複雑・ファジー小説
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- たか☆たか★パニック(松浦鷹史くん・武藤なみこちゃんCV)
- 日時: 2013/04/11 17:11
- 名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。
☆あらすじ★
冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!
視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
読者の方を飽きさせない自信はあります。
楽しんで頂けると嬉しいです。
☆ドキドキ塾日記(目次)★
>>1 宣伝文(秋原かざや様・作)
>>2 はじめに『情けなさすぎる主人公』
>>3 イメージソング
塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
>>6-7 『いざ!出陣!』
>>8 『夢にオチそう』
塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
>>9-10 『忍び寄る疫病神』
>>11-12 『もの好き男の宣戦布告!?』
塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>14-15 『初めての恋、そして初めての……』
>>16-17 『王子様の暴走』
>>18-19 『狙われちゃったくちびる』
>>20-21 『なんてったって……バージン』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>22-23 『キライ同士』
>>24 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
>>25-26 『一線越えのエスケープ』
>>28 『美し過ぎるライバル』
塾3日目(主人公・高樹純平くん)
>>29 『女泣かせの色男』
>>30-31 『恋に障害はつきもの!?』
>>32-34 『歪んだ正義』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>35-37 『ピンチ! IN THE BUS』
>>41 『日曜日のあたしは誰のもの?』
>>42-44 キャラクター紹介
>>45-47 >>48 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
>>49 >>50 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
>>102 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>51 『祝・ドキドキ初デート』
>>52 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
>>53 『少女漫画風ロマンチック』
>>54-55 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
>>56 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
>>59 >>61-65 >>68-69 たか☆たか★“裏ストーリー”第1章(主人公・松浦鷹史くん)
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>70 『残され者の足掻き(あがき)』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>74-78 『王子様のお宅訪問レポート』
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>79-80 『拳銃(胸)に込めたままの弾(想い)』
>>81 『本当はずっと……』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>82-83 『闇の中の侍』
>>84-85 『こんな娘でごめんなさい』
>>86 『バスタオルで守り抜け!!』
>>87-89 『裸の一本勝負』
>>90-91 『繋がった真実』
>>92-96 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
>>97 宣伝文(日向様・作)
>>98 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
>>99 たか☆たか★“裏ストーリー”(主人公・高樹純平くん)
日曜日(主人公・高樹純平くん)
>>106 『もう誰にも渡さない』
>>114 たか☆たか★(松浦鷹史くんCV・トレモロ様)
>>115 たか☆たか★(武藤なみこちゃんCV・月読愛様)
- 一線越えのエスケープ ( No.25 )
- 日時: 2012/10/29 16:14
- 名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
……パタン。
ドアが閉まる瞬間の小さな音と共に、あたしの心臓が大きく『ドキン』と鳴った。
「僕の気持ち……今、教えてあげたい。
なみこちゃんの事をどのくらい好きなのか————」
電気も点けずに真っ暗な部屋の中。
高樹くんはあたしの肩に片方の手を乗せ、もう片方の手で髪を優しく撫でながら耳元で囁いた。
“どのくらい”好きなのか……だなんて、わざわざ教えてくれなくても、耳の穴からストレートに入り込んでくる激しい彼の吐息の量から、もうすでに感じ取っている。
初めてこの部屋に足を踏み入れた時は、ここが何の部屋なのか分からなかった。
でも今は知っている。————さっき松浦くんに教えてもらったから。
この部屋は、この塾に通うカップル達が二人っきりになって————
(“どのくらい”って……どうやって教えてくれるんだろう……)
言葉で……? ————それとも行動で?
