複雑・ファジー小説

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君は地雷。【短編集】
日時: 2020/07/09 22:50
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
 好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。


 


 目次みたいなもの

 ひとつめ >>006
 ふたつめ >>010
 みっつめ >>014
 よっつめ >>028
 いつつめ >>032
 むっつめ >>037
 ななつめ >>042
 やっつめ >>051
 ここのつめ >>055

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.13 )
日時: 2018/07/26 15:21
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)

【 スイートポイズン 】


 マカロン、シュークリーム、ザッハトルテに、ショートケーキ。パフェにクレープ、クッキー、ワッフル。生クリームとカスタード、チョコレートがふんだんに使われた甘い甘いスイーツはあたしたちの心を満たす最高の毒である。
 

 「うげ、気持ち悪い」
 「そんなこと言わないでよ、食欲落ちるじゃん」

 あたしが文句を言いながら口の中に宝石のような真紅の苺を含むと、真ちゃんはうげっと今にも吐きそうな表情でこちらを見た。

 「見てるだけでも、今にも吐きそうなんだよ」
 「美味しそうって言いなさいよ」
 「いや、もう胃がむかむかする」
 「うるさいな、真ちゃんは黙ってこれでも食べてなよ」

 真ちゃんの口の中にむぎゅっとシュークリームを押し込んだ。生クリームとカスタードの二重構造。シューのサクサク生地はあっという間に彼の口の中に消えていき、益々顔色は悪くなっていった。

 「真ちゃん、ほら、頑張って、あとちょっとだよ」

 大きなモニターに映し出されたパラメーターは90%と表している。あと一割であたしたちの目標は達成される。あたしは次は何を作ろうかと、大きな業務用の冷蔵庫を開けて中を見る。溢れんばかりの甘ったるい匂いは痛いぐらいにあたしの喉をぐっと鳴らす。ああ、もうすぐ終わりが見える、と思ったら寂しいような嬉しいような変な感覚に陥った。

 「真ちゃん、これが、ゲージが、100%になったらさ」 
 「先生は大喜びだろうな」
 「あたしたちは、死んじゃうのかな」

 甘いものは毒である。先生が望んだ結末はどうしようもなく馬鹿らしいバッドエンド。いつか世界を滅ぼすための、予行演習。あたしたちは実験用モルモット。先生があたしたちに摂取させる甘いものの中に入った「毒」はゆっくりあたしたちを蝕んでいる。
 実験が成功したら先生は喜んでくれるだろう。毎日死にそうになりながら吐き続けたかいがあったって、本当はあたしたちも一緒に喜びたいのに。もうその場所にあたしたちはいないのだ。

 「世界は甘いものによって滅ぼされるんだよ」
 「不幸だな」
 「……ううん、幸せだよ」

 あたしたちはモルモット。今日もゲロ甘なスイーツを無理やり口に運んで、先生のために生きている。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.14 )
日時: 2018/08/03 01:36
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)

 2018年 7月


 >>011 君のいない夏に溺れる
 (どれだけ叫んだって、もう君に会えることはないのに)

 >>012 夏の殺し屋
 (あたしたちはゆっくり、この夏に殺されていくのだ)

 >>013 スイートポイズン
 (先生が笑ってくれるなら、あたしたちはきっと)

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.15 )
日時: 2018/08/08 23:04
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)

【 友達以上、 】



 好きにならないって、簡単なことだと思ってた。宮野は大きなため息とともにお茶碗をもって、キッチンの流し場に行った。あたしとの会話を遮るようなその一言に、あたしはむず痒いような苦しいような、よくわかんない感情で胸がいっぱいになった。

