複雑・ファジー小説
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- たか☆たか★パニック(松浦鷹史くん・武藤なみこちゃんCV)
- 日時: 2013/04/11 17:11
- 名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。
☆あらすじ★
冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!
視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
読者の方を飽きさせない自信はあります。
楽しんで頂けると嬉しいです。
☆ドキドキ塾日記(目次)★
>>1 宣伝文(秋原かざや様・作)
>>2 はじめに『情けなさすぎる主人公』
>>3 イメージソング
塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
>>6-7 『いざ!出陣!』
>>8 『夢にオチそう』
塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
>>9-10 『忍び寄る疫病神』
>>11-12 『もの好き男の宣戦布告!?』
塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>14-15 『初めての恋、そして初めての……』
>>16-17 『王子様の暴走』
>>18-19 『狙われちゃったくちびる』
>>20-21 『なんてったって……バージン』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>22-23 『キライ同士』
>>24 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
>>25-26 『一線越えのエスケープ』
>>28 『美し過ぎるライバル』
塾3日目(主人公・高樹純平くん)
>>29 『女泣かせの色男』
>>30-31 『恋に障害はつきもの!?』
>>32-34 『歪んだ正義』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>35-37 『ピンチ! IN THE BUS』
>>41 『日曜日のあたしは誰のもの?』
>>42-44 キャラクター紹介
>>45-47 >>48 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
>>49 >>50 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
>>102 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>51 『祝・ドキドキ初デート』
>>52 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
>>53 『少女漫画風ロマンチック』
>>54-55 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
>>56 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
>>59 >>61-65 >>68-69 たか☆たか★“裏ストーリー”第1章(主人公・松浦鷹史くん)
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>70 『残され者の足掻き(あがき)』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>74-78 『王子様のお宅訪問レポート』
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>79-80 『拳銃(胸)に込めたままの弾(想い)』
>>81 『本当はずっと……』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>82-83 『闇の中の侍』
>>84-85 『こんな娘でごめんなさい』
>>86 『バスタオルで守り抜け!!』
>>87-89 『裸の一本勝負』
>>90-91 『繋がった真実』
>>92-96 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
>>97 宣伝文(日向様・作)
>>98 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
>>99 たか☆たか★“裏ストーリー”(主人公・高樹純平くん)
日曜日(主人公・高樹純平くん)
>>106 『もう誰にも渡さない』
>>114 たか☆たか★(松浦鷹史くんCV・トレモロ様)
>>115 たか☆たか★(武藤なみこちゃんCV・月読愛様)
- 初めての恋、そして初めての…… ( No.15 )
- 日時: 2013/01/16 15:24
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「……入らないの?」
自動ドアが開いて、塾の中から夜風にサラサラヘアをなびかせながら、今日もオシャレなダーク・ブラウン色のジャケットと黒のパンツスタイルでバッチリキメたたかぎがあたしの方に歩み寄ってきた。
彼がいきなり現れたものだから、あたしはビックリして、
「は、はいっ! ……ります」
……なんて、ヘンな返事をしてしまった。
「ふふふっ、かーわいっ」
満点の笑みを放ち、彼はあたしの頭をぐじゃぐじゃっと撫でてきた。
続々と塾にやって来る人たちが、通りすがりにみんなあたし達の事をジロジロと見ていく。中には同じクラスの人だっている。
「ヒューヒュー、アツいねー」
……などと、どこからか冷やかす声までも聞こえてきた。
あたしは毛穴から湯気が吹き出て来そうなくらいこんなに顔が熱いのに、涼しそうな顔で冷やかし軍団にVサインにした手を振って応えているたかぎ。
「たか、ぎ……くん」
恥ずかしさに耐えきれなくなったあたしは、頭を撫でる高樹くんの手を掴んで止めた。
「はい、なーに?」
彼はあたしの背の高さに合わせ腰を落として、まっすぐ見つめてきた。
真っ赤な顔をして戸惑うあたしの顔を見て、からかってお茶目に笑っているのかと思ったけれど……そうじゃなかった。
高樹くんの真剣な瞳に、あたしのからだの動きが封じ込まれる。
(ちょっと、待って……。ウソでしょ? こッ、こんなところでキス、なんて……)
高樹くんの顔が、ゆっくりとあたしの顔に近付いてくる。
(ちょッ、ちょっと待っ、てよ! ここ、塾でしょ!)
