複雑・ファジー小説

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君は地雷。【短編集】
日時: 2020/07/09 22:50
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
 好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。


 


 目次みたいなもの

 ひとつめ >>006
 ふたつめ >>010
 みっつめ >>014
 よっつめ >>028
 いつつめ >>032
 むっつめ >>037
 ななつめ >>042
 やっつめ >>051
 ここのつめ >>055

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.23 )
日時: 2019/06/21 15:57
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: sc915o9M)
参照: ※ちょっと長めです

【 小さな部屋の雑音 】

「むかし、勇者をやってたんだ、俺」

 ふうん、と僕はえっちゃんのその衝撃の告白に、興味がない風を装って相槌を打った。えっちゃんは「知ってた?」と僕の表情を見て少し笑って聞いた。「全然」僕はもちろんそう答える。

「えっちゃんさ、そういうのあんまり言わないほうがいいと思うよ」
「なんで」
「えっちゃんが変な人って思われちゃうから」
「誰に?」
「え、そりゃ、えっちゃんの友達とか、お、親とか?」

 えっちゃんは僕が言葉に詰まったのを馬鹿にするように笑う。僕は相変わらず嘘をつくのがうまくない。えっちゃんはきっとそれがよくわかってるんだ。
 えっちゃんと僕が座ってるソファのちょうど真ん中にテレビのリモコンがあって、僕は電源をそっと入れた。口角がうまくあがらなかった。えっちゃんの目がちゃんと見れなかった。ちょうどゴールデンタイムだったのか、長寿番組になってるお笑いの番組で最近人気の芸人が面白おかしくネタをする。画面の向こうのお客さんはぎゃはぎゃは下品な笑い声をあげるけれど、やっぱり僕の口元はぎゅっと結ばれたままだった。

「お前さ、なんで俺と一緒にいんの?」

 えっちゃんはテレビを勝手につけたことも、勝手に会話を終わらせようとしたことも何も咎めずにただそう小さな声で僕に囁いた。ぞくっと背筋が凍り付く。もしかして、ばれてるのかもしれない。わかってた。僕はこの時点でちゃんと気づいて、逃げようとした。だけど、えっちゃんは僕の腕を痕が残りそうなほどぎゅっと強く掴んで離さなかった。

「えっちゃん、痛いよ」
「ちゃんと言えよ。もしかしてさ、言えないわけ?」

 えっちゃんの表情はとっても冷たかった。だけど、彼は終始笑顔だった。
 
「え、えっちゃんのことが好きだからだよ」

 僕は最後の誤魔化しをした。えっちゃんの顔はもちろん見れない。テレビの笑い声がノイズにしか聞こえなくて、えっちゃんが「そう」と小さく頷いたあと、電源は切られてしんと空気が静まり返った。

「俺さ、結構お前のことちゃんと信じてたんだ」
「ほんと、やめてよ」
「俺が勇者だったって知ってて近づいたわけ? お前にはそれが好都合だった?」
「違うよ、ほんとえっちゃんやめて。そんな前世なんて意味わかんないこと言わ」
「だって、俺が殺したもんな」

 えっちゃんが僕の頭をつかむ。ぐっと持ち上げられて、首がぐきっと音を鳴らした。痛い、とかそんな感情よりも恐怖が勝った。もちろん、僕が全部悪かったのだ。僕がえっちゃをずっと騙してたから。

「俺がお前を殺したもんな、世界平和のために。ははっもうなんなの、復讐にでもきたの?」
「ち、ちがう……」
「で、俺に告ってきたわけ、ほんとやめろよ笑えねえ」
「だから違うんだって」

 えっちゃんは僕の頭をぐっと自分のほうに近づけて、僕の大好きな笑顔で「死ね」と罵倒した。

 ただ、好きだった。えっちゃんのことが好きだった。それなのに、やっぱり僕はダメなんだ。僕の恋は次元を超えても実ることはない。えっちゃんが出て行った部屋で僕は一人寂しくめそめそ泣いた。テレビの電源をもう一度つける。静まり返った部屋はただただ昔を思い出して嫌だった。
 前世は魔王だった。民を蔑み、苦しめ、それを見て笑うような、そんな存在だった、らしい。
 らしい、というのは僕がちゃんとそういう声を直接民から聞いたことがないから。僕はずっと魔王城の小さな部屋に閉じ込められていただけだった。僕が死ねば世界が救われることは明確で、僕は早く死ななきゃいけない存在だった。でも、僕を殺してくれるはずの勇者たちはいつも僕のもとに来る前に呆気なく死んじゃう。そんな中、えっちゃんだけは僕のことを殺しに、ひとりぼっちの寂しいあの部屋まで来てくれた。彼は傷だらけになりながら、僕を殺しに来てくれたえっちゃんがヒーローに見えた。カッコよかったんだ、純粋に。恋に落ちるのは一瞬で、僕が死んで世界が作り替わるのも一瞬だった。次の世界ではえっちゃんの恋人になりたいな、なんてわがまま言ってただの人間にしてもらったのに、やっぱり上手くいかない。


