複雑・ファジー小説

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CHAIN
日時: 2015/08/28 22:30
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)

この世で最も恐ろしいもの

それは獣の牙ではなく

不治の病でもなく

生ける人間の「憎悪」



* * *



はじめまして、えみりあです。
よし、頑張って書きます。

  【はじめに】

・この小説は、暴力描写を含みます。
・死ネタも含みます。
・軽く性描写も含みます。
・更新速度は不規則です。

戦争がテーマの、近未来ファンタジー的なものを書けたらな……と思ってます。
テーマは重いですが、バトルに恋愛、笑いと涙も交えた小説にしたいです。



* * *

  

【目次】

第一話:WHY FIGHT     >>01 >>02 >>03 >>04 >>05 >>06 >>07 >>08

第二話:STRENGTH      >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17

第三話:TRAUMA        >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26

第四話:COMPATIBILITY >>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34

第五話:THE NAME      >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45

第六話:FOREVER       >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54

第七話:PROMISE       >>57 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64 >>65

キャラクタープロフィール      >>09 >>18 >>27 >>35 >>46 >>55



* * *



 【登場キャラ・国家】

①アルビオン連合王国
……WFU最強の海軍を持つ国家。王族、貴族がいまだに残っていて、貧富の差が激しい。イギリスを主体とした国。イメージカラーは青。

 〈登場キャラ〉
リチャード・ローパー
マーガレット・チェンバレン
アマデウス
シドニー・マクドウォール
ジュリアン・モリス
クィンシー
パトリシア・トムソン



②ノルトマルク連邦共和国
……WFU最大の人口を抱える国。経済の中心地。ドイツを主体とした国。イメージカラーは緑。

 〈登場キャラ〉
ユリアン・オストワルト
ジェラルド・バルマー
クリスティーネ・ヴィッリ
ヴィトルト・フォン・マイノーグ
ビアンカ・オストワルト
テレジア・オストワルト
バルド・グロスハイム
イザベル・ディートリッヒ
デニス・クルシュマン



③ルテティア民主共和国
……WFU最強の空軍を持つ国家。他地域との連携があるため、WFU内での結び付きは疎遠。フランスを主体とした国。イメージカラーは黄色。

 〈登場キャラ〉
マクシム・ブラディ
グェンダル・ドゥパイエ



④神聖アウソニア法国
……宗教国家。北部に観光都市を数多く持ち、南部は軍事都市として栄えた。イタリアを主体とした国。イメージカラーは白。

 〈登場キャラ〉
ルーカス・ドラゴ
エリカ・パツィエンツァ
ドロテア・ジョルダーノ



⑤ヒスパニア帝国
……WFU最強の陸軍を持つ国家。皇帝はいるが、政治的権限はない。スペインを主体とした国。イメージカラーは赤。

 〈登場キャラ〉
シルビア・アントニオ・モリエンス
ラウル・アントニオ・モリエンス
セレドニオ・ドローレス



⑥アテナイ=ポリス同盟
……元は都市間同盟により政治を行っていたが、150年ほど前に一国家として統一された。国名はその名残。また『アダーラ』との最前線に置かれていて、WFU最貧国。ギリシャを主体とした国。イメージカラーは紫。

 〈登場キャラ〉
ソティル・メルクーリ
リディア・ティトレスク
ゼノン・デュカキス



⑦ユトランド連邦
……豊富な資源に恵まれ、WFUで№1の生活水準を誇る。難民に対して非常に寛容。デンマークを主体とした国。イメージカラーは黒。

 〈登場キャラ〉
リスト・ハグマン
アーノルド・フォルクアーツ
ティノ・イングヴァル
サク・バーナ
ヴィルヘルム・ファゲルート



⑧アダーラ
……世界最大級の犯罪組織。北アフリカ、中東、一部の東南アジアにかけてを、支配している。領土内諸国の政府は、ほぼ壊滅状態。

 〈登場キャラ〉
ハサン・ムシャラフ
エセン・キヴァンジュ
ドルキ・レヴェント




新キャラ・国家が登場したら、その都度まとめます(*^^*)



【設定】
あーちゃんさんのアイディアで、階級紹介を追加いたしました( ´ ▽ ` )