「会いたかった」
そう言って今度は優しく頭を撫でてきた高樹くん。
てっきりキスをされるかもしれない、だなんて勝手な想像をしちゃって思わず目をつむってしまったバカ丸出しなあたし。出逢ってまだ2日目で、しかも大勢の人達のいる塾の入り口の前でそんな事をされるなんてあるわけないのに。
ホッと安心する様な……でも、実を言うとほんの1%だけ期待していたり……って! だからそんな事あるわけないのに。
しかし、つむっていた目をゆっくりと開けた途端、スッとさりげなく彼に手を繋がれたあたしは、そのまま高樹くんにエスコートされながら教室に向かった。
『僕とダンスを踊りませんか?』
小さな頃、お父さんに『読んで』とお願いして何度も読んでもらったあたしの大好きな童話“シンデレラ”。まるで自分がシンデレラになって童話の中の世界に飛び込んでしまったみたい。
古くくすんだえんじ色の床の階段がレッドカーペットの敷かれたお城の階段に見える。
お願い、魔法使いさん……。ずっとこのまま魔法を解かないで————
「なんだ、姿が見えないから、お勉強がイヤで逃げ出しちまったかと思ったぜ」
最悪のタイミングで2階のAクラスの教室の前の廊下で今一番会いたくない人、松浦くんに声を掛けられてしまった。
(いやだ……逃げたい……)
あたしは高樹くんと繋いだ手に力を入れ、軽く振った。
しかし、嫌がるあたしの気持ちが通じなかったのか高樹くんは、松浦くんの動きをうかがう様に彼に視線を向けている。
「なぁ、高樹君……。おもしろい事、教えてあげようか……」
松浦くんは壁にもたれて窓の外を見ながら、わざと大きな声を出し、話し出した。
「こいつと寝ると、赤ちゃん並みによだれ垂らしまくるから気を付けたほうがいいぞ!」
高樹くんが一緒にいるのに……。もしも今ここで穴を掘って隠れる事ができるのならば、隠れて姿を消してしまいたい。そんな事、できるはずなんかないけど。
「じゃあな」
松浦くんは『ハイ、もうこれで充分満足しました』、という様な顔で笑いながらAクラスの教室に入っていった。
「きっと松浦くんも僕と“同じ”なんだな……」
松浦くんの背中を見ながら、隣で高樹くんが呟いている。
高樹くんもあたしの事、おかしい子だと思ったんだ……。
もう恥ずかし過ぎて、高樹くんの顔をまともに見ることができない。
あたしは繋いでいる彼の手を振り払って、逃げようとした。
「逃げないで」
高樹くんは、あたしの肩に手を回して抱き寄せてきた。そして、あたしの髪を指でそっと耳に掛け、甘い声で囁いた。
「あんな事聞いたら、なみこちゃんと寝てみたくなっちゃうじゃん……」
(ねッ! 寝るッ!?)
シンデレラに出てくる王子様ってこんな大胆過激なセリフ言ってたっけ!?
キーンコーン……。
魔法が解ける12時を知らせる鐘……いや、違った、始令のベルが2人のラブラブシーンのジャマをした。
- 王子様の暴走 ( No.16 )
- 日時: 2013/01/16 16:40
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
☆ ★ ☆
————2年生Bクラス教室。
今日も始令ベルの音が鳴り終わると同時に教室の中は時計の針の動く音が聞こえるくらいにシンと静まる。
「はい、みなさん、注ー目ー」
講習が始まり出し、黒板いっぱいに書かれた英文を、先生が指示棒を使って熱心に説明している。
それなのに、先生の姿を見ながらも、あたしの頭の中ではさっき高樹くんに言われた『一緒に寝たい』がエコーを付けてセクシーに何度もリピートしている。
またもや今日も講習に集中できないような気が————
(あれ? どこだろう、ここ……)
どこかの旅館だろうか。
何故かあたしと高樹くんは雰囲気のいい純和風の部屋の中で二人っきりになっている。
はっきりした時刻は分からないが、どうやら今は夜の様で、部屋のテラスの窓からは大きなお月さまが見えている。外の庭からリー、リー、と虫の鳴く声、そして池があるのだろうか。カッポーン、と“ししおどし”の風情漂う音が聞こえてくる。
「よぉーっし! 本気でいくからね!」
浴衣をフェミニンに着こなした高樹くんが、気合いを入れて思いっ切り“何か”を投げてきた。
ぼふっ!
