複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

たか☆たか★パニック(松浦鷹史くん・武藤なみこちゃんCV)
日時: 2013/04/11 17:11
名前: ゆかむらさき (ID: E/MH/oGD)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 ※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
 この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
 12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。


 ☆あらすじ★
 冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。 
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!


 視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
 読者の方を飽きさせない自信はあります。
 楽しんで頂けると嬉しいです。


 ☆ドキドキ塾日記(目次)★
  >>1 宣伝文(秋原かざや様・作)
  >>2 はじめに『情けなさすぎる主人公』
  >>3 イメージソング
 塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
  >>6-7 『いざ!出陣!』
  >>8 『夢にオチそう』
 塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
  >>9-10 『忍び寄る疫病神』
  >>11-12 『もの好き男の宣戦布告!?』
 塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>14-15 『初めての恋、そして初めての……』
  >>16-17 『王子様の暴走』
  >>18-19 『狙われちゃったくちびる』
  >>20-21 『なんてったって……バージン』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>22-23 『キライ同士』
  >>24 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
  >>25-26 『一線越えのエスケープ』
  >>28 『美し過ぎるライバル』
 塾3日目(主人公・高樹純平くん)
  >>29 『女泣かせの色男』
  >>30-31 『恋に障害はつきもの!?』
  >>32-34 『歪んだ正義』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>35-37 『ピンチ! IN THE BUS』
  >>41 『日曜日のあたしは誰のもの?』
  >>42-44 キャラクター紹介
  >>45-47 >>48 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
  >>49 >>50 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
  >>102 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>51 『祝・ドキドキ初デート』
  >>52 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
  >>53 『少女漫画風ロマンチック』
  >>54-55 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
  >>56 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
  >>59 >>61-65 >>68-69 たか☆たか★“裏ストーリー”第1章(主人公・松浦鷹史くん)
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>70 『残され者の足掻き(あがき)』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>74-78 『王子様のお宅訪問レポート』
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>79-80 『拳銃(胸)に込めたままの弾(想い)』
  >>81 『本当はずっと……』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>82-83 『闇の中の侍』
  >>84-85 『こんな娘でごめんなさい』
  >>86 『バスタオルで守り抜け!!』
  >>87-89 『裸の一本勝負』
  >>90-91 『繋がった真実』
  >>92-96 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
  >>97 宣伝文(日向様・作)
  >>98 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
  >>99 たか☆たか★“裏ストーリー”(主人公・高樹純平くん)
 日曜日(主人公・高樹純平くん)
  >>106 『もう誰にも渡さない』
  >>114 たか☆たか★(松浦鷹史くんCV・トレモロ様)
  >>115 たか☆たか★(武藤なみこちゃんCV・月読愛様)

たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜【キャライラスト】 ( No.50 )
日時: 2012/11/19 16:53
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)
参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/475jpg.html

わたしのお友達、虎くん(ステッドラーさん)に書いていただいた、徳永静香ちゃんのイラストです!

静香:「うっふん……わたしを落とすのは誰かしら?」

釜斗々中の名物(巨大スイカ)アイドルです(笑)

祝・ドキドキ初デート ( No.51 )
日時: 2012/11/20 07:46
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)

「うー……ん、ふあぁ……っ」
 あたしはあくびをしながら伸びをした。
 どうやら昨夜カーテンを閉めずに寝てしまった様で、ベランダの大きな窓から眩しい日差しがあたしを思いっ切り照らしている。
 さっき“すごい夢”を見たせいなのだと思う。ベッドから落ちている。多分その時に打ったのだろう、お尻がジンジンと痛む。 
 ベッドから半分ずり落ちている掛け布団を足を使って元に戻して、いつも以上にボサボサになっている髪を手ぐしで整えながら起き上がった。
 このまま起きようか、もう一度寝てしまおうかと真剣に考えながら、あたしは着ているパジャマをポイポイと脱ぎ捨てて、いちごの柄が散りばめられたタンクトップとパンティー姿になった。
 窓越しに自分の部屋からよく見える松浦くんの部屋。
 模試の日が近いからなのだろう。どうやら昨夜から徹夜をして勉強をしていたらしい。いつも外出しない時もツンツンにキメている髪の毛をペタンコにしたまま教科書を見ては真剣な顔でノートに何やら書きこんでいる。
「松浦くん……がんばってるなぁ……」
 寝ぼけまなこの目を擦りながらあたしはつぶやく。
 多分(学校の)クラスのみんなは毎回こんなに頑張ってテスト勉強をしている松浦くんの姿を知らない。
 みんな……彼の事を“勉強しなくても、できちゃう人”だと思っているから。
 この彼の秘密を知っているのは、きっとあたしだけ————


