複雑・ファジー小説
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- 君は地雷。【短編集】
- 日時: 2020/07/09 22:50
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)
短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。
目次みたいなもの
ひとつめ >>006
ふたつめ >>010
みっつめ >>014
よっつめ >>028
いつつめ >>032
むっつめ >>037
ななつめ >>042
やっつめ >>051
ここのつめ >>055
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.18 )
- 日時: 2018/09/20 01:24
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)
【 秘密を飲み込む 】
僕だけが知っている。僕だけが君の秘密を知っていた。
絶対に誰にも言わないでね、と君が人差し指を鼻の前に立てて「しぃーっ」って軽く笑う。僕はどうすればいいのかわからずに、ただ「うん」と頷いた。
空から降ってきた花びらが、君の髪の毛に絡まった。僕がそれをとってあげると、君は過敏に反応して僕の手を払いのけた。
「秘密を僕が絶対に喋らないって、君はそう信じてるの?」
君は僕をじいっと見て、こくんと首を縦に振った。花びらは雪のように降ってくる。降り積もる花びらは、まるで雪のじゅうたんのようだった。君が馬鹿だってことを僕は知っていた。
僕を信じる愚か者な君が、僕の細い腕をつかむ。君の詰めが僕の皮膚に食い込んで、痕が残る。赤く筋のような傷。君が僕を否定するためにつけたその傷は、僕の呼吸を荒くさせた。
「喋るつもりなら、お前の喉を潰せばいい」
君は静かに、小さな声でそう言った。ゆっくりと君が両手を僕の喉にのばしてくる。親指が僕の喉仏に触れて、そっと力が入る。一瞬、息が止まるかと思った。
冗談だよ、と君が目を伏せる。こんなことをしたって無駄だって分かってるんだ。僕が「秘密」を僕ロしようが、しまいが、もうどうしようもないから。君が抱えてしまった時点でその秘密は。君を永遠に束縛して苦しめて、いつまでも君を不幸にする。
「君がもっともっと苦しんでいる姿をさ、僕は、見たかったんだ」
「最低だな」
「君のほうが最低だよ。さいてー」
「違う。どうにかしたかったんだ、どうにかしなきゃいけなかったんだ」
君は君の秘密を、君の罪を認めることができないのだ。頭を抱えた君が、泣きそうな顔でこちらを見る。君の唇は「助けて」と動いた。だから僕は「嫌だよ」と唇だけを震わせる。君がもっともっと苦しめばいいのに、と密かにそんなことを考えていたんだ、僕は。
「君は思い出すよ。赤い血を見るたびに、鮮明に。いっぱい殺しちゃったあの日のことを、思い出すよ」
しぃ、と君と同じように僕は満面の笑みで人差し指を鼻にひっつけた。
地面にひとつの水たまりがあって、僕が蹴った石がぽちゃんと中に落ちる。太陽が水を消すまで、もう石はこちら側には表れない。君とおんなじだよ、って僕はごくんと言葉を飲み込んだ。
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.19 )
- 日時: 2019/06/21 15:55
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: sc915o9M)
【 ぷろろーぐ 】
きみが恋に溺れて、消えてしまいませんように。
□
もうすぐクリスマスだね、と私の隣にいた佐那くんが白い息を吐きながら言った。
そうだね、と街中を彩るイルミネーションを見ながら私は相槌を打った。
サンタさんの格好をしたおじいさんが子供たちに風船を渡している。
喜んで受け取る子供は、それがまるで自分のために用意されたものであるかのように、大事そうに紐を握りしめた。
「ねえ、佐那くん」
私の右手を、佐那くんの左手が包み込んでいる。いつも、こんな、変な手の握り方。
佐那くんはいつも言わない。私と「手をつなぎたい」そんなことは、言わない。
私がゆっくりと手を摺り寄せると、佐那くんの指が少しだけ絡んできた。冷たい、佐那くんの指と掌が、私の皮膚に絡みつく。
「やめようよ、こんな関係」
「なんで。上手くいってんじゃん」
佐那くんがぶっきらぼうにそう言った。確かに全部上手くいっているけれど、絶対、綻びがあるんだ。私はどうしようもない未来しか待っていないこの関係に終止符を打ちたかった。佐那くんの足が止まって、私はぐんっと後ろに引っ張られる。
「俺にはお前しかいないんだよ。お前しか、いないんだよ」
どうして二回も言ったの、と聞きたかったけれど、ほんの少しだけ泣きそうな顔をした佐那くんに同情して私は何も言わなかった。
佐那くんが私のことが好きじゃない現実に、心臓を抉られるような感覚を味わって、握られた手の温度を私は壁のように感じる。
中学三年の冬、私は私のことを好きじゃない佐那俊介という男と付き合っていた。
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.20 )
- 日時: 2018/12/23 01:22
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)
【 シナプスの檻 】
どうして逃げないの、と聞くと健ちゃんは冷静な顔のまま「別に」と答えた。それが健ちゃんの口癖で、私の質問をちゃんと聞いてくれてるのかもわからなくて、私はこの檻の中に唯一ある時計の針を見て深いため息をついた。
「私は逃げたいよ」