 「簡単なことだよ。好きがラブじゃなくて、ライクだって、そんなどうでもいい話じゃない」
 「お前は俺のことが好き?」
 「ラブじゃなくて、ライクだけどね」

 戻ってきた宮野は机の上にお茶を置いて、あたしにも飲むように勧めてきた。湯気の立ったお茶をあたしは軽く口に含み、そっと目を閉じる。ふわりと抹茶の苦みが広がって、ゆっくりとそれは消えていく。あったかい、とあたしが言うと、宮野はにかっと歯を見せて笑った。

 「あたしは幸せだよ。宮野と一緒に居られて」
 「……俺はきっとお前の幸せの生贄になるんだろうな」
 「ふふっ、じゃあ宮野は永遠に幸せになれないね」


 あたしは彼のことが好きじゃない。きっと宮野もあたしのことを好きじゃない。たとえほんの少しでも「好き」の感情があったとしても、でもそれはラブじゃなくて、ライク。あたしたちのつながりは友情以上のものにはならない。あたしたちは世間的なしがらみで今日も上手に息ができない。

 「好きになりたかった」 
 「無理だよ。あたしたちは人を愛せないんだから」


 あたしたちは不良品だ。あたしたちには他の人みたいな自然に芽生える感情がない。欠落している。
 誰も愛せないあたしたちは、今日もこの生きにくい世の中を、理不尽な世の中を、必死に生きている。二人で支えあいながら生きている。




 「あたしのために、宮野が生贄になるの……本当はね」
 「その言葉の次は」

 言っちゃだめだよ、宮野が黙らすような濃厚なキスであたしの口をふさいだ。泣きたくなる感情を必死で抑えてあたしは彼に身を委ねる。好きだ、ラブじゃなくて、ライクだけど。それの何が悪いのか、あたしにはわからなかった。
 この世界には異性の友情は成立しない。あたしたちはどうしたって「友達」にはなれないのだ。
 

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.16 )
日時: 2018/08/16 23:16
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)

【 世界の上手な愛し方 】

 「世界」があたしを愛してくれたら、それ以上は要らない。

 「ねぇ、世界。今日も雨だよ、寒いよ」
 「うるせえな。ぐだぐだ文句言うなら、出てけよ」
 「やだよぉ、世界と一緒にいたいもん」

 あたしがぎゅっと世界に抱き着くと、鬱陶しがるように世界はあたしを引っぺがした。地面とご対面したあたしは、ぐっとこみあげてくる涙を我慢して、ゆっくりと立ち上がる。世界を上から見下ろすと、何でか心がすっきりした。

 「世界はあたしのこと、きらい?」
 「ああ、嫌いだ」

 ぶっきらぼうに世界はあたしを撥ね退ける。こんなにもあたしが世界のこと好きなのに、世界はあたしのことを一ミリも好きになってくれない。こんなにも大好きなのに。

 「ていうか、何で俺がお前のこと好きになるんだよ」
 「あたしが世界のこと、こんなにも好きなのに」
 「好きなら、何でもしてもいいのかよ」
 「そうだよ、好きなら、何したっていいんだよ。世界を、殺したって、いいんだよ」

 世界が見つめるのはあたしじゃない。あたしの手に握られた一本の包丁。あたしがこれで世界の皮と内臓を抉り取って、世界が泣きながら、悲鳴を上げながら、死んでいくのを見たい。世界の最期はあたしだけが見ていたい。






 世界って君のことを呼ぶのが、いつの間にか当たり前になった。世界って、君を呼ぶたびに苦しくて泣きたくなった。
 あたしのことを全部忘れた君が、あたしを愛してくれてた君が、もういないって分かって、叫びたくなるくらいに壊れかけの心をあたしは必死で隠す。

 ずっと、好きだよ。なんて嘘じゃないか。あたしを全部忘れた世界が、あたしをもう一度愛してくれることは絶対にないから。あたしの知らないところで、あたし以外の誰かと幸せになる未来を想像して、あたしはきっと泣くのだ。泣きじゃくって、死ぬほど後悔するのだ。それなら、




