複雑・ファジー小説
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- アビスの流れ星
- 日時: 2013/05/22 20:35
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 76WtbC5A)
- 参照: http://ameblo.jp/gureryu/
名前変えました。「緑川遺(ミドリカワユイ)」といいます。
これからもよろしくお願いします。
ちゃんと丁寧に最後まで完結させたいなと思います。
(登場人物)>>3
序章「記憶喪失の少女の追憶」
>>1
第一章「生きるという責任の在り処」
>>2 >>6 >>9 >>12 >>14 >>15 >>16 >>17
行間
>>22 >>25
第二章「生きる理由」
>>29 >>32 >>33 >>34 >>35 >>38 >>39 >>40
行間二
>>41
第三章「人は自分を騙し通すことは出来るか?」
>>44 >>47 >>48 >>49 >>51 >>52 >>53 >>56 >>57
最終章「シューティングスター・オブ・アビス」
>>58 >>59 >>60 >>61 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71(New!!)
行間三
>>72
登場人物 2
>>73(New!!)
- Re: アビスの流れ星 ( No.14 )
- 日時: 2013/01/01 20:31
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 9U9OujT6)
赤い髪の男の人の名は『シドウ』というらしい。出身はこの旧日本だが、アメリカと呼ばれていた場所にあるライブラの本部から、ここ日本支部に転属となったのだそうだ。
階級は大佐。将官に次ぐ相当なお偉いさんだ。その階級に反して、見た目はかなり若く見えた。見たところ、まだ二十代前半程度だろうか。十九、十八くらいと言われても違和感はない。
しかし、赤い髪に、赤い瞳。私と同じくらい目立つ容姿でありながら、彼の周りに漂う雰囲気は海底のように深く、落ち着いて見えた。こういうのを、只者ではない雰囲気というのだろうか。
そういえばエンドウさんが、彼は本部でも『真紅の流星』と呼ばれる程の凄腕として有名だったと言っていた気がする。彼の髪と瞳の色が、そう形容させたのだろうかとぼんやり考える。
「事前に通達があったと思うが、本日一二〇〇を以って、私がここ旧日本支部の第一部隊長に任命される。よろしく頼むぞ、フミヤ曹長」
「え……あ、は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします」
この人とうまくやっていけるだろうか。そんなことを不安に思っていた。それほど彼は、表情を変えずに仏頂面のまま淡々と話を進める。もしかしたら、マツヤマさんのように、冷たく見えるのは外面だけかもしれないと期待を抱く。
彼の配属に伴って、私が副隊長に任命されること。もう一人は、数日ほど遅れてやってくるということ。その他、私の給与の変動、前の隊員……アイカワ隊長たちが負っていた業務の引継ぎ、エトセトラ、エトセトラ。色んな報告が彼の声で私の耳を右から左へと通り抜けていったが、ほとんど頭脳に入っては来ない。
その私の様子を見て取ったのか、資料に向いていた彼の鋭い視線がこちらを向いた。
「……聴いているのか?」
「え……あ、はいっ」
問われ、少し遅れて気づいて、笑顔で誤魔化そうとするも、もう遅い。私が別のことを考えていたと、すっかり悟られてしまった。
バツが悪くなって、無意識に目を伏せる。まるで私は犬か猫かのようだと、自分でそう思った。そんな私の様子を見ると、シドウ大佐は資料の束を手にしたまま溜め息を吐いた。
「そんなだから、自分の部隊員を殺す羽目になるのだ」
突然、心の一番やわく脆い部分を、鋭い槍で突かれた心持ちになった。
「シドウ大佐……!」
「話はこの受付嬢からあらかた聞いているぞ、フミヤ曹長」
エンドウさんの制止を遮って、彼は言葉を続ける。喉元に切っ先を向けるサーベルのように、無骨で、冷徹な声色だった。
「レイダーを殺し損ねたことに気付かず、更にはそれに呆気を取られ、仲間を見殺しにしたそうじゃないか」
