複雑・ファジー小説

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君は地雷。【短編集】
日時: 2020/07/09 22:50
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 短編集をきちんと最後まで書ききったことがありません。計画性がない脳内クレイジーガールです。
 好きな時に好きなお話を書きます。そんな感じです。よろしくお願いします。


 


 目次みたいなもの

 ひとつめ >>006
 ふたつめ >>010
 みっつめ >>014
 よっつめ >>028
 いつつめ >>032
 むっつめ >>037
 ななつめ >>042
 やっつめ >>051
 ここのつめ >>055

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.33 )
日時: 2020/04/26 22:51
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)


【 死神さんと 3 】


 彼の恋人が死んだのはもう一年も前の話だった。付き合って一年経った頃に、それは唐突に。駆けつけた時にはもう彼女の家にはパトカーと救急車が到着していて、辺りには野次馬の人だかりができていた。恋人にストーカーっぽい人がいる、と相談を受けた時、正直こんな未来になるなんて一切考えることをしなかった。あの時、親身になって相談に乗っていたら、と何度も何度も後悔して、でもそれはもう後の祭り。どうにもならないことを彼はわかっていた。

「うーん、元カレがね復縁したいって何度も何度もうちに来るんだよね。まあ、もう君がいるから私は寂しくないよって言うんだけど。へへっ」

 粘着型の人間だった、と彼女が笑って言っていたのを思い出す。ぞくりと背筋が凍るような感覚に彼は陥った。
 それからは深い闇の中にいるような、そんな感覚が続いていた。いつ何度気も考えてしまう。彼女を殺したストーカーを。息が荒くなって、感情が抑えきれなくなる。どうしようもなかった。腸が煮えくり返って、殺意だけが喉奥を締め付ける。握ったこぶしをゆっくり開くと、手のひらには爪痕がしっかり残っていた。

「そうだ、殺さないと、俺が殺さないと」

 彼の人生の終わりはそこからだった。ふいに口走ったその「呟き」は言霊になった。
 人生全てを放り捨てて、彼女を殺した男を探した。無能な警察なんか信用できなかった。彼はただただ彼女の無念を晴らしたかった。これから幸せになるはずだった恋人の人生をいともあっさり自分勝手な理由で奪ったストーカーを許せなかった。
 犯人を見つけた時、彼はほっとしたのか、涙がだばだばと滝のように流れていった。ああ、やっとだ。殺害方法は、犯人が恋人を殺した時と同じように拷問を何時間も繰り返して、弱った時に強く首を絞めつけて息が弱くなったときに水をためたお風呂につっこんだ。何度も「助けて」と繰り返す男を見て、彼はきっと恋人もこうやって命乞いをしてお前に殺されたんだなと思った。

 死体になった男の隣でシャワーを浴びて血を洗い流した。部屋を出てからすぐに彼は恋人のお墓に向かった。彼女の好きだったシンビジウムの花を持って。

「ごめんね。俺は君と同じ場所にはいけないんだ」

 花を手向けた時にぼそっと彼女に謝った。涙はやっぱり止まらなかった。
 鼻水をずずっとすすって、彼はゆっくり立ち上がった。

「君を幸せにしたかった」

 叶わない願い事を口にする。何度も何度も。
 優しくなりたい。彼女の冗談めかしたストーカーの話を、ちゃんと聞いていてあげたら。警察に相談しておけば。何か手はあったのでないか。考えたって意味のないことだというのは十二分に承知していた。ただ、苦しかった。もう彼女は帰ってこないのだから。

 優しくなりたい。彼女を幸せにできなかったうえに、自分は人殺しになってしまった。
 彼女が嫌う人間になり果ててしまった。彼女を殺した男とおんなじことをしてしまった。

 優しくなりたい。墓石の前で泣きながら彼女に懺悔をする。もう、戻れない。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.34 )
日時: 2020/04/26 00:28
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)



【 死神さんと 4 】



 人間はいつかは死ぬよな、そりゃ当然か。はは、と乾いた笑い声で彼が寝転びながら涙を拭ったのを見て、私は少しだけ罪悪感を胸に抱いた。これは私の仕事だから仕方ない。そう割り切れられれば楽なのに、彼の後悔を知ってるだけに私はモヤモヤとした胸の奥の霧を晴らすことができなかった。
 彼が人の命を奪ったのは去年の秋のことだった。当時付き合っていた恋人を殺害した男への復讐だった、と上司から聞いた。上手く証拠を残さず殺したためか、一年近く経っても彼は警察の檻の中には入っていない。だけど、本人はもう罪を償いたがっているようにも見えた。

「死神さんはさ」
「はい」
「なにか、感情ってかさ、そういうものとかあるの?」
「感情、ですか。私のことをアンドロイドみたいなものだとでも思っているのでしょうか」

