複雑・ファジー小説
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- アビスの流れ星
- 日時: 2013/05/22 20:35
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 76WtbC5A)
- 参照: http://ameblo.jp/gureryu/
名前変えました。「緑川遺(ミドリカワユイ)」といいます。
これからもよろしくお願いします。
ちゃんと丁寧に最後まで完結させたいなと思います。
(登場人物)>>3
序章「記憶喪失の少女の追憶」
>>1
第一章「生きるという責任の在り処」
>>2 >>6 >>9 >>12 >>14 >>15 >>16 >>17
行間
>>22 >>25
第二章「生きる理由」
>>29 >>32 >>33 >>34 >>35 >>38 >>39 >>40
行間二
>>41
第三章「人は自分を騙し通すことは出来るか?」
>>44 >>47 >>48 >>49 >>51 >>52 >>53 >>56 >>57
最終章「シューティングスター・オブ・アビス」
>>58 >>59 >>60 >>61 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71(New!!)
行間三
>>72
登場人物 2
>>73(New!!)
- Re: アビスの流れ星 ( No.54 )
- 日時: 2013/01/26 11:31
- 名前: 風死(元:風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
お久しぶりです。
貴方は更新するたびに来てくれるのに、私は……申し訳ありません。
まだ、半分も更新話読めてないですが、シドウ大佐が女性だと今更気づきました。
大食いキャラなところが愛嬌あって良いですね。
それと時々入る主人公フミヤの日記?みたいなところが、何気に丁寧でいいなと思いました。
レイダーとの戦いもなかなかに丁寧ですし、この出来でこの更新速度は凄い!
これからも体調には気をつけて、がんばってください^^
必ず、いつか話に追いつきたいと思います!
- Re: アビスの流れ星 ( No.55 )
- 日時: 2013/01/26 18:41
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
風死 さん⇒
お久しぶりです。
コメント、大変励みになっております。
大佐の性別はご想像にお任せします。男性のつもりで書いていますが。
作中ではかなり食べておりますね。それで痩せているようです。
私自身日記を書いても三日で飽きてしまう性格なので、上手くかけていればと思います。
戦闘シーンも上手くかけていればと思います。多少勢いに任せてしまうときもあるのを、なんとか制御出来ればと思います。
ありがとうございます。これからも頑張らせていただきます。
- Re: アビスの流れ星 ( No.56 )
- 日時: 2013/01/26 20:38
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
「キミタチが、僕のことをそう呼んでるー、ってだけなんだけどねー」
えへへ、と苦笑しながら白い——アビスと名乗る少年、あるいは少女が言った。
雪に染み込んでいくように、彼の、または彼女の足元の闇の水溜りが溶けていく。
「んっとー、スギサキ」
名前を呼ばれて思わず身構える。
「それから、シドウ」
フミヤの足元で倒れているシドウの名前も呼ぶ。が、返事は無い。
フミヤは呆然としてアビスの方を見ていた。時折見せる、ぼうっとしている時と同じく、口を半分開いた無表情だった。
「フミヤにお世話焼いてくれて、ありがとねー。フミヤすっごく嬉しかったみたいだよ」
「……なんでお前がそんなことを?」
「言ってるのかって意味? 知ってるのかって意味?」
どっちでもいいけどー、と語尾を延ばして。
「僕が、フミヤを作ったから。あとは言わなくてもわかるよね?」
つまり、フミヤを通して俺達を監視していたのも、フミヤを俺達の元へ送り込んだのも、コイツ。
嘘だと疑う余地はない。先程コイツが、アビスから降りてきたのは見ていたのだから。
つまり。
「……本当に、お前がアビスの黒い星そのもの……?」
「さっきから、そうだって言ってるじゃーん」
もう一度苦笑。アビスはまるで、友人に冗談を言われてへらりと返す風に肯定した。
「ありがとうね、スギサキ。僕の思ったとおり、君はフミヤをライブラまで運び込んでくれた」
