複雑・ファジー小説

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CHAIN
日時: 2015/08/28 22:30
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)

この世で最も恐ろしいもの

それは獣の牙ではなく

不治の病でもなく

生ける人間の「憎悪」



* * *



はじめまして、えみりあです。
よし、頑張って書きます。

  【はじめに】

・この小説は、暴力描写を含みます。
・死ネタも含みます。
・軽く性描写も含みます。
・更新速度は不規則です。

戦争がテーマの、近未来ファンタジー的なものを書けたらな……と思ってます。
テーマは重いですが、バトルに恋愛、笑いと涙も交えた小説にしたいです。



* * *

  

【目次】

第一話:WHY FIGHT     >>01 >>02 >>03 >>04 >>05 >>06 >>07 >>08

第二話:STRENGTH      >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17

第三話:TRAUMA        >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26

第四話:COMPATIBILITY >>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34

第五話:THE NAME      >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45

第六話:FOREVER       >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54

第七話:PROMISE       >>57 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64 >>65

キャラクタープロフィール      >>09 >>18 >>27 >>35 >>46 >>55



* * *



 【登場キャラ・国家】

①アルビオン連合王国
……WFU最強の海軍を持つ国家。王族、貴族がいまだに残っていて、貧富の差が激しい。イギリスを主体とした国。イメージカラーは青。

 〈登場キャラ〉
リチャード・ローパー
マーガレット・チェンバレン
アマデウス
シドニー・マクドウォール
ジュリアン・モリス
クィンシー
パトリシア・トムソン



②ノルトマルク連邦共和国
……WFU最大の人口を抱える国。経済の中心地。ドイツを主体とした国。イメージカラーは緑。

 〈登場キャラ〉
ユリアン・オストワルト
ジェラルド・バルマー
クリスティーネ・ヴィッリ
ヴィトルト・フォン・マイノーグ
ビアンカ・オストワルト
テレジア・オストワルト
バルド・グロスハイム
イザベル・ディートリッヒ
デニス・クルシュマン



③ルテティア民主共和国
……WFU最強の空軍を持つ国家。他地域との連携があるため、WFU内での結び付きは疎遠。フランスを主体とした国。イメージカラーは黄色。

 〈登場キャラ〉
マクシム・ブラディ
グェンダル・ドゥパイエ



④神聖アウソニア法国
……宗教国家。北部に観光都市を数多く持ち、南部は軍事都市として栄えた。イタリアを主体とした国。イメージカラーは白。

 〈登場キャラ〉
ルーカス・ドラゴ
エリカ・パツィエンツァ
ドロテア・ジョルダーノ



⑤ヒスパニア帝国
……WFU最強の陸軍を持つ国家。皇帝はいるが、政治的権限はない。スペインを主体とした国。イメージカラーは赤。

 〈登場キャラ〉
シルビア・アントニオ・モリエンス
ラウル・アントニオ・モリエンス
セレドニオ・ドローレス



⑥アテナイ=ポリス同盟
……元は都市間同盟により政治を行っていたが、150年ほど前に一国家として統一された。国名はその名残。また『アダーラ』との最前線に置かれていて、WFU最貧国。ギリシャを主体とした国。イメージカラーは紫。

 〈登場キャラ〉
ソティル・メルクーリ
リディア・ティトレスク
ゼノン・デュカキス



⑦ユトランド連邦
……豊富な資源に恵まれ、WFUで№1の生活水準を誇る。難民に対して非常に寛容。デンマークを主体とした国。イメージカラーは黒。

 〈登場キャラ〉
リスト・ハグマン
アーノルド・フォルクアーツ
ティノ・イングヴァル
サク・バーナ
ヴィルヘルム・ファゲルート



⑧アダーラ
……世界最大級の犯罪組織。北アフリカ、中東、一部の東南アジアにかけてを、支配している。領土内諸国の政府は、ほぼ壊滅状態。

 〈登場キャラ〉
ハサン・ムシャラフ
エセン・キヴァンジュ
ドルキ・レヴェント




新キャラ・国家が登場したら、その都度まとめます(*^^*)



【設定】
あーちゃんさんのアイディアで、階級紹介を追加いたしました( ´ ▽ ` )

