複雑・ファジー小説

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CHAIN
日時: 2015/08/28 22:30
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)

この世で最も恐ろしいもの

それは獣の牙ではなく

不治の病でもなく

生ける人間の「憎悪」



* * *



はじめまして、えみりあです。
よし、頑張って書きます。

  【はじめに】

・この小説は、暴力描写を含みます。
・死ネタも含みます。
・軽く性描写も含みます。
・更新速度は不規則です。

戦争がテーマの、近未来ファンタジー的なものを書けたらな……と思ってます。
テーマは重いですが、バトルに恋愛、笑いと涙も交えた小説にしたいです。



* * *

  

【目次】

第一話:WHY FIGHT     >>01 >>02 >>03 >>04 >>05 >>06 >>07 >>08

第二話:STRENGTH      >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17

第三話:TRAUMA        >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26

第四話:COMPATIBILITY >>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34

第五話:THE NAME      >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45

第六話:FOREVER       >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54

第七話:PROMISE       >>57 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64 >>65

キャラクタープロフィール      >>09 >>18 >>27 >>35 >>46 >>55



* * *



 【登場キャラ・国家】

①アルビオン連合王国
……WFU最強の海軍を持つ国家。王族、貴族がいまだに残っていて、貧富の差が激しい。イギリスを主体とした国。イメージカラーは青。

 〈登場キャラ〉
リチャード・ローパー
マーガレット・チェンバレン
アマデウス
シドニー・マクドウォール
ジュリアン・モリス
クィンシー
パトリシア・トムソン



②ノルトマルク連邦共和国
……WFU最大の人口を抱える国。経済の中心地。ドイツを主体とした国。イメージカラーは緑。

 〈登場キャラ〉
ユリアン・オストワルト
ジェラルド・バルマー
クリスティーネ・ヴィッリ
ヴィトルト・フォン・マイノーグ
ビアンカ・オストワルト
テレジア・オストワルト
バルド・グロスハイム
イザベル・ディートリッヒ
デニス・クルシュマン



③ルテティア民主共和国
……WFU最強の空軍を持つ国家。他地域との連携があるため、WFU内での結び付きは疎遠。フランスを主体とした国。イメージカラーは黄色。

 〈登場キャラ〉
マクシム・ブラディ
グェンダル・ドゥパイエ



④神聖アウソニア法国
……宗教国家。北部に観光都市を数多く持ち、南部は軍事都市として栄えた。イタリアを主体とした国。イメージカラーは白。

 〈登場キャラ〉
ルーカス・ドラゴ
エリカ・パツィエンツァ
ドロテア・ジョルダーノ



⑤ヒスパニア帝国
……WFU最強の陸軍を持つ国家。皇帝はいるが、政治的権限はない。スペインを主体とした国。イメージカラーは赤。

 〈登場キャラ〉
シルビア・アントニオ・モリエンス
ラウル・アントニオ・モリエンス
セレドニオ・ドローレス



⑥アテナイ=ポリス同盟
……元は都市間同盟により政治を行っていたが、150年ほど前に一国家として統一された。国名はその名残。また『アダーラ』との最前線に置かれていて、WFU最貧国。ギリシャを主体とした国。イメージカラーは紫。

 〈登場キャラ〉
ソティル・メルクーリ
リディア・ティトレスク
ゼノン・デュカキス



⑦ユトランド連邦
……豊富な資源に恵まれ、WFUで№1の生活水準を誇る。難民に対して非常に寛容。デンマークを主体とした国。イメージカラーは黒。

 〈登場キャラ〉
リスト・ハグマン
アーノルド・フォルクアーツ
ティノ・イングヴァル
サク・バーナ
ヴィルヘルム・ファゲルート



⑧アダーラ
……世界最大級の犯罪組織。北アフリカ、中東、一部の東南アジアにかけてを、支配している。領土内諸国の政府は、ほぼ壊滅状態。

 〈登場キャラ〉
ハサン・ムシャラフ
エセン・キヴァンジュ
ドルキ・レヴェント




新キャラ・国家が登場したら、その都度まとめます(*^^*)



【設定】
あーちゃんさんのアイディアで、階級紹介を追加いたしました( ´ ▽ ` )

