複雑・ファジー小説

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君は地雷。【短編集】
日時: 2020/07/09 22:50
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
 好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。


 


 目次みたいなもの

 ひとつめ >>006
 ふたつめ >>010
 みっつめ >>014
 よっつめ >>028
 いつつめ >>032
 むっつめ >>037
 ななつめ >>042
 やっつめ >>051
 ここのつめ >>055

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.28 )
日時: 2020/03/17 23:52
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 2018年 8月〜9月


 >>015 友達以上、
 (あたしたちは、ぐちゃぐちゃに濁っている)

 >>016 世界の上手な愛し方
 (ずっとずうっと一緒にいようね)

 >>017 別れ話
 (ヒナくんはあたしのことなんか好きじゃないのにね)

 >>018 秘密を飲み込む
 (とある春の日、君だけが知っていた)

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.29 )
日時: 2020/03/20 00:26
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)



【 神様に会えるまで 】

「ねえ、神様。どうしてあなたはそんなに意地悪なの?」
「それはね、愛ちゃんが……」

 神様はそう言うと私の頭を思いっきり掴んで髪の毛がぐしゃぐしゃになるまで撫でまわした。「馬鹿でとても可愛いからだよ」神様はにやっと口元を緩めて、私にまたねと言った。
 神様ばいばい、私が手を振ると神様も手を振り返してくれた。寂しそうな顔でもしてたのかな。またね、もう一度彼の声が背中越しに聞こえた。振り返った時にはもう神様はいなくて、私の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。
 神様は半年に一回私と一緒にお出かけをしてくれる優しいお兄さんだ。初めて会った時から神様はとても意地悪で、行く場所も全部神様の我儘で決まる。私のおねだりなんて無視。半年に一回しか会えないのに、私の生きたいとこには一度も一緒に行ってくれない。
 神様、と彼のことを呼ぶのは、私が彼の名前を知らないから。教えてくれたのは彼が二十五歳で広告代理店に勤めていて仕事がすごくブラックで、これからも半年に一度だけ私に会いに来てくれるってことだけ。だから名前はどう呼んでも構わないと彼は言った。じゃあ、神様って呼んでいい、と聞くと最初は嫌な顔をしていたけれど、それで愛ちゃんが恥ずかしくないならいいよ、と渋りに渋ってオーケーしてくれた。

「次に会えるのは半年後、か」

 言葉にするとやっぱり寂しい。早く会いたいという気持ちで胸がぎゅうっと締め付けられる。
 帰り道、夕日が遠くの山に沈んでいって、私の長い影もゆっくりと黒に消えていく。ひとりぼっちはやっぱり寂しくて私は無心で走り出していた。神様のことを思い出すと悲しくなるから。またね、と神様は言うけれど、また会えるなんて確証はないんだから。

「ただいまっ」

 玄関を開けて家の中に入る。靴は靴箱の中に片づけて、スリッパに履き替えて中に入る。
 「おかえり」とガラス越しの窓から声が聞こえた。

「どうだった、楽しかった?」
「うん、楽しかったよ。先生、かみさま次はいつ来てくれるかな」
「うーん、いちおう連絡では半年以内にこれたらいいなあとは言ってたけど。愛ちゃんがいい子にしてたら早く会いに来てくれるかもね。お父さん」
「うんっ」

 先生は私の頭を優しく撫でてくれる。神様の意地悪な撫で方を思い出すと、また泣きそうになってしまった。もうご飯だよ、と先生が調理室を見ながら言った。私は階段を駆け上がって自分の部屋に戻る。
 早く会いに来てよ、神様。リュックを部屋に放り捨てて私は食事場に向かう。今日はカレーライスいい匂いがした。

 

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.30 )
日時: 2020/04/06 14:31
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)



【 死神さんと 】


 優しくなりたいんです。蝉の鳴き声が部屋の中にこだまして、彼は今にも泣きそうな震えた声でそう言った。
 新築の家特有の木の匂いがふわりと鼻をくすぐって、私は正座していた足を少しだけ崩す。

「無理だと思います」

 じわじわと熱気が窓の隙間から入り込んできて、エアコンの冷たい風と入り混じって気持ちの悪い空気だった。まるでお風呂のような空間で、彼は少し汗をかきながら、ずっと俯いたまま唇を噛んでいる。
 暑いですね。彼が何も言い返してこなかったから、私は世間話に路線を切り返そうとカバンの中からタオルを取り出して首筋の汗をぬぐった。彼はやっぱりこちらを見ずに、そうですね、と短く言葉をつぶやくだけ。

「ど、どうしても、もう、無理なんでしょうか」
「……だってもう死んじゃいましたしね、無理ですよ」

 彼の肩は小刻みに震えていた。事実をまだ受け入れ切れていないようで、傍から見ればかなり滑稽だった。ぐすん、と鼻をすする音が聞こえたかと思うと、い草の綺麗な薄緑の畳にぽつりと大粒の涙が落ちた。

「まだ、俺にはやらなきゃいけないことがあるんです」
「そうですか。残念ですね」
「どうしようもないんですか?」
「そうですね、どうしようもないです」
「どうにか、ならないんですか?」
「……残念ながら、どうにもならなんいんですよ」