〈階級〉

・将軍

・将官
→大将
→中将
→少将
→准将

・佐官
→大佐
→中佐
→少佐
→准佐

・尉官
→大尉
→中尉
→少尉
→准尉

・准士官

・一般兵士

上に行くほど高官です。どこの国も、将軍がトップ。たまに変な設定があり、この中に当てはまらない役職もありますが…まあ、それは後ほど…
尚、この階級は、この小説内におけるものです。実際の軍隊とは関係ありません。



 【お知らせ】

3/24 各話、段落開けを入れました。
   内容に変化はありませんが、第一話・第二話の文章を大きく修正しました。
4/3 【設定】欄を追加いたしました。

8/28 今まで気がつかなかった……アルティメットって、ultimateなんですね。AS→USに変更します。いやはやお恥ずかしい。すみません。


 【用語】

〈WFU〉
……ウェスタン・フロント・ユニオン。『アダーラ』に対抗して造られた軍事同盟。所属国家は、アルビオン、ノルトマルク、ルテティア、アウソニア、ヒスパニア、アテナイ、ユトランドの7つ。

〈円卓会議〉
……7将軍による、代表軍事議会。最初のシーンで、みんながやってたあれです。 

Re: CHAIN ( No.26 )
日時: 2015/03/24 00:27
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)



+ + +



 その少年に初めて会った時、ヴィトルトは14歳だった。ジェラルドに手を引かれるままに連れてこられ、その表情は死人のように色がなかった。

 後にヴィトルトは、ジェラルドから少年の事情について聞かされる。なんでも、強力な幻覚剤を体に打たれ、半狂乱状態で仲間と殺し合わされたんだとか。

 ヴィトルトは、この壊れかけの少年を笑わせてやろうと試行錯誤を繰り返した。すると少年は、だんだんと(鼻で)笑うようになり、ヴィトルトに心を開くようになった。

 ある日、彼は言った。

「ずっと一緒に育ってきた友達を殺すのって、どんな感じだと思う?」

 ヴィトルトは、返す言葉に困った。何も言わないでいると、少年はさらに続ける。

「デニス、アントン、コロナ、ハロルド、グレーテル、バルド、イザベル……みんな、僕が殺した」

 そして、膝を抱えて、顔をうずめた。

「許される訳がない。許してくれる訳がない。僕なんか……生きていても……」

 ヴィトルトは思い出していた。6歳で両親を失った時、預けられていた施設で出会った学園長。彼は幼いヴィトルトの頭を胸に寄せて、言った。

「そんなに大切な人ならさ……きっと、幸せに生きてくれって思ってるよ」
 
 同じ言葉を、今、彼に贈る。

「一緒に戦おう。俺たちみたいな子供が、もう現れないように」

 そう言って、拳を突き出した。少年もつられて突き合わせる。

 少年の涙は、もう、止まっていた。

 ヴィトルトは思う。自分もこの少年を支える一人になろうと。

 感覚の無くなったその拳から伝わる、この痛みに負けないように。



+ + +



 地元の警察にエセンの身柄を引き渡した後、ユリアンとビアンカは、事情聴取のため、警察署にとどまっていた。ユリアンの事情聴取は終わり、ようやく解放された。

 取調室横の廊下は、片側に窓が並んでいて、ドレスデンの夜景が見える。窓の向かい側にはソファが備え付けてあった。ユリアンはそのソファに腰をかける。長いため息をつき、両手足を広げてくつろぐ。

 思い起こしているのは、エセンのあの表情。いつかの自分も、きっとあんな風に感情をむき出しにしていたのだろう。

 エセンがビアンカを殺そうとしたのは、ユリアンが彼女の夫を殺したから。ユリアンがエセンの夫を殺したのは、彼が自分たちを殺しあうように仕組んだから。では彼は、なぜそんなことをしたのか。それは、彼の同志が、ノルトマルク軍に殺されたから。

 元をたどれば、みんな幸せの中で生きていたのかもしれない。その幸せがふとした拍子に崩れ、憎悪を生む。憎悪は復讐を生む。そして復讐は、次の復讐を生む。

 ユリアンは「フッ」と笑った。

———なんだ、お前の言った通りじゃないか。

 マーガレットの顔が頭をよぎる。

 敵を憎むあまり、気がつかなかった。相手も同じ人間だ。その人を殺せば、悲しむ人がいるのかもしれない。きっとそれが、マーガレットが人を殺せない理由。

———まったく……頭のいい女だよ、お前は……

 ユリアンは夜空を仰いだ。点々と星が散らばっている。最後に星空を眺めたのは、いつだろう。ずっと、下ばかり向いて生きていた気がする。

———みんな、そこから見ているか?