いとも容易く私の胸の内を抉る言葉が、……事実が、頭上から次々と降りかかる。その口調から、彼が眉一つ動かさず言い放っているのだとよく解った。
「『ぼうっとしていた』『吃驚して身体が動かなかった』そんな言い訳が此処で通用するとでも思っているのか?」
視界が小刻みに震えて、ただ抑揚のない言葉が次々と重く圧し掛かる。反論の余地すら与えずに。
脳髄が揺さぶられるような錯覚の中、自分の目頭が熱を帯びていることに気付いた。
自分に、ここで涙を流すような資格は無い。そう思ってはいても、涙腺が脆く崩れ落ちるのは時間の問題だった。
「次は誰を殺すつもりだ?」
一呼吸置いて、極めて冷静に突きつけられたその言葉を皮切りに、彼による私を責め立てる文句は途絶え、私は嗚咽を洩らし始めた。しかし、泣けば許されると思うなよ、と、この部屋に漂う沈黙が語っていた。
「……この状況で業務連絡を済ましても意味が無いな」
シドウ大佐はもう一度深く溜め息をついて、近くの黒檀のデスクに持っていた資料の束を放った。
「細かい連絡事項の全てはそれらに記載されている。必ず確認しておけ」
涙を堪えきれない私を見捨てたように、シドウ大佐は背を向け、思い出したように、それから、と付け加えた。
「辞令だ。尉官四名が『名誉の戦死』を遂げたことで『自動的』にお前の出世が決まった」
彼は、鉄の扉をくぐるとき、無表情のまま視線だけこちらを一瞥して。
「本日一二〇〇付けで、貴官は少尉に任命される。おめでとう、フミヤ少尉」
再び鉄の扉が下りて、私に果てしない屈辱と悔しさと、自分勝手な、どうしようもない怒りと、何より惨めさを置き去りにした。
嗚咽と涙をこらえようとするのに精一杯で、優しいエンドウさんのフォローは全く耳に入ってこない。しかも、堪えようとする努力も虚しく、涙腺の熱は冷めやらなかった。
どうやら上手くいくいかないどころの話ではないらしい。全て自分が招いたことと知りつつも、私の、彼……『真紅の流星』に対する第一印象は最悪であった。
- Re: アビスの流れ星 ( No.15 )
- 日時: 2013/01/02 13:46
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 9U9OujT6)
4
シドウ大佐との初の合同任務は、最悪なファースト・コンタクトの翌日だった。
「……例の、新種のレイダーの反応が確認された?」
ライブラ旧日本支部のエントランス。
はい、とエンドウさんがシドウ大佐の訊き返しに応える。
「四日前に第一部隊と交戦した不死身のレイダーのようです」
あの、頭がタコみたいで胴体が犬のような、大きなレイダーのことだ。私が頭部をずたずたに引き裂いても尚健在であったから、不死身のレイダーと呼称されているらしいと知った。
シドウ大佐は、ふぅむ、と少しの間沈黙する。目を細め何かを考え込んでいる様子だった。けれど、少しも経たない内に。
「私が討伐に行こう」
シドウ大佐は、すぐにヘリを用意してくれ、などと言いながら懐から取り出した黒い手袋を嵌める。
その後、慌てて大佐を引きとめようとするエンドウさんの反対を押し切り、私たちはたった二人で未知のレイダーと相対する為にヘリに乗り込む。
そして現在、揺れるヘリの中へと至るわけである。
わけもわからないまま、というか半ば投げやりに彼に従った私は、今になって無茶だと思った。
通常、レイダーの討伐任務は一体を相手に四人から六人程度でかかるものだ。それをたった二人でなど。しかも、支部を出るときにエンドウさんも言っていたのだが、アイカワ前隊長を両断した、姿を自在に消せるレイダーもターゲットと一緒に居る可能性があるのだ。
しかしシドウ大佐は平然として、頬杖をついてヘリの壁に体重を預けていた。
「そろそろ目標地点に到着するぞ、フミヤ少尉」
はい、とだけ短く返事を返した。
何か勝算があるのかとか訊いたり、笑顔を作る気にすらならなかった。口を開けばまた何か言われるのではないかと思い、ただ黙って時が過ぎるのを望んだ。
いっそ死んでしまえばこの重苦しさからも解放されるのだろうか、なんて考えながら。
シドウ大佐も、黙って横目で私を見ていた。まるで観察するように。見下したような態度がちょっとだけ癪だったので、私も負けじと視線で反撃する。何か言いたいことがあるならはっきり言ってください、と。
すると大佐は昨日のように深いため息をついて、ゆっくりと口を開く。
「……お前はレイダーに攻撃を加えるな」
はい? と、思わず聞き返した。