歯噛みする。
最初から俺はコイツの掌の上だったそうだ。
「それに比べて……あっちに転がってるシドウの厄介ときたら。掃除するのにこんなにかかっちゃうなんて」
ケルベロスとか、結構お気に入りだったのにあっさり倒しちゃうんだもん、とか言いながら。
「あ、そうそう! 凄かったよ、キミタチがカトブレパス倒したとき! 僕まで見てて楽しくなっちゃった!」
「……で」
うんー?と、アビスは首を傾げる。
「お前は何しに来たんだ」
「フミヤを回収しに」
にこりと微笑み続けているアビス。その顔立ちだけ見れば、まるで人形のよう、という形容詞がぴったり当てはまるだろう。しかし瞳はどこまでも深く黒く、恐ろしい。
「回収ってのは?」
「僕はこれからこの星を食べるから、先にフミヤは持ち帰っておかないと、一緒に食べちゃうでしょ?」
「は?」
今、なんつった。
俺がそう問おうとしたのを見透かしたように、アビスは口角を歪めて、一層笑みを濃くした。綺麗で、美しくて、おぞましい笑顔。
「もう一度言うね。僕は、これからキミタチの星を食べる」
無数の雷が落ちたような轟音。
足元が崩れ落ちたかと思うほどの大きな震動に、倒れそうになる。不意に空を見上げた。アビスの黒い星の輪郭が崩れて、どんどんその大きさを増して行く。
空が食われてゆく。黒い星に。青空が黒に染まっていく。
「スギサキはフミヤに優しくしてくれたから、教えてあげるね!」
激しい震動の中、アビスの声を聞いた。
「レイダーをたくさん送り込んでたくさん人を食べたのは、この星を食べるためのエネルギーを溜めるため!」
空の闇はみるみる広がってゆく。
「フミヤを君たちの元へ送り込んだのは、より少ないレイダーで、よりたくさん君たちを食べるため!」
轟音は、まるでいつぞやのカトブレパスが群れでも成して啼いているかのような。
「だから僕にとって、ライブラ、キミタチは厄介だったよ! 僕のレイダーをたくさん殺してしまうから! 特にシドウとスギサキ、君はね!」
空が黒く染まった。
天蓋となって一面を覆う闇の中に、何かが犇いている。
「でももう、シドウは倒れて、君は人間を守ろうという気なんてさらさら無い!」
気が付くと、目の前にアビスの姿があった。心臓が口から出そうになる。しかし武器を抜こうとする。
が、腕も足も動かない。
「なッ、……!?」
「ねぇスギサキ」
目と鼻の先で、アビスが囁く。長いまつげを伏せて、目を細めて、首元に声を持っていくように。
「僕と一緒に来ない?」
今度は何を言い出すかと思えば。
「さっきから言ってることが……」
ようやく、腕が動いた。いける!
「わけわかんねえん、っだよッ!!」
引き抜いたサーベルを振りぬく。
しかし既に遅く、アビスは俺の遥か前方……フミヤの隣へ退いてにこりと笑っていて。
「お前は何者だ! お前の目的は何だ!」
「さっきも言っただろう!」
アビスは両手を広げる。
「僕はキミタチがアビスと呼ぶ星そのもの! あの広大な宇宙を彷徨い続けて、数多の星を喰らい続けてきた流れ星そのものだよ!」
一際大きな震動。
黒に染まった犇く空が落ちてくる。
と、いうか、黒空に蠢いていたものが、重力に負けたように零れ落ちてくる。
黒い大雨だった。
「フミヤは持って帰るけど、スギサキはどうする? 一緒に来るかい?」
「だから、その一緒に来るってのはどういう……」
「僕と一緒に、アビスに来るかい?」
- Re: アビスの流れ星 ( No.57 )
- 日時: 2013/01/27 21:00
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
「僕についてくれば、君はずっとフミヤと一緒に居れるよ? 宇宙のいろんな星たちだって見せてあげることが出来る」
「……お前は何を言って……」
「脚も片腕も僕らに同調できている君なら、それが出来ると思うんだけど」
一考する。
常々、人間なんてくだらないと考えていた。
人類が滅びようが、世界がどうなろうが、いずれ自分が死に行くことには変わりないのだし、そこに何か思いを馳せるだけ、執着するだけ無駄だと。
だとすれば、それが可能ならば、こいつらについていくのも悪くないのかもしれない。
けれど。
「……お断りだ」
「……意外だねえ」
「俺自身も驚いてる」
というか脳味噌の整理がついていない。
フミヤがレイダーだってことがバレて、シドウが刺されて、空から何か降って来たと思えばそれがアビス……の、化身のようなものだという。
ただ、それら全部が嘘であるという保証もない。というか、この目の前の白い少年或いは少女が嘘をついていたとして、そうするメリットが思い浮かばない。
