複雑・ファジー小説
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- たか☆たか★パニック(松浦鷹史くん・武藤なみこちゃんCV)
- 日時: 2013/04/11 17:11
- 名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。
☆あらすじ★
冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!
視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
読者の方を飽きさせない自信はあります。
楽しんで頂けると嬉しいです。
☆ドキドキ塾日記(目次)★
>>1 宣伝文(秋原かざや様・作)
>>2 はじめに『情けなさすぎる主人公』
>>3 イメージソング
塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
>>6-7 『いざ!出陣!』
>>8 『夢にオチそう』
塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
>>9-10 『忍び寄る疫病神』
>>11-12 『もの好き男の宣戦布告!?』
塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>14-15 『初めての恋、そして初めての……』
>>16-17 『王子様の暴走』
>>18-19 『狙われちゃったくちびる』
>>20-21 『なんてったって……バージン』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>22-23 『キライ同士』
>>24 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
>>25-26 『一線越えのエスケープ』
>>28 『美し過ぎるライバル』
塾3日目(主人公・高樹純平くん)
>>29 『女泣かせの色男』
>>30-31 『恋に障害はつきもの!?』
>>32-34 『歪んだ正義』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>35-37 『ピンチ! IN THE BUS』
>>41 『日曜日のあたしは誰のもの?』
>>42-44 キャラクター紹介
>>45-47 >>48 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
>>49 >>50 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
>>102 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>51 『祝・ドキドキ初デート』
>>52 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
>>53 『少女漫画風ロマンチック』
>>54-55 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
>>56 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
>>59 >>61-65 >>68-69 たか☆たか★“裏ストーリー”第1章(主人公・松浦鷹史くん)
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>70 『残され者の足掻き(あがき)』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>74-78 『王子様のお宅訪問レポート』
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>79-80 『拳銃(胸)に込めたままの弾(想い)』
>>81 『本当はずっと……』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>82-83 『闇の中の侍』
>>84-85 『こんな娘でごめんなさい』
>>86 『バスタオルで守り抜け!!』
>>87-89 『裸の一本勝負』
>>90-91 『繋がった真実』
>>92-96 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
>>97 宣伝文(日向様・作)
>>98 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
>>99 たか☆たか★“裏ストーリー”(主人公・高樹純平くん)
日曜日(主人公・高樹純平くん)
>>106 『もう誰にも渡さない』
>>114 たか☆たか★(松浦鷹史くんCV・トレモロ様)
>>115 たか☆たか★(武藤なみこちゃんCV・月読愛様)
- なんてったって……バージン ( No.20 )
- 日時: 2013/01/28 16:56
- 名前: ゆかむらさき (ID: cLFhTSrh)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
暖房が効いているせいで暖かいのか。それともさっき高樹くんに抱き締められて————
『さっきキスできたら……よかったね』
高樹くんにそう言われた時からずっと震えている指先で自分の下唇を触れながらバスに乗り、松浦くんの隣の席に座った。
「じゃ、出発しますよ」
バスが動き出した。
「待たせてごめんね……松浦くん」
「…………」
あたしのせいでこんなに帰りが遅くなっちゃって……。一応、謝ったはいいものの、やっぱり怒っているのか松浦くんは何も言わずに肘をつきながら窓の外を見ている。
(チラッとでもいいから、こっち見てくれたっていいのに……)
松浦くんがこんな態度をとるのは、あたしに対してだけなのかもしれないけれど、やっぱり彼の心は氷の様に冷たい。……いや、違う。アレは氷なんかのレベルじゃない。ドライアイスだって言った方がいいのかもしれない。
こんなひとに謝るんじゃなかったと後悔。
しかも謝るために隣なんかに座ってしまった……と、後悔の2連発。今日の塾を何とかクリアできたと言うのに家に着くまでここから地獄の30分を味あわなければならないなんて……悲惨すぎる。
何だかあたしの人生はこの先もずっと後悔ばっかりの様な気がする。あたしのこの情けない性格が祟って。一日だけでいいから“充実してる”と感じられる様な日を送ってみたい……。
初めて塾に行く時に、松浦くんに『おまえには友達がいない』とバカにされた事を思い出した。悔しいけれど、こんなに冷たくって意地悪な彼なのに、何故か学校では友達がいっぱいいる。そして勉強ができるからだろう、頼りにされていて、女の子にも結構モテている。
あたしは隣に座っている松浦くんの顔をチラッと見た。
スッと通った鼻筋。切れ長の目。どうもこのすました顔がオトナの色気を感じさせるのだろうか、お母さんまでもが彼の事をハンサムだって言っている。
きっと塾でもそうに違いない。みんな“本当の松浦くん”を知らないから騙されているんだ————
こんなの、彼の正体を知っているあたしには、ただの冷酷な悪代官にしか見えないのに。
あたしは膝の上に乗せた手を思いっ切り握り締めた。
「こっ、こんなあたしでもねっ、友達……ちゃんとできたんだよ。
も、もう一人なんかじゃないもん……」
震えた声で挑発し、無理矢理作ってみせた得意気な顔で彼を見た。
「……誰だ」
少し間をおいて、松浦くんはそのまま窓の外を見ながら聞いてきた。
無理矢理作った得意気な顔が、松浦くんのボソリと問いかける低い声に若干壊される。
「えっと……同じクラスの高樹、純平くん……」
ガンッ!!
