複雑・ファジー小説

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傘をさせない僕たちは
日時: 2019/10/30 13:29
名前: えびてん (ID: mkDNkcIb)

はじめまして!
えびてんと申します!
私の身近な人と身近な人は実は知り合いで、世間は狭いなあと感じることが多くてこのお話を書こうと思いました(*゜-゜)
主にそれぞれの恋のお話です( ´ ` )
ちょっとわかりづらいお話だと思うのですが、是非読んで頂けたら嬉しいです!

【 登場人物 】

@浅倉航平(あさくら こうへい) 25
→化学教師。
@水原茉里(みずはら まり) 24
→国語教師。
@武田夏樹(たけだ なつき) 17
→高校2年生。
@佐伯まな(さえき まな) 16
→高校2年生。
@瀬乃健人(せの けんと) 16
→高校2年生。
@西原恵(にしはら めぐみ) 17
→高校2年生。

@武田紗綾(たけだ さや) 24
→建築会社社員。
@井岡 瞬(いおか しゅん) 23
→建築会社社員。
@小宮山 剛(こみやま つよし) 42
→建築会社社員。
@小宮山綾子(こみやま あやこ) 39
→小宮山の妻。

@柳木 蓮(やなぎ れん) 22
→大学生。
@宇野美琴(うの みこと)25
→ピアノ科教師。

@浅倉結以(あさくら ゆい) 18
→航平の妹。
@相原直登(あいはら なおと) 19
→結以の友達(?)
@日向希穂(ひなた きほ) 19
→直登の大学のクラスメイト。

@藤井心春(ふじい こはる) 22
→カフェ店員。
@坂口椋(さかぐち りょう) 26
→画家。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.27 )
日時: 2019/07/18 18:31
名前: えびてん (ID: /g38w/zu)



#26 【 意味分かんない! 】


「なーおとっ!」

後ろから背中を叩かれた。

「痛てぇっ」

直登が振り返ると、そこには笑顔の女が1人立っている。

希穂きほ…。なんだよ急に」

直登が言うと、希穂は不思議そうに言う。

「何だよってなによー。最近テンション低くない?」

希穂に言われ、直登は少し微笑んで「別に」と答えた。

すると希穂は直登の前に立ちはだかり、真剣な眼差しで直登を見つめる。

「な、なんだよ…」と直登。

希穂は両手で直登の両頬をつまみ、「嘘つき〜〜〜!」と手を揺らした。

直登は「やーめろっ」と言いながら希穂の腕を掴む。

「じゃあなに隠してんのよ!希穂には何でも話しててくれてたじゃん!」

希穂はムッとした表情で言った。
直登は少し困ったように「なんもないってば」と頭をかいた。

「うーそっ!ねえどうしたのよ、最近元気ないし、突然消えるし!」

「突然消えるってなんだよ」

「いつもだったら希穂とごはん行ってたりした時間、いつもいない!夜!それに希穂のこと、家に呼んでくれなくなった!」

希穂は更に怒ったように言う。
直登は「別に、そんなことないって」と希穂を見る。

「じゃあどこ行ってんの」と希穂。

「…散歩」

「嘘だ!朝まで帰ってこない」

「あ、朝まで散歩してんだよ…」

「どこで?誰と?なんで?!」

希穂がそこまで言ったところで、直登はため息をつき、「…お前今日、ちょっと時間あるか」と致し方なく希穂に尋ねた。

希穂は途端に嬉しそうな表情を浮かべ、「うん!」と直登の腕に絡みついた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあああああああ?!なにその女?!」