 いい加減起きればいい時間なのに、まだ意識を半分以上も夢の世界に残しているあたしは、そのままその格好で再びベッドに横になり、ゴロゴロしていた。
 おへそを丸出しにして、もう少しで胸が見えるくらいギリギリの所までタンクトップをめくり上げらせて————
「ん、んーっ……」
 ちょうど傍に転がっていた抱き枕に手と足で一緒に抱きついて、
「えへ。二度寝って、最高」
 またしてもカーテンを開けっ放しのままで、だらしなくゴロゴロと転がって1人ではしゃいでいた。
 ————“パジャマを脱ぎ捨てて……”の所から、あたしのあられもない姿を実は松浦くんにバッチリ見られていたことも知らずに……。


「ふぅっ……」
 あたしは抱き枕にうずめていた顔を離した。
「高樹くん……今、どうしてる、かなぁ……」


「 !! 」(今日、何曜日だったっけ!!)


 抱き枕を投げ捨て、ベッドから飛び出したあたしは、壁に掛かっている日めくりカレンダーの元へと走った。
 “土曜日”の青い数字を見てあたしの顔も青ざめた。
(今、何時!?)
 カレンダーを一枚破き、時計を見て……もっと青ざめた。
(9時15分……。目覚ましセットするの……忘れちゃった!!)


 念願の高樹くんとの初めてのデートなのに、いきなり何をしでかしているのか……。あたしは半泣きで自分で自分を責めながら、タンスの中から適当に手に取った服を慌てて着た。
 開けた引き出しは開けっ放し、開けたドアも全て開けっ放しにしたままで、
「いってきまーす!」
 最小限のエチケット……洗顔と歯みがきだけはしたけれど、朝ご飯も食べずに家を飛び出した。


「ちょっとあんた!  どこ行くかくらい言ってから出掛けなさいっ、なみこっ!」
 玄関から顔を出してお母さんが大きな声で何やら叫んでいるけれど、あたしは今それどころじゃない。


(ごめんね高樹くん……。もう! ホントあたしバカ!!)

遅刻した罰は……みんなの見てる前で…… ( No.52 )
日時: 2012/11/26 10:12
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)

「はあっ……
         はあっ……
                 ちょっ! ちょっと待ってえぇ……っ」
                                       ブロロロロ…………。


「……いっ、ちゃっ、た」
 ここでこのバスに乗る事ができたらデートの待ち合わせの時間までになんとかギリギリで間に合うかもしれなかったのに————あと少しのところでバスを乗り過ごしてしまった。
 誰も居ないバス停で力の抜けたあたしは、よろめきながら標識に近付いていった。そして時刻表に人差し指を付けて、次に来るバスの到着時間を確認した。
(もうダメだ。遅刻、決定……)
 学校行事の“持久走大会”ならまだしも、よりにもよって“高樹くんとのデート”でこんな事をしでかしてしまうなんて……。どんどんとあたしは不幸のどん底にハマっていく。
 きっとこれは運が悪いわけではない。お母さんや松浦くんにあんなに『しっかりしなさい(しろ)』ってきつく言われ続けていたのに……自分のいつもいい加減な気持ちで生きてきた日常が、こんなかたちで“仇”になって返ってきたんだ————
 あたしは目に涙を溜めながら、少しでも早く待ち合わせ場所の塾に到着できる様に早歩きで次のバス停まで歩いた。


     ☆     ★     ☆


「はぁ……」(あと15分で10時になっちゃう……)
 あたしはため息をつきながらバス停の長椅子に腰を掛けた。
(こんなハズじゃなかったのに……)
 昨夜、寝る前、ベッドの中で妄想した高樹くんとのラブラブデートシミュレーションによれば……。