 またたく星々。それは、みんなの笑顔のようにユリアンの目に映った。

「お兄ちゃん?」

 声のした方を向くと、ビアンカが立っていた。ようやく取り調べが終わったようである。ビアンカを連れてきた警官は、ユリアンと目が合うなり敬礼をした。

「オストワルト中佐。逮捕にご協力いただき、ありがとうございました。本部には、こちらから報告いたしますか?」

 ユリアンは立ち上がり、敬礼をやめるよう手で指示を出す。

「今は休暇中だ。民間人がたまたまテロリストに遭遇しただけだ。名前を出すかどうかは、そちらに任せる」

 軍と警察は、結びつきは強いが、別組織である。

 要は、手柄はくれてやるということだな。警官はそう受け取り、もう一度だけ礼をして下がっていく。

「さあ、帰ろうかビアンカ」

 ユリアンは、ビアンカに向かって微笑む。するとビアンカは、いつものように胸に飛び込むのではなく、ユリアンの腕にしがみつく。

「どうしたんだ?」

「えへへ。かわいい妹からのお礼ですぅ」

 ビアンカの言葉に、ユリアンは先ほどの自分の言動を思い出した。自分から言っておいてなんだが、振り返ってみると、かなり恥ずかしい。ユリアンは、目線を反らして頭をかく。

「けど、すっかり遅くなっちゃったね……」

 ビアンカがしょぼんとつぶやいた。そのとき、ユリアンの頭に、ある良案がひらめいた。

「じゃあ、俺も夕御飯を作るのを手伝っていいか?」

 思ったのだ。キッチンで見張ればいいと。

 そんな兄の意図には気付かず、ビアンカは顔を輝かせた。

「本当?じゃあ、一緒にごちそう作ろう!」

 ビアンカに手をひかれて、ユリアンは警察署を後にする。

 ドレスデンの夜景は、その兄妹の姿を、優しく包んでいった。

Re: CHAIN ( No.27 )
日時: 2015/03/15 00:14
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)

第三話もこれでおしまいです。サクサク行きますね……

この回はポッと出キャラが多いので、何人か(というか、半分以上)は紹介を割愛させていただきます。

〈ビアンカ・オストワルト〉
国籍:ノルトマルク
血液型:O型
誕生日:7月8日
年齢:14歳
容姿:栗色の髪のツインテール。瞳の色はとび色。顔は全体的に母親似。身長143㎝。
性格:重度のブラコン。料理が壊滅的。ちょっと甘えん坊。

〈テレジア・オストワルト〉
国籍:ノルトマルク
血液型:B型
誕生日:9月30日
年齢:44歳
容姿:髪は栗色。瞳はとび色。目じりが丸い。前髪を大きく分け、短い髪を内側に巻いている。身長158㎝。
性格:おっとりしていて、トラウマのひどい息子にも丁寧に接してくれる。優しいお母さん。

〈エセン・キヴァンジュ〉
国籍:トルコ
血液型:B型
地位:『アダーラ』諜報局・幹部

第四話は、またマーガレットたちも登場します。

それでは、引き続きお楽しみください。

Re: CHAIN ( No.28 )
日時: 2015/03/24 00:29
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)

第四話:COMPATIBILITY



 殲滅任務から2カ月。季節は冬から春に移り変わっていた。

 ノルトマルク南東部国境付近 ポトカルパチェ地方 山間の村。

 『アダーラ』による襲撃を受けたこの地に、復興支援のため、WFUはユトランド軍、アルビオン軍、ノルトマルク軍の3軍を派遣した。

 爆破された建物、倒壊した家屋。支援といってもできることは、生存者の保護、傷病人の看護、死傷者の確認、そしてあとは瓦礫の撤去作業くらいだ。

「おい、ヴィトルト。そこどけ」

「ちょちょ、ユリアン。怖い怖い怖い!」

 ユリアンは、推定150㎏はありそうな瓦礫を軽々と持ち上げている。強化手術のおかげとはいえ、細身の割にたいした腕力である。ヴィトルトはつぶされないように、ユリアンから逃げ回っていた。