〈階級〉

・将軍

・将官
→大将
→中将
→少将
→准将

・佐官
→大佐
→中佐
→少佐
→准佐

・尉官
→大尉
→中尉
→少尉
→准尉

・准士官

・一般兵士

上に行くほど高官です。どこの国も、将軍がトップ。たまに変な設定があり、この中に当てはまらない役職もありますが…まあ、それは後ほど…
尚、この階級は、この小説内におけるものです。実際の軍隊とは関係ありません。



 【お知らせ】

3/24 各話、段落開けを入れました。
   内容に変化はありませんが、第一話・第二話の文章を大きく修正しました。
4/3 【設定】欄を追加いたしました。

8/28 今まで気がつかなかった……アルティメットって、ultimateなんですね。AS→USに変更します。いやはやお恥ずかしい。すみません。


 【用語】

〈WFU〉
……ウェスタン・フロント・ユニオン。『アダーラ』に対抗して造られた軍事同盟。所属国家は、アルビオン、ノルトマルク、ルテティア、アウソニア、ヒスパニア、アテナイ、ユトランドの7つ。

〈円卓会議〉
……7将軍による、代表軍事議会。最初のシーンで、みんながやってたあれです。 

Re: CHAIN ( No.1 )
日時: 2015/03/25 02:17
名前: えみりあ (ID: oBSlWdE9)

第1話:WHY FIGHT



 犯罪組織『アダーラ』

 もともと国ではなかったそれは、27世紀ごろに出現し、発足から数十年で確実に支配地域を広げ、周辺諸国との領地をめぐる攻防戦が繰り広げられた。

 そして、彼らにより、最も打撃を受けたのは、あろうもことか先進地域ヨーロッパだった。

混乱に見舞われた諸国は7つの大国に吸収され、7カ国は軍事同盟『WFU』を締結。『アダーラ』に対抗する世界最強の組織となった。
 
 早期収束を見込まれたこの戦争は、その予想に反し、200年に渡り続いていた。



+ + +



「カルタゴより、マクシム・ブラディです」

 その部屋にあったのは、円卓とそれを取り囲む7人の人影、中央には立体映像が浮かび上がっている。マクシムと名乗ったのは、その立体映像だった。がっしりとした体の上に、黄色を基調とした軍服をまとい、その姿は獅子を容易に連想させる。

「定刻通りの報告だな。全員上陸したのか?」

 7人のうちの一人が口を開いた。荘厳な面持ち、左目の戦傷、そして上質なマントの下にはマクシムと同じ軍服を着用しているのがわかる。

 ここにいるのは、7カ国各軍の将軍。ルテティア将軍 グェンダル・ドゥパイエは、この青年が自分の直接の部下であるために、他国を差し置き、自国を中心に話を進めようとしている。

「は、各名別々のルートでカルタゴに上陸しましたが、アルビオンのみ合流が遅れております」

 マクシムの言葉にわずかばかり顔を歪めたのは、アルビオン将軍 リチャード・ローパー。7将軍の中では最も若く、ブロンドの髪も、瑠璃色の瞳も、女性ならば誰でも目を奪われるほどに美しい。しかし、その若さゆえに、後ろ指を指されることは少なくなかった。

「やっぱり、本作戦におけるアルビオンの選出は適切でなかったのではないですかね?」

「その通りでしてよ。今回の作戦は『アダーラ』チュニジア支部長官の暗殺。確実に任務を成功させられるよう、混乱を避けるため、各国から選りすぐりの兵士を1名ずつ集めた少数精鋭部隊を結成しようというのに」

「確か、アルビオン代表はまだ未成年だったな。まったく、精鋭の選出は慎重に……」

 矢継ぎ早に、リチャードへの非難が寄せられた。みな、己が国の名声のため、周りを蹴落とすことに必死なのだ。

 しかし……

「お待ちなさい。そうアルビオン一国を責め立てなさるな、諸卿」

 それを打ち切らせる者がいた。気分を害されたグェンダルは顔をしかめる。

「……何か考えがあるのか、ノルトマルク将軍?」

Re: CHAIN ( No.2 )
日時: 2015/03/23 21:33
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)



+ + +



 その青年は、闘いの疲れを癒すために、ミネラルウォーターを飲み干し、そして空になったペットボトルを

「なあ、ユリアン。そろそろ機嫌直そうぜ?」

 握りつぶした。

「は?」

 見晴らしの良い小さな広場。カルタゴの市街が一望できる。ここに至るまでの道順が入り組んでいて、地元の人間の姿は見当たらない。この場所は好条件がそろっていて、精鋭部隊の第一の合流場所に抜擢された。