ファミレスの一角で、希穂は大声をあげた。
直登は希穂の頭を叩き、「しーっ」と顔の前で人差し指を立てる。

「いやっだってっ!直登騙されてるよそれ!」

希穂は落ち着かない様子で言う。
直登はため息をついてから答える。

「いや、彼氏いるのは分かってるし、それを理解したうえで俺が付きまとってるようなもんなんだ」

「でもっ!その女初めて会った日は彼氏いること隠して直登のこと誘って来たわけでしょ?!クソ女だよそんなのっ!!」

「…希穂。結以のこと悪く言わないで。気づいてて手出した俺が悪いんだ」

言われ、希穂は更にムッとした表情で言う。

「…なんで?何でそんな女がいいの?意味分かんないし。直登は彼女欲しいの?セフレがほしいの?」

「そんなんじゃないよ」

「彼女が欲しいなら…セフレが欲しいなら!希穂がいつでもなってあげるし!だからそんな女ともう会わないでよっ!」

希穂は再び声を荒らげる。
直登は少し驚いた表情で希穂を見て続ける。

「希穂、落ち着いて。希穂がそんな風に怒ってくれるのは嬉しいけど、俺は結以がいいんだ。結以が良くて、悩んでるんだ」

「意味…わかんない!何でそんな女がいいわけ?」

「…自分でも分かんない。出会い方は確かに良くなかった。でも、なんか、放っとけないんだ」

「放っとけばいいじゃん!直登といない時は彼氏といるんだよ?直登だけ損してるじゃん!」

「…そうかもね。でも、俺、どうしても諦められないんだ。だからもう俺んちに希穂のこと呼ぶのもな…って思った。それだけだよ」

「…その女と付き合ってる訳じゃないのに?何でその女しか家にあげないの?セックスするだけなのに?」

希穂はムッとしている。

「悲しいこと言うなよ。確かに結以は俺のことセフレって思ってるかも知れないけど」

「直登をセフレだなんて…その女何様よっ!絶対希穂の方がいい女だし!」

「はは、俺、バカだね」

直登はそう言って苦笑した。

「直登…」

希穂は眉をひそめて、そんな直登を見つめた。

「直登って、変な女ばっかり好きになるよねっ!」

希穂はそう言ってジュースを1口。
無論、ムッとした表情は変わりない。

「ええ?そうか?」

直登は苦笑して希穂を見る。
希穂はもはや怒っているように言う。

「そうだよ!中学の時のエリは今や風俗嬢、高校ん時のマナミは4股、大学生になって今、ユイはセフレ?頭おかしいんじゃないのっ」

「はは、やばいな、それ。よく覚えてるな」

「こんなに近くにこぉーーんないい女がいるのにさっ!どの女よりも絶対希穂の方がいい女!」

「はは、はいはい。でも希穂は?ずっと誰とも付き合ってなくない?」

直登が言うと、希穂は頬を膨らませる。

「希穂は好きな人に一途なの!」

「好きな人いるんだ?」

「…い、いないよ!」

「はは、いるんだろ。てことは中学から?誰?言ってみ」

「…直登なんて大っ嫌い!」

希穂はそう言うと目の前のオムライスをムシャムシャ食べ始める。

「何でだよ、希穂〜」

直登はそう言って希穂の頬をつまんだ。
希穂はムッとしたままオムライスを頬張る。

その時、直登の携帯が鳴った。





『なおと、今日会いたい』




《浅倉結以》からだった。





「…ごめん希穂、今日はもう帰らなきゃ」

直登はそう言いながら財布から2000円出し、テーブルに置き立ち上がる。

希穂はオムライスを食べていた手を止め、「えっなんでよぉっ!」と直登を見上げる。

「ごめん、用事できちゃってさ」

言うと、希穂はいじけた表情を浮かべた。

「…その女?」

言われ、直登は「…ごめん、そろそろ行くね」と言って希穂に手を振りその場を後にした。

希穂は去り行く直登を背中を見つめ、スプーンを机に叩きつけた。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.28 )
日時: 2019/07/21 16:15
名前: えびてん (ID: /g38w/zu)




