複雑・ファジー小説
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- アビスの流れ星
- 日時: 2013/05/22 20:35
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 76WtbC5A)
- 参照: http://ameblo.jp/gureryu/
名前変えました。「緑川遺(ミドリカワユイ)」といいます。
これからもよろしくお願いします。
ちゃんと丁寧に最後まで完結させたいなと思います。
(登場人物)>>3
序章「記憶喪失の少女の追憶」
>>1
第一章「生きるという責任の在り処」
>>2 >>6 >>9 >>12 >>14 >>15 >>16 >>17
行間
>>22 >>25
第二章「生きる理由」
>>29 >>32 >>33 >>34 >>35 >>38 >>39 >>40
行間二
>>41
第三章「人は自分を騙し通すことは出来るか?」
>>44 >>47 >>48 >>49 >>51 >>52 >>53 >>56 >>57
最終章「シューティングスター・オブ・アビス」
>>58 >>59 >>60 >>61 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71(New!!)
行間三
>>72
登場人物 2
>>73(New!!)
- Re: アビスの流れ星 ( No.44 )
- 日時: 2013/01/28 18:53
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
第三章「人は自分を騙し通すことは出来るか?」
1
え、と、思わず訊き返した。
「今伝えたとおりだ。フミヤ、貴官の今後の任務参加を一切禁ずる」
シドウさんは無表情で繰り返す。冗談を言っているような顔つきではなく、いつもの、任務の内容を私たちに伝えるときと同じ目だ。
「えっ……と、つまり、次の任務は、あの時みたいに、レイダーに攻撃を加えるな……と……?」
「今伝えたとおりだ、と言った筈だ。お前は今後一切、任務に出なくて良い」
それから、とシドウさんは付け加えて。
「本日現時刻を以って、フミヤ少尉を第一部隊、及びライブラから除名する。これは支部長であるタカノ准将の意向でもある」
そう、私に伝えた。
「……休め、ってことですか?」
「ずっとな」
「クビ、ってことですか?」
「事実上そうなる」
「もう一緒に戦えない、ってこと……ですか?」
「そういう事だ」
「……理由を聞いてもいいですか」
「一つ目は貴官が在籍していた三つの部隊が壊滅状態に追いやられたこと」
発する自分の言葉が、少し震えているような気がした。
シドウさんは淡々と告げる。
「二つ目は単純な戦力を鑑みて、第一部隊は私とスギサキの二人で充分だと判断が下された」
「でも、そんなっ……!」
「これは命令だ」
シドウさんはぴしゃりとはねつける。
初めて彼に会った時のような、視界が揺れる感覚に見舞われて、顔の表面が熱くなる。足元がぐらついて倒れそうな錯覚。
「スギサキからも何か言ってよ!」
「……悪いけど、上官様の命令には逆らえない」
腕を組んで柱に寄りかかっていたスギサキも、視線を私に合わせずにそう言っただけだった。
掴んで縋ろうとしたものが砂の塔みたいに崩れたような感覚。
「まあ……フミヤもまだ未成年だし、手当てなら支給されるだろ」
「そういう問題じゃ……」
「そして」
シドウさんが私の言葉を鋭く遮って、言った。
「これは私の判断でもある」
その言葉の意味を飲み込めず、一秒。
それから目の前が、一瞬暗くなった気がした。その瞬間、私は世界から置いてけぼりにされた。
「この会議室のお前の荷物も、今日中に片付けておけ」
シドウさんが背を向けて何かを言っていた。
「……まあ、フミヤはまだ未成年だし手当ては支給されるだろ。またどこかでな」
スギサキも何か言って、それについていく。
第一部隊の会議室には、私だけが取り残された。
鉄の扉が重々しく下りて、私は第一部隊から、ライブラの隊員から外された。それはシドウさんの判断だという。
つまり、彼にとって私は『要らない』ということ。
自分では頑張っていたつもりで、私はずっとシドウさんとスギサキの足手まといになっていたのだろうか。トレーニングも、手を抜かないで頑張ってたつもりなんだけどなあ。
それとも彼らに、何か嫌なことをしただろうか。覚えはないけれど、それも自分の勘違いだったのだろうか。
やっぱり、居たらいけなかったんだろうか。
あの日、居場所が出来た気がすると言ってくれていたのは嘘だったのだろうか。演技だったのだろうか。スギサキも、内心では私をうっとおしいと、邪魔だと思っていたのだろうか。
私の何がいけなかったんだろうか。
