたくなかった。
 テーブルの上のベタベタになった黒い絵を悲しい顔で見つめている武藤を見下ろして、俺が彼女に投げ付けた言葉は確か————


「フン! よりにもよって太だなんて!! 
 あんなデブで、ブサイクで、足遅くって……乱暴なやつのドコがいいんだよ!! 
 あんなのがイイだなんて、なみちゃんって、やっぱりおかしいよね!!」


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