複雑・ファジー小説
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- アビスの流れ星
- 日時: 2013/05/22 20:35
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 76WtbC5A)
- 参照: http://ameblo.jp/gureryu/
名前変えました。「緑川遺(ミドリカワユイ)」といいます。
これからもよろしくお願いします。
ちゃんと丁寧に最後まで完結させたいなと思います。
(登場人物)>>3
序章「記憶喪失の少女の追憶」
>>1
第一章「生きるという責任の在り処」
>>2 >>6 >>9 >>12 >>14 >>15 >>16 >>17
行間
>>22 >>25
第二章「生きる理由」
>>29 >>32 >>33 >>34 >>35 >>38 >>39 >>40
行間二
>>41
第三章「人は自分を騙し通すことは出来るか?」
>>44 >>47 >>48 >>49 >>51 >>52 >>53 >>56 >>57
最終章「シューティングスター・オブ・アビス」
>>58 >>59 >>60 >>61 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71(New!!)
行間三
>>72
登場人物 2
>>73(New!!)
- Re: アビスの流れ星 ( No.39 )
- 日時: 2013/01/13 13:15
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
————……
10月20日
今日は大きな鳥のようなレイダーが相手だった。シドウさんが頼りになるのはもちろんだけど、スギサキさんがいることで戦略の幅が大きく広がっていると思う。
それはそうと、今日はついに、二人に私を鍛えてもらうように頼み込んだ。スギサキさんはめんどくさがってたけれど、シドウさんは快諾してくれた。相変わらずの仏頂面だったけど。——……
————……
11月5日
そろそろ、シドウさん達とのトレーニングにも少し慣れてきた……かな?
でもやっぱり二人には程遠い。いつもの、一対一の剣術戦では手も足も出ない。特にシドウさんは、スギサキみたいに身体を改造されてるわけでもないのに、剣術に限ってはどうして彼より強いんだろう。
でも前よりは私だって腕が立つようになってきている自信はある。うん、頑張ろう。——……
————……
11月10日
今日は『サイクロプス』という、大きな人型のコードネーム持ちが相手だった。最近はコードネーム持ちがやたらと多く出没していると思う。倒したけどねっ。
シドウさんが、トレーニングの成果が出ていると褒めてくれた。それから頭を撫でてくれた。凄く嬉しかった。——……
————……
11月15日
今日は『ヘカトンケイル』というコードネームを持つ、触手が何本も生えた巨大なレイダーが相手だった。作戦はいつもどおり、問題なしに完璧。
それから任務が終わった後、三人で屋上に行った。寒いから水筒にコーヒーをたっぷり入れて持っていって、皆で飲んだ。
シドウさんが星について色んなことを話してくれた。あの星々は果てしなく離れているから、今見えている星でも、実際には何百年も前に死んでしまっている星もあるのだそうだ。でも、星は死んでも、死んだときに散ったガスや塵がふたたび集まって新たな星を生み出すのだそうだ。……覚えられたのはそれくらいだけど。
ずっとずっと昔は平和で、そんなことを、学校という場所で、誰もが学べたのだそうだ。私もいつしか、学校へ行ける日が来るのだろうか。——……
————……
11月25日
今日も任務が終わってから皆で屋上に入り浸った。ここ最近はずっとそうしてると思う。寒いけど、落ち着くから、私も嫌じゃないけど。
ただなぜか今日は、シドウさんとスギサキの口喧嘩から、なぜか彼らの一対一の剣術戦に発展していた。あれがシリウスだの、今の時期じゃあんな場所に見えるはずがないだの、なんてくだらないきっかけで、無駄にハイレベルな戦闘を繰り広げていた。
でも、きっと彼らにとってはじゃれあうようなものなんだろうけど。見てて、ちょっと可愛いなと思った。——……
「はい、シドウさん」
「うむ」
「スギサキも」
「おう」
マグカップにコーヒーを注いで、二人に手渡す。湯気が白く薫って風にあおられてゆく。屋上は風も強いものだから、温かいマグカップを持った手が妙にじんわりと、幸せな感覚を持つ。