 【出演:武藤なみこ・高樹純平】
 自転車で風を切りながらあたしの方に向かってくる高樹くん。あたしは待ちきれなくて、約束の時間よりも30分も早く塾に到着していた。
 高樹くん:「ごめん! 待った!?」(息を切らしながら自転車を止める)
 あたし:「今来たところです」
 高樹くんは両手であたしの手を包み込む。
 高樹くん:「なみこちゃん……手が冷たいよ……。本当は待ってたんでしょ?」
 あたし:「えへへ。高樹くんに会いたくて……早く来すぎちゃった」


 あたしから誘ったデートで大遅刻だなんて……ふざけてるよね……。もぉ最悪……。


 座ると同時に目の中に溜まり続けていっぱいになった涙がポロポロとこぼれ出した。
 どうせバスに乗り遅れてこんな風に無駄な時間を持て余すハメになるんだったら、こんなダボダボのセーターにデニムのショートパンツなんて子供っぽい格好なんかじゃなくって、めったに着る機会が無く、タンスの奥にしまいこんであった、よそ行き用の“いっちょうら”、ピンク色の生地に白い花柄が散りばめられた乙女チックなワンピースでキメてこれば良かった。
 大好きな高樹くんとのデートなんだから、ちゃんと早く起きてもっと時間をかけてオシャレしたかった————
 震える膝の上で、ギュッと握り締めた手の甲にポタポタと涙が落ちる。


「……おねーさーん」
 涙を落としながらうつむいていると、ふと目の前にピカピカに磨かれた小さな茶色のローファーを履いた細い足が見えた。
 顔を上げると、黒いブレザーに赤いタータンチェック柄のミニスカートをはいた10歳くらいの黒髪、おかっぱ頭の女の子が、ちょっぴり背伸びをした学生風ファッションでキメて片方の手を腰に当てて立っている。
 彼女は何も言わずにあたしの頭に優しく手を置いて隣に座った。
 ————『泣かないで』と、慰めてくれるのかと思ったけれど大間違いだった。


「……やめてよね。舞、これからデートなのにさ。そんなに泣いたら雨降ってきちゃうじゃない。
 ああもう! いや、いやっ! 初っぱなからこんなにオイオイ泣いてる人に出逢っちゃうなんて……縁起わるいわ」


(うわぁ……。松浦くんの女の子バージョンが、いる……)
「ごっ……ごめんね、舞ちゃん」
 あたしはハンカチを出してサッと涙を拭き、彼女に微笑みかけた。
「プッ! へんなかお」
 初対面。しかもあたしの方が歳上なのに、彼女に思いっ切りバカにされた言葉で返された。————確かに鼻水も一緒に出ていたし、変な顔だったかもしれないけれど……。


 ブロロロロ……
          キ————……
                     シュ————ッ……。


 やっとバスが来た。
 あたしは舞ちゃんの隣の席に腰を掛けた。
「なんでわざわざ舞の隣に座ってくるのよ。他にもいっぱい席、空いてるじゃない」
 彼女は松浦くんそっくりな嫌そうな顔であたしを見ている。
 しかし、どうしてだろうか。強気な事を言っている割には不自然に彼女の声が震えている様な気がする。
 あたしは彼女に耳打ちをして言った。
「————実はね、あたしもデートなんだ。……今日ね、生まれて初めて好きな人とデートするの」
「ふーん。頑張ってね……」
 やっぱり彼女の言葉の中に緊張が見える。そして体も小刻みに震えている。————もしかして彼女も今日が初めてのデートなのだろうか。
 お行儀良く……ではなく、震えを止めているかの様に堅く膝の上に重ねている舞ちゃんの手をあたしはそっと握った。