 開けた場所を見つけ、ユリアンはその瓦礫を下す。ドシンと音がして、周りの小石や砂が跳ね上がった。

「ふぅ……ん?なんだ、ヴィトルト?」

「……いや……」

 ヴィトルトは、ちょっと言うのをためらったが、ある方向を指さした。その先にいたのは、アルビオン軍。

「……お似合いだと思ってさ……」



+ + +



「教官!御遺体です!確認お願いします!」

 マーガレットは、推定300㎏の瓦礫を持ち上げながら、大声を張り上げた。すぐさま上官がこちらに走ってくる。

「お前……私が確認している間、絶対にそれを落とすなよ。いいか、絶対だぞ?」

「殿下。それ、極東だと『落とせ』って意味になるんですよ……あいたっ!」

 やってきたのはアマデウスとシドニーだった。いつものように余計なことを言ったシドニーは、アマデウスの張り手を背中に食らっている。

 マーガレットもユリアン同様、軍事施設にいたころに肉体強化手術を受けていた。改血手術と呼ばれ、骨髄を入れ替え、血液の性質をそもそも変えてしまう手術だ。新たに造られる血液は、高栄養、即硬化性のあるものに変わる。

 しかし、その成功率は10%にも満たない。それこそ人体実験さながらの手術で、当時の円卓会議では非人道的と問題にされていた。

 そして、その手術を耐え抜いたマーガレットは、円卓会議の認知している軍人の中で、最強の腕力を誇る。

 遺体の確認と運搬が終わったところでマーガレットは、ズドンと音を立てて瓦礫をおろした。周りにも若干その振動が伝わる。

 ふと、マーガレットはその振動で飛び上がったあるものに目がとまった。それは、春の日差しを受けて、銀色に輝いていた。



+ + +



「はははははっ。アルビオン軍は、仲がいいですね」

「はは……いやいや……」

 WFU本部 円卓の間。今日その場にいたのは、ユトランド、アルビオン、ノルトマルクの各将軍3人だけだった。中央にはポトカルパチェの現状が中継されている。

 アルビオン軍の様子を見て快活な笑い声を上げたのは、ユトランド将軍 アーノルド・フォルクアーツ。実年齢に対し、非常に若々しい男だ。色素の薄い髪に、黒と緑の天性のオッドアイ、頬には古い傷跡がある。顎に生やした髭は、短く整えられていた。膝が悪いので常に杖を突いているが、それにしてはしっかりした体格をしている。

 アルビオン将軍 リチャードは、アーノルドに褒められたのやら、けなされたのやら、判別のつかないまま返した。ノルトマルク将軍 ジェラルドは、そんな二人の様子を見て、つい笑ってしまいそうになる。そこで、せき払いでごまかした。

Re: CHAIN ( No.29 )
日時: 2015/08/28 22:32
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)


+ + +



 リストは、腹立たしそうに石ころを蹴飛ばした。

「ちょっと、ミイラ先輩。散らかさないで下さいよ」

 人には言ってはならない禁句がある。

 ミイラとは、リストの包帯だらけの身体に対してつけられた、リストの影のあだ名だ。あだ名とは時に、その本人を不快にさせることがある。リストの眉がピクッと動いた。

「うるせぇぞ、露出狂」

 振り向きざまにリストも言い返す。

 ユトランド軍少佐 ティノ・イングヴァル。名前は北欧系だが、見た目は中東系の美青年だ。難民に非常に寛容なユトランドにはよく、ティノのように難民から軍人になるものがいる。アラブ人特有の太めの眉、愛嬌のある垂れた目、筋の通った鼻。肌は薄い褐色で、全体的に見て、優しい印象を与える。

 露出狂というのも、ティノの影のあだ名だ。任務の度に人前で服を脱ぐので、この名がついた。ちなみに、本当にそんな性癖があって、好んで自分から脱ぐのではない。使用する戦闘方法が特殊なので、仕方なく脱ぐのだ。

「ひどいな先輩。とんだ誹謗中傷だ。しかも、こんな病人に向って……」

 ティノはわざとらしくせき込んだ。リストは悪態をつき、それ以上は言わなかった。ティノが病人だというのは、半分本当だ。生まれつき心臓が弱く、長時間の激しい運動には耐えられない。それでも、ユトランド四強に数え上げられる戦闘センスの持ち主だ。ちなみにリストもその四強の一角である。