三人で並んで星空を見上げていた。最近では、任務が終わった後にここで入り浸るのが私たち第一部隊の日課になっている。それで、シドウさんが星座や星について私たちに講釈して、でもだいたいスギサキさんは寝ているのだ。今日はまだ来たばかりなので、彼は起きている。
「……居場所が出来た気がするな」
不意に、シドウさんがそんなことを口にした。私はシドウさんを見る。彼は、マグカップを持ったまま星空を見上げていた。
「アメリカは激戦区だった。とりわけその中でも難易度の高い仕事を任され続けていた私は、本当に数多くの死を見て来たよ」
彼の言葉に胸が詰まる。彼がライブラに入隊したのは五年前だという。きっと私よりもよっぽど多く、彼の周りで人が死んでいったのだろう。ほとんど感情を表に出さない人だから、きっとそれら全部を自分で抱え込んで。
しかし、だが、と彼は言葉を続けて。
「何だろうな。ようやく信頼できる仲間を得た気がする」
そう言って、彼は一息置いて、自嘲気味にひとつ鼻で笑った。やはり私にはこういう言葉は似合わんな、と誰ともなくつぶやきながら。
私は、また泣きそうになった。何度か経験してようやく解った。これは、幸せな涙だ。
「……また泣いてんのかフミヤ」
「なっ……泣いてないもんっ」
慌てて手の甲で涙を拭く。
「……そうですね、シドウさん」
嬉しかった。
私も、ここにやっと自分の居場所が出来たと思い始めていたから。そして、彼も私と同じように、そう思ってくれていたから。
きっとそれはスギサキも同じだ。何も言わないけど、腕を組んで枕代わりにして寝そべったまま、一度だけ鼻で笑ったから。
「——あ……流れ星」
「……知ってるか? 流れ星に願い事をすると叶うらしいぞ」
「迷信に決まってるだろ」
「もう……スギサキは夢が無いなあ」
「まあ確かにそれで叶うなら苦労しないがな」
「えっちょ……シドウさんまで!?」
スギサキが悪戯っぽく笑って、シドウさんも静かに微笑んだ。
「……もう消えちゃったけど、間に合いますかね」
「試してみる価値はあるんじゃないか?」
「ん……じゃあ」
この二人とずっと一緒に居られますように。
- Re: アビスの流れ星 ( No.40 )
- 日時: 2013/01/26 14:17
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
8
ボッ!と空気の壁を突き破ったような音。粉雪舞い散る屋上に連続して響く。ゆっくり息を吸う暇もない。ただひたすらに退いて避ける。避ける。避ける。迫る二本のサーベルの連撃を避ける。むしろ今まで生き延びているのが奇跡であるように思える。
それほどまでに目の前の相手は強い。まさしく見ると触れるとでは大違いだ。何より恐ろしい。怖い。恐怖で泣き叫びたい。しかしそれすらも許されない。ただひたすら目の前の鬼人は私を殺そうと迫るのみである。
このままでは本当に殺される。大きく退いて距離を開く。だけど彼はすかさず片方のサーベルを私めがけて投げつける。サーベルは一直線に飛び私の頬をかすって過ぎる。怯む。彼がその隙を逃す筈もない。刹那にして間合いを詰めた彼に、私は為すすべもなく組み伏せられた。
首を掴んで床に打ち付けられ、少し呼吸が止まる。私を見下ろす真紅の双眸は、どこまでも冷徹に鋭い。
ようやく多少の声が出るようになる。
「なん……っで、ですか……シドウさん……!」
真紅の流星は答えない。ただ、レイダーを見据えるときと同じ瞳で私を鋭く、無表情に睨みつけるばかりで。
「……信じてたのに……!」
真紅の流星は応えない。
何も言わず、彼はサーベルを逆手に持って振り上げた。あれはヤバイ。咄嗟に全力で転げまわる。間一髪。サーベルはさっきまで私の首元があった床を易々と貫通した。皮肉にも、あれは彼に鍛えられていなければ避けられなかっただろう。つまり殺されていただろう。
つまりシドウさんは本気で私を殺すつもりだ。
シドウさんはサーベルを床から引き抜いて、肩から力を抜いたまま私と向き合う。いつもの赤い髪と赤い瞳、黒いコート。だが目の前に、強くも優しい彼の面影はない。あれは幾多の怪物を屠ってきた鬼人の姿そのものだ。その殺気のすべては今、私に向けられている。
何で?
問いかけても、鬼に言葉は通じなかった。
真紅の流星は再度踏み出した。想像を絶する速度。先程とは違って彼は一刀流。しかし脅威はなんら変わらない。むしろ一刀一刀が速さと鋭さを増したようにすら感じる。致命傷こそ受けていない。だが私の身体の傷は少しずつ確実に増えてゆく。
生き延びるビジョンが思い浮かばない。私は死ぬのだろうか。この屋上で。もう笑い合えないのだろうか、スギサキとは、そしてこの人とは。
何で?