〈階級〉

・将軍

・将官
→大将
→中将
→少将
→准将

・佐官
→大佐
→中佐
→少佐
→准佐

・尉官
→大尉
→中尉
→少尉
→准尉

・准士官

・一般兵士

上に行くほど高官です。どこの国も、将軍がトップ。たまに変な設定があり、この中に当てはまらない役職もありますが…まあ、それは後ほど…
尚、この階級は、この小説内におけるものです。実際の軍隊とは関係ありません。



 【お知らせ】

3/24 各話、段落開けを入れました。
   内容に変化はありませんが、第一話・第二話の文章を大きく修正しました。
4/3 【設定】欄を追加いたしました。

8/28 今まで気がつかなかった……アルティメットって、ultimateなんですね。AS→USに変更します。いやはやお恥ずかしい。すみません。


 【用語】

〈WFU〉
……ウェスタン・フロント・ユニオン。『アダーラ』に対抗して造られた軍事同盟。所属国家は、アルビオン、ノルトマルク、ルテティア、アウソニア、ヒスパニア、アテナイ、ユトランドの7つ。

〈円卓会議〉
……7将軍による、代表軍事議会。最初のシーンで、みんながやってたあれです。 

Re: CHAIN ( No.16 )
日時: 2015/03/24 00:11
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)



+ + +



 その少年は、すべてを持っていた。

 容姿端麗、博学多才、勇壮活発、さらには家柄にまで恵まれ、何一つ不自由のない生活を送っていた。そのため、皮肉も込めて周りから呼ばれる肩書きは『アルビオンの寵児』。

 少年は、他の貴族と同様に学校に通い、他の貴族と同様に剣の稽古に励む毎日だった。余った時間は友人と遊び、一人のときはテレビゲームをして楽しむ、普通の貴族の少年だった。

 8歳の時、少年は祖父にプレゼントをもらった。

 ついこの間、発売されたばかりの最新ゲームカセット『レジェンディア 01』。

 舞台は遥か東の国、ヤマト皇国。主人公は『ウシワカ』という、小柄な少年だった。ストーリーは、長年虐げられた一族に生まれた主人公が、宿敵の一族を滅ぼすべく、反乱をおこすというもの。

 少年は、この物語にのめりこんだ。特に少年が気に入ったのは、主人公を支える大柄な部下『ムサシ』。彼の扱う武器は強力で、ことごとく敵をなぎ倒してゆく。クライマックスでは、君主である主人公が自害できるだけの時間を稼ぎ、命を賭して君主の名誉を護るのだった。

 少年は彼に心酔し、その戦い方にあこがれ、衝動に駆られるまま父のもとに走った。

「父上、僕を、ヤマト皇国に修行に出させてください!」

 ただ、その武術を会得したいがために……



+ + +



 ユリアンは、敵の位置を確認する。目の前には、爆撃を受けて半壊した礼拝堂。崩れた囲壁の陰に隠れているようだ。

 ユリアンは前傾姿勢になる。そして、強く地面を蹴った。

 ユリアンの第一の武器、それは俊足。

 ノルトマルク軍は、15年前、軍人の家の子供たちを集め、ある手術を執り行った。それは、拡心手術と呼ばれるもの。心臓の体積を広げ、それを支える筋力も増強し、一回の鼓動で多くの血液を体中に巡らせるようにする手術だ。これにより、ユリアンは超人的な身体能力を手に入れる。

 そして、ユリアンが特に鍛えた体の部位は、足。円卓会議が認識している軍人の中で、ユリアンを上回る俊足の持ち主は、いない。

 ユリアンは、目に留まらぬ速さで囲壁の後ろに回り込む。敵兵は、あまりの速技に、武器を構える暇すら与えられない。

 ユリアンは手のひらで着地し、逆立ちの体勢をとる。そして

「フッ!」

 掛け声とともに体を旋回させ、両足を振り回し、その場にいた敵兵を一掃する。陣地を得たユリアンは、足を地面に下ろし、正立した。その隙に、かろうじて巻き込まれなかった戦闘員が、ユリアンの背後から襲いかかる。