暗闇に閉ざされて、彼の声だけしか聞き取る事ができない。確か前にも彼に頭を撫でられた事があったけれど、今は顔が良く見えないからなのだろうか。それに“この部屋で2人っきりの状態”でされているからだろう、その時とは比べものにならないくらいドキドキする。
髪を撫でる高樹くんの手の指が、時々あたしの首すじに軽く触れる。触れられる度にあたしの体の力が少しづつ抜けていく。
そのまま彼は髪を撫でていた手をスーッと滑らせて、今度は腕を撫でてきた。
「ここ……さっき痛そうだったけど、大丈夫?」
(大丈夫じゃ……ない、よ……)
あたしの足がブルブルと震え出す。
「どうしたの、足……。
————なんか震えちゃってるよ……」
高樹くんは少し腰を落として、腕を撫でていた手を太ももにあてた。
あたしは今日、ショートパンツをはいてきたので、彼の手の平の体温をじかに感じる。同時に彼の気持ちも充分過ぎるほどに伝わってくる————
「高……樹くん……」
あたしは、もう立っている事ができなくなってしまい、高樹くんにしがみ付いてしまった。
「なみこちゃん……」
力が抜けきって、しがみついているあたしを支えながら、高樹くんはすぐ後ろにあるドアの横にあるスイッチを押し、電気を点けた。
「————あっちで“しよう”か……」
高樹くんのさす指の先にはティッシュのゴミがいっぱい散らかったビリヤードの台があった。
どうやらワインレッドの照明が高樹くんを狂わせてしまった様だ。
(待って……)
あたしは、しがみ付く腕に思いっ切り力を入れた。————これでも精いっぱいの抵抗のつもりだった。
講習はまだ始まったばかり……。あたし達二人が教室に居ない事に、先生は気付いているのだろうか……。
今、大好きな高樹くんと一緒にいるのに、できる事ならば、この部屋から逃げ出してしまいたい。でも……嫌われたくない。
震えるあたしの顔を覗き込んで彼は囁いた。
「やっぱり、初めてなんだね……。
————大丈夫だよ。ちゃんとおしえてあげるから……」
☆ ★ ☆
「ん、しょっ……と。
あはっ、すっげー。なみこちゃん、軽すぎ」
あたしをお姫様抱っこして、やっと高樹くんがいつも通りの笑顔を見せた。
(お……おちつけ、あたし……)
あたしは今、自分と一緒に高樹くんの気持ちを落ち着かせる事、ただ、それだけを考えている。まるで時限爆弾を処理する警察機動隊の様な気分だ。
「ちょっと待ってて。ここ、キレイにしないと……“できない”から……」
彼はあたしをビリヤードの台に座らせた。そして足元にゴロゴロと転がっている中身が空っぽの封の開いた小さな段ボール箱を1箱手に取り、台の上に散らかっているティッシュのゴミを片付け始めた。
(逃げるなら……絶対、今、だよね……)
そう思ってはいるのだけれど、こんな時になってもいっこうに震えが止まらないあたしの足。
彼の気持ちを受け入れてあげたいけれども、体が言う事を利いてくれない。
————第一ないでしょう。こんな大胆な告白パターン……。
高樹くんは手際良くティッシュのゴミを片付け、さっきあたしが使って中身が無くなったティッシュの箱を潰している。
彼のサラサラの前髪の間から、長いまつ毛のセクシーな瞳があたしをチラリと覗いた。
「なみこちゃんだけに、僕のカッコいー姿……見せてあげる……」
突然、高樹くんは上に羽織っているカーキ色のジャケットをバサッっと脱ぎ捨て、着ているシャツのボタンをプチプチと外し出した。
「!」
(もしかして……あたしが脱がされるんじゃなくって————そっちが脱ぐのッッ!?)
「うっひゃあ!」
高樹くんの突拍子もない行動に、一瞬目が飛び出てしまったけれど、慌ててあたしは両目を手で覆い隠した。
(おちつけ……おちつけ……。落ち着け、あたしッ!!)
- 一線越えのエスケープ ( No.26 )
- 日時: 2012/10/29 16:15
- 名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「————見てないじゃん、なみこちゃん……」
(え……?)