問いかけるにも、誰に問いかければいいのか分からない。
剣戟は降り注ぐ。ついぞ切っ先は私を捉えようと迫る。白銀に私の絶望した表情が映ったような気がした。
私は死ぬのだろうか。
もう笑うことも、食べることも、彼らと話すことも、彼らのバカみたいなやり取りを見守ることも……彼らと一緒に居ることも出来なくなるのだろうか。
——嫌だ。
——嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
シドウさんが放った一撃を、受け止めた。
いきなり変化した、灰色で、まるで怪物の腕のような、それでいて刃の生えた右腕で。
シドウさんは目を見開いたが、すぐに細めた。そして素早く退いて距離をとった。
少し状況が飲み込めなかった私も、直に理解する。ああ、そういうことかと。
やっぱり運命は残酷だったのだ。「私は悪魔だ。まるで悪魔だ。」いつの日かそんな風に綴ったことを思い出す。
次に襲ってきたのは酷い虚しさだった。もうどうにでもなればいい。殺すなら早く殺せばいい。何が、ずっと一緒に居られますように、だ。くだらないと思った。何でそんな絵空事を見たのか、私は。
シドウさんが音もなく構えて、それから一息に私へと斬りかかる姿が、やけにはっきりと網膜に焼きついた。
そして、その表情も。——……
「……——え」
次に気が付いたとき、私の右腕は、彼を貫通していた。
からん、とサーベルの落ちる音が屋上に響いた。私にもたれかかっていたシドウさんは、何も言わず、ただ一度咳き込むと血を吐いた。今にも死にそうな深い呼吸で、彼は一言、私の横で私に言った。
「 」
私の肩に喉元を預けるようにもたれていた彼は、そのままバランスを崩して、何の抵抗もなく、少し雪が降り積もった冷たい床に倒れた。
「……シドウさん?」
返事は無い。
そして、動かない。
彼の眼光は虚ろ。純白に赤がみるみるうちに広がって染まる。彼の黒いコートに雪が触れる。
自分の右腕を見た。人ならざるその腕は、今しがた貫いた人間の血液を滴らせていた。
何の比喩表現も必要ない。今度こそ、私がシドウさんを殺したのだ。
——殺した、のだ。
だ?
私が?
「——嘘だよね?」
返事は返ってこない。
- Re: アビスの流れ星 ( No.41 )
- 日時: 2013/01/15 20:03
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
(行間二)
「そういえば、二人は何でヘッドセットを着けていないんですか?」
第一部隊の会議室。
気になったので尋ねてみた。
シドウさんは薄型の装備をコートの下に着込んでいるし、スギサキさんは両脚と左腕、それから左目が装備そのものだ。だから、装備を一見着けていないように見える理由は納得できる。
ただ、ヘッドセットは別だ。あれは防御力の観点の装備ではない。私たちが使っているヘッドセットの主な機能は、カメラと通信機能。カメラは、支部で待機している人間がレイダーの情報をより多くつかめるようにするためと、支部からのバックアップのため。通信機能もバックアップの性能を向上させるための目的が大きい。
「ふへへいふほ」
「シドウさん、まずは飲み込んでから喋ってください」
お行儀悪いですよ。
シドウさんはハムスターのように頬に詰めていたお菓子を飲み込んだ。普段はカッコいいのに……。でもちょっと可愛かったかもしれない。
「着けているぞ」
そして、彼は赤い髪に隠れている耳の下のピアスを指差した。一見すると羽根の装飾のようなピアスだ。
あれはそんなに便利なアイテムだったのか。ただのアクセサリーだと思ってた。
「それにカメラとマイクと受信機能が?」
「ああ。特注だ。従来のそれより性能は若干落ちるがな」
最も、流石にピアスをカメラにするには不具合があるがな、といってコートの襟元の黒いバッジを指差した。きっとあれがカメラということなのだろう。
「それも、アメリカ本部の試作品なんですか?」
いや、これは……と言って、シドウさんは少し言いよどんだ。
「……貰い物だ、ある人物からのな」
それから彼は少し遠くを見た。何かを思い出しているようにも見えたけど、それ以上追求するのは止めておいた。
彼の、戦死していった仲間に関することなのかもしれないと思ったからだ。だとしたら、下手にそれを穿り返したくない。
「スギサキも特注?」
「でも俺はピアスじゃねえぞ」
じゃあどこに、と訊こうとするより早くスギサキは答える。
「埋め込まれてる」
流石に、どこに、とは訊けなかった。なにそれこわい。
ちなみに左目はカメラの役割も果たしているらしい。バハムートと戦ったとき、確かスギサキは包帯を着けっぱなしだった気がするけど、あれはいいのだろうか。あの時はシドウさんも居たからセーフ……なのかな?