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 ユリアンは身をかがめてそれをかわし

「っ!」

 奇怪なステップで、敵の足をすくい取った。倒れこんだ敵に、かかとを落とす。

 ユリアンの身体能力、加えて足の筋力を最大限に活かす武術……

 その名はカポエラ。

 ブラジル発祥、格闘技とダンスの中間に位置する腿法。ユリアンの第二の武器である。

「ほんじゃ、こっちもやりますか……」

 ユリアンの攻撃に反応し、シドニーの方でも動きがあった。タルワールを持った戦闘員が、次々にシドニーに襲いかかる。

「君たちさぁ……」

 シドニーは担いでいた武器をとり、一振りする。瞬間、大きな風圧が生じた。気がつけば、『アダーラ』の戦闘員たちは、シドニーに剣が届く前に、ことごとく倒されていた。

「そんなリーチで、コレに勝てるわけないでしょ?」

 シドニーは呆れたように笑い、敵にその切っ先を向けた。

 その武器は、極東ヤマト皇国発祥、定かではないが、9世紀ごろに姿を現した。寺院の守護のため、僧兵の武器として世に出回ったそれは、現代では女性のたしなむ武道とされている。しかし、ヤマト皇国の武道家たちは言う。

「薙刀は、最強の武器」

 シドニーは、笑う。いつもの緩んだ笑みではなく、不敵な笑みを浮かべた。

「そいやぁっ!」
 
 再度、シドニーは薙刀を振った。風が巻きあがり、あっという間に敵兵を切り倒す。正面から立ち向かう者、横から攻める者、薙刀は一振りでそれを薙ぐ。

「くっそ……っ!」

 一人の敵兵が、シドニーの背後から忍び寄った。

「ちょっとちょっと……」

 シドニーは、すぐさまそれに気がつき

「男なら、卑怯な真似しちゃイカンよ」

 体を軸に薙刀を回し、峰で相手の向こうずねを叩く。

「っぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 敵兵は、あまりの痛みに絶叫した。

「はははっ、痛いだろ」

 そして、もう一振りで完全に止めを刺す。

「『弁慶の泣き所』って言うんだぜ。一個勉強になったな?」

Re: CHAIN ( No.17 )
日時: 2015/03/24 00:14
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)




+ + +



「はい……はい……そうですか。分かりました。では、失礼します」

 ある研究機関の事務室。職員の男は、深刻な面持ちで電話を切った。

「リリーさんの搬送された病院からですか?それで、彼女の容体は……?」

 隣から、女性職員が慎重に尋ねる。男性職員は、深いため息をつき、首を振った。

「……このこと、マーガレットちゃんには……」

「言えるわけないだろ!唯一の肉親である、母親が死んだなんて……」

 男性職員の声は、偶然事務室の横を通りかかった、その少女の耳に届いてしまった。



+ + +



 上陸前の談話室。シドニーは重大なことを口走った。

「アイツには……奪われるものがない……だと?」

 ユリアンが聞き返す。シドニーは、困ったような顔をして、続けた。

「マーガレットの母親は、彼女を生んだ時、経済的に厳しい状況だった。そこでマーガレットは、アルビオンのある軍事施設に預けられた。莫大な資金と引き換えにね」

 ユリアンは悲痛そうに顔を歪めた。金でやり取りされる、命。
 
「その施設には、マーガレットと似たような境遇の子が何人もいた。そこの子たちは、みんな、ある希望を頼りに生きていた。それは、いつか自分が立派な海兵になった時、本当の母親が迎えに来てくれること」

 シドニーはそこでいったん話を切り、さんざん迷った挙句、やはり、意を決して続けた。

「ユリアン、グラスゴー事件って知ってる?」

「ああ」

 グラスゴー事件は、アルビオンの造船所が『アダーラ』の構成員によって爆破された事件だ。職員も民間人も巻き込まれ、多くの命が奪われた。ユリアンはその時12歳だったので、そのニュースをよく覚えている。