あたしは目を隠した手の指と指の間から、おそるおそる高樹くんを見た。
高樹くんはあたしの腰かけているすぐ横でビリヤードの棒を構え、台の反対側の端にいつの間にセッティングをしたのか、“ダイヤの形”に並べられた番号と色のついたボールの塊をめがけて、手元の白いボールを思いっ切り突いた。
彼はボールの塊をバラバラに散らばらせた後、棒を持ち、台の周りを歩きながら慣れた手付きで次々と白いボールを突いていった。そして一番、二番、三番……と、番号と色の付いたボールを若い番号から順番に穴へ上手に落としていった。
ビリヤードなんて生まれてから一度もやった事なんて無く、もちろんルールも全く知らないあたしだけど、一目で彼の腕は相当なものだと思った。高樹くんの隠れた特技に驚き過ぎて拍手をする余裕も無く、あたしは口を半開きにして彼を見ていた。
ボールを狙う高樹くんの真剣な眼差し。
腕まくりした、細めだけど引き締まった男らしい腕から伸びる、棒を持つ手。
そしてセクシーな指先。
上から三つ目までボタンの外したシャツからチラリと覗く胸元————
「かっこ……いい……」
もしも自分が今、少女漫画の中にいたとしたら、絶対目がハートになっている。
あたしは高樹くんに魂を吸い取られてしまったかの様に、うっとりしてしまった。
ビリヤードの台に腰掛けているあたしのお尻の傍に、高樹くんが突いた白いボールがゆっくりと転がってくる。
「ハッ」っと我に返ったあたしは手でよだれを拭いて、台から降りた。
「はいっ。じゃあ次は、なみこちゃん……やってみて」
「えっ!? う、うん……。白いボールを突けばいいんだよ……ね?」
彼にいきなりビリヤードの棒を渡され、あたしは慣れない手つきで白いボールを狙って構えた。
「————棒の持ちかたが……わかんない……」
「初めてだもんね。ふふっ、この棒“キュー”っていうんだよ」
「きゅっ、キュー?」
心臓がキューキュー鳴り出した。
「構え方は……なみこちゃんは右利きだから……こう持って……こう、かな?」
へっぴり腰のあたしの後ろに高樹くんがピッタリと密着して優しく両手を回し、キューを持つ手を支えて親切に教えてくれる。
近すぎる……。————もう、びりやーど、どころでは……ない。
あたしの心臓の音を聞かれてしまうんじゃないかという心配をよそに、高樹くんはキューを持つ緊張で震えているあたしの手の上から自分の手を包みこんで耳元で囁いた。
「五番のボールに当てるつもりで、白いボールの真ん中を強めに突いてごらん」
「はっ、はいっ!」
裏返った声の返事に加え、さっきからキューキュー鳴りっぱなしで止まらないあたしの心臓。
ずっとこのまま時間が止まってくれればいいのに————
☆ ★ ☆
せっかくあんなに親切に高樹くんに教えてもらったのに、五回もファウルを(しかも二回、空振り)してしまい、やっとの思いで五番のボールを“ポケット”に落とした。
「——ふぅぅ」
(情けない……。ホント、ダメ人間だ、あたし……)
「高樹くん……って、左利きなんだね……」
苦笑いをしながら、おでこにかいた汗を手で拭った。
高樹くんがズボンのポケットから左手でハンカチを出して、
「んー。一応は両利き……なんだけど、左利きの人って少ないでしょ?
————なんか、カッコいいかな、って思って」
彼は舌をペロッと出し、お茶目な笑顔を見せて、あたしのおでこをハンカチで撫でた。
(高樹くんは左利きじゃなくってもカッコいいよ……っていうか、両利きだなんて凄すぎる……)
「————僕……テクニシャンだからね……」
高樹くんはビリヤードの台に腰掛け、あたしの手から取ったキューを背中側に持ち、六番のボールをいとも簡単にポケットに落とした。
そして台から降り、あたしに向けて得意げな顔でウインクをしてきた。
(……え? 何シャン?)
拍手をしながら顔面が固まった。
お願いだから突然の英語はやめてほしい。意味が分からず、あたしは茫然としていた。
せっかくさっきまで雰囲気良く(?)弾んでいた会話が、あたしのバカさのおかげでプッツリと途切れてしまった。
(とっ……とにかく、この空気をなんとかして変えなくっちゃ——!!)
あたしは頑張って返した。
「てッ……“テクニッシャン”だなんて、すごーい、高樹くん!」
「なみこ……ちゃん?」
(……んえっ?)