あたしの顔に、“まくら”が見事にヒットした。
まさか、本当に本気で投げてくるだなんて……。
あたしは彼の投げたまくらに押し倒されて、尻もちをついてしまった。
「いったー……い。
もうッ! 手加減してよぉ。これでも一応、女の子なんだから……」
片手で顔を押さえ口先をとんがらせながら、あたしはまくらを彼に投げ返した。
「ふふん、僕の勝ち、だね」
キャッチしたまくらをその場に置いて、嬉しそうな顔をした高樹くんが這って近付いてくる。
(……勝ち? ————あっ、そうか。まくら投げして遊んでたんだ、あたし達……)
「じゃ、約束だから……」
高樹くんは立ち上がり、部屋の電気を消して自分の着ている浴衣の帯をスルスルと外し出した。真っ暗にされた部屋の中、ほんの僅かな“月明かり”の照明が、帯を外し、はだけた浴衣姿になった彼をセクシーに照らしている。
(約束、って……何の?)
ワケが分からなくなって聞こうと思ったら、彼の手があたしの両肩に置かれ、そのままお尻の下に2枚仲良く並べて敷かれている布団にそっと寝かせられた。
高樹くんの顔が近い。
はだけた浴衣の襟の間から彼の鎖骨が見えている。男の子の鎖骨がこんなにセクシーだったなんて今まで思った事も無かった。
「もしかして“忘れちゃった”なんて、言わないよね……」
あたしの髪を指先でつまみながら呟く彼。
彼曰く、“約束”というのは、まくら投げ勝負で負けた方の人が、勝った方の人の“いいなり”にならなくちゃいけない……らしい。
(いいなり……って、一体何を?)
「……っふ」
小さく笑った高樹くんが今度はあたしの耳たぶを軽くつまんで囁く。
「ルールだから……ね。————僕の言う事、聞かなきゃダメだよ……」
————カシャッ
「!」
気が付くと、あたしは机の上のテキストの上に左の頬をくっ付けていた。
(しまった! 寝ちゃった!)
テキストの開かれたページは、よだれで濡れてフニャンフニャンになっている。
「おはよ」
(ん……高樹、くん?)
目を擦りながら顔を上げると、優しい笑みを浮かばせた高樹くんが、隣で右手で頬づえをつきながらあたしの顔に向けて携帯電話をかざしている。
「寝顔、ゲット……」
高樹くんは、絶対ヘンな顔のあたしの画像を待ち受けにして机の上に置いた。
壁の時計を見ると、講習が始まってからもうすでに30分近くも経っていた。残り時間は10分……寝ていた時間の方が多い。こんなに長時間寝ていて、よく先生にバレなかったもんだ。でも、気付いてたなら起こしてくれればいいのに。
横目で高樹くんをチラッと見た。するとまたもや彼と目が合ってしまった。
気のせいなんかじゃない。講習の時間中、本当に高樹くんと目が合ってばっかりだ。自意識過剰なのかもしれないけれど、あたしの事を彼にずっと見られている様な気がする。
どうしてだろう。やっぱり、あたしがおかしい子だから?
それとも————
「夢、見てたの?」
机の下で、高樹くんの足が軽くあたしの足に触れてきた。
「わ、わかんない……」
あたしは自分の足を彼の足から離し、イスの脚に絡ませた。
「僕が夢に出てきた時は、ちゃんと覚えててね」
そう言いながら彼は、講習が始まってからすぐ居眠りをしていて同じページのままずっと開きっ放しになっていた、あたしのテキストをめくってきた。
「んーっ」
高樹くんがイスの背もたれにもたれて伸びをしながら、何かを呟きだした。
「昨夜さ、なみこちゃんが夢に出てきたよ。楽しかった……」
あたしの心臓が発作を起こし出した。
だってだって、夢に出てくる、ってコトは————眠っている間、あたしの事を考えてたってコト……だよね?
