複雑・ファジー小説
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- 君は地雷。【短編集】
- 日時: 2020/07/09 22:50
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)
短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。
目次みたいなもの
ひとつめ >>006
ふたつめ >>010
みっつめ >>014
よっつめ >>028
いつつめ >>032
むっつめ >>037
ななつめ >>042
やっつめ >>051
ここのつめ >>055
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.1 )
- 日時: 2018/05/22 19:43
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: CSxMVp1E)
【 君は地雷。 】
あっくんは、あたしのことを地雷だと言った。最初は「地雷」の意味がよくわかんなくて、あたしは「なにそれ」と聞き返してベッドにごろんと寝転んだ。あっくんが応えてくれるわけもなく、あたしは何でかすごく気になって辞書を開く。
地雷っていうのは、兵器だった。地上や地中に設置された爆発する兵器。
あたしはあっくんに危害なんて加えないし、爆発だってしない。あたしがあっくんを殺しに来たとか、ある意味SFっぽくて、それはそれで面白いけど。
ばーんとあたしが今この瞬間爆発したら、どれくらいの規模になるのだろう。あたしだけが勝手に死んじゃうくらいの自滅爆発かも。それか、あっくんとあたしだけが死んじゃう無理心中みたいな感じかな。それとも地球を丸ごと焼き尽くすくらいの大爆発とか。ああ、想像するだけでわくわくする。
「ねえ、あっくん」
パソコンから目を離さずに、譫言みたいに「なに」と呟いたあっくん。あたしはベッドの上で足をばたつかせながら、辞書を閉じた。あっくんがこっちを見る気がさらさらないのはわかっていたから、あたしは無理やりあっくんにちゅーして押し倒してみた。
「あっくんは、地雷は嫌い?」
やり返しみたいな濃厚なキスに、あたしは自然と彼の背中に腕を回していた。白いワンピースが淡く透けているのは、あっくんを誘惑するためなんだよ、って言わないけどね。
「君はいつか、きっと爆発しちゃうよ。そして俺のもとからいなくなる」
あっくんの言ってる意味はよくわかんなかった。だけど、あっくんの甘いキスに今だけは溺れていたいと思った。あっくんは、きっといつかあたしがいなくなると思っているんだろう。あたしも、おんなじこと考えてたよ、とは絶対言わないけど。
五月の爽やかな風が窓からふわりと感じられた。この柔らかな優しい雰囲気が、いつかあたしが爆発したら消えちゃうんだろうね。
「違うでしょ。あっくんがいなくなっちゃうんじゃん」
赤紙は、破り捨てることができないから。だから、あっくんとこの先ずっと一緒にいられない。今、あたしが爆発して世界丸ごと焼き尽くせたら、あたしは天国でずっとあっくんと幸せになれるのにね。
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.2 )
- 日時: 2018/05/24 22:03
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: CSxMVp1E)
【 しあわせのやまい 】
あたしは「しあわせ」という名の病気にかかっている。
その部屋には鍵はかかっていない。いつでもあたしが入れるように開けておいてくれるんだ、と言いたいところだけど、ただ俊ちゃんが鍵かけるの面倒くさがってるだけ。いつものようにチャイムも押さないで部屋に入るけれど、きっと俊ちゃんは気づいてない。もし、あたしが泥棒だったら、俊ちゃんは今頃一文無しだ。
「俊ちゃん、きたよ」
扉を開けると、ソファーでタオルケットにくるまって眠っている俊ちゃんの姿があった。すーすーと可愛い寝息を立ててる。あたしの声に「うー」とうなり声をあげて、ゆっくり目を開いた。
「——きたんだ」
あたしを見て、俊ちゃんは小さなため息をついてゆっくり起き上がった。ちょっと待ってて、と俊ちゃんはあたしをソファーに座らせて、キッチンに向かう。お茶でも入れてきてくれるのかな、なんて調子のいいことを考える。そんなわけないのに。
「なぁ、俺は何度でも言うよ。お前は病気だ」
キッチンから戻ってきた俊ちゃんは手に包丁を持っていた。こちらに刃を向けて、あたしを殺しに来た。あたしはにっこり笑って、足を軽くぶらつかせる。
俊ちゃんに殺されるなら、それは本望。手に持った針金をごみ箱にポイっと放り捨て、あたしはゆっくり立ち上がった。
「そうだよ。あたしは病気。知ってるよ」
俊ちゃんが、あたしの皮膚を切り裂いて、肉を抉り取って、そして空っぽになったあたしを愛してくれることを信じてる。俊ちゃんに会うためなら、何度だってあたしは鍵をこじ開けるよ。
あたしはしあわせという名の病にかかっている。あたしは、俊ちゃんに殺されたい。ただそれだけだから。
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