#27 【 どういう関係? 】


今日は久しぶりに会った。

蓮は腕の中にいる茉里を見る。

茉里は幸せそうな表情で目を瞑り、小さく寝息を立てている。

彼女のこの寝顔が好きだ。

普段はしっかりしているのに、俺の腕の中では無邪気な少女みたいな顔をする。
とても年上とは思えない。

彼女が笑った時に出るエクボも愛おしい。
さらさらの髪の毛も、小さな鼻も、楽しそうに笑う唇も。

素直で、いつでも『好きだ』と伝えてくれる茉里。
そんな彼女が愛おしく感じる。





ーーーーーーーーあの人とは大違いだ。





あの人ーー美琴さんは、そんな顔はしてくれない。
俺の前で素直になんてならない。

いつだって仮面を被り、言葉巧みに俺を欺く。

本当の気持ちなんて分からないまま、俺は彼女を見つめている。

彼女はそんな俺に気づいていて、気づかないフリをする。

そしてまた勘違いさせる。
俺はそれに気づいていて、彼女を想い続ける。




いつになったらやめられるんだ、こんな関係。







「…んん…蓮くん…おはよう」

茉里は眠たそうな目で蓮を見上げて小さな声で言った。

蓮は茉里を見ると少し微笑み「おはよ」と呟き、茉里の頭を撫でる。

「…いつから起きてたの?」と茉里。

「分かんない、しばらく」

「そっか…何考えてたの?」

痛い質問だ。
彼女の欲しい答えは分かっている。

「…別に何も」

蓮はそう答えると茉里の頬に手を添え、茉里にキスした。

離れると茉里はどこか不服そうに蓮を見つめる。

蓮は「…なんだよ、その顔」と茉里を見た。
茉里は微笑み、「ううん」と答えた。




蓮はそれから茉里に何度もキスをした。
激しく唇を触れ合わせ、2人の呼吸は乱れる。

蓮は右手で茉里の胸を弄り、左手は茉里を抱き寄せるように頭を掴んだ。

「…ちょっ!蓮くん…!」

茉里は目を開け、蓮を見た。

「…さっき…したばかりでしょ…」

言われ、蓮は「だめ?」と茉里を見つめる。

「…だめ…じゃ、ないけど…でもーーー」

茉里の言葉を遮り、蓮は茉里の上に覆いかぶさり、茉里の頬を押さえるとそのまままた何度もキスをした。





「…茉里」

「…れ…んっ」



「…愛してる」



行為中は何度も言った。




本当に彼女を愛せたら、どれだけ楽だろうか。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「美琴さんっ」

20時。
蓮は大学の前で1人、美琴に声を掛けた。

美琴は「ん?蓮くん?」ととぼけた顔で蓮を見た。

「どうしたの?」

美琴に言われ、蓮は「…いや、なんか…」と言葉を濁す。

「なあに?」

美琴はそう言うと蓮の前まで歩みより、蓮を見上げた。

蓮は紅潮し、目を逸らす。

「…なんか、美琴さんに会いたくて」

言うと、美琴は「かわいい〜」と微笑み蓮の頬をツンツンとした。

蓮は美琴の指を掴む。

美琴は「ん?」と蓮を見た。
蓮は何かを堪えるような表情を浮かべ、静かに指を離す。

美琴は「じゃあ、途中まで一緒に帰ろっか」と微笑んだ。

蓮は「…はい」と静かに答え、歩き出す。





「なんか懐かしいね、この感じ」

夜道を歩きながら、美琴が言った。

「何がですか?」と蓮。

美琴は微笑んで続ける。

「ほら、私が塾講師やってた頃、こうして一緒に帰ったりしたことあったよね」

「…ああ、そうですね」

「あの頃蓮くんはまだ中学生でさ〜。可愛かったな〜蓮くん」

美琴は楽しそうに話す。
蓮は「…今は?」と美琴を見た。

「今?」

美琴は不思議そうに蓮を見る。

「今の俺、可愛いって感じですか?」






「うん、可愛いよ。とっても可愛い私の生徒」





美琴はそう言って微笑み、蓮の頭を撫でた。





「…気づいてるくせに」

蓮は静かに呟いた。
美琴は「ん?」と聞き返す。

「なに?」

美琴は立ち止まり、蓮を見た。
蓮はしばらく美琴を見つめ、「…なんでもないです」と歩き出した。

美琴は「…そう」と呟き話を続ける。

「そういえば、こないだ蓮くんの前で酔っ払って倒れちゃった女の人って?」

「ああ、あれはなんて言うか、俺の友達の友達…ですよ」

そんな厄介なこともあったな。
茉里を呼んでどうにかなったが。

「そっかあ、びっくりしちゃった、急に絡んで来たと思ったら倒れちゃうんだもん」

美琴はふふっと笑いながら言った。

「俺もびっくりしました」


なぜだろう。
大切だと思えば思うほど、好きだと思えば思うほど、強引なことができない。

今すぐにでも自分のものにしたいはずなのに、どうしてくだらない話しか出来ないんだ。

こんな関係嫌なのに。
いつまでこんな関係のままズルズル続いていくんだ俺は。


Re: 傘をさせない僕たちは ( No.29 )
日時: 2019/07/23 23:07
名前: えびてん (ID: /g38w/zu)