————どうやら思いっ切り墓穴を掘ってしまった様だ。
高樹くんは大爆笑したいところを懸命に堪えている顔で背中を震わせながら、あたしにキューを渡してきた。
「ああっ、そ、そうだ! 高樹くんっ!」
あたしは受け取ったキューを再び彼に渡した。
「このボール、九番まで全部ノーファウルで落としたら、今度の日曜日、あたしとデート……してあげる————キスつきで」
「…………」
————部屋の中が急に静かになった。
あんなあたしの言葉をまともに間に受けたのか、ビリヤードの台の周りをゆっくりと歩きながら、真剣な顔で残っている七番、八番、九番のボールとポケットの位置をキューを使って計算している高樹くん。
“照れ隠し”でとっさに出てしまった、すっとんきょうな言葉なのに……。
しかもこんなにカッコいい高樹くんに向かって、キスつきのデートを“してあげる”だなんてエラそうに……何を言っちゃってんのだろうか、あたしは————
もうこれ以上何も言わない方がいいのかもしれない。
あたしは自分のくちびるをギュッと締めて高樹くんを見た。
「一発で……落とす……」
彼は唇を噛み締めてキューを構え、白いボールを思いっ切り突いた。
白いボールが台の壁に跳ね返りながら転がり、色のついたボールに当たる度にあたしの胸が震える。ビリヤードはボールの位置を把握するだけではなく、微妙な力の加減も大事なのだ。それができないと、こんな風に……一回突いただけで残り三つ、全ての色付きボールに当てる事なんてできない。
そんな事ができるだけでもすごいのに————
ガコン……ガコン……
————ガコン。
七番、八番、九番……番号の付いている全てのボールは、次々と綺麗にポケットに落とされていった。
「————すっ、ごぉい……」
白いボールは、高樹くんの勇姿にうっとりと口を半開きにして見とれてしまっているあたしの手元にコロコロと転がってきて止まった————と同時にあたしの心も高樹くんの一発で……落とされてしまった。
「今度の日曜日、午前十時、この塾の前で待ってる。
————キス……楽しみにしてるよ……」
高樹くんは嬉しそうにビリヤードのボールとキューを棚の中に片付けている。
さっきボールの軌道を予測して計算していた高樹くんの顔を思い出した。
(あたしのことも真剣に考えてくれていたんだね。————ごめんね。めちゃくちゃな事言って試しちゃったみたいで……)
あたしは彼の方にゆっくりと近付き————後ろからフワッと抱き締めた。
「あんなに上手だなんて……反則だよ……」
「ふふっ。友達とゲーセンで一時期どっぷりハマッちゃってね。気が付いたらなんか上手くなっちゃってた。
うん、でも今はもう————“違うもの”にハマッちゃってるんだけど、ね……」
(? ちがう、もの……?)
高樹くんはあたしの手をほどいて振り向き、両手であたしの頬に指を添えて優しくキスをした。
「ごめん。我慢できなかった……。
こんなに可愛いなんて……なみこちゃんのほうこそ————反則だよ」
キーンコーン……。
前半の講習終了のベルが鳴り出した。
- Re: たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜 ( No.27 )
- 日時: 2012/10/29 16:34
- 名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
塩さん>
新スレッド立てたのに、結局パスワード不一致でした……。
原因が分からなく、少し怖いです……(管理人さん曰く、わたしの小説スレッドだけで頻繁に起こってるらしいですし)
パスワードはメモ帳に記録・コピペで入力しているのにおかしいです……。
指摘頂いた箇所はさっそく直しました。ありがとうございます^^
- 美し過ぎるライバル ( No.28 )
- 日時: 2012/10/30 16:39
- 名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
Bクラスの教室に戻ったあたしは、次の講習の科目の準備もせず自分の席で、今日一日だけで二人の男の子にたて続けにキスをされた事が信じられなくて、何回もほっぺたをつねっていた。
何回つねっても————痛い。
高樹くんは“やりまくりべや”に着ていたジャケットを忘れてきてしまったらしく、取りに戻っている。
「……はぁ」
両手の平を頬に当てて、大きなため息をついた。
ほっぺたがこんなに熱いのは、つねり過ぎた事が原因なのか。それとも————