勝手にそう解釈して、高樹くんが見た夢がどんな夢だったのかを気にしながら……って、気にしてなんていちゃいけない。(殆ど寝てたけど)今は講習の時間なんだから!
自分の胸に手を当て、呼吸を整えて……とにかく、頑張って気持ちを先生の方に集中させた。
……とたん、先生と目が合ってしまった。
「はい、じゃあ武藤さん、この英文、訳してくださーい」
- 王子様の暴走 ( No.17 )
- 日時: 2013/01/25 14:52
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
☆ ★ ☆
高樹くんが隣の席で良かった。
当てられた問題は、彼にノートを使って伝言してもらいながら何とか答える事ができて本当に助かった。
それにしても高樹くんってすごいって思う。顔立ちだけじゃなく、書く字まで綺麗なのだから。左手で書いてるのに……って、左利きだから当たり前か。
こんなにカッコ良くって、優しくって、頭も良い高樹くんなんだもん。学校では男の子にも女の子にも人気があるに違いない。女の子は放っておかないと思う。絶対……。
色んな意味でドキドキしながらも、今日の講習もなんとか終わった。
特に英語は5教科の中で一番苦手な科目だったので、チンプンカンプンだった。
(そういえば、もうすぐ学校で模試があるんだったっけ……)
急にイヤな事を思い出してしまった。
カバンにテキストと文房具をしまいながら、だんだんと不安になってきた。
せっかく塾に入ったっていうのに。
これじゃあ全然意味無いよ。高樹くんに会えるのは嬉しいんだけど————
『会いたかった』
さっき彼に言われた言葉を思い出した。
(あたしもだよ……)
なんだか塾に通う目的が、勉強をしに来てるんじゃなくて、高樹くんに会いに来ているみたいな感じになっている。そう今頃になって気付いた。
両手で自分のほっぺたをぺチンと叩き、心に決めた。
ちゃんとしなくっちゃ。頑張ろう、あたし!(お母さんに叱られるし)
次の講習からはマジメに受けるようにしよう……。
なんて考えている間に、Bクラスの教室の中には、あたしと高樹くんが二人っきりになっていた。
(わっ!! しまった! もうこんな時間!)
壁の時計を見てビックリした。
隣で高樹くんが、机の上に散らかっているあたしの文房具の片付けを手伝ってくれている。
「じっ、自分でやるから、いいっ」
あたしは彼の手にあるゲロゲロげろっぴの消しゴムをサッと手に取って、中身をグチャグチャに押しこめたカバンの中にコロンと放り込み、教室の外に出た。
ここは恋愛の仕方を教わる塾じゃない!
勉強を————!!
振り返らずに……振り返るのを我慢してあたしは握り締めた両手を大きく振って高樹くんを残して歩き去った。
本当はバスの停まっている駐車場まで一緒に行きたかったのに。
週に2回だけしか逢えないのだから少しでも一緒にいたかったのに。
せめて『さよなら』くらいは言った方が良かっ————
「なみこちゃん!」
あたしの名前を呼びながら、高樹くんが追い掛けてきた。
廊下にいる人達が、みんな一斉にこっちを見てくる。
恥ずかしい。早く外のバスに逃げ込みたい。廊下は走っちゃいけない……って、そんな事分かっているのだけど、この状況にとても耐える事ができなくて、あたしは駆け出した。
「おいおい高樹ぃー、彼女、嫌がってんじゃん。そんなにいじめちゃ可哀そうだぜーっ」
「うむ! もっと優しくして差し上げぬと」
(ああ、もうっ、やっぱり!)