 そうだね。アンドロイドみたい、彼は笑ってゆっくり起き上がった。
 涙で湿った畳の上に胡坐をかいて、はあと大きくため息をつく。目のしたが真っ赤で、ウサギのように真っ赤な瞳は私のことをじっと見つめていた。

「死神さんはさ、誰かのこと殺したいとかそういう感情抱いたことなさそうだよね」
「そう、見えますか」
「うん。なるようになるって考え方の人っぽい」
「まあ、そういわれてみればそうですけど。私は人じゃないので、あなたのような考え方はできません」

 俺のような? 疑問形で彼は首を傾げた。

「好きな人のために私は人生をかけることはできません」
「死神さんも好きな人いるわけ?」
「そういう問題ではありません。好きな人のために誰かの命を奪うなんて私にはできない、ということです」
「俺のとった行動がどれだけ馬鹿なことだったかっていう話がしたいわけ。面白くない話は御免だよ、残り短い人生なんだからもうちょっと有意義な、そうだ楽しい話をしようよ」

 死ぬことは怖いですか。その質問に今までの人間たちは「こわい」と答えた。さっきまで彼だってそうだったのに。
 あっさりと「死」を受け入れた彼は楽しそうにやりたいこと、をべらべらと話し始めた。

「死神さんさ、暇だったら俺と一緒にゲームしようよ」

 彼が棚の奥から古びたゲームキューブを持ち出す。小さなディスクを本体にいれて、彼はテレビとつないで電源を入れた。映像はえらく古い。どうして若者の彼がこんな昔のゲーム機を持っているのか不思議だったけれど、私にコントローラーを渡してきた彼の楽しそうな顔に、何も言うことができなかった。

「うわっ、ってか死神さん弱くない? ゲームあんまり得意じゃないの」
「いや、そもそも死神はゲームなんかしませんし」
「あああ、死神さんまた死んだああ。もうちょっと本気出してよ、へぼじゃん」

 一発ノックアウト状態の私に向かって軽口をたたく彼の楽しそうな表情を見て、私は少しだけほっとした。この人も早く面倒なことを言わずにあっさり魂を狩られてくれたらいいな、と。

***


 彼はとてもやさしい人でした。付き合っているときも、私のことを大事にしてくれてたし、甘やかしてくれるし、だからどうしても言えなかったんです。殺されそうなこと。




****


Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.35 )
日時: 2020/04/26 22:41
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)



【 死神さんと 5 】



 むかしは悪い連中とつるんで犯罪まがいのことをした。取り返しのつかない過去がある。
 その人は、私と付き合う前に戻れない過去の後悔を吐露した。

 仲の良かった友人に流されるように青春を壊した。高校はちゃんと卒業しなかったし、しょうもないことにお金を使って、どうしようもない人間の、クズのレールを走っていた。やばいと気づいたのは、その友人がドラッグに落ちて崩れたとき。異常な脳になった友人は狂ったように周りの人間を傷つけて廃人になった。どうにか立ち直ってほしかったけれど、彼に薬に堕ちることを強要されたとき、ああもうだめなんだ、と思った。そこから、自分の過ちをどうにか懺悔する道を探そうと思った。

 彼は言った。優しくなりたいんだと。
 もう誰も傷つけない。誰かを守れるような、優しい人間になりたい、と。


 付き合ってからはとても幸せだった。私を恋人として大事に扱ってくれる、くすぐったいような甘い時間に私は酔いしれていた。過去に何人彼女がいたとか、そういうのもどうでもいいくらいに。君だけが大事だよ、なんて気障な台詞をベッドの上で囁いて、私が「馬鹿」というと恥ずかしそうに彼は笑った。
 スマホに何度もくる着信を拒否したのは、彼との五度目のデートのあとだった。
 前に付き合っていた恋人には束縛癖があって、私が好きと言わないと、愛していると言わないとすぐに殴る男だった。付き合う前はとてもやさしかったのに、恋人になってからは狂ったように私のことを欲した。歪んだ愛だとわかっていながらも、それでも彼から離れられなくて、全身がボロボロに壊れた時にようやく彼から逃げる決心を決めた。

 彼が家に来た時に、すぐにドアを閉めればよかった。ちゃんとチェーンだってしていたのに。いや、それで安心してしまっていたのかもしれない。


「愛してる。僕から離れないでよ。ずっと僕のことを愛してるって言ったじゃん」



 がしゃんとチェーンが切られて彼の手が私の首を包み込む。ぎゅっと、喉を潰されそうになるくらい強く。視線が合わない彼の瞳。彼は一体、私の何を見ていたのだろう。


 無理やり言わせた「愛してる」に、何の意味があったのだろう。



****


 何度も何度も殴られて、蹴られて、鈍器の鈍い音が部屋に小さく響く。口にされたガムテープで私の叫び声なんて聞こえやしない。足をじたばたさせて、泣きわめこうが彼が行為をやめることはなかった。痛くて苦しくて、死んだほうがましだと思った。
 私はこいつに殺されることが、悔しくて仕方がなかった。