「レイダーに攻撃するな。陽動もしなくて良い。最低限自分の身だけ守れ。これは命令だ」
二の句を次げず、え、あ、と意味の無い母音だけが私の口から出る。
その命令の意味を問うことも叶わぬまま、ヘリの運転手が、目標地点に到達したと私たちに伝える。
「さて、時間だ。準備は出来ているな?」
言いながらシドウ大佐は立ち上がる。間抜けに口を半開きにして現状すら把握できていない私を置き去りにして。
もう何がなんだかわからないまま、彼は先にヘリから身を乗り出して行ってしまった。数瞬呆気にとられていたものの、私も慌てて後から彼を追う。
いつもの分厚い空圧を全身で受け止めながら風の中を落ちていく。黒地のインナーと銀色の甲冑は既に身に着けていた。
慌てていたためか、着地は少しよろけていつもより少し不恰好になる。それでもどこかを痛めたり、傷を負ったりすることは無かったので問題無しとする。
顔を上げると、少し前方にシドウ大佐の姿があった。あの黒く丈の長いコートは着たままだ。あの下に私のようなインナーと甲冑を着込んでいるのだろうか。元からごついデザインではないため、見た目では判別はつきにくい。
そしてシドウ大佐が見据えるさらに前方には、剣呑としてのっしのっしと歩いてくる、あのタコ頭のレイダーの姿があった。タコ頭のレイダーの頭部は、すっかり回復している。傷一つないのだ。よっぽどの再生能力でも備えているのだろうか。
ぎょろぎょろと大きな目玉を動かしながらこちらへ悠々と近づいてくる巨体を前にして、シドウ大佐は呟いた。
「……あれは一つではなく、二つだな」
「え?」
「なんでもない」
彼は腰に差したサーベルを、二本、抜く。そのままだらりと両手を下げて、肩から力を抜いて、真正面からレイダーを見据える。
レイダーはシドウ大佐の殺気を感じ取ったのか、あちらこちら動かしていた目玉の焦点を彼に合わせる。
「……作戦は先程口頭で伝えたとおりだ。お前は無駄なことをしなくて良い」
言い方にむっとしたが、彼は肩越しに私を見て、次にこう言った。
「ただし、よく見ておけ」
言い終わるや否や、彼の姿が消えたのかと思った。それは違った。ただ彼は標的に向かって走り出しただけであった。しかし、その動きは今までに私が見た誰よりも速い。
レイダーも負けじと、剣のような牙が並んだ大きな口を開いて咆哮する。
大地を震わす大音声にシドウ大佐は全く動じず疾駆して。
そして、彼の身体はレイダーの喉へと、吸い込まれるように飲み込まれた。
- Re: アビスの流れ星 ( No.16 )
- 日時: 2013/01/03 23:24
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 9U9OujT6)
ズドン!と凄絶な音。タコ頭のレイダーのうなじからサーベルを掴んだ腕が飛び出した。腕はレイダーの体液にまみれていた。
レイダーが耳を覆うほどの絶叫を上げる。
二本目のサーベルが再びうなじから突き出た。声を上げる間もなくレイダーの背と後頭部を引き裂く。
切り開かれたところから人影。シドウ大佐だった。
断末魔をあげ崩れ落ちるレイダー。その頭部がひとりでに落ちた。かに見えた。しかしそれは間違いであった。
そのまんま見た目がタコになった頭部は、逃げるようにこちらへ這いずり始めたのだ。
その瞬間に私は悟る。どうりで前回、私が頭部を潰してもレイダーは生きていたはずである。身体と頭で別の個体だったのだから。
考えている内に、這いずるタコ型のレイダーは絶命した。シドウ大佐が投げつけたサーベルが、その頭部に突き刺さったためである。
「まず二匹」
彼はそれだけ言って、先程首元を無残に切り裂かれた四足歩行のレイダーの上に立ったまま辺りを見渡す。
そしていきなり、背後に一閃。
突然空間から現れた、鉤爪のついた腕が体液を垂れ流して飛んだ。
遅れて二足歩行のレイダーが、何も無い虚空から姿を現した。アイカワ前隊長を両断したそいつは、片腕を失くし慟哭している。
シドウ大佐が切っ先をレイダーに向けて構えなおす。対してレイダーは、すかさず空気に溶けるように消えた。逃げるつもりなのだろう。
だが、それは全くの無駄であった。体液の色まで消すことは出来ないのか、何も無い空間から黒い液体がぽたぽたと零れ落ちていくからだ。
シドウ大佐は首をひとつ鳴らした。そして、滴の痕が続く方へと。
瓦礫の山を。廃墟の壁を。自由自在に飛び跳ね駆け抜けて。赤い髪が流星のように尾を引いた錯覚を見て、エンドウさんが言っていた『その二つ名』を思い出す。