全部かな。
全部いけなかったのかな。
ずっと彼らは、私を疎ましく思っていたのかな。邪魔だったのかな。早く居なくなればいいのに、って思っていたのかな。
なのにはしゃいじゃって、流れ星にずっと一緒に居れるようにだなんて祈って、一緒に居たいとか思って、ちょっと幸せな気分になっちゃったりして、また明日も一緒に屋上行きたいとか思ったりしちゃって、二人の誕生日聞こうかななんて思っちゃってたりして、誕生日にはプレゼントを渡そうなんて考えちゃったりして、トレーニングとか任務とかでシドウさんに褒められたときは嬉しくって、スギサキが無言で持ってきてくれるコーヒーが美味しくって、ちょっと前より成長したかもなんて自信過剰になっちゃって、二人とずっと一緒に居れるように、私も二人を守れるぐらい強くなりたいなんて思っちゃって、二人が居ればいつだって頑張れるなんて思っちゃって、ずっと一緒なんて夢見ちゃって、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、
「……バカみたいだ、私……」
頬を大粒の涙が伝うのがわかった。強く歯を食いしばっていた。
幸せじゃない涙は久々で、ただただ胸が締め付けられるような感覚に苛まれた。
けれど苦しさは吐き出されない。わけのわからない闇の靄が、私の中をぐるぐると、ぐるぐると、ぐるぐると。
なんだよ、それ。
バカみたいだバカみたいだバカみたいだバカみたいだバカみたいだ。
結局、私なんて居ないほうが良かったんじゃないか。
二人の言葉は上っ面だけだったのか。居てもいいんだって、生きてて良いんだって、許されたと思ったのは幻想だったのか。
泣いた。
大声で、子供みたいに泣いた。会議室の外へは、私の泣き声は聴こえていないことを期待して。
自分を呪った。
- Re: アビスの流れ星 ( No.45 )
- 日時: 2013/01/16 21:46
- 名前: 一坂玄太郎 ◆SP1RWrm9VI (ID: 49KdC02.)
- 参照: フミヤちゃんが可哀相で読むのが辛いです。(;A;)
いつもコメント有り難うございます。一坂玄太郎です今晩は。
相も変わらず上から目線になりがちですが、ご容赦ください。
フミヤちゃん、今現在を見ると、人じゃないようですね。
実は今回の更新分には、シドウ大佐は、そのことを知っていたのではないか。とか深読みしてみました。
ライブラを首になったフミヤちゃんがこの後どうしてあぁなるのかが気になります。
あとこのままだと私の中のシドウ大佐の株が大暴落してしまいそうです。
最後に。
毎回コメントをいただけて嬉しく思っています。私はあまりコメントが得意ではないので顔を出しませんが、毎回読んでいます。
風邪などひかないようにお気を付けください。
p.s.
“フェミア”さんからの伝言やらがあるんですが、どう伝えるべきですかね?
私、メールなど使用禁止なので。
- Re: アビスの流れ星 ( No.46 )
- 日時: 2013/01/16 22:00
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
一坂玄太郎 さん⇒
コメントありがとうございます。
色々と第三章で分かっていくと思います。
シドウ大佐は仏頂面だから仕方ありませんね。あとお菓子たくさん食べるし。一個横取りしただけで怒るし。
何考えているかわからないし。
ありがとうございます、そう言っていただけるだけで励みになります。
風邪は、手洗いうがいで予防に励んでおります。
インフルエンザ怖いです。
『小説家になろう』様の『緑川蓮』というアカウントの方へメッセージを送ってくだされば、応答できるかと思います。
或いは、アメブロの『日暮鯨』名義のアカウントのブログに、コメントしていただければと。
私が承認しなければ、公開されない設定になっていますから。
私の方からの伝言については、後で考えます。
- Re: アビスの流れ星 ( No.47 )
- 日時: 2013/01/17 21:38
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
——ちょっと待って。少し、おかしい気がする。
直感が違和感を運んだ。涙で濡れた視界に、ふと自分の足元、それから自分の目の前の鉄の扉が入り込む。
戦死者の多いライブラは、慢性的に人員不足だ。その中で、戦力として乏しいという理由で、仮にも尉官の人間の首を簡単に切るだろうか。自分で言うのも何だけど、演習ではそこそこの成績を残したつもりだ。
もうひとつ、私が居た三つの部隊が壊滅したからという理由だったけど、だとしたら私を除隊するのが遅すぎやしないか。何しろアイカワさんたちが死んでしまったのは、もう二ヶ月も前の話になる。