(————デート、どうしよう……)
今まで男の子とまともに話すらした事のないあたしなんかが、知りあってたった三日の……しかも通う学校の違うカッコいい男の子、高樹くんと二人っきりで一日を過ごすなんて夢の様だ。
(しかもキス付き……)
つねったほっぺたの痛みの熱は段々引いていくはずなのに、どんどん熱くなってゆく————
あたしは、まだ準備もしないで何も置いていない机の上にほっぺたを付けて冷ました。
「ふふっ。どうしたの?」
取りにいったジャケットを肩に掛けた高樹くんが、いつの間にか教室に戻ってきていた。そして机の上に顔を付けてつっ伏しているあたしの耳元でいたずらに囁いた。
「……何? 今になって緊張してきた?」
「高樹くーん。ちょーっと聞きたいんだけどさー……」
高樹くんと同じ学校の子だろうか。あたしと高樹くんの間にさりげなく透き通った高い声を挟み、飛び込んできたクラスの女の子があたしの隣で彼と話をしている。
どうやら話の内容は勉強の事の様だけど、時折、彼女は高樹くんの肩に手を置いたり軽く押したりしてなんだかとても親しそうだ。それに……あたしなんかといるよりも、彼女と一緒にいる方が似合っている。
見たくない……。
あたしは机の上に置いた自分の腕の中に顔をうずめた。
胸がキューッと締めつけられて苦しい。仲良さそうに話す高樹くんとナゾの彼女(?)の会話……。聞きたくないくせに自然と聞き耳をたててしまう、いやらしいあたし————
ゆっくりと顔を上げて、彼らを視界に入れない様に教室の中をぐるりと見渡すと、あたしなんかよりも何十倍もかわいい女の子がいっぱいいる事に気付いた。
「————なみこ、ちゃん……でしょ?」
隣で高樹くんと親しそうに話している女の子が、長い黒髪をかきあげながら突然あたしに話し掛けてきた。
話し掛けられた事だけではない。彼女と目を合わせただけで女の子同士なのにドキッとしてしまうくらいの美しさに驚き過ぎて、返す言葉に詰まったあたしは自分の短いクルクルパーマヘアを押さえて裏返った情けない声で、なんとか「……です」とだけ答えた。
「おウワサは かねがね聞ーてマース」
(うっ……うわさ!?)
“美しい”と“可愛い”を共に兼ね備え、ほっぺに“えくぼ”をつけた笑顔の似合う長い黒髪の女の子。彼女はあたしに向けた人差し指の先をクルクルと回しながら大きな瞳でジーッと見つめてくる。どうやら彼女はあたしの事を色々と知っている様だ。
(あたしはこの子の事、何にも知らないのに……)
それにしても“ウワサ”なんて一体誰から聞いたのだろうか。もしかして————
あたしはおそるおそる高樹くんの顔を見た。
彼は右手で頬杖をつきながら、あたしを見て微笑んでいる。
(えっ? 高樹くんどうして笑ってるの……?
今度の日曜日、あたしたちデート……するんでしょ? この状況……絶対、気まずいはずなのに————!!)
高樹くんは優しくてかっこいいから女の子にモテるのは当たり前……。でも……さっきのキスは一体何だったの?
今までお互いの想いが通じ合っていたと思っていたのに彼の気持ちがさっぱり分からなくなってしまった。
モヤモヤとあたしの頭の中に黒い霧がたちこめる。
確かにあたしは高樹くんに『可愛い』って言われただけで、『付きあって欲しい』とは言われてはいない。
(あっ……そういえば、前に読んだお母さんの週刊誌に書いてあったっけ————)
“男はその場の雰囲気で、好きでもなんでもない女に簡単に『好き』と言えるし、キスだってできる。”
思い当たるふしが……あった。
それは“やりまくりべや”に松浦くんと一緒にいた時————彼はあたしのことが嫌いなはずなのに……キスをした。
キスをされる前に、松浦くんに言われた言葉を思い出した。
『どうせ、恋愛小説なんかの世界にでも夢見て浮かれちまってんじゃねぇのか? ————おまえ……高樹にメチャクチャにされるぞ……』
さっきから、あたしの顔をまるで品定めをしているかの様に見てくる黒髪の女の子は再び口を開いた。
「なみこちゃんの事、“マスコット・ガール”なんだってー。健たちがいっつも言ってんだぁ。
ウフ、ホントだねーっ、イマドキ珍しい純情そうなかわいーコだぁー。
あっ、申し遅れちゃったケド、あたしの名前は小栗由季。Aクラスにいる高樹くんの友達の『健』っていうヤツの彼女でーすっ」
キーンコーン……。
後半の講習の始令のベルが鳴った。
(健……? なんか聞いたことがある名前だな……)
「————覚えてる?