「……マーガレットの母親はね、その当時、その造船所で働いていたんだよ」

 ユリアンは、あまりの衝撃に言葉が出なかった。

 結末を言うまでもない。マーガレットの母親は、あの『アダーラ』に殺されたのだ。

 唯一の家族を失った悲しみ。そんなものが、あの笑顔の裏に隠されていたなんて……

『親を奪われても』

 それでも彼女は言っていた。許す、と。

「……加えて言うとね、彼女の育っていた施設は、危険度の高い任務遂行のために子供を育てる施設だった」

 シドニーはさらに続けた。ユリアンは、これ以上聞きたくない心地がした。

「あの子の仲間はね……みんな死んだよ。たくさんの困難を乗り越えて、彼女だけが生き残った」

 とうとう、一筋の涙が、ユリアンの頬を伝った。

『友達を奪われても』

 それでも彼女は……

 リストとユリアンの言い争いで、核心に近かったのは、ユリアンの方だった。マーガレットの信念は、弱い妥協心から来るのではない。失った者だからわかる、相手に同じ思いをさせまいとする、強い愛情。

「……ひとつ、聞いてもいいか?」

 シドニーは鼻をすすり、呼吸を整えてから返した。

「なんだい?」

 ユリアンは、涙をぬぐい、喉から声を絞り出す。

「なぜ……お前は、そんな重要機密を、俺に教えたんだ」

 シドニーは、いつものように、ふにゃりと顔を緩めて、しかしその目は物悲しく、答えた。

「ひとつは、さっきも言った通り、君がマーガレットのことを理解してくれているようだったから」

「……もうひとつは?」

 ユリアンにせかされ、シドニーは考え込む素振りを見せる。そして、ユリアンの顔を覗き込んでから、うなずき、口を開いた。

「こっちは俺のカンだけど……君の表情が、一人の女性を愛する、男の顔だったから」

 ユリアンの脳裏に、ヴィトルトの顔がよぎる。しかし今度は……

「そう……か」

 不思議とその言葉が呑み込めた。



+ + +



 マーガレットは、降りしきる雨の中を、傘もささず、行くあてもなく、ただ走っていた。

———ウソだ……ウソだ……ウソだっ!

 ついさっき聞いてしまった、職員の会話。その事実を、この世とすべての関わりが絶たれたという事実を、認めたくなくてただ走る。

 アスファルトは濡れていて、滑りやすくなっていた。

「あ……っ!」

 足が滑り、水しぶきを上げて転んだ。膝が擦れて、血が雨ににじむ。

「ふ……うぇ……っ」

 それが、痛みから来るものなのか、それとも別のどこかから来るものなのか、マーガレットにそれは分からなかったが、嗚咽を漏らした。雨が、彼女の涙をかき消してゆく。

「こんなところで、どうしたの?」

 突然、雨がやんだ。正確には、マーガレットの周りだけだが。

 青年は傘をさしだし、瑠璃色の美しい瞳で、マーガレットの顔を覗き込んだ。どうやら政府の高官のようで、上等そうなスーツを着ている。

 マーガレットは、一瞬言葉を失う。そして、思い出したように泣き出した。

「お母さん……お母さんが……」

 青年は、悲痛そうに表情を歪め、押し黙る。考え込んだ挙句、紳士らしく少女の手をとり、そっと立たせる。

 そして、少女の冷たい体を抱きしめた。
 
その温もりに、少女はまた言葉を失う。

 どうして彼は、自分に傘を差し出してくれるのか。どうして彼は、自分を抱きしめてくれるのか。どうして彼は、自分を慰めてくれるのか。いや、それよりもお礼を言わなくてはならないか。しかし……

「……お召し物が……汚れてしまいます」

 さんざん頭の中で語彙を絞り出し、やっとのことで出た言葉が、それだった。これにはその青年も苦笑を隠せず

「いいんだよ、気にしなくて。今は泣きたいだけ、お泣きなさい」

 といって、マーガレットの頭を優しくなでた。

 せきを切ったように、マーガレットは声をあげて泣いた。そんな彼女をしっかりと抱きしめ、青年は耳元で言う。

「強く、おなりなさい。今度こそ、その手で大切な人を守れるように」

Re: CHAIN ( No.18 )
日時: 2015/03/15 00:06
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)

はい、すみません。これで第二話終了です。次々終わらせちゃって、本当に申し訳ないです……
ここからはちょっと時間が遡って、過去編に入ります。

ではその前に、第二話からの登場キャラのプロフィールをまとめます。

〈ソティル・メルクーリ〉
国籍:アテナイ
血液型:O型
地位:中佐
誕生日:9月10日
年齢:20歳
容姿:髪は青みがかった黒で、ぺたっとした髪質。瞳の色は紫。中性的な顔立ち。細身で長身。両手に包帯を巻いている。身長179㎝。
性格:謙虚。誰に対しても敬語を使う。思考は自虐的。