#28 【 我慢 】



「姉ちゃん」

勇気を出した。

夏樹に言われ、紗綾はパソコン画面に文字を打ち込みながら「んー?」と答える。

「…仕事中?」

夏樹はそう言って紗綾のパソコンを覗き込んだ。

画面には、夏樹には理解のできない謎の数字の羅列が並んでいる。

「な、なんだこれ…?!」

夏樹はそう言って目を離した。
紗綾は「あんたには分かんないよー」と微笑んだ。

「で?なに?」

紗綾に言われ、夏樹は「ああ、あの…さ…」と言葉を濁した。

"バスケの合宿に行きたい"

その一言だけだった。

「なによ?モジモジしちゃって」

紗綾は文字を打つのをやめ、夏樹の方を見て言った。

夏樹は「ああ、その…飯!食べに行こうぜ」と紗綾を見る。

紗綾は「飯?」と言って時計を見た。
時計の針は20時を指している。

「ああ、ごめん。もうこんな時間だった。今日は外食しよっか」

そんなことが言いたい訳じゃないんだ、姉ちゃん。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2人は近所の食堂に来ていた。

「で?本当は何なの?」

定食を食べながら、紗綾が言った。
夏樹は箸を止める。

「え、いや、別に何もねえけど」

「嘘つけー」

紗綾はそう言って夏樹のおでこを軽く叩いた。

「何か言いたいことあるんでしょ。あんたここ最近様子変だったし」

紗綾に言われ、夏樹は「ああー…」と言って紗綾を見た。

「…あのさ、部活でさ…合宿があるんだけどさ、行ってもいいかな」

夏樹は言いづらそうに紗綾を見た。
紗綾は「は?」と言って不思議そうに夏樹を見た。

夏樹は「だよな!いや、別にいいんだけどさ!」と微笑み、箸を動かす。

「行きなさいよ、それ」

紗綾が言う。
夏樹は「え」と言って再び箸を止めた。

「何でもっと早く言わないのよ。いくらかかるの?」

「あ、いや、うん…それはバイト代でどうにかなるんだけど…その分今月は家に入れれないなって思ってさ…」

夏樹が言うと、紗綾は「本当に?大丈夫なの?」と夏樹を見た。

「大丈夫!でも、ただでさえ姉ちゃんの負担がでかいのに、俺のせいでもっと負担になっちゃうんだけどさ…」

「そんなのうまくやりくりするしっ!何年あんたと暮らしてると思ってんのよ。ちゃんと貯金くらいしてるわよ」

「姉ちゃん…ありがとう」

夏樹はそう言って泣いたフリ。
紗綾は夏樹の頭を軽く叩き、「泣いてないでしょーがっ」と微笑んだ。

夏樹も微笑み、「痛っ、でもまじでありがとう」と紗綾も見た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあ〜美味しかった〜。なんか久しぶりに行ったね」

帰り道、紗綾が言った。
夏樹は「だなー」と微笑む。

その時、紗綾は立ち止まり反対側の歩道を見つめた。

「姉ちゃん?」

夏樹は不思議そうに紗綾を見てから、紗綾の視線の先に目を移す。

そこには、スーツを着た男とミニスカートを履いた若い女がいた。
女の方は男の腕に自分の腕を絡め、楽しそうに笑っている。

夏樹がもう一度紗綾を見ると、紗綾はどこか辛そうに反対側の歩道の2人を見ているように見えた。

「…ゲーセン、寄って帰ろうぜ」

夏樹はそう言って紗綾の腕を引っ張り歩き出した。


Re: 傘をさせない僕たちは ( No.30 )
日時: 2019/07/28 07:58
名前: えびてん (ID: /g38w/zu)