「それにしても、思ったより私たちの装備の研究って進んでるんですね」
試作品とはいえシドウさんの装備はどれも徹底してスリム化されているし、スギサキに関しても、人体と装備の一体化なんて初めて聞いた。
あるいは旧日本支部の研究が遅れているだけなのかと思ったけれど、シドウさんの話によると、どうやらそうでもないらしい。
「今のところ、従来の装備が一番安定した性能を持っているというだけの話だ」
装備には、身体能力向上の意味合いも含まれる。簡単に言えば人工筋肉というやつが組み込まれているのだ。だから私たちは、ヘリを介して遥か空中から飛び降りても傷一つ負わないらしい。
ただしシドウさんの装備の場合、その厚みを犠牲にしたが故に、攻撃を受けると通常の装備より脆い部分があるのだという。
スギサキさんに関しても、性能は高いもののメンテナンス等にかなりのコストがかかるため、実用段階ではないらしい。
「なんか、難しいんですね」
「何しろレイダー共の死骸を使っているからな。まだ未知の部分も多かろう」
そういう意味で言ったんじゃないんだけどなあ。
「逆に分かってきていることもある。レイダー共の死骸に、宇宙空間でしか存在しないような物質が含まれているケースがあること、加工は特に昼や、特に明るい場所での方が行いやすいこと、これは仮説段階ではあるが、加工に関わった人間や使用している人間の意志と装備の性能が密接に関わっている可能性があること……」
「ちょまっ、ストップ! ストップ、シドウさん!」
彼の趣味なのか、シドウさんは色んな方向に博識である。それゆえ、たまに暴走する。脳味噌の容量が足りていないこっちはもう何がなんだか。
「隙ありっ」
「あっ」
「あ……」
スギサキが、黒檀のテーブルの上に広げられたシドウさんのお菓子(の、山)のひとつを目にも留まらぬ速さでちょろまかす。
「……スギサキ、貴様良い度胸をしているじゃないか」
「はん。油断してる方が悪いんだよ、真紅の流星」
「シドウさん、任務とトレーニングルーム以外で剣を抜いちゃダメですってば! スギサキも煽ろうと……っていうか応戦しようとしないでよ!」
それにシドウさん、それだけあるなら一つぐらいスギサキや私にあげたって変わらないんじゃ。
「貴様にもやらんぞ、フミヤ」
「心読まれたっ!?」
- Re: アビスの流れ星 ( No.42 )
- 日時: 2013/01/15 20:57
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: jhXfiZTU)
こんばんは^^
更新が鬼のように早いので、つい毎日覗きに来ちゃいます(笑)
という訳で感想を!
フミヤがスギサキさんとシドウ大佐と一緒に星を見て話す場面は、読んでてほっこりしますね。
3人とも決して平和でない日々を生き抜いてきたから、そうやって息抜きしている部分はとても暖かい時間に感じます^^
そしてシドウ大佐、まさかの大食い発覚(笑) 山のようにお菓子を積んで食べる姿が微笑ましいです(*´ω`*)
それと間にあるフミヤの日記の部分は、知らずと目頭が熱くなりますね><
新しい仲間を持ってよかったなぁ、と思ったところで……
>>40は一体何があったのでしょうか!?
シドウ大佐を貫いたフミヤの右腕は、まさかレイダーとかと同じもの……?(汗)
その話の間に何があったのか、とても気になります!!
ていうかシドウ大佐の死が辛すぎます(´;ω;`)
……また長々と感想書いちゃいましたが(笑)
いつも更新楽しみにしています♪
これからも頑張ってください!
- Re: アビスの流れ星 ( No.43 )
- 日時: 2013/01/15 22:24
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
朱雀 さん⇒
コメントありがとうございます。
更新頑張ってます。
私も友達だとかと屋上に行って星空を眺めたいものです。
大切な人といっしょに居る瞬間は、いつでも暖かいものだと思います。
シドウ大佐はよく食べます。そのくせスリムです。女の敵です。
一体何があったのでしょうかね。これから頑張って書いていきます。
ありがとうございます。
これからも更新頑張らせていただきます。
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