 ノルトマルク軍中佐 ユリアン・オストワルトは広場のベンチに腰かけていたが、鋭いまなざしで上目づかいに見上げた。ユリアンは軍人にしては小柄なからだつきだが、その威圧感は将軍にすら匹敵するものがあった。栗色の髪はオールバックにまとめ、凛々しい顔立ちをさらに引き立てている。

 そこらじゅうに当たり散らしたのか、近くのゴミバケツはへこみ、階段の手すりはねじ曲がり、荒れているのがありありと分かる。

 周りの者は空気を読み、そうっとしておいたのだが、その空気をぶち破り話しかけたのは、アウソニア軍中佐 ルーカス・ドラゴ。きちっとした身なりのユリアンとは対照的に、ルーカスは肩の少し上まで髪をのばし、右の耳元には編みこみを入れて、軽そうな印象がある。

 ユリアンは、この男が苦手だった。見た目がまず、相いれない。そして空気も読まない。読めないのではなく、読まないのだ。そしてなにより……

「そんな面してると、女にもてねえぞ」

 やたらと女性の話に触れる。真面目な性格のユリアンには、こういう話が一番精神力を消耗させられた。

「……もう、マーガレット。今どこよ?」

 不意に女の話声が聞こえた。ヒスパニア軍大佐 シルビア・アントニオ・モリエンスだ。彼女は携帯電話片手に、さっきから広場の中で行ったり来たりしていた。セミロングの赤毛を後頭部に結い上げ、右前の横髪だけをグレーに染めている。赤い口紅とリングのピアスが妖艶さを醸し出し、凹凸のはっきりしたボディラインと合わせて、とても魅力的な女性だ。

 どうやら彼女は、道に迷った仲間に、電話越しで道案内をしているらしい。

「噴水が見える?じゃあ、その噴水の横の小道に入って、そこの石階段を……え?裏路地に入った?……分かった。戻ってその噴水をまたいで反対の小道よ。そしたら……そう!」

 ようやく電話の向こうの相手も場所が分かったようだ。ややあって、かすかに足音が近づいてくる。そして、広場に現れたのは

「シルビア?」

 おそらく10代と思われる少女。ブロンドの短い髪には、ひと房だけ赤い髪が混じり、混血児であることが分かる。愛嬌のある大きな瑠璃色の目いっぱいに涙をため、携帯電話を握りしめ、華奢な体を震わせて立っていた。

「もう会えないかと思ったよ〜う」

 人騒がせなアルビオン軍少佐 マーガレット・チェンバレンはシルビアに抱きつき、その胸に顔をうずめて安心したように微笑んだ。

Re: CHAIN ( No.3 )
日時: 2015/03/23 22:51
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)




+ + +



「あ……あの、ユリアン?」

「…………」

 口を開かず、裏通りをすたすた歩くユリアンの背中を、マーガレットは機嫌を伺いながら追いかけた。

———まったく、なんで俺がこんな女と……

 ユリアンが苛立っている理由を説明するには、マーガレットがあの広場に到着するさらに前までさかのぼる。



+ + +



「ふう……」

 安堵の表情でマクシムは通信を切った。

「ずいぶんとお疲れっすね、隊長?」

 ルーカスは柔らかな笑みでマクシムをねぎらう。

 ルテティア軍少将 マクシム・ブラディは、年長者であるという理由でこの精鋭部隊を任されていた。しかもその重圧の上に、各国のVIPとの対談で、神経がすり減っていた。

「ああ、ありがとうルーカス」

 『ルテティアの獅子』と呼ばれるその青年は、その通り名に反して、優しい笑顔を浮かべた。人は見かけによらない……ということを、ルーカスは痛感していた。マクシムは、勇敢さと優しさを兼ね備えた好青年だった。

「よし、じゃあみんな集まってくれるかな?」

 マクシムは隊員の方を振り返った。

「あら。マーガレットがまだ着いていないのに、もう次の説明をするの?」

「ああ、この待ち時間がもったいないからな」

 マクシムは息を吸い込み、よく通る声で指示をだした。

「アルビオン代表のマーガレットが到着次第、チュニジア支部を目指す。長官の首を取るのは、議論の結果、ルーカスが適任ということになった。……一人でいけるか、ルーカス?」