松浦くんは足で思いっ切り前の座席のシートを蹴り付けた。シートが壊れるかもしれないくらいの大きな衝撃音がバスの中に響き渡った。
「こっ、こらっ! 乱暴はやめなさいっ、松浦くん!」
ハンドルを操作しながら彼を叱る蒲池先生。
「——チッ!」
松浦くんは一瞬だけあたしの顔を見て舌打ちをして再び窓の外を見た。
(まっ、負けないもんね……)
☆ ★ ☆
「今日は寝ないんだな……」
「……えっ?」
相変わらず窓の外を見ながらの姿だけど、突然、松浦くんに話し掛けられた。あんなに怒っていたから、もう家に着くまで会話なんてしないと思っていたのに一体どういうつもり————
「だって……眠たくないもん……」
あたしは小さな声で返した。
「フン、どうせお前の事だから講習の時間に居眠りでもしてたんじゃねーの? ダラダラよだれでも垂らして」
彼は鼻で笑って、またいつもの様にバカにしてきた。
「余裕だねェ。もうすぐテストだっていうのに……。ハー、うらやましい」
彼は成績が全教科校内学年トップのくせに、わざと針でつつく様な嫌味を言ってきた。
(……?)
彼にこんな事を言われるのは、いつもの事だと分かっているけれど————なんだか違う。
何となく、ただ単にあたしをいじめているだけではない様に感じた。まるで何か面白くない事があって八つ当たりをされている様な————
(気のせいかな? なんだか松浦くん、今夜は特に……)
確かにさっきシートを蹴り付けて怒っていたみたいだけど、よく考えてみれば“あたしにお友達ができた”事で、どうして松浦くんがあんなに不機嫌になるのかが分からない。元はといえば松浦くんが初めにあたしをバカにしてきたのが悪いんだ。
とにかく相手の顔も見ないで、ヒドい事をこうやってサラサラッと言ってくるところが許せない。
「べっ……勉強? う、うん 、してるよ。ちゃんとしてるもん……」
ホントは全然してなくって焦ってるんだけど、さっきよりも小さくなった声で返した。
バスが赤信号で止まった。
赤信号……あたしも、もうこれ以上余計な事を言わない事に決めた。
(相当キライなんだな。あたしの事……)
無表情で窓の外を見ている松浦くんを見て思った。
ただあたしは……さっき、いっぱい待たせちゃったから、一言謝りたかっただけなのに。
やっぱり松浦くんの隣になんて座るんじゃなかった。
こんなに相性の悪い、愛想のかけらもない人の傍にいても、また衝突事故を起こすだけ。バスが止まっている今のうちに、彼から離れた席に移動しようとあたしは席を立った。
瞬間、信号が青に変わり、再びバスが動き出し、左折をした。
「ひゃあッ!」
そのままバランスを崩し————なんとあたしは松浦くんの上に倒れこんでしまった。
「イタタタ……」
気が付くとスゴい体勢になっていた。
両手を松浦くんの肩の上に乗せて……おそらくあたしはバスが左折をした時に、大胆にも彼の胸の中に顔からダイブをしたのだろう。彼が首に掛けている銀色のペンダントにぶら下がっている十字架の形にクロスした2本の剣(つるぎ)のヘッドが目の前で狂気を放ち冷たく光っている。
おそるおそる顔を上げると松浦くんの顔があった。彼は目を丸くして固まっている。
「うわっ! ご、ごめん、なさいっ!」
彼の顔をいきなり至近距離で見たものだから、取り乱して思わず『うわっ』と叫び声が飛び出てしまった。
あたしは怖くなって、動いているバスの中にも構わず立ち上がり、彼の傍から逃げようとした。
「武藤さん! 運転中に席を立たないでください。危ないですよ!」