この前なみこちゃんのおしりを触った僕の友達————の“彼女”だよ」
高樹くんがあたしの方に身を乗り出して顔を近付け、耳打ちをした。
「あはっ。なんか違う学校のコがお友達って魅力的ッ。仲良くしよーね! な・み・こ・ちゃんっ!」
さっき高樹くんに見せていた笑顔と変わらない笑顔で嬉しそうに、握ったあたしの両手をブンブンと大きく振り“由季ちゃん”は自分の席に戻っていった。
茫然としてる間に、先生が教室に入ってきて講習が始まった。
「心配……した?」
隣で高樹くんは回していたペンを机の上に置いて、あたしの手をふんわりと握ってきた。彼に握られた手に持っている蛍光ペンがブルブルと震えている。目頭が……あつくなる……。
「心配なんて、しなくていいよ……。さっきなみこちゃんが松浦くんに連れていかれた時の、僕の方が心配したよ……」
頭の中にたちこめていた黒い霧が一気に晴れて、一粒の涙があたしの頬をつたった。
あたしはそれを軽く指で拭い、高樹くんに笑顔を見せた。
「エへ。エへへ……。心配なんてしなくていいよ……。
————松浦くんとあたしだなんて……ありえないよ……」
————あたしはまだ知らない。
あたしの見ていないところで、高樹くんと松浦くんの凄まじい戦いの火蓋がきられて落とされていたことを……。
- 女泣かせの色男 ( No.29 )
- 日時: 2012/10/31 18:00
- 名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
《ここからしばらく高樹純平くんが主人公になります》
「——純平。急な話ですまないが……ちょっと来てくれないか」
(朝から、どうしたんだろ……)
バスルームから出た僕は、濡れた髪をタオルで拭きながらリビングのソファーに座り、制服のカッターシャツのボタンを留めながら父さんの話を聞いた。
どうやら父さんと母さんは、二人で経営している女性物の下着の会社の都合で、急遽明日から中国に一週間滞在する事になったらしい。————まあ、昔からそんな事はしょっちゅうあるんだけど……ね。
(明日から一週間————この家には僕だけしかいない……か)
フッと頭の中になみこちゃんの顔が浮かんだ。
前に見た“夢”の続きを見たくなる。
もう一度会いたい……。あの可愛い“エプロン姿”のなみこちゃんに————
母さんが大きなため息をついて、父さんと僕にコーヒーのおかわりを注いだ。
「……分かっているとは思うけど、純平、家に親が居ないからといって調子に乗って友達と外で夜遅くまで遊んでばかりいるんじゃないわよ。……近所の目もあるんだから」
僕はテーブルの上に何冊か重ねて置いてある、父さんと母さんの会社の通販カタログを一冊手に取り、膝の上で広げてペラペラとめくった。
(あっ、これこれ。こーゆーの……なみこちゃんに着けて欲しーなー。ふふっ)
「学校の成績がいくらいいからといっても、あなたは生活態度がメチャクチャでしょう……」
(ああー、コレはもっと大人になってからの方が————)
「はぁ……。お母さん、わからないわ……。
だいたい純平、あなたはいつも何を考えて生きているのよ……」
——パタン。
僕は見ていたカタログを閉じ、小さく咳払いをして立ち上がった。そして片手を頬に付け、目を細めてジーッとこっちを見て反応を待っている母さんの肩に手を置いた。
「母さん……。父さんと二人っきりで一週間……忘れちゃった愛をたしかめ合ってきてね……」
「——っ!!」
僕の言葉が彼女の頭に角を生やした。
「遊びに行くんじゃないわよ! 仕事で行くの!