 マクシムが、若干心配そうな顔でルーカスの様子をうかがうと……

「任せてよ。生身の人間はもちろん、機械化歩兵だって俺には勝てないんだから」

 自信満々にルーカスは答えた。ルーカスは時折、自分に酔うことがある。その場にいる全員が苦笑いを浮かべた。その裏で、彼の実力は誰もが認めていた。

「……ありがとう、ルーカス」

 マクシムも作り笑顔で礼を言う。そして気分を仕切り直し、指示に戻った。

「ほかの6人は、ヤツの逃走経路を塞ぐ。万一ルーカスが仕留めそこなったら、構わずとどめを刺せ。絶対に逃がすな。……というのが大まかな作戦だが、ここで一つ問題が生じた」

「……あいつか」
 
 真っ先にマクシムの意図を察したのがユリアンだった。マクシムはうなずいて話を続ける。

「そう、マーガレットだ。まず、壊滅的な方向音痴である彼女に単独行動は危険だということが今分かった」

———あいつ、よく、少佐になれたな。

 その場にいる誰もが思った。

 マクシムは隊員たちの反応を無視し、更に指示を出す。

「そして、もうひとつ。彼女には致命的な弱点がある。そこでその弱点を補うために……」

 マクシムがユリアンの方に向き直った。なぜだろう。すごく嫌な予感がする。

「ユリアン、君にはマーガレットとバディをくんでもらう」

「……は?」



+ + +



———まったく、将軍もいい格好しようとするから、俺が貧乏くじを引く羽目になるんだ。
 
 ユリアンは、ルーカス以上にこのマーガレットが苦手だった。はっきり言ってどんくさい。実力主義のユリアンには、この少女の緩さが許せなかった。

「……お前って、本当に少佐なのか?」

 うっかり本心が漏れだした。

「うう……それ、結構みんなに言われて、気にしてるのに……」

 痛いところを突かれたマーガレットは、顔をしかめて俯いた。

「いや、だって、地図読めないって……」

「海図なら分かるよ!(←海兵だから) あと、一度案内してもらえば迷わない!」

 マーガレットがユリアン言い返した。このままでは水掛け論になる。ユリアンは自身の経験から、そのように判断した。

 そして、ユリアンはすぐに次の言葉を思いつく。ノルトマルク軍随一の口の悪さを誇るユリアンは、嫌味な口調で

「……自分の陣地を素直に案内する敵兵がいるか?」

 と、その戦いを制した。

「う……それは……」

 マーガレットは言い返す言葉が思いつかなかった。豊富な悪口を持つノルトマルク語を母国語とするユリアンには、口で言っても敵わない。

 黙り込んだマーガレットを見て、ユリアンはつかの間の優越感を得た。俗に言う『大人の余裕』だ。まったく、我ながら子供じみた考えだが。

 しばらく無言のまま歩みを進めると……

「…………」

 不意にマーガレットは足をとめた。

「うん?どうした、マーガレッ……!!」

そして、目にもとまらぬ速さでユリアンを壁に押し付ける。

「なん……っ」

 しゃべろうとしたユリアンの口を手でおさえ、自身も息をひそめる。

 その状態で何秒、何十秒経過しただろうか。ひどく長い時間に感じられた。ユリアンもようやく気付いた。複数の足音が近づいてきている。

「ちくしょう!WFUの軍人がこの街に入り込んだらしい」

「探し出せ!夜明け前には首をあげるぞ!」

 『アダーラ』の構成員だった。十数名はいる。裏通りから続いている大通りを通りすぎた。マーガレットが引き留めず進んでいたら、はち合わせて騒ぎになっていただろう。

 十分に時間がたってから、ようやくマーガレットは、ユリアンから離れた。

「……よく気がついたな」

 ユリアンに、先ほどまでの余裕はない。緊迫した顔になり、一軍人としてマーガレットを見据える。

「海兵は耳がいいんだよ。波の音の中から、人の足音を探しださなきゃいけないからね」

 マーガレットは、当然のことのようにさらりと言った。若干、子供のような笑みを浮かべて。

「……それより、上陸したことがばれたみたいだね。隊長とルーカスに伝えた方がいい」

「……ああ、そうだな」

 携帯電話を取り出す少女の姿を見て、ユリアンは思った。

———こいつ、ひょっとして、とんでもない何かを秘めているんじゃないのか……?