「——真紅の流星」
隻腕となった鉤爪のレイダーは、シドウ大佐が放った一撃によって腹部から両断された。
5
タコ型のレイダーの死体からサーベルを引き抜いて瓦礫の山の上に佇むシドウ大佐に駆け寄った。
「……エンドウから聞いた報告と、今日直接その姿を見た事で大方の予想はついた」
彼はこちらを向きもせず語り始める。
「一つ目は、四足歩行のレイダーはそれで一体、ではなく二体の別種のレイダーが共生していること」
四足歩行のレイダーはタコ型のレイダーを盾として使い、タコ型のレイダーは四足歩行のレイダーの機動力を得る。おおかたそんな利害関係だろうとシドウ大佐は説明した。
だから私が頭部のタコ型のレイダーに致命傷を負わせたところで、四足歩行のレイダーはびくともしない。そして今日、頭のタコ型レイダーを新しい別の個体と『交換』してきたから、傷一つ負っていなかったのだ。
「面倒なので直接口蓋に入り込んで、内側から確実に仕留め、先ずは機動力を削がせて貰った」
つまりその言葉は、絶対的な自信とそれに裏打ちされた実力を示す。
「二つ目に姿を消すレイダーだが、おそらく自身の反応すら消すことが出来るのだろう」
それを生かしての奇襲を好む性質であると踏んだのだと、彼は言う。
「十中八九背後から襲い掛かってくるであろうと予想はしていた。後は音だ。方向とタイミングさえ判れば迎撃は容易だ」
音が聞き取れなくなる危険性を考慮して、敢えて二人だけで、そして私は一切の行動を取らぬよう指示したのだという。
「狙うとすれば、危険性が高く、かつ一体……もとい、二体仕留めた後で油断しているであろう私だと判断した」
それから腕を斬りおとしてしまえば、あとは容易い。滴り落ちる体液と、その匂いというマーキングが済んでいるのだから。
それらが彼の作戦の全容であった。
少し流れる沈黙。呆気に取られたままでいる私をようやく一瞥して、シドウ大佐はまた昨日のように溜め息をついた。
「……どうせ此処に来るまで、自分が死ぬべきだった、とか考えていたのだろう?」
隙だらけの私に、図星の言葉が突き刺さる。咄嗟に言い繕うことも誤魔化すことも出来ないまま、やはりな、とシドウ大佐は小さく言う。
「次は自分を殺すつもりか? だが、考えろ」
彼は言った。お前は今誰に生かされて此処に居るのか、と。
「前の第一部隊の面々は勿論のこと。おそらくその前にも、その前にも。お前には、戦死した仲間たちがいるのだろう?」
シドウ大佐は私を見下ろしたまま、右手に持っているサーベルの切っ先を私に向けた。切れ長で鋭く、深い赤色の瞳は真っ直ぐこちらを見据えている。
「ならば。迷うな。前へ進め。お前は、多くの命の上に生きているのだ」
それを捨てる権利など、お前にありはしない、と。
「これは上官命令だ。生きろ、フミヤ少尉」
不遜な態度で偉そうに、仏頂面で、切っ先を向けたまま、シドウ大佐は私に命令した。
私は私で、気付けば頬を水滴が伝っていて、やがてそれは嗚咽を伴い始めた。
「……ヘリが来るまで少しの時間がある。それまで私は、何も見ていないことにする」
- Re: アビスの流れ星 ( No.17 )
- 日時: 2013/01/04 22:09
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
6
10月6日
今日は蛇のようなレイダーが相手だった。蛇のようなレイダーの尻尾が私に向かってきたとき、マツヤマさんが咄嗟に拳銃の引き金を引いて、尻尾を弾き飛ばしてくれた。後で私に怪我は無いか心配してくれた。やっぱり、根は優しい人なんだなと思う。そして、後でアイカワ隊長に褒められて、口では「別に」と言いながらも顔を赤くしてうつむいていたのが可愛かった。
戻ってきてから、アルベルトさんとミズハラさんが話しているのを見かけた。なんでも、アルベルトさんが大好きな作品のひとつに、ミズハラさんが好きな曲が使われているのだそうだ。タイトルも教えてくれたので自分で調べてみると言ったら、ミズハラさんが今度CDを貸すと言ってくれた。楽しみだ。ウォークマンに入れておこう。
今ではCDもウォークマンも珍しくて滅多に手に入らないけれど、アビスが出現する前まではごくありふれたものだったらしい。どんな世界だったのだろう。
もしもレイダーが居ない世界だったなら、色んなCDを聴いてみたり、他にももっと色んな珍しいものを見てみたいと思う。
けど、そんな平和な世界でも、第一部隊のみんなとは仲間で居たいな……なんて、考えてみたりする。