〈リスト・ハグマン〉
国籍:ユトランド
血液型:A型
地位:大佐
誕生日:1月23日
年齢:24歳
容姿:茶色の髪に、黒い瞳。頭髪と左目を残して、黒い包帯で顔を隠している。胸元や首も同様に包帯を巻き、手は手袋で隠している。身長169㎝。
性格:血気盛ん。『アダーラ』を根絶やしにしたいほど憎んでいる。言葉遣いが悪い。

〈クリスティーネ・ヴィッリ〉
国籍:ノルトマルク
血液型:O型
地位:中佐
誕生日:1月17日
年齢:21歳
容姿:ブロンドの髪を、内まきカールにしている。目は釣り目で藍色。身長167㎝。
性格:恋愛は、一途だが、素直になれないタイプ。しっかり者なのだが、神経を張りすぎてたまにぼろが出る。

〈アマデウス〉
国籍:アルビオン
血液型:B型
地位:大将 ヨーク公爵 第二王子
誕生日:6月3日
年齢:31歳
容姿:ブロンドの癖っ毛、碧眼。かなり童顔。あごひげで頑張って釣り合いを取らせている。身長163㎝。
性格:厳しそうにしているが、実は子供好き。その上、心配性。本心を突かれるとすぐ怒る。根はいい人なんだよ……

〈シドニー・マクドウォール〉
国籍:アルビオン
血液型:A型
地位:中将 オールバニ公子 ウォリック伯爵
誕生日:3月9日
年齢:28歳
使用武器:薙刀
容姿:髪は亜麻色。いつもワックスで、簡単に流している。前髪は自然な形で額から浮いている。碧眼。身長192㎝。
性格:ちょっとオタッキー。明るく、冗談をよく言う。アマデウスに殴られてもめげない。日本語が話せる。

〈ヴィトルト・フォン・マイノーグ〉
国籍:ノルトマルク
血液型:B型
地位:大佐
誕生日:6月11日
年齢:26歳
容姿:髪は赤毛。アイベルトで両目を隠している。両手が義手。身長174㎝。
性格:ちょっと頼りない。たびたびふざけて、ユリアンを怒らせる。愛妻家。

〈ジェラルド・バルマー〉
国籍:ノルトマルク
血液型:A型
地位:将軍
誕生日:9月28日
年齢:47歳
容姿:髪は栗色。七三分け。右目に黒い眼帯をしている。残った隻眼は金色で、眼光が怖い。かなり大柄な中年。身長189㎝。
性格:真面目な性格で、軍務中に笑うのは、自分の中では御法度。ユリアンが最も尊敬する人で、ところどころユリアンと似通っている。

遅くなりましたが、参照数もとうとう100を超え、嬉しい限りです。ありがとうございます!

これからもCHAINをお楽しみいただけると、幸いです(*^^*)

Re: CHAIN ( No.19 )
日時: 2015/03/24 00:16
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)

第三話:TRAUMA



「うあぁぁぁぁぁっ!」

 少年は、何度も拳を振りおろす。素手とはいえ、18歳男子の腕力、加えて強化手術の怪力である。少年が殴るたびに、鮮血がとびちり、辺りを赤く染める。

「やめろ、ユリアン!」

 とうとう、別の男が制止に入った。ユリアンと呼ばれた少年よりも少し年上の、盲目の青年。

「その人……もう、死んでるよ」

 死体から引きはがされると、ユリアンは殴ることをやめ、だんだんと正気に戻っていった。そして、さんざん暴れ回った彼に残されたのは

 喪失感。

 ユリアンの目から、涙がこぼれた。

 何をしても、あの幸せな日々は、二度と戻らぬことを思い出して。



+ + +



 カルタゴ上陸作戦直後、ユリアンは怪我の療養のため、ノルトマルク ザクセン地方の、故郷ドレスデンへ帰省することになった。正直、休暇を取ったころには、怪我はほとんど治っていたのだが。ユリアンが強化手術で得た血流は、驚異の治癒スピードももたらしていた。