 好きって難しい。魔王が勇者に恋しても無意味なんだ。
 テレビの音はやっぱりノイズにしか聞こえなかった。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.24 )
日時: 2019/07/13 00:34
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: sc915o9M)
参照: ありがとうございました。





 「 あとがき 」


 一年半くらいの短い間でしたが、脳内クレイジーガールとして小説を書けて、たくさんの人と交流できて楽しかったです。私の小説が好きと言ってくださった人には感謝してもしきれません。とても嬉しかったです。
 


 脳内クレイジーガール







***




 参照1000ありがとうございました。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.25 )
日時: 2020/03/15 22:53
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: A2dZ5ren)

【 プラスチック 】


 がんちゃんは「お前じゃない」と私に言った。



 高校二年生の時に付き合い始めて、大学一年の春に別れて、成人式で久しぶりに彼に再会した。がんちゃん、と呼んでいた。彼の名前を私はそのあだ名でしか覚えていない。
 お母さんに選んでもらった薄ピンクの着物は、ド派手な花魁の黒の振袖を着た元ヤンキー少女に目が行くばかりで全然目立つことはできなかったけど、友達からは似合ってるよと褒められて、それで私は十分だった。式が終わって友達と振袖姿の写真をスマホにおさめようとしていたところに、彼はやってきた。友達は気まずそうにこちらを見てから、曖昧に言葉を濁して目を逸らす。「ごめん、ちょっと話したいんだけど」がんちゃんの声に、友達はまたあとでね、と私のもとから去ってしまった。

「なにか用ですか?」

 私の冷ややかな言葉に、がんちゃんの表情はぴたりと固まった。気まずさという沈黙が数秒流れて「久しぶり」と彼はぼそりと呟いた。「お久しぶりです」私は敬語を崩すことなく返事をする。がんちゃんは下を向いたまま、私と視線が合うことはない。百八十も身長があるくせに、子犬のように縮こまって馬鹿みたい、と私は思った。

「用事がないなら私はもう行きますけど」
「ちょ、ちょっと、ちょっとだけ、話を」
「どうしてですか、話すことなんて私は何もないです」
「でも、俺、謝らなきゃいけないことがあって」
「謝らなくても結構です。っていうか、がんちゃんが悪いわけじゃないのにどうして謝るの? どうして反省してるくせにまだ私に関わってこようとするの? もう干渉してこないでよ、お願いだから」

 がんちゃんが私の右手をつかんだ。皮膚に指が食い込むくらいに強く。痛い、というとがんちゃんは慌てて手を離した。ごめん、ごめん、何度も何度も何かに囚われているかのように、呪いの言葉のようにぼそぼそと呟いたがんちゃんに、私は「もういいよ」とも「死んでくれ」とも言えなかった。


「がんちゃん、お願いだからさ、私のことは忘れて勝手に幸せになってよ」


 十八歳の冬の日。センター試験がもうすぐだね、お互い頑張ろうね、なんて言ってた時期。私は交通事故にあった。
 不幸な事故だった。左折車が自転車で横断していた私に気づかずに轢いてしまった。幸い命は助かったけれど、私は頭を強くぶつけた衝撃で記憶を一部失ってしまった。当時付き合っていたがんちゃんのことも。
 ずっとがんちゃんはお見舞いに来てくれた。私ががんちゃんのことを思い出せなくても優しく微笑んでくれて、ずっとそばにいるよって言ってくれた。好きだなって思った。彼のことは一切思い出せないけれど、これからずっと隣にいてほしいって思った。
 だけど、がんちゃんはそれに「耐える」ことができなかった。


「お前じゃない」



 どれだけ昔の自分の映像をみて、昔と同じように、がんちゃんが好きだったころの私と同じように演じても、がんちゃんは「違う」と言った。キスをするのも、がんちゃんは耐えられなかったんだろう。罪悪感に。
 私はがんちゃんの彼女だけど、がんちゃんの記憶の中の彼女じゃない。同じ見た目の別の人間。がんちゃんも最初はわかっていただろうに、それでもやっぱり無理だった。


 「ごめん、お前と付き合えない」と振られたのはゴールデンウィークの初日だった。理由は簡単。好きだったのは私じゃなくて、記憶をなくす前のわたしだったから。どう頑張っても私はあの頃には戻れないのに。どれだけ上手に演じてもがんちゃんは今の私を受け入れてくれなかった。こんなの同性の恋人に子供がほしいから別れてくれ、というくらい理不尽な振り方だよ。
 退院記念に一緒に夢の国に行くという約束をしていたのに、裏切られた。すごくショックだった。それからがんちゃんが私に連絡してくることはなくなった。がんちゃんが楽しそうに大学生活を送っているってことも友達から連絡があって知った。新しい彼女と幸せそうっていうのも友達から聞いたよ。全部聞いたよ。