途中で高樹くんの友達が笑いながら冷やかしてくる声が耳に飛び込んできた。
彼らの隣にチラッと松浦くんの姿が見えた。
でも、松浦くんは一緒になって笑ってはいない。
どうしてだろう……。いつもなら困っているあたしの顔を見たらバカにして笑ってくるはずなのに、ものすごく不機嫌そうな顔でこっちを見ている。
そうだ! きっと彼も恥ずかしいんだろう。こうやって、塾のみんなにバカにされているあたしと同じ学校に通っている、という事が————
(お願い高樹くん……もう追いかけてこないで!)
そう心の中で念じ、足の加速度を1段階アップさせた。
しかしそんな念力も空しく、Aクラスの教室の中に残っていた人達までもがざわざわと廊下に出てきた。
みんな、あたし達に向けて指をさして笑っている。
(見せ物じゃ、ないっ!)
真っ赤になったあたしは廊下を全力疾走した。
今1階に行ったら、きっともっと人がいるに違いない。
あたしは階段を降りるのをやめて、3階へ駆け昇った。
静かで暗くて、誰もいない……。
急に走り出したせいなのか、それとも男の子に追いかけられたせいなのか、たぶん両方原因だと思うけれど、ドキドキする胸に手を当てながら、ぐるりと辺りを見回した。
この階は塾の教室としては、おそらく使われていない。
廊下には今では使われていない古いテキストの様な物が入っている段ボール箱や、先生が数学の公式などを書いて黒板に貼るために使いそうな長い紙筒や、テストやお便りを印刷するコピー用紙等が、無造作に置かれている。どうやらここは塾の倉庫のようなスペースとして使われている様だ。ごちゃごちゃしているこの廊下の先は一体どうなっているのか、何の部屋があるのか————暗くてよく見えない。
息を切らし力の抜けきったあたしは、すぐそばの壁にもたれて、ペタンと座りこんだ。
トン、トン、トン、トン……。
階段を昇って追い掛けてきた高樹くんが、あたしを見つけてニコッと微笑んで近付いて来た。
彼は隣に座り、あたしの肩に腕を回してきた。
「……つかまえ、た」
シンデレラに出てくる王子様も、こんな風に追いかけてきて————えっと……どうなるんだったっけ。あれ? 確かシンデレラの履いていたガラスの靴だけしかつかまえられなかった様な……。
————はい。……ってなワケで、どんくさいシンデレラは、簡単に王子様につかまってしまいました。
時計の針が12時を刻んだ瞬間、魔法が切れて、醜い元の姿を彼の目の前で思いっ切りさらけ出したのでした。
リーン、ゴーン……。
『悪い夢を見たようだ』
夜空に空しくこだまする鐘の音と共に寂しく消えてゆく王子様の後ろ姿。
醜い姿……だとはいえ、絵本の挿絵に描かれたシンデレラは可愛かった。
あたしなんか……昔から松浦くんに“バカ”とか“ブス”だとか言われてる、外見も中身も本当に醜い女の子だから、王子様みたいな高樹くんは、こんなあたしを絶対好きになるわけ————
「なみこちゃん……。足はやい……っ」
息を切らしながらあたしの耳元で囁く高樹くんの声が、男の子なのにセクシーに感じてしまう。
彼の声と共に温かい吐息があたしを刺激する。
「恥ずかしいから……みんなが見てる前で、こういう事しないで……」
肩にふんわりと巻きついている彼の腕をほどいて顔を反らした。
すると彼は、今度はあたしの両肩に手を置いて向かい合わせてきた。
「ねぇ……こっち見てよ……」
「…………」(恥ずかしい、って言ってるのに……)
“こっち見て”だなんて言われても、高樹くんの顔をまともに見る事ができない。
「ふっ」
きっと真っ赤になっているあたしの顔を見ておもしろかったのだろう。彼は小さく笑い、あたしの頬に指を添えて顔を覗き込んできた。
「誰も見てないから……いいじゃん……」
薄暗く、シン、と静まりかえった3階の廊下。
息を切らしたセクシーな声の高樹くんの顔が、ゆっくりと近付いてくる。
再び、心臓が発作を起こしだした。
(今度こそ、キスされる……!)