「うん、ありがとう。がんばろうね」


 舞ちゃんはあたしの降りるバス停よりも、3つ先のバス停で降りるのだと言っていた。
 そこはこの辺りでは一番栄えている街で、ボーリング場や映画館などといった遊戯施設がある。しかし、彼女たちのデートをする場所は予想外にもあたしはまだ1度も行った事のない……っていうか行こうとも思った事もさらさら無い最近できたばかりのアウトレット・モールだった。
「最近の小学生って進んでるんだね……」
 驚いたわたしに「まあね」とスパッと返す彼女。
 大きな瞳をキラキラと輝かせながら好きなファッションブランドの事や、憧れているモデルの事を話す舞ちゃんの顔は、出だしからつまずいてしまい沈んでいたあたしの心を引き揚げてくれた。


     ☆     ★     ☆


 ブロロロロ……。


 塾の近くの大型スーパーマーケットの前のバス停でバスが停まった。
「またいつか逢えたらデートのお話、聞かせてね」
「お姉さんもね」
 別れ際、今度はあたしが舞ちゃんの頭を撫でて席を立った。
 バスを駆け降りて飛び出し、あたしは全力疾走で塾へと向かった。とにかくスニーカーを履いてきた事“だけ”は良かった。
 途中で赤信号に引っ掛かりながら、がむしゃらになって走った。 
 ……もう髪の毛はボッサボサ。汗だっくだく。————こんなセーターなんて着てくるんじゃなかった……。


 ————またもや赤信号。
 まるでどこか遠くで誰かがあたしに向けて呪いをかけているかの様に、結局今日出会った信号機は全て赤ばっかりだった。


「なみこちゃん!」
「!」


 交差点の横断歩道。信号が変わるのを待っているあたしがいる反対側に……満点の笑顔で自転車にまたがって手を振っている————高樹くんがいた。


「高樹……くん……」
 彼は自転車をガードレールに立て掛けさせ、あたしをまっすぐ見ながら信号が青に変わるのを待っている。


 ピッポッ、ピッポッ、ピッポッ……。


 信号が青になり、高樹くんは髪の毛とジャケットのすそをなびかせて走ってきた。
 信号機から流れるメロディーとあたしの心臓の音が重なる。
 このあとはきっと……彼の事だから『会いたかった』と優しく頭を撫でてくれるのかと思った。
 横断歩道を渡り、息を切らした彼はあたしの前で足を止めた。
「————どうして遅れたの?」
「え?」
「なみこちゃんの方から誘ってきたくせに……ふふっ」
 あたしが遅刻たから怒っているのだろうか。しかし、どうやらそうではないみたい。だって……なんだかニコニコしている。


「……ねぇ。ここってさ、塾と比べものにならないくらい……人が多いよね」
「う……うん」
 たしかにこの交差点は近くに大型スーパーマーケットがあるし、飲食店も多い。……それに、なんてったって今日は日曜日だし。
「どーして遅れたのー?」
 あたしの両肩に手を置いて、高樹くんは顔を覗き込んできた。
 あたしの心臓の音が信号機のメロディーよりも早く刻み出した。
「ごめんなさい……。えっと……寝坊、しちゃっ た」


「……プッ」
 吹き出して笑った高樹くんに、あたしは優しく抱き締められた。
「僕、今日のデート、すごーく楽しみにしてたのになー……
 なみこちゃんは忘れちゃってたのかー。……フーン。」
 横断歩道を渡ろうとする人達が、通りすがりにあたしたちの事をジロジロと見ていく。
「たっ、高樹くんっ、ここは恥ずかしい……っ」
(前にちゃんと言ったのに……)
 あたしは高樹くんの胸を押して腕を解こうとした。 しかし抱き締める手に力を入れた彼に、もっと強く抱き締められた。
 あたしの体温が急上昇している。もう限界……おふろに長く浸かり過ぎちゃった時の様に、ふわふわ……って倒れてしまいそう————
「ふふっ」
 高樹くんは小さく笑ってあたしの耳元で囁いた。


「みんなの見てる前で……恥ずかしいコトしちゃおうかな……」
(……え?)