先生に注意をされ、仕方なくその場に座った。
すごくイヤそうな顔であたしを見ている隣の松浦くん。彼はまるで汚いゴミでも付いたかの様に上着を両手で払い出した。
「チッ! 痛いのは俺のほうだ」
- なんてったって……バージン ( No.21 )
- 日時: 2013/02/27 16:52
- 名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
(あっ、そうだ)
実は松浦くんに謝った“ついで”に聞きたい事があった事を今、思い出した。
「ねぇ、松浦くん……」
「…………」
松浦くんは一瞬だけこっちを見たけれど、やっぱり何も言わずに窓の外を見た。
絶対聞こえているはず。ここで引き下がったら、あたしの負けだ。
それにバスに乗る前からずっと気になっていた“アレ”の意味を聞くまでには気持ちがおさまらない。
「松浦くんっ」
あたしは彼の膝の上に手を置いて揺らした。
「なに!」
面倒臭そうに彼は鋭い目をして睨み付けてきた。あたしは思い切って……聞いてみた。
「“処女”って……なに?」
「——ッ!!
————はあ!?」
一瞬、バスの中の時間が止まってしまった様な空気になった。
隣で松浦くんが、顔を真っ青にして固まっている。
(あれ? 聞こえなかったのかな?)
松浦くんは何も返してこない。
あたしはもう一度聞いてみる事にした。
「ねぇっ、処女って、どーゆう意味なのか……」
キ————ッ!!
同時にバスも急ブレーキを掛けて止まり、『もう かんべんしてくれ』という様な顔で先生は運転席から首を出して振り向き、あたし達の方を見てきた。
「それ、あいつが……、高樹が言ったの、か?」
松浦くんが声と体を震わせながら問い掛けてくる。
(こっちが聞いてるのに聞き返してこないでよ……)
“ソレ”を言ったのは高樹くんじゃなくって高樹くんの友達だったんだけど。
————そんな事よりも彼の反応を見ると、やっぱり……いや、絶対意味を知っている様だ。
「知ってるんなら教えてくれたっていいでしょ、ねえっ、処女っ……
——もが!」
松浦くんの大きな手が、あたしの口をガバッと塞いだ。まるで人質に捕らわれたかの様に、彼の腕が首に巻き付いていて身動きが取れない。おまけに息もできなくて、あたしはバタバタともがいていた。
「だまれ……。わかったか……」
あたしは何度も首を縦に振って松浦くんの手を離してもらった。
「もッ、もうすぐ着きますから、おとなしく座っていてくださいね……おとなしく……」
先生はオドオドした声でハンドルを握り、バスが再び動き出した。
松浦くんは、あたしの口を塞いでいた手を自分のズボンで拭いてから、1回咳払いをして、
「経験が、まだ……って事だよ……」
自分の顔を手で覆い隠しながら説明をしだした。
説明とはいっても何だか曖昧で、あたしはさっぱり意味が分からず、さらに聞き返した。
「経験……って————何の?」
空気が再び凍りついた。
「え! ……ええッ!?」
松浦くんは、あたしの足の付け根の辺りに視線を落とし、顔を真っ赤にして呼吸を乱した。いつもの超クールなポーカーフェイスの彼とはとても想像がつかない顔を見てしまった。返事を待っているあたしの顔を『そんなに見てくるな』という様な顔で何度もチラチラと見ながら、ろれつの回っていない慌ただしい口調で、
「うん……。だっ、だからな……その……せっ……性……」
と、言い掛けたところでバスが止まった。
「ハイ、着きました! さようなら、武藤さん、松浦くん!」
ずれたメガネをかけ直している何だか焦った様子の先生に、あたし達はムリヤリバスから降ろされた。