 ルテティアから国境を超える列車の中、ユリアンが思い出していたのは、任務でバディを組んでいた少女の言葉。

「『誰かが、敵を許さなきゃいけない』……か」

 ユリアンは当初、今回の休暇を、かなり渋った上でとらされた。かれこれ2年も帰省していない彼に、絶好の機会だと、ジェラルドは判断したようだ。

 ユリアンが帰省したがらない理由、それは単に、悪い思い出があるからだ。

 ユリアンは、ふっと12年前の悪夢を思い出した。そして次に、マーガレットの顔を思い出す。

———悪いが俺は、相いれねぇよ……



+ + +



「ユーレ、今日こそ、お前に勝つからな……!」

「何度やっても、同じだよ」

 二人の少年は、グラウンドに立ち、クラウチングスタートの体勢をとる。

 勝負を挑んだ方の少年は、短髪のブルネットで、顔や体のところどころに絆創膏を貼り、日焼けをした元気いっぱいの男の子。

 一方、挑まれた方の少年は、栗色のさらっとした髪に、白い肌、目は凛としていて、隣の少年よりも、ずいぶんと大人びて見える。

「まったくもう……じゃあ、いくよ。位置について」

 隣からスタートの合図を出すのは、短い天然パーマの少女。大きくてつぶらな瞳といい、その姿は聖堂の壁画に描かれた、小さな天使のようである。

「よーい……どん!」

 直後、少年たちは、猛スピードで駆け抜ける。少年たちは10歳にも満たぬ年だが、おそらく、その速さは成人男性でも太刀打ちできない。

 競走する距離はグラウンド一周。しかし、二つ目のコーナーを曲がるころには、勝負はほとんどついていた。

「おかえり〜。やっぱり、ユーレは速いね」

「くっそう……また負けた……」

 少女に褒められ、少年に悔しがられ、ユリアンは照れたようにはにかんだ。

「思うに、バルドは力みすぎなんだよ。もっと練習すれば速くなるよ」

「うるせぇっ!」

 助言をしたつもりのユリアンに逆ギレしたのは、バルド・グロスハイム。子供らしく怒りを全面に出し、ユリアンに掴みかかろうとする。

「もう、バルドったら、なんでそんなに怒りっぽいの。ユーレはただ、アドバイスしただけじゃないの」

 仲裁に入った少女は、イザベル・ディートリッヒ。あまりにバルドがエスカレートしてきたため、とうとう羽交い締めに入っている。

 ここは、ドレスデン研究所。3年前に8人の軍人の子供たちを集め、心臓の強化手術を行った。現在は、その子供たちの養成施設になっている。

 研究所内にチャイムが鳴り響いた。

「あ、集合の時間だ」

 ユリアンは、すぐさま走り出す。

「ちょっとぐらい遅れたっていいのに……」

「仕方ないでしょ、ユーレは真面目なんだもん」

 二人もそのあとを追う。

 このときのユリアンは、まだ信じていた。

 こんな当たり前の毎日が、ずっと続くことを。

Re: CHAIN ( No.20 )
日時: 2015/03/24 00:17
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)


+ + +



 早朝にルテティアを出発したが、家に着いたころにはティータイムを過ぎていた。
 
 実家の玄関先に立ち、ユリアンは深いため息をつく。

———ここに帰ってくるのも、二年ぶりか……
 
 要塞都市ドレスデン。大昔の宮殿、伝統ある町並み。それを覆う星型の要塞。この地がかつて、ザクセン王国と呼ばれていたころの都。文化と近代科学の共存された街。
 
 ユリアンは、このドレスデンを忌み嫌っていて帰らないわけではない。むしろ、家族のことは愛していたし、近所の人たちの優しさも十分に感じていた。

 愛着があるこそ、つらくなる……そんなところだ。

 ユリアンの家は、代々軍人の家系で、割と上流階級の家だった。邸宅もそれなりに大きく、上品な外装をしている。

 意を決して、ドアノブを回す。

「ただい……おごっ!」

「お帰りなさい!お兄ちゃん!」

 扉をあけるなり、盛大に迎えてくれたのは、ユリアンの6歳下の妹 ビアンカ。ユリアンの肋骨に正確に頭突きを……いや、顔をうずめている。

 ユリアンと同じ、さらっとした栗色の長い髪はツインテールに結い上げ、それは兄に頬ずりをするたびにゆらゆらと揺れた。そして、ぱっと顔を輝かせて兄を見上げる双眸は、ユリアンとは違って丸みを帯びていた。