10月7日
10月8日
私のせいだ。私のせいで皆死んでしまった。私こそ死ねばよかったのに。最低だ私は。死ねばいい。私なんて死ねばいい。私が死ねばよかったのに。どうしていつもあんな良い人たちが死ななくちゃいけないんだ。なんで私の周りでは皆死んでいくんだ。私は悪魔だ。まるで悪魔だ。私のせいで皆死んでいく。私なんかいなければいいんだ。私に自殺するほどの勇気があれば良かったのに。醜い。こんなものいなくなればいいのに。生まれてきてごめんなさい。生きててごめんなさい。死ね。私なんか死ね。死ねばいい。いちばん悲惨な死に方で死ねばいいのに。ぐちゃぐちゃに潰されて原型も留めなくなって死ねばいい。私なんて。生きてる価値もないのだから。生きていたってみんなを殺してしまうだけだ。みんな私のせいで死んでいくんだ。私は最低だ。こんなことになっても、まだ自分で自分を殺していない。私なんて死ねばいいのに。どうして生きているんだろう。
10月9日
明日、新しい隊長が別の支部から来るそうだ。
それまで私も任務に出ず待機するようにと言われている。
一人で勝手に出て行ったらレイダーに殺されて死ねるだろうか。
10月10日
新しい隊長は最悪だった。何が大佐だ。わかってるよ全部わかってるよ。全部私のせいだよ。言われなくたって全部わかってるんだよ。なのに無神経にずばずば立て続けに言わないでよ。おかげでびっくりして何も言えなかった。いくらお偉いさんでも、アイカワ隊長とは大違いだ。どうしてあんなふうに人を傷つけることを平気で言えるんだろう。何も考えていないのだろうか。ふざけんな。いくら偉くたって大切なものが欠けてる。きっとあの人とは仲良くなれない。ばかみたいだ。なんであんな人が新しい隊長なんだろう。ばーか。
悔しい。全部新しい隊長の言うとおりで、何も言い返せなかった。全部向こうの言っていることが正しいのに、私は逆恨みしている。なんなんだろう、私は。次はあの人までも死なせてしまうのだろうか、私は。
エンドウさんがいれてくれるコーヒーはいつもおいしいけど、今日は一段と、お腹にしみわたる気がした。
10月11日
今日は前の四足歩行でタコ頭のレイダーと、姿を消せるレイダーが相手だった。
四足歩行のレイダーが、実はタコ型のレイダーと四足歩行のレイダーの二体だったなんてびっくりした。あの時それに気がついていればアイカワ隊長やみんなは今も生きていただろうか。
二人だけで任務に行くのもわけがわからなかったのに、私を残してシドウ大佐が自分からレイダーの口に飛び込んでいったときは心臓が止まるかと思った。せめて最低限、作戦の内容ぐらいは事前に教えて欲しい。ほうれんそう、報告、連絡、相談は基本だと思う。きっと連絡されても相談されても報告されても、止めていたと思うけど。
シドウ大佐の戦い方は凄くて、何より速かった。真紅の流星、なんて呼ばれているのにも納得してしまうほどだった。二つ名……ちょっとだけ、私も欲しいかもしれない。
そういえば腕力も、一撃でレイダーを両断するっていうのは初めて見た。サーベルでそんなこと出来るんだ。少なくとも、私にはまだ無理そうである。
任務が終わった後、シドウ大佐は私に『生きろ』って言ってくれた。
悲しくもないし、悔しいわけでもないのに、なぜか私は泣いてしまった。
コーヒーを飲んだ時みたいに、胸の奥がじーんと熱くなった。
でも、また人前で泣いちゃったのはちょっと悔しいかな。
今度は絶対に、逆に泣かしてやる。あの仏頂面。
アイカワ隊長、マツヤマさん、アルベルトさん、ミズハラさん、ナナミさん、フジサトさん、他にもたくさん、私の前で死んでいった人たちのためにも、生きよう。
- Re: アビスの流れ星 ( No.18 )
- 日時: 2013/01/04 21:45
- 名前: 桐沢氷雨 (ID: /dHAoPqW)
初めまして!
桐沢氷雨というものです。お話拝見させていただきました!
とても描写力があり、分の構成もしっかりしていますね!すごく面白いです!
そして、シドウ大佐の言葉に泣けました。無愛想な彼が言うからこそぐっときますね。
そこで私のやっている名言集のスレで、彼の言葉を紹介させていただきたいのですがよろしいでしょうか?
もちろんダメなら無理にとはいいません。
これからも更新頑張ってくださいね(^o^)
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