バスはそのままあたし達の元から逃げる様に去っていった。
(先生も知ってたのかな……)
結局、あたしだけが意味の分からないまま————
「……むぅっ」
何だか無性に後味が悪い。
あたしは心の霧が晴れない気分で、すぐ横にいる松浦くんを見上げた。
「おッ! ——おまえの事だッッ!!」
怯えた顔で彼は言い放ち、大慌てで家に帰って行った。
21時過ぎの閑静な住宅街に、松浦くんの家の玄関のドアを閉める音が大きく響き渡った。
- キライ同士 ( No.22 )
- 日時: 2013/02/28 16:39
- 名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
————塾、三日目。
「お母さん……。今日、塾休んでも……いい?」
玄関で靴を履いたにもかかわらず、そこから重たい腰をなかなか持ち上げる事ができない。
あたしはずっと座り込んだままで、小さな子供の様にぐずっていた。
「休む? 何言ってんのよ、あんた。まだ通い始めたばっかりじゃないの!
————行きなさい」
お母さんは、あたしの額に手を当てて首を横に振り、玄関の外に押し出した。
「いきなさい」
もう一度強く言われ、ドアを閉められ、鍵まで掛けられた。
外からドアを何度も叩きながら、あたしは半泣きでもう一度お母さんにお願いをした。
「お母さん! あたし、ちゃんと行くから塾まで車で送って!(ちなみに帰りは迎えにきて)」
————塾に行く事が嫌なわけではない。
あたしは……バスに乗る事が嫌だった。
日も暮れ出し、次第に寂しくなってゆく空の下。カレーや焼き魚など、どこかの家の夕食のメニューの美味しそうな匂いが混じり合ってやってくる。
あたしのお腹も寂しくなったのか、地味な音を立てて鳴いた。
塾のある日は中途半端な時間に出て行かなくちゃならないので、学校から帰ってからスナック菓子、もしくは菓子パンを1袋たいらげてから出掛けるのが日課だったが、今日はあまりにも気持ちが沈み過ぎていて何も食べる気にならなかった。
買い物帰りの主婦、公園から帰ってくる子供達、犬の散歩をしている人……家の前を通り掛かる人達が哀れんだ顔であたしの事をジロジロと見ながら通り過ぎていく。カラスまでもが屋根の上から見下ろして、バカにして笑っている。
恥ずかしい……。このままここで溶けてなくなってしまいたい————
あたしは沈みゆく夕日の色に負けないくらいに顔を赤くしてドアの前でうずくまり、しゃがみ込んだ。
「おい! はやく乗れ!」
無理矢理に涙でも絞り出して、もう一度お母さんに塾を休ませてもらう交渉をしてみようかと考えていたら、後ろから松浦くんに足でお尻を小突かれた。
バスはすでに家の前でエンジンを掛けたまま停まっている。
なかなか家から出てこないあたしを先生に『連れてこい』とでも頼まれたのか、彼は面倒臭そうにあたしの両脇に手を入れて立たせ、手首を掴んだ。
「はぁ。……ガキか、おまえは。————来いっ!」
相手が女の子だというのに……。しかし、そんな事などお構い無しに、松浦くんはあたしの手首を握る手に思いっ切り力を込めて引っ張った。
「い、痛いッ!!
ちゃっ! ちゃんといくから! お願い! もっとやさしくしてぇっ……!!」
あたしの返した言葉に、彼は謝って引っ張っている手を離してくれるどころか、逆にさらに力を入れて引っ張った。
「ばっ、バカ!! うるさいぞ、おまえッ!!」
顔を真っ赤にした松浦くんが小声で怒鳴る。
————怒ってる?