 死ぬんだな、と思った時に彼は私の首をまたぎゅっと絞めつけて、そのまま風呂場に私を運んで浴槽に服を着たまま放り捨てた。水道の蛇口をまわして水をためていく。やがて呼吸ができなくなった時、もう私の意識はなかった。

 ようやく本当に好きな人ができたのに、こんなやつのエゴで私は殺されるのか。


 もう会えない。大好きな、君にもう会えない。
 どうしようもない。好きだと笑ってくれた彼を思い出す。優しくなりたいといった彼を思い出す。
 冷たい水に溺れて私は死んだ。雨音のうるさい、いつもの日曜日のことだった。

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.36 )
日時: 2020/04/28 21:19
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

【 死神さんと 6 】



 死神は、咎人の命をかるのが仕事。感情なんか、そんな余計なものは要らない。
 命乞いをされようが、それを許すことはできないから。


 死神になるときに感情を捨てた。無になって、私は魂を狩らねばならない。




「優しくなりたい」




 君の言葉は毒だった。私の抜き取った感情の、穴の部分をゆっくり侵食していく。
 優しくなりたい。もうなれない。私が奪ってしまったから。せっかくの機会だったのに。彼はもう一度やり直そうとしていたのに。もう、




 戻れないから。




***



 死神さん。一週間が経ったあとに、彼は笑って私の名前を呼んだ。私が「はい」と相槌をうつと、彼は笑顔を崩さずに「ありがとう」と短く言葉を紡いだ。
 何が、と思った。私はこれからあなたの命を奪うのに、そんな死神に対して礼を言うなんて馬鹿げた話だ。

「気持ち悪いです。私が今まで狩ってきた人間たちは、最初にあなたと出会ったときのように命乞いをして私を殺そうとしてきました」
「ははっ、だって無理な話じゃないか。死神さんは死なないんだろう?」
「そうですけど。でも人間というものは「死」を実感してしまうと我を忘れるものだと、私はそう思っています」
「そりゃ、俺だってできれば死にたくないなあって思うよ。でも、そんな醜態見せ続けたら、」

 全部捨てた。だって、腕が動かなくなるから。愛した人間の、魂を狩ることになったとき、きっと私は動けなくなるから。そんなことになるくらいなら、最初から感情なんて要らない。

「俺は愛莉に天国で顔向けできないや」

 愛した人間の名前を呼んだ時、彼の嬉しそうな、綻んだ表情が私の目に強く焼き付いた。
 

「あなたは天国には行けないかもしれません」
「ああそっか。でもいつかさ、会えるよ」
「彼女だって天国にはいないかもしれません」
「でも、いつか会えるよ」


 とある夏の日。その日は雨が降っていた。ざあざあと、地面にたたきつけるように降る雨音が、線香のラベンダーの匂いが、私の言葉を詰まらせた。

「俺はもう愛莉が好きでいてくれたあの時の俺じゃないけどさ、それでも俺は愛莉を愛してる」


 準備はできてるよ。と、彼は大きく手を開いて、いつでも来いといわんばかりに目を瞑った。私は鎌を手にして彼の前に立つ。これを振り下ろせばすべて終わる。もう私には感情なんてないから、こんなこと簡単だ。いつものようにやればいい。いつものように。

 呼吸をする。でも上手くできない。胸のあたりがモヤモヤして喉のあたりが酷く痛い。目頭がじわっとあつくなって、視界が少しぼやけた。勢いよく鎌を振り下ろすと、彼は眠るように地面に倒れ込んだ。狩った魂を瓶に詰めて私はゆっくり立ち上がった。ふいに見えた鏡には、昔の自分とは似ても似つかない顔があった。気づかないのは当たり前だ。


 死んだあの雨の降る日を思い出した。彼は死んでも愛莉になんて会えない。だってもう愛莉はいないんだから。
 天国で、どうか幸せに。

「……ばいばい」

 私は瓶を持って家を出た。土砂降りの雨にあてられて、裸足でコンクリートの地面を蹴る。


 

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.37 )
日時: 2020/04/30 22:49
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)

 2020年 3月


 >>025 プラスチック
 (どうか私のことなんか忘れて、勝手に幸せになってくれ)

 >>027 Aセク彼女あおいちゃん
 (あなたの一番にはなれない。だって恋じゃないから)

 >>028 神様に会えるまで
 (早く会いに来てよ、ずっと待ってるんだから)


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