あたしは、息をころして目を閉じた。
- 狙われちゃったくちびる ( No.18 )
- 日時: 2013/01/28 16:32
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「武藤さーん! 武藤なみこさーん!!」
下の階で先生達が、あたしの名前を何度も呼んで探し回っている。
「先生、来ちゃう……」
目を開け、あたしは立ち上がった。
あと3センチ……いや、1センチ? もう少しであたしのくちびるは高樹くんに奪われていた。
コツ、コツ、コツ、コツ……。
段々と近付いてくる足音。
階段の方に目をやると、黒い影が見えた。
————誰かが3階に昇ってきた。
「君たち……こんなところで何をしているのかね」
あたし達を見付け、一瞬驚いた顔をした蒲池先生が、今度は不思議そうな顔をして歩み寄ってくる。
当たり前だ。講習が終わって、みんな帰らなくちゃいけないはずの時間に関係ない3階に居るのだから。いきなり教え子が消えた、と思いっ切り心配までかけちゃって。
「あ、なーんだ、こんなトコにいたんだー。めっちゃ探したんだぞー」
「おや? ウワサの“なみこ嬢”も一緒でござるな?」
(ウワサ……?)
先生の後ろから、まだ話したことはないけれど、前に何度かチラッと見た事だけはある2人の高樹くんの友達が歩いてきた。
塾が終わった時間から、まっすぐ家に帰らず、高樹くんをゲームセンターに行こうと誘っていたお友達だ。2人共、提げGパンにTシャツなラフな格好をしていて不良っぽい感じはしないけれど、片方は茶髪で片耳にピアスを付けた男の子。もう片方は男の子にしては長い髪をサイドをガチガチにピンで留め、トップをちょんまげみたいに縛った男の子。
多分不良ではないけれど、この手の男の子はなるべく関わりたくない。
あたしの身体の中に設置してあるセキュリティー機能(システム)が危険を察知して、『上手く逃げろ!』と信号を送る。
「すッ、すみませんでした! あ、あの、あたしっ、高樹くんに悩み事を聞いてもらってたんです。高樹くんはっ……ですね、一緒のクラスですし、席も隣ですし……その、友達だから……」
とにかく、まずは先生に謝らなければいけないと思い、あたしにしては珍しく冴えた言い訳セリフが勢いでポンポンと出てきた。
(だ、大丈夫、かな? 怒られないかな? 怒られても仕方ないよね……)
冷たい汗が背中をつたっていく。
初めは心配のあまり顔を青ざめさせていた先生の顔が少しずつ穏やかになっていった。彼はあたしの肩に手を置き、ニッコリと微笑んだ。
「保護者の方が心配されます。すぐにバスに乗ってください」
蒲池先生の後について廊下を歩くあたし達。自分の隣にベッタリと高樹くんが寄り添って歩いているのは感じてはいる。彼を見ると、さっきの教室での彼の様子から、向こうも絶対こっちを見ているに違いない。
あたしは下を向いていた。
あたしの手の甲にそっと高樹くんの指が触れる。まるで『繋ぎたい』と要求しているかの様に。
先生に注意をされたそばから……。しかも彼の友達が見ている前で、そんな事なんてできないよ。
あたしはあえて高樹くんの方にある片方の手を、着ているカーディガンのポケットの中に逃げ込ませた。
「武藤さん、見付かりました!」
蒲池先生は一階ずつ階段を降りながら、大きな声で報告をしている。先生の少ない髪の毛が海岸の岩に貼り付いているワカメの様に、たっぷりの汗をふくんで頭皮にベッタリとくっ付いている。
蒲池先生と一緒にあたしの事を探してくれていた先生達は、安心した顔で「気をつけて帰りなさい」と見送ってくれている。
「本当にすみませんでした……」
マジメにやるんだ、って、さっき決めたばかりだったのに……いきなり挫折。
階段を降りている蒲池先生の猫背の背中を見ながら、あたしは自分の情けなさに呆れてため息をこぼした。
「んもう、なみこチャンったら。悩みなら、これからは高樹にだけじゃなくって俺達にも打ち明けてくれよ。
ん? 恋の悩み? ……それともカラダの悩み?」
「上手な接吻の仕方ならば、日々数々の経験を積んだ拙者が手とり足とり腰とり、かつ濃厚に教えて差し上げまつる!