とすれば、よっぽどわかりやすい答えがあるのだ。
「けど、アンタが全ての元凶だってんなら、今ここでアンタをぶっ殺す!」
それが一番手っ取り早い。
サーベルと銃を構えて、アビスを見据える。
「……ふぅーん?」
アビスの微笑みが消えた。黒い瞳が糸のように細められて、纏う空気が一変する。
ほぼ同時。
背後のほうから大勢の足音。
「こちら第二部隊、屋上に到着しました!」
第二部隊の面々、総勢七名が騒ぎを聞きつけたのか駆けつけた。彼らはめいめいに武器を掴んで臨戦態勢をとった状態で散開して、フミヤとアビスのほうへ向き直る。
「レイダーを二体確認!」
「これより討伐に移ります!」
二体、と確かに聞き取った。
「おい、ちょっと待て! フミヤは——……」
それから、第二部隊のうちの一人が消え失せた。
いや、正確には、足首から上が消し飛んだ。
遅れて、扉の隣の壁を薙ぎ倒す轟音。
絶句。ただ、視線の先、さっきまで人間が居た場所には、白い槍が幾本も折り重なったような何かが横たわっている。何かは、アビスの左腕へ繋がっている。
つまりアビスの左腕が槍の束に変化して、伸びて、人一人を殺した……というよりは消したのだと、理解するまで一秒。
もうひとつ鋭い音。
金属を弾いたような音は、何処からか投げつけられた真っ白な大剣が、もう一人の頭部から貫通して屋上に突き刺さった音だと、遅れて理解する。
目で追うことすら、出来なかった。
「——誰を、殺すって?」
アビスはそのとき、一切の表情を浮かべては居なかった。
今度はアビスの右腕が、何本にも枝分かれして屋上に突き刺さる。
すると足元から白い槍が何本も、何本も。視界の端で一挙に三人が肉の塊に成り果てた。
状況を掴めず呆然としている残り二人を意に介さず、彼あるいは彼女は、自分の両腕を引きちぎるように切り離す。両腕はあっという間にまた生えて。それから、こめかみの辺りで指を鳴らす。
まるで赤く塗装されたオブジェのようになっていた槍の束と槍の山は、それぞれ人型のレイダーとなった。
二体とも同じ形状。盾と剣を構えた騎士のようなレイダーは、何を言葉にする間もなく、残る二人を叩き切った。
それからアビス本体は左で横一文字に空を切ると、背から真っ白な、白鳥のそれのような翼を広げた。
「……シドウはもう使い物にならない、スギサキは一緒に来てくれない……なら、長居する意味はないかな」
あごに人差し指を当て、しばし考える素振りを見せた後、アビスはフミヤを抱きかかえた。
「バイバイ、スギサキ! 残念だったよ、一緒に来てくれると思ったのに!」
「なッ……、待てッ!」
飛び立とうとするアビスに向かって駆け出そうとする。が、横合いから二体のレイダーが飛び出て行く手を阻む。先程の、騎士型の奴である。
「邪魔……なんだよ!」
サーベルを振り抜く。レイダーは盾で受ける。厄介極まりない! もう片方のレイダーの攻撃をサーベルで受ける。
埒が明かない。そう思ったとき。片方のレイダーが不意に動きを止める。
それから崩れ落ちる。
「え……」
何事かと思えば、倒れたレイダーのうなじの辺りに、見事にサーベルが突き立っている。
サーベルが飛んで来たであろう方向に目を向けると、赤と黒の何かが蠢いて、アビスの足首を掴んでいる。
「行かせるものか……!」
シドウだった。
口の端から血を流しながらも、力を振り絞って腕を伸ばしている。
「……まだ生きてたんだ?」
アビスは冷徹で真っ黒な瞳で、シドウを見下ろしていた。
「そいつは……私の部下、だ……」
しかし、力強く握られたその掌から、みるみる力が失われていくのが、見ているだけでもわかった。
一度、咳き込んで吐血。シドウの身体は再び血の海に沈んで、動かなくなる。
「シドウッ!!」
騎士型のレイダーの剣を横にいなして、喉元にサーベルを深く突き立てる。
それからフミヤと、シドウと、アビスの居るほうへ駆ける。
が、遅かった。
アビスは翼を広げて飛び立って、俺の手は虚しく、そのときに散った羽根の一枚を掴んだだけだった。
「——クソッ……」
一度悪態をついて、空を仰ぐ。そこには真っ黒になって泣く空と、遠ざかっていく、一点の白い影。
- Re: アビスの流れ星 ( No.58 )
- 日時: 2013/01/28 18:56
- 名前: 緑川遺 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
十二月二十四日、旧日本区域を中心とした地域の上空にアビスが急接近。