私がトレーニングで、シドウさんが期待していたほどの成長が出来なかったからか。けれど、トレーニングは私から彼らに申し込んだものだ。私の成長に期待をかけたならば、向こうから言ってくるはずだ。
何より突然すぎる。最近の任務遂行にも問題はなかったはずだし、足を引っ張っている……ことは、私が自覚していないだけであるのかもしれないけれど、このところ大きなミスは一度もしていない。
全て小さな違和感だけれど、どうにも腑に落ちないのも確かだ。
私の勘違いかもしれない。だけど。
「……訊いてみよう」
袖で力任せに目と鼻を拭いて、会議室の外へと踏み出す。
ポケットから携帯端末を取り出して、通話を繋げる。もし任務中だったりしたらシドウさんとスギサキは電話に応じれないだろうから、おそらくは今日の彼らの動向を把握しているだろう人物へ。
「エンドウさんですか? 私です、フミヤです」
まだ声は少しだけ震えていた。なんとかいつも通りを装って、シドウさんとスギサキの行方を訊く。
彼らは、タカノ支部長の部屋に居るという話だった。
エンドウさんにお礼を言って、携帯端末の電源を切る。私の心配をしていた気がする。エンドウさんは本当に優しい人だと思う。
支部長の部屋は、屋上の二つか三つ手前の階だったはずだ。入隊して以来ほとんど行った事がないので記憶は曖昧だけど、迷うことはないはずだ。
エレベーターに向かって走り出す。
2
「どうにかならないのか、支部長」
「ダメだ」
中途半端な上司であれば、たとえ俺より階級が一つか二つ上であろうが、問答無用で黙らせることのできる実績を挙げてきた自負はある。
しかし目の前の女は頑として、首を縦には振らない。
俺と真紅の流星は、デスクを挟んでそいつと相対していた。
階級は准将。実質このライブラ旧日本支部の全権を握る、タカノ支部長。腰まで黒髪を伸ばした彼女がそれだ。黒い軍服を着た彼女は腕を組んでいた。
「……フミヤ少尉がレイダーであることは、おそらく最初から知っていたのだろう。スギサキ少佐」
「……とうとう、バレたか」
「レントゲンで撮られた内臓の細部まで人間そっくりではあったがな。最初の検査の時点で、疑惑はあったよ」
フミヤがレイダーであることは、当然知っていた。
シドウはともかく、何しろ俺は第一発見者なのだから。
あの日、あの星空の下、折り重なる死体。死体の山の上に立っていたのは、人のような狼のような怪物だった。決してサイズは大きくない。全く見たことのないタイプのレイダーだと思い、銃を左手に剣を右腕に構えた。
そのまま殺すのを躊躇ったのは、その次の光景を見たからだ。
怪物は、一分もしない間に、少女の姿になった。
我が目を疑った。しかし確かにそこに立っていたのは、紛れも無い、灰色の髪に水色の瞳の少女。
「スギサキ少佐。貴官の功績と貴官に対する信頼に免じて、今まで私も庇い続けてきたが」
「でも、だからって……そんな必要がどこにある!」
頭に血が上る。デスクを叩く。タカノは目を合わせただけで微動だにしない。態度の一片も変えずのまま。
「おかしいとは思わなかったのか、スギサキ少佐」
「……何をだ」
「ここ半年の新種レイダーの大量発生。そしてここ二ヶ月の、コードネーム持ちの異常発生」
それから、と繋げて。
「フミヤ少尉の居た隊が悉く壊滅した直接の原因は、新種のレイダーの出現によるもの」
それも一種や二種ではなく、彼女が新しい隊に入るたびに種類が増えて。
「何より、その隊の弱点を突いたかのような種類のレイダー、その隊の戦力が充分でないときを狙ったかのような出現」
タカノは淡々と言葉を続ける。
「一緒に他の隊員と仲良くレイダーの胃袋に収まってもおかしくないような状況で、何故か彼女だけはいつも生き残るという異常」
そう、異常だ。
繰り返して言ってから、タカノは椅子から立ち上がって俺達に背を向ける。
「そして、全ての支部でもトップクラスの二人が一箇所に集まった途端の、コードネーム持ち祭り」
まるで、こちらの戦力を把握しているかのように、と付け加えて。
「レイダーがアビスから飛来するらしいことは、研究でほぼ明らかになっている」
即ち、と言い放って。
「アビスという星自体に、知能と学習能力、そしてこちらを観察するすべがあるということだ」
ここまで聞けば分かる。分かってしまう。分かりたくも、聞きたくもなかった。しかしタカノはあっさりと告げる。
「そして、その『観察するすべ』が、フミヤ少尉だ」
タカノが全ての結論を口にする瞬間と、何の前触れも無く部屋の扉が開く瞬間はほぼ同時だった。
「つまりフミヤ少尉は、アビスからスパイとして送り込まれてきたレイダーである」
気付いたときには、タカノが口に出してそれを言ってしまった後だった。
一瞬遅かったのだ。
「——え?」
フミヤが、支部長室の入り口に立っていた。
- Re: アビスの流れ星 ( No.48 )
- 日時: 2013/01/18 20:53