「ゴホッ……ゴホッ……」

「ビアンカ。お兄ちゃんはお疲れのようだから、休ませてあげましょう?」

 駄々をこねる妹から、せき込む兄に助け船を出したのは、母テレジア。短い栗色の髪を内側に巻き、前髪は大きく分けている。ビアンカの丸みを帯びた目は、この母に似たようだ。

「えー、ムッティ。私はまだ、お兄ちゃんと一緒がいいよ……」

「ゴホッ……ごめんビアンカ。また後で、ちゃんと顔を出すから……」

 その返事に満足したように、ビアンカは家の奥に走り去っていく。母はやれやれという顔で、ユリアンの上着と、キャリーバッグを預かる。

「ただいま、母さん」

「お帰りなさい」

 母は、また大人びて帰ってきた息子の顔を見て微笑む。すっかり目じりにしわが寄るような歳になってしまったか、と、ユリアンはその笑顔を見て思った。同時に、そんなにも長い間、顔を見せなかったことが申し訳なくなる。

 しんみりとした感情を隠すように、ユリアンは、もう痛みの引いた腹部をさすった。

「ごめんなさいね、あの子ったら。あなたが帰ってくるって聞くなり、大はしゃぎだったのよ」

「そうか……」

 ユリアンは、先ほどの妹の姿を頭に思い浮かべる。二年前と比べると、内面はさほど変わらないが、ずいぶんと大人びた外見になった。

 そして何よりの違いは、飛びついたとき、みぞおちに頭突きが入らなくなったことだ。背が伸びたのだなと、実感する。

「そうそう、あの子ね『お兄ちゃんのために晩御飯を作るんだ』って、はりきってたのよ」

「え……」

 瞬間、ユリアンに戦慄が走る。

 ユリアンは昔、バレンタインデーに妹からもらった黒色物質が原因で、病院に搬送されたことがあった。そしてユリアンの性格上、年の離れたかわい妹の手料理を、断ることなどできはしない。

「…………」

 ユリアンは男らしく、腹をくくった。

———夕飯前に、胃薬だけは飲んでおこう……



+ + +



 ユリアンたちが集まっていたのは、研究所の対人訓練室。ユリアンを含め5人の男の子と、3人の女の子、それからムラートの男性インストラクターがいた。全員動きやすい服装で、柔軟を行っている。

 ユリアンはイザベルとペアを組み、足を広げて背中を押してもらっていた。男女とも奇数なので、ひと組だけこうなるのだ。

 他の女子二人は、こちらを見て、くすくす笑っている。

「やっぱり、イザベルって、男の子みたいだもんね」

「あはは、言えてる」

 背中越しに、イザベルが落ち込んでいるのが伝わる。何か言い返そうと思って、ユリアンが口を開こうとした時……

「おい。お前ら、そうやってイザベルに嫌味言うのやめろよっ!」

 先にかばいに出た者がいた。バルドだった。

「バルド……」

 イザベルの背中を押す力が弱まり、ユリアンはそっと顔を上げる。イザベルの頬が赤らんでいるように見えた。このときのユリアンに、その理由はまだ分かっていなかったが……

「まーた出てきたよ、バルド。やっぱ、お前、イザベルのこと、好きなんじゃん」

 冷やかしを入れるのは、デニス・クルシュマン。赤毛の髪に、くりっとした悪戯っ子そうな眼、そして鼻の頭のそばかすが特徴的な少年だ。

「ち……ちげーしっ!」

「ははは、照れてやんの」

 柔軟そっちのけで、喧嘩が始まる。男子はつぎつぎそれに加わり、どんどんエスカレートしていく。後ろにイザベルがいたせいで出遅れたユリアンは、女子と一緒にその様子を見物していた。

「コラッ、真剣二ヤラナイト、怪我シマスヨッ!」

 ムラートの教官が、片言のノルトマルク語で仲裁に入ろうとする。と、その時……


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