複雑・ファジー小説
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- アビスの流れ星
- 日時: 2013/05/22 20:35
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 76WtbC5A)
- 参照: http://ameblo.jp/gureryu/
名前変えました。「緑川遺(ミドリカワユイ)」といいます。
これからもよろしくお願いします。
ちゃんと丁寧に最後まで完結させたいなと思います。
(登場人物)>>3
序章「記憶喪失の少女の追憶」
>>1
第一章「生きるという責任の在り処」
>>2 >>6 >>9 >>12 >>14 >>15 >>16 >>17
行間
>>22 >>25
第二章「生きる理由」
>>29 >>32 >>33 >>34 >>35 >>38 >>39 >>40
行間二
>>41
第三章「人は自分を騙し通すことは出来るか?」
>>44 >>47 >>48 >>49 >>51 >>52 >>53 >>56 >>57
最終章「シューティングスター・オブ・アビス」
>>58 >>59 >>60 >>61 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71(New!!)
行間三
>>72
登場人物 2
>>73(New!!)
- Re: アビスの流れ星 ( No.9 )
- 日時: 2012/11/24 05:23
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: SLKx/CAW)
時間が凍りついた。
私たちの誰もが動きを止める中で、首から上を失ったミズハラさんが倒れる。コップが横倒しになる様を連想した。彼の体は地面に伏すと、断面から赤いものを噴き出した。
倒れたミズハラさんの体は微動だにしない。悲鳴ひとつあげることなく、彼は屍と化した。あれはもう死んでいる。
「——総員、戦闘態勢をとれッ!!」
隊長の声を受けて我に返る。途端に意識へ飛び込んできたのは、目の前の大きな化け物。レイダー。
先ほど確かに私が殺したはずの、しかし現に、引き裂かれた頭部から灰色の体液を流しながらも四足で立っている怪物。
「なん……で、立ってるの……?」
私の問いかけは、異形の生物には届かないらしい。
私は腰に差していた二本のサーベルを再び掴んで構える。他の皆はすでに戦闘態勢に入っているようだった。
固唾を飲んで、怪物の次の動作を待つ。まだだいぶ混乱している。まずは落ち着かなきゃ。
レイダーは前足でミズハラさんの頭を飛ばしたきり、隙間風がもれるような呼吸音と灰色の体液が落ちる音を鳴らすばかりで、立ったまま動かない。しかし少なくとも、瀕死ではないように思えた。
レイダーの首がゆっくりと動き始める。思わず全身の筋肉を張り詰めて身構えする。
だが、そいつは私ではなく足元のミズハラさんの死体に首をもたげた。それから触手の奥にあった、恐ろしい牙が並んだ口をがぱと開いて、ミズハラさんの死体を食べ始めた。
水っぽい、濡れた音が静かに響く。さっきまでミズハラさんだったものが、目の前でどんどん形を崩していった。腕の部分を引き裂かれてから、お腹を食い破られて、吐寫物のように色黒い内臓が零れ出た。
見ていて、形容しがたい妙な気分を味わった。
「アルベルト、撃て!!」
同時に撃鉄を引く音と爆音。それから多少の、肉らしきものが爆ぜて飛び散る音。
化け物の大きな頭部が狙い撃たれ、開いた傷口が更にぐずぐずになった。
レイダーは衝撃を受けて少しよろめいたものの、倒れずにすぐアルベルトさんの方へと向き直った。
「……どうしてこうなった」
アルベルトさんは次の弾を装填しながらレイダーを見据える。
「頭部をいくら攻撃しても意味ないのか? アルベルト、次は奴の脚を狙え。動きを封じてから全身をずたずたに切り裂く」
「素材はいいのか?」
「この際そうも言ってられない。こいつはちょっと、異常だ」
「おけぇ」
アルベルトさんが返事しながら、もう一発銃声。
ライフルから放たれた弾丸は狂い無く、レイダーの前脚を的確に貫いた。
これは効いたらしい、レイダーは聞くに堪えない絶叫をあげて巨体を仰け反らせた。
それからもう一度、大きな前脚で地面をつく。その拍子にミズハラさんだった肉の塊は、完全に潰された。
「まだ俺のターンは終了してない、ぜ……」
アルベルトさんが言うと同時、彼の上半身と下半身が分断された。