 だから、もうそれでいいんだ。お願いだから、忘れさせてくれ。
 私の脳みそはプラスチックみたく柔くて弱いんだ。がんちゃんが好きって記憶だけ鋭い針で穴があけられて、それを私は一生忘れられないんだから。罪悪感で死にたきゃ勝手に死ね。生まれ変わってももう一度君に恋をするとかふざけて笑いあった日のことを私は覚えていない。スマホに残った楽し気なラインを私はいまだに消去できてない。女々しい人間だ。ああ、こんな今の私は死ねばいいのに。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.26 )
日時: 2020/03/14 23:53
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: A2dZ5ren)
参照: 帰ってきました





「 ふっかつ 」


 脳内クレイジーガールです。こんばんは。
 時間ができたので何個か小説を書いていきたいなと思ってふらっと帰って参りました。8か月ぶりくらいです、知ってる方いらっしゃいますでしょうか。無名の新人として一年ほどぬらりくらりとこちらで小説を投稿させていただいていた者です。また、無名の新人として頑張りますので、お時間がありましたら読んでいただけると嬉しいです。では。


 脳内クレイジーガール

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.27 )
日時: 2020/03/15 22:51
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: A2dZ5ren)




【 Aセク彼女あおいちゃん 】


 ごめん、好きになっちゃった。と、陽くんは隣にいる綺麗な女性をちらっと見て言った。
 そっか、と私は相槌を打って笑顔を作る。陽くんは本当に申し訳ないとおでこを地面にこすりつけるように土下座をして謝った。私はそんなことしなくてもいいよ、と言ったけれど陽くんは頑なにそれをやめなかった。

「葵さんはどうして、そんな普通なんですか?」

 女性は少し戸惑ったように口を開いた。

「だって、浮気されてたんですよ。私のこと責めて、不幸になれとか死んでしまえとか、そういうことを言えばいいじゃないですか」

 ストレートロングの綺麗な黒髪。落ち着いた紺色のワンピースに、黒のブランド物のバッグ。ああ、綺麗な人、と思った。「浮気してたことはもちろん知ってたんです」と、私が言うと、女性は驚いたように目を見開いた。「じゃあ、なんで止めなかったんですか」女性は私の言葉に異常に食いついた。余計な台詞を言ってしまったことにはきっと気づかないんだろうな、一生。

「私なら好きな人が別の女と会ってるなんて許せないし、そもそも容認してたってことですよね、それってあなたは陽介くんのこと好きじゃなかったんじゃないですか?」

 女性の言葉に陽くんはぎゅっと結んでいた口を開いた。
 「黙ってくれ」女性はなんで、と陽くんに詰め寄った。ああ、地雷女をひいてしまったのか、陽くん。可哀想と思いながら私は立ち上がった。用意されていた座布団を片づけて、飲み切ったティーカップを持ってキッチンに向かう。陽くんが私を追いかけてきてごめんとまた壊れたロボットみたいに謝ってくるのが何だか滑稽だった。

「だからいったじゃん。いいよって」
「でも、そうじゃなくて」
「だから無理だったんだって。だって私は陽くんのこと好きにはなれないんだもん」

 それでもいい、と言ったのは陽くんだった。それでも好きだと言ったのは陽くんだった。
 愛ゆえの行為ができなくても葵が一番好きだと言ってくれた陽くん。私はそんな陽くんが優しくて一緒にいると心地が良かった。他の女と会ってることも知ってた。それでも別に構わなかった。だって、私が陽くんと愛を育めないのが悪いのだもん。仕方ないって思うしかないじゃん。

「陽くんが他の人と幸せになってくれたら、私はそれで嬉しいよ。それでいいじゃん」
「でも、俺は葵のことが」
「でも私といても性行為なんて一生できないよ。それでも耐えれるの? 無理じゃん、陽くんは無理なんだよ。私のセクシャリティはどうにもならないんだよ。それでもずっと好きでいられる? 私は無理だと思う。このまま陽くんが私のことを忘れて他の誰かと幸せになってくれって思う。だって、私はどうもできないんだから」

 陽くんは私の腕を掴もうとして、手を伸ばしたけど私はそれを振りほどいて玄関から出ていった。わかったふりをする。どうしようもない現実から目を背けたいから。いつか好きになると信じているから。ほんと馬鹿みたいだ。
 地面を蹴って必死に走る。人間はどうしよもなく馬鹿だから。いつか陽くんが「ずっと一緒にいたい」と私のことを優しく抱きしめてくれたっけ。あの日に戻れたらどれだけ幸せだろう。もう、無理なのに。雲一つない晴天の下、駆け抜ける。あなたの一番にはなれないのは最初から分かっていた。


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