……ところで先ほどから気になっていたのでござるが、一体何センチなのでござるか? おぬしの背丈は」
あたしの両側に2人の高樹くんの友達が馴れ馴れしくくっ付いてくる。
(身長の事、触れないでよ……)
この2人……なんだかんだ言って体にまで触れてきそうな予感。
高樹くんの事は好きだけど、彼の友達は好きになれない。はっきり言って……苦手だ。
「僕の大事な友達に触らないで」
“友達”というところを強調した口調で、高樹くんはあたしを挟んでベッタリとくっ付いている彼の友達を切り離し、肩に手を回してきた。
「これは愉快。一丁前に独占欲あふれてござるな」
「まだ“友達”のくせに」
冷やかしてくる友達に『うるさい』と、言い放つ様に高樹くんは肩に回した手に力を入れ、さらにグッと寄せてきた。
「ほう。やるのう、おぬし……」
「ヤれヤれ、ヤっれー、もっとヤれー」
それでもめげずに、あたしと高樹くんの気持ちもお構いなしに面白がってわざとグイグイと近付いてくる高樹くんの友達。————もう、はっきり言いたい。迷惑だ。
彼らは、本当に高樹くんの友達なのだろうか————信じられない。
「フーン……」
ニヤニヤしながら、高樹くんの友達の一人が、あたしのお尻を触りながら聞いてきた。
「ねねっ。なみこチャンって……処女なの?
あっ、もしかして……もうすでに“あげちゃった”のカナー。いとしの高樹クンに……」
- 狙われちゃったくちびる ( No.19 )
- 日時: 2013/01/28 16:38
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「コッ、コラ! いい加減にしなさい、君たち!」
蒲池先生が、広いおでこに血管を浮かばせて怒った。
「さあ武藤さん、早くバスに乗りなさい。ホラホラ、君たちも早く帰りなさい」
先生は腕時計を見て大きくため息をついた。
気が付くと、あたしはバスの前に来ていた。塾の外の駐車場と自転車置き場は、もうみんな帰ってしまった様でガランとしている。
あたしの隣で両手を腰にあてた先生が、片足のかかとを付けたつま先でアスファルトの地面を小刻みにトントン叩いている。きっと、ふざけた態度でなかなか帰ろうとしない彼らにイライラしているのだろう。
「バイバーイ、なみこチャーン」
「応援いたす! さらば!」
高樹くんのヘンな……じゃなくって、とても特徴的な友達は、投げキッスをしながら大きく手を振り、自転車置き場の方へと走って行った。
「はい、ほらほら高樹くんも。まっすぐ帰るんですよ」
「…………」
「————どうしたんです? 高樹くん、早く帰りなさい」
先生に何度も言われているのに、高樹くんは全く帰ろうとしないであたしの顔を見つめている。
「高樹ー、おいてくぞー」
高樹くんの友達が呼んでいるのに、返事もしないで彼はまだあたしの顔を見つめている。
先生は頭を掻きながら、
「まったく君はいつも……。もう知りませんよ」
呆れた顔でため息をついて、バスに乗りエンジンをかけた。
(今、何時だろう……)
きっと松浦くんがバスの中で待ちくたびれてイライラしながら待っている。それに、先生だって早く仕事を終えて家に帰ってゆっくり休みたいに違いない。
「……またね、高樹くん」
ずっとあたしの顔を見つめたままで動かない高樹くんに戸惑いながら“さよなら”を伝え、あたしはバスに乗ろうと後ろを向いた。
「!」
突然、後ろから高樹くんに強く抱き締められた。
「友達だなんて……いうな……」
あたしの耳元で囁く声。高樹くんの激しく刻む心臓の音を背中で感じた。
バスの窓から松浦くんが、あたし達の方に向けて冷ややかな視線を流している。
「さっきキスできたら……よかったね」
高樹くんは腕を解き、あたしの肩をトン、と叩いて自転車置き場へと走っていった。
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