下半身が倒れるよりも、上半身が無造作に転がるほうが早かった。大きなライフルが彼の手から離れて、重い金属音を立てて落ちた。
「アルベルトッ!!」
彼の死体をゆっくり眺めるより先に、レイダーがもう一体居たという事実に気づく。
彼が立っていた場所のすぐ後ろに、二本足で立つ化け物の姿があった。化け物は灰色で、両腕が鋭い鉤爪になっている。顔は無く、代わりに頭部を水晶体のようなものが覆っていた。
「糞が……嘘だろ、もう一体!? 反応は無かったはずだ!」
隊長がうろたえた様子など初めて目にした。
鉤爪を血で濡らしたレイダーは、腕を振って血を払い落とす。そして、その姿は文字通り空気に溶けるように消えた。おおよそ見たことのない現象だった。
理屈はわからないけど、どうやら奴は姿も反応も消せるということらしい。
「……撤退だ! 退いて態勢を立て直す——」
「——隊長、危ないッ!!」
隊長が撤退の指示を下すより早く、マツヤマさんの絶叫がとんだ。
先ほどの姿を消せるレイダーに気を取られた隙に、四足歩行のレイダーが彼との距離を詰め、大きな口を開いていたところだった。
飛び込んだマツヤマさんが隊長の体を弾き飛ばして、隊長は間一髪のところでレイダーの牙から逃れ、地面に転がる。
だけど。
「マツヤマぁっ!!」
マツヤマさんの体は、下半身と左腕をレイダーの牙に囚われた。牙の一本が腹部を貫通しており、だらんと下がった左腕は肘から先が失せていた。下半身が口の中でどうなっているかは想像もつかない。
彼女は口から血を吐いて、しばらくは愕然と目を見開いて隊長の顔を見ていたが、それからゆっくりと微笑んで口を開く。
「隊長、私、貴方のことが……」
言葉が最後まで紡がれる前に、レイダーが彼女の身体を噛み砕いた。牙から外に出ていた彼女の胸から上が、滴る血液と一緒に地面に転がる。
隊長は何も言わなかった。言えなかった。ただ尻餅をついて、呆然とマツヤマさんを噛み砕いたレイダーを見ていた。
そんな隊長を両断するのは、先ほど姿を消した、鉤爪を持つレイダーにとって容易いことだった。——
——次に気付いたころ、私は空を見上げていた。
綿を裂いたような雲が浮かんでいるオレンジ色の空の真ん中に、大きな黒い星がぽっかりと口を開けている。
私の周りには、今日まで仲間だったものの骸が無残に転がっている。
私たちは『ライブラ』。『アビス』の出現と共に現れた、『レイダー』という化け物を倒すのが仕事。
そして、これが私の日常である。
- Re: アビスの流れ星 ( No.10 )
- 日時: 2012/11/27 19:12
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
初めまして。昔風猫と名乗っていた物です。
アビスという単語に惹かれたという、詰まらない理由でクリックしたのですが。
なかなか面白いですね。
文章の書き方も本格的かつ分かり易くて。
キャラクタも良い感じに立っていると思います。
それと戦闘シーン頑張ってますね^^
苦手だとのことですが、これからも頑張って磨いていってくださいね♪
- Re: アビスの流れ星 ( No.11 )
- 日時: 2012/11/30 20:57
- 名前: 代理 (ID: Mi7T3PhK)
黒田奏さんの代理です。
パソコンが壊れてしまい、暫く更新を停止するとの事です。
- Re: アビスの流れ星 ( No.12 )
- 日時: 2012/12/31 17:33
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 9U9OujT6)
2
かつてこの巨大な列島が日本と呼ばれていた頃、東京という名だった場所。今では無惨なかたちで晒された廃墟ばかりが立ち並ぶ、その地に基地を構える、ライブラ『元日本』支部本部。
いわば極東の精鋭とも言えるその第一部隊が、たった一日にして壊滅したと報告があったのは、つい三日前のことである。
「……そして、本部に在籍している面子でただ一人、この国出身である私が呼ばれたのか」
受付嬢と並んで廊下を歩いてゆく。受付嬢の容姿はあまり見ていない。私の視線は今、ここへの転属に関する資料の束に注がれている。ただ、給与の変動その他諸々に興味は無い。注視すべきは、死亡したという前の第一部隊四名のプロフィールと死亡時の状況、そして唯一生き残った『フミヤ』という少女の情報だと思った。
ここの第一部隊がほぼ壊滅したとのことで、新しく二人が第一部隊に配属されることとなった。その内の一人が私である。わざわざ本部から私を引っ張ってくるなどと面倒な事に至ったのは、未確認のレイダーに対する警戒からだろう。