#29 【 忘れられない日 】


2年前ーー。


年が明けて3日。
冬の寒い日だった。

今でもあの日のことが忘れられない。
この先も、ずっとそうだろう。

あの頃、俺はまだ中3で、今よりもずっと子供だった。




「けんちゃん!神社行こうよ!」

まなはそう言って健人の肩を掴んだ。
健人は「1日に行っただろ」と微笑む。

「いいじゃん、どーせ暇だし違う神社行こうぜ〜」

夏樹に言われた。
健人は「なんだよそれ。まあいいけど」と2人に笑いかけ立ち上がった。

冬休み中、案の定暇してた俺は幼馴染のまなと一緒に、仲の良かった夏樹の家に来ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「もう3日だと大分人もいないね〜」

神社に来ると、まなが言う。

確かに1日の人混みが嘘のように人が少なくなっていた。

「つーか何しに来たんだよ」

夏樹は寒そうに手を擦りながら言った。

「お前らが来たいって言ったんだろ」

健人はそう言って微笑んだ。

「いやー暇だし行くところねーしなーと思って」

夏樹は苦笑した。

すると、まなの携帯が鳴った。

「ん、なんだろ」

まなはそう言ってポケットから携帯を出し、画面を見る。
画面を見るなり、まなは「おおっ」と声を上げた。

「なんだよ」と夏樹。

まなは嬉しそうに顔を上げ、二人を見た。




「今日お姉ちゃん帰ってくるって!今年は帰って来れるんだ〜」




鼓動が早くなった。




「おー、りな今年は帰って来るんだなー」

夏樹の声も、

「ねー!今年も帰って来れないのかと思ったよ〜」

まなの声も、




まるで頭に入ってこなかった。



「じゃあ何もしてねえけどさっさと帰ろうぜ〜。りなも帰って来るんだし」

夏樹が言い、まなは「そうだね!」と微笑んだ。

「な、健人」

夏樹に言われ、健人はハッとした表情で「…え、ああ、うん」と頷いた。





りな姉ちゃんに会える…?
どんな顔をすればいいか、何を話そうか、そればかりを考えた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


考えているうちに、すぐにまなの家に着いた。


「ただいま〜」


まなが言うと、まなの母である直子が出てきた。

「おかえり…あら、夏樹!健人くん〜!いらっしゃい」

直子は微笑み、2人を見た。

「おばちゃーん!お久しぶりです〜」

夏樹は直子を見て嬉しそうに手を振った。

「おばちゃんじゃないでしょ〜」と直子。

「お久しぶりです」と健人。

「もうほら、健人くんは昔から夏樹と違って礼儀正しいんだから」

直子はそう言って微笑み、夏樹のことも見た。

「本当だよね。なっちゃんはここ2.3年なのにママと仲良いよね〜」

まなは言いながら靴を脱ぎ、リビングへ。
健人と夏樹もまなに続く。




「お姉ちゃん何時に帰ってくるの?」

ソファに座り、まなが言った。
直子はキッチンでマグカップにお湯を注ぎながら「今日の7時くらいね」と答える。

現在時刻は15時。
あと4時間でりなが来る。
寒いのに変な汗をかいてしまう。

「りなに健人くんと夏樹くんのことも言っておくわね」

直子はそう言ってメールを打ち始めた。

「俺に会いたくてうずうずしてんじゃねえの〜」

夏樹はそう言って微笑む。

「お姉ちゃんとなっちゃん無駄に仲良いもんねっ」

まなはそう言って夏樹を見る。

「それなー。健人の扱いと俺の扱い全っ然違うんだもんよー。な、健人」

夏樹はそう言って健人を見た。

「健人?」

夏樹は不思議そうに健人の肩を叩いた。

「えっ!ああ、うん」と健人。

「どうした?」

「あ、いや、ちょっとボーッとしてて」

健人はそう言って微笑む。
「なんだよそれ〜」夏樹はそう言って立ち上がり、直子に話しかけに行った。

だめだ、まったく話が入ってこない。






そんなこんなで時刻は19時13分。
落ち着かない。落ち着けない。
直子の話では、そろそろりなが帰ってくる頃だ。

その時、ガチャ、と玄関のドアが開く音がした。


「ただいまー!」




りなの声だった。

声が聞こえると同時に、まなも夏樹も直子も立ち上がり、玄関へ。

健人も立ち上がり、3人に続いた。



胸が踊った。
同時に緊張で震えた。


だが、玄関のりなを見た時ーー光景を見た時、口元の微笑みが消えた。




「こちら、祐介さん!結婚するの!」




りなはそう言って、隣にいる男の腕を掴んだ。






ーーーーーーえ?