少女漫画風ロマンチック ( No.53 )
日時: 2012/11/26 13:23
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)

 あたしの頬に指を添え、高樹くんの顔が近付いてくる。
(恥ずかしい事、って……まさか、こんなところでキ……
 ————うっ! ウソでしょおッ、高樹くん!)
 だって、だって! なんてったってここは人通りのめちゃくちゃ多い交差点。
 横断歩道のすぐ横の車両停止ラインに大きなコンテナを積んだトラックが低い排気音をさせながら停まっている。運転席の窓からタバコを一本指に挟んだ日に焼けた太い腕を出して、フロントガラスからニヤニヤしながらあたし達の事を見下ろしている茶髪スポーツ刈りのお兄さんと目が合った。……合った瞬間、恥ずかし過ぎて逸らしてしまったけれど。
 どうしよう……。お母さんとか学校の人とかにこんな事している姿を見られてしまったら————
 あたしの知っている人は多分ここにはいないとは思うけれど、もしかしたら塾の人が……っていうか、高樹くんの知り合いが、絶対いそうじゃんっ!


 いくら“約束”だとはいっても、いきなり“してくる”だなんて!
 こういうコトをみんなに見せびらかして“やる”のは普通……(……ん? “普通”じゃないかもだけど)もっと……なんかこう……デートの回数を何度も重ね、深い関係になったラブラブカップルとかが————って! もう、自分でも何が言いたいのか分からないけれど……想像を超える程大胆な彼の行動に、どう応えたらいいのか分からなくて、アワアワとうろたえる事しかできない。
 結局何も言えず、あたしは目を閉じて顔を逸らした。
「……冗談だって。“まだ”しないよ。うん、ビックリした顔も……可愛い」
 抱き締めた腕を解いて、高樹くんはあたしの頬を指でつついて笑った。
 あたしが目を開けると、
「おいで」
 彼はあたしの手を引いて横断歩道を渡り、ガードレールに立て掛けさせてある自転車の元へ向かって歩いた。


「後ろ、乗って」
 自転車にまたがった高樹くんが、眩しく輝く太陽を背景(バック)に嬉しそうな笑顔で振り向いた。
 やっぱり今日の服をワンピースにしないでショートパンツに決めてよかったと思った。……別に決めたワケではないくせに。
 自転車の荷台に腰を掛けたあたしは、おそるおそる彼の背中から腕を回した。
 あんまりくっつくと胸が当たっちゃうし、くっつかないと落ちちゃうし……なんてうだうだ考えている間に、
「ふふっ。ちゃんと掴まってないと落ちちゃうよーっ」
 高樹くんはペダルを(わざと?)思いっ切り漕ぎ、急発進で自転車が走り出した。
「ひゃあっ!」
 回した手に力を入れて、あたしは彼の背中に顔をうずめた。
 さわやかなシトラスの香りの奥に……男の香りがする。
 ドキドキが止まらない————  
 このままわたしは自転車の後ろに乗りながら、激しく動き過ぎた心臓が壊れて死んじゃうかもしれない————と思った。 
(何か……何でもいいから話さなくっちゃ……っ)
「——ねぇ、高樹くん……」
「なに?」
「えっと……さっき、あたしに……キス……しようと、した?」
「キスか……」
 高樹くんは一瞬だけ振り返ってあたしの顔を見て前を向いた。


「うん。したかったけど……我慢した。
 僕ね、おいしいおかずは最後にとっておくタイプなんだ」


     ☆     ★     ☆

 キスの話をしたはずだったのに、ご飯の話になっちゃった。
(高樹くん、お腹が空いてきたのかな?)
 あたしは頭の中に高樹くんの好きそうな食べ物を描き始めた。
 フランス料理のフルコースや、高級懐石料理とかが次々と出てきて、つい、よだれが————


「なみこちゃん、見て」
「はっ、はいっ! えッ? ——なにっ!?」
「……プッ」
 周りの景色なんて目に入らないくらい、高樹くんの意外にも(?)がっしりしている男らしい背中にほっぺたをつけて、彼とテーブルで向かい合ってランチを楽しむ姿を妄想してうっとりしてしまっていたあたし。まだ会ったばっかりなのに、もう何回彼に笑われてしまったのだろう。
 何か話さなくちゃ……なんて言っちゃって、自分は全然人の話を聞いてないんだから————