「多大な戦力の損失も憂慮すべきことですが、何より、戦友を失ったことでフミヤ曹長の意気がかなり消沈してしまっていることが……現状ではかなり深刻ですね」
受付嬢の言葉に、ふむ、と声が漏れる。どうやら私は、考え事を始めるときに、口元に曲げた人差し指の側面を当てる癖があるらしい。
ライブラ隊員の戦死は極めて多い。特に前線で戦う者が還暦まで生き延びるなど、絵空事であると言える。事実、この私も多くの死を目の当たりにしてきたのだ。少なくとも、五年前から顔を見知った戦友はいない。
情緒の不安定は任務に重大な滞りをもたらすといえど、死に慣れ、涙も流さぬ冷徹の鬼と化すか、ひとつひとつの死に憂い、悲しみに明け暮れるか。
「……どちらがマシなのだろうな」
「はい?」
「何でもない。少し考え事をな」
はあ、と受付嬢は多少腑に落ちない様子ながらもうなずく。
「兎にも角にも、まずは新メンバーとして、顔合わせと行こうじゃないか」
廊下の一角には、オートロックの鉄の扉があった。鉄の扉とはいっても、監獄のような重々しい印象は無い。良くも悪くも簡素なものだ。
この扉の向こうが第一部隊の作戦会議室だという。つまり、今日から私はここを拠点に仕事へ赴くことになる。
受付嬢が薄い銀色のカードをリーダーに差し込むと、鉄の扉は頭上へ吸い込まれるように開いた。
3
私のせいだ。
私が、レイダーを仕留め損ねたから皆は殺されたのだ。何がばっちぐー、だ。自分を絞め殺してしまいたい。そうだ、死ねば良かったのは私だ。全部私のせいだ。
一昨日は呆然としたままで、昨日は結局のところ、一日中涙が止まらなかった。だからなのか、今日は、まだひりひり痛むまぶたを、涙は流れ落ちない。ただ気分が重くのしかかり、際限なく大きさを増していくだけだ。
落ち込む資格もないのかもしれない。全部私のせいなのだから。悲しむこともいけないのかもしれない。いわば、私が殺したようなものだから。
隊長は、強くて優しい人だった。何より頼もしかった。初陣を前に緊張で固まっていたとき、彼が一言と共に背中をたたいてくれた。それだけで心がほぐれていったのを覚えている。
マツヤマさんも優しい人だった。普段の態度こそ冷たいといわれるけれど、毎回の任務が終わるたびに、お疲れさま、と、温かいコーヒーを差し出してくれた。温かいコーヒーだと、いつも思った。
アルベルトさんは、いろんなことを知っていた。何でも趣味が高じて、色んな知識を身につけたのだという。たまに本を薦めてくれたりもした。私もまた、その本で色々なことを知った。
ミズハラさんは、内気だけど音楽が大好きな人だった。気持ちを表情に出すのが苦手だと言っていたけれど、好きな曲について語るときの彼は、とても楽しそうに見えた。
——全部私のせいだ。私のせいで、みんな死んでしまった。
いっそ自分で自分を殺せたらと思う。けれど悲しいことに、私は自殺するだけの勇気を持ち合わせていない。
どこまでも醜くて、情けないと思う。
重い感情がぐるぐると同じところを回っていた。しかし、扉のオートロックが解除される音で、私は我に返った。そうだ、いけない。今日は新しい人が来るって言われてたっけ。
涙がこぼれていないのは幸いだった。それさえなければ、笑顔をつくるのは得意だ。私は立ち上がって、扉のほうに向き直る。
鉄の扉が開いて、廊下の光が差し込んだ。どうやら私は、部屋の電気を付けることさえ忘れていたようだ。人影は二つあった。一つはエンドウさんだった。彼女は、この元日本支部の受付嬢、オペレーターである。
そして、もう一つの人影は、見覚えのない若い男の人だった。丈の長い真っ黒なコートに身を包んでいる。赤い髪と瞳が印象的だと思った。
- Re: アビスの流れ星 ( No.13 )
- 日時: 2012/12/31 17:43
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 9U9OujT6)
黒田奏です。
代理さんに連絡してただきました通り、今現在、私のパソコンは壊れております。
今はお母さんのノートpcを借りて文章を打っております。
代理さん、ありがとうございました。
しばらく新しいpcを買うのは無理みたいです。
修理も考えましたが、修理するほうが高いと聞いて断念しました。
更新はかなり不定期になると思います。ごめんなさい。
風死 さん⇒
初めまして。褒めていただきありがとうございます。
立たせたキャラの五分の四を、さっそく座らせちゃいましたが。
これからも精一杯頑張っていきたいと思います。
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