ちゃんと“いく”って言ってるのに。
彼に掴まれている手首が赤くなっている。怒る方の立場はあたしだよ……。
「ヒューヒュー、恋人ですかー?」
家の門をくぐり抜け、バスの停まっている道路に出ると、近所に住む小学生の男の子達が通りすがりに大きな声であたし達の事を冷やかしてくる。
(冗談じゃ、ないっ!)
————こんなのと恋人だなんてまっぴらゴメン!
あたしは松浦くんの手を振り払ったが、そのまま彼に着ているパーカーのフードを引っ張られて、強引にズルズルとバスの中に引きずり込まれた。
「……座れ」
窓際のシートに座った悪代……松浦くんが、隣の座席を手の平でトン、と叩いた。
あたしは仕方なく彼に従い隣の席に座ると、バスが動き出した。
実はあたしがバスに乗るのがイヤだったわけは、松浦くんに会いたくなかったからだった。
何故かというと————
「フーン。どうやら昨日の“アレ”が分かった様だな……」
彼はあたしの反応をニヤニヤしながらうかがっている。
「辞書で……調べたから……」
「ぷぷっ! クックック……」
松浦くんが隣で笑いを堪えている。絶対こうなるハメになるんだと予想をしていた。もう恥ずかし過ぎて彼の顔を見る事ができない。どうせこれ以上話したって、彼の作ったアリ地獄に飲まれ、沈んでいくだけの様な気がする。いっそこのままバスの窓から飛び降りて逃げ出してしまいたい気持ちだ。
「まさに、おまえの事……だっただろ?」
彼は鼻で笑って窓の外を見ながら話し出した。
「勉強はできないわ、一般常識もわきまえていないわ、空気も読めない……。
本当おまえって、ギネス級のバカなんだな。
おもしろすぎて……昨夜、眠れなかったぞ、俺……」
何もそこまで言わなくたって……。
松浦くんの意地悪さこそギネス級だ。まぁ、ソレはあたししか証明できない事なんだけれど。世間に公表したとしても、誰にも信じてもらえなくって余計に馬鹿にされるのが目に見えているから、結局何も言えない情けないあたし……。
「でも……知りすぎちゃってる子よりは……いいでしょ?」
あたしは膝の上で手の平を擦り合わせながら、松浦くんを見た。
彼はカバンの中から出したチューイングガムを口の中に入れて窓の外を見た。
「まあな。だけどおまえの事は嫌いだ……」
(あたしだって……!)
——悔しい! 先に言われた!
「!」
突然、松浦くんがあたしの手を握ってきた。
そして、握った膝の上のあたしの手をひっくり返して親指で撫でている。
くすぐったくって……気持ち悪い————
彼の噛んでいるミントのガムのスーッとしたにおいと一緒に、あたしの体もスーッと寒気を感じた。
(さっき、あたしの事キライだって言ってたのに……)
————やっぱり、この人は何を考えているのか分からない。
「小せぇ手……。こりゃ、一生チビのままだな。140ねぇだろ」
(えっ?)
彼は淡々とした顔で、あたしの一番気にしている事を言ってきた。
「あ、あるもんっ」
腹が立って……二センチ、サバを読んでしまった。
「何おまえ。俺に好きになって欲しいの?」
身長の事を言われて動揺してしまった事を、手を触られて動揺したと思われたのか。違うのに————!
彼はニヤニヤしながらあたしの顔を覗きこんできた。
「勉強はできない。可愛くもない……。そんなおまえを好きになるには、相当の努力が必要だよな! ハハッ」
「——ッ!」
あたしは体中の全神経を右足に集中させて、思いっきり松浦くんの足を踏ん付けた。
- キライ同士 ( No.23 )
- 日時: 2013/03/04 16:13
- 名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
☆ ★ ☆
「はい、着きましたよ」
バスは塾の駐車場で停まり、先生がエンジンを止め、振り向いた。
いつもなら先に降りて早々と逃げていってしまうはずの松浦くんが、何故か今日は動かない。無言でガムを噛みながら腕組みをしてバスの天井をジーッと見つめている。
ついさっき、あたしをバカにして嘲笑っていた彼が、今は何か考え事をしているかの様に真剣な顔をしている。
————不気味だ。早く逃げよう。
「あたし先に行くね……」
何か嫌な予感がする。
早くこの場から……松浦くんの元から逃れて高樹くんに会いたい。
あたしは席を立ち、松浦くんに背を向けた。
「待てよ。まだ行くなって、“なみこ”」
パーカーのすそを引っ張られ、強引に再び座らされた。
昨日の帰りのバスからだろうか。さっきもバスの中でいきなり手を握ってくるし————やっぱり松浦くんの様子がおかしい。
(今まであたしの事、あんな風に下の名前で呼んでくる事なんて無かったのに……)
————少し怖くなった。
「俺に、ついてこい……」
「え……?」
いきなり彼に腕を引っ張られ、あたしは強引にバスから降ろされた。
(痛い……怖いよ……。たすけて高樹くん————!!)
