複雑・ファジー小説

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君は地雷。【短編集】
日時: 2020/07/09 22:50
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
 好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。


 


 目次みたいなもの

 ひとつめ >>006
 ふたつめ >>010
 みっつめ >>014
 よっつめ >>028
 いつつめ >>032
 むっつめ >>037
 ななつめ >>042
 やっつめ >>051
 ここのつめ >>055

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.3 )
日時: 2018/05/25 22:03
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: CSxMVp1E)

【 酸素不足。 】

 ななちゃんの首にはいつも赤い手形が残っている。思いっきりぎゅーっと首を絞められたときに残るだろうその手形を、ななちゃんは隠すことなく今日もあたしの部屋のベッドで寝転んでいる。
 あたしの好きな漫画の最新刊を読むななちゃんは、ふああと欠伸をして、こちらの様子を窺うようにじっと視線を送ってきた。

 「なあに、ななちゃん」

 その視線に耐えられなくなって、あたしはななちゃんに声をかける。まだレポートの途中なのに、パソコンを閉じて、ななちゃんのいるベッドに向かった。彼女が寝転ぶ近くに腰を掛けて、そのままゆっくりベッドに倒れこむ。となりでにこやかに笑うななちゃん。首の後ろには虫刺されみたいな赤いあとがある。それが何か、あたしは知ってたけどなにも言わなかった。

 「あんたは、優しいね」
 「どうしたの、急に」
 「わたしのこの首絞められた痕を見ても、あんたは何も言わない。そういうとこが好きだけど」
 
 ななちゃんはその傷痕に触れてほしいみたいに、あたしの手を自分の首に近づける。その手形はあたしがつけたものじゃない。あたしより大きな男の手のひら。きっとななちゃんの彼氏だ。

 「嫌なら嫌って言えばいいじゃん」
 「嫌じゃないんだ。わたしが求めてるの、彼に息を止めてもらいたいだけ」

 ななちゃんは嬉しそうにあたしの手のひらを使って自分の傷痕を優しく撫でるように触った。呼吸が止まる感覚が好きなんだ。酸素が足りなくなって、脳が悲鳴を上げて、死にたくないと必死にもがく。その感覚が大好き、ななちゃんは思い出すように呟いた。
 ななちゃんの冷えた皮膚はやわらかく、あたしが少し爪を立てると、すぐに赤く傷が残った。
 ああ、この綺麗な首を絞め潰して、酸素不足にしてやりたい。そしたら、ななちゃんはあたしなしでは生きられなくなるだろうに。
 ななちゃんは、思考回路がぶっ飛んでいる。あたしと同じだ。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.4 )
日時: 2018/05/26 23:33
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: CSxMVp1E)

【 さよなら、燈火 】

 柳くんは昨日の放課後、突然あたしに声をかけてきた。お願いがあるんだ、人気者の柳くんのお願いだから、きっと面倒くさいことだろうなって思った。聞いてみると、やっぱりそう。でも、断る選択肢はあたしの中にはなかった。彼の本気っぽいその表情にきっと心打たれたのだ。

 「柳くんって、馬鹿だよね」

 あたしはポケットからスマホを取り出して動画配信のアプリを入れる。もちろんカメラの機能をオンにして、屋上に仁王立ちする柳くんを映した。柳くんは、お前も馬鹿だろ、と言って歯を見せて笑った。きっとそんな可愛い笑顔で笑う柳くんがみんな好きなのだ。それなのに。

 「本当に死んじゃうの?」
 
 あたしの言葉に柳くんは何も言わずにこくりと首を縦に振った。あたしの胸はどくんどくんと脈打ち続け、その動画配信の名前を「自殺動画」として実況をはじめた。あたしの声はもちろん入れない。彼の動画を取りながら、あたしがコメントを打ち続ける。今日、彼は死にます。と、あたしが打つと、さっそく何人かの反応があった。
 「まじかよ」「やらせ、おつ」「可哀そう」思うことは人それぞれだ。あたしは空を見上げる柳くんをフィルム越しに見つめた。どうして柳くんはあたしを選んだのだろう。自分の死をどうして配信したいだなんて言いだしたんだろう。