 彼が何度も食い下がる。私の言葉を聞くたびに落胆して、それでもまだ希望があると信じて、顔は涙でぐちゃぐちゃだったけれど、瞳は死んでいなかった。
 だから、嫌なんだ。私は表情は変えずに心の中で大きくため息をついた。面倒くさい、という本音は絶対に口には出せないから。
 畳に爪を立てて彼はまたぐっと唇を噛みしめる。

「あなたを殺したら、俺はここから出られるんでしょうか?」

 ぐちゃぐちゃの顔で彼はゆっくり立ち上がった。伸ばしてきた手は私の首を掴んでぎゅっと親指に力が入る。喉が潰されるような感覚がした。

「無理ですよ。だって私は人間じゃないから、死にません」

 彼が本気で力を入れたことがわかるくらいに大きく赤く、くっきりと痣はできた。だけど私は軽くけほけほと咳払いするだけ。喉が潰されたような、そんな感覚がしただけ。

「魂の回収はもうあと一時間後です。やりたいことはありませんか?」

 彼はもうどうにもならないことをようやく察したのか、すとんと膝を落としてそのまま倒れ込んだ。死にたくないよ、うわごとのようになんどもなんどもその言葉を繰り返す。そうですね、私は彼の言葉に相槌を打つだけで、ずっと進むだけの時計の針を見つめていた。
 もう取り返せない時間を、彼の過去を。彼の望んだ未来を。私はかなえてあげることはできない。あと一時間足らずで私は彼の魂を狩る。とある夏の日。私はいつものように、一人の少年の命を奪おうとしていた。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.31 )
日時: 2020/04/07 23:59
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)


 
【 死神さんと 2 】

 人を殺すと後に死神に命を狩られる、という噂を聞いたことがある。だけど、所詮は噂。
 彼女が俺の前に現れるまで俺はそんな戯言信じることなんてなかった。

「てか、誰ですか」

 とある夏のはじめ、自宅の庭で。黒い合羽のような衣装を身につけて、体に見合わないくらい大きな鎌を持った少女は俺の前に現れた。死んだ魚のような瞳で俺をじいと見た後「お迎えに参りました」と一言。俺の動揺なんて気にせずにツカツカとこちらに近づいてくる。

「ちょっと、ちょ待ってください。誰ですかなんか怖いんですけど、え、コスプレ? なんかのイベント帰りですかその鎌こわい、ちょ不審者こわい」

 見てはいけないものを見てしまった、というのが事実である。
 全身黒ずくめの不審者。見た目は俺と同い年くらいの若い少女。

「あなた」

 至近距離でぱたりと足を止めて、彼女はようやく口を開いた。
 「人を殺したことがありますね」冷たい心臓にささるような、棘のある声だった。

「なんですか、ってか誰ですか」
「私は死神です。あなたの命を狩りに来ました」
「はあ? なに冗談やめてくださいよ、てか誰ですか」

 億劫になってきた。面倒くさい奴に絡まれた、と最初は思っていたのに、すぐにそのバカげた考えは彼女によって正された。ぐさり、とまるで擬音の音が鳴ったかのように彼女の鎌が俺の右足を狩った。激痛が走って思わず俺はしゃがみこむ。声にならない悲鳴をあげて、俺はそのまま地面に倒れ込んだ。でも、数秒経ったあと、死にそうなくらい辛かった痛みは消えて、俺の足がふきとんでいることはなかった。何もない。だけど、脳は覚えている。あの痛みを。

「痛かったですか」
「……はい」
「こちらの鎌は人の命を狩るための道具なので、足を切り取ることも腕をもぐこともできません。ですが一瞬「そうなった」時の痛みが現れます。先ほどの痛みはあなたのその健康そうな右足が死んだときの痛みです。本当に足が飛ばなくて良かったですね」

 足をさすりながら、俺は彼女の、死神さんの淡々とした説明を聞いていた。
 それでは本題です、と急に切り替わったように俺の前にしゃがみこんで顔を覗く。

「一週間後、あなたは死にます。それより前にやりたいことはやっちゃいましょう。私も死にたくないと泣きわめく子供の魂を狩るのは本意ではありません」

 じゃあ、殺さないでくれよ。とは言えなかった。
 にこりとも笑わない死神さんは、俺に手を差し伸べて、俺はその手をつかんだ。死にたくない、とも助けてくれ、とも帰ってくれとも言えない。ただわかるのは、俺は一週間後この女に命を奪われてしまうんだ、ということだけ。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.32 )
日時: 2020/04/13 00:31
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 2018年 12月、19年 6月


 >>019 ぷろろーぐ
 (運命の赤い糸は、私を好きじゃない人と繋がっていた)

 >>020 シナプスの檻
 (好きだよという嘘の言葉を吐かれたときに、優しさなんて投げ捨ててしまえばよかった)

 >>022 はろーはっぴーわーるど
 (花ちゃんは私を裏切らない、絶対に)

 >>023 小さな部屋の雑音
 (えっちゃんはロミオで、僕はジュリエットなのかもしれないね)


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