「——なみこちゃんっ!」
自転車置き場の方から高樹くんが走ってきた。
彼は手の甲でおでこの汗を一拭きして、松浦くんに掴まれているあたしの腕を見て唇を噛み締めている。
「彼女は僕が連れていく……」
高樹くんは、普段あたしには見せた事のない険しい顔で松浦くんの前に立った。
松浦くんは鼻で一息ついてからニヤッと笑い、答えた。
「悪ィな、高樹君……。少し、こいつ借りてくわ。
あー大丈夫、大丈夫。後でちゃんと返すって。な?」
(“借りる”とか“返す”って……あたしを物扱いしないでよっ!)
あたしと同じ歳なのに、いつもエラそうに威張ってて、二重人格で、あたしの事をバカにして……大っキライ!
そんな松浦くんは階段を、またもやあたしの腕をグイグイと引っ張りながら、あたしたちの教室のある2階を越え、3階へと向かって昇っていく。
「誰も見てないから……いいじゃん……」
————あの日の夜の事を思い出した。3階の廊下は高樹くんともう少しでキスをしたかもしれなかった思い出の場所。
松浦くんとなんて————絶対に行きたくない!
「やだッ! あたし行きたくない! ——戻るッ!」
2階と3階の間のおどり場で、あたしは彼に掴まれている腕を離そうと力を込めた両手を使って必死で抵抗した。しかし男の子の強い力になんて到底敵うワケがない。
「チッ! うるさい女だな」
舌打ちをして松浦くんはあたしを軽々と持ち上げ、10キログラムの米袋を運ぶ時の様に肩に担いだ。そのまま3階の廊下を、足元に無造作に置かれている段ボール箱を足でかき分けながら、まっすぐ進んでゆく。
高樹くんとはここまで廊下の奥に来た事は無い。
日はすでに落ち、電気も点いていない暗い静かな廊下。暗い事だけではない。今、一番怖いと感じるのは、いつもとは明らかに様子の違う松浦くん。あたしをどこに連れて行き、何をしようとしているのか————
気が付くとあたしは廊下の一番奥にある、怪しげな部屋の前に連れてこられていた。1階と2階のベージュ色の鉄製の塾のドアとは違う、黒いレザー張りの扉が目の前に立ちはだかっている。
そういえば、ここは塾になる前はパブとか……そういうお店————
“空”と黒いマジックで手書きで乱雑に書かれた段ボールの切れ端で作った表札がドアの取っ手に掛かっている。松浦くんはそれを裏にひっくり返し、“使用中”に変えてあたしを担いだまま中に入った。
部屋の中は、見渡してもどのくらいの広さか分からないほど真っ暗で何も見えない。ほこりっぽくて、変な臭いがする。
「——ひゃっ!」
多分あたしの顔にクモの巣がダイレクトに引っ掛かった。
「ま、松浦くん……。ここ……何の、部屋?」
「…………」
「なんのへやなの!!」
「…………」
————何度も聞いているのに返事が返ってこない。
絶対聞こえているはずなのに!