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.31 )
日時: 2019/08/11 20:19
名前: えびてん (ID: g3crbgkk)



#30 【 もう遅い 】



ーーーーーえ?


結婚?祐介?りなが?



実感が湧かない。
信じられない。信じたくない。


「あら、ちょっと彼氏連れてくるなら先に言ってよ〜」

と直子。

「ええお姉ちゃん彼氏いたの〜?!」

とまな。

「なんだよ急に〜びっくりしたわ〜」

と夏樹。






「…お、おめでとう」




と健人。

咄嗟に出た言葉だった。
そんなこと、絶対に思っていないのに。

言うと、りなは嬉しそうに「ありがとう」と微笑んだ。

そんな、まさか。
思っていなかった。

「すいません突然押しかけてしまって」

と、祐介が言った。

まなも夏樹もはしゃぐ中、愛想笑いを浮かべるのが精一杯だった。





その日は地獄のような日だった。
その後もりなと祐介、直子とまなと夏樹と夕飯を共にした。

りなと祐介の話をたくさん聞きながら。
ウンザリだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


りなは、幼い頃から傍にいた。
気づけばまなと一緒に、3人でよく遊んだものだ。

明るくて優しくて、正義感が強く、まなや俺が虐められた時はよく助けに来てくれた。

中学に入ってからだろうか。
りなに対するこの気持ちが、単に幼馴染の姉を慕う気持ちではないと気づいたのは。

きっかけは単純だった。
俺が中1の頃、当時高校生だったりなに彼氏ができたのだ。

何だかモヤッとして、りなに対して冷たくしてしまったこともあった。
しかしその気持ちが嫉妬心だと言うことに気づいたのは、りなの彼氏が他の女とキスをしている所を見た時だ。

部活終わり、家に向かっていた健人は近所の公園でりなの彼氏を見かけた。

そしてその男がりなと何食わぬ顔で付き合い続け、りなの家に来た時に許せなくなった。

何でこんな男なんだ、と。
俺の方がりなを幸せにしてあげられるのに、と。

俺はその男を僻んでいた。
そしてりなを裏切ったその男を憎んでいた。

そんな気持ちを経て、俺はりなに抱いている感情が恋愛感情であると気づいた。

だがそれは今も昔も、言えていない。

だがそれはもう、遅い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


気づけば、時刻は21時を過ぎていた。

健人は話の半分以上、聞いていなかった。
気持ちの整理が追いつかなかった。

帰り道はもう、空っぽだった。
大袈裟に思うかも知れないが、俺にはりなが全てだった。



気づけば、俺らしくもない、涙が零れた。



健人は公園に行くと、1人ベンチで泣き崩れた。
こんなに泣いたのは初めてかも知れない。




「なーにやってんだ」



そんな時、声が聞こえた。

健人は1度泣き止むと、涙目のまま顔をあげた。
そこには、夏樹がいた。

「・・・夏樹」

夏樹はどこか悲しそうに微笑むと、健人の隣に腰を下ろした。








「知らなかったなー、健人がりなのこと好きだったなんてさ」

一連の話を終え、夏樹は言った。
健人は「・・・隠してたし」とぼそっと呟く。

「でも今日、ボロが出ちまったな〜」

夏樹はそう言うと笑いながら健人の頭をくしゃくしゃと触った。

健人は「っるせえ!」と言って夏樹の手を振り払う。

「・・・なんで分かったんだよ」と健人。

「知らね。何かそんな気がしただけ」と夏樹。

「なんだよそれ・・・。まなは!?」

健人はそう言うと焦った表情で夏樹を見た。
夏樹は「安心しろ、まなは気づいてなかったみたいだぜ」と言って足を組む。

「・・・そっか、なら良かった。良かったのか分かんねえけど」

「んー、別に良くも悪くもねーんじゃね?」

夏樹がそこまで言ったところで、健人は俯いて話し出した。

「初恋だったんだ」

言うと、夏樹は「な、なんだよ急に塩らしくなりやがって」と驚いた表情で健人を見た。








「でも・・・もう遅い」








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