Re: CHAIN ( No.4 )
日時: 2015/03/23 22:56
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)



+ + +



「ねえ、オニイサン。教えてくれないかしら?」

 男は、恐怖で動けなかった。壁に追い詰められ、目の前には妖艶な笑みを浮かべる美女。そしてその背後には、彼女に挑み、倒れた仲間たち。

「あなたたちのボスを護っているのは……誰?」

 シャランと、彼女のピアスが揺れた。

「わ……分かった。言うから。だからどうか、命だけは……」

 男の返答に、満足そうに彼女は笑う。

「長官の護衛についているのは、ハサ……」

 ピッ

 女の腕が動いた。彼女の手に握られているのは、紫色の毒々しい長鞭。

 男は、言い終わる間もなくその場に倒れこんだ。彼女は判断したのだ。これ以上は聞かなくても分かると。

「……安心しなさい。この鞭に仕込んであるのは、ごく微量のテトロドトキシンよ。体が痺れて動けないだろうけど、命がどうこうなるもんじゃないわ」

 女は立ち上がり、その男から手を離した。そして、懐から携帯電話を取り出す。

「もしもし、マクシム?シルビアよ。いやな敵が現れたわ」



+ + +



「侵入者はまだ見つかっておらんのか?」

 チュニジア支部の長官は、不機嫌そうに、灰皿に煙草を押し付けた。これで11本目だ。そして、懐から新たに1本取り出す。

「申し訳ありません。目下捜索中であります」

 部下は、顔を上げることなく答える。思いっきり前につんのめった、スタンディングスタートのような身体の曲げ方で。この姿勢でかれこれ10分だ。そろそろ腰にくる。

「ところで、ヤツはどうした?」

「は、侵入者を仕留めると言って、自ら現場に乗り出しました」

「ちっ」

 長官は悪態をつき、煙草に火をつける。

———まったく。私の盾になることがヤツの仕事であろうが。クライアントから離れるとは、どういう神経をしておるのだ……

 この長官は、自分の身の安全のことしか考えていないようだ。そのため、警護対象から平気で離れるボディガードに、腹を立てている。

 ライターを胸ポケットにしまいこみ、再度目の前の部下を睨みつけた。

「……しかし、お前たちも何を手こずっておるのだ。敵は10人にも満たぬと聞いているぞ?」

「申し訳ありません。それが、手練れぞろいでして……」

 何かが、ブチッと音を立てて切れた。

「言い訳は無用!」


 長官は灰皿を投げ付ける。

———あーあ……誰が掃除するんだよ……

 部下が落下していく灰皿を見つめながら考えていると

 バチッ……ドォォォォンッ

 灰皿は、轟音と共に着地した。

「ちがうっ!外だっ!」

 部屋にいた全員が身構え、廊下を向く。戦慄の中、静かに扉が開いた。

「俺、参上!」



+ + +



 ユリアンとマーガレットは、支部の裏口付近から建物を見上げていた。閃光と轟音。中でルーカスが行動を起こしているのは一目了然だった。それにしても……

「……隠密行動って言ってなかったっけ、隊長?」

 マーガレットは、半分呆れてその様子を見守った。

「ルーカスは目立ちたがりだからな。仕方ないだろう」

 ユリアンもため息をついた。

「まったく、あの人は……っ!」

 マーガレットが、突然、言葉を切った。先のことで学習したユリアンは、とっさに後ろを向く。……が

「……っ痛てぇ」

 敵の方が速かった。右足に、刃渡りの小さなナイフが刺さっている。先に気がついたマーガレットは、どうやらその攻撃をかわしたらしい。

 振り向くとそこには、白い装束に身を包み、長い髪と鼻布で顔の半分以上が隠れた男の姿。ユリアンは、その姿に見覚えがあった。第一級犯罪者手配書で見た。確か、名はハサン・ムシャラフ……

———轟音に乗じて後ろをとられたか。マーガレットも、直前まで気がつかなかった訳だ。

 そして、さらにまずいことに、ユリアンが負傷したのは、彼の武器ともいえる足だった。

———やばいな……太刀打ちできねえ……

 焦るユリアンの目の前に立ちはだかったのは、少女の小さな背中。

「お……おい……」

「大丈夫、ユリアン?」

 その後ろ姿は堂々としていて、先ほどのへたれっぷりが嘘のようであった。それでもユリアンは

「だめだ。お前は下がっていろ」

「そんな体じゃ、満足に動けないでしょ?ここは、私に任せて?」

 マーガレットは、ハサンに一歩、距離をつめた。

「だめだ!」

 ユリアンは叫ぶ。

———お前は……っ!