 高樹くんは自転車のペダルを漕ぐ足を止め、急な下りの坂道を降りている。
「どこ?」
 そして彼の背中から顔を離しキョロキョロしているあたしに、人差し指で示した右手を横に伸ばした。
「ここっ。塾の帰り道の夜景がね、すっごーく綺麗なんだよ」
 ガードレールの横に見える澄んだ青空との境界線に鮮やかな緑の広がる街並みが見える。
 日中の今でもこんなに素敵な景色が夜になった時の事を想像してみた。
 街の電飾の輝きが加わってロマンチックに目の前いっぱいに彩る星空————
 そんな夜の物語をいつか……もう少し大人になったら、高樹くんとここで一緒に手を繋いで————


「夜景……見てみたいな……」
「うん、見たいね! 一緒に」
 “一緒”————
 考えてた事がおんなじだったって思っても……いいのかな?
 うぬぼれかもしれないけれど————お願い。そう思わせて……。


「まるで、夢みたい……」
「ん?」
「あたしね……こうやって男の子と自転車で楽しそうに二人乗りしてる女の子見て“いいなぁ”、“羨ましいなぁ”って、ずっと思ってたんだ。
 あたしなんかが……絶対こんな事経験できるわけない……って、諦めてた」
 高樹くんの背中にほっぺたを付けて、あたしは再び口を動かした。
「でっ……でもねっ、男の子なら誰でもいい、ってワケじゃないんだよ。
 一番好きな人と……できたらいいな……ってね。えへ」


 ————キッ。
 自転車を止めた高樹くんは、そのまま前を向いたままで聞いてきた。


「ねぇ……。その願い……今、叶ってる?」


 『その人が高樹くんでよかった』と言おうとしたのに、言葉が詰まってしまって何も言えなくなってしまった。
「————ごめん。……ホント焦りすぎだな、僕」
 下り坂のはずなのに、何故か呼吸を乱しながら彼は地面を蹴り、ペダルに足を乗せて思いっ切り漕いだ。


(高樹くん……大好き……)
 自転車ですれ違う人が、みんなあたし達の方を見ていくけれど、彼等の視線が今はもう恥ずかしく感じなくなっていた。
(“高樹……なみこ”か。えへへへへ……。けっこう、あう……)
「キャーッ」
 高樹くんの背中にしがみ付きながら、あたしは勝手に何年も先の未来を想像して1人で舞い上がっていた。
 ————今、自転車を漕ぎながら高樹くんが何を思い、これから僅か数時間後に何をする計画を立てているのかも知らずに……。

ギャグ漫画風(?)ロマンチック ( No.54 )
日時: 2012/11/26 14:19
名前: ゆかむらさき (ID: ocKOq3Od)

     ☆     ★     ☆


 ————キッ。
 長い下り坂を降りてすぐのところで高樹くんは自転車を止めた。
「じゃ、行こうか」
(もう少し、こうしていたかったのになぁ……)
 高樹くんの背中から腕と顔を離し、あたしは自転車の荷台から降りた。
 スタート時点で思いっきりつまづいたわりには、高樹くんのロマンチックなエスコートのお陰で何とかここまで順調(?)にこれた。
 まだあたしの体に残っている彼の優しい温もりと香り。だらしのない顔でホカホカしているほっぺたを手でさすりながら高樹くんの隣について歩いた。
 彼の腕が時折あたしの肩にかすかに触れる。掴めそうで……掴めない。本当はもっと、ちゃんと“デートらしく”したいのに————


(ん? ここは……?)
 目の前に真っ赤な文字で“昇天堂書店”と書かれた派手な黄色の看板が壁に貼り付いている大きな二階建ての白い建物がある。————どうやらここは本屋さんの様だ。
 デートでいきなり初めに訪れた場所は本屋さん。これって一体、どういう事……。


 自動ドアをくぐり抜けると、脇に置いてある“最新おしゃれファッション”と書かれたティーンズ・ファッション雑誌が目に付いた。表紙の中のモデルの女の子が長いまつ毛の大きな瞳を輝かせながら、あたしに微笑み掛けてくる。
 やっぱり退屈になったんだ……。“あたしなんか”が相手だから————
 “彼女”から目を逸らして目が覚めた。 
(何が“高樹なみこ”か、だよ……。
 あたしひとりで勝手にバカみたいに浮かれちゃって……。そうだよね……。“高樹くん”と“あたし”だなんて全然つり合わな……)