 ティノはしゃがみこみ、足元に座っていた少年の首に腕を回す。

「サク〜。僕の味方は、将軍と君だけだ」

 そしてすりすりと少年の髪に頬ずりをする。

 ユトランド軍中尉 サク・バーナは、無言のまま目を細め、ティノに身を任せていた。サクは北欧系で、肌の色は透き通った雪のようである。白くてふわっとした癖のある髪質で、長い前髪に顔の半分が隠れている。子供らしさの残る顔で、目がつぶらで大きい。

 サクは、無表情な上に無言だが、その仕草が可愛いとして、すっかりユトランド軍のマスコット的存在である。そして可愛い外見とは裏腹に、彼もまたユトランド四強に数え上げられている。

「ったく。四強が全員出向くほどの任務かね、これが」

 リストはまた小石を蹴飛ばした。今回の任務、どうにもリストは性に合わないのである。リストは血気盛んで、戦場を好む性格だ。瓦礫の撤去に自分の労力を割くのは、非効率だと思っているようである。

「リスト、任務の一環だ。ティノもサクも、ふざけていないでちゃんと参加しろ」

 三人の前方から叱責を飛ばしたのは、ユトランド軍准将 ヴィルヘルム・ファゲルート。ユトランド四強最後の一人にして、ユトランド最強の男だ。ペルシャ系特有の黒く長い髪を後ろでまとめている。口元はマフラーで覆い隠し、額と両頬に赤い刺青を入れていた。どこかの家の紋章のようである。

 ユトランド軍の中には、もともと『アダーラ』の奴隷として扱われていた者もいて、さまざまな紋章を入れた軍人がいる。レーザーで消す者もいるが、中にはヴィルヘルムのようにあえてそのまま残しておく者もいる。『アダーラ』内で奴隷印は、時に通行手形として働くからだ。

 リストは渋々、瓦礫の撤去作業に入った。さすがにリストも、ヴィルヘルムには逆らえない。ヴィルヘルムがユトランド最強と呼ばれる所以は、彼が円卓会議からある認定を受けているからだ。

 それはアルティメットソルジャー 通称US。

 US認定条件は、使用武術に即死性がある者、または攻撃範囲が広いため自軍を巻き込む恐れがある者。要するに、手加減ができない軍人の総称である。US認定者は片手で数えられるほど数が少なく、WFUの中には保有していない国もある。

 ヴィルヘルムはユトランドで唯一のAS認定者だ。四強の中でも彼の存在は、一線を画している。

「ったく、なんで俺がこんな……」

 ぶつぶつ言いながらリストは、倒れた家屋の柱を動かそうとする。

「リスト、文句を言うな」

 すかさずヴィルヘルムに叱責を浴びせられた。そんなに気に障ったわけではないのだが、リストはその性分のせいでつい言い返してしまう。

「うるせぇな。分かってるよ、フランケ……あ!」

 リストはあわてて口を押さえる。すでに遅かった。ヴィルヘルムにはしっかりと聞こえていた。

 人には言ってはならない禁句がある。

 ヴィルヘルムの場合それは、フランケンシュタイン。マフラーで覆われた彼の口には、ひどい傷跡があるのだ。それがフランケンシュタインを連想させたために、このように呼ばれるようになった。そしてその名は、ユトランド軍の暗黙のルールにおける、絶対的なタブー。

「あ……ちょっと待ってくれ……今のは言葉の綾で……」

 ものすごく威圧的な表情で、ヴィルヘルムがこちらに迫ってくる。そして……

「ひ……ひぎゃーーーーーーーっ!!」

 ……この後リストの身に何が起こったのかは、みなさんのご想像にお任せしたい。



+ + +



「はははははっ。ほらね、みんなとても仲がいいでしょう?」

「え……えぇ。そう……ですね」

 円卓の間。一部始終を見物していたアーノルドは、また快活な笑い声をあげた。リチャードはまた、反応に困っている。

 ジェラルドのせき払いがまた、円卓の間に響き渡った。

Re: CHAIN ( No.30 )
日時: 2015/03/24 00:33
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)


+ + +



「あれ?ヴィトルト先輩、隣のキャンプはどこの軍のものですか?」

「クリスちゃん。説明をちゃんと聞いてた?あれは現地の人の仮設キャンプだよ」

 クリスティーネは、ヴィトルトの言葉に恥ずかしそうに顔をふせた。周りからくすくすと笑い声が上がる。

 仮設キャンプも就寝時間。各軍が、アルビオン ノルトマルク ユトランドの順に、かわるがわる巡回を交代して眠っている。今はアルビオンの担当時間が終わり、ノルトマルクに交代する時間だ。睡眠を中断されるので、真ん中は正直いって、一番いやな役回りだ。クリスティーネも少し寝ボケている。