「……おろして」
あたしを担いでいる松浦くんの顔が向こう側にあって、彼が今どんな顔をしているのか分からない。
怖い顔をしているのか。
バカにした顔をしているのか。
松浦くんはあたしの様な邪魔者が塾に入ってきた事が気に入らないはず。きっと鬱憤が溜まっておかしくなってるんだ。
でも! あたしだって好き好んで塾になんて入ったワケじゃないのに。しかも松浦くんと一緒の塾になんて『お金をあげるから行け』って言われたって行きたくないんだから————
(スキを見て逃げよう……)
あたしは今、その事ばかりを考えている。
カチャン……。
松浦くんは何も言わずにドアの鍵を閉めた。
彼はおそらくこの部屋が何の部屋なのかを知っているのだろう。そして、ここでわたしに何かしようとしている。
今更気付いたって————もう遅い。
あたしは、まんまと松浦くんの罠に掛かってしまった。
- 怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎 ( No.24 )
- 日時: 2013/03/06 16:39
- 名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
……パチン。
松浦くんは担いでいたあたしを降ろし、電気を点けた。
「!」
部屋全体がワインレッド色に染まった。天井も壁も床も……全部同じワイン色。
両方の自分の手の平を広げ、顔の前に近付けた。
ワイン色に染まったあたしの手の平……。
(何、このへんな色……)
背後からワインレッド色になり、いつもより増して怪しい雰囲気をパワーアップさせた松浦くんがゆっくりと近付き、あたしの肩にそっと手を置いた。
「ん?
ああ、確かに変だよなァ、この照明の色。
誰かが蛍光灯に細工でもしたんだろ。勉強もしねぇで、こんなことに時間費やして……。
————お盛んな奴等だぜ、全く」
まるで赤ワインの入ったグラスの中に沈み堕ちていくような気分。
ずっとこの部屋にいたら、本当に酔っぱらってしまいそう。
あたしは、おそるおそる部屋を見渡した。
壁にはダーツボードが掛けられていて、床にはホコリだらけのお酒が何本か入った木箱。部屋の端にはボロボロのビリヤードの台が無造作に何台か積み上げられていて、その中の1台が部屋の真ん中にポツンと置かれている。台の上には箱ティッシュ一箱と丸めたティッシュのゴミがゴロゴロと散乱している。
「この部屋が……なんの部屋か、って?」
松浦くんはあたしの両脇に手を入れ、まるで小さな荷物を運ぶ様に軽々と持ち上げ、部屋の真ん中に置かれているビリヤードの台の上に座らせて話し出した。
「ヤリまくり部屋……って、俺たちは言っている。
そういえば、おまえはまだ、この塾に入ったばかりだから知らねぇか」
(やりまくり、べや……?)
ビリヤードをやりまくるのだろうか。————絶対そんなワケがない。
ニヤニヤしながら話す松浦くんの顔を見て、あたしは察した。
集中どころか頭がおかしくなりそうなこの部屋の色。それに……こんなにゴミが散らかった傷だらけの台でビリヤードなんてできるのだろうか————
「この塾のカップル達が、“楽しーコト”スルための部屋……だってさ」
彼はあたしの表情をおもしろそうにうかがいながら、着ているパーカーのえり首から手を忍び込ませ、鎖骨を指でゆっくりと撫でてきた。
「なァ……これ以上言わせる気かよ……。ホントはもう分かってるんじゃねーのか。————いじわるだなぁ、なみこ……」
「……やめてッ!!」
全身に鳥肌が立ったあたしは彼の手を掴んで止めた。
「俺がいつも、どんな気持ちでいるのかも知らねぇでヘラヘラしやがって……。どうせ、恋愛小説なんかの世界にでも夢見て浮かれちまってんじゃねぇのか?
————おまえ……高樹にメチャクチャにされるぞ……」
ワインレッドの照明が、あたしのいかりの炎を増強させる。
「へっ、変な事言わないでよッ! 松浦くんのバカ! 大っキライ!!」
あたしはビリヤードの台の上から、目の前の松浦くんを思いっきり蹴飛ばして叫んだ。
松浦くんはあたしに蹴られて倒れている。
勢いだとはいえ、マズい事をしてしまった。
(に……逃げよう!!)