 マーガレットには二つ、軍人として致命的な弱点があった。

 一つは、壊滅的な方向音痴

 そして、もう一つは……

———お前は、人を殺せない!

Re: CHAIN ( No.5 )
日時: 2015/03/23 22:57
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)


+ + +



 目の前には、銃を構えた何十人もの敵軍。取り囲まれた4人の少年少女たちは、訓練通り背中合わせに立ち、剣を構えていた。……一人を除いて。

「何をしているのだ。さっさと剣を抜かんか!」

 腰に下げた無線機の先で、男の声が怒鳴っている。

「おい、大丈夫か?」

 振り向きこそしないが、周りの3人も心配そうに伺う。

「だ……だめです……」

 剣を構えていない少女は、目に涙をため、体を震わせていた。

「教官……私やっぱり、人を殺したくない!」



+ + +



「こんばんは、お嬢さん。良い夜ですね?」

 月明かりに照らされて、ハサンの白い歯が光った。不気味な笑みだ。寒気すら覚える。
マーガレットは、静かに腰に下げていたカットラスに手を伸ばした。

———ハサン・ムシャラフ……使用武器はたしか……投げナイフ。

 同時に周囲を一瞥する。雑木林の陰に人の気配を感じる。

———部下を連れている。人数は12……いや13人。

 素早くその数を数え、またハサンに視線を戻す。

「……ええ、きれいな月ですね。この街は、夜の明かりが少なくて、星までよく見えます」

 無視して挑発するのはまずい。まずはご機嫌取りで、敵の警戒心を揺るがせる。

「それよりハサンさん、クライアントの護衛はどうしました?」

 その上で相手の情報を得る。できるだけ隠密に話を展開させるため、マーガレットは、慎重に言葉を選んだ。

「長官のことですか?さあ、どうなったのでしょうね?私はもっと面白そうな人の匂いがしたので、つい釣られて来てしまいました」

 ハサンは満面の笑みで答えた。何度見ても不気味だ。

———どうしようもなく、自由な人だな……

 半ば呆れているマーガレットの背中を、ユリアンは心配そうに見つめた。

「マーガレット……」

 その不安が口から漏れ出た。マーガレットは、彼を安心させるため、穏やかな口調で彼に語りかける。

「……ユリアン、あなたはきっと、勘違いをしている」

 突然マーガレットがハサンとの会話を切ったため、ハサンたちは身構えた。

「『殺せない』と『戦えない』は、まったく意味が違うんだよ?」

 シュンッ

 空を切り、ナイフが投げだされた。マーガレットは、身を伏せてそれをかわす。それを合図に、一斉に人影がマーガレットたちに襲いかかる。

「大丈夫。必ず、護るから……っ」

 ユリアンはただ、彼女の背中を見つめていた。



+ + +



「ひゃっふーぃ!」

「何が『ひゃっふー』だ!隠密行動って言っただろう!」

 窓を蹴破って脱出してきたルーカスは、倉庫裏の入り口を見張っていたマクシムに合流するなり、叱責を浴びせられた。

「シルビアが言っていただろう。向こうには、ジブラルタル海戦でヒスパニア軍小隊を一人で滅ぼした、ハサン・ムシャラフがいると!」

 ハサンは本隊からはぐれた一個小隊に背後から奇襲をかけ、陸上戦では最強であるはずのヒスパニア軍をねじ伏せたことから、WFUでは要注意人物として名があげられていた。しかし、自由気ままな性格で、仲間内でも評判は良くないようだ。典型的な快楽殺人鬼のタイプである。

 そして、それほどに危険人物なのだということを分からせようとするマクシムに対し、ルーカスはとんちんかんなことを答えた。

「俺は同じ闘いで、『アダーラ』の一個大隊を倒したぜ?単純計算で、俺のが10倍強い!」

 マクシムは、家屋の屋根から屋根へ飛び移りながら叫んだ。

「お前のことは、誰も聞いていなーーーいっ!」


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