 「ねぇ、柳くん」
 「なに」
 「あたしが行かないで、って言ったらとどまってくれる?」

 きっとこの動画にあたしの声も残っただろう。そんなのはどうでもいい。あたしは、彼の本音を聞きたかったのだ。呼吸がうまくできなくなって、うっと声が漏れる。どくんどくんと脈がまた一段と早くなって、ごくんと唾を飲み込むと吐き気が増した。

 「やだよ」

 柳くんはそう言って空に飛び込んだ。それは一瞬の出来事だった。もちろんあたしの動画にばっちり柳くんの姿は映って、そして消えていった。あたしのスマホのカメラは、人の死を映した。どうしようもなく、馬鹿なことをした。柳くんの死ぬ前の最高の笑顔を思い出して、あたしはちょっとだけ泣いた。馬鹿野郎。それは柳くんのことじゃなくて、あたしのことだ。
 好きだったから、君のお願いを聞いたんだ。好きだったから、止められると思った。柳くんは死ぬ前にあたしのことが好きだったと告白して死んでいった。あたしは何も言えなかった。あたしも好きだったよなんて言えなかった。だって、君は死ぬから。あたしが殺したんだ、柳くんのこと。あたしも好きだったなんて、そんな、簡単に言えなかった。柳くんの勇気をあたしはどうしても否定できなかった。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.5 )
日時: 2018/05/28 15:15
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: STnlKppN)

【 恋の屍 】

 ブレーキランプを五回点滅させると、それは「愛してる」のサインだと啓一さんは言った。そんなの今どきの子はわかんないよねって笑いながら。あたしは啓一さんの車を降りながら、知ってるよ、ドリカムでしょと言った。啓一さんの表情は真っ暗でよくわからなかったけれど、笑っているようにも見えた。

 「俺ももう歳だから。君みたいなかわいい子には似合わないよ」

 ほら、また。啓一さんの声は言葉と同じように自信なさげで、作った笑顔が通り過ぎた車のライトでよく見えた。ほら、俺もあと数日で三十だし。君はまだ、高校生だし。今日の啓一さんは言い訳が多い。
 セーラー服に身を包んだあたしは、車から啓一さんを引きずり出して家まで送るようにお願いした。暗い細い夜道。街灯に照らされて長く伸びるあたしたちの影。
 啓一さんはあたしの手を握ってくれなかった。黙々とあたしの先を歩いていく。ときどき後ろにいるあたしを確認しながら、早く家についてくれと思っているのだろう。だんだん歩く足が早まっていった。


 「あたしが好きなのは、啓一さんだよ」
 「……その感情は、きっと今だけだから。十五近くも違うおっさんなんて、君の恋愛対象にはなれない」
 「……ひどいよ。啓一さんはわかったうえであたしに手を出したくせに」

 あたしがぼそぼそと反論すると、顔を真っ赤にした啓一さんがこちらに振りむいた。耳も首も真っ赤。家の前について、啓一さんは一時停止したように動かなくなった。ねえ、と声をかけるけれど、反応がない。あたしは大きなため息をついて、啓一さんに近づいた。

 「何か言わないと、キスする」
 「……え、ああ、えっと。本当、ごめん。俺は、どうしても」

 君に幸せになってほしいんだ、と啓一さんはあたしのことを抱きしめもキスも、何にもせずにぽつりと呟いて頭を撫でてくれた。そうだ、こういう初心な啓一さんにあたしは惹かれたんだ。
 ここで別れたらきっともう、二度と会えないとわかってた。それでも、あたしは彼を引き留めることができなかった。あたしの援助交際を真っ向から否定して、幸せになることを願ってくれた啓一さん。あたしはこの人のものになりたいと思ったのに。それでも、あたしも同じこと思ってる。