あたしは慌てて台から降りて視線をドアに向けた。
「——っ! 痛ぇなコラ!!」
彼は起き上がり、あたしを睨み付けて飛び掛かってきた。
「 !! 」
あまりにも予測不能な彼の行動。どうして“こんな事”をしてきたのか————
突然、あたしは松浦くんに強く抱き締められたのだ。
「————これでもまだ分かんねぇのか。……バーカ」
プライドの高い彼の事だから、蹴られた仕返しに10倍返しで反撃されると思っていた。
あたしは恐怖と混乱で松浦くんの胸の中で固まってしまった。
気のせいなのかもしれないけれど、バカにされた言葉のはずなのに何故だろう……。あたしを抱き締めながら耳元で囁く彼の声が少し震えていた様な感じがした。
松浦くんはあたしに何か大事な事を伝えようとしているみたいだけれども、はっきり言ってくれないから分からない。そんな事よりも、身長170センチ近くもある彼に、こうやって力の加減無しで覆い被されている状態で抱き締められていて苦しい。
多分、もう1分以上もこの体勢ではないだろうか。
————いい加減に離してほしい。
『蹴っちゃってごめんなさい』って言おう……。
そう思った時に、彼は抱き締める腕の力を緩め、あたしの顔を覗き込んできた。
研ぎ澄まされた刃のような視線を顔面に突きつけられ、あたしは言葉を失った。
「俺が先に奪ってやる……」
「 !! 」
口の中に広がるミントの味。
あたしのファーストキスは、予想もできない不意打ちで松浦くんに奪われてしまった。
「……じゃあな。楽しかったぞ、なみこ」
あたしのくちびるを指でギュッとつまんで鼻で笑い、彼は一人で部屋を出て行った。
あたしの口の中に、噛みかけのガムを残して————
☆ ★ ☆
(……よし。松浦くん、もういないな……)
“やりまくりべや”のドアを開け、顔を出して覗いて確認をしてから、あたしは廊下に出た。
でも、いくらこんな事をしたって、どうせまた帰りのバスでイヤでも顔を合わせなくちゃいけない。彼からは逃げたくても逃げる事ができない。
さっき、松浦くんに強引に口移しで放り込まれたガムも捨てて、くちびるも箱ティッシュが空っぽになるまでいっぱい使って拭いた。でも……ミントの味が消えただけで松浦くんの味は消えてくれない。
『楽しかったぞ……なみこ……』
勝手にあんな事をしておいて“楽しかった”だなんて……。あたしを見下ろし、いやらしく笑っていた彼の顔も消せない。
せっかく素敵な思い出の場所として胸の中に残しておいた“3階の思い出”が、松浦くんのせいで、今夜一気に最悪の事故現場へと崩れ堕ちてしまった。
思い出したくない……。もう二度とここへは来たくない————!!
あたしは両方の手の平をギュッと握り締め、早歩きで廊下を渡った。
教室に戻ろう。
とにかく高樹くんの前では、何も無かった様な顔をしていなくっちゃ————
「!」
階段を降りようとしたら、2階から高樹くんが昇ってきた。
(どうしよう……。よりにもよって、こんなところで会っちゃうなんて……。3階に松浦くんと一緒にいた事、知られちゃったかも————)
あたしは頑張って何も無かった様な顔をしたつもりだったけれど、絶対、動揺している顔になっていた。
『なみこちゃん』
いつもなら、こんな風に優しい笑顔で呼んでくれる彼が、あたしの顔を見ても何も言わずにゆっくりと昇ってくる。
キーンコーン。
高樹くんが階段をあたしのいる所から1段下の段まで昇ってきた時、始令のベルが鳴り出した。
「————サボっちゃおっか」
驚いている間もなく、あたしの手は彼に握られ、再び3階に連れて行かれた。
————松浦くんだけではない。高樹くんの様子も今日はなんだかおかしい。
「だっ、だめだよ高樹くんっ、戻らないと叱られちゃうよ……。
あたし達、この前も問題起こしてるし……マズいよっ……」
高樹くんに手を引かれ3階の廊下を渡りながら頭の中に色んな事が浮かび上がってくる。
ビリヤードの台の上で高樹くんにキスされて……
服を脱がされて……
キスされて……
いろんなところを触られて……
キスされて————
☆ ★ ☆
気が付くとあたしたちは“やりまくりべや”の前に来ていた。
高樹くんはドアを開けて、あたしの背中を押した。
「僕の事、嫌いだったら————ごめん」
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