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
待て、と叫んでも遅かった。フミヤは何も言わないで、振り返って走り出す。
最悪だ、聞かれてしまった。よりにもよって本人に。
「……本人に説明する手間が省けたようだな」
シドウが努めて冷静な、いつもの口調で言う。こいつは今の話の間も徹頭徹尾、苛立ちさえ覚えるほどに落ち着き払っていた。フミヤがレイダーであるとタカノが告げたときでさえ。
そして今も。
何より、フミヤに対する突然の除隊命令。こいつの意思が一枚噛んでいると言っていたな。
「真紅の流星、最初から見破っていたな?」
「確証が無かっただけだ」
さらりと言ってのける。顔色一つ変えず、俺と視線すら合わせぬまま。喰えない奴だと思っていたが、ここまで厄介とは。何を以ってして見破ったのか、というよりは見当を付けたのかは知らないが。
シドウはしばらく考え込んだ後、俺ではなくタカノの方を振り向く。
「さて、支部長。このライブラ旧日本支部に、ネズミが一匹紛れ込んでいると発覚したが……どうする?」
シドウの平坦で端正な口調に、全身に怖気が纏わりつく。いやな予感の具現であった。考えうる限り最悪の展開が容易に浮かぶ。考えまいとする。
しかしたいていの場合、そういう時の嫌な予感は的中する。
タカノはゆっくり瞳を閉じて、数秒。そして命令は放たれた。
「シドウ大佐。貴官にフミヤ少尉、改め、旧ライブラ日本支部に紛れ込んだ人型のレイダーの迅速な討伐を命ずる」
そして。
「委細承知」
おいおい。本気かよ。うわ、目がマジだ。というか、眉一つ動かしてないし。どこまで表情無いんだよコイツ。
「増援を送ろうか」
「必要無い。半端な戦力は足手まといになるだけだ。巻き込まん保証も無いしな」
真紅の流星は踵を返して、黒い手袋をきつく嵌め直す。
普段の任務の直前と同じ眼だった。軍靴の音を鳴らし始める。
「待てよ、シドウッ!」
支部長室を後にするそいつを追って肩を掴む。
「事態は一刻を争うのだ。邪魔をするな」
「ふざけんな……お前、フミヤを斬るつもりか!?」
視線だけこちらを向いた。剣のように鋭い視線だった。
「レイダーと戦うことが、我々ライブラ隊員の仕事だ」
「……ふっ、ざ、けんなッ!!」
心でも死んでいるのかこいつは。なんでそう簡単に割り切れる。
「その台詞、そのまま返そう」
「は?」
「貴官こそレイダーをこの旧日本支部に連れ込んで、どういうつもりだ」
それは。
「——まるで自分と同じだとでも思ったか」
「……ッ」
言葉も瞳も切っ先のように。
でも、そこまで理解しているなら、そこまで理解できる感情が在るなら、どうしてそこまで冷徹になれる。
仕事だからなのか。
「スパイとは知らなかったから。無害だと思っていた。同じ境遇を感じた。言い訳は一切通じんぞ」
向き直って、冷たい言葉の槍は突き刺さる。
「アイカワ大尉と懇意にしていたそうだな。彼も、貴様が殺したようなものだ!」
それからやっと理解する。
ここでフミヤを生かしておけば、また犠牲者は増えるだろう。アビスが更にこちらを観察して、それに合わせたレイダーを送り込んでくるから。
今回の件も、たとえどれだけ隠していたとしても、その内フミヤは全て知ってしまうことだったろう。そのとき脆い彼女は、本当の意味で、自分のせいで多くの人が死んでしまったという事実に耐えられるのか。
全てを考えた上で、犠牲が一番少なくて済む。
すべて少し考えれば理解できることだった。
「理解したならば去れ。任務に私情を挟む者は要らん」
幾らフミヤがレイダーだといっても、今までその自覚は全く見当たらなかった。そして何より、コイツは真紅の流星。
コイツ自身から直接トレーニングを受けていたとはいえ、きっと数分かかるまでもなく綺麗に切り分けられるのだろうな。
そうすれば、今までより多少の被害は減るかもしれない。
それに、コイツなら悪戯にフミヤを苦しめることなく終わる。
ここで、フミヤを見殺しに、すれば。
「……何のつもりだ」
「悪い、真紅の流星さんよ」
銃とサーベルを抜いて、シドウの前に立ちはだかる。銃口を真っ直ぐその男の眉間に向けて、サーベルの切っ先をその男の胸元に向けて。
「自分でも意外だけど、俺、案外感情に流されるタイプだわ」
シドウはしばらく何も言わない。それから溜め息をついた。心なしか、いつもより若干深い溜め息であるように思った。
それからサーベルの柄に手のひらを持っていき、掴み、白刃が露わになってゆく。
「……良いだろう。どうせ貴官には、レイダーを庇うに至った経緯をゆっくり牢獄で訊かせて貰わねばならん」
自分でも、何やってんのかねとは思う。
それから、やっぱり俺はガキだわ。サーベルを持った左手の親指で包帯を取りながら、改めて自覚。
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