 啓一さんにはあたしなんか似合わない。もっと大人っぽい、話の合う、素敵な女性と出会ったほうがきっと。歳の差なんて、厄介でしかない。簡単に好きっていえて、キス出来たら。あたしは、恋の屍だ。あなたへの恋に溺れてきっともう死んでいる。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.6 )
日時: 2018/05/31 21:22
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: STnlKppN)

 2018年 5月


 >>001 君は地雷。
 (あっくんとずっと一緒にいたいって、ただそう願ってただけなのにね)

 >>002 しあわせのやまい
 (君の心の中に、無理やりあたしを捻じ込んだ)

 >>003 酸素不足。
 (そいつじゃなくて、あたしを信じて。あたしが君を苦しめてあげるから)

 >>004 さよなら、燈火
 (あたしがスマホで映した君の最期は、とっても美しくて涙が出たんだ)

 >>005 恋の屍
 (あなたなんかのこと好きになっても、あたしは幸せになれないのにね)

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.7 )
日時: 2018/06/01 22:45
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: STnlKppN)

【 あたしと少年A 】

 あたしの隣の席の男の子は絶対に喋らない。何を話しかけても彼が口を開くことはないし、みんな「放っておきなよ、そんな奴」ってしばらくしたら嫌悪感を抱きだす。でも、あたしは気になってしまったのだ。休み時間、ずっと本を読んでた彼に何度も声をかけて、それが百回くらい続いて、きっともう彼も限界だったのだろう。ぎらっと睨んだその鋭い瞳があたしの瞳に映り込んで、あたしの口を無理やり閉じさせた。

 「うるさい」

 初めて聞いた彼の声は、普通の高校生とそん色ない声変わりした低い声だった。
 あたしはようやく彼があたしのほうを見てくれたことに喜んで、カバンに入れてあった雑誌を彼の前で広げて見せた。それを見た瞬間、彼は黙って、首筋に汗が伝って、声が出なくなって、あたしをまたぎらっと睨んで、そしてあたしのシャツの襟をつかんで一発あたしの頬を殴った。
 ちょうど、放課後でその場にはあたしと彼しかいなかったから、その衝撃的な暴力の目撃者はいなかった。あたしは椅子に腰を打ち付けて地面にしりもちをついた。彼は過呼吸になりながら、やっぱりあたしを睨みつけて、泣きそうになりそうな表情であたしが見せた雑誌を破りだした。

 「お前は、何者なんだよ」
 「……痛いよ。それ聞く前に謝ってみたらどうなの。女の子の顔に傷をつけるなんて最低だよ」
 「でも、お前は殴られる覚悟でこんなことしたんだろう」
 「あたしがやったことは、あんたのしたことより罪は重い?」

 少年A、と彼が昔メディアに呼ばれていた名前を呼ぶと、彼の顔は真っ青になって、ぐっと首を手で押さえた。きっと彼の癖なのだろう。死にたくなった時に、手が首に行く。彼の弁護人がそんなことを言っていた気がする。だいぶ昔のことだから、よく覚えてないけれど。
 あたしは許してないからね、と破り捨てられた雑誌の記事の一部、死んだ男の写真を彼の机に置いてにっこり笑って見せた。

 「うれしいよ。君と同じクラスになれて。君の、隣の席になれて」

 兄さんを殺したこいつが苦しみながら今日も生きている。それが正解だなんて糞だ。世の中糞すぎる。あたしは自分の席からリュックを取って教室を出た。静かな教室に取り残された少年Aは今何を思っているだろう。あたしのことを、考えて、殺した兄さんのことを思い出して、苦しんで苦しんで、死にたくなりながら生きればいいのに。空の清々しいほどの青さに、ゆっくり目を閉じて、あたしはゆっくり深呼吸をした。


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