「まったく……しっかりしてくれよ?」

「うるさいわね!」

 ユリアンにからかわれて、ようやく目が覚めたようである。クリスティーネは頬を赤らめて……まあ、別の意味で赤いのかもしれないが……ユリアンを睨みつけた。

「ほら、グズグズしていないで行くよ。もう、アルビオンの人たちが帰ってくる」

 ヴィトルトは先輩らしく指示を出す。他のノルトマルク兵は、眠っている頭をどうにか働かせて付いてきた。

 しばらく歩くと、アルビオン軍とすれ違った。相当疲れているようで、みんな眠たそうな顔をしている。ノルトマルクとて疲れが抜けきっていないが、それぞれの配置につく。

 この村は三方向を山に囲まれており、守りやすい地形をしている。平地部分に要塞を構えておけば、まず攻められない。そのため未だに、どのようにしてこの村が『アダーラ』に襲われたのかは謎だった。この任務の一つは、その調査である。

 とりあえず今は、平地側を中心に軍を配置し、見張りをきかせてある。ユリアンの担当も平地側だった。

 ユリアンが持ち場に到着したころには、アルビオン軍は全員、キャンプに戻っていたようである。

———あいつも……眠ったか?

 ふっと、マーガレットの顔が浮かんだ。ユリアンは前回の任務以来、急速に彼女のことを意識しだしていた。彼女が安心して眠れるようにこの持ち場を守る。そう思うと、顔が熱くなった。

 晴天の夜空には、満月が輝いていた。周りは夜とは思えない明るさだ。道端の花でも、月明かりに照らされると神秘的に見える。ユリアンはその美しさに感嘆していた。

 ピューッ

 ユリアンが自然の夜景に見入っていた時、奇妙な音が響き渡った。WFU軍が増援を呼ぶときに使う、特別製のピストルの音だった。ノルトマルク軍に戦慄が走る。銃声が聞こえた方向は、警備が手薄になっている傾斜地側だったのだ。

 周りのノルトマルク兵は、すぐさま銃声が聞こえた方向に走り出す。ユリアンは彼らを次々に追い抜き、風よりも早く戦場へと駆け抜けた。



+ + +



 うっそうと茂る森の中、少年は、月明かりを頼りにその中を突き進んでいた。まだ10歳ぐらいのゲルマン系の少年だ。格好から察するに、現地の子供のようである。普通なら怖くて途中で引き返してしまいそうだが、少年は震える足で一歩一歩足を踏み出す。

 少年は時たま立ち止り、下を向く。何かを探しているようだった。昼間、この山で遊んでいたときに落としたと思い、ここまで探しにきた。

「こんな時間に出歩いちゃだめだよ」

 不意に後ろから声がした。心臓がとびあがるほど驚いた。振り向くとそこに立っていたのは、アルビオンの青い軍服に身を包んだ少女。

「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ。ただ、みんなが下山するのに、逆方向に進む足音が聞こえたから、つけてきちゃった」

 彼女はにこやかに笑って立っていた。その笑顔は月明かりに照らされて、影の濃淡が付き、少し妖しさをまとっている。

「お姉さんは、誰?」

 少年は震える声で尋ねた。

「私はマーガレット。アルビオンの軍人だよ」

 少女 マーガレットは、ゆっくりと近づき、少年に握手を求める。おそるおそる少年が手を差し出すと、マーガレットはしっかりとその手を握った。幽霊やお化けの類ではないようで、少年はほっと溜息をつく。

「さっきから下を向いて歩いていたけど、何か探し物?」

 マーガレットが尋ねると、少年は首を縦に振った。

「形見……お母さんの……」

 少年は小さな声で答える。マーガレットは、少し思い当たる節があった。昼間、瓦礫の撤去作業をしていた時に見つけた、銀色に輝く……

「もしかして……これ?」

 マーガレットがポケットから取り出したのは、銀製のロザリオだった。それを見るなり、少年の顔に笑顔が広がる。

「よかった、ちゃんと見つかって。それじゃ、帰ろっか?」

 マーガレットはそう言って、少年の手を取る。そして元来た道を引き返した。


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