成層圏への突入が確認されたアビスは、触手のようなものを旧日本支部屋上へ伸ばした。これによる被害は今のところ確認されていないものの、カメラを通してこれを監視していた旧日本支部所属のエンドウと、現在数重なる独断行動への処罰として同支部内拘置所で身柄を拘束されている、当事者の一人スギサキ少佐の証言によれば、アビスの化身を名乗る子供がその現象と同時に、同支部屋上に現れたのだという。
アビスは第二部隊の全員を殺害し、同日午前十時にライブラから除隊扱いとなったフミヤ少尉を連れ去り、飛び去ったという。
一連の事件と時をほぼ同じくして、極東上空を異常な黒色の雲らしきものが覆っている。前述の触手のようなものと同様、この雲についても詳細は不明である。レイダーに関連するものであるとの予測は立っており、おそらくそれは揺ぎ無い。
黒色の雲からは同じく黒色の雨が降り続け、同時に各地でのレイダーの活動が盛んになっている。既に旧中国地域などで被害が続出、総計四つの支部において第一種緊急事態警報が発令されていた。これを受け、アメリカ等他の全ての本部と支部も厳戒態勢をとった上で、極東周辺の支部に増援を送る準備を進めている。
だが、確実に空を黒く覆ってゆくアビスそのものに対する決定打は、現状皆無そのものであった。現在もアビスは黒い雨を降らせながら、空に広がるその面積を拡大させてゆく。
表向き迅速な対応をとっているようには見えるものの、各国の指揮系統も極めて混乱しており、特に旧日本支部はタカノ准将がなんとか保たせているといったところで、第一部隊と第二部隊を一挙に失ったことによる隊員達への衝撃はきわめて大きかったようである。
アビスが来訪する直前に、かのシドウ大佐が右腕をレイダー化させたフミヤ少尉に重傷を負わせられたという事実、スギサキ少佐がライブラの支部にレイダーを連れ込んだという噂も混乱を促進させていたようである。
件のシドウ大佐は一命を取り留めたものの、意識不明のまま現在も旧日本支部の医療班による集中治療を受けている。出血と内臓の損傷が酷く、生きているのが極めて幸運なくらいであるという。しかし、兵役復帰は不可能だろうとの予想が下されている。
スギサキ少佐は、シドウ大佐に向けて攻撃した件、フミヤ少尉がレイダーであると知っていながらライブラの支部にこれを連れ込んだ件についての罪に問われ、同支部の隊員らに事情聴取を受けている。
またタカノ准将もこれを知っていながら不干渉を決め込んだ可能性が指摘されており、彼女への処分も本部によって今後決定される方針であるらしい。
フミヤ少尉自身に、それら、つまり自身がレイダーであること、そしてレイダーとしてライブラの情報をアビスに流していたことへの自覚は無かったという話である。またフミヤ少尉は前述の通り現在アビスに連れ去られており、彼女の反応は極東遥か上空で留まったままであるという。
現在、最も戦力として期待される、スギサキ少佐に次ぐレイダー討伐数を誇る、南米支部所属のガリア中将は、南米周辺で暴れているレイダーの大群との戦闘に追われ、南米支部を離れることが出来ない状況に追いやられていた。周辺は飛行するレイダーも大群を為しており、他支部からの増援も迂闊に近づけない状況にある。スギサキ少尉らの証言を真とするならば、アビスによる故意的な妨害と見られる。
スギサキ少佐と直接コンタクトを取ったとされる、アビスが彼に伝えた内容はこうだ。
アビスの正体は、悠久の年月宇宙を彷徨い、星を捕食し続けて、それを生きる糧としてきた巨大宇宙生命体そのもの。
彼あるいは彼女の目的は、人類を捕食することによって力を蓄え、そしてこの地球という惑星を捕食すること。
フミヤ少尉をライブラに送り込んだ理由について、彼或いは彼女は、人間を捕食する効率の向上と称しているが、これについて真偽は不明。というより、疑う余地があると判断される。
一連の件は、ついにアビスが、本格的な捕食に向けて動き出したのだと推測される。残りの地球人ごと、地球を呑み込もうという算段であるのだろうか。
アビスによる惑星捕食の予想、つまり滅びのビジョンについては無数の憶説が飛び交っている。
そして、その滅びが訪れるのはいつか。一ヵ月後か、一週間後か、翌日か。少なくとも、染まってゆく真っ黒な空は、人類に残された猶予があとわずかであることを示していた。
漆黒の空にはたった一つの星も瞬かず、波打つ黒い水面のように蠢いている。遥か遠くから獣の低い唸り声のようなものが地を這って響き続け、まさしくこの世の終焉の前奏には相応しい、禍々しい絵図が広がってゆく。
西暦、という暦の原点となった神の子の誕生日を祝うイベントの名になぞらえて、誰かがその日を『ブラック・クリスマス・イブ』と呼び、名付けた。
最終章「シューティングスター・オブ・アビス」
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