 「世界はあたしに殺されないように、必死ここから逃げる方法を考えればいいよ。頑張って、あたしに殺されないように、頑張って」



 あたしを忘れた、あたしのことを好きじゃない世界が、
 あたしのことをいつか、殺してくれますように。って、そんな馬鹿なことを考えて、あたしは今日も世界の隣で眠った。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.17 )
日時: 2018/09/01 00:59
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)

【 別れ話 】 


 「ずっと付き合っている人がいる」

 婚約者のヒナくんは、そう言って私に土下座をした。今日は午前中に結婚式の会場を見に行って、もうすぐだねって二人で笑って、きっとこのままあたしは幸せになれるんだって思ってた、のに。ホテルの一室で、このままエッチでもするのかな、なんてそんな甘いことを考えていたあたしが馬鹿だった。いや、違う。彼と結婚しようって考えてたあたしが馬鹿だったのだ。

 「あたしと結婚したら、その人とはどうなるの?」

 「…………ごめん」
 「別れないの? それって浮気だよね。ヒナくんはその人とそのままそういう関係を続けるの? あたしがいるのに?」

 言葉を連ねるたびに、それはヒナくんを追い詰めていく。ごめんなさい、ごめんなさいと何度も心の中で謝罪して、あたしは唇を噛んだ。ヒナくんが悪いわけじゃないのに、あたしに責め立てる資格もないのに。

 「あたしのこと、好きじゃないの?」




 そこで黙り込んだヒナくんに、あたしの心の中の何かがぶちっと切れて、ゆっくり飛沫のように弾けて消えた。自然とあたしの足はヒナくんの頭の上に乗っかっていて、不思議と力が入っていた。ぐちゃっと音が鳴った時には、あたしが彼の頭を踏み押していた。地面にご対面して、そこから離れることなく息ができなくなったヒナくんはもがきながら苦しみながら、あたしの足をつかんだ。やっとのことであたしの足を退けたヒナくんは、切り傷いっぱいの鼻血まで出した顔で、ちょっとだけ泣きながらまた「ごめん」って言った。

 「その人と結婚できないのに、それでも好きなんだね。ヒナくんはきっとこれからもその偽りの幸せに満足していつまでも幸せになれないよ」
 「約束、守れなくてごめん」
 「そんな薄っぺらい紙の上の約束は、きっといつでも破り捨てることができるから。ヒナくんは、そうでしょう?」


 明日は婚姻届けを一緒に出しに行く約束だった。その前の突然の告白。こんな爆弾、今言うなんてずるい。
 ホテルのベッドに私は勢いよくダイブして、目を閉じた。ヒナくんとの出会いを思い出す。鮮明に、今でも思い出せる。


 あたしの初恋を終わらせた悪魔は、あたしの次の幸せまで壊すのか。ひどい。あたしは思い出す、ゆっくり目を閉じて、今でも鮮明に思い出す。あの日のことを、思い出す。ヒナくんと口論になった末に自殺したあたしの恋人。ヒナくんが殺したあたしの大好きだった人。
 後悔なんてきっとしてなかったんだよね。あたしを幸せにするからってあの日、彼のお葬式の日にあたしに手を差し出したヒナくんは、やっぱり詐欺師だった。あたしの次の幸せは、彼の手によってずたずたに壊されたのだ。




 「きっとヒナくんは誰とも幸せになれないよ。だって、」


 ヒナくんは人殺しだもんね、とあたしが言うと彼は声を上げて泣き始めた。どっちも選べない人間は、どっちも選ぶという選択肢を知らないだけ。あたしは彼の泣き顔を見て、少しだけ優越感に浸った気がした。
 ラブホテルの一室を出て、あたしは大きくため息をつく。ぐちゃぐちゃの顔のヒナくんを思い出して、昔好きだった人を思い出して、あたしは深呼吸をする。息を吸うのは簡単でも、吐くのは難しいって、彼が死んだあの日ぶりにあたしは思い出した。


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