健ちゃんに初めて会ったのは、一週間くらい前のこと。私たちに用意されたのはこの密室と、時計だけ。時間の経過は一度眠るとわからなくなる。今日が何月何日で、今が何時何分なのかも。ただ、私がここに来た時にはすでに健ちゃんがいて、私が一人で怯えることはなかった。食事と水は大きな箱の中にたくさん用意されていて、私たちが餓死することはないみたいだった。なんのためにこんな場所に連れてこられたのかわからないし、目的があるなら教えてほしかった。
「お前はこの状況が怖いわけ?」
「そりゃ、怖くないなんて言えないじゃん。だって、これって」
「誘拐、だろ」
健ちゃんは当然のようにその言葉を言う。
「お前は本当にこの状況の「目的」がわかんないのか?」
「そんなの、わかるわけない……」
「「三代」のこと以外に俺たちに共通点なんてないだろ」
その名前を出された瞬間に、私の胸にはぽっかりと空洞ができて、呼吸するのがとても苦しくなった。私が好きだった三代は、私のことを本当の本当は嫌いだったのだろう。誰も助けてくれない檻の中に監禁されて、私はようやくそのことに気づいた。
「お前が一番だよ、なんてあいつの戯言だよ。あいつの復讐劇がようやく始まったんだから」
健ちゃんのお腹には大きな刺し傷がある。包丁でぐさっとさされたみたいな、痛々しい傷痕。もしかしてそれ、三代にやられたの、とはどうしても聞けなかった。吐き気がする。苦しくて苦しくて仕方がない。私が愛した三代は私のことを、
「嫌いだったんだね、私のこと」
俺たちは大好きだったのにね、と健ちゃんがうわごとのように呟いて、天井を見上げた後にゆっくり目をつむった。そのあと五分ほどたって彼の寝息が聞こえてきて、私は瞳にたまった涙をようやく解放した。
健ちゃんは三代の何人目の恋人だったのだろう。そして、私は三代の何人目の女で、何人目の復讐相手だったのだろう。
考えれば考えるだけ、胸は苦しくなる。
三代はいつ私たちを解放してくれるのだろうか。何日目かわからない私たちの監禁生活はまだ続く。酸素が薄くなって、私たちが呼吸できなくなる明日はすぐにやってくるのかもしれないねって、そうやって笑って言いあえればもっと楽だったのに。眠ってしまった健ちゃんの隣で私は涙を袖口で拭った。好きだよ、って言わなきゃよかったねという反省だけは絶対にしたくなかった。
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.21 )
- 日時: 2018/12/23 08:51
- 名前: 森永タカヒロ (ID: 6uQJhp0p)
抹茶プリン
攻撃力3000 マナコスト5
効果
登場時、相手ユニットに500ポイントでダウン効果。さらに覚醒でオ−バ-リミット+2する
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.22 )
- 日時: 2019/06/21 15:56
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: sc915o9M)
【 はろーはっぴーわーるど 】
「死んじゃえ」花ちゃんはこのメッセージを打った時、どんな表情だったんだろうなって考えてみる。わかりっこしないのに。画面越しで私は「そうだね」とキーボードをたたいた。でも送信することができなくて、結局バックスペースを四回たたく。
花ちゃんは私の味方だ。五年前にとあるサイトで出会って、私から声をかけた。のちに同い年ってことが判明して、馬鹿みたいに喜んだ。どんな子だろう、って何度も何度も彼女の容姿を想像して、やっと見つけた彼女のSNSで顔はわかんないけど友達と一緒にお洒落なカフェに行ってた写真を見た。三年の月日をかけて花ちゃんの近くまでいって、花ちゃんの友達になった。花ちゃんは私の全てだった。
なんだか全部上手くいってる気になってたんだろう。学校でいじめられてることも、親に暴力を振るわれてることも、毎日死にたくなってることも花ちゃんさえいれば何とかなるって。花ちゃんが私と仲良くしてくれたらそんなのどうでもよかった。痛みも悲しみも苦しみもそんな現実は皮膚を傷つけるだけ。花ちゃんさえいれば、それでよかった。
「最近あんまり浮上しないよね? どうしたの、何かあった」
スマートフォンの通知に花ちゃんのメッセージがポンと映し出される。わあい花ちゃんだ、って喜ぶけれど、口角は上がらない。あれ、ご飯食べれなくなってから何日たったっけ、思い出せないくらい前のことじゃないはずなのに、脳がちゃんと仕事してくれないや。手に力が入らない。スマホを取ろうと手を伸ばすけれど、つかんだ手に力はなくて、当然のように真下に落ちた。手の甲が湿った。涙が出たのだろう。目頭がぐわっと熱くなって、ぐっと鼻のあたりが痛くなった。気持ち悪い。
「死にたくなっちゃった」
殴ることしか能のない父親も、料理を作ることも食事代金も一切くれない母親も、怪我の多い私を気持ち悪いとか異端だと嘲笑って除け者にする同級生も、みんな嫌いだ。でも、私が悪いんだ、私がいい子じゃないからいけないんだ。私がいいこだったらきっと、こんなことになってない。吐く。胃がむかむかする。嫌だ。助けてほしい。
花ちゃんの返信は一分もかからないうちにきた。花ちゃんは絶対こんなこと言わない。私の大好きな花ちゃんはこんなこと言わないよ。でも、わかってる。私の大好きな花ちゃんは裏で私のことを気持ちの悪いストーカーだって言ってること。知ってる。花ちゃんの答えに私は「そうだね」と入力して、ちょっと考えて、ゆっくり消した。
「花ちゃん大好きだよ」スマホはベランダから勢いよく放り捨てた。一緒に私は足を投げる。地面と対面するころにはもう記憶はないだろうから、大好きな君へ愛の告白だけしておくね。
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