————全く! 一体誰に似たのかしら、この子は……」
「まあ、まあ、まあ……」
父さんの方はまんざらでもないらしく、楽しそうに笑いながら母さんをなだめている。
僕は手ぐしでヘアスタイルを整えて、母さんが注いでくれた温かいコーヒーを一気に飲みほした。
「いってきまーす」
学校のカバンを持ち、父さんと母さんにVサインをして部屋を出た。
————僕の名前は高樹純平。純平の『純』は……純粋の『純』。
友達は結構いる。その中には女の子の友達も何人かいるけれども恋にはならなかった。
しかし、ある日突然塾で出会った女の子“なみこちゃん”。
彼女に出会った瞬間————僕は生まれて初めて恋を知った。
玄関のドアを開けて、眩しく降り注ぐ太陽の光と風の香りを感じながら僕は大きく深呼吸した。
やっぱり空気がいつもと全然違う。
(今日は塾の日————
はやくなみこちゃんに……会いたい……)
☆ ★ ☆
「よ、よぉーっし、じゃ、“お姉ちゃん”が君の靴に“魔法”をかけてあげよう!
1・2・さんっ、えーいっ!」
「ほらっ、コレで大丈夫!」
「……ほんとう?」
「たぶん……いや! 絶対!
————だからもう泣いちゃだめだよ。ね?」
☆ ★ ☆
————ここは僕の通っている釜斗々(かまとと)中学校。
今は昼休み。
僕は廊下の壁にもたれながら、窓の外で交尾をしているトンボを見ていた。
「やあやあ高樹殿、本日はお待ちかねの塾でござるなあ。
愛しのなみこ嬢との甘い愛の戦略を練っておられるようで? 邪魔してすまんな……」
「会いたいのにぃー……週二しか会えなぁーい……。どうしてあなたは原黒中なの? どうして処女なの?
——痛ッて! 何すんだ由季ッ!」
「……ばーか。もうっ、ごめんね高樹くん」
ヘンな奴等だけど、一応彼らは僕の友達。
時代劇役者(?)口調の聖夜と、『少年よ、オンナを抱け(いだけ)』が口癖の、見ての通り“チャラ男”な健。そして“はきだめに鶴”、日本人形の様なしとやかな顔をしているこの女の子は……信じられないけど、まさかの“あの”健の彼女の由季ちゃん。
なんだかんだ言って、いつも彼らとつるんでエッチな話に花を咲かしているんだけど————今は由季ちゃんがいるから無理だな……。
「え! ウソ! マジで今日告るの!? 静香!!」
「……ウン」
廊下にいる僕に“わざと聞こえるように”アピールしているのか大きな声で教室の中からぞろぞろと出てきた女の子達。3人いる中の1人、1番スカート丈の短い中学生離れしたグラマーな体型をした“今日告白するらしい”女の子は“徳永静香さん”。彼女は見ての通りクラス……いや、この学校の名物キャラだ。
その名物、徳永さんがお尻を振りながらゆっくりと歩いて近付いてきて、僕の横に香水の香りをフワフワと漂わせながらもたれてきた。
彼女は赤茶色の縦ロールの長い髪を指で少しつまみ、毛先を僕の鼻のそばに近付けて、上目遣いで話し出した。
「高樹クン……。静香をフったコト……今に後悔させてアゲルから————」
「おおうっ! 今日も色っぽ……いや、エロっぽいよ! 静香御前」
「よッ! 女泣かせの色男、高樹源氏!」
僕と徳永さんの前で健たちがワケの分からない事を言ってはやしたてている。
僕は自分の鼻の前にチラついている徳永さんの髪を手で払いのけ、「ふっ」と小さく笑った。
「胸の谷間に着火したダイナマイトはさんで挑む覚悟がないと……無理だと思うよ……。
————頑張って。本気で応援してるから」
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