「————こっちだよっ」
(え……?)
 高樹くんはそのままあたしの手を引いて二階に昇っていく。
 昇っている途中にあたしの目に入ってきた階段の手すりに掛かっている小さな看板。
 そこに書かれていた文字は————“△2F DVD・ビデオレンタル”。


「なにか観たいの……ある?」
「えッ!!」
「せっかくのデートの時間削って、わざわざ遠い映画館まで行くより断然いいでしょ? だって……僕の部屋でならゴロゴロしながらくつろいで観れるじゃん」
「はぁっ!?」(高樹くんと部屋で? ゴッ……ゴロゴロぉっ!?)
 突然、あたしのおなかがゴロゴロと鳴り出した。
(ああ……そういえば、朝ゴハン食べてなかった……)
 ——って、今はそんなコトを考えている場合ではないっ!
(ちょっ! ちょっと待って……。おちつけ、あたし……)
 胸……ではなくお腹を押さえて呼吸を整えた。
 あたしはてっきり今日のデートは外で……例えば映画館とか遊園地とかで————
 そんなあたしの気持ちをよそに、高樹くんはニコニコしながらDVDの陳列されてある棚を、さした指を横に動かしながら眺めている。
「……リクエスト無いんだったら、僕が勝手に決めちゃうからね。ふふっ。じゃあ……コレにしよっと」
 彼はいたずらに微笑んでDVDを一枚手に取った。
 タイトルは————“呪いの首飾り”(ちなみにドクロの目から血がでているパッケージ)


「!」
 あたしは高樹くんの手からDVDを取り上げた。
「こわいのは、だめっ! 
 ……あたしダメなの、怖いのは! 絶対ッ!!」


 ————忘れていた。
 ここは静かな本屋さんだった。あたしの叫び声が広い部屋全体に情けなく響き渡った。周りにいるお客さんが、あたしたちのやりとりを見てクスクスと笑っている。
(——しまった!)
 あたしは慌てて口を押さえた。
「なみこちゃんの絶叫……もう一度“僕の部屋”で聞ーてみたいなー……」
 さっき、あれほど怖い話は苦手だ、って言ったばかりなのに、笑いながら高樹くんは————今度は“呪いの首飾り2(ツー)”を手に取った。


「 !! 」
 あたしは彼の手から“2”のDVDも取り上げ、ほっぺたを膨らませながらつま先立ちで元にあった場所に戻した。そして今度はあたしが高樹くんの手を引っ張って、今、高樹くんと一緒にいるホラーストーリーのスペースから離れ、恋愛・ロマンスストーリーのスペースに来た。
(……この辺のやつだったら、大丈夫かな)
 どれが面白いのかいまいち分からないけれど、あたしはタイトルも見ないで適当に手に取ったDVDを高樹くんに渡した。
「これに、するっ!」


「——ぶっ!」
「え?」
「な、なみこちゃん……コレ……っふ」
 高樹くんは右手で顔を覆い、懸命に笑いを堪えている。
「あはははは……!」
 堪えていた笑いを止めていられなかったのか、彼は自分の顔を覆っていた手を離し、あたしの顔を見て大爆笑しだした。
「?」(あたし……またヘンな事したのかな……)
「笑っちゃってごめん、ね……。
 だけどコレは……反則、だって……」


「すみません……。これ、お願いします……」
 レジカウンターにDVDを出した高樹くんの背中がまだ震えている。
(あたしはいったい……なにをしたんだ……)
 なんとなくレジの人も、あたしの顔を見て「クスッ」っと笑った様な気がした。
 DVDを受け取って、高樹くんはさりげなくあたしの腰に手を回し、寄せた。
 彼は嬉しそうに階段を降りながら呟いた。
「“おうちデート”……決定」
(お……おうちデート?)
「ふふっ。しかもなみこちゃんと初めてのデートで観るDVDのタイトルが————」
 高樹くんは再び笑い出し、あたしに顔を近付けて耳打ちをした。


「“処女の誘惑”……だなんて、ね」


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。